民法ゼロから民法#67

109条

印刷用PDFを開く

第1章 民法総則 #67/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

口で言っただけなのに

冒頭設例板。父Aが買主Cに電話で「土地のことは息子Bに任せてある」と伝えた。実際にはAはBに何も頼んでいない。 図:冒頭設例板

  • 父Aが買主Cに電話で「土地のことは息子Bに任せてある」と伝えた
  • 実際にはAはBに何も頼んでいない

父Aが、買主Cに電話でこう伝えました。「土地のことは息子Bに任せてある」。ところが実際には、AはBに何も頼んでいません。Bには代理権がありません。それでもAは、責任を負うことがあります。Bに代理権が無いなら、113条の原則どおり、無権代理で終わりじゃないんですか。113条の原則どおりなら、無権代理のままで終わるとも思えます。でも今日見る規定は、その原則に例外を作ります。先に答えを言うと、Aが自分でCに「任せた」と告げたこと、それ自体が、Aの作った外観になるからです。なぜそう言えるのか、今日はそこを見ていきます。その前に、少しだけ振り返ります。表見代理の全体像の回を思い出してください。あの基準の場面では、Bが無断で代理人を名乗っていて、Aの関与はまったくありませんでした。今日の場面で、Aの関与はどう違いますか?

Aが、自分でCに「Bに任せた」と言っています。本人が自分で何か行動している点が、違う気がします。基準の場面では、Aは何もしていませんでした。今日の場面では、Aが自分の口でCに告げています。この違いが、今日の出発点です。

109条1項の全文と要件

109条1項の全文カードと要件板。①代理権授与の表示②表示を受けた者自身の行為③表示の範囲内④その第三者との間の行為⑤相手方の善意無過失。 図:109条1項の全文カードと要件板

まず109条1項の全文を確認します。

条文民法109条1項

民法第百九条第一項(代理権授与の表示による表見代理等) 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

要件に入る前に、なぜAが責任を負うのかを押さえます。Bに代理権が無い以上、原則として、Bのした行為の効果はAに帰属しません。それでもAに負わせる理由として、表見代理の全体像の回で、外観を作った側に責任を負わせる、という考え方を見ました。109条では、Aが自分の口でCに「与えた」と告げています。その外観を作ったのはA自身なので、信じたCではなく、Aが結果を引き受けるのです。

論文で書く規範:109条1項の要件 ① 代理権授与の表示(本人が第三者へ、代理権を与えた旨を表示したこと) ② 表示を受けた「その他人」自身による行為(表示された者が行為すること) ③ 表示された代理権の範囲内の行為であること ④ 表示を受けた「その」第三者との間の行為であること ⑤ 相手方の善意無過失(ただし書。悪意・過失の立証は本人の側が行う) (民法109条1項(条文の言葉から導かれる要件))

①は、Aが第三者に向けて代理権を与えた旨を表示することです。②は、表示された本人、つまり今日ならBが、実際に行為することです。③は、その行為が表示された範囲内にとどまっていることです。④は、Aの表示を受け取った、まさにその相手方との間で行為がされることです。⑤は、相手方が善意無過失であることです。ただし、これをCが示す必要はありません。Cが悪意や過失だったと主張して責任を免れたいAの側が、それを示します。

立証責任の対比板。109条1項ただし書=本人Aの免責事由(Aが立証)。110条の正当理由=相手方の保護要件(相手方が立証)。同じ善意無過失で、立証の向きだけが逆。 図:立証責任の対比板

  • 109条1項ただし書=本人Aの免責事由(Aが立証)
  • 110条の正当理由=相手方の保護要件(相手方が立証)
  • 同じ善意無過失で、立証の向きだけが逆

110条の回では、正当な理由は、例外を使って得をする相手方の側が示すと見ました。109条1項のただし書は、Aが責任を免れるための例外なので、今度は得をするAの側が示します。物差しは同じで、向きが逆になっているだけです。

設例へのあてはめ

関係図。A(本人)→C(相手方)に「Bに与えた」と表示する実線の矢印。B(行為者)→C(相手方)に土地の売買を行う実線の矢印。A→Bの矢印は無い。 図:関係図

冒頭の設例に当てはめます。Aが電話でCに、「Bに土地を売る代理権を与えた」と伝えました。実際には与えていません。そのBが、Aを代理する形で、その土地をCに売却しました。Cは、Bに代理権が無いことを知らず、知らなかったことに過失もありませんでした。①は、Aが表示したことで満たされます。②は、表示されたB自身が売ったので満たされます。③は、表示されたのが土地を売る代理権で、実際にしたのも土地の売却なので、範囲内です。④は、表示を受けたCとの間の売買なので満たされます。⑤は、Cが善意無過失なので満たされます。5つがそろったので、109条1項によって、Aに効果が帰属します。Aは、実際にはBへ何も渡していないのに、Cに対して責任を負います。逆に、もし④が抜けていたらどうなりますか。例えば、CがAの表示を直接聞かず、別の人から伝え聞いただけだったら。Cが、Aの表示を直接聞かず、別の人から伝え聞いただけだった場合は、④の「表示を受けたその第三者」に当たりません。判例も、伝聞で知っただけの者には109条1項を使えないという結論を示しています。Aが自分で外観を作ったのは、表示を向けたCに対してだけです。伝え聞いただけの人に対してまで、Aが外観を作ったとは言えないからです。

表示のもう一つの形

関係図。A(本人)→B(行為者)に「名義の使用を許諾」という実線の矢印。B(行為者)→C(相手方)に「A名義で取引」という実線の矢印。 図:関係図

ここまでは、Aが口で「Bに任せた」と言う場面でした。ですが「表示」は、言葉だけとは限りません。言葉じゃないとすると、どういう形があるんですか。自分の名義の使用を、他人に許す場合です。設例を置きます。Aが自分の屋号を、店員Bに使わせていたとします。実際には、Bに契約を結ぶ代理権は与えていません。それでもBは、「A商店」の名義で、Cと取引をしました。

判例最高裁判所第二小法廷判決(民集14巻12号2661頁)

名義の使用を許した場合の外観法理 一般に、他人に自己の名称、商号等の使用を許し、もしくはその者が自己のために取引する権限ある旨を表示し、もつてその他人のする取引が自己の取引なるかの如く見える外形を作り出した者は、この外形を信頼して取引した第三者に対し、自ら責に任ずべきであつて、このことは、民法一〇九条、商法二三条等の法理に照らし、これを是認することができる。

名義を使わせているだけで、契約の代理権までは無いんですよね。それでも、口で「任せた」と言った場合と同じに扱えるんですか。判例は、名義の使用を許した者は、その外形、つまりこれまで見てきた外観を信頼した第三者に対して自ら責任を負うべきだとしています。ここで注意してほしいのは、この判示は「109条を適用する」とは言っていない点です。「109条や、商法の名板貸しの規定などの法理に照らして是認できる」という、一段抽象化した言い方をしています。名板貸しとは、自分の名前を他人に使わせて営業させることです。109条そのものではなく、同じ考え方が及ぶという扱いですが、本人自身が外観を作り出した、という骨格は変わりません。自分の口で「与えた」と言うことと、自分の名義の使用を許すことは、どちらも本人自身が外観の作り手になっている点で、同じ物差しで測れます。

逆に、Aが知らないうちに、Bが勝手に「A商店」の名前を使っていたらどうなりますか。Aが知らないうちに、Bが勝手に「A商店」の名前を使っていた場合は、外観を作ったのはAではありません。Aが使用を許しておらず、Bが名前を使っていると知りながら止めずに放っておいた、という事情も無ければ、この考え方は及ばず、原則どおり無権代理の問題に戻ります。ここで110条と比べます。110条では、実際に存在していた別件の代理権が、責任の土台でした。109条には、実際に与えた代理権が一つもありません。土台は、Aが自分で作った表示だけです。

表示の範囲を超えたら

109条2項の全文カードと関係図。A→Cに「土地を貸す代理権を与えた」と表示。B→Cに土地の売買(表示の範囲外を点線の枠で示す)。 図:109条2項の全文カードと関係図

109条1項は、表示された範囲内の行為を扱う規定でした。では、表示された範囲を超えた行為をBがしてしまったら、Aは一切責任を負わないのでしょうか。

条文民法109条2項

民法第百九条第二項 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

109条2項は、範囲を超えた行為についても、相手方に正当な理由があるときに限って、本人が責任を負うと定めています。以前、正当な理由は無過失と同じ意味だと確認しましたが、ここでも同じ言い換えが使えます。相手方が、表示された範囲内の行為だと信じたことに、過失が無かったということです。109条2項は、109条1項の仕組みに、110条と同じ「正当な理由」の絞りを重ねた規定だと考えると分かりやすいです。設例に当てはめます。Aは、「土地を貸す代理権をBに与えた」とCに表示しました。ところがBは、土地を貸すのではなく、Cに売ってしまいました。これは表示された範囲を超えた行為です。

Cが、Bにはこの土地を売る代理権もあると信じたことに、過失が無かったといえるなら、109条2項によって、Aに効果が帰属します。逆に、Cが少し確認すれば表示の範囲を超えていると分かったはずなら、正当な理由は認められません。

法定代理には及ばない

対比板。任意代理=本人が自分の言葉や名義で表示できる。法定代理=そもそも本人が代理権を「与える」という行為自体がありえない。109条は適用されない。 図:対比板

  • 任意代理=本人が自分の言葉や名義で表示できる
  • 法定代理=そもそも本人が代理権を「与える」という行為自体がありえない
  • 109条は適用されない

最後に、適用範囲の限界を一つ確認します。109条は、法定代理には適用されません。法定代理でも、代理権があると相手方が信じることはありそうですが、なぜ適用されないんですか。109条の土台は、本人が自分で「与えた」と表示することでした。ところが法定代理は、本人の意思とは関係なく、法律の規定によって代理権が生じます。本人が与えるという行為自体が、そもそもありえません。表示のしようが無い以上、109条を当てはめる土台がないのです。判例・通説とも、この考え方で適用を否定しています。例えば、未成年の子の親権者は、子が頼んだから代理人なのではなく、法律が代理人にしています。以前見たとおり、110条ではこの法定代理権も基本代理権にあたりました。でも109条では、子の側に「与えた」と表示する行為が、そもそもありません。

答え合わせ

保存版板。「表示は誰に・どこまで届いているか」を軸に、109条1項(範囲内・善意無過失)、109条2項(範囲外・正当な理由)、名義使用の許諾(同じ法理)を1枚に並べる。法定代理には及ばない。 図:保存版板

  • 「表示は誰に・どこまで届いているか」を軸に、109条1項(範囲内・善意無過失)、109条2項(範囲外・正当な理由)、名義使用の許諾(同じ法理)を1枚に並べる
  • 法定代理には及ばない

今日の内容をまとめます。109条は、本人が自分の言葉、あるいは自分の名義の使用を許すという形で、代理権を与えた旨を表示した場合の規定でした。表示された範囲内の行為には1項が、範囲を超えた行為には正当な理由がある場合に限り2項が及びます。自分の名義の使用を許した場合も、同じ考え方が及びます。そして、法定代理には、この考え方はそもそも及びません。冒頭の問いに戻ります。父Aが、買主Cに「土地のことは息子Bに任せてある」と言っただけで、実際には何も頼んでいなかった場面でした。Cが、その表示を信じて、善意無過失でBと取引をしたなら、109条1項によって、Aは責任を負います。

本人が自分の手で外観を作った、という一点が、この規定の土台になっています。この場面は、論文でも論点になりえます。今日はここまでにします。もう一つだけ確認しておきます。109条の土台になっているのは、代理権を渡した事実ではなく、何をした事実でしたか?Aが、自分の言葉や名義で「与えた」と表示した事実です。

参照条文

  • 民法109条1項
  • 民法109条2項

民法 全体ロードマップへ →