民法の物権は全部で十種類——所有権・用益物権・担保物権・占有権
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第1章 民法総則 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
ものさし——所有権は3つの力を全部持つ
図:使用収益処分の3つの力を持つものさしとしての所有権を示す板
今日、ものさしに使うのは、この条文です。
条文民法206条(再掲)
民法 第206条(所有権の内容) 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
使う、利益を得る、売ったり捨てたりする権利、でしたね。所有権は、この3つを全部持っています。たとえば、あなたの自転車なら。乗るのが、使用。人に貸して料金をもらうのが、収益。要らなくなって売るのが、処分です。これから見ていく残りの仲間は、この3つのうち、どれかを手放しています。どれを残して、どれを手放したか。今日は、それだけを確かめていきます。ただし、最後に一つだけ、このものさしに乗らない物権が出てきます。そこだけは別枠になる、と先に言っておきます。
使用と収益だけ残す——用益物権
図:地上権永小作権地役権入会権を条文番号と一行の言い直しで並べた用益物権の一覧板
まず、使用と収益だけを残して、処分を手放すと、どうなるか。これが、用益物権です。他人の土地を、使わせてもらう権利です。他人の土地を、売ったり壊したりはできません。でも、使ったり、利益を得たりする力は、残っています。この用益物権には、4つの種類があります。一つめは、地上権。他人の土地の上に、建物などを持つための権利です。借りた土地に家を建てる、という気持ちとしては近いです。ただ、「借りる」という約束は、相手にだけ言える債権でした。地上権は、土地を直接支配する物権です。同じ「借りて建てる」でも、そこが違います。
二つめは、永小作権。小作料を払って、他人の土地で、耕作や牧畜をする権利です。三つめは、地役権。自分の土地のために、他人の土地を利用する権利です。たとえば、自分の土地から公道に出るのに、隣の土地を通らせてもらう権利です。これを、通行地役権と呼びます。最後、四つめは、地域の人々が、山林や原野を共同で利用する権利です。これを入会権と呼びます。山菜やきのこを採りに入る、といったイメージです。この4つが、用益物権の顔ぶれです。どれも、他人の土地を使う権利、という点では共通しています。
中身をもっと詳しく見る回が、また別にあります。今日は、この4つが使用と収益だけを持つ仲間だ、ということだけ持ち帰ってください。
残った「価値」だけを取り出すと
図:使用収益はもう取り出した残る価値だけを取り出すと何になるかという問いかけ板
さて、ここまでで、使用と収益は、もう取り出しました。所有権が持つ3つの力のうち、残っているのは、処分だけです。売る、というのは、その物の価値をお金に換えることです。だから、処分という力の裏には、いつも価値があります。その、価値という要素だけを取り出すと、何になるでしょうか?では、さっきの謎に、いよいよ戻りましょう。
価値だけを取り出す——担保物権

最後に残ったのは、価値です。それだけを取り出したものが、担保物権です。返してもらえないときに備えて、先に押さえておく仕組みです。では、さっきの謎に戻ります。三百万円を貸して、土地は五百万円で売れたのに、二百万円だけ戻ってきました。実は、お金を貸していたのは、あなただけではありませんでした。別の債権者が、相手に四百五十万円を貸していました。以前、同じ人に対して、複数の債権が成り立ちうる、と言いましたね。担保を持たない債権者どうしは、平等に扱われます。これを、債権者平等原則と呼びます。
同じ額ではありません。債権額の割合で、分け合います。あなたの三百万円と、別の債権者の四百五十万円。合計で、七百五十万円です。この割合で、五百万円を分けると、あなたの取り分は、二百万円になります。では、もし、あなたが抵当権という担保を持っていたら。担保を持つ債権者は、他の債権者に先立って、優先的に弁済を受けられます。これを、優先弁済的効力と呼びます。同じ五百万円から、まず、あなたが三百万円を全額受け取ります。残った二百万円を、別の債権者が受け取ることになります。担保があるかないかだけで、百万円、結果が変わります。
債権は、相手の財産のどこかを押さえた権利ではありません。「払え」と言えるだけの権利でした。押さえている物が無いのだから、順番の付けようがない。だから、割合で分け合います。ところが抵当権は、物権です。この土地そのものの価値を、直接押さえています。押さえた物から先に回収する。それが、物権を持っている、ということです。だからこそ、お金を貸す人は、担保を取ろうとするんです。なお、実際にどうやって土地を売るか、その手続きは。民法ではなく、別の法律が細かく決めています。ものさしで言えば、使用と収益は手放して、価値だけを残した。それが担保物権です。
担保物権は4つ——分かれ目は「合意が要るか」
図:留置権と先取特権を法定担保物権質権と抵当権を約定担保物権に分ける切り分け板
実は、今、名前を出した抵当権を含めて、担保物権には4つの種類があります。留置権、先取特権、質権、そして抵当権です。ここも、丸暗記ではありません。分かれ目は、合意が要るかどうか、1つです。留置権と先取特権は、法律の条件さえ満たせば、合意が無くても発生します。これを、法定担保物権と呼びます。一方、質権と抵当権は、当事者の合意が無ければ、発生しません。これを、約定担保物権と呼びます。さっきの三百万円で言えば、抵当権はどうでしょう。相手が「この土地を担保にしていい」と言ってくれて、はじめて生まれます。
ところが留置権と先取特権は、そういう約束が無くても、条件さえ満たせば生まれます。今日は、この4つのうち、法定担保物権の代表として留置権。約定担保物権の代表として抵当権。この2つだけ、中身まで見ていきます。先取特権は、法律が決めた特定の債権を持つ人に、先に回収させる仕組みです。質権は、このあと抵当権と比べるときに、もう一度出てきます。どちらも中身は、また別の回で扱います。
法定担保物権の典型——留置権
図:修理代を払ってもらうまで自動車を返さない整備士と客の留置権の場面を示す板
まず、法定担保物権の代表、留置権です。自動車の修理で考えてみましょう。あなたが、車を修理に出したとします。整備士は、きちんと直してくれました。ところが、あなたは、修理代を払いません。そういうときのために、整備士には、こういう権利があります。
条文民法295条1項
民法 第295条第1項(留置権の内容) 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
手元に置いたまま、返さない、ということです。「他人の物の占有者」というのが、車を預かっている整備士です。「その物に関して生じた債権」というのが、修理代を請求できる権利です。この2つが結びついているから、留置権が発生します。ただし書もあります。修理代の支払い期限が、まだ来ていないときは別です。ここで、以前見た言葉を、思い出してください。自分の物を返せる理由を見たとき、相手に占有権原が無いことが要件でした。留置権は、その占有権原——そこにいてよい、正当な理由——の一つです。整備士には、修理代を受け取るまで、車を持っていてよい、正当な理由があります。
ただ、ここで注意してほしいことがあります。留置権は、「修理代を払え」と、直接請求できる権利ではありません。車を返さないことで、相手に不利益を与えます。そうして、間接的に、支払う気にさせる。そういう効き方をする権利です。車が無いと困る相手だからこそ、効く仕組みです。
約定担保物権の典型——抵当権
図:抵当権者抵当権設定者被担保債権目的物の4つの役割を貼り付けた抵当権の関係図
では、約定担保物権の代表、抵当権です。さっきの三百万円の話を、続けます。もし、あなたがお金を貸すときに。相手の土地に、抵当権を設定してもらっていたら、どうなっていたか。条文で、確認しましょう。
条文民法369条1項
民法 第369条第1項(抵当権の内容) 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
登場人物を、絵に置きながら整理しましょう。お金を貸した、あなたが、抵当権者。お金を借りて、土地を担保に出した、相手が、抵当権設定者。もとになる、三百万円の貸金債権を、被担保債権と呼びます。そして、担保に出された、相手の土地が、抵当権の目的物になります。ここで、条文の中の、この言葉に注目してください。「占有を移転しないで」という部分です。相手は、土地を、あなたに渡す必要がありません。住み続けたまま、あるいは使い続けたまま、土地を担保にできます。ここで、さっき見た質権と、比べてみましょう。質権の条文には、こう書いてあります。「占有し」と。
質権では、担保に取るほうが、物を預かることが前提なんです。だから、住み続ける必要がある不動産は、抵当権に向きます。手放しても困らない動産は、質権に向きます。もう一つ、条文の「他の債権者に先立って」という部分。これは、さっき見た、優先弁済的効力、そのものです。占有は動かさず、価値だけをしっかり握っておく。これが、抵当権の正体です。最後に、名前だけ、いくつか渡しておきます。相手が、同じ土地に、別の債権者からも抵当権を付けてもらうことがあります。先に登記したほうを先順位。あとから登記したほうを、後順位と呼びます。
また、相手が、この土地を別の人に売ることもあります。買った人のことを、第三取得者と呼びます。お金を借りる人と、担保を出す人が、別人のこともあります。相手の家族などが、代わりに担保を出すケースです。この人を、物上保証人と呼びます。さっき読んだ369条の「債務者又は第三者」の、「第三者」が、この人です。中身は、また別の回で、たっぷり扱います。
担保物権に共通する性質——付従性
図:被担保債権が発生しなければ担保も発生せず消滅すれば担保も消える付従性を示す板
留置権にも、抵当権にも、共通する性質があります。付従性と呼ばれるものです。担保物権は、単独では存在できません。まず、もとになる債権が発生していなければ、担保物権も発生しません。これを、成立における付従性と呼びます。そして、もとの債権が消えれば、担保物権も一緒に消えます。これを、消滅における付従性と呼びます。相手が三百万円を返し終えた、その瞬間に、抵当権も一緒に消えます。担保物権は、あくまで、債権を確実に回収するための道具だからです。道具は、本体が無ければ、意味を持ちません。
この考え方は、人が担保になる場合にも、同じように出てきます。その話は、また別の回で扱います。
ものさしに乗らない一つ——占有権
図:所有権から抵当権までの九種類は本権だが占有権だけは事実状態で発生することを示す板
ここまで、九種類の物権を見てきました。所有権と、用益物権4つと、担保物権4つ。この九種類は、全部、本権でした。正当な権利を、土台にしている物権です。ですが、十種類めは、そこが違います。占有権です。条文を見てみましょう。
条文民法180条
民法 第180条(占有権の取得) 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
「自分のものだ」という気持ちで、物を持っている、ということです。この条文には、正当な権利がある、とは、一言も書いてありません。だから、ある、驚くような結論が出てきます。泥棒にも、占有権があります。盗んだ物であっても、「自分のものだ」という意思で持っていれば。占有権という物権は、成立します。盗んだ人を守ることになるのではないか——もっともな疑問です。理由を、説明します。もし、占有権が、正当な権利者にしか認められないとしたら、どうなるか。「これは自分の物だ」と信じる人が、実力で取り返すことを認めてしまいます。
誰もが、実力行使を始めたら、社会は収拾がつかなくなります。だから法は、力ずくで取り返すことを、禁じています。これを、自力救済の禁止と呼びます。そのかわり、事実として持っている状態を、いったんそのまま保護します。本当の持ち主かどうかは、別の手続き——裁判で決めればいい、という考え方です。占有権は、正しさを判定する物権ではありません。今、物を持っている、という事実そのものを、守るための物権なんです。占有権だけは、所有権を分解しても出てこない、別枠の物権です。占有権原と占有権は、名前は似ていますが、逆です。占有権原は、そこに置いていてよい、正当な理由。占有権は、その正当な理由を問いません。持っている、という事実だけを見ます。
そして、持っている状態が長く続くと、それ自体が権利になることもあります。その話も、また別の回で扱います。
参照条文
- 民法206条(再掲)
- 民法295条1項
- 民法369条1項
- 民法180条