相手に財産が無くても回収できる——保証・弁済・相殺
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第1章 民法総則 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
今日の地図、もう一度——守るは埋まった、残る2つへ

まず、前回の地図を、思い出しましょう。責任財産——強制執行の対象になる、名義人の財産——という1つの器に、3つの構えがありました。前回、守るの中身には、名前が入りました。では、前回の地図で、残る2つは、何だったか、覚えていますか?今日は、この2つを、埋めていきます。まず、増やす——別の人の財産を当てにする方法から、見ていきましょう。
保証——別の人の財産を当てにする
図:もし契約当時に名義人の保証人がいたらという反実仮想を導入する関係図
ここで、器を守る、から離れて、2つめの構え、増やすに進みます。これからは、もしも、の話です。実際に起きたことではなく、仮の話として聞いてください。もし、あなたと名義人が、土地の売買契約を結んだとき。名義人ではない、別の人が、その契約の保証人になっていたとしたら、どうだったでしょうか。保証人……お金を貸すときに、よく聞く言葉ですね。お金を貸す場面に限りません。今日のような、売買契約でも、保証人は付けられます。もし保証人がいれば、名義人が三百万円を払えないとき。あなたは、その保証人に対して、直接、三百万円を請求できます。
条文を見てみましょう。
条文民法446条1項
民法 第446条第1項(保証人の責任等) 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
今日で言えば、名義人のことです。名義人が果たさない約束を、保証人が肩代わりする、という骨格です。ここで、注意してほしいことがあります。保証契約の当事者は、誰と誰でしょうか。そこが、間違えやすいところです。実は、あなたと、保証人が、保証契約の当事者です。名義人は、保証契約そのものには、関わりません。あなたと保証人の間で結ばれる契約です。以前、担保を取る理由を、見たのを覚えていますか。あっ、担保を持たない者どうしは、平等に分け合うしかない、という話でしたね。債権者平等原則の裏返しです。自分だけ、優先されたい。でも、名義人の物には、担保を設定できないこともあります。そういうとき、人を担保にすればいい。
これを、人的担保と呼びます。以前見た担保物権は、物を担保にする形でした。こちらを、物的担保と呼びます。責任財産という1つの器を、増やす方法は、大きく2つあります。物を担保に取る——物的担保。人を担保に取る——人的担保。今日の保証は、この人的担保です。以前、名前だけ渡した物上保証人——他人の借金のために、自分の物を担保に出す人——は、物的担保の側です。今日の保証人は、人的担保の側。名前は似ていますが、置かれる場所が違います。なお、保証契約そのものは、書面でしなければ、効力を持ちません。446条2項の話です。細かくは、また別の回で扱います。
付従性——担保物権と同じ性質が、人にも現れる
図:主債務が生まれなければ保証債務も生まれず主債務が消えれば保証債務も消える付従性板
実は、この保証にも、以前見た性質が、そのまま現れます。担保物権のところで、付従性という言葉を、見ましたね。もとになる債権が無ければ発生しない。もとの債権が消えれば、一緒に消える。この性質は、実は、道具が担保物権であっても、保証であっても、同じ形で出てきます。名義人があなたに対して負う債務——主たる債務——が、まず、生まれていなければ。保証人の保証債務も、生まれません。これを、成立における付従性と呼びます。保証契約自体には問題が無くても、保証人の保証債務は、発生しません。そして、主たる債務が消えれば、保証債務も、一緒に消えます。これが、消滅における付従性です。
担保物権のときと、同じ言葉を、思い出してください。担保は、道具です。道具は、本体が無ければ、意味を持ちません。今日、その道具に、もう一つ見方を足します。保証債務は、主たる債務の影のようなものです。本体が動けば、影も一緒に動く。本体が消えれば、影も消える。物であっても、人であっても。この考え方は、変わりません。
連帯保証——2つの言い分から始まる
図:催告の抗弁452条と検索の抗弁453条を並べた条文板
保証には、もう一つ、重い種類があります。連帯保証です。責任が重い、というイメージは、正しいです。今日は、それが具体的に何を意味するか、見ていきます。まず、普通の保証人が持っている、2つの言い分から、確認しましょう。なぜ、普通の保証人に、そんな言い分が認められるのか。さっき見た446条1項は、「主たる債務者がその債務を履行しないときに」と書いていました。保証人は、あくまで、名義人が果たさないときの、肩代わりです。だから、「まず本人に」と言えるんです。1つめ。「まず、主たる債務者に、請求してください」と言える権利です。
これを、催告の抗弁と呼びます。条文は452条です。2つめ。「主たる債務者には、財産がありますから、そちらに執行してください」と言える権利です。これを、検索の抗弁と呼びます。条文は453条です。インターネット検索とは、違う意味です。主たる債務者の財産を、探し出して、そこから執行しろ、という意味です。この2つの言い分は、普通の保証人には、認められています。
連帯保証人が持たない2つの言い分
図:催告の抗弁と検索の抗弁を普通の保証と連帯保証で比べ連帯保証は両方持たない対比板
では、連帯保証人は、この2つが、どうなるでしょうか。考えてみてください。普通の保証人は、名義人が払わないときの、肩代わりでした。でも、連帯保証人は、「名義人と連帯して」——つまり、名義人と並んで責任を負う、と約束しています。肩代わりではないなら、「まず本人に」とも、「まず本人の財産に」とも、言えないはずです。条文を見てみましょう。
条文民法454条
民法 第454条(連帯保証の場合の特則) 保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。
直前で見た、452条と453条のことです。今、条文が名指しで、その2つを奪っています。連帯保証人は、あなたから直接、いきなり請求されても、拒めません。表で整理しておきましょう。普通の保証人は、催告の抗弁も、検索の抗弁も、持っています。連帯保証人は、その両方を、失います。名義人と、ほとんど同じ立場に立たされる、と考えてください。
債権の消滅——約束どおりのものが動く、弁済
図:名義人が損害賠償金300万円を現金で払い債権が消える弁済の場面を示す板
ここから、3つめの構え、消えるに進みます。責任財産という器から、債権が消えていくときの話です。債権が消える原因は、以前、名前だけ、七つ並べましたね。今日は、そのうちの三つを、中身から見ていきます。いちばん、当たり前のところから見ましょう。名義人が、あなたに、三百万円を、現金で払ったとします。これを、弁済と呼びます。条文を見てみましょう。
条文民法473条
民法 第473条(弁済) 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。
約束したとおりのものを、約束したとおりに渡す。それだけで、債権は消えます。ここで、軸を1つ、立てておきます。弁済は、約束どおりのものが動く、というものです。この先、代物弁済と、相殺を見ていきますが、この「何が動くか」という軸で、比べていきます。
別のものを渡す——代物弁済には、合意が要る
図:名義人が現金の代わりに別の土地を渡す合意をして実際に渡す代物弁済の条文板
では、名義人が、現金を持っていなかったら、どうでしょうか。実は、名義人は、本当に持っている、別の土地を、一つ持っていました。三百万円くらいの価値です。「現金三百万円の代わりに、この土地を渡します」という合意をして。実際に、その土地を渡せば、同じように、あなたの損害賠償請求権は消えます。似ていますが、条文の名前は、違います。代物弁済です。条文は482条です。ここで、絶対に外せない要件があります。代物弁済には、あなたとの、契約——合意が要ります。名義人が、勝手に、「これで払ったことにします」と、土地を置いていくだけでは、成立しません。
ここは、うっかり忘れやすいところなので、しっかり持ち帰ってください。代物弁済には、合意が要る。弁済とは、そこが違います。
弁済と代物弁済——何が動くかで見分ける
図:約束どおりのものが動く弁済と別のものが動き合意が要る代物弁済を対比する板
2つを、並べてみましょう。弁済は、約束どおりのものが動く。合意は、いりません。代物弁済は、別のものが動く。だからこそ、合意が要ります。そして、次に見る相殺は、この2つと、まったく違う動き方をします。そこが、今日、いちばん大事なところです。次に、見ていきましょう。
相殺——何も動かない、だから効く
図:あなたと名義人の2本の債権が対当額で消える一方的意思表示による相殺の関係図
実は、あなたにも、名義人に対する債務が、一つあります。以前、あなたは、名義人から、百万円を借りていました。整理しましょう。あなたは、名義人に対して、三百万円の損害賠償請求権を持っています。逆に、名義人は、あなたに対して、百万円の貸金債権を持っています。こういうとき、あなたは、相殺という手段を使えます。条文を見てみましょう。
条文民法505条1項
民法 第505条第1項(相殺の要件等) 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
重なり合う金額のことです。今日で言えば、百万円です。三百万円と百万円のうち、重なる部分ですね。あなたが、名義人に対して、「相殺します」と、一方的に意思表示をすると。対当額——百万円ぶんが、お互いの債権から、同時に消えます。ここで、注目してほしいのは、何も動いていない、ということです。現金も、物も、一切、動きません。ただ、帳簿の上で、数字が消えるだけです。友達どうしが、お互いに立て替えていたお菓子代を、いちいち現金でやり取りせず。帳消しにする、あの感覚に近いです。そして、もう一つ大事な点。相殺は、名義人の同意が要りません。あなたの、一方的な意思表示だけで成立します。
これを、単独行為と呼びます。以前、法律行為を三つに分けたとき、遺言の例で見た、あれです。ちなみに、あなたが持ち出す、三百万円の債権を自働債権、名義人の百万円の債権を受働債権と呼びます。細かい要件——お互いの債務の弁済期が来ている必要があること等は、また別の回で扱います。今日は、「何も動かない」という、この1点だけ、持ち帰ってください。
冒頭の問いに決着——相殺だけが、相手の財産に頼らない
図:弁済と代物弁済は相手に何かがある前提だが相殺だけは財産の有無に関係なく効く決着板
では、冒頭の問いに、決着をつけましょう。もし、名義人に、財産が一円も無かったら。弁済も、代物弁済も、名義人の手元に、何かがあることが前提です。現金が無ければ、弁済はできません。土地が無ければ、代物弁済もできません。でも、相殺だけは、違います。もちろん、保証人がいれば、その人の財産も、当てにできます。でも、それは、保証人がいればの話です。相殺は、そういう相手がいなくても、あなた一人でできます。名義人に、財産が一円も無くても。あなたが、名義人に対して負っていた、百万円の債務は。確実に、対当額で消えます。何も動かないから、相手の財産の有無に、関係が無いんです。
だから、相殺には、担保のような働きがあると言われます。名義人が、いつ、財産を失っても、あなたには、百万円ぶんの安心が、あらかじめ確保されている。そういう意味で、相殺は、まるで担保を持っているのと、同じような効果を生みます。ただし、残りの二百万円は、依然として、名義人の財産次第です。すべてが、相殺で解決するわけではありません。あくまで、対当額の範囲だけです。相殺適状の細かい要件——弁済期のことなど——は、また別の回で扱います。今日は、今日見た三つのうち、責任財産に頼らずに済む、唯一の消滅原因、という位置づけだけで、十分です。
今日の地図(保存版)
図:責任財産の器に守る増やす消えるの答えが埋まった完成版と次回への宿題を示す板
最初に見た、地図に戻りましょう。責任財産という1つの器に、3つの構えがありました。今日、その3つに、すべて名前が入りました。そして、冒頭の問い——相手に財産が無かったら——への答えも、埋まりました。もう一つ、大事なことを言っておきます。責任財産を守る動きと、担保を取る動きは。実は、どちらも、以前見た債権者平等原則の裏返しでした。自分だけ、優先されたい、あるいは。自分だけは、確実に回収したい、という気持ちが、今日見た制度の、共通の動機です。最後に、今日、名前だけ置いていったものを、並べておきます。債権者代位権と、詐害行為取消権の、細かい要件や、行使の方法。保証人の求償権や、共同保証。第三者による弁済や、弁済の充当。そして、相殺適状の要件と、判例をめぐる議論。どれも、まだ中身は、これからです。
最後に、もう一つ、次への問いを、残します。今日、売買、贈与、お金の貸し借り、そして保証と、いろいろな契約が出てきました。契約には、どんな種類があるのでしょうか?
参照条文
- 民法446条1項
- 民法454条
- 民法473条
- 民法505条1項