物権法定主義と物権的請求権の三類型
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第2章 物権 #85/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
山林の栗拾いと、新しい持ち主
図:冒頭設例の関係図
- Aが自分の山林の一角をBに「毎年秋のあいだだけ、栗を拾いに入ってよい」と約束した(実線矢印「秋だけ、栗を拾ってよい」)
- Aはその後、山林をCに売った(実線矢印「売った」)
- BとCの間には、まだ答えの出ていない問いが残る(点線「言えるか?」)
Aは、自分の山林の一角を、隣に住むBに使わせることにしました。「毎年秋のあいだだけ、栗を拾いに入ってよい」という約束です。Bは、毎年律儀に、その季節だけ山へ入っていました。ところが数年後、Aはその山林を、Cに売ってしまいます。Cはこう言いました。「そんな話は聞いていない。入らないでほしい」。今日の問いは、1つです。Bの「栗を拾ってよい」という権利は、新しい持ち主のCにも言えるのか。先に、答えを言っておきます。言えません。理由は、民法が認めた物権が、10種類しかないからです。それ以外は、当事者どうしの約束にとどまります。
Bの権利がその10種類のどれにも当たらなければ、Cには言えないことになります。なぜ民法は、種類をここまで絞ったのか。そして、絞られた10種類の側には、条文に書いていない強い武器が与えられていること。今日は、この2つを押さえます。前回、物権には3つの性質があると確認しました。中でも絶対性は、誰に対しても主張できる、という強い性質でした。今日の2つの話は、両方とも、その絶対性から出ています。誰に対しても効く権利だからこそ、民法はこの権利に、入口と出口の両方を用意しているんです。誰でも自由に作れたら、無関係な人まで縛られてしまう。だから、入口では、種類も中身も法律だけが決めます。そして、その関門を通った権利には、出口で、条文に書いていない請求権まで与えられます。
今日の地図を、見てみましょう。
図:目次板
- 前半=入口を絞る話(175条・物権法定主義)
- 後半=出口を与える話(物権的請求権)
前半は、入口を絞る話。175条と、物権法定主義です。後半は、出口を与える話。物権的請求権です。2本立てに見えますが、根っこは1つです。順番に見ていきましょう。
175条を読む——物権の創設
図:一言板
- 175条は、もう名前を知っている条文
- 今日はここから3段深く降りる(趣旨の中身/「法律」に何が入るか/違反したらどうなるか)
まず、条文そのものを確認します。175条です。物権法定主義という名前と、取引の安全のため、というところまでは、前回までに確認済みです。今日は、そこから3段、深く降ります。趣旨の中身、「法律」に何が入るか、そして違反したらどうなるか、の3つです。まず、条文そのものを見てみましょう。
条文民法175条
民法 第175条(物権の創設) 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
この条文には、読みどころが2つあります。1つめ。「創設することができない」。これは、新しい種類を作れない、という意味です。2つめ。「その他の法律に定めるもののほか」。ここが見落とされがちです。法律が定めた物権の中身からも、外れることができない、という意味です。「定めるもの」という言葉です。法律が定めているのは、物権の名前だけではありません。どんな中身の権利かまで、条文が決めています。法律が定めていない中身を盛り込めば、それはもう「定めるもの」ではありません。だから、当事者が、勝手に中身を作り変えることはできません。
なぜ、ここまで種類を絞るのか
図:趣旨の3段フロー
なぜ、ここまで種類を絞るのか。3段階で見ていきます。1つめ。物権は、誰に対しても効く権利です。当事者2人が勝手に決めたことで、まったく無関係な第三者まで縛られてしまいます。2つめ。物権には、登記や引渡しという、外から見える形にする仕組みがあります。法が予定していない物権が、次々に湧いて出てくると、この公示の仕組みが追いつかなくなります。冒頭のCを思い出してください。Cは山林を買う前に、登記を見ることができます。でも「秋だけ栗を拾ってよい」という権利を、登記に載せる場所はありません。外から見えない権利が増えるほど、誰も安心して取引できなくなります。3つめ。だからこそ、種類と中身を法律が決めて、目録を閉じておくんです。
前に、契約は自由だという話をしましたね。契約は当事者だけを縛るので自由。でも物権は、無関係な人まで縛るので、不自由なんです。
Bの栗拾いは、Cに言えるか
図:冒頭設例の再掲
- Bの「栗を拾ってよい」という権利は、Cにも言えるかを問う板
- 175条を見た上で、もう一度考える
ここで、冒頭のBに戻りましょう。175条を見たうえで、もう一度考えてみてください。Bの「栗を拾ってよい」という約束は、Cにも言えると思いますか。さっきは「言えない」という答えでしたけど、175条を見ると、もっとはっきりしますね。栗を拾う権利なんて、民法の10種類のどれにも入っていない気がします。Bの権利は、10種類のどれにも当たりません。だから、物権としては成立しません。Bの権利は、無かったことになるんですか。そこが今日、いちばん誤解されやすいところです。無効で終わるわけではありません。
図:物権法定主義に違反する権利の扱い
- 物権としては不成立
- 当事者間(AB間)の契約としては有効にとどまる(債権的効力)
- 第三者Cには対抗できない
- 法が用意した器(地役権)に入れて登記すれば、Cにも言えた
AとBの間では、約束としては、ちゃんと有効です。契約としての効力、いわゆる債権的効力にとどまる、と言います。BはAに対しては、今までどおり文句を言えます。Cには対抗できません。物権法定主義に違反する権利は、当事者間では契約として生き残り、第三者に対する効力だけを失うんです。175条が禁じているのは、新しい物権を作ることです。約束をすること自体は、禁じていません。AとBの約束は、この2人しか縛りません。無関係な人を巻き込まないので、そのまま生かしておいても誰も困らないんです。Cに言えないのは、登記をしていなかったからですか。違います。そもそも物権として成立していないので、登記があるかどうか以前の話です。
1つだけ、補っておきます。同じ中身でも、法律が用意した器に入れれば、Cにも言えました。地役権という物権があります。他人の土地を、自分の土地のために使う権利です。ただし、Bが自分の土地を持っている場合の話です。この形に入れて登記していれば、持ち主が変わっても言えたはずです。中身は、別の回でじっくり扱います。
「法律」に慣習法は入るか
図:位置関係板
- 175条の中——民法や特別法が定めた物権
- 175条の外——法律に規定の無い事項を、慣習が埋める(法の適用に関する通則法3条)
175条は「この法律その他の法律」と書いています。では、条文になっていない、慣習で生まれた権利は、物権になれるでしょうか。結論から言うと、なれます。根拠になる条文があります。法の適用に関する通則法、その3条です。法令に規定が無い事項について、公序良俗に反しない慣習は、法律と同じ効力を持つ。そう定めた条文です。175条は「この法律その他の法律に定めるもの」と書いていました。通則法3条は、その法律と同じ効力を、慣習にも与える条文です。通則法3条が、公序良俗に反しない慣習に、法律と同じ効力を与えているからです。ただ、慣習は条文の形をしていません。条文だけを探していると見つからない入口、という意味で、175条の箱の外側から入ってくるんです。
図:倉庫会社が考えた「預かり中の荷物に付ける優先権」は、公示の手段が無いため慣習法上の物権になれない
- 一方、温泉のお湯を引く権利は、地方の慣習によって、源泉地の所有権とは別に取引できる物権として認められてきた
- その取引を、持ち主が変わった相手に対抗するには、立て札などで外から分かるようにしておく必要がある
では、何でも慣習で作れるのか。ここで1つ、場面を考えてみます。ある倉庫会社が、こう考えました。「預かっている荷物に、優先的に権利を持たせよう」。まだ誰も条文にしていない、社内の思いつきです。それも、慣習法上の物権になれるんですか。なれません。決め手は、さっきの趣旨に戻ります。外から見える形にする手段、公示の手段があるかどうかです。倉庫会社が社内で決めただけの優先権には、外から見える公示の手段がありません。取引をする人は、誰もその優先権の存在に気づけません。一方で、実際に認められている例もあります。温泉のお湯を引く権利です。
あのときは、条文の無いすきまを慣習が埋める、という話でした。今日は、そこから一歩進みます。この権利は、源泉地の所有権とは別に、物権として取引できるんです。そして、立て札などで外から見える形にしておけば、持ち主が変わった相手にも言えます。慣習法上の物権として、古くから認められてきました。もう1つ、名前だけ挙げておきます。譲渡担保です。民法には、条文としての規定がありません。それでも、担保として実際に使われています。中身は、別の回でじっくり扱います。
民法が認めた、10種類の物権
図:175条の帰結として閉じた目録板
- 所有権(206条)を中心に、使う面を切り出した用益物権(265条の地上権/270条の永小作権/280条の地役権/263条と294条の入会権)、価値の面を切り出した担保物権(295条の留置権/303条の先取特権/342条の質権/369条の抵当権)、事実の側から認められる占有権(180条)を配置
- 用益物権と担保物権をまとめる呼称「制限物権」を添える
- 末尾に特別法上の物権(漁業権・採石権・立木・仮登記担保)を小さく注記
ここで、民法が認めた物権を、目録として並べ直します。今日は、中身の再確認ではありません。175条の結果として、この目録が閉じている、という角度で見ます。並べ方の軸を、思い出してください。この2つ、つまり用益物権と担保物権は、まとめて制限物権と呼ばれます。所有権が持っている力のうち、一部だけを取り出して成り立つ物権、という意味です。そして、権利ではなく事実の側から認められるのが、占有権でした。この軸に沿って、10種類が板の上にすべて並んでいます。名前と条数は、板で確認してください。大事なのは、175条が「これで全部です、これ以上は作れません」と、この目録を閉じている、ということです。
1つだけ、補っておきます。「民法の外」にも、物権を定めた法律があります。漁業権、採石権、立木に関する権利、仮登記担保。こうした特別法上の物権も存在します。民法、慣習法、特別法。この3つの入り口から、物権の種類が決まっています。
後半へ——関門を通った物権に、何が与えられるか
図:一言板
- 前半は入口を絞る話だった
- 後半は、関門を通った物権に何が与えられているかという話
ここまでが、前半、入口を絞る話でした。175条、慣習法、特別法。3つの入り口から、種類が決まる、というお話でした。では、その関門を通った物権には、何が与えられているのでしょうか。前回、物権は誰に対しても主張できる、と言いました。でも、「どうやって」主張するのかは、まだ残っていました。そこで出てくるのが、物権的請求権です。後半は、これを見ていきます。
物権的請求権とは何か
図:定義と趣旨の板
- 物権的請求権=物権に基づいて、侵害している者に対し、侵害の除去や予防を請求できる権利
- 趣旨=自力救済が禁じられているから、裁判で求める道が要る
まず、定義を確認します。
⭐ 論文で書く規範:物権的請求権の定義 その中身は、物権に基づいて、侵害している者に対し、侵害の除去や予防を請求できる権利。物上請求権とも呼ばれる。 (通説上の定義)
なぜ、こんな権利が要るのでしょうか。理由は、自力救済が禁じられているからです。占有権のところで、名前が出ましたね。自分の力で、勝手に取り返してはいけない、というルールです。貸した機械が返ってこないとき、自分で取りに行ってはいけないんですか。いけません。だから、裁判で求める道が用意されていないと、この権利は動かせないんです。もし取り返してよいなら、この権利は要りません。でも、取り返してはいけない以上、裁判で求める道を用意しておかないと、直接支配は絵に描いた餅になってしまいます。物権の性質、覚えていますか。
他人の行為を介さずに、物を支配できる性質でした。侵害されたときに取り戻す手段が無ければ、その直接支配は、名前だけのものになってしまいます。だから、条文には無くても、この請求権が認められています。
明文が無いのに、なぜ認められるのか
図:根拠3点の板
- ①202条が「本権の訴え」の存在を前提にしている
- ②仮の権利にすぎない占有権にさえ訴えの制度がある
- ③物権の直接性・排他性を実効あるものにする必要がある
では、条文に無いのに、なぜ認められるのでしょうか。ここは、今日いちばん深いところです。答えは3つあります。1つめ。202条という条文が、この権利の存在を前提にしています。条文そのものを見てみましょう。
条文民法202条
民法 第202条(本権の訴えとの関係) 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。 2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
物権そのものに基づく訴えのことです。占有の訴えとは別に、本権の訴えというものがあるという前提で、この条文は書かれています。民法は、物権的請求権を正面から定義した条文は持っていません。でも、その存在を当然の前提にしている条文は、たしかにあるんです。2つめの根拠に行きましょう。前に、時効の回で「占有回収の訴え」という言葉を見ましたね。どんな場面で使うものだったか、思い出せますか?たしか、占有を奪われた人が、奪った相手に返してくれと求める訴えでした。占有権は、権利というより、事実上の支配にすぎません。仮の権利です。
本当に権利があるかどうかを問わず、今の支配状態だけを守る権利だからです。その仮の権利にさえ、訴えの制度が用意されています。占有回収の訴えのほかに、占有保持の訴え、占有保全の訴えというものもあります。ここで、考えてみてください。軽いものに認められているなら、重いものに認められないはずがありません。3つめの根拠に行きます。物権には、直接性と排他性がありました。直接性と排他性。この2つを実際に守る手段が無ければ、どうなるでしょうか。さっきと同じで、絵に描いた餅になってしまいますね。202条の前提、占有権にも訴えがあること、直接性と排他性を実効あるものにする必要。この3点が、明文の無い物権的請求権を認める理由です。
ここは、論文で正面から問われる論点でもあります。
3つの請求権を、定義から見る
図:3類型の対照表
- 返還請求権=占有による侵害/物の返還を請求/現に占有している者に対して
- 妨害排除請求権=占有以外の方法による侵害/妨害の除去を請求/自分名義のはずの土地に覚えのない登記が付いている場面
- 妨害予防請求権=侵害のおそれ/予防を請求/まだ侵害が起きていない場面
前に、物権的請求権を見た回で、侵害のされ方によって3つに分かれる、という話をしました。今日は、それぞれの定義に降ります。1つめ、返還請求権です。占有を奪われるという形で物権が侵されているときに、その物を返すよう求める権利です。誰が、物権者。誰に、現に占有している者。何を、物を返せ、です。2つめ、妨害排除請求権です。占有以外のやり方で物権が侵されているときに、その妨げを取り除くよう求める権利です。例えば、こんな場面です。あなたの土地に、まったく覚えのない抵当権の登記が付いていたとします。物は自分の手元にあるのに、権利のほうが邪魔されている状態です。
誰が、物権者。誰に、妨害している状態を作り出している者。何を、この登記を消せ、です。3つめ、妨害予防請求権です。これから侵害されそうな状況で、あらかじめ防ぐよう求める権利です。まだ侵害は起きていなくてよい、というのが、この請求権の特徴です。例えば、隣の空き家の屋根瓦が、こちらの駐車場側へ落ちそうな場面です。誰が、物権者。誰に、おそれを生じさせている者。何を、瓦を固定するなどの予防の措置を、です。1つ、注意点も添えておきます。返還請求権は、所有権だけの専売特許ではありません。地上権など、他の物権に基づいても認められます。
引渡しと明渡し
図:引渡しと明渡しの対比板
- 引渡し=物の直接支配を相手からこちらへ移すこと
- 明渡し=相手が建物や土地に住んでいる・物を置いているときに、そこから出て物を片づけて完全な直接支配を返させること
- 訴状の言葉が変わる=動産なら「引き渡せ」、居座られている建物なら「明け渡せ」
返還請求権で、実際に何を求めるのか。ここを見ていきます。例えば、あなたが貸した工作機械を、相手が返してくれないとします。この場合に求めるのが、引渡しです。物の直接支配を、相手からこちらへ移すことです。一方で、こんな場面もあります。借りている倉庫に、居座られてしまっている。この場合に求めるのが、明渡しです。引渡しの1つの形で、相手が建物や土地に住んでいる、物を置いているときに、そこから出て、物を片づけて、完全な直接支配を返させることです。効きどころは、訴状に書く言葉です。動産なら「引き渡せ」。居座られている建物なら「明け渡せ」。求める中身に応じて、言葉が変わります。1つ、板に置くだけにしておきます。返還請求権が認められるには、3つの要件が要ります。自分の所有、相手の占有、そして占有権原の不存在——相手に、そこにいてよい正当な理由が無いことです。要件の中身は前に確認済みなので、ここでは繰り返しません。
請求の相手方をどう決めるかは、別の回で扱います。
今日の地図(保存版)
図:今日の背骨の再掲板
- 物権は誰に対しても効く
- だから民法は入口で種類と内容を法に絞らせ(175条)、その関門を通った権利には条文に無い請求権まで与えている
- 冒頭のBの栗拾いの約束は、Aにしか言えなかったが、法が用意した器(地役権)に入れて登記すればCにも言えた
今日の背骨を、もう一度お願いします。絞る代わりに、強くする。これが、今日1本の筋でした。冒頭のBに、戻りましょう。Bの「栗を拾ってよい」という約束は、Aにしか言えませんでした。でも、同じ中身でも、法が用意した器、地役権に入れて登記していれば、Cにも言えたはずでした。最後に、1つだけ問いを残しておきます。物権的請求権を使って、誰かに「どけろ」と言ったとき、その費用は誰が払うのでしょうか。費用を誰が払うのか。そこも、気になるところですよね。
参照条文
- 民法175条
- 民法202条