民法ゼロから民法#144

先取特権の競合と333条

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第3章 担保物権 #144/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

売った物は、もう追えないのか

冒頭の場面図。機械の売主Gが債務者Bに機械を引き渡す(transfer)。代金債権が残る(claim・青、G→B)。Bはその機械をすでに第三者Dへ転売してしまっている。Gの吹き出し「代金をもらう前に、機械を持っていかれた」。 図:冒頭の場面図

  • 機械の売主Gが債務者Bに機械を引き渡す(transfer)
  • 代金債権が残る(claim・青、G→B)
  • Bはその機械をすでに第三者Dへ転売してしまっている

Gさんは、機械をBさんに売って引き渡しました。でも、代金はまだもらっていません。ところが、Bさんはその機械を、もう別の会社Dさんに転売してしまっていました。Gさんは、この機械を取り戻せるでしょうか。実は、先取特権があっても、機械そのものを取り戻せないことがあります。結論を先に言うと、機械そのものはもう追えません。でも、その機械の転売代金なら、まだ追いかけられます。今日は、その理由を見ていきます。

なぜ条文が機械的に順位を決めるのか

総論の板。1つの財産に複数の担保が付くこと自体は珍しくないが、先取特権は法定担保物権であり、当事者の合意で順位を決められない。だから329条から332条までの条文が、あらかじめ機械的に順位を決めている。 図:総論の板

  • 1つの財産に複数の担保が付くこと自体は珍しくないが、先取特権は法定担保物権であり、当事者の合意で順位を決められない
  • だから329条から332条までの条文が、あらかじめ機械的に順位を決めている

そもそも、1つの財産の上に複数の担保が競合すること自体は、珍しくありません。ただ、先取特権は当事者の合意で生まれる担保ではなく、法律が一定の場面で自動的に発生させる担保でした。合意で決められない以上、誰かが順番を決めなければなりません。それを条文があらかじめ決めているのが、これから見る329条から332条までです。

一般どうしの順位は306条の順そのまま

329条1項の全文カード背景。一般の先取特権が互いに競合する場合は、306条各号の順序(共益の費用・雇用関係・子の監護の費用・葬式の費用・日用品の供給)による。 図:329条1項の全文カード背景

まず、一般の先取特権どうしがぶつかった場面です。

条文民法329条1項

民法第329条第1項 一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。

329条1項は、新しい基準を作っているわけではありません。前回確認した306条の列挙順、共益の費用、雇用関係、子の監護の費用、葬式の費用、日用品の供給、この順番を、そのまま競合の場面にも当てはめているだけです。

一般と特別がぶつかったら、特別が勝つ

329条2項の全文カード背景。一般の先取特権と特別の先取特権が競合する場合は特別が優先する。ただし共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する。 図:329条2項の全文カード背景

  • 一般の先取特権と特別の先取特権が競合する場合は特別が優先する
  • ただし共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する

次に、一般の先取特権と、動産や不動産に結びついた特別の先取特権がぶつかった場面です。

条文民法329条2項

民法第329条第2項 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

たとえば、Bさんの従業員の未払い給料と、機械を売ったGさんの代金が、この機械の上でぶつかったら、機械についてはGさんが先です。特定の物と強く結びついた特別の先取特権のほうが、その物については筋がいい、という発想です。ただし、ただし書に1つだけ例外があります。共益の費用の先取特権だけは、特別の先取特権を含めて、すべての債権者に優先します。共益の費用というのは、債務者の財産を保存したり、増加させたりするために使われた費用でしたね。この費用のおかげで、財産がそもそも残っている、あるいは増えている以上、特別の先取特権者も含めて、みんながその恩恵を受けています。恩恵を受けている以上、共益の費用には全員が劣後するのが公平だ、という理屈です。

動産どうしの順位、保存が売買より強い理由

動産先取特権の競合設例。会社Bが使っている機械の上に、家主I(不動産賃貸)・修理業者H(動産保存)・売主G(動産売買)の3つの先取特権が並ぶ。330条1項=第1順位は不動産賃貸・旅館宿泊・運輸、第2順位は動産保存、第3順位は動産売買等。 図:動産先取特権の競合設例

  • 会社Bが使っている機械の上に、家主I(不動産賃貸)・修理業者H(動産保存)・売主G(動産売買)の3つの先取特権が並ぶ
  • 330条1項=第1順位は不動産賃貸・旅館宿泊・運輸、第2順位は動産保存、第3順位は動産売買等

今度は、動産の先取特権どうしがぶつかった場面です。Bさんが使っている機械の上に、3人の先取特権者がいるとします。建物を貸している家主のIさん、機械を修理した業者のHさん、そして機械を売った売主のGさんです。

条文民法330条1項

民法第330条第1項 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。 一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権 二 動産の保存の先取特権 三 動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権

ここでも、さっきの物差しが働きます。修理業者のHさんは、機械という既にある価値を、壊れないように守った人です。既にある価値を守った働きは、後から現れても、先の担保権者より優先させるべきだ、という発想です。だから、動産の保存は、動産の売買より強くなります。売買によって機械という価値がBさんの手元に来たこと自体は大事ですが、その価値を維持したのは、あとから来た修理業者のHさんです。だから2番目に強くなります。1番目の不動産賃貸が最も強いのは、もう1つの物差し、当事者の意思の推測です。前回見たとおり、家主のIさんは、賃料が滞ったら建物に備え付けられた機械を当てにできる、と考えて貸しているはずだからです。

知っていた第1順位者は劣後する

330条2項の設例分岐図。家主I(第1順位)が、自分の債権を取得した時点で、修理業者H(第2順位)の存在を知っていた場合と知らなかった場合を並べる。知っていた場合、IはHに優先できない。知らなかった場合は原則どおりIが優先する。 図:330条2項の設例分岐図

  • 家主I(第1順位)が、自分の債権を取得した時点で、修理業者H(第2順位)の存在を知っていた場合と知らなかった場合を並べる
  • 知っていた場合、IはHに優先できない
  • 知らなかった場合は原則どおりIが優先する

ここに、もう1つ条件が付きます。

条文民法330条2項

民法第330条第2項 前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。

Iさんが、自分の債権を取得した時点で、すでにHさんが機械を修理していて、修理代の先取特権を持っていると知っていたとします。この場合、Iさんはもう1番手として振る舞えません。Hさんに優先できなくなります。ここで働くのは、さっき家主のIさんのところで出た、もう1つの物差し、当事者の意思の推測です。知らなかったIさんは、Hさんのような先取特権者はいない、自分が1番手だと考えて取引しているので、そのとおり保護してよい。でも、知っていたIさんは、Hさんの存在を織り込んだうえで取引しているはずなので、あえて1番手として保護する必要がありません。なお、条文の後段にあるとおり、Iさんのために機械を保存した人がいた場合も、Iさんはその人にも優先できません。なお、330条には3項もあって、果実についての順位も定めていますが、これは短答で名前だけ押さえておけば足ります。

不動産どうしの順位も、同じ物差しの延長

331条の全文カード背景。同一不動産について特別の先取特権が競合する場合は325条各号の順序(保存・工事・売買)による。2項=同一不動産の順次売買では、売買の前後で決まる。 図:331条の全文カード背景

  • 同一不動産について特別の先取特権が競合する場合は325条各号の順序(保存・工事・売買)による
  • 2項=同一不動産の順次売買では、売買の前後で決まる

次は、不動産の先取特権どうしがぶつかった場面です。

条文民法331条

民法第331条 同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百二十五条各号に掲げる順序に従う。 2 同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。

前回、保存と工事の先取特権だけは、登記さえすれば抵当権にも優先する、という話をしました。たとえば、家主のIさんの建物について、修理した業者、建て増しした工務店、その建物をIさんに売った売主がぶつかれば、この順です。保存した人、工事をして価値を増やした人を、あとから来ても優先させる、というのは、さっきの動産の話とまったく同じ物差しです。2項は、同じ不動産が何度も売買された場合の売主どうしの順位で、これは売買の前後、つまり早い者勝ちで決まります。

同じ順位どうしは、額で割る

332条の全文カード背景。同一目的物について同一順位の先取特権者が複数あるときは、各自の債権額の割合に応じて弁済を受ける。 図:332条の全文カード背景

最後に、同じ順位の先取特権者が複数いる場合です。

条文民法332条

民法第332条 同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。

誰の働きが優れているとも言えない以上、公平に、債権額の割合で按分します。たとえば、従業員2人の未払い給料が、それぞれ300万円と100万円で、Bさんの財産から200万円しか取れないなら、150万円と50万円に分けます。この332条は、あとで見る動産質権との競合でも、もう一度出てきます。

先取特権は、どうやって実現するのか

優先弁済的効力の板。303条=先取特権者は他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。実際には民事執行法の競売手続を申し立て、売却代金の配当で先に受け取る形で実現する(手続の細部は範囲外・イメージのみ)。 図:優先弁済的効力の板

  • 303条=先取特権者は他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する
  • 実際には民事執行法の競売手続を申し立て、売却代金の配当で先に受け取る形で実現する(手続の細部は範囲外・イメージのみ)

ここまでで、順位の決め方を一通り見ました。ここからは、その先取特権が、実際にどんな力を持つのかを見ていきます。まず、中核になるのが優先弁済的効力です。前回見た303条のとおり、先取特権者は他の債権者に先立って自分の債権の弁済を受けられます。目的物を競売にかけて、その売却代金の配当のときに、他の債権者より先に取り分をもらう、という形で実現します。手続の細かい流れは民事執行法の範囲になるので、今日は「配当で先に取る」というイメージだけで十分です。

物上代位、なぜ先取特権で出番が多いのか

304条の全文カード背景。先取特権は目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物にも行使できる。ただし払渡し又は引渡しの前に差押えが必要。一般先取特権は債務者の総財産に及ぶため物上代位の実益がなく、動産・不動産先取特権で問題になる。 図:304条の全文カード背景

  • 先取特権は目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物にも行使できる
  • ただし払渡し又は引渡しの前に差押えが必要
  • 一般先取特権は債務者の総財産に及ぶため物上代位の実益がなく、動産・不動産先取特権で問題になる

もう1つ、先取特権には物上代位性があります。

条文民法304条

民法第304条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

ここでも同じ要件が働きます。たとえば、Gさんが売った機械を誰かが壊して、Bさんがその人から損害賠償金を受け取れるなら、Gさんはその賠償金の請求権に先取特権を行使できます。ただ、1つ確認しておきたいことがあります。前回見たとおり、一般の先取特権は、特定の物ではなく、債務者の財産全部、つまり総財産に効力が及んでいます。だから、目的物の1つが姿を変えたところで、物上代位を考える実益は、あまりありません。物上代位が本当に問題になるのは、動産や不動産に絞られた特別の先取特権のほうです。中でも動産の先取特権は、目的物が第三者に引き渡されてしまうと、もうその物には行使できません。これを定めるのが、次に見る333条です。物そのものを追えないからこそ、物の代わりに生まれた代金などを押さえる物上代位が、ほとんど唯一の頼みになります。出番が特に多いのは、そのためです。

引き渡してしまったら、もう追えない

333条の全文カード背景。先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。 図:333条の全文カード背景

ここで、冒頭のGさんの話に戻ります。

条文民法333条

民法第333条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

抵当権の物上代位の回で、追及力という言葉を確認しましたね。目的物が誰の手に渡っても、その物に付いたまま追いかけていける力です。動産の先取特権には、抵当権と違って、この追及力がありません。理由は、動産には登記のような公示方法がないからです。買った人からすれば、その動産に担保が付いているかどうか、外から判断できません。だから、いったん第三取得者に引き渡されたら、先取特権のほうが身を引く、という設計になっています。ただし、条文の「第三取得者」には限定があります。この動産の所有権を取得した人に限られます。単に借りているだけの賃借人や、預かっているだけの受寄者は含まれません。たとえば、Bさんが機械をDさんに売ったのではなく貸しただけなら、機械がDさんの工場にあっても、Gさんはまだ機械に先取特権を行使できます。333条の保護は、所有権を得ていない人には及ばないからです。なお、判例・通説では、この第三取得者が、Gさんの先取特権を知っていたか知らなかったかは問われません。文言に、そうした限定がないためです。

占有改定の設例図。BはDに機械を現実には渡さず、以後Dのために占有するという意思表示だけで引渡しを済ませたことにする(占有改定)。それでも333条の「引渡し」にあたるか。 図:占有改定の設例図

  • BはDに機械を現実には渡さず、以後Dのために占有するという意思表示だけで引渡しを済ませたことにする(占有改定)
  • それでも333条の「引渡し」にあたるか

機械を現実には動かさず、意思表示だけで引渡しを済ませたことにする、これが以前見た占有改定という引渡し方法です。333条の「引渡し」に、この占有改定も含まれるかが問題になります。判例は、333条の「引渡し」には占有改定の場合も含まれる、としています。

⭐ 論文で書く規範:333条の「引渡し」と占有改定(規範) 民法333条の「引渡し」には占有改定も含まれる(判例)。占有改定は外から見て引渡しがあったと分からない移転方法だが、占有自体は移っている。そもそも第三取得者は、目的物に先取特権が付いているかを見分けにくい立場にあるから、占有改定で取得した者だけを保護から外す理由はない。 (出どころ=判例(大審院判決・大判大6・7・26))

ここは論文で論点になりうる場面です。今の理由づけと、セットで覚えておいてください。

では、Gさんに残された道は何か

立ち止まりの問いかけ板。「この機械はもう追いかけられないとして、Gさんに残された道は何でしょうか」という一言問い。 図:立ち止まりの問いかけ板

ここで、1つ立ち止まって考えてみましょう。この機械は、もう追いかけられません。では、Gさんに残された道は何でしょうか。機械という物そのものは追えなくても、Bさんの手元には、DさんからBさんへの転売代金債権が残っています。この代金債権に、Gさんは物上代位できます。

物上代位への接続図。BがDに機械を転売した代金債権(青、B→D)が残る。この代金債権に、Gが物上代位のために差押えをかける様子を描く。 図:物上代位への接続図

  • BがDに機械を転売した代金債権(青、B→D)が残る
  • この代金債権に、Gが物上代位のために差押えをかける様子を描く

ただ、304条ただし書のとおり、Dさんが実際に代金をBさんに支払ってしまう前に、Gさんは自分でこの代金債権を差し押さえておく必要があります。333条で目的物そのものは追えなくなった代わりに、304条で転売代金債権を押さえに行く。この2つは、切り離された別々の制度ではなく、1本の線でつながっています。動産の先取特権に物上代位の出番が特に多いのは、まさにこの333条があるからです。

抵当権とは、なぜここが違うのか

対比表。動産先取特権(公示なし・追及力なし・333条・物上代位の実益大)と、抵当権(登記による公示あり・追及力あり・物上代位は補助的)を2列で並べる。 図:対比表

抵当権には登記という公示があるので、目的物が誰の手に渡っても、その物に付いたまま追いかけていけます。だから抵当権にとって、物上代位はいわば補助的な道具です。ところが、動産の先取特権には公示方法がありません。だからこそ、333条で追及力そのものが否定され、その分、物上代位が主役級の重要性を持つことになります。

判例最高裁判決・最判平17・2・22(民集59巻2号314頁)

動産売買先取特権の物上代位と目的債権の譲渡の優劣 民法304条1項ただし書は,先取特権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要する旨を規定しているところ,この規定は,抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については,物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきである。そうすると,動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。

この判例が、まさにその公示の有無を理由にしています。たとえば冒頭の話で言えば、BさんがDさんへの転売代金債権を、資金繰りのために別の会社に売り、Dさんに確定日付のある通知まで済ませてしまった場面です。動産売買の先取特権者は、転売代金債権が第三者に譲渡されて、対抗要件まで備えられた後は、その債権を差し押さえて物上代位することができない、としました。抵当権の物上代位の回で、同じ304条ただし書について、抵当権では逆の結論を見ましたね。抵当権の場合は、債権譲渡は304条の「払渡し又は引渡し」にあたらないとして、譲受人が対抗要件を備えた後でも、実際に弁済される前なら、抵当権者は差し押さえて物上代位できるとされていました。理由は登記です。代金債権を譲り受けようとする人は、登記を見れば、その債権に抵当権の物上代位が及びうることを、あらかじめ知ることができます。知ることができた人を、ただし書でわざわざ守る必要はない、というわけです。

⭐ 論文で書く規範:動産売買先取特権の物上代位と目的債権譲渡の優劣(規範) 動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。動産売買の先取特権には公示方法が存在しないため、304条1項ただし書の差押えは、目的債権の譲受人等の第三者を保護する趣旨を含むからである。 (出どころ=判例(最高裁判決・最判平17・2・22))

抵当権では、登記を見れば分かった譲受人を守る必要はありません。ところが、動産の先取特権には公示方法がないので、譲受人は先取特権が付いていることを知りようがなく、その保護を優先させます。同じ条文の同じただし書から、公示の有無という1つの違いだけで、正反対の結論が導かれているわけです。

一般債権者の差押えでは、負けない

一般債権者の差押えとの優劣の板。GがBのDに対する転売代金債権に物上代位しようとしている間に、一般債権者Fがその代金債権に差押えや仮差押えをしていた場合でも、Gは差押えによる物上代位権の行使を妨げられない。 図:一般債権者の差押えとの優劣の板

もう1つ、別の場面を見ておきます。先取特権者のGさんが物上代位しようとしている転売代金債権に、一般債権者のFさんが先に差押えや仮差押えをかけていたとします。この場合、Gさんはもう物上代位できないのでしょうか。

判例最高裁判決・最判昭60・7・19(民集39巻5号1326頁)

一般債権者の差押え・仮差押えと物上代位の優劣 ……先取特権者が物上代位権を行使するためには物上代位の対象となる金銭その他の物の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、第三債務者が金銭その他の物を債務者に払い渡し又は引き渡すことを禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取り立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の目的となる債権(以下「目的債権」という。)の特定性が保持され、これにより、物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面目的債権の弁済をした第三債務者又は目的債権を譲り受け若しくは目的債権につき転付命令を得た第三者等が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、目的債権について一般債権者が差押又は仮差押の執行をしたにすぎないときは、その後に先取特権者が目的債権に対し物上代位権を行使することを妨げられるものではないと解すべきである。

判例はこう述べています。一般債権者が目的債権に差押えや仮差押えをしただけでは、先取特権者はその後でも物上代位権を行使できる、というものです。理由は、304条ただし書の趣旨に戻ります。この規定の趣旨は、目的債権が誰のものか特定されたままにしておくことと、代金を実際に払う第三債務者や、債権を譲り受けた第三者が不測の損害を受けないようにすることにあります。一般債権者が差押えをしただけでは、目的債権はまだ誰かに移っているわけではありません。だから、先取特権者の物上代位を妨げる理由がないんです。これに対して、さっきの譲渡の場面では、対抗要件を備えた譲受人という、保護すべき新しい第三者がすでに現れています。この違いが結論を分けています。

動産質権とぶつかったら

334条の全文カード背景。先取特権と動産質権が競合する場合、動産質権者は330条の第1順位の先取特権者と同一の権利を有する。同一順位となった場合は332条で按分する。 図:334条の全文カード背景

  • 先取特権と動産質権が競合する場合、動産質権者は330条の第1順位の先取特権者と同一の権利を有する
  • 同一順位となった場合は332条で按分する

最後に、動産の先取特権と、動産質権がぶつかった場面です。

条文民法334条

民法第334条 先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は、第三百三十条の規定による第一順位の先取特権者と同一の権利を有する。

動産質権者は、機械を実際に預かり、それを当てにしてお金を貸しています。家主と同じく、当事者の意思の推測で守られる立場なので、1番手の列に並べられます。たとえば、BさんがGさんから買った機械を、お金を借りるために質入れして引き渡していたら、その機械の上では、質権者がGさんより先です。質権者は所有権を取得していないので、333条の第三取得者には当たらず、Gさんの先取特権そのものは消えません。つまり、動産質権者は、不動産賃貸や旅館の宿泊などと同じ列に並び、動産保存や動産売買の先取特権者より優先します。もし動産質権者と、本当の1番手である不動産賃貸の先取特権者とがぶつかった場合は、さっき見た332条によって、債権額の割合で按分することになります。

今日の骨格を振り返る

まとめ板。329〜332条=順位は「価値を守った・生んだか」と「当てにしていたか・知っていたか」の2つの物差しで決まる。303条=優先弁済(配当で先に取る)。304条=物上代位(一般は実益なし・特別で問題になる)。333条=動産は引渡し後もう追えない(占有改定を含む)。だからこそ304条で転売代金を追う。動産先取特権(公示なし)と抵当権(登記で公示)の対比。334条=動産質権は330条の第1順位者と同順位。 図:まとめ板

  • 329〜332条=順位は「価値を守った・生んだか」と「当てにしていたか・知っていたか」の2つの物差しで決まる
  • 303条=優先弁済(配当で先に取る)
  • 304条=物上代位(一般は実益なし・特別で問題になる)
  • 333条=動産は引渡し後もう追えない(占有改定を含む)
  • だからこそ304条で転売代金を追う
  • 動産先取特権(公示なし)と抵当権(登記で公示)の対比
  • 334条=動産質権は330条の第1順位者と同順位

今日の内容を振り返ります。先取特権どうしの順位は、329条から332条まで、条文が機械的に決めますが、その中身は主に、価値を守った・生んだ働きへの評価と、当事者がその物を当てにしていたか、相手の存在を知っていたかという意思の推測、この2つの物差しに還元できました。そして、333条によって、動産の先取特権には追及力がなく、引渡し後は、占有改定であっても、もう目的物を追えなくなります。だからこそ、304条の物上代位で、形を変えた代金債権を追いかける実益が大きくなるんです。ただし、Dさんが実際に代金を払ってしまう前に、自分で差し押さえておく必要があります。動産売買の先取特権と、集合物譲渡担保が絡む、もう少し複雑な衝突の場面は、別の回で扱います。

参照条文

  • 民法329条1項
  • 民法329条2項
  • 民法330条1項
  • 民法330条2項
  • 民法331条
  • 民法332条
  • 民法304条
  • 民法333条
  • 民法334条

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