民法ゼロから民法#145

譲渡担保の法的性質

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第3章 担保物権 #145/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

機械は担保にできないのか

冒頭の場面図。工場でBが機械を使っている。Bの吹き出し「この機械を担保にお金を借りたい」。周りに×印つきで抵当権(369条)と質権(344条・345条)が並ぶ。 図:冒頭の場面図

  • 工場でBが機械を使っている
  • 周りに×印つきで抵当権(369条)と質権(344条・345条)が並ぶ

抵当権の目的物は、不動産に限られています。機械のような動産には、そもそも設定できません。質権なら、動産でも担保にできます。ただ、質権は目的物を債権者に引き渡さないと成立しませんし、設定後も債務者に使わせることができません。機械を取り上げられたら、Bさんの工場は止まってしまいます。実は、条文には一言も出てこない方法で、実務では毎日、機械や在庫が担保に入っています。その名前が、譲渡担保です。今日は、この譲渡担保の正体と、法的にどう説明されているかを見ていきます。先に答えを言うと、譲渡担保は、契約書の形では所有権を移しているのに、中身はお金を借りるための担保にすぎない、という形と中身がズレた契約です。このズレを形で読むか、中身で読むかで、場面ごとの答えが変わってきます。

典型担保に空いている穴

抵当権・質権の限界の板。①抵当権(369条1項)は目的物が不動産に限られる②質権(344条・345条)は引渡しが要件で、設定者に占有させられない③競売による実行は時間も費用もかかる。 図:抵当権・質権の限界の板

まず、なぜ典型担保では足りないのかを、条文で確認します。

条文民法369条1項

民法第369条第1項 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

抵当権の目的物は、条文上、不動産に限られています。機械のような動産は、最初から対象外なんです。344条で、質権は目的物を引き渡さないと成立しません。345条で、設定者に代わりに占有させることも禁止されています。だから質権に入れると、機械は文字どおり取り上げられます。抵当権にせよ質権にせよ、実行するには競売の手続を通す必要があります。時間もかかりますし、費用もかかります。この3つの穴、つまり動産に付けられない、使いながら担保にできない、実行が重い、この全部を一度に解決したのが、譲渡担保をはじめとする非典型担保です。

非典型担保の地図

非典型担保の一覧板。譲渡担保(あらかじめ所有権を移転)/売渡担保(同じく所有権移転型)/仮登記担保(弁済がなければ所有権移転の予約)/所有権留保(所有権を売主に留める)/代理受領(債権の受領を代理させる)。詳細は各回で扱う旨を添える。 図:非典型担保の一覧板

  • 譲渡担保(あらかじめ所有権を移転)/売渡担保(同じく所有権移転型)/仮登記担保(弁済がなければ所有権移転の予約)/所有権留保(所有権を売主に留める)/代理受領(債権の受領を代理させる)
  • 詳細は各回で扱う旨を添える

条文に規定のない担保、つまり非典型担保には、いくつかの種類があります。今日は地図として、名前と考え方だけ押さえておきましょう。整理すると3系統です。1つめは、契約の最初から所有権を移してしまう系統。譲渡担保と売渡担保です。2つめは、弁済がなければ所有権を移すという予約にしておく系統。仮登記担保です。3つめは、そもそも所有権を売主のもとに留めておく系統。所有権留保です。ほかに、代金の受け取りを代理させる代理受領という方法もあります。今日は、この譲渡担保だけを深く掘り下げます。ほかの種類は、それぞれ別の回で扱います。

譲渡担保とは何か、なぜ所有権移転の形を借りるのか

譲渡担保の意義の板。形式=所有権移転の契約、実質=担保としての機能。物権法定主義(175条)により新しい物権を自由に作れないため、既にある所有権移転の形を借りている。機能2つ=①非占有のまま動産に担保権を設定できる(動産抵当の実現)②競売を通さずに実行できる(私的実行の実現)。 図:譲渡担保の意義の板

  • 形式=所有権移転の契約、実質=担保としての機能
  • 物権法定主義(175条)により新しい物権を自由に作れないため、既にある所有権移転の形を借りている
  • 機能2つ=①非占有のまま動産に担保権を設定できる(動産抵当の実現)②競売を通さずに実行できる(私的実行の実現)

譲渡担保とは、権利移転という形式をとりながら、実質は担保としての機能を果たす制度です。所有権を移す形を借りるのには理由があります。

条文民法175条

民法第175条 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。

物権は、法律が定めた種類しか作れません。これを物権法定主義といいます。当事者どうしが新しい担保権を作ろうと合意しても、それだけでは物権にはなりません。そこで実務は、すでに法律が認めている所有権の移転という形を借りました。例えば、Bさんが機械の所有権をAさんに移す契約をすること自体は、普通の所有権移転にすぎません。その上で、弁済すれば所有権を戻すという約束を、当事者間の合意として付け加えます。この譲渡担保には、大きな機能が2つあります。1つは、占有を移さないまま、動産に担保権を設定できること。いわば、動産版の抵当権を実現しています。

もう1つは、裁判所の複雑な競売手続を経ずに、実行できることです。具体的には、Bさんが弁済できなければ、Aさんは競売を申し立てずに、機械を売却するなどして代金を回収できます。この私的実行という機能は、動産だけでなく、不動産の譲渡担保にも当てはまります。典型担保にあった3つの穴を、譲渡担保はまとめて埋めているわけです。

法的性質、形式で見るか実質で見るか

山場の図。工場でBが機械を使い続けている。所有権の矢印(transfer)はBからAへ。占有(機械そのものの位置)はBの工場に残ったまま。所有権の移転と占有が別方向であることを1枚で示す。 図:山場の図

  • 工場でBが機械を使い続けている
  • 所有権の矢印(transfer)はBからAへ
  • 占有(機械そのものの位置)はBの工場に残ったまま
  • 所有権の移転と占有が別方向であることを1枚で示す

ここからが、今日いちばんの山場です。Bさんが、A さんから融資を受けて、機械を譲渡担保に供しました。契約上、機械の所有権はAさんに移っています。でも機械そのものは、Bさんの工場に残ったまま、Bさんが毎日使い続けます。所有権はAさんに移ったのに、機械はBさんの手元にある。所有権の矢印と、機械そのものの場所が、別方向になっているんです。この状態を、法律上どう説明するか。ここで2つの考え方が対立します。例えば、友人同士の車の名義貸しを思い浮かべてください。車検証の名義だけをAさんに書き換えて、お金を借りる。車自体はBさんの家にあって、Bさんが毎日乗る。書類の上の名義と、実際に使っている人がズレているんです。

名義だけを移す点は虚偽表示に似ていますが、虚偽表示とは違います。虚偽表示は、本当は移す気が無いのに、移したふりをする契約でした。譲渡担保では、担保にするために所有権を移すことを、当事者が本気で合意しています。仮装ではないので、契約として有効です。契約書に書いてあるとおり、形式を額面どおり読む立場が、所有権的構成です。少なくとも対外的には、Aさんが所有権を取得すると考えます。

⭐ 論文で書く規範:譲渡担保の法的性質(所有権的構成の規範) 契約書上の所有権移転をそのまま重視する立場に立つと、譲渡担保権者は、少なくとも対外的にはその目的物の所有権を取得すると考える。当事者間の約束が書面上どう定めているかを、そのまま読み取る立場である。 (出どころ=対立型(所有権的構成の規範))

形式は方便であって、当事者の本当の目的、つまり実質を額面どおり読む立場です。譲渡担保の実質は担保権の設定にすぎないから、Aさんが取得するのは担保権にとどまり、所有権はBさんのもとに残る、と考えます。

⭐ 論文で書く規範:譲渡担保の法的性質(担保的構成の規範) 契約書の文言より、当事者が本当に望んだ結果を重視する立場に立つと、譲渡担保権者が手に入れるのは、目的物に対する担保権にとどまると考える。所有権の移転という形は、あくまで手段にすぎないとみる立場である。 (出どころ=対立型(担保的構成の規範))

名義を見るか、実際の使用者を見るか、車の例と同じですね。ただ、結局どちらが正しいんですか。そこが、この論点のいちばん大事なところです。判例は、基本的には所有権的構成をとる場面が多いのですが、それを一貫させているわけではありません。場面によっては、担保の実質を重視した処理もしています。理論的な立場は、実は1つに定まっていないんです。

同じ機械で4つの場面を追う

4場面の帰結を比較する対比表。縦軸=所有権的構成/担保的構成。横軸=①弁済期前にAが機械をDに売った②Bが勝手に機械をFに売った③弁済期前にAの一般債権者が機械を差し押さえた(弁済期後は結論が変わる)④Bが弁済した。各セルに結論を短く記載。詳細な確定的結論は別の回で扱う旨を注記。 図:4場面の帰結を比較する対比表

  • 縦軸=所有権的構成/担保的構成
  • 横軸=①弁済期前にAが機械をDに売った②Bが勝手に機械をFに売った③弁済期前にAの一般債権者が機械を差し押さえた(弁済期後は結論が変わる)④Bが弁済した
  • 各セルに結論を短く記載
  • 詳細な確定的結論は別の回で扱う旨を注記

では、同じ機械を使って、4つの場面を見てみましょう。具体的には、弁済期の前に、Aさんが機械を第三者Dさんに売ってしまった場合です。担保的構成では逆に、所有権はあくまでBさんに残っているので、Aさんが売ったのは他人のものということになり、Dさんは原則として所有権を取得できません。2つめ、今度はBさんが勝手に機械を第三者Fさんに売った場合です。所有権的構成では、所有権はもうAさんにあるので、Bさんが売ったのは他人のものになります。担保的構成だと逆に、Bさんは自分の権利を持っているので、それをFさんに売ること自体はできます。ただしFさんが手に入れるのは、Aさんの担保がくっついたままの機械です。3つめ、弁済期の前に、Aさんの一般債権者が、機械をAさんの財産として差し押さえてきた場合です。

これは、どちらの構成で考えるべきなんですか。ここは弁済期の前かどうかで結論が変わります。弁済期の前なら、担保の実質を重く見て考えるのが一般的です。Aさんが持っているのはあくまで担保権であって、機械そのものはAさんの一般財産ではないからです。Bさんが弁済して受け戻せば、差押えを退けることができます。弁済期を過ぎたあとの差押えになると話は別で、その先の細かい場合分けは、別の回で扱います。4つめ、Bさんが弁済した場合です。弁済すれば、どちらの構成でも機械はBさんの元に戻ります。ただし、説明が違います。所有権的構成では、いったんAさんに移っていた所有権が、弁済を条件にBさんへ戻ってきます。担保的構成では、所有権は最初からBさんにあったので、Aさんの担保権が消えるだけです。この4つの場面、確定的な結論のさらに細かい場合分けは、別の回で扱います。今日は、構成によって出発点の説明が変わる、ということをつかんでおいてください。

判例は場面ごとに使い分けている

判例の使い分けの板。判例は所有権的構成を基調としつつ、場面によって担保の実質を重視した処理も行っている。理論的な立場は1つに固定されていない。代表例:最判昭62・11・12=譲渡担保権者名義の不動産を、被担保債権弁済後に譲渡担保権者から譲り受けた者との関係は対抗問題(設定者は登記なしに対抗できない)/最判昭41・4・28=設定者の会社更生で、譲渡担保権者は取戻権を持たず更生担保権者として扱われる/最判昭57・9・28=設定者は目的物を不法占有する第三者に返還を請求できる/最判平7・11・10=譲渡担保権者は(確定的に所有権を取得するまでは)抵当権消滅請求(旧滌除)をできる第三取得者に当たらない。 図:判例の使い分けの板

  • 判例は所有権的構成を基調としつつ、場面によって担保の実質を重視した処理も行っている
  • 理論的な立場は1つに固定されていない
  • 代表例:最判昭62・11・12=譲渡担保権者名義の不動産を、被担保債権弁済後に譲渡担保権者から譲り受けた者との関係は対抗問題(設定者は登記なしに対抗できない)/最判昭41・4・28=設定者の会社更生で、譲渡担保権者は取戻権を持たず更生担保権者として扱われる/最判昭57・9・28=設定者は目的物を不法占有する第三者に返還を請求できる/最判平7・11・10=譲渡担保権者は(確定的に所有権を取得するまでは)抵当権消滅請求(旧滌除)をできる第三取得者に当たらない

実際の判例を見ても、この使い分けは裏づけられます。対外的な所有権の帰属が問題になった場面、例えば弁済後に譲渡担保権者から目的物を譲り受けた人との関係では、登記のような外から見える名義で優劣を決める対抗問題として扱われ、判例は所有権的構成を基調とした説示をしています。反対に、設定者が倒産した場面や、第三者が勝手に機械を持ち去った場面、抵当権の消滅を求める場面では、実質を重んじる判断が示されています。目安になるのは、その場面をどう性質決定するかです。例えば1つめの場面のDさんのように、外から取引に入ってくる人との関係では、登記のような外から見える名義で画一的に優劣を決める対抗問題として扱われやすいので、形式、つまり所有権的構成が前に出やすくなります。反対に3つめの場面のように、弁済期前の差押えで機械の値打ちが本当は誰のものかが問われると、Aさんの財産でないものまでAさんの一般債権者に取らせる理由は無いので、実質、つまり担保的構成が前に出ます。形式を通したほうが妥当な場面では形式を、実質を通したほうが妥当な場面では実質を選ぶ。条文の無い制度を、判例がこうやって場面ごとに形づくってきたんです。

だからこそ、後半で見る2025年の新しい法律で、この積み重ねがどう条文化されたかに意味が出てきます。その前に、設定したあとのBさんの立場と、対抗要件を確認しておきましょう。

機械を使い続けるBを守るもの

使用収益と侵害の板。設定者Bは目的物を使用収益できる(抵当権と同様)。第三者が機械を侵害したとき、Aも Bも物権的請求権を行使できる。 図:使用収益と侵害の板

  • 設定者Bは目的物を使用収益できる(抵当権と同様)
  • 第三者が機械を侵害したとき、Aも Bも物権的請求権を行使できる

譲渡担保に供したあとも、Bさんは、これまでどおり機械を使い続けられます。抵当権と同じ考え方です。その場合は、Aさんも、Bさんも、それぞれ物権的請求権を行使できます。名義を持つAさんだけでなく、実際に使っているBさんの側からも、返還を求めることができるんです。名義はAさんにあっても、Bさんには担保の負担付きの権利が残っていると見ているからで、ここでも実質が顔を出しています。

設定と対抗要件、178条の引渡し

178条の全文カード背景。動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。占有改定(183条)による引渡しも含まれる。 図:178条の全文カード背景

  • 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない
  • 占有改定(183条)による引渡しも含まれる

譲渡担保の設定は、AさんとBさんの契約で成立します。問題は対抗要件です。目的物が不動産なら177条の登記、動産なら178条の引渡しです。

条文民法178条

民法第178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

「引渡し」というと、機械を実際にAさんへ持っていかないといけないんですか。そこがポイントです。Bさんが機械を使い続けたいので、実際にはこの引渡しは、占有改定という方法で済ませます。

条文民法183条

民法第183条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

345条は、質権者に代わって設定者に占有させることを禁止していました。ところが178条の引渡しには、占有改定も含まれます。ここが、質権と譲渡担保の大きな違いです。だからこそ、機械を手放さずに担保に入れられるんです。不動産の場合は177条の登記です。現在の登記実務では、「譲渡担保」という登記原因での登記が認められています。

条文動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律3条1項

動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第3条第1項 法人が動産(当該動産につき倉荷証券、船荷証券又は複合運送証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法第百七十八条の引渡しがあったものとみなす。

もう1つ道があります。会社のような法人が動産を譲渡担保に供するときは、動産譲渡登記ファイルへ登記を済ませれば、それだけで178条の引渡しがあったものとして扱われます。占有改定と、この動産譲渡登記、どちらも対抗要件になり得る、ということを押さえておいてください。

即時取得の対象にもなる

即時取得の板。譲渡担保も所有権移転の形式をとる以上、無権利者が目的動産を譲渡担保に供した場合、192条の要件を満たせば即時取得の対象になる。 図:即時取得の板

もう1点だけ、短く確認しておきます。譲渡担保も所有権移転の形式をとる以上、無権利者が目的物を譲渡担保に供した場合には、以前の回で見た即時取得の対象になります。いえ、要件はそのままです。ただ、以前の回で見たとおり、占有改定だけでは即時取得はできません。占有改定では、外から見て何も変わらないからです。機械をBさんの工場に置いたままの、ふつうの譲渡担保では、Aさんは即時取得に頼れません。頼れるのは、実際に機械の引渡しを受けたような場合です。

2025年、判例の積み重ねが条文になった

新法の総論板。譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号)は2025年に成立し、公布も済んでいる。施行は、公布から2年半を超えない範囲で政令で定める日からで、まだこれから。 図:新法の総論板

  • 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号)は2025年に成立し、公布も済んでいる
  • 施行は、公布から2年半を超えない範囲で政令で定める日からで、まだこれから

ここまで見てきた譲渡担保は、条文が無いまま、判例の積み重ねで作られてきた制度でした。ところが2025年に、この積み重ねを条文にする新しい法律が成立しています。名前は、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律です。いえ、成立して公布はされていますが、施行はまだこれからです。公布から2年半を超えない範囲で、政令で定める日から施行されることになっています。施行前なら、今日ここまで見てきた判例の話は、もう古くなるんですか。そこが大事なところです。答えは、場面によります。ここから、法的性質にかかわる部分を中心に見ていきましょう。

新法は担保権としてはっきり書いた

新法3条・5条・6条の全文カード背景。3条=譲渡担保権者は他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有する(担保権として構成)。5条=実行手続によらなければ譲渡できない(丸取りの禁止)。6条=設定者は自分の権利を第三者に譲渡できる(処分権限)。 図:新法3条・5条・6条の全文カード背景

  • 3条=譲渡担保権者は他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有する(担保権として構成)
  • 5条=実行手続によらなければ譲渡できない(丸取りの禁止)
  • 6条=設定者は自分の権利を第三者に譲渡できる(処分権限)

まず、新法が譲渡担保をどう位置づけたかです。

条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律3条

譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第3条 譲渡担保権者は、譲渡担保財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

新法は、譲渡担保権者の権利を、担保権として書いています。さっきの対立で言えば、担保的構成に近い書き方です。

条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律5条

譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第5条 譲渡担保権者は、次節の規定による実行手続によらなければ、譲渡担保財産を譲渡することができない。

新法のもとでは、Aさんは決められた実行手続を踏まないかぎり、機械を勝手に売ることができません。これまで、所有権的構成なら自分の物の売買として有効になり得た場面が、条文で縛られたことになります。質権では、払えなければ質物をそのまま渡すという約束を、弱い立場の債務者を守るために禁止していました。譲渡担保でも、貸したお金より値打ちのある機械を丸ごと取られる危険は同じです。5条が実行手続を踏ませるのは、その危険を条文で抑えるためです。

条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律6条

譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第6条 譲渡担保権設定者は、その有する譲渡担保財産についての権利を第三者に譲渡することができる。

新法は、Bさんに自分の権利を処分する権限があることを、正面から認めています。ただし、Bさんが譲れるのは、自分が持っている権利だけです。Fさんが手に入れるのは、Aさんの譲渡担保がくっついたままの機械で、Bさんが弁済しなければ、Aさんは担保を実行できます。3つの条文を並べると、新法は全体として、担保的構成が示してきた答えに近い形で、条文を作ったと言えます。

それでも所有権的構成を学ぶ理由

適用範囲の板。第2条1号イ、抵当権の目的とすることができる財産(=不動産・地上権・永小作権。農業用動産・登録自動車は例外)は、譲渡担保契約の定義から除かれる。不動産の譲渡担保は新法の対象外で、施行後も判例法理のまま。 図:適用範囲の板

  • 第2条1号イ、抵当権の目的とすることができる財産(=不動産・地上権・永小作権。農業用動産・登録自動車は例外)は、譲渡担保契約の定義から除かれる
  • 不動産の譲渡担保は新法の対象外で、施行後も判例法理のまま

所有権的構成と担保的構成の対立は、新法ができても、なくなりません。新法には、大事な適用範囲の限定があります。不動産のように、そもそも抵当権を設定できる財産は、新法の譲渡担保契約の定義から外されているんです。不動産の譲渡担保は、施行後も、これまでどおり判例の積み重ねで説明されます。だから、今日見た所有権的構成と担保的構成の対立は、これからも生き続けます。新法がカバーするのは、主に動産や債権の譲渡担保だと考えてください。

施行前の契約はどうなるのか

経過措置の板。附則2条=新法は原則として施行日前に締結された譲渡担保契約にも適用する(ただし施行日前に生じた効力は妨げない)。 図:経過措置の板

新法が施行される前に、もう機械を譲渡担保に入れてしまっていたら、その契約はどうなるんですか。ここは誤解しやすいところです。新法は、原則として、施行日より前に結ばれた契約にも適用されます。施行日より前にすでに生じていた効力までは、さかのぼって覆されませんが、それ以外は新法のルールに乗ることになります。

占有改定は、実は弱い対抗要件になる

36条1項の設例図。Aは占有改定で対抗要件を備えた。その後Bが、別の債権者Eのためにも機械を譲渡担保に供し、Eは動産譲渡登記(特例法3条1項のみなし引渡し)で対抗要件を備えた。占有改定より後に対抗要件を備えたEが、Aに優先する。 図:36条1項の設例図

  • Aは占有改定で対抗要件を備えた
  • その後Bが、別の債権者Eのためにも機械を譲渡担保に供し、Eは動産譲渡登記(特例法3条1項のみなし引渡し)で対抗要件を備えた
  • 占有改定より後に対抗要件を備えたEが、Aに優先する

対抗要件についても、新法は新しいルールを持ち込みました。178条の引渡しに占有改定が含まれること自体は、これまでどおりです。ただ、占有改定で対抗要件を備えた動産譲渡担保権には、1つ弱点が付きます。具体的には、Aさんが占有改定で対抗要件を備えたとします。その後、Bさんが同じ機械を、別の債権者Eさんのためにも譲渡担保に供し、Eさんが動産譲渡登記で対抗要件を備えたとします。この場合、時間の順序ではAさんが先です。ところが新法のもとでは、占有改定以外の方法で対抗要件を備えたEさんが、占有改定にとどまるAさんに優先します。

理由は、占有改定が外から見えにくい方法だからです。占有改定以外の方法で確認した人を、より強く保護するという設計です。占有改定は、対抗要件にはなるけれど、いちばん弱い対抗要件になる、と理解しておいてください。

今日の骨格を振り返る

まとめ板。典型担保の穴3つ(369条・344条・345条・競売の重さ)→非典型担保の地図(3系統)→物権法定主義(175条)と譲渡担保の機能2つ(動産抵当の実現・私的実行の実現)→法的性質(所有権的構成/担保的構成、判例は場面ごとに使い分け)→対抗要件(178条・占有改定・動産譲渡登記)→新法(3条・5条・6条で担保権として構成、不動産は対象外、施行前契約にも原則適用、占有改定は弱い対抗要件)。 図:まとめ板

今日の内容を振り返ります。動産には抵当権を付けられず、質権では占有を取り上げられてしまう、この穴を埋めるのが譲渡担保でした。契約の形式は所有権移転ですが、実質は担保です。判例は所有権的構成を基調としながら、場面によっては担保の実質を重視する、使い分けをしていました。対抗要件は178条の引渡しで、占有改定も含まれます。ただし、不動産の譲渡担保には新法は及ばず、これまでどおり判例法理で説明されます。だからこそ、今日見た2つの構成の対立は、これからも学び続ける価値があります。冒頭のBさんの機械も、譲渡担保という、条文に無かった方法で、ちゃんと担保に入れられます。

参照条文

  • 民法369条1項
  • 民法175条
  • 民法178条
  • 民法183条
  • 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律3条1項
  • 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律3条
  • 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律5条
  • 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律6条

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