集合物譲渡担保
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第3章 担保物権 #148/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
倉庫の中身は毎日入れ替わる
図:冒頭の場面図
- 自転車卸売業者Bの第一倉庫
- 段ボールに入った自転車と部品が並ぶ
自転車の卸売業者Bさんが、銀行Aさんから融資を受けようとしています。担保にできそうなのは、倉庫にある自転車と部品の在庫です。でも、在庫って毎日出入りします。今日並んでいる自転車が、来月にはもう1台も残っていない、なんてこともあります。それでも、この倉庫の在庫を、全部まとめて担保に取ることはできるのか。今日はこの問題を見ていきます。中身がころころ変わる物を、まとめて1個の担保にできるんですか。物権では、対象がはっきり特定していないといけないんじゃなかったでしたか。それが今日の出発点です。それに加えて物権には、複数の物のまとまりの上に1個の物権は認めない、という一物一権主義の原則があります。この原則からすると、中身の入れ替わる在庫の集まりを担保にするのは、一見おかしく見えます。ところが実務では、この形の担保が日常的に使われています。名前を、集合物譲渡担保といいます。
1個の物として扱えるか
図:一物一権主義との緊張関係の板
- 物権の客体は1個の独立した物
- 複数の物のまとまり(集合物)の上に1個の物権は認めない(一物一権主義・#2-1)
- 在庫は入れ替わり続けるのに、まとめて1個の担保にできるか
まず、一物一権主義との関係です。物権の回で見たとおり、物権の対象は1個の独立した物で、複数の物のまとまり、つまり集合物の上に1個の物権は認めない、という原則がありました。この原則を素直に当てはめると、Bさんの倉庫にある100台の自転車を担保にするには、1台ごとに別々の譲渡担保を設定しないといけないように思えます。しかも在庫は毎日入れ替わりますから、そのたびに設定をやり直す必要が出てきます。そこで判例は、発想を変えました。そもそも、ある物が1個か複数かというのは、物理的にどう分かれているかではなく、取引の世界でどう扱われているか、つまり取引通念によって決まる問題だと考えるんです。
判例最判昭54・2・15
集合物論の規範 構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である。
この規範を最初に立てたのが、これから何度も出てくる判決です。中身が入れ替わる在庫であっても、種類・所在場所・量的範囲を指定するなどして範囲が特定されていれば、その集合物を丸ごと1個の物として譲渡担保の目的にできる、としました。
図:集合物論のイメージ板
- サッカーチームの比喩=所属選手(個々の自転車)は入れ替わるが「このチーム」という枠(集合物)は同一性を保つ
- 扱える例=「Bの第一倉庫にある自転車在庫」(枠が特定)
- 扱えない例=「Bが日本のどこかに持つ自転車全部」(枠が漠然・特定されない)
- 理由づけ=取引の実情に合致し法律構成が簡明
個々の自転車を1台ずつ担保に入れるのではなく、「Bさんの第一倉庫にある自転車在庫」という枠そのものを、1個の物として扱います。喩えるなら、サッカーチームのようなものです。所属選手は毎年入れ替わりますが、「このチーム」という枠自体は同一性を保ったまま存在し続けますよね。個々の自転車が選手にあたります。新しく仕入れた自転車は新加入の選手として自動的にチームの一員になり、売れて出ていった自転車は退団した選手としてチームの一員でなくなる。担保が及ぶのは「チームという枠」であって、個々の選手そのものではありません。この発想が分かると、後半で見る占有改定の話も、通常の営業の範囲の話も、全部つながります。
たとえば、「Bさんが日本のどこかに持っている自転車全部」のような、倉庫も指定せず、量もはっきりしない漠然とした集まりでは、枠そのものが定まっていないので、1個の物として扱う土台がありません。枠が特定されて初めて、集合物として扱えます。この特定の条件は、あとの節で詳しく見ます。理由づけとして判例が挙げているのは、取引通念に照らして集合物を1個の物と解するのが取引の実情に合致し、法律構成としても簡明になる、という点です。実務では在庫全体を担保に取りたいという需要が強くあります。物権の回で見た、例外を認める二つの条件でいえば、この需要が必要性にあたり、次の節で見る範囲の特定が、外から見える形にする公示の手段にあたります。1台ずつ個別に譲渡担保を設定するという構成をとる考え方も理論上はありえますが、判例・通説はこの構成を採っていません。
⭐ 論文で書く規範:集合物論(規範) 構成部分が変動する集合動産であっても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうる。 (出どころ=規範創出型(最判昭和54年2月15日))
図:昭54・2・15と昭62・11・10の関係を示す板
- 昭54・2・15=集合物論の規範を最初に定立
- 昭62・11・10=同じ規範を先例として引用したうえで、特定性・対抗要件・333条の3つの場面にあてはめた判決
今見た規範は、のちに出てくる別の判決でも、そのまま引用され再確認されています。今日はこの2つの判決を、繰り返し行き来することになります。規範を立てたのが先の判決、その規範を具体的な場面にあてはめて答えを出したのが、あとの判決、と押さえておいてください。
特定性の3要素
図:通し設例
- 自転車卸売業者Bが、銀行Aから融資を受けるにあたり、Bの第一倉庫内にある自転車及び自転車部品の在庫全部を目的として譲渡担保を設定し、占有改定がされた
- 以後この設例を使う
ここから、今日ずっと使う設例です。Bさんが、Aさんから融資を受けるにあたり、Bさんの第一倉庫の中にある自転車及び自転車部品の在庫全部を目的として譲渡担保を設定し、占有改定がされました。この3要素で範囲が特定されていることが、集合物譲渡担保が有効であるための条件になります。特定されていれば、一般債権者や取引に入ってくる第三者も、譲渡担保がどこまで及んでいるかを外から判断でき、不意打ちを受けません。
図:特定性の肯定例・否定例の対比板
- 肯定例(最判昭62・11・10)=「第一ないし第四倉庫内及び同敷地・ヤード内を保管場所とし、現にこの保管場所内に存在する普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品」
- 否定例(最判昭54・2・15)=倉庫会社に寄託中の乾燥ネギ44.303トンのうち28トンを譲渡担保に供した事案(数量だけを切り取り、区別する手立てがなかった)
特定性が認められた例を見てみましょう。倉庫にある普通棒鋼、異形棒鋼など一切の在庫商品を、保管場所である第一から第四までの倉庫の中と敷地の中という範囲で特定していた事案です。種類は「棒鋼等の在庫商品」、所在場所は「特定の倉庫」、量的範囲は「そこにある一切」です。この3つがそろっていれば、特定性は満たされます。「一切の在庫商品」というと、量を絞っていないような気もしますが、それでも量的範囲の指定になるんですか。なります。量的範囲というのは、個数や重さの上限を切ることだけを意味しません。「その倉庫にある全部」という形でも、量的範囲の指定として十分です。
ある会社が、倉庫会社に預けていた乾燥ネギ44トンあまりのうち、28トンを別の債権者に譲渡担保として提供した事案です。この事案では、寄託先の倉庫会社が発行した在庫証明書はあくまで在庫確認の趣旨で作られたにとどまり、実際の搬出もそのつど別の指示によっていたため、どの28トンが担保の対象なのかを、あらかじめ区別する手立てがありませんでした。数量を切り取っただけで、場所や印などで区別する手立てが無かった点が、否定の決め手になりました。単に量を数字で示すだけでは足りず、外から見てその範囲が分かるように特定されている必要があるんです。
図:通し設例へのあてはめ板
- 「Bの第一倉庫内に存する自転車及び自転車部品一切」=種類・所在場所・量的範囲がそろい特定性を満たす
- 仮に「Bが保有する自転車のうち300台」とだけ定めた場合=どの自転車が対象か外から分からず特定性を欠く
今日の設例に当てはめると、「Bさんの第一倉庫の中にある自転車及び自転車部品一切」であれば、所在場所・種類・量的範囲がそろい、特定性を満たします。仮に、「Bさんが保有する自転車のうち300台」とだけ定めていたら、どの自転車が対象か外から分からず、乾燥ネギ事件と同じ構造で特定性を欠くことになります。
占有改定1回で、後から入る在庫まで押さえられる理由
図:倉庫の枠に在庫が入って出ていく図
- 横軸=時間
- 設定時にB→Aへ占有改定(transfer)の矢印
- 流入した動産には「対抗力及ぶ」、流出した動産には「対抗力及ばない」の注記
ここで、もう1つの問題があります。在庫が毎日入れ替わるのに、対抗要件をどう維持するのか、という問題です。占有改定は、集合物のどの範囲に対して1回で足りるでしょうか。個々の在庫ごとに、そのつどやり直す必要があるでしょうか。さっきのチームの喩えでいうと、選手が入れ替わるたびに、契約書を書き直す必要があるのか、ということです。答えは、やり直す必要はありません。集合物という枠は1個の物ですから、その枠に対して占有改定を1回すれば、対抗要件は具備されます。
⭐ 論文で書く規範:集合物譲渡担保の対抗要件(規範) 設定時における集合物自体の占有改定によって対抗要件が具備された効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶ。 (出どころ=規範創出型(最判昭和62年11月10日))
新しく入ってきた自転車には、あらためて占有改定をしなくていいんですか。しなくていいんです。理由は、譲渡担保の目的物が「集合物という1個の物」だからです。新たに流入した自転車は、その集合物という枠の構成部分になる、というだけのことです。個別の動産が新しく担保に入るのではなく、もとから枠の一部として扱われます。だから、流入のたびに占有改定をやり直す必要がありません。倉庫から出ていった自転車は、集合物の構成部分でなくなる以上、譲渡担保の目的物からも当然に外れます。チームでいえば、退団した選手にもうチームの規約は及びません。流入には及ぶ、流出には及ばない、この非対称な扱いが、集合物論のいちばんの実益です。
具体的な自転車で確認したいのですが、たとえば来週Bさんが新しく仕入れる自転車Xと、今日お客さんに売れて店を出た自転車Yでは、扱いが違うんですか。違います。自転車Xは、倉庫という枠に入ってきた時点で、あらためて占有改定をしなくても、そのままAさんの譲渡担保の対象になります。自転車Yは、枠から出た時点で、もう対象から外れます。この「入ったら対象・出たら対象外」という境目が、集合物譲渡担保の基本形です。
通常の営業の範囲内の処分と、枠からの離脱
図:処分権限の板
- 集合物の内容は設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているから、設定者には通常の営業の範囲内で処分する権限が付与されている
- この権限内の処分の相手方は、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得できる
もう1つ、実務上とても大事な論点があります。Bさんは、担保に入れた在庫でも、毎日の商売として自転車を売り続けますよね。そこで判例は、設定者には通常の営業の範囲内で、集合物を構成する動産を処分する権限が付与されている、としています。
判例最判平18・7・20
通常の営業の範囲内の処分と、枠からの離脱 譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができると解するのが相当である。……譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。
この場合、買った客は、譲渡担保の負担を気にせず、確定的に自転車の所有権を取得できます。逆に、通常の営業の範囲を超える処分、例えば、Bさんが倒産直前に在庫の自転車を一括して同業のFさんにまとめ売りするような場合は、この処分権限に基づかないものですから、相手方は原則として所有権を取得できません。範囲を超えた一括売りでは、Fさんは担保付きの自転車を受け取るのでもなく、原則として自転車の所有権そのものを取得できません。ただし例外があります。
⭐ 論文で書く規範:通常の営業の範囲内の処分(規範) 譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができる。 (出どころ=規範創出型(最判平成18年7月20日))
⭐ 論文で書く規範:離脱による例外(規範) 通常の営業の範囲を超える処分であっても、譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして、当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合は別であり、その場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。 (出どころ=規範創出型(最判平成18年7月20日))
倉庫から現実に搬出されて、集合物という枠から離脱したと認められる自転車は、もう集合物の構成部分ではありません。構成部分でない以上、譲渡担保の効力もそもそも及んでいません。だから、範囲を超える処分であっても、その自転車が実際に枠の外に出ていれば、Fさんが所有権を取得できる余地が出てきます。これは新しい理屈ではなく、さっき見た「流出動産には対抗力が及ばない」という結論の応用です。
動産売買の先取特権との関係、333条の第三取得者
図:復習カード
- 333条=先取特権は、債務者がその目的である動産を第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使できない
- 第三取得者=目的動産の所有権を取得した者に限る
- 333条の「引渡し」には占有改定も含まれる(以前の回で確認済み)
動産売買の先取特権の回で、後回しにした場面を、ここで扱います。集合物譲渡担保が絡む、もう少し複雑な衝突の場面を思い出せますか?動産の先取特権には追及力がなく、333条の「引渡し」には占有改定も含まれる、と確認しましたね。ここでもう1人、登場人物を増やします。自転車部品を卸すGさんが、Bさんに未払いのままタイヤを売り渡し、そのタイヤがBさんの第一倉庫、つまりAさんの集合物譲渡担保の対象範囲に搬入されたとします。
図:G・B・Aの三者図
- GがBにタイヤを売り渡した(引渡し・代金未払い)
- BはAのために集合物全体を占有改定済み
- 搬入されたタイヤにもAの譲渡担保の効力が及ぶ
- Gの動産売買先取特権(311条5号・321条)は行使できるか
タイヤは、Gさんが売った先取特権付きの動産ですよね。それなのに、Aさんの譲渡担保の対象にもなってしまうんですか。そこが、今日いちばんの山場です。さっき見た対抗要件の規範を思い出してください。集合物への流入があった動産には、設定時の占有改定の効力が及びます。このタイヤも、倉庫に搬入された時点で、Aさんの集合物の構成部分になります。すると、Gさんの先取特権とAさんの譲渡担保が、同じタイヤの上でぶつかります。以前確認したとおり、第三取得者とは、目的動産の所有権を取得した人に限られました。たとえば、Aさんがまだ占有改定を受けていない段階なら、Aさんはまだ引渡しを受けていないので、そもそもこの333条の土俵にすら乗りません。占有改定を受けて初めて、この論点が問題になります。この論点は、譲渡担保の性質の回で見た、所有権的構成と担保的構成という2つの立場の対立の応用問題になります。所有権的構成は、形式どおりAさんが所有権を取得すると見る立場、担保的構成は、Aさんが取得するのは担保権だけで、所有権はBさんに残ると見る立場でした。
⭐ 論文で書く規範:333条第三取得者論点(所有権的構成の帰結) 所有権的構成を前提とすれば、譲渡担保権者は目的動産の譲受人にあたるから、333条の「第三取得者」にあたる。占有改定による引渡しも333条の「引渡し」に含まれるから、Gの先取特権は行使できなくなる。 (出どころ=対立型(所有権的構成からの帰結))
所有権的構成に立てば、Aさんは目的動産の譲受人、つまり買主にあたりますから、333条の「第三取得者」に該当します。そして、333条の「引渡し」には占有改定も含まれることは以前確認済みですから、占有改定によってAさんはタイヤの引渡しを受けたことになります。そうすると、333条によって、Gさんの先取特権はもう行使できなくなります。判例も、このように考えます。
判例最判昭62・11・10
333条と占有改定の効力 動産売買の先取特権の存在する動産が右譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となつた場合においては、債権者は、右動産についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が右先取特権に基づいて動産競売の申立をしたときは、特段の事情のない限り、民法三三三条所定の第三取得者に該当するものとして、訴えをもつて、右動産競売の不許を求めることができるものというべきである。
⭐ 論文で書く規範:333条と占有改定の効力(判例規範) 動産売買の先取特権の存在する動産が譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となった場合、債権者は当該動産についても引渡しを受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、当該先取特権者が動産競売の申立てをしたときは、特段の事情のない限り、333条所定の第三取得者に該当するものとして、動産競売の不許を求めることができる。 (出どころ=規範創出型(最判昭和62年11月10日))
担保的構成に立つと、譲渡担保権者は目的動産の譲受人、つまり買主ではないと考えますから、Aさんは「第三取得者」にあたらず、333条は適用されません。ただし、この場合はGさんの先取特権が丸ごと残るわけではなく、残存する先取特権と集合物譲渡担保との優劣が、別のルールで問題になります。2つの見解があります。1つは、動産質権にいちばん近いとして334条を類推する見解。もう1つは、動産抵当にいちばん近いとして、自動車抵当法のような特別法に照らし、330条1項の第1順位の動産先取特権と同順位とする見解です。いずれの見解でも、結論としては譲渡担保が優先します。
先取特権の回で見たとおり、334条は動産質権者を、330条1項の第1順位の先取特権者と同じに扱います。一方、動産売買の先取特権は第3順位でした。どちらの見解でも譲渡担保は第1順位の側に立つので、第3順位のGさんより先になるんです。理由づけの経路が違うだけで、結論は同じです。この333条の第三取得者論点は、論文でも問われうる論点です。
債権譲渡担保・集合債権譲渡担保
図:債権譲渡担保の板
- 動産に限らず、債権も譲渡担保に供することができる(大判昭和5年10月8日)
- 対抗要件は、動産の占有改定ではなく、債権譲渡の対抗要件(467条)になる
- 法人が指名債権を譲渡担保に供する場合は、動産債権譲渡特例法4条1項により、債権譲渡登記でも467条2項の確定日付ある通知があったものとみなされる
ここまでは動産の話でしたが、担保に入れられるのは動産だけではありません。売掛金のような債権も、譲渡担保の形で担保に差し出せます。判例も戦前からこれを認めてきました。いえ、対象が債権に変わると、対抗要件の枠組みも、動産の占有改定から、債権譲渡の対抗要件に切り替わります。467条の世界です。法人が債権を譲渡担保に供する場合には、動産債権譲渡特例法4条1項により、債権譲渡登記ファイルへの登記で、467条2項の確定日付のある通知があったものとみなされる道もあります。できます。たとえばBさんが、取引先の自転車店に卸した代金を受け取る権利、つまり売掛金を、今月の分から来年の分までまとめて担保に入れる形です。集合債権譲渡担保といって、個別の債権だけでなく、将来にわたって発生する複数の債権をまとめて譲渡担保に供することも認められています。対抗要件は、個別の債権譲渡担保と同じです。467条や将来債権譲渡の詳しい理屈は、債権総論のシリーズで扱います。今日は、中身が入れ替わる集まりを、範囲を決めてまとめて担保にする、という骨組みは倉庫の在庫と同じだ、という接続だけをつかんでおいてください。
2025年、この積み重ねが条文になった
図:新法総論板
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号)は未施行
- 不動産の譲渡担保は新法の対象外(以前の回で確定済み)だが、集合動産譲渡担保は動産のみを対象とするので、まるごと新法の射程に入る
ここまで見てきた集合物譲渡担保のルールは、全部、判例の積み重ねでできていました。2025年に成立した新しい法律は、このルールを条文にしています。以前の回で確認したとおり、不動産の譲渡担保は新法の対象外でしたが、集合動産譲渡担保は動産だけを対象にする制度なので、まるごと新法の射程に入ります。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律附則2条
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律附則第2条 この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に締結された譲渡担保契約及び所有権留保契約についても適用する。ただし、施行日前に生じた効力を妨げない。
すでにある集合物譲渡担保契約にも、原則として新法が適用されます。では、条文を1つずつ見ていきましょう。
図:40条・41条の対応板
- 40条=集合物論を明文化
- 41条1項=対抗要件(占有改定1回で流入動産まで及ぶこと)を明文化
- 判例の枠組みと結論が一致する
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律40条
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第40条 動産譲渡担保契約は、次に掲げる事項を指定することにより、将来において属する動産を含むものとして定められた範囲(以下「動産特定範囲」という。)によって特定された動産(以下「特定範囲所属動産」という。)を、一体として、その目的とすることができる。 一 譲渡担保動産の種類 二 譲渡担保動産の所在場所その他の事項
種類・所在場所を指定して特定した範囲を、「動産特定範囲」と呼び、その範囲に属する動産を「特定範囲所属動産」と呼びます。判例が作ってきた集合物論と、特定性の3要素を、そのまま明文で認めた条文です。「集合物」という判例の言葉が、「動産特定範囲」という新法の言葉に置き換わった、とイメージしてください。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律41条1項
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第41条第1項 特定範囲所属動産を一体として目的とする動産譲渡担保契約(以下「集合動産譲渡担保契約」という。)に基づく動産譲渡担保権(以下「集合動産譲渡担保権」という。)を有する者(以下「集合動産譲渡担保権者」という。)は、動産特定範囲に属する動産の全部の引渡しを受けたときは、当該動産特定範囲に将来において属する動産(次項において「特定範囲加入動産」という。)についても、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有することを第三者に対抗することができる。
動産特定範囲全部の引渡し、つまり集合物全体の占有改定を受ければ、後から加入してくる動産、条文でいう「特定範囲加入動産」にも対抗できます。判例の結論が、そのまま明文化されています。40条と41条については、判例の枠組みと新法の結論はずれません。
図:42条の対比板
- 判例の基準=通常の営業の範囲内かどうか(客観基準)
- 新法42条の基準=設定者が譲渡担保権者を害することを知っていたかどうか(主観・害意基準)
- 原則は処分できる、というデフォルトが逆転している
ここからは、判例と新法で基準がずれる条文です。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律42条1項
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第42条第1項 集合動産譲渡担保契約における動産譲渡担保権設定者(以下「集合動産譲渡担保権設定者」という。)は、動産特定範囲に属する動産の処分をすることができる。ただし、集合動産譲渡担保権設定者が集合動産譲渡担保権者を害することを知っていたときは、この限りでない。
判例の基準は「通常の営業の範囲内かどうか」という客観的な基準でした。ところが新法42条は、設定者が譲渡担保権者を害することを知っていたかどうかという、設定者の主観、いわば害意を基準にしています。判例では、範囲を超える処分は原則として所有権を取得できませんでした。新法では逆に、設定者は原則として処分でき、害意があった場合だけ例外的に扱われます。デフォルトが逆転しているんです。さらに、42条には3項があって、設定者が害意で処分した場合や、契約で決めた権限を超えて処分した場合でも、買主が即時取得によって保護される要件を、192条の「善意であり、かつ過失がない」から「善意である」だけに緩めています。買主の保護を、より厚くする方向です。
買う側から見ると、Bさんの処分が通常の営業の範囲内かどうかを見極めなくても、Bさんの害意を知らなければ保護される、ということです。さっきのFさんへの一括売りでいえば、判例では「通常の営業の範囲を超えるか」を見ましたが、新法では「BさんがAさんを害すると知っていたか」を見ることになります。
図:43条・44条・45条のまとめ板
- 43条=設定者は正当な理由がある場合を除き、動産の補充等によって特定範囲所属動産の価値を、譲渡担保権者を害しないと認められる範囲を超えて減少させないよう維持する義務を負う
- 44条=43条の義務を履行できると認められる間は、通常の売却等で設定者が受けるべき金銭に物上代位できない
- 45条=動産を動産特定範囲に属させる行為は担保の供与とみなされ、424条の3(詐害行為取消しの特則)が適用される
42条に関連して、新法は3つの条文を追加しています。43条は、設定者に、在庫の補充などによって集合物の価値を維持する義務を課しています。44条は、この43条の義務を設定者が履行できると認められる間は、譲渡担保権者は通常の売却で設定者が受け取る金銭に物上代位できない、としています。在庫を補充して営業を続けている限り、売れた代金にまで担保が追いかけてこない、という形です。45条は少し毛色が違って、動産を集合物に加える行為自体が担保の供与とみなされ、424条の3、つまり既存の債務についての担保の供与に関する詐害行為取消しの特則が適用される、というものです。こちらは、詐害行為取消しの仕組みそのものを前提にする条文なので、今日は名前だけ押さえておいてください。
図:34条の板
- 同一の動産について動産譲渡担保権と先取特権とが競合する場合、動産譲渡担保権者は330条の規定による第1順位の先取特権者と同一の権利を有する
- 333条の第三取得者論点を経由しない
最後に、さっき山場だった333条の論点に対応する条文です。
条文譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律34条1項
譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律第34条第1項 同一の動産について動産譲渡担保権と先取特権とが競合する場合には、動産譲渡担保権者は、民法第三百三十条の規定による第一順位の先取特権者と同一の権利を有する。
34条は、Aさんが333条の「第三取得者」にあたるかどうかを経由せず、いきなり動産譲渡担保権者を、民法330条1項の第1順位の先取特権者、つまり不動産賃貸や旅館宿泊、運輸の先取特権と同じ順位にあると位置づけます。担保的構成のもとで紹介した2つの見解は、どちらも最後は第1順位にたどり着いていました。34条は、その行き着く先を、類推を経ずに条文で直接書いたものです。動産譲渡担保に関する限り、新法のもとでは333条の議論は要らなくなります。所有権的構成か担保的構成かという対立を経由しなくても、34条を見れば答えが出ます。ただし結論そのものは、判例のもとでも新法のもとでも変わりません。どちらの経路でも、Aさんの譲渡担保がGさんの先取特権に優先します。理由づけの構造が変わるだけです。
今日の骨格を振り返る
図:まとめ板
今日の内容を振り返ります。中身が入れ替わる在庫でも、種類・所在場所・量的範囲で特定されていれば、集合物という1個の物として譲渡担保の目的にできる。これが出発点でした。そして、設定者には通常の営業の範囲内で処分する権限が認められていて、範囲を超えた処分でも、現実に枠から離脱していれば話が変わる。さらに、動産売買の先取特権が絡む場面では、所有権的構成でも担保的構成でも、結論としては譲渡担保が優先する。集合物論と占有改定の結論は、40条と41条でそのまま明文化されました。一方で、通常の営業の範囲内かどうかという客観基準は、42条で設定者の害意という主観基準に置き換わり、333条の第三取得者論点は、34条によって迂回されるようになりました。結論が同じところと、理由づけの経路が変わるところを、分けて押さえておいてください。冒頭のBさんの倉庫も、種類・所在場所・量的範囲で特定されている限り、中身が毎日入れ替わっても、丸ごと担保にできます。
参照条文
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律附則2条
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律40条
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律41条1項
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律42条1項
- 譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律34条1項