民法ゼロから民法#151

債権とは何か

印刷用PDFを開く

第4章 債権総論 #151/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

本が届かない、あなたは誰に言えるか

冒頭の板。ネット書店Bに本を注文したAが、届かない。Aが言える相手は誰か、という問いだけを残す板。 図:冒頭の板

  • ネット書店Bに本を注文したAが、届かない
  • Aが言える相手は誰か、という問いだけを残す板

Aさんが、ネット書店Bで本を1冊注文しました。代金はもう払ってあります。ところが、届く日を過ぎても本が届きません。本が届かないとき、Aさんが文句を言えるのは、注文したBだけです。たまたま同じ本を隣の書店で買った、見ず知らずの客には何も言えません。この「特定の相手にしか言えない」という輪郭こそが、今日から63本かけて扱う債権という権利の入り口です。

債権法の構造、共通ルールをもう一段くくり出す

債権法の構造の板。民法第3編「債権」。第1章 総則(債権総論・どの発生原因の債権にも共通するルール)。第2章 契約・第3章 事務管理・第4章 不当利得・第5章 不法行為(債権各論・発生原因ごとの個別ルール)。 図:債権法の構造の板

  • 民法第3編「債権」
  • 第1章 総則(債権総論・どの発生原因の債権にも共通するルール)
  • 第2章 契約・第3章 事務管理・第4章 不当利得・第5章 不法行為(債権各論・発生原因ごとの個別ルール)

民法には第3編「債権」という部屋があります。この部屋は、さらに2つに分かれています。第1章、総則です。ここが今日から入る債権総論で、契約から生まれた債権でも、事故から生まれた債権でも、どんな発生原因の債権にも共通するルールを置いてあります。残りの第2章から第5章、契約・事務管理・不当利得・不法行為は、債権各論と呼ばれます。こちらは発生原因ごとの個別ルールです。総則を先に置く作り方は、民法全体でも同じでした。民法全体の第1編総則が、財産法にも家族法にも共通するルールを先にくくり出していた、あの作り方です。今日から歩く債権法の中でも、もう一段同じことが繰り返されています。共通ルールを先に押さえておけば、あとの契約や不法行為を見るときに、いちいち同じ説明を繰り返さずに済みます。

第4章、63本の地図

第4章の地図。目的(#151〜154・債権の中身は何か、どんな種類があるか)→効力(#155〜164・履行されないとき何ができるか)→移転(#165〜173・債権債務を他人に渡せるか)→消滅(#174〜188・どうやって債権は終わるのか)→保全(#189〜201・債務者が財産を減らしたとき債権者は何ができるか)→多数当事者・保証(#202〜213・当事者が複数いたり保証人がいたりするとどうなるか)。各ブロックは問いだけ。 図:第4章の地図

  • 目的(#151〜154・債権の中身は何か、どんな種類があるか)→効力(#155〜164・履行されないとき何ができるか)→移転(#165〜173・債権債務を他人に渡せるか)→消滅(#174〜188・どうやって債権は終わるのか)→保全(#189〜201・債務者が財産を減らしたとき債権者は何ができるか)→多数当事者・保証(#202〜213・当事者が複数いたり保証人がいたりするとどうなるか)
  • 各ブロックは問いだけ

この債権総論という部屋の中を、6つのブロックに分けて歩きます。まず、目的。債権の中身は何か、どんな種類があるのか。次に、効力。約束どおり履行されなかったとき、債権者は何ができるのか。そのあと、移転。債権や債務を、他人に渡すことはできるのか。消滅。どうやって債権は終わるのか。保全。債務者が財産を減らそうとしたとき、債権者は何ができるのか。最後に、多数当事者と保証。債権者や債務者が複数いるとき、保証人がいるときはどうなるのか。今日はこの6つの場所がどこにあるか、地図を頭に入れるところまでです。中身は、それぞれの場所に着いたときに、じっくり見ていきます。今日この場で扱うのは、最初の場所、目的の入り口だけです。

債権と債務の意義

定義の板。債権=特定の人(債権者)が特定の人(債務者)に対して特定の行為(給付)を請求できる権利。債務=その裏返し(給付をする義務)。 図:定義の板

  • 債権=特定の人(債権者)が特定の人(債務者)に対して特定の行為(給付)を請求できる権利
  • 債務=その裏返し(給付をする義務)

では、目的の入り口として、債権そのものを定義します。債権とは、特定の人である債権者が、他の特定の人である債務者に対して、特定の行為をすること、あるいはしないことを、請求できる権利です。この特定の行為のことを、給付と呼びます。債務者の側から見れば、その給付をする義務が債務です。同じ関係を、請求する側から見れば債権、義務を負う側から見れば債務と呼び分けているだけです。冒頭のAさんに戻ります。Aさんは、Bさんに対して、本を届けろと請求できる債権を持っています。Bさんは、Aさんに本を届ける債務を負っています。

物権とどう違うか、直接性

関係図。Aさん(債権者)からBさん(債務者)への矢印。Bさんの行為(届ける)を経由しないとAさんは本を得られないことを示す図。「Aさんは自分で取りに行けない」の一言。 図:関係図

  • Aさん(債権者)からBさん(債務者)への矢印
  • Bさんの行為(届ける)を経由しないとAさんは本を得られないことを示す図
  • 「Aさんは自分で取りに行けない」の一言

この債権を、物権の3つの性質と1つずつ比べていきます。覚えていますか。あのとき、物権の一番の性質は何でしたか。物そのものを直接支配する権利、でした。誰の行為も挟まらずに使える、という話でした。この性質を、直接性と呼びました。一方、債権はそうはいきません。Aさんが本を手に入れられるかどうかは、すべてBさんの行為にかかっています。Aさんが自分で倉庫から持ち出すことはできません。Aさんが持っているのは、Bさんに届けてもらう約束だけです。Bさんが届けるという行為をしない限り、Aさんは本を手に入れられません。物権のように、他人を介さず物へ直接手を伸ばせる性質を、債権は持っていません。

物権とどう違うか、排他性

関係図。A->Bの矢印とC->Bの矢印が並んで成立している。同じタイトルの本を2人が同時に注文している場面。 図:関係図

  • A->Bの矢印とC->Bの矢印が並んで成立している
  • 同じタイトルの本を2人が同時に注文している場面

次の性質です。思い出してみましょう。同じ物に、同じ内容の物権が2つ成り立たない。この性質を、物権の回で何と呼びましたか?債権は逆です。同じ内容の債権が、同時に2つ以上成立しても、何も矛盾しません。同じタイトルの本を、Aさんも、別の客Cさんも、同時にBさんへ注文したとします。Bさんの手元に在庫が1冊しかなくても、Aさんの債権とCさんの債権は、どちらも有効に成立します。債権は「これから届けてもらう約束」であって、物そのものではありません。約束を交わすことと、実際に1冊しかない在庫をどちらに渡すかは、別の問題です。約束の段階では、何本でも重ねて成立します。債権には、物権にあった排他性がありません。

在庫の1冊をAさんとCさんのどちらに先に渡すかは、Bさんが決めることです。渡せなかった側との約束も、消えません。同じタイトルの本なら、Bさんは別の1冊を仕入れて届けなければなりません。物権と債権の回で見た、1台しかないカメラとは、ここが違います。この排他性が無いことから、もう1つだけ触れておきます。Bさんが倒産して、AさんとCさんへの約束を両方とも果たせなくなったとき、どちらの債権が優先するかというと、先に注文したかどうかでは決まりません。物を押さえているわけではないので、割り込む根拠が無いからです。担保の最初の回で見た、債権者平等の原則です。分配の中身は、債務者の財産を確保する場面で正面から扱います。

物権とどう違うか、絶対性

関係図。A(債権者)->B(債務者)の矢印1本。他の客への矢印は無い。「Aが言えるのはBだけ」の一言。 図:関係図

  • A(債権者)->B(債務者)の矢印1本
  • 他の客への矢印は無い
  • 「Aが言えるのはBだけ」の一言

もう1つの性質です。物権の回で、誰に対しても主張できる、という性質がありましたね。一方、Aさんが持っている債権は、Bさんに対してしか主張できません。これを相対性と呼びます。Aさんの債権は、Bさんとの関係でしか意味を持ちません。物権にあった絶対性を、債権は持っていません。直接手を伸ばせない、同じ内容で何本も重ねられる、誰に対しても主張できるわけではない。3つとも、債権がまだ実現していない約束だ、というところから出てきます。

給付の要件、金銭に見積もれなくてもよい

給付の要件の板。①適法であること②確定していること、または将来確定できること。関門に立たないもの=実現可能かどうか(412条の2第2項)・金銭に見積もれるか(399条)。 図:給付の要件の板

  • ①適法であること②確定していること、または将来確定できること
  • 関門に立たないもの=実現可能かどうか(412条の2第2項)・金銭に見積もれるか(399条)

債権の中身、給付には、法律行為の回で見た関門がそのまま掛かります。条文がはっきり禁じている約束も、条文は禁じていないのに社会が許さない約束も、通りません。違法な薬物を届ける約束には、債権は生まれません。そして、何をすればいいのかが確定できること。あの回の「近いうちに、いい感じの物件を紹介する」のように、調べても中身が出てこない約束では足りません。逆に、あの回で関門に立たなかったものが2つありました。実現できるかどうかと、お金に見積もれるかどうかです。実は、金銭に見積もれない給付でも、債権の目的になれます。

条文民法399条

民法第399条 債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる。

謝罪広告を出してもらう、演奏をしてもらう。こうした、お金に換算しにくい給付でも、399条によって債権の目的にできます。

契約した時点で不能でも、契約は無効にならない

一言板。契約成立時にすでに不能だった場合(原始的不能)でも契約自体は無効にならず、415条の債務不履行として扱われる(412条の2第2項)。深掘りは別の回。 図:一言板

  • 契約成立時にすでに不能だった場合(原始的不能)でも契約自体は無効にならず、415条の債務不履行として扱われる(412条の2第2項)
  • 深掘りは別の回

契約した時点で目的物がもう無かったら契約は無効になる。かつてはそう考えられていましたが、今の条文はそうなっていません。法律行為の回で、焼け落ちた倉庫の売買として見た条文です。

条文民法412条の2第2項

民法第412条の2第2項 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

契約を結んだ時点で、すでにその給付が不可能だったとしても、それだけで契約が無効になるわけではありません。この点は、論点として問題になりうる場面ですが、深掘りは別の回でします。無い本を届けろとは言えませんが、代わりに損害の賠償を求める道は残ります。今日は、契約が当然に無効になるわけではない、という結論だけ持ち帰ってください。

債権の種類の地図

債務の分類の板。作為債務/不作為債務。与える債務(物を引き渡す)/なす債務(それ以外の行為)。結果債務(結果の実現自体が内容)/手段債務(結果に向けた注意・努力が内容)。 図:債務の分類の板

  • 作為債務/不作為債務
  • 与える債務(物を引き渡す)/なす債務(それ以外の行為)
  • 結果債務(結果の実現自体が内容)/手段債務(結果に向けた注意・努力が内容)

最後に、これから先の回で何度も出てくる、債務の分類の軸を見ておきます。まず、何かをする作為債務と、何かをしない不作為債務。次に、物を引き渡す与える債務と、それ以外の行為をするなす債務。そして、結果そのものの実現を約束する結果債務と、結果に向けて注意や努力を尽くすことを約束する手段債務です。たとえば、Bさんが本を届けるのは、作為であり、与える債務です。本が届かなければ、どれだけ頑張っても約束を果たしたことにはなりません。こういう債務が結果債務です。演奏をしてもらう約束は、なす債務にあたります。これに対して、医者は、病気が治ることまでは約束できません。約束しているのは、治すために必要な注意と努力を尽くすことです。こういう債務が手段債務です。

ただ、なぜ分けるのかだけ言っておきます。結果債務なら、結果が出なければ約束を破ったことになります。手段債務なら、注意と努力を尽くしていれば、治らなくても約束を破ったことにはなりません。約束を破ったといえるかどうかの判断は、あとの回で扱います。今日は、この先どんな軸で債務が分類されるのか、見出しだけ持ち帰ってください。

持参債務が原則

関係図。持参債務=債務者Bが債権者Aの住所へ持っていく矢印。取立債務=債権者Aが債務者Bの住所へ取りに行く矢印。2枚を対比。 図:関係図

  • 持参債務=債務者Bが債権者Aの住所へ持っていく矢印
  • 取立債務=債権者Aが債務者Bの住所へ取りに行く矢印
  • 2枚を対比

もう1つ、給付の場所による分類です。債務者が債権者の住所まで持っていく持参債務。債権者が債務者の住所まで取りに行く取立債務。荷物を送る形をとる送付債務もあります。

条文民法484条1項

民法第484条第1項 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。

484条1項が答えです。別段の意思表示がなければ、特定物の引渡しは、債権が発生した時にその物があった場所で行います。それ以外の弁済は、債権者の今の住所で行います。何も決めていなければ、債務者が債権者のところまで持っていく、持参債務が原則になります。冒頭のBさんも、特に合意がなければ、Aさんの住所まで本を届ける義務を負います。

今日の地図(保存版)

第4章の地図の再掲板と、今日確定した3点(債権の定義・3つの性質・持参債務の原則)の一覧板。

今日の中身を振り返ります。債権とは、特定の人が特定の人に対して特定の行為を請求できる権利でした。物権と比べたとき、物権にある直接性・排他性・絶対性を、債権はどれも持っていませんでした。給付は、金銭に見積もれなくても399条によって目的になれます。そして、給付の場所は、何も決めていなければ484条1項により持参債務が原則でした。今日確定したのは、最初の場所である目的の入り口だけです。ここから先、1つずつ場所を進んでいきます。

参照条文

  • 民法399条
  • 民法412条の2第2項
  • 民法484条1項

民法 全体ロードマップへ →