デッドロックの解消と預貯金債権の例外
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第4章 債権総論 #167/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
誰にも払われないお金。前回の続き
図:冒頭の3者図
- A=卸会社が、B=小売チェーンへの売掛金200万円を、C=金融業者に売った
- Cは、AB間の契約書に「譲渡しない」条項があると知っていた
- 期日が来て、BはCに「払わない」
- Aは「もう債権者ではない」と取り立てない
- BもAに払いに行かない
- 問い=200万円は宙に浮くのか
今日は、その続きです。設例は、前回と同じです。卸会社が、小売チェーンへの200万円の売掛金を、金融業者に売りました。金融業者は、取引基本契約書に、譲渡しない、という条項があると知っていました。そして、期日が来ました。金融業者は、小売チェーンに、200万円を払ってほしいと言います。小売チェーンは、断ります。あなたは条項を知って買ったのだから、払わない、と言うのです。卸会社は、どうでしょう。債権はもう売ったので、うちは債権者ではない、と言って、取り立てません。小売チェーンも、卸会社に払いに行きません。
今日の問いは、2つです。1つめ。この状態は、どうして起きるのか。2つめ。金融業者は、どうすれば払ってもらえるのか。さらに、預金の債権には、これとは全く別の扱いがあります。答えは、最後に出します。
行き詰まり、つまり閉塞状態はなぜ起きるのか
図:前回の板
- この回に必要な結論だけ
- 特約があっても譲渡は有効(466条2項)
- 特約を知っていた(重大な過失で知らなかった)譲受人に対して、債務者は履行を拒める
- かつ、譲渡人への弁済をその譲受人に対抗できる(同条3項)
前回の結論を、1問で思い出しましょう。特約を知っている譲受人に対して、債務者は何ができるのでしたか?払うのを断れます。それと、譲渡人に払って、その弁済を譲受人に言うこともできます。ここで、前回、行き詰まりと呼んだ状態に、名前をつけます。閉塞状態、英語でデッドロックとも呼びます。お互いが動けず、出口がない状態、という意味です。
図:行き詰まりの3者図
- C(金融業者)→B(小売チェーン)=請求しても断られる(3項前段)
- A(卸会社)→B=請求できない(譲渡は有効=Aはもう債権者でない)
- B→A=払ってもよいが、払うかどうかはBの任意
- 結果=誰もBに払わせられない
誰が、誰に、何を言えるのか。3者で、順に見ます。まず、金融業者が小売チェーンに請求する。3項で、断られます。次に、卸会社が小売チェーンに請求する。できません。2項で譲渡は有効なので、卸会社は、もう債権者ではないからです。では、小売チェーンが、卸会社に払うのはどうか。払えば、金融業者に、債務は消えたと言えます。でも、それは小売チェーンが、払ってもよい、というだけです。払うかどうかは、小売チェーンの自由です。債務者を守る仕組みが、そのまま、居座る力にもなってしまう。これが、行き詰まりです。そこで、条文は、出口を用意しました。それが、4項です。
行き詰まりの出口。466条4項の催告
図:条文の読み方の準備
- 4項が出てくる前に、3項の「第三者」=悪意・重過失の譲受人その他の第三者
- 4項は、この第三者が出口を使う条文
条文です。まず、読んでください。ここでは、誰が催告をするのかを、探してみてください。
条文民法466条4項
民法第466条 4 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。
長い条文ですので、4つに分けます。成立要件です。条文の番号どおりに、読めば出てきます。覚え込むものではありません。
図:4項の要件
- 条文どおり
- ①前項の第三者=悪意・重過失の譲受人その他の第三者②債務者が債務を履行しない③その第三者が、債務者に、相当の期間を定めて、譲渡人への履行を催告する④期間内に履行がない。効果=3項は適用しない=債務者は、もう履行を断れない。
1つめ。催告をするのは、3項に出てきた第三者です。つまり、特約を知っていた、または重大な過失で知らなかった譲受人です。今日の設例なら、金融業者です。条項を知って買ったので、この第三者に当たります。重大な過失もなければ、3項がそもそも働きません。小売チェーンは断れないので、催告をしなくても、最初から直接請求できます。4項は、断られる側のための出口です。2つめ。債務者が、債務を履行していない。期日が過ぎても、小売チェーンが、誰にも払っていない。今の状態が、これです。3つめ。この第三者が、債務者に、相当の期間を定めて、譲渡人への履行を催告する。例えば、金融業者が、小売チェーンに、2週間以内に、卸会社へ200万円を払ってください、と求めます。4つめ。その期間内に、履行がない。2週間が過ぎても、小売チェーンが払わない、ということです。
譲渡人への履行、ですか。譲受人に払ってください、ではないんですか。そこが、最もよくある取り違えです。金融業者が、小売チェーンに求めるのは、200万円を、卸会社に払ってください、です。
図:取り違えやすい3点
- 催告するのは=譲受人(譲渡人ではない)
- 催告の相手は=債務者(譲渡人ではない)
- 求める中身=譲渡人への履行(譲受人への履行ではない)
整理します。催告するのは、譲受人です。相手は、債務者です。求めるのは、譲渡人に払うことです。この3つを、短答で、入れ替えて出されます。金融業者が、うちに払ってください、と催告したら、どうなりますか。それは、4項の催告になりません。何日待っても、3項は効いたままで、小売チェーンは断れます。出口が開くのは、卸会社に払ってください、という催告だけです。特約の趣旨を考えてください。債務者は、払う相手を決めておきたかった。特約を知っていた、悪意の譲受人には払わなくてよい、という守りは、そのためでした。その守りは残したうえで、債務者に、特約の趣旨どおり、譲渡人に払う機会を、一度与える。それでも払わないなら、守りを外す。そういう組み立てだと、考えると分かりやすくなります。返事をしない相手に、期限を切って、最後のお願いを出す。そんなイメージです。
図:4項の流れ
- ①C(譲受人)がBに、相当の期間を定めて、Aへの履行を催告→②期間内にBがAに払った=その弁済でBの債務は消える(Cに言える)→③期間内にBが払わない=3項は適用しない=BはCへの支払いを、もう断れない
- 以後CはBに直接請求できる
流れを、見ましょう。金融業者が、期間を定めて、小売チェーンに、卸会社へ払うよう催告します。期間内に、小売チェーンが卸会社に払ったら、どうなるか。3項が効いたままなので、その弁済で、債務は消えます。小売チェーンは、金融業者に、それを言えます。金融業者は、卸会社から、受け取った200万円を渡してもらいます。債権は、もう金融業者に売られているので、卸会社が持っていてよいお金ではないからです。期間内に払わなかったら、3項は適用されなくなります。小売チェーンは、もう、金融業者への支払いを断れません。金融業者が、小売チェーンに直接、請求できます。
払えば債務が消え、払わなければ、断れなくなります。居座りだけを、許さない形です。細かい点を、2つ。1つめ。4項によって適用されなくなるのは、3項そのものです。履行を拒む権限と、譲渡人への弁済を対抗する権限の、両方がなくなります。例えば、期間が過ぎたあとで、小売チェーンが、あわてて卸会社に払ったとします。その弁済を、もう金融業者には言えません。金融業者に、あらためて払わなければなりません。2つめ。相当の期間は、条文が日数を決めていません。常識的に、払うのに足りる期間、と考えてください。金融業者は、期間を定めて、小売チェーンに、卸会社への履行を催告すればよいのです。問いです。4項の催告は、誰が、誰に、何を求めるのでしょうか?
譲受人が、債務者に、譲渡人への履行を、求めます。ここは、短答で、よく問われます。
預貯金債権だけは、扱いが逆になる
図:預貯金の設例
- 雑貨店の店主が、銀行に500万円の定期預金を持つ
- 預金規定に「譲渡・質入れ禁止」の特約がある
- 現金がほしくなり、取立て会社に預金債権を売った
- 取立て会社は規定の存在を知っていた
- 問い=この売買は、取立て会社との関係で効力があるか
設例を、変えます。雑貨店の店主が、銀行に、500万円の定期預金を持っています。預金の規定に、譲渡や質入れを禁止する、という特約があります。店主は、現金がほしくなり、この預金の債権を、取立て会社に売りました。取立て会社は、規定の存在を知っていました。銀行は、取立て会社に、払わなければならないでしょうか。まず、条文を読みます。
条文民法466条の5
民法第466条の5 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第四百六十六条第二項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。 2 前項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。
預貯金債権とは、条文のとおり、預金口座や貯金口座に係る、預金や貯金の債権です。口座に載っている預金の債権、と考えてください。1項の中心は、対抗することができる、です。誰が、誰に対抗できるのか。銀行が、悪意か重過失の譲受人に、特約を主張できる、ということです。前回の3項にも、対抗という言葉がありました。あちらは、譲渡人に払ったことを、譲受人に言える、という意味でした。今回は、特約そのものを、譲受人に言える。同じ対抗でも、言える中身が違います。銀行が、特約を持ち出して、あなたへの譲渡は認めない、と言える。だから、特約に反する譲渡が、その譲受人との関係では、効力を生じません。つまり、取立て会社は、債権者になれません。預金は、今も、店主のものです。一般の債権は、有効でした。譲受人が特約を知っていても、譲渡は有効で、債務者に、断る権限が付くだけでした。預貯金債権は、そこが決定的に違います。
図:一般の債権と預貯金債権の対照表
- 【特約に反する譲渡】一般=有効(466条2項)/預貯金=悪意・重過失の譲受人等との関係では効力を生じない(466条の5第1項)
- 【悪意・重過失の譲受人】一般=債権者になる
- 債務者は履行を断れ、譲渡人への弁済を対抗できる(3項)/預貯金=債権者になれない
- 債権者は店主(譲渡人)のまま
- 【善意無重過失の譲受人】一般=債権者・債務者は払う/預貯金=譲渡は有効・銀行は払う
対照表で、整理します。悪意か重過失の譲受人について。一般の債権は、譲渡は有効で、債権者になります。預貯金債権は、譲渡が効かず、債権者は店主のままです。一方、特約を知らず、知らないことに重大な過失もない譲受人なら、預貯金債権でも、譲渡は有効です。銀行は払います。預金だと、さっきの行き詰まりは、起きるんですか。起きません。取立て会社は、債権者になりません。債権者は店主のままなので、店主が払戻しを求めれば、銀行は店主に払います。誰も請求できない状態が、そもそも生まれないのです。4項の出口は、一般の債権のための仕組みです。
銀行は、大量の預金を、毎日、機械的に処理しています。払戻しのたびに、誰に払うのか、譲渡は有効なのかを、いちいち確かめていたら、業務が回りません。もし預金が、一般の債権と同じ扱いなら、取立て会社が債権者になります。銀行は、店主が窓口に来るたびに、この預金は売られていないか、買った人は特約を知っていたか、4項の催告は届いていないかを、確かめなければなりません。払戻しが滞れば、困るのは、預金者である、私たちの側でもあります。だから、悪意か重過失の譲受人には、譲渡自体を効かせない形で、銀行の運用を守りました。前回見たとおり、改正の前は、特約に反する譲渡は、無効でした。預金には、特約がついているのが一般的で、銀行は、口座の名義人を債権者として払ってきました。預貯金債権は、その扱いを、そのまま残した形です。
預金に特約があることは、広く知られています。少し注意すれば分かったのに、全く確認しなかった譲受人には、守りを外しません。ここは、3項と、同じ線引きです。ここは、条文に書いてあるとおりの効果です。覚えるのは、悪意か重過失の譲受人には効かない、という結論と、趣旨です。逐語で覚える規範ではありません。
銀行が承諾した場合
図:銀行の承諾
- 預貯金債権では譲渡が効かない→銀行が承諾すれば有効になる
- 型は前回と同じ
- 特約は債務者(銀行)を守るもの→守られる銀行が了解すれば、守る必要がない
- 事前の承諾=最初から有効
- 事後の承諾=譲渡の時にさかのぼって有効
- ただし承諾前の第三者の権利は害せない
銀行が、了解した場合を見ます。前回、一般の債権では、債務者が了解すれば、3項の守りを手放したことになる、と見ました。預貯金債権では、譲渡が、そもそも効きません。ここでの承諾は、効かなかった譲渡を、有効にする、という働きになります。形は、前回と同じです。特約は、銀行を守るためのもの。守られる銀行が了解すれば、守る必要はなくなります。まず、事前の承諾です。店主が、売る前に、銀行に、取立て会社に譲渡したい、と申し出て、銀行が承諾していた場合。悪意の取立て会社に対しても、譲渡は有効です。最初から、銀行は、守りを手放しているからです。次に、事後の承諾です。売った後で、銀行が承諾した場合は、前回見た考え方が、そのまま生きています。
図:事後の承諾と第三者の設例
- ①店主が、取立て会社(悪意)に預金を売る(銀行の承諾はまだ)=譲渡は効かない
- ②貸主が、店主への債権で、この預金を差し押さえる
- ③その後で、銀行が譲渡を承諾する=譲渡は、売った時にさかのぼって有効になる
- ただし、承諾の前に差し押さえた貸主の権利は害せない=取立て会社は、貸主に勝てない
設例です。店主が、取立て会社に預金を売りました。銀行は、まだ承諾していません。その後、店主にお金を貸していた貸主が、この預金を差し押さえました。そのあとで、銀行が、譲渡を承諾したとします。承諾すると、譲渡は、売った時にさかのぼって、有効になります。特約は、銀行を守るためのものです。守られる銀行が、あとから認めるなら、売った時から生かしてよい。前回見た、無権代理の追認と同じ形です。116条は、追認はさかのぼって効くが、それより前に権利を得た第三者を害することはできない、と定める条文です。ですが、貸主の差押えは、承諾の前に、すでに、済んでいます。前回見た判決で差し押さえたのは、国でした。国でも、この設例の貸主でも、承諾の前に差押えをした側が勝つ形は同じです。その、ただし書の考え方です。承諾の前に権利を得た人を、あとの承諾で、ひっくり返すのは酷だからです。ここは、論文で論点になりうる部分です。なお、一般の債権は、現行法では、譲渡が最初から有効なので、この考え方は要りません。預貯金債権では、いまも働きます。
この設例では、差し押さえた預金から、貸主が回収します。取立て会社への譲渡は、貸主に対しては、主張できないからです。では、次に、そもそも差押えは、特約があっても、できるのか。そこを見ます。
差押えには、特約を対抗できない
図:差押え
- 466条の5第2項=譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者には、1項は適用しない=差押債権者には特約を主張できない=差押えは有効
- 理由=私人の合意で、差押えできない財産をつくれない
2項です。先ほどの条文の、後半です。1項は、預貯金債権に対する強制執行をした、差押債権者には適用しない、と書いてあります。つまり、特約があっても、差押えは有効です。銀行は、差押債権者に、特約を主張できません。特約で譲渡を止められても、差押えまでは止められません。理由は、私人の約束だけで、差押えのできない財産を、つくれてしまうと困るからです。借金を負った人が、預金に特約をつけて、強制執行を逃れる。それを防ぎます。さっきの貸主も、特約を知っていたかどうかに関係なく、店主の預金を差し押さえられます。条文には、差押債権者が特約を知っていたかどうか、という要件はありません。知っていても、差押えは有効です。問いです。預貯金債権に、譲渡制限の特約があるとき、差押債権者は、特約を主張されて、差押えを断られるでしょうか?
違います。差押債権者には、特約を主張できません。差押えは、有効です。ここは、短答で、問われやすい点です。
冒頭の答えと、まとめ
図:冒頭の答え
- 行き詰まりは、4項の催告で解消する
- 譲受人が、債務者に、相当の期間を定めて、譲渡人への履行を催告→期間内に履行がなければ3項は適用しない=もう断れない
- 払えば債務は消える
- 預貯金債権=悪意・重過失の譲受人には譲渡が効かない(債権者は元の預金者のまま)
- 銀行が承諾すれば有効
冒頭の答えを、言い切ります。200万円は、宙に浮きません。金融業者が、期間を定めて、小売チェーンに、卸会社への履行を催告します。期間内に、小売チェーンが卸会社に払えば、債務は消えます。払わなければ、3項は適用されなくなり、小売チェーンは、金融業者への支払いを、もう断れません。金融業者は、直接請求できます。ただし、債権が預貯金債権なら、話が違います。悪意か重過失の譲受人には、譲渡が効かず、債権者は、元の預金者のままです。
図:まとめ板
整理します。1つめ。行き詰まりは、4項の催告で解消します。誰が、誰に、何を求めるのか。譲受人が、債務者に、譲渡人への履行を、相当の期間を定めて求めます。2つめ。預貯金債権は、悪意か重過失の譲受人には、譲渡が効きません。銀行が承諾すれば有効になり、事後の承諾なら、さかのぼって有効です。ただし、承諾の前の第三者の権利は、害せません。預貯金債権でも、差押債権者には、特約を対抗できません。差押えの場面は、一般の債権も含めて、別の回であらためて扱います。
参照条文
- 民法466条4項
- 民法466条の5