民法ゼロから民法#168

譲渡制限特約と差押え・債務者の供託

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第4章 債権総論 #168/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

売掛金を差し押さえられた小売チェーン

冒頭の関係図。A=卸会社が、B=小売チェーンに売掛金200万円を持つ。契約書に「譲渡しない」条項がある。A は D=運送会社に運賃150万円を払っていない。D は裁判に勝ち、A の B に対する売掛金を差し押さえた。D は条項を知っていた。問い=B は「特約があるから払わない」と断れるか。 図:冒頭の関係図

  • A=卸会社が、B=小売チェーンに売掛金200万円を持つ
  • 契約書に「譲渡しない」条項がある
  • A は D=運送会社に運賃150万円を払っていない
  • D は裁判に勝ち、A の B に対する売掛金を差し押さえた
  • D は条項を知っていた
  • 問い=B は「特約があるから払わない」と断れるか

では、ただの売掛金だったら、どうでしょう。今日は、その続きです。設例です。卸会社が、小売チェーンに、200万円の売掛金を持っています。契約書には、この債権を譲渡しない、という条項があります。卸会社は、運送会社に、運賃150万円を払っていません。運送会社は、裁判で勝ち、卸会社が小売チェーンに持つ、この売掛金を差し押さえました。運送会社は、契約書の条項を、知っていました。小売チェーンは、運送会社に言います。特約があるから、あなたには払わない。特約を知っていた人の差押えなら断れる、という見方が、今日の最初の落とし穴です。答えは、最後に出します。今日の問いは、3つです。1つめ。小売チェーンは、この差押えを断れるのか。2つめ。差し押さえたのが、別の人の債権者だったら、結論は変わるのか。3つめ。誰に払えばよいか迷う小売チェーンは、どうすれば身を守れるのか。

3つめは、債務者の出口ですね。前回は、金融業者の側の出口でした。前回の出口は、債権を買った側が使うものでした。今日は、払う側の出口を見ます。最初に、断れるのは誰が差し押さえたときか。この点を、1つの軸にそろえます。差し押さえたのは、誰の債権者でしょうか?

差押債権者には、断れない。466条の4第1項

1項の場面。D=運送会社が、A=卸会社への運賃債権で、A が B に持つ売掛金を差し押さえる。譲渡は起きていない。債権はまだ A のもの。D は特約を知っていた。B は D に払わねばならない。 図:1項の場面

  • D=運送会社が、A=卸会社への運賃債権で、A が B に持つ売掛金を差し押さえる
  • 譲渡は起きていない
  • 債権はまだ A のもの
  • D は特約を知っていた
  • B は D に払わねばならない

設例を、図にします。ここで大事なのは、時点です。卸会社は、この売掛金を、誰にも譲渡していません。債権は、まだ卸会社のものです。そこへ、卸会社の債権者である運送会社が、差押えをしました。条文を読みます。1項です。

条文民法466条の4第1項

民法第466条の4 第四百六十六条第三項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。

適用しない、と書いてあります。何を適用しないのかというと、前々回の3項です。3項は、断れる相手を、譲受人その他の第三者、と書いていました。差押債権者も、この第三者に当たりそうに見えます。そこで1項が、差押債権者には、3項を使わせない、と決めました。つまり、債務者が、悪意の人に対して持っていた、断る力と、譲渡人への弁済を言う力。その両方が、差押債権者に対しては使えなくなります。

1項の読み方。成立要件(条文どおり)=①譲渡制限の意思表示がされた債権②その債権に強制執行をした差押債権者。効果=3項は適用しない=債務者は、もう断れない。言い換え=特約を理由に「払わない」とは言えない。「譲渡人に払った」とも言えない。 図:1項の読み方

  • 成立要件(条文どおり)=①譲渡制限の意思表示がされた債権②その債権に強制執行をした差押債権者
  • 効果=3項は適用しない=債務者は、もう断れない
  • 言い換え=特約を理由に「払わない」とは言えない
  • 「譲渡人に払った」とも言えない

適用しない、という言い方は、ややこしいので、言い換えます。小売チェーンは、もう断れない。特約があるから払わない、とは言えません。卸会社に払ったから済んでいる、とも言えません。これは、条文どおりの成立要件です。覚え込むのではなく、読めば出てくるものです。要件は、2つです。特約付きの債権であること。そして、その債権に、強制執行をした差押債権者がいること。裁判で勝って、あるいは確定した権利をもとに、国の手続で、債務者の財産から、取り立てることです。今日の運送会社は、裁判で勝ったので、これに当たります。

運送会社は、条項を知っていました。知っている人に対しては、断れるのが3項ではないですか。ここが、短答の罠です。1項には、差押債権者が特約を知っていたか、という要件が、そもそもありません。知っていても、知らなくても、同じです。小売チェーンは、断れません。問いです。差押債権者が、特約を知っていたとき、債務者は、差押えを断れるでしょうか?断れません。差押債権者が知っていたかどうかは、関係ありません。では、なぜ、そうなるのでしょうか。

1項の趣旨。法律は、差し押さえてはいけない財産を、限って決めている。当事者の約束だけで、差押えできない債権を作れるとなると、その線引きが意味を失う。強制執行の制度が、空洞になる。 図:1項の趣旨

  • 法律は、差し押さえてはいけない財産を、限って決めている
  • 当事者の約束だけで、差押えできない債権を作れるとなると、その線引きが意味を失う
  • 強制執行の制度が、空洞になる

想像してみてください。借金を抱えた会社が、自分の売掛金の契約に、譲渡しない、という一文を入れたとします。それだけで、貸主は差し押さえられない、となったら、どうでしょう。返す気のない人は、どの債権にも、この一文を入れるでしょう。強制執行の制度が、空っぽになります。法律は、たとえば給料の一部のように、差し押さえてはいけない財産を、あらかじめ、限って決めています。当事者の約束だけで、その財産を増やしてはいけない。これが、1項の理由です。特約が守るのは、債務者の払う相手を選びたい、という利益です。それは、差押えを止めるほど強い利益ではない、と条文は判断しました。この考え方は、判例が、もともと示していました。判決を見ます。

判例最二小判昭45・4・10 民集24巻4号240頁

譲渡禁止の特約のある債権と差押え・転付命令 譲渡禁止の特約のある債権であつても、差押債権者の善意・悪意を問わず、これを差し押え、かつ、転付命令によつて移転することができるものであつて、これにつき、同法四六六条二項の適用ないし類推適用をなすべきではないと解するのが相当である。

判決の事案は、特約のある債権を、債権者が差し押さえて、転付命令で、自分のものとして移した、というものです。転付命令とは、差し押さえた債権を、取り立てる代わりに、そのまま、自分のものにする命令のことです。判決は、特約があっても、差押債権者が、知っていたか知らなかったかに関わらず、差し押さえられるし、転付命令で移せる、と言いました。理由の骨子は、こうです。特約を認めてしまうと、私人が、意思表示だけで、債権から、強制執行の対象になる性質を、奪えてしまう。それは、法律が、差押えのできない財産を、限って定めた趣旨に、反する。今の1項は、この判例の考え方を、条文にしたものです。決め手は、さきほどの理由です。判例だから、ではなく、差押えのできない財産を、約束で増やせないから、断れないのです。

この判決は、古い法律のもとのものです。ただ、結論と理由は、今の1項に、そのまま受け継がれています。整理します。1項の結論は、差押債権者には、特約を持ち出せない。主観は問わない。理由は、特約で差押禁止財産を作れないから、では、差し押さえたのが、別の人の債権者だったら、どうでしょう。

悪意の譲受人の債権者には、断れる。466条の4第2項

2項の場面。A=卸会社が、B=小売チェーンへの売掛金を、C=金融業者に譲渡。C は特約を知っていた(悪意)。E=リース会社は C に貸付がある。E は C が持つその債権を差し押さえた。E は特約を知らなかった。B は E に断れるか。 図:2項の場面

  • A=卸会社が、B=小売チェーンへの売掛金を、C=金融業者に譲渡
  • C は特約を知っていた(悪意)
  • E=リース会社は C に貸付がある
  • E は C が持つその債権を差し押さえた
  • E は特約を知らなかった
  • B は E に断れるか

設例を、変えます。今度は、卸会社が、この売掛金を、金融業者に譲渡しました。金融業者は、特約を知っていました。悪意です。金融業者には、リース会社が、お金を貸しています。リース会社は、金融業者が持つ、この売掛金を、差し押さえました。リース会社は、特約があることを、知りませんでした。小売チェーンは、リース会社に、断れるでしょうか。条文です。

条文民法466条の4第2項

民法第466条の4 2 前項の規定にかかわらず、譲受人その他の第三者が譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった場合において、その債権者が同項の債権に対する強制執行をしたときは、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。

前項の規定にかかわらず、とあります。1項は、断れない、でした。それに、例外をつけるのが、2項です。

2項の読み方。成立要件(条文どおり)=①譲受人その他の第三者が、特約を知っていた、または重大な過失で知らなかった②その債権者が③その債権(譲受人が取得した債権)に強制執行をした。効果=債務者は履行を拒める。譲渡人への弁済その他の債務消滅事由を、差押債権者に対抗できる。 図:2項の読み方

  • 成立要件(条文どおり)=①譲受人その他の第三者が、特約を知っていた、または重大な過失で知らなかった②その債権者が③その債権(譲受人が取得した債権)に強制執行をした
  • 効果=債務者は履行を拒める
  • 譲渡人への弁済その他の債務消滅事由を、差押債権者に対抗できる

要件は、3つです。これも、条文どおりです。1つめ。譲受人その他の第三者が、悪意か重過失であること。2つめ。その人の債権者であること。3つめ。その債権に、強制執行をしたこと。3つそろうと、小売チェーンは、履行を断れます。そして、卸会社に払ったことを、差押債権者に言えます。悪意なのは、金融業者で、差し押さえたのはリース会社です。リース会社は、知らなかったのに、断られるんですか。そこが、この条文の核心です。条文が見ている悪意は、譲受人の悪意です。差押債権者の悪意では、ありません。読み返してください。譲受人その他の第三者が、知り、又は重大な過失によって知らなかった場合において、とあります。主語は、譲受人です。リース会社が、知っていたかどうかは、書かれていません。

差押えは、金融業者の財産を、押さえる手続だからです。押さえられるのは、金融業者が持っているものだけです。金融業者の債権には、最初から、債務者に断られる、という制限が付いていました。その債権を、差し押さえた以上、制限付きのまま、受け取ることになります。差押債権者が、執行を受ける人より、強い権利を持つ理由は、ありません。

2項の趣旨。差押えは、執行を受ける人(ここでは C)の財産を押さえるだけ。C の債権には最初から「B に断られる」という制限が付いていた。差し押さえた E も、C が持つ以上の権利は持てない。E 自身の知・不知は、結論に効かない。 図:2項の趣旨

  • 差押えは、執行を受ける人(ここでは C)の財産を押さえるだけ
  • C の債権には最初から「B に断られる」という制限が付いていた
  • 差し押さえた E も、C が持つ以上の権利は持てない
  • E 自身の知・不知は、結論に効かない

たとえば、中古の自転車に、鍵がかかっていて、乗るのに、前の持ち主の許しが要るとします。その自転車を、買った人の貸主が、差し押さえたら、どうでしょう。鍵がかかったまま、手に入るだけです。差押えで、鍵が外れるわけではありません。自転車が、金融業者の持つ売掛金。鍵が、小売チェーンに断られる、という制限です。ここで、短答の罠を、2つ挙げます。1つめ。差押債権者が善意なら、債務者は断れない。誤りです。2つめ。差押えには、常に、特約を対抗できない。これも誤りです。2項の場面では、対抗できます。問いです。リース会社が、特約を知らなかった場合、小売チェーンは、リース会社に、特約を主張して、断れるでしょうか?

断れます。差し押さえた債権が、悪意の金融業者のものだからです。リース会社が知らなかったことは、関係ありません。逆に、金融業者が、特約を知らずに買っていて、重大な過失もなかったら、どうでしょう。2項の1つめの要件が欠けます。そもそも3項が働かないので、小売チェーンは、リース会社にも断れません。決め手は、やはり、執行を受ける金融業者の側です。ここまでで、1項と2項の結論が、出そろいました。並べて、整理します。

1項と2項を、見比べて判定する

1項と2項の比較表。【1項】差押債権者=譲渡人(A卸会社)の債権者 D運送会社/差し押さえた債権の持ち主=A(まだ譲渡していない)/債務者B=断れない(D が特約を知っていても)。【2項】差押債権者=悪意・重過失の譲受人 C の債権者 E リース会社/差し押さえた債権の持ち主=C(譲り受けた債権)/債務者B=断れる(E が特約を知らなくても)。共通=差押債権者自身の知・不知は、どちらも結論に効かない。 図:1項と2項の比較表

  • 【1項】差押債権者=譲渡人(A卸会社)の債権者 D運送会社/差し押さえた債権の持ち主=A(まだ譲渡していない)/債務者B=断れない(D が特約を知っていても)
  • 【2項】差押債権者=悪意・重過失の譲受人 C の債権者 E リース会社/差し押さえた債権の持ち主=C(譲り受けた債権)/債務者B=断れる(E が特約を知らなくても)
  • 共通=差押債権者自身の知・不知は、どちらも結論に効かない

判定の軸は、1つです。差し押さえたのは、誰の債権者か。譲渡人である、卸会社の債権者なら、1項です。小売チェーンは、断れません。悪意の譲受人である、金融業者の債権者なら、2項です。小売チェーンは、断れます。もう1つの軸が、差押債権者自身の知不知です。1項では、運送会社が知っていても、断れません。2項では、リース会社が知らなくても、断られます。知っていたかどうかは、どちらにも効きません。問題文で、差押債権者が、特約を知っていた、と強調されていても、慌てないでください。見るのは、差し押さえた人が、誰の債権者か、です。前回、店主の預金を、貸主が差し押さえた場面がありました。貸主が特約を知っていたら、銀行は、差押えを断れたでしょうか?

預貯金債権との位置づけ。一般の債権の差押え=466条の4第1項(差押債権者に3項を適用しない)。預貯金債権の差押え=466条の5第2項(差押債権者に同条1項を適用しない)=条文どおり。どちらも「差押債権者には特約を対抗できない」向き。根拠条文が違うだけ。割れる軸=誰の債権者か(今日の1項・2項)。 図:預貯金債権との位置づけ

  • 一般の債権の差押え=466条の4第1項(差押債権者に3項を適用しない)
  • 預貯金債権の差押え=466条の5第2項(差押債権者に同条1項を適用しない)=条文どおり
  • どちらも「差押債権者には特約を対抗できない」向き
  • 根拠条文が違うだけ
  • 割れる軸=誰の債権者か(今日の1項・2項)

断れませんでした。知っていても、差押えは有効でした。この結論は、そのまま正しいです。前回の中身を、1つだけ戻します。預貯金債権では、特約を知っていたか、重大な過失で知らなかった譲受人には、譲渡が効きません。一般の債権より、特約が強いのです。その強い特約でも、差押えは、止められなかったわけです。今日の1項と、同じ向きの結論です。差押債権者には、特約を対抗できない。理由も、前回見たとおり同じで、約束だけで、差押えのできない財産を、作れないからです。違うのは、根拠の条文だけです。一般の債権は、466条の4第1項。預貯金債権は、466条の5第2項です。適用しない、という相手も、違います。466条の4第1項が外すのは、3項です。466条の5第2項が外すのは、同条の1項、つまり、いま戻した、譲渡が効かない、という規定です。ここを、取り違えないでください。

その場面では、預貯金かどうかで、結論は割れません。今日の割れ目は、一般の債権の中で、誰の債権者が差し押さえたのか、です。短答で、よく出る組み合わせを、2つ挙げます。預貯金債権の差押債権者が、特約を知っていたら、銀行は断れるか。断れません。一般の債権でも、差押債権者が悪意なら、断れるか。1項の場面は、断れません。預貯金債権で、悪意の譲受人の債権者が差し押さえた場合の細かい扱いは、今日は扱いません。条文どおりの、預貯金債権の差押債権者には、特約を対抗できない、という点だけ、押さえてください。もう1つ、前々回に名前だけ出した話を、回収します。承諾の前に現れた人との優劣は、差押えの場面では、別の条文で処理が変わる、と言いました。差押えの場面で働く条文が、今日の466条の4です。一般の債権は、譲渡が最初から有効なので、譲受人と、あとから差し押さえた譲渡人の債権者の、どちらが勝つかは、承諾の前か後かでは決まりません。譲渡の対抗要件と差押えの、どちらが先かで決まります。

迷う債務者の出口。債務者の供託

供託の設例。A=卸会社が、B=小売チェーンへの売掛金200万円を、C=金融業者に譲渡した。B は、C が特約を知っていたのか分からない。知っていれば A に払って済む。知らなければ C に払うことになる。払う相手を間違えると、二重に払うことになりかねない。問い=B はどうすればよいか。 図:供託の設例

  • A=卸会社が、B=小売チェーンへの売掛金200万円を、C=金融業者に譲渡した
  • B は、C が特約を知っていたのか分からない
  • 知っていれば A に払って済む
  • 知らなければ C に払うことになる
  • 払う相手を間違えると、二重に払うことになりかねない
  • 問い=B はどうすればよいか

最後の問いに入ります。設例は、前々回と同じです。卸会社が、小売チェーンの200万円の売掛金を、金融業者に譲渡しました。小売チェーンは、迷っています。金融業者が、特約を知っていたのなら、断れるし、卸会社に払っても済みます。知らなかったのなら、金融業者に払わなければなりません。知っていたかどうかは、金融業者の頭の中の話で、小売チェーンには、確かめようがありません。払う相手を間違えると、二重に払うことになりかねません。そこで、条文は、債務者のための出口を用意しました。供託です。供託とは、供託所という公の機関に、お金を預けることです。条文を読みます。

条文民法466条の2

民法第466条の2 債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。 2 前項の規定により供託をした債務者は、遅滞なく、譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなければならない。 3 第一項の規定により供託をした金銭は、譲受人に限り、還付を請求することができる。

条文は、3つの項に分かれています。順に見ます。

466条の2の読み方(条文どおり)。1項=譲渡制限付きの金銭債権が譲渡されたとき、債務者は、債権の全額を、履行地の供託所に供託できる。2項=供託した債務者は、遅滞なく、譲渡人と譲受人に通知。3項=供託金の還付を請求できるのは、譲受人に限る。 図:466条の2の読み方

  • 条文どおり
  • 1項=譲渡制限付きの金銭債権が譲渡されたとき、債務者は、債権の全額を、履行地の供託所に供託できる。2項=供託した債務者は、遅滞なく、譲渡人と譲受人に通知。3項=供託金の還付を請求できるのは、譲受人に限る。

1項です。要件は、特約付きの、金銭の給付を目的とする債権が、譲渡されたこと。それだけです。すると、債務者は、債権の全額に相当するお金を、供託できます。今日の設例なら、200万円の全額です。供託する場所は、債務の履行地の供託所です。履行地が、債権者の現在の住所で決まる場合は、譲渡人の現在の住所も含みます。ここは、条文で確認すれば足ります。譲受人が、特約を知っていたかどうかは、関係ないんですか。関係ありません。ここが、短答の要です。譲受人が、悪意でも、善意でも、供託できます。債務者に、過失があっても、同じです。3項の履行拒絶や、預貯金債権の特約の対抗は、譲受人の悪意か重過失が要件でした。供託には、その要件が、ありません。誰が正しい相手か、分からないまま、払える形になっているのです。しかも、供託したお金を受け取れるのは、本当の債権者である譲受人だけです。だから、悪意の要件が無くても、債権者は損をしません。問いです。供託できるのは、譲受人が、悪意のときだけでしょうか?

違います。譲受人が善意でも悪意でも、供託できます。次に、2項と3項です。供託した債務者は、遅滞なく、譲渡人と譲受人の両方に、供託したことを、通知します。そして、供託されたお金を、受け取る手続を、還付といいます。還付を請求できるのは、譲受人に限ります。譲渡は、有効だからです。債権者は、譲受人である、金融業者です。供託されたお金も、金融業者のものです。卸会社は、もう、債権者ではありません。

供託の流れ。①B が、全額200万円を、供託所に供託→②B が、遅滞なく、A と C に通知→③お金を受け取れる(還付請求)のは、C だけ。A は受け取れない。 図:供託の流れ

  • ①B が、全額200万円を、供託所に供託→②B が、遅滞なく、A と C に通知→③お金を受け取れる(還付請求)のは、C だけ
  • A は受け取れない

流れを、まとめます。小売チェーンが、全額を供託する。卸会社と金融業者に、遅滞なく通知する。受け取れるのは、金融業者だけ。この供託の、いちばんの狙いは、払う相手に迷う、債務者を守ることです。相手を間違えると、二重に払うおそれがある。だから、全額を預けてしまえば、どちらが正しい相手でも、困らない形にしました。供託の細かい手続や、供託による債務の消え方は、別の回で扱います。今日は、供託できる、という出口が、あることを押さえてください。もう1つ、補足です。改正の前は、供託をするには、誰が債権者か分からない、という事情が、求められていました。改正で、特約付きの金銭債権が譲渡された、という事実だけで、供託できるようになりました。債務者が、迷う必要さえ、ないということです。前回の行き詰まりと、対にして覚えてください。譲受人の側の出口は、催告でした。債務者の側の出口が、供託です。短答の罠を、2つ挙げます。供託は、譲受人が悪意のときだけ。誤りです。供託金の還付は、譲渡人も請求できる。これも誤りで、譲受人に限ります。

譲渡人が破産したとき。466条の3

466条の3の場面。A=卸会社に、破産手続開始の決定。C=金融業者は、売掛金200万円の全額を譲り受け、対抗要件も備えた。C は特約を知っていた。それでも、B に全額を供託させられる。 図:466条の3の場面

  • A=卸会社に、破産手続開始の決定
  • C=金融業者は、売掛金200万円の全額を譲り受け、対抗要件も備えた
  • C は特約を知っていた
  • それでも、B に全額を供託させられる

もう1つ、供託の条文があります。譲渡人が、破産した場面です。

条文民法466条の3

民法第466条の3 前条第一項に規定する場合において、譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、譲受人(同項の債権の全額を譲り受けた者であって、その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったときであっても、債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。この場合においては、同条第二項及び第三項の規定を準用する。

破産手続開始の決定とは、会社が、破産の手続に入った、ということです。要件を、順に見ます。前条1項の場合、つまり、特約付きの金銭債権が譲渡されたこと。譲渡人について、破産手続開始の決定があったこと。そして、譲受人が、債権の全額を譲り受けた人で、かつ、その債権の譲渡を、債務者その他の第三者に対抗できる人であること。この3つがそろうと、譲受人は、悪意や重過失でも、債務者に、全額を供託させられます。通知と還付については、前条の2項と3項が、準用されます。還付を受けられるのは、譲受人だけです。供託という言葉は同じでも、供託する人が逆になります。そこが、取り違えどころです。466条の2は、債務者が、自分から供託できる、という規定です。466条の3は、譲受人が、債務者に、供託させる、という規定です。しかも、譲渡人の破産が、要件です。

今日の設例で、卸会社が破産したとします。金融業者が悪意なら、小売チェーンは、卸会社に200万円を払えば済みます。ところが、破産した卸会社に払われたお金は、債権者みんなに分けるための、卸会社の財産と一緒に管理されます。金融業者は、そこから、自分の分を、破産の手続の中で取り戻すしかなくなります。全額が戻るとは、限りません。供託されたお金は、さきほどの準用で、譲受人である金融業者しか、受け取れません。卸会社の財産に、混ざらないのです。だから、供託させられるなら、金融業者は、破産の手続の外で、200万円を回収できます。そのために、全額を譲り受けていること、そして、対抗要件を備えていることを、要件にして、複雑にならないように、絞っています。今日は、条文の骨格までです。誰が、いつ、何を請求できるのか。譲受人が、譲渡人の破産のとき、債務者に、供託させられる。ここまで押さえてください。

冒頭の答えと、まとめ

冒頭の答え。差押えは断れない(466条の4第1項)。ただし、悪意・重過失の譲受人の債権者が差し押さえたなら断れる(同条2項)。差押債権者自身の知・不知は、どちらも効かない。預貯金債権の差押えも断れない(466条の5第2項)。迷う債務者は、譲受人の善意・悪意を問わず供託でき、還付を受けられるのは譲受人だけ(466条の2)。 図:冒頭の答え

  • 差押えは断れない(466条の4第1項)
  • ただし、悪意・重過失の譲受人の債権者が差し押さえたなら断れる(同条2項)
  • 差押債権者自身の知・不知は、どちらも効かない
  • 預貯金債権の差押えも断れない(466条の5第2項)
  • 迷う債務者は、譲受人の善意・悪意を問わず供託でき、還付を受けられるのは譲受人だけ(466条の2)

冒頭の答えを、言い切ります。運送会社が、卸会社の債権を差し押さえた場合。小売チェーンは、断れません。運送会社が、特約を知っていても、同じです。ただし、差し押さえたのが、悪意か重過失の譲受人の、債権者なら、小売チェーンは断れます。差押債権者が、知らなくても、同じです。そして、払う相手に迷う債務者は、供託できます。譲受人が、悪意でも善意でも、できます。受け取れるのは、譲受人だけです。

まとめ板。①誰の債権者かで振り分ける=1項(譲渡人の債権者→断れない)・2項(悪意・重過失の譲受人の債権者→断れる)②差押債権者自身の知・不知は結論に効かない。預貯金債権の差押えも断れない(466条の5第2項)③供託(466条の2)=譲受人の善意悪意不問・遅滞なく通知・還付は譲受人のみ。466条の3=譲渡人の破産で、譲受人が債務者に供託させられる。 図:まとめ板

  • ①誰の債権者かで振り分ける=1項(譲渡人の債権者→断れない)・2項(悪意・重過失の譲受人の債権者→断れる)②差押債権者自身の知・不知は結論に効かない
  • 預貯金債権の差押えも断れない(466条の5第2項)③供託(466条の2)=譲受人の善意悪意不問・遅滞なく通知・還付は譲受人のみ
  • 466条の3=譲渡人の破産で、譲受人が債務者に供託させられる

整理します。1つめ。差押えは、誰の債権者が差し押さえたのかで、振り分けます。譲渡人の債権者なら、1項で、断れない。悪意か重過失の譲受人の債権者なら、2項で、断れます。2つめ。どちらも、差押債権者自身が、知っていたかどうかは、結論に効きません。預貯金債権の差押えも、特約を対抗できない点は、同じ向きです。債務者は、譲受人の善意悪意を問わず、全額を供託できます。遅滞なく通知し、還付を請求できるのは、譲受人だけです。譲渡人の破産のときは、譲受人の側から、供託をさせることもできます。差押えを受けた債権を、債務者が払った場合は、別の回で扱います。次は、債権を買った人が、債務者や第三者に、自分が債権者だと言うための手続を、見ていきます。

参照条文

  • 民法466条の4第1項
  • 民法466条の4第2項
  • 民法466条の2
  • 民法466条の3

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