債権者代位権の直接請求と事実上の優先弁済
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第4章 債権総論 #194/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
取り立てた100万円を、貸主は手元に置いてよいか
図:冒頭の関係図
- 貸主Aは借主Bに100万円を貸している
- Bには、もう1人の貸主Dがいて、Dの貸金は300万円
- Bの財産はCへの200万円の貸金債権だけで、Bは取り立てない
- AはBに代わってCに請求し、Cは100万円を払った
- 問い=この100万円をAは手元に置いてよいのか
- Dは黙っているしかないのか
貸主のAが、借主のBに、100万円を貸しています。Bは無一文で、友人のCに対する200万円の貸金債権のほかに、めぼしい財産がありません。Bは遠慮して、その200万円を取り立てようとしません。さらに、Bには、もう1人の貸主のDがいます。Dの貸金は、300万円です。前の回までに見たとおり、Aは、Bに代わってCに請求できます。ただし、請求できるのは、自分の貸金の額である100万円までです。そこでAがCに請求して、Cは100万円を払ったとします。問いです。この100万円を、Aは、自分の手元に置いてよいのでしょうか。Dは、黙って見ているしかないのでしょうか。
苦労した人が報われるべきだという感覚と、貸している人は平等のはずだという感覚。この2つのぶつかり合いが、今日の出発点です。先に、答えを言います。Aは、結果として、100万円を手元に置けます。ただし、受け取ったお金は、本来はBに入るはずのお金です。Aが、自分の貸金と差し引きにして、つまり相殺して、初めて手元に残ります。しかも、いつでもそうなるとは限りません。答えの出し方は、3つです。1つめは、Cは誰に払うのか。2つめは、受け取ったお金は誰のものか。3つめは、Aは自分の貸金とどうするのか。この3つを順に見ます。
前回までの受けと、今日の4つの問い
図:今日の地図
- 受け=要件(前々回)、被代位権利の側・行使の方法・範囲(前回)
- 今日の4つの問い=①誰に払わせるのか(423条の3)②受け取ったお金はどうなるのか③Cは何を言い返せるのか(423条の4)④代位が始まったあと、Bはまだ動けるのか(423条の5)+時効
- 右端に根拠の種類
- 条文どおり=423条の3・4・5
- 解釈=返還債務・相殺できること・94条2項の第三者への当てはめ
位置づけを確認します。前々回は、代位ができるための要件を見ました。前回は、Bの側の権利の条件と、行使の方法と範囲を見ました。そして前回の終わりに、代位で債権者が受け取ったものの扱いを、宿題に残しました。今日は、まずこの宿題を片づけます。そのうえで、請求されたCが何を言えるのか、代位が始まったあとのBはどうなるのかを見ます。数値例は、前回の続きです。Aが代位で守りたい、Bへの100万円の貸金が、被保全債権でした。AがBに代わって使う、BのCへの200万円の債権が、被代位権利でした。そのうち、Aが代位できるのは、自分の貸金の額である100万円までです。今日の問いは、4つです。1つめは、Cは誰に払うのか。2つめは、受け取ったお金はどうなるのか。3つめは、Cは何を言い返せるのか。4つめは、代位が始まったあとも、Bは動けるのか、です。最後に、時効も見ます。
今回も分けます。条文どおりなのは、423条の3、423条の4、423条の5です。解釈で立てるのは、受け取った金銭の返還債務、相殺できること、そして94条2項の第三者への当てはめです。答案では、前者は条文を引いて確認し、後者は理由とあてはめを書きます。今日を貫く軸を、先に1つだけ渡します。代位は、Bの権利をAが使うだけです。権利の持ち主は、あくまでBです。この軸から、4つの問いの答えが全部出てきます。
払い先の原則と例外——金銭と動産だけは自分に払えと言える
図:払い先の原則と例外の板
- 上段=原則「債務者に履行させる」
- 例=登記は「B名義にせよ」と言える
- 「A名義にせよ」とは言えない
- 下段=例外「金銭の支払・動産の引渡しは自分に求められる」
- 理由=Bが受け取らなければ代位の意味が無くなる
- 右に根拠の種類=条文どおり(423条の3)
1つめの問いです。AがCに請求するとき、Cは誰に払うのか。原則は、債務者のBに払う、です。理由は、さきほどの軸です。請求しているのはAですが、権利を持っているのはBです。代位の目的は、Bの責任財産を保つことで、Aが回収することではありません。例で見ます。BがCから土地を買ったのに、登記がまだC名義のままだとします。Aが代位してCに登記を求めるとき、言えるのは、B名義にせよ、です。A名義にせよ、とは言えません。土地はBのものだからです。ただ、金銭には事情があります。次の条文を読みます。
条文民法423条の3
民法第423条の3 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。 この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。
条文は、相手方と書いています。相手方とは、第三債務者のことです。今日の設例では、Cです。前段は、被代位権利が金銭の支払か動産の引渡しを目的とするときは、自分に支払え、自分に引き渡せ、と求めてよい、という意味です。後段は、CがAに払えば、BのCに対する債権は消える、という意味です。CはBに、二重に払わなくてよいのです。登記と比べると分かります。登記は、Bが何もしなくても、B名義にできます。ところが、金銭や動産は、受け取るという行為が要ります。Bが受け取らないと言い張れば、CはBに払えません。それではAが代位した意味が無くなってしまいます。だから、金銭と動産については、自分に払え、と求めてよいとされました。動産の例を挙げます。BがCに自転車を預けているとします。Aは、代位してCに、自転車をAに渡せ、と言えます。冒頭の設例は、金銭の例です。この条文は、2017年の改正で置かれました。以前から判例が認めてきた扱いを、条文にしたものです。
受け取った100万円の行方——返還債務と相殺
図:お金の流れの5段階
- ①AがCに「自分に100万円を払え」と請求(423条の3前段)②CがAに100万円を支払う③BのCに対する債権のうち100万円が消える(423条の3後段)④AはBに100万円を返す債務を負う(703条)⑤Aは自分の貸金債権と返還債務を相殺する(505条1項)
- 相殺=自働債権はAのBに対する貸金100万円、受働債権はBのAに対する返還請求権100万円
2つめの問いです。受け取った100万円は、誰のものになるのか。お金の流れを、5つの段階で見ます。1つめ、AがCに、自分に100万円を払えと請求します。2つめ、CがAに、その100万円を払います。3つめ、BのCに対する債権は、払われた100万円の分だけ消えます。ここまでは、423条の3のとおりです。4つめが、大事です。Aが受け取った100万円は、本来は、Bに入るはずのお金です。軸に戻ります。権利の持ち主はBだからです。AがCから受け取ることには、Cとの関係では原因があります。423条の3が認めているからです。しかし、Bとの関係では、Aが100万円を持っている法律上の原因がありません。だから、Aは、Bに100万円を返す債務を負います。これは、不当利得として説明されます。不当利得とは、法律上の原因なく得た利益のことです。条文を読みます。
条文民法703条
民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
今回の設例では、受益者がAです。損失を受けたのがBです。Aは、Bに、受け取った100万円を返す義務を負います。5つめが、相殺です。相殺の回で見たとおり、相殺は、自分の債権を使って、相手に対する自分の債務を消す仕組みです。お互いに現金を動かさず、差し引きで済ませます。AはBに、100万円の貸金債権を持っています。そしてAは、Bに対して、100万円の返還債務を負っています。この2つは、同じ額で向き合っています。Aは、この2つを相殺できます。ここで、立ち止まって考えてみてください。このとき、自働債権は、Aの貸金債権でしょうか? それとも、BのAに対する返還請求権でしょうか?
相殺の意思表示をするのはAですよね。だから、Aが持っている貸金のほうが、自働債権だと思います。自働債権は、AのBに対する100万円の貸金債権です。受働債権は、BのAに対する100万円の返還請求権です。相殺の意思表示をする側の債権が、自働債権でした。Aの貸金は、代位の要件として、弁済期が来ています。だから、相殺できる状態にあります。相殺は、一方的な意思表示でできる単独行為です。Bの同意は要りません。相殺できることの条文は505条1項、意思表示ですることは506条1項です。受け取っただけでは、Aは、Bに100万円を返す債務を負ったままです。相殺の意思表示をして初めて、Aの貸金が消えて、回収が済んだ形になります。動産のときは、別です。返す物は動産で、Aの貸金は金銭です。種類が違うので、相殺は問題になりません。相殺の話が出るのは、金銭の場合です。根拠の種類を分けます。返還債務が生じることは解釈で、不当利得として説明されます。相殺できることは、505条1項の当てはめです。
「事実上の」優先弁済——数値で見る
図:数値の比較
- Bの財産はCへの200万円の債権だけ
- 貸金はA100万円、D300万円
- 上段=差押えで平等に分けた場合(200万円を1対3)→A50万円・D150万円
- 下段=代位→自分に受領→相殺の場合→A100万円(全額)・Dは残りの100万円
- 右に「事実上の優先弁済」
流れが分かったので、結果を数字で見ます。Bの財産は、Cに対する200万円の債権だけです。貸金は、Aが100万円、Dが300万円。合わせて400万円です。もし、AとDが同じ債権を差し押さえて、債権者平等で分けたなら、200万円を貸金の額の割合で分けます。割合は1対3です。Aは50万円、Dは150万円になります。ところが、今日の流れだと、Aは100万円を受け取って、貸金と相殺します。Aは、貸金の全額を回収できます。Dには、Cへの債権の残り100万円しか残りません。Aだけが、貸金の全額を回収しました。これを、事実上の優先弁済といいます。優先弁済とは、ほかの債権者より先に、満足を受けることです。債権回収機能と呼ぶこともあります。前回見た423条の2があるので、Aが取れるのは、自分の貸金の額までです。それ以上は、持っていけません。
事実上の、と付くのは、法律がAに優先権を与えたわけではないからです。先取特権のような、優先する権利があるのではありません。自分に払わせることができる、ということと、返還債務と相殺できる、ということ。この2つが重なった結果、優先したのと同じ結果になります。だから、事実上の、と言います。
これは制度の趣旨と合うのか——批判と、許されている理由
図:対比の板
- 2列・理由つき
- 問題視する側=①責任財産の保全は総債権者のための制度のはず。代位した人だけが回収する②差押えなら債務名義が要り、債務者と第三債務者を守る手続がある。代位だとその手続を経ない。許してよいとする側=①少額で第三債務者も協力するなら、差押えより簡単で費用倒れにならない②保全は「その債権者自身の債権の引当てを保つこと」と考えれば矛盾しない③債務者に処分権限が残り、ほかの債権者も差押えや代位ができる④動いた人に見返りがあってよい。最下段=2017年の改正は、相殺を禁じる規定を置かなかった。
この結果は、制度の趣旨と合うのでしょうか。問題視する側の理由は、2つです。1つめ、債権者代位権は、責任財産を保つ制度で、総債権者のための制度のはずです。ところが、代位した人だけが回収します。2つめ、強制執行で回収するなら、債務名義が要ります。債務名義とは、確定判決など、強制執行の根拠になる書面です。差押えの手続には、債務者と第三債務者を守る仕組みもあります。代位だと、その手続を経ないで、同じ結果になります。許してよいとする側にも、理由があります。1つめ、少額で、第三債務者も協力してくれる場面では、債務名義を取って差押えをするより簡単で、費用倒れになりません。2つめ、責任財産の保全を、総債権者の引当てを保つこととは考えず、その債権者自身の債権の引当てとなる財産を保つこと、と考えれば、矛盾しません。3つめ、あとで見るように、債務者に処分権限が残り、ほかの債権者も差押えや代位ができます。代位した人だけが一方的に守られるわけではない、という見方です。4つめ、代位して動いた人に、それなりの見返りがあってよい、という考え方です。2017年の改正は、この点をどう扱ったか。相殺を禁じる規定を置きませんでした。立案の途中では、返還債務を受働債権とする相殺を禁止する案も出されましたが、見送られました。
相殺の禁止が見送られた理由として、3つが挙げられています。1つめ、債務名義を取って強制執行するのが費用倒れになる場面で、事実上の回収が強制執行を補っています。この実務の機能を変えてしまう弊害が大きいからです。2つめ、相殺を禁止して、返還債務に強制執行を求めても、ほかの債権者が実際に手続に加わることは考えにくく、代位した人の手間が増えるだけになりかねないからです。3つめ、明文がなくても、相殺権の濫用の法理などで、債権者平等の観点から相殺が制限されることは考えられるからです。結論は、実務の運用と解釈に委ねる、というものでした。禁じなかったことは、推奨したことではありません。試験での結論は、受け取った金銭の返還債務と被保全債権は、相殺できる、です。趣旨とのずれは、論点として指摘できる程度、と考えてください。詐害行為取消権にも、同じ問題があります。
相手方の抗弁——CはBに言えることを、Aにも言える
図:相手方の抗弁
- A⇢Cの請求に対して、CからAへ「Bに言えることはAにも言える」
- 例①弁済=CがすでにBに200万円を払っていた→債権は消えている
- 例②同時履行の抗弁=BがCに品物を売り、代金債権をAが代位
- Bが品物を渡していなければ、Cは引換えでなければ払わない(533条)
- 右に根拠の種類=条文どおり(423条の4)
3つめの問いです。請求を受けたCは、何を言い返せるのか。条文を読みます。
条文民法423条の4
民法第423条の4 債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。
ここでも、相手方とは、第三債務者のCのことです。抗弁とは、相手の請求を退ける言い分のことです。意味は、CがBに言えることは、Aにも言える、です。理由は、軸のとおりです。Aが行使しているのは、Bの権利そのものです。請求する人が、BからAに入れ替わっただけです。入れ替わったからといって、Cが不利になる理由はありません。例を2つ挙げます。1つめは、弁済です。CがすでにBに200万円を払っていたとします。すると、Bの債権は消えています。Cは、Aに、もう払った、と言えます。2つめは、同時履行の抗弁です。BがCに品物を売り、その代金債権をAが代位したとします。Bが品物をまだ渡していなければ、Cは、品物と引換えでなければ払わない、と言えます。533条です。
423条の4は、以前の判例が認めてきた扱いを、明文にしたものです。被代位権利がBの権利そのものである以上、当然の帰結でもあります。根拠の種類は、条文どおりです。
虚偽表示の無効は、Aに言えるか
図:虚偽表示の設例
- CはBに、見せかけだけで土地を贈与した(虚偽表示・登記はまだC名義)
- Bの債権者Aが、BのCに対する登記を求める権利を代位して行使する
- Cが言える→423条の4によりAにも言える
- では、善意のAは94条2項の第三者として守られるか
抗弁の応用に進みます。役割は、変えません。Aは代位債権者、Bは債務者、Cは第三債務者です。CはBに、見せかけだけで、土地を贈与しました。つまり虚偽表示です。登記は、まだC名義のままです。Bの債権者のAが、BがCに対して持つ、登記を求める権利を代位して行使します。無資力のBに代わって、B名義にさせるためです。Cは言い返します。BC間の贈与は、虚偽表示で無効だ、と。94条1項です。これは、CがBに言えることです。だから、423条の4により、Aにも言えます。では、Aが事情を知らなかった、善意だったなら、どうでしょうか。94条2項は、虚偽表示の無効を、善意の第三者に対抗できない、と定めています。Aがこの第三者にあたれば、Cは、無効をAに対抗できません。先に、思い出してください。虚偽表示の回で見た、94条2項の第三者とは、どんな人でしたか?
虚偽表示の当事者と包括承継人以外の人で、嘘の外形を土台に、新たに独立の法律上の利害関係を持つに至った人でした。この定義に、Aを当てはめます。結論は、Aの立場で分かれます。
94条2項の第三者に、Aはあたるか——2つのケース
図:当てはめの2ケース
- ケース1=Aは、Bに金銭を貸しているだけ(今日の設例)→土地についてまだ何もしていない→第三者にあたらない→Cは無効をAに対抗できる→代位請求は認められない
- ケース2=AはBからこの土地を買った人→嘘の外形を土台に新たに権利を取得→第三者にあたる(善意なら)→Cは無効を対抗できない→代位できる
- 整理=被保全債権が金銭債権ならあたらない/この土地についての権利ならあたる
- 補足=登記がB名義で、貸主がその土地を差し押さえたなら第三者にあたる
ケース1です。Aは、Bに金銭を貸しているだけです。今日の設例です。AはBの全財産を当てにしているだけで、この土地そのものについては、まだ何もしていません。嘘の外形を土台にして、新しく権利を取得したわけではありません。だから、Aは第三者にあたりません。Cは、無効をAに対抗できます。贈与が無効なら、土地はCのもののままです。Bは、Cに登記を求める権利を、そもそも持っていません。Aが代わりに使う権利が無いので、代位請求は、認められません。ケース2です。AがBから、この土地を買った人だとします。Aは、Bに対して、土地の引渡しや登記を求める権利を持っています。AはBが土地をCから得た、という外形を信じて、新しく権利を取得しました。だから、善意であれば、第三者にあたります。Cは、無効をAに対抗できません。Aに対しては、贈与が無効だと言えないので、Bに登記を求める権利が無い、とも言えません。だから、Aは代位できます。補足です。かりに登記がすでにB名義に移っていて、貸主がその土地を実際に差し押さえたなら、土地について新たに関わったので、第三者にあたります。
94条2項が守るのは、嘘の外形を信じて、新たに取引に入った人だからです。代位は、Bの権利をBに代わって使うだけで、それだけでは、Aが新たに取引に入ったことになりません。ただの貸主は、嘘があってもなくても、立場が変わりません。守る理由がないのです。整理します。被保全債権が金銭債権なら、第三者にあたりません。被保全債権が、この土地についての権利なら、あたります。根拠の種類は、2つに分かれます。Cの抗弁が通ることは、423条の4と94条1項の条文どおりです。Aが第三者にあたるかは、定義の当てはめで、解釈です。
債務者の処分権限——代位が始まっても、Bは動ける
図:債務者の処分権限
- A⇢Cの請求に加えて、B→C(請求可)、C→B(履行可)
- 右に差押えとの対比
- 差押え(差押命令)=債務者には取立てその他の処分を禁止、第三債務者には債務者への弁済を禁止(民事執行法145条1項)
- 代位=その効果が無い→債務者の手を縛らない
4つめの問いです。代位が始まったあと、Bはまだ動けるのか。条文を読みます。
条文民法423条の5
民法第423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。 この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。
ここでも、相手方とは、第三債務者のCです。前段は、AがCに請求したあとでも、Bは、自分でCに請求してよい、という意味です。取立てその他の処分とは、取り立てることのほか、債権を免除したり譲渡したりすることも含みます。後段は、CはBに払っても、Aの請求に邪魔されない、という意味です。数値例に戻します。AがCに請求したあとでも、Bは、自分でCに請求できます。Cも、Bに払えば、債務を免れます。代位が始まったら債務者はもう手を出せなくなる、という考え方は、以前の判例の扱いと同じでした。以前の判例は、代位債権者が代位行使に着手し、そのことが債務者に通知される、または債務者がそのことを知ったときは、債務者は、取り立てたり処分したりできなくなる、としていたのです。2017年の改正は、この扱いを改めました。条文のとおり、債務者の処分権限は残ります。改めた理由は、3つ考えられます。1つめ、裁判所が関わらないまま、通知しただけ、知っただけで、債務者が処分権限を失うのでは、債務者の地位が不安定すぎます。2つめ、債務者の処分権限を奪うほどの強い効果がほしい債権者は、仮差押えや差押えの手続を取るべきです。3つめ、そもそも代位権は、債務者の権利行使のうまいへたに干渉できず、債務者が自ら行使しない場合に限って認められるものです。条文は、代位行使が裁判上か裁判外かで区別していません。差押えと対比します。差押命令が出ると、債務者は、取立てその他の処分を禁止されます。第三債務者は、債務者への弁済を禁止されます。民事執行法145条1項です。代位には、この効果がありません。代位は、債務者の手を縛らない。ここが、差押えとの違いです。
Bの処分権限が残るので、Dも、Cへの同じ債権を差し押さえたり、代位して行使したりできます。ただし、訴訟には、すでに裁判所で審理されている事件について、重ねて訴えを起こすことはできない、という決まりがあります。重複する訴えの禁止といい、民事訴訟法142条です。Aの代位訴訟がすでに起きているのに、別の債権者が重ねて代位訴訟を起こすことは、これに触れうると考えられています。Bが自分で別の訴えを起こす場合にも、同じ型の問題があります。これらは、民事訴訟の回で扱います。代位訴訟を起こしたときの、Bへの訴訟告知は、前回の423条の6で見ました。判決の効力が、Bに及びうることも、そのときに見たとおりです。
事実上の優先弁済は、いつでも実現するわけではない
図:競争の数値例
- 3つの流れ
- ①CがBに先に払う(またはBがCから取り立てる)→被代位権利が消える→Aの代位請求は空振り(弁済・423条の4)②Dが先に同じ債権を差し押さえる→CはBに払えない(民事執行法145条1項)③Aが先に受領して相殺まで済ませる→A100万円・Dは残り100万円
処分権限が残ることから、さきほどの事実上の優先弁済に、重要な帰結が出ます。いつでも実現するわけではない、ということです。3つの流れを見ます。1つめ、AがCから受け取る前に、BがCから200万円を取り立てる、あるいはCがBに払ってしまう。すると、被代位権利が弁済で消えます。Aの代位請求は、空振りです。2つめ、Dが先に、同じ債権を差し押さえます。すると、CはBに払えなくなります。差押えの効力です。3つめ、Aが先に受領して、相殺まで済ませます。この場合に限って、さきほどのとおり、Aは貸金の全額を回収します。
事実上の優先弁済は、法律上の優先権ではないので、実現するかどうかは、競争の結果です。ここまで来て初めて、事実上の、という言葉の意味が腹に落ちます。
時効——代位行使で動くのは、どちらの債権か
図:時効の板
- 被代位権利(B→C)=訴えを起こしたなら裁判上の請求(147条1項1号)で完成猶予、権利が確定すれば更新(147条2項)
- 裁判外で請求したなら催告(150条1項)で6か月を経過するまで完成が猶予される(更新ではない)
- 被保全債権(A→B)=争いあり
- 動くとする立場=Aは自分の債権を守るために動いている
- 動かないとする立場=行使されているのは被代位権利
- どちらで書くにしても理由を添える
最後に、時効です。先に、言葉を2つ呼び戻します。時効の回で見たとおり、完成猶予は、時効の完成が後ろへずれるだけです。更新は、それまでのカウントがリセットされて、新しい期間が走り出します。では、代位行使で、時効が動くのは、どちらの債権でしょうか。1つめは、被代位権利、つまりBのCに対する債権です。こちらは動くことが確実です。条文の切り分けは、2つです。訴えを起こしたなら、裁判上の請求として、147条1項1号により、完成が猶予されます。判決などで権利が確定すれば、147条2項により、更新されます。訴えを起こさず、裁判外で請求したなら、催告にあたります。催告とは、裁判の外で、払ってくださいと伝えることでした。150条1項により、そのときから6か月を経過するまで、完成が猶予されます。こちらは、後ろへずれるだけで、更新ではありません。
2つめは、被保全債権、つまりAのBに対する貸金です。こちらは、争いがあります。時効の回で、代位訴訟の図を使って見た争いです。動くとする立場の理由は、Aは自分の貸金を守るために動いているのだから、眠っていない、というものです。動かないとする立場の理由は、代位訴訟で実際に請求しているのは被代位権利のほうで、被保全債権を請求しているわけではない、というものです。どちらの言い分にも、理由があります。答案では、どちらの立場で書くにしても、理由を添えてください。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:まとめの表。行=原則と例外(423条の3)/受け取った後(返還債務→相殺)/相手方の抗弁(423条の4・94条2項)/債務者の処分権限(423条の5)/時効。列=中身/根拠の種類(条文どおり・解釈)。
冒頭の問いに戻ります。取り立てた100万円を、Aは手元に置いてよいのか。Dは、黙っているしかないのか、でした。答えです。取り立てた100万円は、本来はBに入るはずのお金です。Aは、Bに返す債務を負います。しかし、自分の貸金100万円と相殺して、結果として手元に置けます。これが事実上の優先弁済です。趣旨とずれるという批判はありますが、2017年の改正は、禁じませんでした。ただし、Bは動けます。Cが先にBに払えば、Aの請求は空振りになります。Dが先に差し押さえれば、CはBに払えません。Aが貸金の100万円を回収できるかどうかは、競争の結果です。Dも、Cへの残りの100万円に、差押えをかけられます。今日の軸を、もう一度つなぎます。代位は、Bの権利をAが使うだけです。権利の持ち主は、あくまでBです。だから、払い先は、Bが原則です。Cの抗弁は、Bに言えることと同じです。Bの処分権限は、残ります。その中で、金銭と動産だけは、自分に払わせることができます。条文どおりなのは、423条の3、423条の4、423条の5です。解釈なのは、返還債務、相殺できること、そして94条2項の第三者への当てはめです。この区別が、答案の書き方の違いになります。受け取った金銭の扱いは、論文で論点になりうる部分です。
参照条文
- 民法423条の3
- 民法703条
- 民法423条の4
- 民法423条の5