定期建物賃貸借と造作買取請求権
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第5章 契約 #269/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
「2年で終わり」と書いた契約書
図:冒頭の設例 2年・更新なしの契約書
- 建物の持ち主A(大家)と借りているB
- AからBへ契約書「2年・更新なし」
- BからAへ「2年で必ず出る?」「エアコン代は?」
- 契約書には「造作の買取りは請求しません」の一文もある
- Bは、Aの了解を得てエアコンを付けた
登場人物に記号を付けます。Aが、建物を貸している大家です。Bが、借りている人です。前の回で見たとおり、普通の借家は、大家が出てもらうのに正当事由が要り、更新拒絶の通知をしなければ、法定更新されます。借りている人を守る関所が、大家の側にだけ置かれていました。では、最初から確実に終わる借家は、作れないのでしょうか。作れます。ただし、専用の仕組みと、厳しい方式が要ります。先に、答えの方向を言います。契約書の作り方しだいで、2年で終わることもあれば、出なくてよいこともあります。分かれ目は、契約書とは別の紙で、事前に説明したかどうかです。エアコンのほうは、大家の了解を得て、付けたものですから、買取りを請求できる場面です。ただし、請求しないという約束が有効かどうかが、別に問題になります。最後に、この問いに答えます。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図 5つの柱
- 1=定期建物賃貸借の4要件(38条1項〜4項)
- 2=説明を欠いた効果(38条5項)と判例
- 3=終了の通知(38条6項)と定期借地権との対比
- 4=造作買取請求権(33条)
- 5=任意規定(37条)と建物買取請求権との対比
順番は5つです。1つめ、定期建物賃貸借の4つの要件。2つめ、説明を欠いたときの効果と、判例。3つめ、終了の通知と、定期借地権との比較。4つめ、造作買取請求権。5つめ、その請求を特約で外せるのかという話と、建物買取請求権との比較表です。軸は2本です。1本め、定期借家は、更新がない代わりに、方式が厳しい借家です。借地の定期借地権と、同じ作りです。2本め、造作の買取りは、付け足した設備の精算なので、契約で調整することが許されています。住まいそのものを守る建物買取請求権とは、そこが違います。借地借家法は、個別の法律です。条文の字面を丸暗記する必要はありません。覚えるのは、要件と結論です。
定期建物賃貸借の4要件

普通の借家では、「更新しない」と契約書に書いても、借りている人に不利な特約として、30条により無効でした。この例外を、38条が開きます。更新がないと決められる借家を、定期建物賃貸借と呼びます。以下、定期借家と言います。
条文借地借家法38条1項・2項
借地借家法第三十八条(第一項・第二項) 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。 2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。
条文借地借家法38条3項〜5項
借地借家法第三十八条(第三項・第四項・第五項) 3 第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。 4 建物の賃貸人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって法務省令で定めるものをいう。)により提供することができる。この場合において、当該建物の賃貸人は、当該書面を交付したものとみなす。 5 建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
読み方です。1項は、期間の定めがある建物の賃貸借を、書面で契約するときに限り、更新がない旨を定められる、という意味です。3項は、貸す側が、契約の前に、更新がなく期間の満了で終わることを書いた書面を渡して、説明しなければならない、という意味です。5項は、その説明をしなかったら、更新がない旨の定めが無効になる、という意味です。
図:定期建物賃貸借の4要件
- 1=期間の定めがある
- 2=契約の更新がないこととする旨の特約
- 3=書面で契約する(電磁的記録でもよい・38条2項)
- 4=あらかじめ、更新がなく期間の満了で終わる旨を記載した書面を交付して説明する(承諾を得た電磁的方法による提供でもよい・38条4項)
- 4つ揃うと、更新のない借家
ここが、覚える中心です。要件は4つです。1つめ、期間の定めがあること。2つめ、更新がない旨の特約をすること。3つめ、書面で契約をすること。4つめ、貸す側が、契約の前に、更新がなく期間満了で終わることを書いた書面を渡して、説明することです。補足を3つ言います。1つめ、書面は、公正証書に限りません。ふつうの契約書で足ります。2つめ、電子の契約も、書面とみなされます。3つめ、事前の説明の書面も、借りる人の承諾を得れば、交付の代わりに、電子の提供でかまいません。ここは、紙でも電子でもよい、とだけ押さえてください。期間の定めは、1年未満でもかまいません。普通の借家では、1年未満は期間の定めなしとみなされましたが、1項の後段が、その扱いを外しています。上限もありません。
書面で契約するだけでは、足りません。4つめの要件が、別に必要です。理由は、更新がない借家は、借りている人にとって大きな不利益だからです。普通の借家なら守られる住まいが、期限で必ず失われます。ですから、契約書に署名する前に、その不利益を、別の紙で、はっきり示させるのです。入場券にたとえます。期限の日付が印字してあるだけでは足りず、入口で、「この券は期限が来たら使えません」と書いた紙を渡して、読み上げさせる、という仕組みです。
図:定期借家が成立する例と成立しない例
- AがBに3年で貸す
- 契約書=例1は更新しない旨を書いた/例2は更新しない旨は契約書にだけ書いてある
- 契約前の別の紙での説明=例1は「更新がなく3年で終わる」と書いて渡し、説明した/例2は別の紙での説明はない
- 結論=例1は定期借家が成立、3年が来れば正当事由なしに終わる/例2は4つめの要件が欠ける
境目のペアで考えます。Aが、Bに、3年の約束でマンションを貸します。契約書には、更新しない旨を書きました。そして、契約の前に、Aは、「この契約は更新がなく、3年で終わります」と書いた別の紙をBに渡して、口頭でも説明しました。これは、定期借家です。3年が来れば、Aは、正当事由を示さなくても、終わらせられます。前の回で見た、正当事由と更新拒絶の通知という関所は、出番がありません。一方、同じ契約書でも、別の紙での説明がなければ、4つめが欠けています。決め手は、契約の前に、別の紙で、更新がないことを説明したかどうかです。契約書に何と書いてあるかは、決め手になりません。
説明を欠いた効果と判例
図:説明を欠いた効果
- 38条5項
- 説明をしなかった=更新がない旨の定めが無効(38条5項)。無効になるもの=「更新がない旨の定め」だけ、賃貸借契約そのものは有効。その後=期間の定めがある普通の借家に戻る、期間満了時は26条(法定更新)・28条(正当事由)が働く。
4つめの要件を欠いたら、どうなるのでしょうか。5項の効果です。更新がない旨の定めが、無効になります。無効になるのは、その定めだけです。賃貸借の契約そのものは有効です。つまり、期間の定めがある普通の借家に戻ります。期間が満了しても、通知の時期に更新拒絶の通知がなければ、法定更新です。法定更新されると、その後は、期間の定めのない借家になります。通知をしても、正当事由が要ります。前の回で見た借家の保護が、そのまま働きます。別の紙での説明がなければ、大家さんの請求は、通らない方向です。この点を扱った判例があります。事案から見ます。
図:判例の事案 5年の賃貸借
- 賃貸人Aから賃借人Bへ、
- ①5年の賃貸借(契約書に更新なしの条項)、
- ②契約書の原案を送付(Bは検討した)、
- ③期間満了後に明渡請求
- 契約書は「定期建物賃貸借契約書」と題する書面
- 別の紙での説明はない
事案です。賃貸人が、「定期建物賃貸借契約書」という題の書面で、5年の賃貸借をしました。契約書には、更新がなく期間の満了で終了する、という条項がありました。契約の前に、賃貸人は、同じ内容の契約書の原案を賃借人に送り、賃借人は、それを検討していました。しかし、別の紙で説明した事実はありません。期間が終わって、賃貸人は、明渡しを請求しました。2段目の裁判である控訴審は、賃借人が内容を分かっていたのだから、別の紙を渡す必要性は極めて低い、として、賃貸人の請求を認めました。最高裁は、これを是認しませんでした。判旨を読みます。
判例最判平24・9・13 民集66巻9号3263頁
事前説明の書面は契約書とは別個独立でなければならない 以上のような法38条の規定の構造及び趣旨に照らすと,同条2項は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃貸人において,契約書とは別個に,定期建物賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上,その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。 そして,紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると,上記書面の交付を要するか否かについては,当該契約の締結に至る経緯,当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく,形式的,画一的に取り扱うのが相当である。 したがって,法38条2項所定の書面は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。
読み方です。判決は、事件当時の条文番号で書かれています。判決の2項は、今の38条3項の、事前の説明の書面にあたります。結論は、事前説明の書面は、賃借人が更新がないことを分かっているかどうかにかかわらず、契約書とは別個独立の書面でなければならない、ということです。決め手は、紛争を防ぐための、形式的で画一的な扱いです。賃借人が分かっていたかどうか、契約までにどんな経緯があったかを、後から個別に争わせると、更新の有無をめぐる争いが絶えません。そこで、別の紙があるかどうかという、外から見て分かる基準に、一本化したのです。この事件では、契約書の原案は、契約書とは別個独立の書面とは言えない、とされました。ほかに、書面を交付して説明した事実もありません。したがって、更新がない旨の定めは無効となり、定期借家ではなく、約定の期間が過ぎた後は、期間の定めのない賃貸借として更新されます。賃貸人の明渡請求は、認められませんでした。逆に、契約書とは別の紙を渡して説明していれば、契約書のほうに同じ条項が書いてあっても、かまいません。先ほどの3年の例が、それです。この判例が退けたのは、契約書や、その原案で、別の紙の代わりにすることです。ここは、論文で論点になりうるところです。立ち止まって考えてみましょう。契約書に「更新しない」と大きく書いてあり、契約の前に、契約書の案も送って読んでもらっていました。ただ、別の紙での説明はしていません。更新がない旨の定めは、有効でしょうか?
無効です。事前の説明の書面は、契約書とは別個独立でなければならず、契約書の案を送っただけでは、足りないからです。無効になるのは、更新がない旨の定めだけで、期間の定めがある普通の借家に戻ります。
終了の通知と定期借地権との対比
図:終了の通知
- 38条6項
- 満了日が基準。期間内に通知=満了の1年前〜6か月前に通知→満了で終了を対抗できる。期間を過ぎて通知=6か月前を過ぎてから通知→通知の日から6か月後に対抗できる。通知しない=期間が1年以上で通知なし→終了を対抗できない。※普通の借家の26条も1年前〜6か月前だが、通知しないと更新される。
4要件が揃えば、更新のない借家です。ここで、もう1つ手順があります。6項の、終了の通知です。期間が1年以上の定期借家では、貸す側は、期間の満了の1年前から6か月前までの間に、借りている人へ、期間の満了で終わる旨を通知しなければなりません。通知をしなければ、終了を借りている人に主張できません。ただし、遅れて通知をした場合は、その通知の日から6か月たてば、主張できます。期間が1年未満なら、この通知は要りません。例で確かめます。2年契約の定期借家で、大家が、満了の3か月前に、はじめて通知したとします。通知の時期の外です。しかし、通知の日から6か月がたてば、終了を主張できます。終わる日は、満了の日ではなく、通知から6か月後です。
条文借地借家法38条6項
借地借家法第三十八条(第六項) 6 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
数字は同じでも、効果が違います。普通の借家では、時期に通知をしなければ、契約が更新されます。定期借家では、通知を忘れても、更新はされません。終了を主張できないだけで、遅れても、通知から6か月で終わります。更新がないことそのものは、変わりません。
条文借地借家法38条7項〜9項
借地借家法第三十八条(第七項・第八項・第九項) 7 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。 8 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。 9 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。
定期借家には、ほかにも項があります。7項は、居住用で床面積が200平方メートル未満の定期借家について、転勤や療養、親族の介護などのやむを得ない事情があるとき、借りている人から解約の申入れができ、1か月で終わる、というものです。中途で出ていける道が、借りている人にだけ開かれています。8項は、その6項と7項に反する、借りている人に不利な特約は、無効というものです。借賃の増減に関する9項は、別の回で扱います。
図:定期建物賃貸借の4要件
- 1=期間の定めがある
- 2=契約の更新がないこととする旨の特約
- 3=書面で契約する(電磁的記録でもよい・38条2項)
- 4=あらかじめ、更新がなく期間の満了で終わる旨を記載した書面を交付して説明する(承諾を得た電磁的方法による提供でもよい・38条4項)
- 4つ揃うと、更新のない借家
ここで、1問です。前の回で見た、普通の借家で、大家が更新を拒むには、何が要りましたか?満了の1年前から6か月前までの通知と、正当事由です。この2つの関所を、定期借家は、最初から外しています。その代わりに、方式が厳しいのです。借地にも、同じ作りの仕組みがありました。

並べます。一般の定期借地権は、期間が50年以上で、用途の制限はなく、書面の特約で、更新と、建物築造による延長と、買取請求をしないと決められます。定期借家は、期間の下限がなく、1年未満でもかまいません。用途の制限も、ありません。居住用でも事業用でもかまいません。方式は、書面の契約に加えて、事前の書面交付と説明が要ります。違いは2つです。借地は、期間が長い代わりに、事前の説明の規定がありません。借家は、期間の下限がない代わりに、事前の説明が必須で、欠くと更新がない旨の定めが無効になります。更新がない代わりに方式が厳しい、という同じ構図が、借地にも借家にもあります。
造作買取請求権
図:造作買取請求権の入口
- 33条
- 造作とは=借家人が、貸主の同意を得て、エアコンなど建物に付け足した設備。請求できるとき=借家が終わるとき。請求の中身=貸主に、時価で買い取れと請求できる。
ここからは、冒頭のエアコンの話です。ここで、借地の回を思い出してください。借地が更新されずに終わったとき、借地権者が地主に請求できることは、何でしたか?建物を時価で買い取れ、という請求です。形成権で、13条でした。借家にも、似た権利があります。
条文借地借家法33条
借地借家法第33条 建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。 2 前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。
読み方です。借りている人は、貸す側の同意を得て建物に付け足した、畳や建具などの造作があるとき、借家が期間の満了か解約の申入れで終わるときに、貸す側へ、その造作を時価で買い取れと請求できます。造作は、建物に付け足した設備を言います。エアコンや、作り付けの棚が、あたります。貸す側から買い受けた造作も、同じです。2項は、転借人と貸す側の間にも、準用する、という意味です。覚える中心は、3つです。1つめ、貸す側の同意を得て、付けた造作だけが対象です。同意なしに付けた造作は、対象外です。2つめ、借家が、期間の満了か解約の申入れで終わることです。3つめ、借りている人が、買取りを請求することです。
図:造作買取請求権の効果
- 借家人Bが「エアコンを時価で買い取ってください」と意思表示→AとBの間で、エアコンの売買が成立したのと同じ効果が生じる
- Aの承諾は不要(形成権)
- 対象=Aの同意を得て付けた造作だけ
- 対象外=同意なしに付けたエアコン
効果を言います。この請求は、形成権です。建物買取請求権と同じです。借りている人の一方的な意思表示だけで、造作の売買が成立したのと同じ効果が生じます。貸す側の承諾は要りません。価格は、時価です。具体例です。Bが、Aの了解を得て、エアコンを付けます。賃貸借が期間の満了で終わります。Bが「エアコンを時価で買い取ってください」と意思表示をすれば、AとBの間に、エアコンの売買が成立したのと同じ効果が生じます。Aが「要らない」と言っても、成立します。境目のペアです。Aの了解なしに、Bが勝手に付けたエアコンなら、この請求の対象外です。決め手は、貸す側の同意です。貸す側が了解していない設備まで、時価で買わされるのは、不公平だからです。
取り外して持ち帰ることも、できます。民法の賃貸借の回で見た、収去です。借りている人は、自分が付け足した物を、取り外して持ち帰れます。つまり、買い取らせるか、取り外して持ち帰るか、です。
任意規定と建物買取請求権との対比

次に、冒頭の問いの、特約の話です。借りている人に不利な特約を無効にする強行規定は、どの条文を守っているのでしょうか。
条文借地借家法37条
借地借家法第37条 第三十一条、第三十四条及び第三十五条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。
読み方です。37条が守るのは、31条、34条、35条です。33条の造作買取請求権は、入っていません。ですから、造作買取請求権は、任意規定です。「造作の買取りは請求しません」という特約は、借りている人に不利でも、有効です。対比のため、借地側の条文を確認します。
条文借地借家法16条
借地借家法第16条 第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。
建物買取請求権は、13条と14条です。13条は、借地権者が地主に請求するものです。14条は、借地上の建物を買い受けた人が、地主に請求するものです。この16条が、両方を守っています。買取請求はしない、という特約は、借地権者に不利なので、無効です。

表で並べます。建物買取請求権も、造作買取請求権も、価格は時価で、形成権です。違いは、対象と、特約です。建物買取請求権は、借地権が更新されずに終わったときに、建物その他を買い取らせます。造作買取請求権は、借家が期間の満了か解約の申入れで終わったときに、貸す側の同意を得て、付けた造作を買い取らせます。そして、特約での排除は、建物買取請求権はできず、造作買取請求権はできます。補足です。借地の定期借地権では、条文が自分で、買取請求をしない特約を認めていました。借地では、排除するのに、条文の根拠が要ります。借家の造作は、37条に入っていないので、根拠なしに排除できます。立ち止まって考えてみましょう。借りている人に不利な特約でも有効になるのは、建物買取請求権と造作買取請求権のどちらでしょうか?
造作買取請求権です。37条の強行規定に入っていないからです。
図:造作の代金と明渡し
- 造作の代金債権=造作に関して生じた債権で、建物に関して生じた債権ではない(最判昭29・1・14・民集8巻1号16頁)
- 代金と造作の引渡し=引換え
- 明渡しを拒めるか=造作の代金を理由には拒めない(最判昭29・7・22・民集8巻7号1425頁)
- 建物買取請求権の場合=建物の代金で敷地まで留めておける
最後に、請求したあとの扱いを、担保物権の回と、同時履行の回で見た結論だけ、呼び戻します。留置権は、ある物に関して生じた債権を持つ人が、払ってもらうまで、その物を留めておける権利でした。同時履行の抗弁は、対価になる給付どうしを、引換えにする権利でした。造作の代金は、造作に関して生じた債権で、建物に関して生じた債権ではありません。造作の売買で対価になるのも、造作の引渡しで、部屋の明渡しではありません。ですから、造作の代金と、造作の引渡しは、引換えです。しかし、造作の代金を理由に、部屋の明渡しは拒めません。留置権でも、同時履行の抗弁でも同じです。建物買取請求権の場合は、代金が建物そのものの代金なので、建物を留めておけます。建物を留めておけば、その下の敷地も、明け渡さずに済みます。そこが、対比です。
冒頭の問いの答え合わせ
図:今日のまとめ
- 1=定期借家の4要件(期間の定め・更新なしの特約・書面・事前の書面交付と説明)
- 2=説明がないと更新なしの定めは無効→普通の借家
- 事前説明の書面は契約書とは別個独立(最判平24)
- 3=期間1年以上は満了の1年前〜6か月前に終了の通知
- 欠くと対抗できない
- 4=造作買取請求権は、同意を得た造作だけ・形成権・時価
- 5=特約で排除できる
- 建物買取請求権は排除できない
今日の話を整理します。定期借家は、期間の定め、更新がない旨の特約、書面での契約、そして、契約の前に書面を交付する説明の4つが揃って成り立ちます。説明を欠くと、更新がない旨の定めが無効になり、普通の借家に戻ります。その書面は、契約書とは別個独立でなければなりません。期間が1年以上なら、貸す側は、満了の1年前から6か月前までに終了の通知をします。欠くと、終了を主張できません。造作買取請求権は、貸す側の同意を得た造作を、時価で買い取らせる形成権です。特約で排除できます。建物買取請求権は、排除できません。
図:冒頭の答え合わせ
- 別の紙での事前説明がある=2年で終わる、1年以上なので満了の1年前〜6か月前に終了の通知が要る
- 事前説明がない=更新なしの定めは無効→普通の借家、正当事由がなければ出なくてよい
- エアコン=同意を得た造作
- ただし「請求しません」の特約は有効→買取請求はできない
- 取り外して持ち出すことはできる
冒頭の問いの答えです。契約の前に、更新がなく2年で終わることを書いた別の紙で説明があり、書面で契約していれば、定期借家です。2年で終わります。正当事由も、法定更新も、出番がありません。ただし、期間が1年以上ですから、大家は、満了の1年前から6か月前までに終了の通知をする必要があります。別の紙での説明が無ければ、更新がない旨の定めは無効です。普通の借家に戻り、正当事由がなければ、出なくてかまいません。エアコンは、大家の了解を得て、付けた造作ですが、買取りを請求しない、という約束は有効です。ですから、買取代金は請求できません。ただし、取り外して持ち帰ることはできます。次の回では、借家の借り手が第三者に対して持つ力と、借賃の増減を見ます。
参照条文
- 借地借家法38条1項・2項
- 借地借家法38条3項〜5項
- 借地借家法38条6項
- 借地借家法38条7項〜9項
- 借地借家法33条
- 借地借家法37条
- 借地借家法16条