民法ゼロから民法#273

請負の報酬と目的物の所有権の帰属

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第5章 契約 #273/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

建てかけの家は誰のものか

冒頭の設例 工務店Aが、Bの土地に家を建てる請負を受けた。材料は全部Aが用意。家は完成したが、代金は半分しか受け取っておらず、鍵も渡していない。契約書に所有権の定めはない。この家は誰のものか。 図:冒頭の設例 工務店Aが、Bの土地に家を建てる請負を受けた

  • 材料は全部Aが用意
  • 家は完成したが、代金は半分しか受け取っておらず、鍵も渡していない
  • 契約書に所有権の定めはない
  • この家は誰のものか

登場人物に記号を付けます。Aが、家を建てる工務店で、仕事を請け負う側です。Bが、土地の持ち主で、家を注文した側です。この問いには、後半の所有権の話で答えます。先に言えるのは、材料を誰が出したかと、代金をどれだけ払ったかで、答えが変わりうる、ということです。前回は、請負とは何かを見ました。請負人は仕事の完成を約束し、有形物なら、完成の後に引渡しがあります。今日は、その続きで、お金と、途中でやめる場面と、できた物の行き先を見ます。

報酬はいつ払うのか

報酬の時系列(633条)。①仕事の完成(先に履行)→②引渡し=報酬の支払(同時履行・533条)。引渡しを要しない請負(講演など)=仕事を終わった後でなければ報酬を請求できない(624条1項を準用)。 図:報酬の時系列

  • 633条
  • ①仕事の完成(先に履行)→②引渡し=報酬の支払(同時履行・533条)。引渡しを要しない請負(講演など)=仕事を終わった後でなければ報酬を請求できない(624条1項を準用)。

最初に、前に見た同時履行の復習です。相手が自分の債務の履行を提供しないうちは、こちらも自分の債務の履行を拒める。この仕組みは何だったでしょうか?同時履行の抗弁権です。民法533条でした。これを使って、請負の報酬の支払時期を見ます。

条文民法633条

民法第六百三十三条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。

読み方です。本文は、物の引渡しを要する請負では、報酬は引渡しと同時に払う、という意味です。ただし書は、物の引渡しを要しないとき、つまり講演のような請負では、別の条文を借りてくる、という意味です。準用とは、本来は別の場面の条文を、必要な読み替えをして使うことです。借りてくる先の条文は、雇用の624条1項です。

条文民法624条1項

民法第六百二十四条第一項 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

この条文は、労働者を請負人に、労働を仕事に読み替えます。すると、請負人は、約した仕事を終わった後でなければ、報酬を請求できない、となります。順番は2段階です。まず、請負人の仕事の完成が先です。完成は、報酬より先に済ませる義務で、先履行と呼びます。完成の後に、請負の報酬の支払と、目的物の引渡しが同時になります。同時なので、同時履行の抗弁権が働きます。これが、請負の報酬と引渡しの同時履行です。冒頭の設例で当てはめます。家が完成しました。Bは、鍵の引渡しと引き換えに、代金を払います。Aは、代金を払ってもらうまで、引渡しを拒めます。逆に、講演のように引き渡す物がない請負は、講演を終えたあとで、報酬を請求します。

支払の時期は、契約で別に決めることができます。この条文が決めているのは、契約で特に決めなかったときの順番です。実際の建築では、着手のときや、棟上げ、つまり建物の骨組みが組み上がったときに、代金の一部を払う約束がよくあります。この点は、のちほど所有権の話に関わってきます。

完成しなかったときの報酬

完成しなかったときの報酬(634条)。場面=1号 注文者の責めに帰することができない事由で完成不能/2号 請負が仕事の完成前に解除された。要件=請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受ける。効果=その部分を仕事の完成とみなす。注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる。 図:完成しなかったときの報酬

  • 634条
  • 場面=1号 注文者の責めに帰することができない事由で完成不能
  • 2号 請負が仕事の完成前に解除された。要件=請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受ける。効果=その部分を仕事の完成とみなす。注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる。

請負の原則は、完成して初めて報酬、でした。では、完成する前に、仕事が続けられなくなったら、請負人は1円ももらえないのでしょうか?完成していなくても、できた分に見合う報酬は認めてよいのではないか。その考え方が、条文になっています。634条です。

条文民法634条

民法第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。 二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

読み方です。場面は2つです。1号は、注文者に帰責事由がない事情で、仕事を完成できなくなったとき。2号は、請負が仕事の完成前に解除されたときです。このどちらかで、さらに2つの要件がそろうと、効果が出ます。1つめの要件は、既にした仕事の結果のうち、切り分けられる部分、つまり可分な部分を、注文者が受け取れること。2つめは、それによって、注文者が利益を受けることです。効果は、その部分を仕事の完成とみなして、注文者が受ける利益の割合に応じた報酬を請求できる、というものです。本当は、全体としては完成していません。ただ、その切り分けられる部分は、完成したものとして扱う、ということです。完成した扱いになるので、その部分の報酬を請求できます。

物置3棟の設例(仮の数字)。3棟の物置を代金90万円で請負。2棟を引き渡せる状態にしたところで、地震で敷地が使えなくなった。注文者に原因はない。2棟分=切り分けられ、注文者の役に立つ。注文者が受ける利益の割合が仮に3分の2と評価されれば、報酬は60万円。 図:物置3棟の設例

  • 仮の数字
  • 3棟の物置を代金90万円で請負。2棟を引き渡せる状態にしたところで、地震で敷地が使えなくなった。注文者に原因はない。2棟分=切り分けられ、注文者の役に立つ。注文者が受ける利益の割合が仮に3分の2と評価されれば、報酬は60万円。

設例で確かめます。Aが、Bの敷地に物置を3棟建てる請負を、代金90万円で引き受けました。2棟を引き渡せる状態にしたところで、地震があって、敷地が使えなくなりました。Bに落ち度はありません。2棟分は、1棟ずつ使えるので、切り分けられます。しかもBの役に立ちます。可分で、利益がある、という要件を満たします。報酬の計算には、仮定を置きます。Bが受ける利益の割合が、全体の3分の2と評価されるとします。すると、報酬は60万円です。割合は、利益の割合です。仕事を何割やったか、ではなく、注文者がどれだけ得をするか、で測ります。

注文者が利益を受けない部分は、切り分けられても、報酬の対象になりません。注文者が利益を受けるとき、という要件があるからです。補足です。この規定は、2017年の改正で入りました。以前から判例は、請負が解除された場合でも、注文者が利益を受ける限り、その利益の割合に応じた報酬の請求を認めていました。改正は、その考え方を条文にしたものです。

誰の側の事情か

完成できなくなった原因が誰の側かで分ける。注文者の側にある=536条2項の法意に照らし報酬の全額を請求できる(自己の債務を免れて得た利益は注文者に償還)。注文者に原因がない(634条1号)=可分な部分の利益の割合。完成前の解除(634条2号)=可分な部分の利益の割合。 図:完成できなくなった原因が誰の側かで分ける

  • 注文者の側にある=536条2項の法意に照らし報酬の全額を請求できる(自己の債務を免れて得た利益は注文者に償還)
  • 注文者に原因がない(634条1号)=可分な部分の利益の割合
  • 完成前の解除(634条2号)=可分な部分の利益の割合

では、原因が注文者の側にあったら、どうなるか。その前に、もう1つ、復習をはさみます。債権者に帰責事由があって、債務を履行できなくなったとき、債権者は、反対給付を拒めたでしょうか?

条文民法536条2項

民法第五百三十六条第二項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

請負に当てはめると、536条2項の債権者は注文者、履行できなくなった債務は請負人が仕事を完成させる債務、反対給付は注文者が払う報酬です。振り分けの軸は1本です。完成できなくなった原因が、誰の側にあるか、です。原因が注文者の側にあるなら、注文者に帰責事由があります。このときは、536条2項の考え方に照らして、請負人は報酬の全額を請求できます。ただし、請負人が仕事をしなくて済んだ分で得た利益は、注文者に返します。注文者に原因がないなら、1号で、可分な部分の利益の割合だけです。双方に落ち度がないとき、一般のルールの536条1項なら、反対給付を拒めました。請負では、1号が、切り分けられる部分を完成とみなすので、その部分の報酬は請求できます。仕事が完成前に解除されたなら、2号で、同じく利益の割合です。

請負では、完成して初めて報酬を請求できるのが原則です。そのため、完成する前に、報酬請求権が生じているという前提で使う536条2項が、そのままは当てはまらない、と説明されます。それでも、完成を妨げたのは注文者自身です。債権者の帰責事由で履行できなくなったら反対給付を拒めない、という2項の考え方は、そのまま当てはまります。だから、条文そのものではなく考え方を借りて、結論は同じく全額が認められます。

定着の問い(振り分け)。物置の設例で、地震で完成できなくなった場合と、Bが工事を妨げて完成できなくなった場合を比べる。 図:定着の問い

  • 振り分け
  • 物置の設例で、地震で完成できなくなった場合と、Bが工事を妨げて完成できなくなった場合を比べる。

ここで1問です。物置の設例で、地震で敷地が使えなくなりました。AにもBにも落ち度はありません。Aの報酬は、どうなるでしょうか?注文者に原因がないので、634条1号です。2棟分の、利益の割合だけで、全額ではないと思います。では、Bが敷地での工事を妨げたせいで、完成できなくなったなら、どうでしょうか?原因が注文者の側にあるので、536条2項の考え方で、全額です。ただし、Aが3棟目の材料費や労力を免れたなら、その利益は、Bに返します。同じ完成不能でも、原因が誰の側にあるかで、全額か、利益の割合かが分かれます。

注文者はいつまでやめられるか

注文者の任意解除(641条)。仕事を完成しない間=いつでも・損害を賠償して解除できる。完成した後=641条では解除できない(引渡し前でも)。タイムライン=工事開始→(ここまで解除可)→完成→(引渡し前でも解除不可)→引渡し・報酬。 図:注文者の任意解除

  • 641条
  • 仕事を完成しない間=いつでも・損害を賠償して解除できる。完成した後=641条では解除できない(引渡し前でも)。タイムライン=工事開始→(ここまで解除可)→完成→(引渡し前でも解除不可)→引渡し・報酬。

次は、注文者のほうから、契約をやめる場面です。

条文民法641条

民法第六百四十一条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

読み方です。請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも、損害を賠償して、契約を解除できる、という意味です。理由も要りません。解除は、前に見た法定解除、つまり契約で決めていなくても、法律の規定で解除権が生まれる場合の一例です。だから条文は、損害を賠償して、という条件を付けています。趣旨は、次のように説明されます。注文者がもう必要としない仕事を、請負人に完成させ続けさせても、注文者にとっても社会にとっても意味がない。そこで、請負人に損失を負わせないことを条件に、解除を認める、という説明です。いつでも、というのは、完成した後も含めるのですか?含みません。条文は、完成しない間、と書いています。完成した後は、641条では解除できません。引渡しの前でも、できあがっていれば、もう解除できないと考えるのが、通説です。引渡しは付随的な義務で、費用もわずかなので、解除を認めても、注文者の利益はほとんどない、と説明されます。境目のペアで確かめます。家の完成前に転勤が決まったBは、損害を賠償して、解除できます。一方、家が完成して、鍵を渡す前に、気が変わったBは、もう641条では解除できません。代金は払います。

完成前の解除ですから、さきほどの634条2号の場面になりえます。既にした仕事のうち、可分な部分で注文者が利益を受けるなら、その部分は割合に応じた報酬になります。なお、委任にも、似た任意解除の仕組みがありますが、それは委任の回で扱います。

できた物は誰のものか ① 特約がないとき

できた物は誰のものか。建物は敷地とは別個の不動産。請負人が製作した完成した建物(建てかけの出来形部分を含む)の所有権は、注文者と請負人のどちらにあるか。 図:できた物は誰のものか

  • 建物は敷地とは別個の不動産
  • 請負人が製作した完成した建物(建てかけの出来形部分を含む)の所有権は、注文者と請負人のどちらにあるか

今日の中心の論点です。建物の建築の請負で、請負人が作った目的物の所有権は、注文者と請負人の、どちらのものになるでしょうか。建物は、敷地とは別の不動産です。完成した家だけでなく、建てかけの出来形部分、つまり工事の途中までにできあがった部分も、同じ問題になります。

材料基準の分岐図。特約があれば特約。特約がなければ、①代金の全額または大半を支払い済み→完成と同時に注文者が原始取得(大判昭18・7・20・最判昭44・9・12)、②そうでなければ材料の提供者で決める。注文者が材料の全部または主要部分を提供→注文者が原始取得(大判昭7・5・9)。請負人が材料の全部または主要部分を提供→請負人がいったん原始取得し、引渡しで注文者が承継取得(大判明37・6・22・大判大3・12・26)。 図:材料基準の分岐図

  • 特約があれば特約
  • 特約がなければ、
  • ①代金の全額または大半を支払い済み→完成と同時に注文者が原始取得(大判昭18・7・20・最判昭44・9・12)、
  • ②そうでなければ材料の提供者で決める
  • 注文者が材料の全部または主要部分を提供→注文者が原始取得(大判昭7・5・9)
  • 請負人が材料の全部または主要部分を提供→請負人がいったん原始取得し、引渡しで注文者が承継取得(大判明37・6・22・大判大3・12・26)

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例の立場)】特約があればそれによる。特約がなければ材料の提供者で決める。注文者が材料の全部または主要部分を提供した→注文者が原始取得。請負人が材料の全部または主要部分を提供した→請負人が原始取得し、引渡しで注文者が承継取得。ただし注文者が代金の全額または大半を支払っていたときは、完成と同時に注文者が原始取得する。 (論文の骨格。これは条文に書かれていない、判例の積み重ねで立てる規範)

判例の立場は、この順番です。まず、特約があれば、それによります。特約がなければ、材料を誰が出したかで決めます。注文者が材料の全部または主要部分を出していたなら、できた物は、注文者が原始取得します。原始取得とは、前の持ち主から譲り受けるのではなく、新しい物ができたときに、はじめから所有権を得ることです。請負人が材料の全部または主要部分を出していたなら、できた物は、請負人がいったん原始取得します。そして、注文者に引き渡すことで、注文者が承継取得します。承継取得とは、前の持ち主から権利を受け継ぐことです。請負人のものになる理由は、報酬を回収しやすくするため、と説明されます。引渡しを拒めることが、報酬を払ってもらうための手元の手段になるからです。ただし、例外があります。注文者が、請負代金の全額または大半を支払っていたときは、材料を誰が出していても、完成と同時に注文者が原始取得します。答案では、完成と同時に注文者が原始取得するとの、黙示の合意があったものと認める、という書き方をします。黙示の合意とは、口に出していなくても、事情から、そう合意していたと見ることです。

払ったお金の割合で、持ち主が変わる理由は何ですか?代金の大半を払ってきた注文者は、完成した物が自分のものになる前提でお金を出してきた、と見るのが自然だからです。決め手は、お金を出してきた人の通常の意思です。では、最高裁の判断を読みます。

判例最判昭44・9・12 集民96号579頁(最高裁判所第二小法廷)

代金の半額以上を棟上げまでに支払った注文者への建物の帰属 原審の適法に確定したところによれば、本件建物を含む四戸の建物の建築を注文した被上告人は、これを請け負つた上告人Aに対し、全工事代金の半額以上を棟上げのときまでに支払い、なお、工事の進行に応じ、残代金の支払いをして来たというのであるが、右のような事実関係のもとにおいては、特段の事情のないかぎり、建築された建物の所有権は、引渡をまつまでもなく、完成と同時に原始的に注文者に帰属するものと解するのが相当であるから、これと同旨の見地に立ち、本件建物の所有権は、昭和三九年三月末以前の、それが建物として完成したと目される時点において被上告人に帰したものとした趣旨と解される原審の判断は正当であつて、この点につき、原判決に所論の違法は認められない。それ故、論旨は採用することができない。

最判昭44・9・12の読み方。注文者=被上告人・請負人=上告人A。全工事代金の半額以上を棟上げの時までに支払い、その後も工事の進行に応じて残代金を支払ってきた→特段の事情のない限り、引渡しを待たず、完成と同時に原始的に注文者に帰属。注意①判決は材料を誰が出したかを書いていない②何割なら大半かの線は引いていない。 図:最判昭44・9・12の読み方

  • 注文者=被上告人・請負人=上告人A
  • 全工事代金の半額以上を棟上げの時までに支払い、その後も工事の進行に応じて残代金を支払ってきた→特段の事情のない限り、引渡しを待たず、完成と同時に原始的に注文者に帰属
  • 注意①判決は材料を誰が出したかを書いていない②何割なら大半かの線は引いていない

読み方です。判決文では、注文者が被上告人、請負人が上告人Aと書かれています。注文者は、全工事代金の半額以上を、棟上げまでに払い、その後も、工事の進行に応じて、残りを払ってきました。この事実関係のもとでは、特段の事情がない限り、建物の所有権は、引渡しを待たずに、完成と同時に、はじめから注文者のものになる、と判断しました。注意点が2つあります。1つめは、この判決は、材料を誰が出したかを書いていないことです。ですから、請負人が材料を出した事件だ、とは言えません。材料基準の原則に対する、代金の支払という例外を示した判決として、位置づけます。2つめは、半分が大半にあたるか、という線です。判決は、割合の線を引いていません。半額以上を棟上げまでに払い、その後も進行に応じて払っていた事案で、注文者のものと認めた、という判断です。

境目の具体例。材料の軸=Bが材料を全部用意→はじめからBのもの(注文者が原始取得)。代金の軸=Aが材料・Bの支払いは着手時の1割だけ→大半とはいえない→原則どおり引渡しまでAのもの。半分が大半にあたるかは事案ごとの判断。 図:境目の具体例

  • 材料の軸=Bが材料を全部用意→はじめからBのもの(注文者が原始取得)
  • 代金の軸=Aが材料・Bの支払いは着手時の1割だけ→大半とはいえない→原則どおり引渡しまでAのもの
  • 半分が大半にあたるかは事案ごとの判断

答えは、最後にまとめて出します。ここでは、順番だけ確かめます。特約はありません。材料はAが出しました。すると、原則では、完成した家は、まずAのものです。ただし、Bが代金の大半を払っていたなら、例外で、完成と同時にBのものになります。半分が大半かどうかは、事案ごとの判断です。例えば、木材も設備も、Bが全部用意して、Aは工事だけを引き受けたとします。材料の提供者はBなので、完成した家は、はじめからBのものです。逆に、材料はAが出し、Bが払ったのが着手のときの1割だけなら、大半とはいえないので、原則どおり、引渡しまではAのものです。以前、建前、つまり、まだ独立の不動産に至っていない建てかけの状態のものを、第三者が仕上げた事件で、加工の規定、246条で決めました。あれは、第三者が仕上げた場面です。今日は、注文者と請負人の間で、特約や、材料の提供者で、まず決まる場面です。

有力説との比較。判例=材料基準(請負人が材料を出せば請負人のもの)。有力説=注文者帰属説(どちらが材料を出しても注文者が原始取得)。理由①請負人は敷地の利用権がなく、所有権を得ても敷地の無権原占有を理由に収去を求められる運命で実益が乏しい。理由②注文者のものでも、請負人は同時履行の抗弁権(533条)・留置権(295条)・不動産工事の先取特権(327条・338条)で報酬を回収しやすくできる。 図:有力説との比較

  • 判例=材料基準(請負人が材料を出せば請負人のもの)
  • 有力説=注文者帰属説(どちらが材料を出しても注文者が原始取得)
  • 理由①請負人は敷地の利用権がなく、所有権を得ても敷地の無権原占有を理由に収去を求められる運命で実益が乏しい
  • 理由②注文者のものでも、請負人は同時履行の抗弁権(533条)・留置権(295条)・不動産工事の先取特権(327条・338条)で報酬を回収しやすくできる

学説にも、有力な考え方があります。注文者帰属説です。材料を誰が出しても、できた建物は、注文者が原始取得する、という説です。理由は2つです。1つめは、請負人が建物の所有権を得ても、敷地を使う権利がありません。敷地の持ち主である注文者から、建物を取り壊せと求められれば、従うほかなく、所有権を認める実益が乏しいことです。2つめは、建物が注文者のものでも、請負人は、同時履行の抗弁権、留置権、不動産工事の先取特権といった手段で、報酬を回収しやすくできるので、不都合がないことです。留置権と先取特権は、担保物権の回で見ました。比べ方は、こうです。判例は、材料を出した人のものです。有力説は、いつも注文者のものです。答案では、判例の立場を書き、有力説への目配りまで、で足ります。

できた物は誰のものか ② 一括下請負と特約

3者図。B=注文者、A=元請負人、D=下請負人。BとAの間=元請契約(中途で解除されたときの出来形部分は注文者Bの所有とする約定)。AとDの間=下請契約(工事を一括して下請け)。BとDの間=契約なし。Dが自分の材料で建前まで築造。Aが倒産し、BがAとの契約を解除。 図:3者図

  • B=注文者、A=元請負人、D=下請負人
  • BとAの間=元請契約(中途で解除されたときの出来形部分は注文者Bの所有とする約定)
  • AとDの間=下請契約(工事を一括して下請け)
  • BとDの間=契約なし
  • Dが自分の材料で建前まで築造
  • Aが倒産し、BがAとの契約を解除

ここからは、下請負が入った場面です。記号は前回と同じです。Bが注文者、Aが元請負人、Dが下請負人です。設例です。Bは、Aに家の建築を請け負わせました。AとBの契約には、中途で解除されたときの出来形部分は、注文者Bの所有とする、という約定がありました。ところが、Aは、この工事を、Dに一括して、つまり工事を丸ごと、下請けさせました。前回見たとおり、建設業法22条は一括下請負を禁じていますが、ここで問うのは、できた物が誰のものか、という民法の問題です。Dは、自分の材料で、建前まで築きました。その後、Aが倒産し、Bは、Aとの契約を解除しました。

自分で材料を出して作った下請負人が、元請契約の特約に縛られるのか。ここが問題です。特約は、AとBの間の約束です。契約の当事者でないDに、効力が及ぶのか。契約は当事者だけを拘束する、という原則との関係です。結論を、最高裁の判決で確かめます。

判例最判平5・10・19 民集47巻8号5061頁(最高裁判所第三小法廷)

元請契約の出来形部分の所有権に関する約定は、一括下請負人にも及ぶ 建物建築工事請負契約において、注文者と元請負人との間に、契約が中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する旨の約定がある場合に、当該契約が中途で解除されたときは、元請負人から一括して当該工事を請け負った下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造したとしても、注文者と下請負人との間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、当該出来形部分の所有権は注文者に帰属すると解するのが相当である。けだし、建物建築工事を元請負人から一括下請負の形で請け負う下請契約は、その性質上元請契約の存在及び内容を前提とし、元請負人の債務を履行することを目的とするものであるから、下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず、注文者のためにする建物建築工事に関して、元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはないからである。

最判平5・10・19の読み方。元請契約に「中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する」約定→一括下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造しても→注文者と下請負人の間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、注文者に帰属。理由=下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず、元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはない。 図:最判平5・10・19の読み方

  • 元請契約に「中途で解除された際の出来形部分の所有権は注文者に帰属する」約定→一括下請負人が自ら材料を提供して出来形部分を築造しても→注文者と下請負人の間に格別の合意があるなど特段の事情のない限り、注文者に帰属
  • 理由=下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場に立つものにすぎず、元請負人と異なる権利関係を主張し得る立場にはない

読み方です。元請契約に、中途で解除された際の出来形部分は注文者のものとする約定があり、契約が中途で解除されたときは、一括下請負人が自分の材料で作っていても、注文者と下請負人の間に格別の合意があるなど、特段の事情がない限り、出来形部分は注文者のものになる、という結論です。決め手は、理由の部分です。一括下請契約は、元請契約の存在と内容を前提にして、元請負人の債務を履行するための契約です。だから下請負人は、注文者との関係では、元請負人のいわば履行補助者的立場にすぎず、元請負人と異なる権利関係を主張できる立場にない、と言いました。前回、下請負人は履行補助者だと見ました。履行補助者とは、債務者が自分の債務を履行するために使う第三者のことです。Dは、Aの債務、つまりBの家を建てる債務を果たすために動いているだけです。そのAは、特約に縛られて、出来形部分を自分のものだとBに言えません。だからDも、Bとの関係では、Aと違う権利関係、つまり自分のものだ、とは言えない、という筋です。境目のペアで輪郭をつかみます。AB間に出来形部分は注文者のものという約定があり、Dが一括下請負で自分の材料で作った。これは、Bのものです。一方、BとDの間で、出来形部分はDのものとする、といった格別の合意があったなら、特段の事情にあたりえます。この場合は、結論が変わりえます。

最判平5・10・19の事実関係(あてはめの事情)。注文者は一括下請負を承諾していない・元請の倒産まで下請契約の存在を知らなかった・解除前に出来形部分の価格の2倍以上を元請負人に支払っていた→特段の事情はうかがえない。原審=特約は下請負人を拘束しない・246条で償金→最高裁が破棄。 図:最判平5・10・19の事実関係

  • あてはめの事情
  • 注文者は一括下請負を承諾していない・元請の倒産まで下請契約の存在を知らなかった・解除前に出来形部分の価格の2倍以上を元請負人に支払っていた→特段の事情はうかがえない。原審=特約は下請負人を拘束しない・246条で償金→最高裁が破棄。

この事件の事実関係も確認します。注文者は、一括下請負を承諾していませんでした。元請の倒産まで、下請契約の存在さえ知りませんでした。しかも、解除の前に、出来形部分の価格の2倍以上を、元請に支払っていました。判決は、特段の事情を窺う余地はない、としました。これらは、特段の事情がないことを確かめるあてはめの事情です。この事件では、原審が、特約は下請負人を拘束しない、出来形部分は下請負人のもの、と判断していました。別の業者が建物を仕上げたので、加工の規定、246条で、注文者に償金を払う義務がある、としたのです。最高裁は、これを破棄しました。246条や248条に進む前に、特約によって、出来形部分は、すでに注文者のものだった、という順番です。

補足意見(法廷意見とは別の、一裁判官の意見)。下請負人が出来形部分の所有権を得ても、敷地の利用権がないので、注文者に収去を求められれば従うほかない。所有権は代金債権確保の技巧的手段にすぎない。下請負人の保護は元請負人との関係で考えるべき。比喩=元請契約は親亀、下請契約は親亀の背に乗る子亀。 図:補足意見

  • 法廷意見とは別の、一裁判官の意見
  • 下請負人が出来形部分の所有権を得ても、敷地の利用権がないので、注文者に収去を求められれば従うほかない。所有権は代金債権確保の技巧的手段にすぎない。下請負人の保護は元請負人との関係で考えるべき。比喩=元請契約は親亀、下請契約は親亀の背に乗る子亀。

この事件には、1人の裁判官の補足意見があります。法廷意見とは別のものです。下請負人が出来形部分の所有権を得ても、敷地を使う権利がなく、注文者に出来形部分の収去を求められれば、従うほかない。所有権は、代金債権を確保するための技巧的な手段にすぎず、下請負人の保護は、元請負人との関係で考えるべきだ、という意見です。元請契約を親亀、下請契約を、親亀の背に乗る子亀にたとえていました。下請契約は、元請契約の上に乗ってはじめて成り立つ、というたとえです。所有権を認めても実益が乏しい、という点で、先ほどの注文者帰属説の最初の理由と、考え方が通じています。

冒頭の答え合わせ

冒頭の答え合わせ。特約なし・Aが材料を全部出した→引渡し前の家は原則Aのもの(引渡しで注文者Bが承継取得)。Bが代金の大半を払っていた→完成と同時にBのもの(半分が大半にあたるかは事案ごと)。契約に所有権の特約があればそれによる。 図:冒頭の答え合わせ

  • 特約なし・Aが材料を全部出した→引渡し前の家は原則Aのもの(引渡しで注文者Bが承継取得)
  • Bが代金の大半を払っていた→完成と同時にBのもの(半分が大半にあたるかは事案ごと)
  • 契約に所有権の特約があればそれによる

冒頭の問いの答えです。特約がなく、材料を全部Aが出したのなら、引渡し前の家は、原則としてAのものです。鍵を渡すことで、Bが承継取得します。ただし、Bが代金の大半を払っていたなら、完成と同時にBのものになります。半分が大半にあたるかは、事案ごとの判断で、判決は線を引いていません。もし契約に、所有権の特約があれば、それによります。さらに、一括下請負が入っても、元請契約に、中途で解除されたときの出来形部分は注文者のものとする約定があり、契約が中途で解除されたなら、特段の事情がない限り、出来形部分は注文者のものです。

今日のまとめ。①報酬=仕事の完成が先・引渡しと報酬は同時(633条)②完成しなかったとき=可分な部分で注文者が利益を受けるなら利益の割合に応じた報酬(634条)。原因が注文者の側なら536条2項の法意で全額③解除=完成しない間だけ・損害を賠償して(641条)④できた物=特約→材料の提供者→代金の大半を払えば完成と同時に注文者。一括下請負でも、元請契約に中途解除時の出来形部分の約定があり中途解除されたなら、特段の事情のない限り注文者に帰属。 図:今日のまとめ

  • ①報酬=仕事の完成が先・引渡しと報酬は同時(633条)②完成しなかったとき=可分な部分で注文者が利益を受けるなら利益の割合に応じた報酬(634条)
  • 原因が注文者の側なら536条2項の法意で全額③解除=完成しない間だけ・損害を賠償して(641条)④できた物=特約→材料の提供者→代金の大半を払えば完成と同時に注文者
  • 一括下請負でも、元請契約に中途解除時の出来形部分の約定があり中途解除されたなら、特段の事情のない限り注文者に帰属

今日の4つの問いを整理します。1つめ、報酬は、仕事の完成が先で、引渡しと報酬の支払が同時です。2つめ、完成しなかったときは、可分な部分で注文者が利益を受けるなら、その利益の割合で報酬を請求できます。完成できなくなった原因が注文者の側にあるなら、536条2項の考え方で全額です。3つめ、注文者の解除は、仕事を完成しない間だけ、損害を賠償して、できます。4つめ、できた物の所有権は、特約、材料の提供者、代金の大半の支払、の順で決まります。一括下請負でも、元請契約に、中途で解除されたときの出来形部分の約定があり、契約が中途で解除されたなら、特段の事情がない限り、出来形部分は注文者のものです。所有権の帰属は、論文で論点になりうるところです。

参照条文

  • 民法633条
  • 民法624条1項
  • 民法634条
  • 民法536条2項
  • 民法641条

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