民法ゼロから民法#274

請負人の担保責任と目的物の滅失・損傷

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第5章 契約 #274/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

引渡しの3日前に家が半壊した

冒頭の設例 AがBの土地に家を建てる請負を受けた。引渡しの3日前、ほぼ完成していた家を台風が襲い、半壊した。建て直せば完成できる。建て直しの費用は誰が持つのか。 図:冒頭の設例 AがBの土地に家を建てる請負を受けた

  • 引渡しの3日前、ほぼ完成していた家を台風が襲い、半壊した
  • 建て直せば完成できる
  • 建て直しの費用は誰が持つのか

記号を付けます。Aが、家を建てる工務店で、請負人です。Bが、土地の持ち主で、家を注文した側です。前回と同じ記号です。この問いには、後半で答えます。先に言えるのは、壊れた原因が誰の側にあるかと、完成がまだできるかで、答えが分かれる、ということです。前回は、報酬と、途中でやめる場面と、できた物の所有権を見ました。今日は、請負の締めです。できた物に欠陥があったときと、できる前に壊れたときを見ます。

担保責任は売買の規定を借りる

請負人の担保責任=売買の規定を借りる(559条)。読み替え=買主→注文者/売主→請負人/代金→報酬。追完=修補が中心/報酬減額/損害賠償/解除。

  • 請負人の担保責任=売買の規定を借りる(559条)
  • 読み替え=買主→注文者/売主→請負人/代金→報酬
  • 追完=修補が中心/報酬減額/損害賠償/解除

設例を替えます。Aは、Bの土地に家を建てて、完成させ、引き渡しました。ところが住み始めてから、床下の配管に施工のミスがあり、水が漏れることが分かりました。Bは、Aに何を言えるでしょうか?実は、専用の決まりはありません。売買の、契約不適合責任の規定を借ります。条文を出します。

条文民法559条

民法第559条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

読み方です。この節の規定とは、売買の規定です。請負は、報酬をもらって仕事をする、お金のやり取りがある契約、つまり有償契約です。だから、売買の契約不適合責任の規定、562条から564条が、読み替えて使われます。準用とは、別の場面の条文を、必要なところを読み替えて使うことでした。ただし書は、契約の性質が許さない場合の例外で、今日は、条文があることだけ覚えておいてください。読み替えは、買主が注文者、売主が請負人、代金が報酬です。対象は、引き渡された仕事の目的物が、種類や品質について、契約の内容に合わないことです。引渡しを要しない仕事なら、仕事が終わった時に合わないとき、になります。前に見た4つの救済を、請負の言葉で並べます。追完、報酬減額、損害賠償、解除です。売買の代金減額が、請負では報酬減額になります。追完は、請負では修補、つまり直してもらうことが中心です。方法の選び方も同じです。追完の方法は、まず注文者が選びます。ただし、注文者に不相当な負担を課さないなら、請負人は別の方法で直してもかまいません。報酬減額は、いきなりは言えません。相当の期間を定めて、追完を催告し、期間内に追完がないとき、不適合の程度に応じて請求します。催告なしで言える場面も、売買と同じです。損害賠償は415条、解除は541条と542条です。注文者に落ち度がある不適合は、追完も減額も解除も賠償も言えません。これも売買と同じです。

ここで、改正の話を1つします。以前の民法には、請負だけの決まりがありました。仕事の目的物に欠陥があるとき、修補や損害賠償を定める規定と、建物その他の土地の工作物については、解除できないとする規定です。2017年の改正で、この2つの規定は削られました。削られた結果、売買の規定を借りる形に一本化され、解除も541条と542条で判断されます。建物の請負でも、解除できます。不適合の程度によっては、です。軽い不適合まで解除できるわけではありません。解除の要件は、売買と同じ物差しで見ます。

修補に代わる損害賠償と報酬の相殺。Aの報酬債権300万円(受働債権)/Bの修補に代わる損害賠償債権100万円(自働債権)。両債権は同時履行の関係。対当額100万円で相殺→残り200万円。 図:修補に代わる損害賠償と報酬の相殺

  • Aの報酬債権300万円(受働債権)/Bの修補に代わる損害賠償債権100万円(自働債権)
  • 両債権は同時履行の関係
  • 対当額100万円で相殺→残り200万円

損害賠償について、1点だけ補足します。Bが引渡しを受けた家に施工のミスがあり、修補に代わる損害賠償として、100万円を請求できるとします。一方、Bは、報酬の300万円を、まだAに払っていません。同時履行の回で見たとおり、533条の括弧書きは、債務の履行に代わる損害賠償の債務も、同時履行の対象に含めています。だから、この2つは、同時履行の関係にあります。そこで問いです。Bは、この賠償の債権を使って、報酬と相殺できるでしょうか?相殺する側の債権、自働債権に、相手の抗弁権が付いていると、相殺は原則できません。相殺は、自働債権の履行を強制するのと同じで、相手が抗弁権を使う機会を奪うからでした。設例なら、Aは、報酬をもらうまで賠償は払わない、と言えるはずです。相殺されると、その言い分を使えないまま、賠償を払ったのと同じになります。ところが最高裁は、この場面では相殺を認めています。判決の言葉を出します。

判例最判昭53・9・21(集民125号85頁)

同時履行の関係にある報酬債権と修補に代わる損害賠償債権の相殺を認めた判決 以上のような実質関係に着目すると、右両債権は同時履行の関係にある(民法六三四条二項)とはいえ、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとは認められず、両債権のあいだで相殺を認めても、相手方に対し抗弁権の喪失による不利益を与えることにはならないものと解される。むしろ、このような場合には、相殺により清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を簡明ならしめるゆえんでもある。この理は、相殺に供される自働債権と受働債権の金額に差異があることにより異なるものではない。したがつて、本件工事代金債権と瑕疵修補に代る損害賠償債権とは、その対当額による相殺を認めるのが相当であり、右と同旨の原判決は正当として是認することができる。

読み方です。判決は、両債権が同時履行の関係にあるとしても、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益は認められず、相殺しても、相手に抗弁権の喪失による不利益を与えることにはならない、と述べています。さらに、相殺で清算するほうが、当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を簡明にする、とも述べています。なお、判決が挙げる634条2項は、改正前の条文で、改正で削られました。前回見た、いまの634条とは別の規定です。いまは、533条の括弧書きで同時履行の関係を説明します。設例なら、Bの賠償100万円が自働債権、Aの報酬300万円が受働債権です。対当額の100万円で相殺して、Bが払う報酬は、残り200万円です。

判決は、金額に差があっても、この理は変わらない、と述べています。ここでは、最高裁はこの場面で相殺を認めている、と押さえてください。抗弁権付きの自働債権は相殺できない、という原則に対する、請負での相殺の例外です。

固有の点1 直すのが大げさすぎるとき

追完の限界。不適合が重要でない+追完に過分の費用が必要→追完は不能にあたるとして扱い、412条の2第1項を当てて追完の請求を認めない。 図:追完の限界

ここからは、請負にだけ関わる3点です。1つめ。壁紙に、目立たないごく軽い色むらがありました。ところが、直すには、壁を全部剥がして張り直す大工事になります。それでも、Bは、直せ、と言えるでしょうか?直感のとおり、ここには限界があると整理されます。考え方は、こうです。不適合が重要でなく、しかも直すのに過分の費用がかかるときは、追完は不能にあたると解する。そして、履行不能の条文で、追完の請求を認めない。条文を出します。

条文民法412条の2第1項

民法第412条の2第1項 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

履行不能のところで見た条文です。不能とは、物理的にできないことだけではありません。契約と取引上の社会通念に照らして、もう求められないことも含みます。

⭐ 論文で書く規範:【規範(解釈で立てる)】不適合が重要でなく、かつ追完に過分の費用を要するときは、追完は不能にあたるとして扱い、412条の2第1項を当てて追完の請求を認めない。 (出どころ=条文に明文はない。履行不能の条文を当てはめる解釈(改正前の請負の規定の考え方を受けた処理))

この規範は、条文に直接書かれていません。履行不能の条文を、追完に当てはめた解釈です。ですから、答案では、解されます、という形で書きます。効果の範囲にも気をつけます。ここで否定されるのは、追完の請求だけです。報酬減額や損害賠償がどうなるかは、別に検討します。壁紙の例なら、Bは直せとは言えません。ただ、色むらの分の減額などを言えるかは、また別の問題です。具体例で、境界を比べます。同じ壁紙でも、指定した色とまるで違う色で、全面に張られていたとします。不適合は重要です。張り替えの費用が大きくても、追完は不能とは言えず、Bは、直せと言えます。重要でない軽い色むらで、直すと大工事になる例だけが、不能として否定されます。

固有の点2 注文者の材料と指図

636条の整理。原因=注文者の供した材料の性質/注文者の与えた指図→効果=追完・報酬減額・損害賠償・解除のいずれも不可。ただし書=請負人がその材料または指図が不適当であることを知りながら告げなかったとき→この限りでない(4つとも言える)。 図:636条の整理

  • 原因=注文者の供した材料の性質/注文者の与えた指図→効果=追完・報酬減額・損害賠償・解除のいずれも不可
  • ただし書=請負人がその材料または指図が不適当であることを知りながら告げなかったとき→この限りでない(4つとも言える)

2つめです。Bが設計図を持ち込みました。Aは、その図面のとおりに家を建てました。ところが、図面そのものに誤りがあり、雨漏りが出ました。Aは図面どおりに建てただけです。それでも、Bは、Aに追完や減額を言えるでしょうか? 条文を出します。

条文民法636条

民法第636条 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。

読み方です。原因が、注文者の供した材料の性質か、注文者の与えた指図であるとき。効果は、追完、報酬減額、損害賠償、解除の4つとも言えません。ここまでが本文です。ただし書は、逆転です。請負人が、その材料や指図が不適当だと知りながら、告げなかったときは、この限りでない。つまり、4つとも言えます。設例に当てはめます。Aが図面の誤りに気づかず、そのまま建てたなら、Bは4つとも言えません。Aが誤りに気づいていたのに、黙って建てたなら、ただし書で、Bの救済は残ります。ただし書の文言は、知りながら告げなかったとき、です。知らなかったときは、文言には含まれません。だから、気づけたはずなのに知らなかったAは、ただし書の外です。もう1点、要件の見方です。条文には、注文者に落ち度があること、は書かれていません。要件は、材料の性質か指図が原因であること、です。Bが、図面の誤りに全く気づいていなくても、原因が指図なら、本文は働きます。売買の回で見た562条2項は、買主に落ち度がある場合の規定でした。636条は、落ち度ではなく原因で線を引く、請負の規定です。

Aが気づいていたら(636条)。設計図の誤りに、Aは途中で気づいていたのに黙って建てた。Bは救済を言えるか。 図:Aが気づいていたら

  • 636条
  • 設計図の誤りに、Aは途中で気づいていたのに黙って建てた。Bは救済を言えるか。

ここで1問です。Bの設計図の誤りに、Aは途中で気づいていたのに、黙って建てました。Bは、救済を言えるでしょうか?ただし書にあたるので、言えます。知りながら告げなかった場合だけ、本文が外れます。

固有の点3 期間制限

売買と請負の期間制限の対比。売買(566条)/請負(637条)。対象=種類・品質/起算=知った時/期間=1年以内/通知で足りる/失うのは4つとも/例外の基準時=売買は引渡しの時・請負は引渡しの時(引渡しを要しない場合は仕事が終了した時)。 図:売買と請負の期間制限の対比

  • 売買(566条)/請負(637条)
  • 対象=種類・品質/起算=知った時/期間=1年以内/通知で足りる/失うのは4つとも/例外の基準時=売買は引渡しの時・請負は引渡しの時(引渡しを要しない場合は仕事が終了した時)

3つめの前に、前に見た売買の566条を思い出してください。買主が不適合を知ってから1年以内に、しなければ救済を失う行為は、何でしたか?売主への通知です。請求や訴えまでは要らなくて、不適合があることを伝えれば足りました。請負も、ほぼ同じ形です。条文を出します。

条文民法637条

民法第637条 前条本文に規定する場合において、注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。 2 前項の規定は、仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時)において、請負人が同項の不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、適用しない。

1項から読みます。対象は、種類又は品質の不適合です。数えるのは、注文者が不適合を知った時から1年です。その間に、請負人へ通知しないと、追完、報酬減額、損害賠償、解除の4つとも失います。起算点は、引渡しの日ではなく、知った時です。2項は例外です。請負人が、引渡しの時に、不適合を知っていたか、重大な過失で知らなかったなら、1項は適用されません。引渡しを要しない仕事では、仕事が終了した時に判断します。566条との違いは、この括弧書きの部分だけです。請負には、講演のように引渡しを要しない仕事があります。そこで、例外の判断の時点を、仕事が終了した時として補っています。中身は、売買と同じ形です。1年の理由も、売買と同じ2つと考えられます。引き渡した側の終わったという期待と、時間がたつと元からの不適合か見分けにくいことです。設例です。Bは、引渡しの2年後に、雨漏りに気づきました。そのまま半年放っておき、それから通知しました。数えるのは、気づいた日からです。引渡しから2年たっていても、この1年の枠については問題ありません。時効は、これとは別に進みます。気づいてから半年なので、1年の枠は、あと半年残っています。通知は間に合います。

原則として、4つとも失います。ただし、Aが引渡しの時に、雨漏りを知っていたか、重大な過失で知らなかったなら、2項により、1項は適用されません。Bの救済は残ります。

引渡し前に壊れた ① 完成できる場合

引渡し前の滅失・損傷=完成がまだ可能な場合。仕事完成義務は残る(632条)。追加費用は原因で3分岐。請負人の側→請負人が負担+遅れた損害の賠償(415条)/注文者の側→請負人に生じた損害の賠償の形で注文者が負担(415条)/どちらでもない→特約があればそれ・なければ請負人。

  • 引渡し前の滅失・損傷=完成がまだ可能な場合
  • 仕事完成義務は残る(632条)
  • 追加費用は原因で3分岐
  • 請負人の側→請負人が負担+遅れた損害の賠償(415条)/注文者の側→請負人に生じた損害の賠償の形で注文者が負担(415条)/どちらでもない→特約があればそれ・なければ請負人

ここから、2つめの問いです。冒頭の台風の話に戻ります。引渡しの前に、家が壊れたとき、まず確かめるのは、完成がまだできるか、です。建て直せば完成できるなら、請負人の、仕事を完成する義務は、消えません。前々回見たとおり、請負人は、632条で、仕事の完成そのものを約束しているからです。請負人は、建て直して完成させる義務を負い続け、注文者は、完成を請求できます。原因が誰の側にあるかで、3つに分かれます。1つめ、原因が請負人の側にあるとき。たとえば、Aの作業員の火の不始末で、家が半焼した場合です。建て直しは、完成の義務の内容ですから、Aの負担です。さらに、完成が遅れたことで、Bに損害が出れば、Aは415条で賠償します。2つめ、原因が注文者の側にあるとき。たとえば、Bが勝手に現場へ入り、足場を壊して家を傷めた場合です。このときは、建て直しの費用を、Aが全部背負うのは酷です。注文者のBも、Aの仕事を妨げてはならない義務を負う、と解されます。足場を壊すのは、その義務に背く不履行です。そこで、415条で、Aに生じた損害を賠償する、という形で、Bが追加の費用を負担する、と整理されます。3つめ、どちらの落ち度でもないとき。冒頭の台風が、この場面です。特約があれば、特約によります。特約がなければ、Aが負担します。建て直しは、仕事を完成する義務の内容だからです。

⭐ 論文で書く規範:【規範(解釈による整理)】引渡し前に滅失・損傷しても完成が可能なら、請負人の完成義務は残る。追加費用は、請負人の側に原因→請負人が負担/注文者の側に原因→請負人の損害として注文者が賠償/どちらでもない→特約があればそれ、なければ請負人が負担。 (出どころ=条文に直接の定めはない。完成義務(632条)を土台にした解釈による整理(と解される))

この3分岐は、条文に直接の定めがありません。完成義務を土台にした整理で、答案では、と解されます、と書きます。冒頭の答えです。台風は誰の落ち度でもなく、特約もなければ、Aが建て直しの費用を負担します。工務店には酷に見えますが、完成を約束したのはAで、引渡しの前は、まだ完成の義務の途中だからです。

引渡し前に壊れた ② 完成できない場合

原因が注文者の側なら(前回の振り分け)。完成できなくなった原因が注文者の側にあるとき、請負人の報酬はどうなるか。 図:原因が注文者の側なら

  • 前回の振り分け
  • 完成できなくなった原因が注文者の側にあるとき、請負人の報酬はどうなるか。

次は、請負の仕事完成不能の場合、つまり、完成そのものが、できなくなった場合です。その前に、前回の復習を1問です。完成できなくなった原因が、注文者の側にあるとき、請負人の報酬は、どうなるのでしたか?536条2項の考え方で、報酬は全額です。ただ、仕事をしなくて済んだ分の利益は、注文者に返します。今日は、原因を3つに分けて、一覧にします。完成できないなら、注文者は完成を請求できません。412条の2第1項の不能です。残る問いは、報酬と、損害賠償と、解除です。使う条文を、先に出します。

条文民法536条

民法第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。 2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

条文民法634条

民法第634条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。 二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。

完成できない場合の一覧表。縦=原因(請負人の側/注文者の側/どちらでもない)。横=報酬・損害賠償・解除。請負人の側=報酬なし(割合的報酬は別・634条1号)、賠償○、解除○。注文者の側=報酬全額(利益は償還)、賠償×、解除×。どちらでもない=報酬なし(割合的報酬は別・634条1号)、賠償×、解除○。 図:完成できない場合の一覧表

  • 縦=原因(請負人の側/注文者の側/どちらでもない)
  • 横=報酬・損害賠償・解除
  • 請負人の側=報酬なし(割合的報酬は別・634条1号)、賠償○、解除○
  • 注文者の側=報酬全額(利益は償還)、賠償×、解除×
  • どちらでもない=報酬なし(割合的報酬は別・634条1号)、賠償×、解除○

一覧表を、行ごとに読みます。1行目、原因が請負人の側にある場合です。報酬は、請求できません。請負の報酬は、仕事を完成して初めて請求できるので、完成できなければ、請求できないからです。ただし、可分な部分で注文者が利益を受けるなら、634条1号で、利益の割合の報酬は認められます。損害賠償は、請負人に原因があるので、注文者が言えます。解除も、履行不能なので、できます。542条1項1号です。

完成できない場合の一覧表(2行目=注文者の側 を強調)。報酬全額(利益は償還)、賠償×、解除×。 図:完成できない場合の一覧表

  • 2行目=注文者の側 を強調
  • 報酬全額(利益は償還)、賠償×、解除×。

2行目、原因が注文者の側にある場合です。たとえば、Bが工事を妨げて、Aを敷地に入らせず、家を完成できなくなった場合です。報酬は、536条2項の考え方に照らして、全額を請求できます。ただし、仕事をしなくて済んだ分の利益は、注文者に返します。前回の振り分けそのものです。損害賠償は、注文者には言えません。415条1項ただし書は、債務者のAに落ち度のない不履行なら、賠償させないからです。完成できないのは、B自身のせいです。解除も、注文者にはできません。543条は、原因を作った債権者には解除をさせない規定でした。解除で報酬の債務を消せるなら、全額を払わせる結論が崩れるからです。

完成できない場合の一覧表(3行目=どちらでもない を強調)。報酬なし(割合的報酬は別・634条1号)、賠償×、解除○。 図:完成できない場合の一覧表

  • 3行目=どちらでもない を強調
  • 報酬なし(割合的報酬は別・634条1号)、賠償×、解除○。

3行目、どちらの落ち度でもない場合です。たとえば、地震で敷地が崩れて、建て直しても家を建てられなくなった場合です。報酬は、危険負担の回で見た536条1項の考え方に照らして、注文者が支払を拒めるので、請求できません。ただし、1行目と同じく、可分な部分で注文者が利益を受けるなら、634条1号で、利益の割合の報酬があります。損害賠償は、誰にも落ち度がないので、できません。解除は、できます。解除は、相手に落ち度を問う道具ではなく、契約の拘束から解放する道具だからです。つながりは、注文者に原因があるかないか、です。注文者に原因がない行、つまり1行目と3行目が、634条1号の場面です。注文者の側に原因がある2行目だけが、536条2項の考え方で、全額になります。なお、解除をしたときの報酬は、634条2号です。完成前の解除で、可分な部分で注文者が利益を受けるなら、やはり利益の割合です。解除の条文には、1点だけ補足します。完全に完成できないなら、債務の全部の履行不能で、542条1項1号です。一部しかできず、残りだけでは契約の目的を達せないときの3号は、名前だけ出しておきます。

完成可能と完成不能の一覧。縦=原因(請負人の側/注文者の側/どちらでもない)。完成可能=追加費用の負担(請負人/注文者が賠償の形で/特約・なければ請負人)。完成不能=報酬・賠償・解除。 図:完成可能と完成不能の一覧

  • 縦=原因(請負人の側/注文者の側/どちらでもない)
  • 完成可能=追加費用の負担(請負人/注文者が賠償の形で/特約・なければ請負人)
  • 完成不能=報酬・賠償・解除

完成できる場合と、できない場合を、1枚に重ねます。請負人の側に原因があるなら、完成できても、できなくても、請負人が重い。注文者の側に原因があるなら、完成できても、できなくても、注文者が負担する。どちらでもないなら、完成できるときは、特約がなければ請負人が建て直し、完成できないときは、報酬は原則なしで、解除は可能、という形です。ここで1問です。建てかけの家が壊れて、完成できなくなりました。原因は、注文者の側にあります。請負人の報酬は、どうなるでしょうか? 注文者は、契約を解除できるでしょうか?報酬は、536条2項の考え方で全額で、利益は返します。解除は、543条で、できません。では、どちらの落ち度でもなかったなら、どうでしょうか?

報酬は請求できませんが、可分な部分で利益があれば、634条1号で割合的な報酬です。解除はできます。

引渡し後・受領遅滞後に壊れた

時間軸。仕事の完成→(履行の提供)→引渡し。引渡しの前=危険は請負人(双方に原因がなければ注文者は報酬を拒める)。履行の提供の後=受領遅滞中は引渡し後と同じ扱い(567条2項)。引渡しの後=危険は注文者(559条・567条1項)。 図:時間軸

  • 仕事の完成→(履行の提供)→引渡し
  • 引渡しの前=危険は請負人(双方に原因がなければ注文者は報酬を拒める)
  • 履行の提供の後=受領遅滞中は引渡し後と同じ扱い(567条2項)
  • 引渡しの後=危険は注文者(559条・567条1項)

最後は、引渡しの後です。1問です。売買で、引渡しの後に、どちらの落ち度でもない原因で物が壊れたとき、買主は代金を拒めましたか?拒めません。567条1項でした。請負は、559条で、この567条を借ります。条文を出します。

条文民法567条

民法第567条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。 2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。

買主を注文者に、売主を請負人に、代金を報酬に読み替えて読みます。引渡しの後に、どちらの落ち度でもない原因で、目的物が壊れたとき。注文者は、追完も報酬減額も損害賠償も解除も、言えません。報酬の支払も、拒めません。引渡しによって、危険が、請負人から注文者に移ったからです。売買で見たとおり、物を守れるのは手元に置いている人で、鍵を受け取った後の戸締まりも保険も、注文者にしかできません。受領遅滞の場合も同じです。請負人が、契約に合った目的物を引き渡そうと提供したのに、注文者が受け取らない、または受け取れないとします。その提供の後に、どちらの落ち度でもない原因で壊れたなら、引渡しのあとと同じ扱いです。引渡しがないので、1項は使えません。そこで2項が、引渡しのあとと同じ扱いにしています。前に見た、受領遅滞中の不能を、注文者の側の原因とみなす413条の2第2項と、同じ方向の考え方です。時間の軸にすると、こうです。引渡しの前は、危険は請負人にあり、どちらの落ち度でもなければ、注文者は報酬を拒めます。履行の提供の後の受領遅滞中は、引渡しのあとと同じです。引渡しの後は、危険は注文者にあります。売買の処理表と、同じ形です。

引渡しの3日前に壊れたので、危険は、まだ請負人にありました。もし引渡しの翌日に台風が来ていたなら、危険は注文者に移っているので、Bが損を負います。

冒頭の答え合わせとまとめ

冒頭の答え合わせ。台風で半壊・建て直せば完成できる・誰の落ち度でもない・特約なし→Aが建て直しの費用を負担。完成できないほど壊れたら→原因が請負人の側/注文者の側/どちらでもないで報酬・賠償・解除が分かれる。 図:冒頭の答え合わせ

  • 台風で半壊・建て直せば完成できる・誰の落ち度でもない・特約なし→Aが建て直しの費用を負担
  • 完成できないほど壊れたら→原因が請負人の側/注文者の側/どちらでもないで報酬・賠償・解除が分かれる

冒頭の問いの答えです。引渡しの3日前に、台風で半壊しました。建て直せば完成できて、どちらの落ち度でもなく、特約もなければ、建て直しの費用はAが持ちます。もし、完成できないほど壊れたなら、一覧表を使います。原因がAの側なら、報酬はなく、賠償と解除がある。Bの側なら、報酬は全額で、賠償と解除はない。どちらでもないなら、報酬は原則なく、賠償はなく、解除はある、という振り分けです。

今日のまとめ。問い1=担保責任は売買の準用(559条)+固有の3点(追完の限界=412条の2/注文者の材料・指図=636条/期間制限=637条)。問い2=完成可能=追加費用の3分岐/完成不能=報酬・賠償・解除の3分岐/引渡し後と受領遅滞後=危険の移転(567条)。 図:今日のまとめ

  • 問い1=担保責任は売買の準用(559条)+固有の3点(追完の限界=412条の2/注文者の材料・指図=636条/期間制限=637条)
  • 問い2=完成可能=追加費用の3分岐/完成不能=報酬・賠償・解除の3分岐/引渡し後と受領遅滞後=危険の移転(567条)

今日の2つの問いを整理します。1つめ、できた物に欠陥があったら、請負人の担保責任は、559条で売買の規定を借りて、追完、報酬減額、損害賠償、解除の4つです。建物でも、不適合の程度によっては解除できます。修補に代わる損害賠償は、報酬債権と同時履行の関係にあっても、最高裁は相殺を認めています。そこに、固有の3点が加わります。直すのが大げさすぎるときは、追完は不能として否定されます。注文者の材料や指図が原因なら、請負人が知りながら告げなかった場合を除いて、4つとも言えません。そして、知った時から1年以内に通知しないと、4つとも失います。2つめ、壊れたときは、まず完成がまだできるかです。できるなら、請負人が建て直す義務を負い続け、費用は原因で分かれます。できないなら、報酬、損害賠償、解除を、原因で分けます。引渡しのあとと、受領遅滞の後は、危険が注文者に移ります。完成できない場合の振り分けと、規範の書き方は、論文で論点になりうるところです。建物の基本的な安全性を損なう欠陥について、第三者に負う責任は、第6章で扱います。委任の場合の報酬は、委任の回で扱います。

参照条文

  • 民法559条
  • 民法412条の2第1項
  • 民法636条
  • 民法637条
  • 民法536条
  • 民法634条
  • 民法567条

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