民法ゼロから民法#277

寄託の意義・受寄者の義務・受取前の解除

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第5章 契約 #277/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

タダで預かった魚が死んでしまった

冒頭の設例 旅行に行く友人Aから、熱帯魚の水槽を無料で預かったB。自分の水槽と同じように世話をしていたのに、魚が死んでしまった。Bは弁償しないといけないか。 図:冒頭の設例 旅行に行く友人Aから、熱帯魚の水槽を無料で預かったB

  • 自分の水槽と同じように世話をしていたのに、魚が死んでしまった
  • Bは弁償しないといけないか

記号を付けます。預ける友人がA、預かる人がBです。先に結論を言います。自分の水槽と同じように世話をしていたなら、Bは弁償しなくてよい、というのが答えです。条文で確かめるのは、注意義務のところです。前回は、委任者の義務と、委任のやめ方を見ました。その最後に、委任の規定が寄託にも使われる665条は、次の寄託の回で見ます、と言いました。さらに、その前の委任の義務の回では、無償で物を預かる人は659条で自己の財産に対するのと同一の注意で足りる、と言いました。

寄託とは何か

寄託の定義(657条)。当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずる。預ける人=寄託者A、預かる人=受寄者B。 図:寄託の定義

  • 657条
  • 当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずる。預ける人=寄託者A、預かる人=受寄者B。

まず定義です。条文を出します。

条文民法657条

民法第657条 寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

読み方です。物を預ける人を寄託者、預かる人を受寄者と呼びます。設例では、Aが寄託者、Bが受寄者です。頼むのは、物を保管することです。保管という労務を、受寄者が提供する契約です。委任や請負と並ぶ、役務を提供する契約の1つです。寄託は、目的の違いで区別します。使用貸借は、物を使わせるのが目的でした。寄託は、保管させるのが目的です。あとで見る658条1項は、受寄者が勝手に寄託物を使うことを禁じています。ここが、使用貸借との境目の、条文の上の表れです。もう1つ、賃貸借との境目です。もっぱら保管のための場所を提供するだけで、保管という労務は提供しない、という形なら、寄託ではなく、場所の賃貸借にあたると考えられます。保管の労務を提供するかどうかで分けるのです。たとえば、ホテルのクロークに荷物を預けるのは、保管という労務を頼む形ですから、寄託の例です。

寄託の性質。諾成契約(委託と承諾の合意で成立)。報酬の特約がなければ→受寄者のみが保管・返還の義務を負う=片務・無償(665条が準用する648条1項=特約がなければ報酬を請求できない)。報酬の特約があれば→双務・有償。 図:寄託の性質

  • 諾成契約(委託と承諾の合意で成立)
  • 報酬の特約がなければ→受寄者のみが保管・返還の義務を負う=片務・無償(665条が準用する648条1項=特約がなければ報酬を請求できない)
  • 報酬の特約があれば→双務・有償

次に、性質です。報酬の特約がなければ、受寄者は報酬を請求できません。この根拠は、665条が準用する648条1項です。この場合、保管して返す義務を負うのは、受寄者だけです。寄託者に、対価を払う義務はありません。これを、片務で無償、と言います。報酬の特約があれば、受寄者は保管の義務を、寄託者は報酬の支払義務を負います。双務で有償です。片務か双務かは、互いに対価的な義務を負うかどうかで分かれます。Aが何も払わなければ、義務を負うのはBだけなので、片務です。報酬を払うなら、互いに義務を負うので、双務です。

寄託は諾成契約になった

要物から諾成へ(2017年改正)。改正前=物を受け取って初めて効力が生じる要物契約。改正後=委託と承諾の合意だけで成立する諾成契約(657条に「受け取る」の文言なし)。使用貸借・消費貸借と同じ流れ。帰結=受け取る前から契約が成立している→受け取る前に解除できるのは誰か。 図:要物から諾成へ

  • 2017年改正
  • 改正前=物を受け取って初めて効力が生じる要物契約。改正後=委託と承諾の合意だけで成立する諾成契約(657条に「受け取る」の文言なし)。使用貸借・消費貸借と同じ流れ。帰結=受け取る前から契約が成立している→受け取る前に解除できるのは誰か。

657条の文言をもう一度見てください。委託し、承諾することによって効力が生ずる、とあります。物を受け取ることは、成立の要件に入っていません。ですから、寄託は諾成契約です。約することで効力が生じる契約です。2017年の改正より前は違いました。物を受け取って初めて効力が生じる、要物契約でした。使用貸借や消費貸借でも、同じ流れがありました。変わったのは、契約が成立する時点です。要物契約は、物を受け取るまで、当事者を契約で縛らない作りです。消費貸借の回で見た、587条と同じです。改正前の条文では、AとBが旅行の前日に預ける約束をしても、Bが水槽を受け取るまでは、寄託の効力は生じませんでした。改正後は、約束した時点で、寄託が成立しています。改正前の規定については、現在の取引の実態とも合致していない、という指摘がありました。諾成になった帰結が大事です。物を受け取る前から、契約は成立しています。すると、受け取る前に、誰が契約をやめられるのかが問題になります。これは、最後の柱で見ます。寄託の成立と、次に見る受取前の解除は、論文で論点になりうるところです。

受寄者の義務① 使用の禁止と、人に預け直す限界

再寄託。A(寄託者)→B(受寄者)→C(再受寄者)。BがCに保管させるには、Aの承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければならない(658条2項)。再受寄者Cは、Aに対して、権限の範囲内でBと同一の権利を有し義務を負う(658条3項)。 図:再寄託

  • A(寄託者)→B(受寄者)→C(再受寄者)
  • BがCに保管させるには、Aの承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければならない(658条2項)
  • 再受寄者Cは、Aに対して、権限の範囲内でBと同一の権利を有し義務を負う(658条3項)

では、受寄者の義務を、順に見ます。1つめは、使ってはいけない、そして人に預け直してはいけない、という義務です。

条文民法658条

民法第658条 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用することができない。 2 受寄者は、寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、寄託物を第三者に保管させることができない。 3 再受寄者は、寄託者に対して、その権限の範囲内において、受寄者と同一の権利を有し、義務を負う。

1項は、使用の禁止です。預かった物は、寄託者の承諾がなければ、使えません。2項は、再寄託の制限です。受寄者が、預かった物を、第三者に保管させるには、条件が2つのうち、どちらかが必要です。寄託者の承諾を得たとき。または、やむを得ない事由があるときです。2017年の改正で、やむを得ない事由が加わりました。改正前は、寄託者の承諾を得た場合に限られていました。具体例です。Bが、旅行好きの友人Cに、水槽を転送して、世話を任せたとします。Aの承諾も、やむを得ない事由もありません。これは、2項に反します。Aが、いいよ、と言っていたなら、許されます。やむを得ない事由にあたりうるのは、委任の回と同じ例で言えば、Bが急に入院して、Aとも連絡が取れず、水槽の世話をする人がいない、というときです。入院しただけで、Aに連絡が取れるなら、まず承諾を求めます。3項です。再寄託で、保管を引き受けたCを、再受寄者と呼びます。Cは、Aに対して、権限の範囲内で、Bと同一の権利を有し、義務を負います。

委任との対比。委任=644条の2第1項(委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ復受任者を選任できない)/2項(代理権を付与する委任において、代理権を有する復受任者を選任したとき、委任者に対して、権限の範囲内で受任者と同一の権利を有し義務を負う)。寄託=658条2項(寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるとき)/3項(再受寄者は、寄託者に対して、権限の範囲内で受寄者と同一の権利を有し義務を負う)。 図:委任との対比

  • 委任=644条の2第1項(委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ復受任者を選任できない)/2項(代理権を付与する委任において、代理権を有する復受任者を選任したとき、委任者に対して、権限の範囲内で受任者と同一の権利を有し義務を負う)
  • 寄託=658条2項(寄託者の承諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるとき)/3項(再受寄者は、寄託者に対して、権限の範囲内で受寄者と同一の権利を有し義務を負う)

658条2項は、委任の復受任者の規定と同じ形です。前に見た644条の2を、もう一度出します。

条文民法644条の2

民法第644条の2 受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。 2 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。

644条の2の1項と、658条2項は、そっくりです。許諾か承諾か、やむを得ない事由か。違いは3項です。644条の2の2項は、代理権を付与する委任に限り、代理権を有する復受任者を選んだ場合の規定でした。一方、658条3項には、そうした限定の文言がありません。ですから、寄託では、再受寄者Cは、Aに対して、権限の範囲内で、Bと同じ権利義務を持ちます。委任で、条文がこの関係を定めているのは、代理権を持つ復受任者のときだけでした。

受寄者の義務② 注意義務 無償なら軽い

注意義務の対比。委任=644条は有償・無償を問わず善良な管理者の注意(無償でも軽くならない)。寄託=無報酬の受寄者は659条で自己の財産に対するのと同一の注意(軽い)/有償の受寄者は400条の善良な管理者の注意。 図:注意義務の対比

  • 委任=644条は有償・無償を問わず善良な管理者の注意(無償でも軽くならない)
  • 寄託=無報酬の受寄者は659条で自己の財産に対するのと同一の注意(軽い)/有償の受寄者は400条の善良な管理者の注意

2つめは、この回の核です。預かった物を、どれだけの注意で保管するのか。まず、軽い側の条文です。

条文民法659条

民法第659条 無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。

読み方です。報酬をもらわない受寄者は、自分の物に払うのと同じ注意で、預かった物を保管します。自分の物なら、ふだん自分がやっている水準で世話をする、ということです。では、有償の受寄者はどうか。659条は無報酬の受寄者だけの規定ですから、有償のときは、一般の原則です。400条を出します。

条文民法400条

民法第400条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

有償の受寄者は、400条の善管注意義務を負います。善管注意とは、その立場にいる標準的な人が払うべき注意でした。自分の物と同じ程度の注意で足りる659条は、この善管注意を軽くしたものです。委任との対比です。前に見た644条を出します。

条文民法644条

民法第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

644条には、有償に限る、という限定がありません。委任は、無償でも善管注意で、軽くなりません。寄託は、無報酬なら659条で軽くなります。無償でも重い委任と、無償なら軽い寄託。ここを対にして覚えてください。

注意義務の軽重の一覧。善管注意義務=特定物の引渡義務者(400条)/有償の受寄者(400条)/留置権者(298条1項)/質権者(350条→298条1項)/受任者(644条)/後見人(869条→644条)/後見監督人(852条→644条)/遺言執行者(1012条3項→644条)。自己の財産に対するのと同一の注意=無報酬の受寄者(659条)/受領遅滞後の特定物の引渡義務者(413条1項)。条文の言葉が少し違うもの=親権者(827条「自己のためにするのと同一の注意」)/限定承認者(926条1項「固有財産におけるのと同一の注意」)/相続を放棄した者(940条1項「自己の財産におけるのと同一の注意」)/相続人(918条「固有財産におけるのと同一の注意」・ただし書あり)。 図:注意義務の軽重の一覧

  • 善管注意義務=特定物の引渡義務者(400条)/有償の受寄者(400条)/留置権者(298条1項)/質権者(350条→298条1項)/受任者(644条)/後見人(869条→644条)/後見監督人(852条→644条)/遺言執行者(1012条3項→644条)
  • 自己の財産に対するのと同一の注意=無報酬の受寄者(659条)/受領遅滞後の特定物の引渡義務者(413条1項)
  • 条文の言葉が少し違うもの=親権者(827条「自己のためにするのと同一の注意」)/限定承認者(926条1項「固有財産におけるのと同一の注意」)/相続を放棄した者(940条1項「自己の財産におけるのと同一の注意」)/相続人(918条「固有財産におけるのと同一の注意」・ただし書あり)

注意義務の軽重を、一覧にします。善管注意義務を負うのは、特定物の引渡義務者の400条、有償の受寄者の400条、留置権者の298条1項、質権者の350条が準用する298条1項、受任者の644条、後見人の869条と後見監督人の852条が準用する644条、遺言執行者の1012条3項が準用する644条です。自己の財産に対するのと同一の注意で足りるのは、無報酬の受寄者の659条、受領遅滞後の特定物の引渡義務者の413条1項です。そのほか、親権者の827条、限定承認者の926条1項、相続を放棄した者の940条1項、相続人の918条も、同じ系統です。ただし、この4つは条文の言葉が少し違います。827条は、自己のためにするのと同一の注意。926条1項と918条は、固有財産におけるのと同一の注意。940条1項は、自己の財産におけるのと同一の注意です。後見人や親権者、相続の条文は、親族と相続の章で改めて出てきます。ここでは、条文の言葉が少し違う、という点だけ押さえてください。

定着の問い(注意義務)。同じ友人の水槽を預かるのでも、報酬をもらうペットホテルなら、求められる注意はどうなるか。 図:定着の問い

  • 注意義務
  • 同じ友人の水槽を預かるのでも、報酬をもらうペットホテルなら、求められる注意はどうなるか。

ここで1問です。同じ友人の水槽を預かるのでも、報酬をもらうペットホテルなら、求められる注意はどうなるでしょうか?有償ですから、400条の善管注意です。無報酬の自己の財産と同一の注意より、重くなります。ペットホテルなら、標準的な預かり業者が払うべき注意が求められます。

冒頭の答え合わせ。Bは無報酬の受寄者→659条の基準=自己の財産に対するのと同一の注意。自分の水槽と同じように世話をしていた→基準を満たす→保管義務の違反にならない→魚が死んだというだけで弁償にはならない。変形=有償のペットホテルなら400条の善管注意。 図:冒頭の答え合わせ

  • Bは無報酬の受寄者→659条の基準=自己の財産に対するのと同一の注意
  • 自分の水槽と同じように世話をしていた→基準を満たす→保管義務の違反にならない→魚が死んだというだけで弁償にはならない
  • 変形=有償のペットホテルなら400条の善管注意

冒頭の設例に答えます。Bは、報酬をもらわない無報酬の受寄者です。ですから、基準は659条の、自己の財産に対するのと同一の注意です。Bは、自分の水槽と同じように世話をしていました。基準を満たしていますから、保管義務の違反にはなりません。注意義務を尽くしている以上、魚が死んだというだけでは、弁償にはなりません。有償のペットホテルなら、400条の基準になる、という点が変わります。

受寄者の義務③ 通知と、受け取った物の引渡し

660条1項。寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたとき→受寄者は遅滞なくその事実を寄託者に通知。ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。 図:660条1項

  • 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたとき→受寄者は遅滞なくその事実を寄託者に通知
  • ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない

3つめの義務は、通知です。

条文民法660条1項

民法第660条 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

読み方です。預かった物について、権利を主張する第三者が、受寄者を相手に訴えを起こしたり、差押えなどをしたりしたときは、受寄者は、遅滞なく、その事実を寄託者に通知します。遅滞なく、がキーワードです。ただし、寄託者がもう知っているなら、通知は要りません。前に見た、賃借人の615条と同じ形の通知です。あのときは、大家が対応できるようにするための義務でした。寄託で、知らせを受けて対応する立場にいるのは、寄託者です。たとえば、Cという人が、その水槽は自分の物だ、と言って、Bを相手に訴えを起こしたとします。Bは、遅滞なく、Aに知らせます。訴えられたのはBでも、水槽を預けたのはAです。知らせがなければ、Aは、争いが起きていることを知らないままになりかねません。ただし書は、Aがもう知っているなら、この知らせは要らない、ということです。第三者が権利を主張してきたときに、どう返すのかは、次の回で見ます。

受領物の引渡し(665条→646条)。646条1項=寄託物を保管するに当たって受け取った金銭その他の物を寄託者に引き渡す・収取した果実も同様。2項=寄託者のために自己の名で取得した権利を寄託者に移転する。読み替え=「委任事務を処理するに当たって」→「寄託物を保管するに当たって」。665条は647条(金銭を自己のために消費したときの責任)も準用。 図:受領物の引渡し

  • 665条→646条
  • 646条1項=寄託物を保管するに当たって受け取った金銭その他の物を寄託者に引き渡す・収取した果実も同様。2項=寄託者のために自己の名で取得した権利を寄託者に移転する。読み替え=「委任事務を処理するに当たって」→「寄託物を保管するに当たって」。665条は647条(金銭を自己のために消費したときの責任)も準用。

4つめは、受け取った物の引渡しです。委任のとき見た646条を、寄託でも使います。665条という条文が、委任の規定のいくつかを寄託に借りてきていて、646条はその1つです。665条の全体は、寄託者の義務のところで、カードで見ます。ここでは、委任事務を処理するに当たって、を、寄託物を保管するに当たって、と読み替えます。1項です。保管するに当たって受け取った金銭その他の物は、寄託者に引き渡します。委任の回で見たとおり、受け取った物は、受け取った受寄者の物にはなりません。収取した果実も同じです。たとえば、預かった熱帯魚が稚魚を産んだなら、その稚魚も寄託者に渡します。2項は、寄託者のために自己の名で取得した権利を、寄託者に移転する、という義務です。委任の回では、Bが頼まれて、自分の名義で物件を買う例を見ました。自分の名前で取得した権利は、いったんBのものになるので、頼んだ側に移す、という義務でした。寄託でも、寄託者のために自分の名前で取得した権利があれば、同じく寄託者に移します。665条は、金銭を自己のために消費したときの責任を定める647条も、準用しています。

寄託者の義務① 損害賠償 委任の650条3項との違い

定着の問い(前回)。委任者が受任者の損害を賠償するのは、委任者に過失がなくても負うものだったか。 図:定着の問い

  • 前回
  • 委任者が受任者の損害を賠償するのは、委任者に過失がなくても負うものだったか。

寄託者の義務に入ります。その前に、前回の復習を1問です。委任で、受任者が過失なく損害を受けたとき、委任者が賠償するのは、委任者に過失がなくても負うものでしたか?はい、650条3項は、委任者に過失がなくても賠償します。寄託の場合は、どうなっているでしょうか。条文です。

条文民法661条

民法第661条 寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。

661条と委任の650条3項。661条=寄託者は寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を賠償。ただし書=寄託者が過失なくその性質・瑕疵を知らなかったとき/受寄者がこれを知っていたとき→不要。650条3項=受任者が過失なく損害を受けたとき、委任者は賠償(委任者に過失がなくても)。665条は650条3項を準用しない(準用は650条1項・2項だけ)。 図:661条と委任の650条3項

  • 661条=寄託者は寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を賠償
  • ただし書=寄託者が過失なくその性質・瑕疵を知らなかったとき/受寄者がこれを知っていたとき→不要
  • 650条3項=受任者が過失なく損害を受けたとき、委任者は賠償(委任者に過失がなくても)
  • 665条は650条3項を準用しない(準用は650条1項・2項だけ)

読み方です。寄託物の性質や瑕疵によって損害が生じたとき、寄託者は、受寄者に賠償します。ただし書に、免れる場面が2つあります。1つは、寄託者が、過失なく、その性質や瑕疵を知らなかったとき。もう1つは、受寄者が、それを知っていたときです。例です。Aが預けた水槽の水に、Aの知らない病気の菌がいて、Bの別の水槽の魚にうつったとします。Aが、過失なくそれを知らなかったなら、Aは賠償しなくてよい。Aが、過失で知らなかったなら、賠償します。Bが、菌がいることを知っていたなら、Aは免れます。委任の650条3項との違いです。650条3項は、委任者に過失がなくても賠償するという条文でした。寄託では、寄託物の性質や瑕疵で損害が出た場面を、661条が定めています。そして、次に見るとおり、665条は650条3項を準用していません。ですから、寄託者が過失なく知らなかったなら免れる、という結論は、委任とは違います。

寄託者の義務② 報酬・費用 665条で使われる委任の規定

665条の準用の範囲。準用される=646条(受取物の引渡し等)・647条(金銭の消費の責任)・648条(報酬=特約がなければ請求できない・後払い・648条3項の割合的報酬)・649条(費用の前払)・650条1項(費用等の償還)・2項(代弁済・担保提供)。準用されない=648条の2(成果等に対する報酬)・650条3項・644条(寄託では659条・400条)・644条の2(寄託では658条)・645条(報告)・651条(任意解除。寄託では657条の2など)。 図:665条の準用の範囲

  • 準用される=646条(受取物の引渡し等)・647条(金銭の消費の責任)・648条(報酬=特約がなければ請求できない・後払い・648条3項の割合的報酬)・649条(費用の前払)・650条1項(費用等の償還)・2項(代弁済・担保提供)
  • 準用されない=648条の2(成果等に対する報酬)・650条3項・644条(寄託では659条・400条)・644条の2(寄託では658条)・645条(報告)・651条(任意解除。寄託では657条の2など)

最後の義務です。665条を出します。

条文民法665条

民法第665条 第六百四十六条から第六百四十八条まで、第六百四十九条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、寄託について準用する。

準用とは、必要な読み替えをして借りることでした。借りる条文を読みます。646条、647条、648条、649条、そして650条の1項と2項です。準用される条文を整理します。646条は、受取物の引渡し等。647条は、金銭を自己のために消費したときの責任。648条は、報酬です。特約がなければ請求できない、後払い、そして648条3項の、途中で終わったときに既にした割合で請求できる報酬が含まれます。649条は、費用の前払。650条1項は、費用等の償還。2項は、代弁済、つまり自分に代わって払ってくれと請求することと、担保を供させることです。準用されないものが、試験で問われます。外れた条文には、寄託の側に、対応する条文があるものもあります。644条の善管注意は、寄託では659条と400条。644条の2は、658条。651条の、いつでも解除できるという任意解除も準用されず、寄託のやめ方は、657条の2など、寄託の条文で決まります。次の2つは、寄託の側に、同じ場面の条文がありません。1つは、648条の2です。前回見た、成果に対して報酬を払う型でした。寄託の報酬で借りてくるのは、648条のほうだけです。もう1つは、645条の報告です。委任者が請求すれば、いつでも状況を報告する、という義務でした。この2つは、665条の列挙に入っていません。ですから、寄託には使われません。

有償のペットホテルで考えます。報酬の特約があります。報酬は、保管を終えた後に請求します。648条2項です。預かりの途中で終わったなら、既にした割合で請求できます。648条3項です。魚のえさ代を受寄者が立て替えたなら、寄託者に償還を請求できます。650条1項です。費用を要するときは、前払も請求できます。649条です。

寄託物を受け取る前の解除

定着の問い(受け取る前の解除)。書面でする消費貸借で、お金を受け取る前に解除できるのは、借主と貸主のどちらだったか。 図:定着の問い

  • 受け取る前の解除
  • 書面でする消費貸借で、お金を受け取る前に解除できるのは、借主と貸主のどちらだったか。

最後の柱です。その前に、復習を1問です。書面でする消費貸借で、お金を受け取る前に解除できるのは、借主と貸主のどちらでしたか?借主です。貸主は、損害を賠償請求できました。消費貸借と使用貸借でも、受け取る前の解除を見ました。贈与にも、書面によらない贈与の解除がありました。寄託でも同じ問いが出ます。寄託は諾成ですから、受け取る前から、契約は成立しています。受寄者が寄託物を受け取るまでの間に、誰が、どう解除できるのか。条文です。

条文民法657条の2

民法第657条の2 寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、受寄者は、その契約の解除によって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。 2 無報酬の受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による寄託については、この限りでない。 3 受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができる。

受け取る前の解除の3者表。寄託者(1項)=受寄者が受け取るまで・要件なし・書面があってもできる・受寄者は損害の賠償を請求できる(1項後段)。無報酬の受寄者(2項)=受け取るまで・要件なし・書面による寄託ならできない(ただし書)・損害賠償は条文に定めなし。有償の受寄者・書面による無報酬の受寄者(3項)=受け取るべき時期を経過+相当の期間を定めた催告+期間内に引渡しなし・無報酬の場合は書面が前提・損害賠償は条文に定めなし。 図:受け取る前の解除の3者表

  • 寄託者(1項)=受寄者が受け取るまで・要件なし・書面があってもできる・受寄者は損害の賠償を請求できる(1項後段)
  • 無報酬の受寄者(2項)=受け取るまで・要件なし・書面による寄託ならできない(ただし書)・損害賠償は条文に定めなし
  • 有償の受寄者・書面による無報酬の受寄者(3項)=受け取るべき時期を経過+相当の期間を定めた催告+期間内に引渡しなし・無報酬の場合は書面が前提・損害賠償は条文に定めなし

3者に分けて読みます。1項は、寄託者です。受寄者が寄託物を受け取るまで、契約を解除できます。要件はありません。有償か無償か、書面があるかどうかも問いません。条文に限定がないからです。この場合、受寄者は、解除によって損害を受けたときは、寄託者に賠償を請求できます。寄託は、預ける人のために結ばれる契約だからです。2項は、無報酬の受寄者です。寄託物を受け取るまで、契約を解除できます。ただし、書面による寄託は、解除できません。無償の寄託は、寄託者だけが利益を受ける契約です。口約束で軽率に引き受けてしまった受寄者を守る、という考えです。贈与の550条や、使用貸借の593条の2で見た、勢いでした軽率なタダの約束を防ぐ、という考えと同じです。ただし、物の動きは逆です。使用貸借で守られたのは、物を貸し出す貸主でした。寄託で守られるのは、物を預かる受寄者です。どちらも、タダで相手のために引き受ける側です。3項は、残りの2者です。有償の受寄者と、書面による無報酬の受寄者です。この2者は、2項の自由な解除はできません。2項が守るのは、報酬をもらわず、しかも書面を作らずに引き受けた受寄者でした。報酬をもらう受寄者も、書面を作った受寄者も、その条件から外れます。認められるのは、3項だけです。寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が引き渡さない場合に、相当の期間を定めて引渡しの催告をします。その期間内に引渡しがないとき、解除できます。書面によらない無報酬の受寄者は、2項で解除できるので、3項の対象には入っていません。括弧書きで、そう読めます。

2項と3項には、賠償の定めが条文にありません。定めがない、と言うだけです。賠償できない、とまでは言いません。

受け取る前の解除の並び。消費貸借=書面でする消費貸借の借主(587条の2第2項・貸主は損害を賠償請求できる)。使用貸借=書面によらない使用貸借の貸主(593条の2・書面があればできない)。贈与=書面によらない贈与の各当事者(550条・履行の終わった部分はできない)。寄託=寄託者(657条の2第1項)・書面によらない無報酬の受寄者(同条2項)・有償等の受寄者は催告による(同条3項)。 図:受け取る前の解除の並び

  • 消費貸借=書面でする消費貸借の借主(587条の2第2項・貸主は損害を賠償請求できる)
  • 使用貸借=書面によらない使用貸借の貸主(593条の2・書面があればできない)
  • 贈与=書面によらない贈与の各当事者(550条・履行の終わった部分はできない)
  • 寄託=寄託者(657条の2第1項)・書面によらない無報酬の受寄者(同条2項)・有償等の受寄者は催告による(同条3項)

4つの契約の受け取る前の解除を、並べます。消費貸借は、書面でする消費貸借の借主です。貸主は、損害の賠償を請求できます。使用貸借は、書面によらない使用貸借の貸主です。書面があれば、できません。贈与は、書面によらない贈与の各当事者です。550条は、受け取る前に限らず、履行の終わった部分は解除できない、という形ですから、要件が少し違います。寄託は、寄託者と、書面によらない無報酬の受寄者が、受け取るまで自由に解除できます。有償などの受寄者は、催告による解除です。例で確かめます。Aが旅行前日に、Bへ水槽を預ける約束をしました。1つめ、口約束で無償の場合です。Aが旅行をやめたなら、受け取る前なので解除できます。賠償は、1項後段の問題です。Bが、やっぱり無理、となったときは、書面がないので解除できます。2つめ、書面を作った無償の約束です。Bは、自分からは解除できません。ただ、Aが約束の日に水槽を持って来ないなら、Bは相当の期間を定めて催告し、それでも来なければ解除できます。3つめ、有償のペットホテルの予約です。ホテルは、受け取る前に自由には解除できません。催告による解除ならできます。受け取った後の話、返還の請求や時期の定めは、次の回で見ます。

今日のまとめ

今日のまとめ。寄託(657条)=保管の委託+承諾で成立する諾成契約・無報酬なら片務無償/報酬の特約があれば双務有償。受寄者の義務=使用禁止・再寄託(承諾かやむを得ない事由・658条)・注意(無報酬=自己の財産と同一・659条/有償=善管・400条)・通知(660条1項)・受領物の引渡し(665条→646条)。寄託者の義務=損害賠償(661条)・報酬と費用(665条→648条・649条・650条1項2項)。受け取る前の解除(657条の2)=寄託者・書面によらない無報酬の受寄者はいつでも/有償・書面による無報酬の受寄者は催告による。 図:今日のまとめ

  • 寄託(657条)=保管の委託+承諾で成立する諾成契約・無報酬なら片務無償/報酬の特約があれば双務有償
  • 受寄者の義務=使用禁止・再寄託(承諾かやむを得ない事由・658条)・注意(無報酬=自己の財産と同一・659条/有償=善管・400条)・通知(660条1項)・受領物の引渡し(665条→646条)
  • 寄託者の義務=損害賠償(661条)・報酬と費用(665条→648条・649条・650条1項2項)
  • 受け取る前の解除(657条の2)=寄託者・書面によらない無報酬の受寄者はいつでも/有償・書面による無報酬の受寄者は催告による

今日の内容を整理します。寄託は、保管の委託と承諾で成立する諾成契約です。報酬の特約がなければ片務で無償、あれば双務で有償です。受寄者の義務です。承諾なしに使えない。再寄託は、寄託者の承諾か、やむを得ない事由があるときだけ。注意は、無報酬なら自己の財産に対するのと同一、有償なら善管注意です。委任は無償でも善管注意で、寄託は無償なら軽い。冒頭の設例は、自分の水槽と同じ世話をしていた以上、保管義務の違反にならず、弁償にはなりません。通知は、遅滞なく。受け取った物は、寄託者に引き渡します。寄託者の義務です。661条の損害賠償は、過失なく知らなかったとき、または受寄者が知っていたときは免れます。650条3項は準用されません。報酬と費用は、665条で、648条、649条、650条の1項と2項が使われます。最後に、受け取る前の解除です。寄託者と、書面によらない無報酬の受寄者は、受け取るまで解除できます。有償の受寄者と、書面による無報酬の受寄者は、催告による解除です。次の回では、預かった物の返還などを見ます。

参照条文

  • 民法657条
  • 民法658条
  • 民法644条の2
  • 民法659条
  • 民法400条
  • 民法644条
  • 民法660条1項
  • 民法661条
  • 民法665条
  • 民法657条の2

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