民法ゼロから民法#276

委任者の義務・報酬・任意解除

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第5章 契約 #276/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

管理会社との契約を、半年で打ち切りたい

冒頭の設例 マンションの持ち主Aが、管理会社Bに、建物の管理を1年契約で任せている。半年たったところで、Aはこの契約を打ち切りたい。違約金のような負担を払わないといけないか。 図:冒頭の設例 マンションの持ち主Aが、管理会社Bに、建物の管理を1年契約で任せている

  • 半年たったところで、Aはこの契約を打ち切りたい
  • 違約金のような負担を払わないといけないか

記号を付けます。持ち主がA、管理会社がBです。前回見たとおり、頼む側のAが委任者、引き受ける側のBが受任者です。この問いには、後半で条文と判例を使って答えます。先に言えるのは、やめられることと、お金がかからないことは、別の問いだということです。前回は、受任者の5つの義務と、無償が原則だという話をしました。そのとき、予告したことが3つあります。報酬の払い方と、委任者の側の義務。成果に対して報酬を払う約束の扱い。そして、途中でやめる場面です。今日は、この3つを全部見ます。

報酬は、特約があっても後払い

報酬の払い時期。648条1項=特約がなければ報酬を請求できない(前回)。2項本文=委任事務を履行した後でなければ請求できない(後払いが原則)。ただし書=期間によって報酬を定めたときは624条2項を準用(期間を経過した後に請求)。例=管理料が月10万円の月払いなら、月が終わってから請求。 図:報酬の払い時期

  • 648条1項=特約がなければ報酬を請求できない(前回)
  • 2項本文=委任事務を履行した後でなければ請求できない(後払いが原則)
  • ただし書=期間によって報酬を定めたときは624条2項を準用(期間を経過した後に請求)
  • 例=管理料が月10万円の月払いなら、月が終わってから請求

前回、特約がなければ報酬は請求できない、と見ました。今日は、特約があるときの話です。まず、いつ請求できるのか。条文を出します。

条文民法648条1項・2項

民法第648条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。 2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。

2項の読み方です。報酬を受けるべき場合とは、特約があって、報酬をもらえるときのことです。そのとき受任者は、委任事務を履行した後でなければ、報酬を請求できません。先に事務を済ませ、報酬は後です。つまり後払いが原則で、先に動くのは受任者です。請負の報酬の回で見た、仕事を終わった後でなければ請求できない、という形と同じ向きです。ただし書は、期間によって報酬を定めたとき、たとえば月ごとの管理料のような場合です。624条2項を準用します。

条文民法624条2項

民法第624条 2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。

期間によって定めた報酬は、その期間が終わってから請求できます。冒頭の設例で、管理料が月10万円の月払いなら、Bが請求できるのは、その月が終わってからです。契約の期間が1年でも、月ごとに定めてあれば、月ごとです。先払いの約束も、できます。2項が決めているのは、特約がないときの順番です。払い時期は、契約で別に決められます。

手間に払う型の報酬と、536条2項

手間に払う型(648条3項)。受任者は次の場合、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる。1号=委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。2号=委任が履行の中途で終了したとき。対比=委任者の責めに帰すべき事由→536条2項(拒めない・浮いた分は返す)。 図:手間に払う型

  • 648条3項
  • 受任者は次の場合、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる。1号=委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。2号=委任が履行の中途で終了したとき。対比=委任者の責めに帰すべき事由→536条2項(拒めない・浮いた分は返す)。

次は、途中で終わったときの報酬です。冒頭の設例では、Bは半年だけ働いて、契約が終わります。1年分の半分でも請求できるのか。条文です。

条文民法648条3項

民法第648条 3 受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。 一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。 二 委任が履行の中途で終了したとき。

読み方です。場面が2つあります。1号は、委任者に帰責事由のない事情で、事務を続けられなくなったとき。たとえば災害で、建物が使えなくなったような場合です。2号は、委任が履行の途中で終了したときです。委任者が解除した場合も、これに当たります。効果は、どちらも、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる、です。たとえで言うと、時給で働くシフトです。5時間のシフトを3時間でやめることになれば、3時間分は払ってもらえます。冒頭の設例に当てはめると、半年働いたBは、2号で、半年分の割合に応じた報酬を請求できます。

原因が誰の側にあるかで変わります。1号は、委任者の責めに帰することができない事由でした。逆に、委任者の責めに帰すべき事由で事務ができなくなったときは、536条2項が働きます。前に見た条文です。

条文民法536条2項

民法第536条第2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

委任に当てはめます。債権者は、事務の処理を受ける委任者のAです。履行できなくなった債務は、Bが事務を処理する債務で、反対給付は報酬です。Aの責めに帰すべき事由で事務ができなくなったなら、Aは報酬の支払を拒めません。つまり全額です。ただし、Bが事務をしなくて済んだ分で得た利益があれば、Aに返します。例です。Aが、管理室を勝手に封鎖して、Bが入れなくなりました。Aの側の原因です。報酬は、536条2項の考え方で全額です。一方、地震で建物が使えなくなったなら、双方に落ち度はなく、1号で割合です。軸は、請負の回の振り分けと同じで、終わった原因が、誰の側にあるかです。

成果に払う型の報酬

定着の問い(振り分け・請負)。請負で、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成できなくなったとき、請負人は何を請求できるか。 図:定着の問い

  • 振り分け・請負
  • 請負で、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成できなくなったとき、請負人は何を請求できるか。

成果に払う型に入る前に、前の請負の回の復習を1問です。請負で、注文者の責めに帰することができない事由によって、仕事を完成できなくなりました。請負人は、何を請求できるでしょうか? 634条でした。この考え方が、今日の後半の成果に払う型で、もう一度出てきます。

成果に払う型(648条の2)。成果に対して報酬を支払うと約した場合。1項=成果が引渡しを要するときは、報酬は成果の引渡しと同時に支払う。2項=634条を準用(成果が得られる前に①委任者の責めに帰することができない事由で成果を得ることが不能になった②委任が解除された→可分な部分の給付で委任者が利益を受けるなら、その部分を成果とみなし、利益の割合に応じて報酬)。 図:成果に払う型

  • 648条の2
  • 成果に対して報酬を支払うと約した場合。1項=成果が引渡しを要するときは、報酬は成果の引渡しと同時に支払う。2項=634条を準用(成果が得られる前に①委任者の責めに帰することができない事由で成果を得ることが不能になった②委任が解除された→可分な部分の給付で委任者が利益を受けるなら、その部分を成果とみなし、利益の割合に応じて報酬)。

委任は、事務の処理を頼む契約でした。ところが、成果に対して報酬を払う約束をする委任もあります。たとえば、Aが、Bに市場調査を頼み、報告書という成果が出たら報酬を払う、という約束です。

条文民法648条の2

民法第648条の2 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。 2 第六百三十四条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。

1項の読み方です。成果に対して報酬を払う約束で、その成果が引渡しを要するものなら、報酬は成果の引渡しと同時です。先ほどの報告書なら、報告書の引渡しと、報酬の支払が同時です。請負の報酬と引渡しの同時履行と、同じ形です。2項は、634条を準用します。準用とは、必要な読み替えをして借りることでした。注文者を委任者に、仕事の完成を成果が得られることに読み替えます。場面は2つです。成果が得られる前に、委任者の責めに帰することができない事由で、成果を得ることが不能になったとき。そして、委任が解除されたとき。このどちらかで、既にした結果のうち、切り分けられる部分の給付によって、委任者が利益を受けるなら、その部分を成果とみなします。そして、委任者が受ける利益の割合に応じて、報酬を請求できます。

報告書の設例(仮の数字)。3地区の市場調査を、成果に対して報酬90万円で委任。2地区分の報告書をまとめたところで、委任が解除された。2地区分=切り分けられ、委任者の役に立つ。委任者が受ける利益の割合が仮に3分の2と評価されれば、報酬は60万円。 図:報告書の設例

  • 仮の数字
  • 3地区の市場調査を、成果に対して報酬90万円で委任。2地区分の報告書をまとめたところで、委任が解除された。2地区分=切り分けられ、委任者の役に立つ。委任者が受ける利益の割合が仮に3分の2と評価されれば、報酬は60万円。

数字を仮に置いて確かめます。3地区の市場調査を、成果に対して90万円で頼みました。2地区の報告書が仕上がったところで、委任が解除されたとします。2地区の分は、切り分けて渡せて、Aの役に立ちます。その利益の割合が仮に3分の2と評価されれば、報酬は60万円です。約束の中身が違います。手間に払う型は、働いた量に応じて、既にした履行の割合です。成果に払う型で、委任者が払う約束をしたのは、働いた時間ではなく、出来上がる成果です。だから、途中で終わったときも、成果の一部として切り分けて渡せて、委任者の役に立つ部分にだけ払います。切り分けられる部分を成果とみなす、とはこの意味です。たとえば、調査はしたけれども、まとまった報告書にならず、使える部分がないなら、成果に払う型では請求できません。呼び名は、条文には出てきません。学説では、手間に払う型を履行割合型、成果に払う型を成果完成型と呼びます。試験の問題文などでこの名前を見たら、今の2つの型のことです。

報酬の2×2表

報酬の2×2表(主役)。手間に払う型(648条3項)で、委任者の責めに帰すべき事由による=全額(浮いた分は返す・536条2項の考え方)。手間に払う型で、委任者の責めに帰することができない事由による=既にした履行の割合(648条3項1号・2号)。成果に払う型(648条の2)で、委任者の責めに帰すべき事由による=全額(浮いた分は返す・536条2項の考え方)。成果に払う型で、委任者の責めに帰することができない事由による=可分な部分の給付で委任者が利益を受けるときだけ、利益の割合(634条準用)。 図:報酬の2×2表

  • 主役
  • 手間に払う型(648条3項)で、委任者の責めに帰すべき事由による=全額(浮いた分は返す・536条2項の考え方)。手間に払う型で、委任者の責めに帰することができない事由による=既にした履行の割合(648条3項1号・2号)。成果に払う型(648条の2)で、委任者の責めに帰すべき事由による=全額(浮いた分は返す・536条2項の考え方)。成果に払う型で、委任者の責めに帰することができない事由による=可分な部分の給付で委任者が利益を受けるときだけ、利益の割合(634条準用)。

ここまでを、1枚の表にまとめます。縦が、約束の型です。手間に払う型と、成果に払う型。横が、終わった原因です。委任者の責めに帰すべき事由によるか、委任者の責めに帰することができない事由によるか。請負の回の振り分けと、同じ並べ方です。原因が委任者の側にある2つのマスは、同じです。型にかかわらず、536条2項の考え方で全額です。ただし、受任者が事務をしなくて済んだ分で得た利益は、返します。原因が委任者の側にない2つのマスは、型で分かれます。手間に払う型は、648条3項で、既にした履行の割合です。成果に払う型は、648条の2から634条を借りて、切り分けられて、委任者が利益を受ける部分だけが、その利益の割合です。解除で終わった場合は、型ごとに見ます。手間に払う型は、3項2号で割合です。成果に払う型は、634条2号の借り物で、切り分けられた部分の利益の割合です。

定着の問い(2×2表)。冒頭の設例で、Bの落ち度ではなくAの側の事情で、管理の業務ができなくなった。Bの報酬は、割合か全額か。 図:定着の問い

  • 2×2表
  • 冒頭の設例で、Bの落ち度ではなくAの側の事情で、管理の業務ができなくなった。Bの報酬は、割合か全額か。

ここで1問です。冒頭の設例で、Bの落ち度ではなく、Aの側の事情で、管理の業務ができなくなりました。Bの報酬は、割合でしょうか、全額でしょうか?Aの側に原因があるので、全額です。ただし、Bが人件費などを浮かせていたら、その分は返します。原因が誰の側にあるか。ここが表の軸です。

委任者のその他の義務 費用の前払い・償還・代弁済・賠償

受任者の義務と委任者の義務の対比。受任者の5つ=善管注意・復受任者・報告・引渡し・金銭消費の責任(644〜647条)。委任者の5つ=報酬(648条・648条の2)・費用の前払(649条)・費用等の償還(650条1項)・代弁済と担保(650条2項)・損害賠償(650条3項)。 図:受任者の義務と委任者の義務の対比

  • 受任者の5つ=善管注意・復受任者・報告・引渡し・金銭消費の責任(644〜647条)
  • 委任者の5つ=報酬(648条・648条の2)・費用の前払(649条)・費用等の償還(650条1項)・代弁済と担保(650条2項)・損害賠償(650条3項)

報酬のほかに、委任者が負う義務があります。前回の、受任者の5つの義務と対にして見ます。受任者は、事務を処理し、報告し、受け取ったものを渡す側でした。委任者は、事務のために必要なお金を整える側です。1つめの報酬は、今見ました。残りの4つを、649条と650条で見ます。

条文民法649条

民法第649条 委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。

649条は、費用の前払です。受任者の請求があれば、委任者は先に払います。事務をするには費用がかかりますが、それを受任者に立て替えさせ続けるのは酷だからです。先にお金を出してもらう点は、保証の回で見た、受託保証人の事前求償と、似た性質を持ちます。

条文民法650条

民法第650条 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。 2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。 3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。

650条は3つの項に分かれます。1項は、費用の償還です。受任者が、事務に必要と認められる費用を自分で払ったときは、その費用と、支出の日以後の利息を、委任者に請求できます。たとえば、Bが、廊下の電球を自分で買って付け替えたなら、その代金と、払った日からの利息です。2項は、代弁済です。Bが、事務のために必要と認められる債務を負ったとき、たとえば修繕業者に修繕代金を払う約束をしたときは、Aに、自分に代わって業者に払ってくれと請求できます。この債務が弁済期にないときは、Aに、相当の担保を供させることができます。要件の、弁済期にない、という点が大事です。弁済期が来ているなら、担保ではなく、払うことを求めます。3項は、損害賠償です。Bが、事務を処理するために、自分に過失なく損害を受けたときは、Aに賠償を請求できます。注意点は、誰の過失かです。条文の過失なくは、受任者の過失です。委任者のAに過失がなくても、Aは賠償の責任を負います。条文は、委任者の過失を要件にしていません。たとえば、台風の夜、Aに頼まれた見回りの最中に、Bの作業用の車が倒木で壊れたなら、Aに落ち度がなくても、Aが賠償します。

似ています。事務管理の費用の償還は、702条で、事務管理の回で比べます。

委任は、いつでも解除できる

641条と651条1項の対比。請負(641条)=解除できるのは注文者だけ/請負人が仕事を完成しない間/損害を賠償して。委任(651条1項)=解除できるのは各当事者(委任者も受任者も)/いつでも/条文上は賠償を条件にしない。 図:641条と651条1項の対比

  • 請負(641条)=解除できるのは注文者だけ/請負人が仕事を完成しない間/損害を賠償して
  • 委任(651条1項)=解除できるのは各当事者(委任者も受任者も)/いつでも/条文上は賠償を条件にしない

ここから、やめる話です。前に、個別の規定による解除の例として、651条1項を名前だけ出しました。その中身です。前回、委任は、その人を信頼して頼む契約だと見ました。この信頼が、やめる話の土台になります。

条文民法651条1項

民法第651条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

委任は、各当事者が、いつでも解除できます。各当事者とは、委任者も受任者も、という意味です。請負の641条と並べます。641条で解除できるのは、注文者だけでした。しかも、請負人が仕事を完成しない間に限られ、損害を賠償して、という条件も付いていました。651条1項は、双方が、いつでも、です。1項の条文には、賠償は出てきません。判例は、委任が、強い信頼関係を基礎とする契約だからだ、と説明しています。判決を出します。

判例最判昭58・9・20 集民139号549頁

税理士顧問契約と委任の解除 委任契約は、一般に当事者間の強い信頼関係を基礎として成立し存続するものであるから、当該委任契約が受任者の利益をも目的として締結された場合でない限り、委任者は、民法六五一条一項に基づきいつでも委任契約を解除することができ、かつ、解除にあたつては、受任者に対しその理由を告知することを要しないものというべきであり、この理は、委任契約たる税理士顧問契約についてもなんら異なるところはないものと解するのが相当である。

読み方です。委任は、強い信頼関係を基礎にしています。だから、受任者の利益をも目的として結ばれた場合でない限り、委任者は、いつでも解除できて、理由を告げる必要もありません。この事案は、税理士の顧問契約で、顧問契約も委任なので、同じ扱いでした。判例のふだです。この、受任者の利益をも目的として、という言葉は、あとで651条2項に出てきます。解除の効果です。次の条文が、賃貸借の620条を借ります。

条文民法652条

民法第652条 第六百二十条の規定は、委任について準用する。

652条と620条。620条=賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。委任に準用=解除は将来に向かってのみ効力を生ずる(解除までに済んだ事務と報酬はそのまま)・損害賠償の請求を妨げない。 図:652条と620条

  • 620条=賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる
  • この場合においては、損害賠償の請求を妨げない
  • 委任に準用=解除は将来に向かってのみ効力を生ずる(解除までに済んだ事務と報酬はそのまま)・損害賠償の請求を妨げない

賃貸借の解除は、将来に向かってのみ効力を生ずる、というのが620条でした。委任にも、同じ扱いです。さかのぼって契約を消しません。解除までにBが済ませた事務と、それに応じた報酬は、そのままです。先ほどの、半年分の割合の報酬は、この考え方に乗っています。

賠償が要る2つの場合

651条2項。解除した者は、次の場合、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときはこの限りでない。1号=相手方に不利な時期に委任を解除したとき。2号=委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したとき。 図:651条2項

  • 解除した者は、次の場合、相手方の損害を賠償しなければならない
  • ただし、やむを得ない事由があったときはこの限りでない
  • 1号=相手方に不利な時期に委任を解除したとき
  • 2号=委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したとき

では、解除したら、賠償は要るのか。2項です。

条文民法651条2項

民法第651条 2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。 一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。 二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

構造から読みます。解除したら賠償、ではありません。解除は自由で、賠償が要るのは、1号か2号に当たるときだけです。しかも、やむを得ない事由があれば、1号でも2号でも、賠償は要りません。原則は賠償不要で、例外が2つ、さらにその例外にもう一段、という作りです。1号は、相手方に不利な時期の解除です。解除する人は、委任者でも受任者でも構いません。たとえば、Bが、Aが次の管理会社を探せない時期に、突然降りたなら、Aにとって不利な時期です。このとき、Bは、Aの損害を賠償します。逆向きもあります。Bが、外壁の修繕の手配を進めている途中で、Aが急に打ち切ったなら、Bにとって不利な時期です。解除は自由でも、相手が備えられない時期に放り出すと、相手にだけ損が出ます。その損を埋めさせるのが、1号です。

651条2項2号。委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したとき=賠償。報酬の特約があるだけでは、受任者の利益をも目的とするとはいえない(最判昭58・9・20)。報酬のほかに、受任者が自分のために使える利益を契約で得ているかが決め手。ただし、やむを得ない事由があったときは賠償不要。 図:651条2項2号

  • 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したとき=賠償
  • 報酬の特約があるだけでは、受任者の利益をも目的とするとはいえない(最判昭58・9・20)
  • 報酬のほかに、受任者が自分のために使える利益を契約で得ているかが決め手
  • ただし、やむを得ない事由があったときは賠償不要

2号は、解除する人が、委任者です。委任者が、受任者の利益をも目的とする委任を解除したときです。括弧書きがあります。専ら報酬を得ることによるものを除く、です。受任者が報酬をもらえるというだけでは、受任者の利益をも目的とする委任には当たりません。判例があります。

判例最判昭58・9・20 集民139号549頁

報酬の特約と受任者の利益 委任契約において委任事務処理に対する報酬を支払う旨の特約があるだけでは、受任者の利益をも目的とするものといえないことは、当裁判所の判例とするところであり

先ほどと同じ判決の、別の部分です。報酬を払う特約があるだけでは、受任者の利益をも目的とするとはいえません。この事案の顧問料が、税理士事務所の経営の安定に役立っていても、受任者の利益には当たらないとされました。報酬のためだけに引き受ける委任は、2号の括弧書きで除かれるのです。境目のペアで確かめます。当たらない例は、管理会社Bが、管理料という報酬だけを受け取る契約です。当たる例は、このあと読む判決の事案です。建物の管理契約で、管理者が、預かった保証金を、自分の事業資金として、常に自由に使える利益を得ていました。この利益は、報酬とは別の、受任者自身の利益です。決め手は、受任者が、報酬のほかに、自分のために使える利益を、契約で得ているかどうかです。なぜ、この場合に賠償が要るのか。受任者は、報酬のほかに、この委任が続くこと自体に、自分の利益を懸けています。委任者の都合で切られると、その利益を、受任者だけが失います。そこで、解除は認めたうえで、失う分を賠償で埋めさせるのです。

受任者の利益のための委任と解除(最判昭56・1・19)。やむをえない事由がなくても、委任者が解除権自体を放棄したとは解されない事情があるときは、委任者は651条に則って解除できる。受任者が不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けて填補されれば足りる。解除は止めず、不利益は賠償で埋める。 図:受任者の利益のための委任と解除

  • 最判昭56・1・19
  • やむをえない事由がなくても、委任者が解除権自体を放棄したとは解されない事情があるときは、委任者は651条に則って解除できる。受任者が不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けて填補されれば足りる。解除は止めず、不利益は賠償で埋める。

その場合でも、委任者は解除できるのか。判例の流れがあります。まず、受任者が著しく不誠実な行動に出るなど、やむをえない事由があるときは、委任者は解除できる、というところまでは、すでに判例で認められていました。次の判決は、その先に進みました。

判例最判昭56・1・19 民集35巻1号1頁

受任者の利益のための委任と、やむをえない事由 かかるやむをえない事由がない場合であつても、委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情があるときは、該委任契約が受任者の利益のためにもなされていることを理由として、委任者の意思に反して事務処理を継続させることは、委任者の利益を阻害し委任契約の本旨に反することになるから、委任者は、民法六五一条に則り委任契約を解除することができ、ただ、受任者がこれによつて不利益を受けるときは、委任者から損害の賠償を受けることによつて、その不利益を填補されれば足りるものと解するのが相当である。

読み方です。やむをえない事由がなくても、委任者が解除権自体を放棄したとは解されない事情があるときは、委任者は、651条に則って解除できます。受任者が不利益を受けるなら、賠償で填補すれば足りる。つまり、解除を止めるのではなく、解除はできて、不利益は賠償で埋める、という考え方です。なぜ解除まで認めるのか。判決は、委任者の意思に反して事務を続けさせると、委任者の利益を損ない、委任という契約の本旨、つまり本来の目的に反する、と言っています。解除権自体を放棄した、とは、たとえば、途中では解除しない、と約束していたような場合です。そういう事情がなければ、解除はできるのです。この判決は、現在の条文より前のものです。今の2号は、受任者の利益をも目的とする委任を解除したとき、賠償しなければならない、という形で、この考え方と同じ並びになっています。

651条2項の判定図。委任を解除した→①相手方に不利な時期か→はい=賠償/いいえ→②委任者が、受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したか→はい=賠償/いいえ=賠償不要。どちらの賠償にも、やむを得ない事由があったときは不要。解除そのものは、いつでもできる。 図:651条2項の判定図

  • 委任を解除した→①相手方に不利な時期か→はい=賠償/いいえ→②委任者が、受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したか→はい=賠償/いいえ=賠償不要
  • どちらの賠償にも、やむを得ない事由があったときは不要
  • 解除そのものは、いつでもできる

判定図にまとめます。解除はいつでもできます。そのあとで、1つめの問いは、相手方に不利な時期か。2つめの問いは、委任者による、受任者の利益をも目的とする委任の解除か。どちらかなら賠償です。ただし、どちらにも、やむを得ない事由があったときは不要、という一段が付きます。

定着の問い(651条2項)。受任者の利益をも目的とする委任を委任者が解除した。賠償を免れるのは、どんなときか。 図:定着の問い

  • 651条2項
  • 受任者の利益をも目的とする委任を委任者が解除した。賠償を免れるのは、どんなときか。

ここで1問です。受任者の利益をも目的とする委任を、委任者が解除しました。賠償を免れるのは、どんなときでしょうか?やむを得ない事由があったときです。解除そのものは、できます。やめられるかと、お金がかかるかは、別の問いでした。

冒頭の設例への答え

冒頭の答え合わせ。管理会社Bに管理料だけを払う委任を、Aが半年で解除。解除そのものはいつでもできる(651条1項)。管理料だけ=専ら報酬を得ることによるもの→2号に当たらない。Bに不利な時期なら1号で賠償(やむを得ない事由があれば不要)。Bが預かった保証金を自由に運用できる等の別の利益を得る合意なら2号の問題→解除できるが賠償。報酬はその間の履行の割合(648条3項2号)。 図:冒頭の答え合わせ

  • 管理会社Bに管理料だけを払う委任を、Aが半年で解除
  • 解除そのものはいつでもできる(651条1項)
  • 管理料だけ=専ら報酬を得ることによるもの→2号に当たらない
  • Bに不利な時期なら1号で賠償(やむを得ない事由があれば不要)
  • Bが預かった保証金を自由に運用できる等の別の利益を得る合意なら2号の問題→解除できるが賠償
  • 報酬はその間の履行の割合(648条3項2号)

冒頭の問いに答えます。Aは、半年でBとの管理契約を打ち切りたい。1つめ、解除そのものは、651条1項で、いつでもできます。2つめ、賠償が要るかどうか。Bが受け取るのが、管理料だけなら、専ら報酬を得ることによるものですから、2号には当たりません。ただし、Bが修繕の手配をやりかけた途中のような、Bにとって不利な時期の解除なら、1号で賠償です。やむを得ない事由があれば、賠償は要りません。Bが、預かった保証金を自由に運用できるなど、報酬とは別の利益を得る合意があるなら、2号の問題になります。この場合も、解除権を放棄したと解される事情がなければ、解除はできて、賠償で処理されます。そして、報酬は、半年働いた分の、履行の割合です。最後に、違約金です。違約金は、条文の賠償とは別に、契約であらかじめ約束しておくお金です。ですから、違約金の約束がなければ、Aが払うかもしれないのは、651条2項の賠償だけです。違約金の約束があれば、まずその約束の中身を見ることになります。委任契約の解除と損害賠償は、2号の当てはめを含めて、論文で論点になりうるところです。

委任が終わる場合と、終了の対抗

委任の終了事由(653条)と代理権の消滅事由(111条)の並べ。653条=①委任者又は受任者の死亡②委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと③受任者が後見開始の審判を受けたこと(委任者の後見開始は入らない)。111条2項=委任による代理権は、委任の終了によって消滅。

最後に、解除ではなく、自然に終わる場面です。

条文民法653条

民法第653条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。 一 委任者又は受任者の死亡 二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。 三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

読み方です。死亡と破産手続開始の決定は、委任者と受任者の両方です。後見開始の審判は、受任者だけです。この並びは、代理権の消滅の回で見たものと同じです。死亡すれば、当事者そのものがいなくなります。委任者が破産すれば、財産を管理し処分する権限が破産管財人に移るので、委任者の財産についての事務を、そのまま続けさせられません。事務を処理するのは、受任者です。受任者が、判断する力を欠くのが常の状態になれば、事務を続けられません。委任者に後見開始の審判が出ても、事務をするのは受任者なので、委任は続けられます。ここは、短答でよく問われます。111条2項で、委任による代理権は、委任の終了によって消滅します。

条文民法655条

民法第655条 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。

655条です。対抗できない、とは、終了したと主張できない、という意味です。終了事由を相手方に主張するには、相手方に通知したか、相手方が知っていたかの、どちらかが要ります。相手が知らないまま続けた事務について、終了を理由に争えるとすると、相手が思わぬ不利益を受けるからです。委任が終わったのに代理人が行為をした場面は、表見代理の回の、112条でした。終了したあとの急迫の事情の処分は、654条にあります。また、本人が亡くなったあとの事務を頼む死後事務委任や、遺言執行者は、第8章で扱います。委任の規定が、寄託にも使われる665条は、次の寄託の回で見ます。

今日のまとめ

今日のまとめ。委任者の義務=報酬(648・648の2)・費用の前払(649)・費用等の償還(650条1項)・代弁済と担保(650条2項)・損害賠償(650条3項=委任者に過失がなくても)。報酬は後払い。2×2表。651条1項=各当事者がいつでも解除(652条=将来に向かってのみ)。651条2項=不利な時期/受任者の利益をも目的の委任を委任者が解除→賠償(やむを得ない事由があれば不要)。653条=死亡・破産・受任者の後見開始。655条=通知か知っていた。 図:今日のまとめ

  • 委任者の義務=報酬(648・648の2)・費用の前払(649)・費用等の償還(650条1項)・代弁済と担保(650条2項)・損害賠償(650条3項=委任者に過失がなくても)
  • 報酬は後払い
  • 2×2表
  • 651条1項=各当事者がいつでも解除(652条=将来に向かってのみ)
  • 651条2項=不利な時期/受任者の利益をも目的の委任を委任者が解除→賠償(やむを得ない事由があれば不要)
  • 653条=死亡・破産・受任者の後見開始
  • 655条=通知か知っていた

今日の内容を整理します。委任者の義務は5つです。報酬、費用の前払、費用等の償還、代弁済と担保、損害賠償。650条3項の賠償は、委任者に過失がなくても負います。報酬は、特約があって、後払いが原則です。期間で定めたときは、期間が終わってからです。報酬には2つの型があります。手間に払う型は、648条3項で、既にした履行の割合。成果に払う型は、648条の2で、引渡しと同時、途中なら634条を借りて、利益の割合です。そして、原因が委任者の側にあるなら、型にかかわらず、536条2項の考え方で全額です。やめる話です。651条1項で、各当事者が、いつでも解除できます。効果は、652条で、将来に向かってのみです。賠償が要るのは、651条2項の2つの場合だけです。相手方に不利な時期の解除と、委任者が、受任者の利益をも目的とする委任を解除したときで、専ら報酬を得ることによるものは含みません。やむを得ない事由があれば、不要です。最後に、委任は死亡、破産、受任者の後見開始で終わり、終了は、通知か相手が知っていることがなければ、対抗できません。

参照条文

  • 民法648条1項・2項
  • 民法624条2項
  • 民法648条3項
  • 民法536条2項
  • 民法648条の2
  • 民法649条
  • 民法650条
  • 民法651条1項
  • 民法652条
  • 民法651条2項
  • 民法653条
  • 民法655条

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