因果関係と賠償の範囲
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第6章 法定債権 #298/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
入院中に転んで骨折した 治療費はAに請求できるのか
図:冒頭の設例 信号待ちをしていたBの車に、Aの運転する車が追突した
- Bはけがをして入院した
- 入院中、Bは病院の廊下で転んで骨折した
- 骨折の治療費も、追突したAに請求できるのか
- A=追突した運転者/B=入院した人
設例から入ります。信号待ちをしていたBの車に、Aの運転する車が追突しました。Bはけがをして、入院しました。ところが入院中に、Bは病院の廊下で転んで、骨折してしまいました。記号は、Aが追突した運転者、Bが入院した人です。この骨折の治療費も、追突したAに請求できるでしょうか。骨折の治療費もAに請求できる、という見方は自然ですし、半分は正しいのです。事故がなければ、入院も転倒もありませんでした。ただ、そのつながりがあるというだけで、賠償が決まるわけではありません。結論を決めるのは、2つの問いです。1つめは、事実としてのつながりがあるか。2つめは、つながりのある損害のうち、どこまでをAに賠償させるか。因果関係は、この2段階で考えます。
2つの問いは、別のものなんですか。別です。債務不履行の回で、事実のつながりと賠償の範囲は別の問いだと見ました。今日は、それを不法行為の立場から引き直します。不法行為の全体像の回で、709条の要件を、5つに整理しました。故意または過失、権利または法律上保護される利益の侵害、損害、因果関係、そして、不法行為の成立を否定する事由がないこと、です。前回で、3つめの損害まで見終えています。今日は、4つめの因果関係を見ます。
図:今日の地図
板に道筋を並べました。事実のつながり、立証の程度、賠償の範囲、弁護士費用と、順に見ていきます。
事実的因果関係 あれなければこれなし
図:因果関係は2段階
- 1段目=事実的因果関係(あれ〔行為〕なければこれ〔結果〕なし)=つながりがあるか
- 2段目=相当因果関係=つながりのある損害のうち、どこまでを賠償させるか
- 根拠=709条「これによって生じた損害」
1段目から行きます。事実的因果関係とは、特定の行為が特定の結果を招いた、という事実のつながりです。判断の道具は、あれなければこれなし、です。あの行為がなければ、この結果は起きなかったと言えるなら、つながりがあります。条件関係とも言います。根拠は、709条の文言にあります。709条は、故意または過失によって権利などを侵害した者が「これによって生じた損害」を賠償する責任を負う、と書いています。「これによって」と書いてあるので、行為と損害のつながりが、要件になります。追突がなければ、Bは入院しませんでした。入院しなければ、院内で転ぶこともありませんでした。ですから、骨折の治療費にも、事実的因果関係はあります。答えは、はい、です。でも、ここで止まらない点が大事です。あれなければこれなし、というつながりは、際限なく広がります。池に石を投げると、波紋は岸まで届きます。石を投げなければ、岸の揺れもなかったのは確かです。でも、岸の揺れまで投げた人に責任を負わせるかは、別の問いです。事実的因果関係は、賠償の入口にすぎません。
入口を通ったあとに、絞る段階がもう一つあるんです。それが2段目の、賠償の範囲です。つながりがあるかを見る道具と、どこまで賠償させるかを決める道具は、別のものとして使います。
立証の程度 科学的な証明は要らない
図:立証の程度の問い
- 骨折は、追突で負ったけがによるふらつきが原因なのか、元からの足の弱さが原因なのか、医学的にははっきりしない
- このとき、因果関係の立証はどこまで求められるか
設例を少し変えます。Bの骨折は、追突で負ったけがによるふらつきのせいなのか、もともとの足の弱さのせいなのか、医学的にははっきりしません。こういうとき、事実的因果関係の立証は、どこまで求められるのでしょうか。問いです。事故と損害の間に因果関係があると言うために、自然科学的に一点の疑いも残さない証明は、必要でしょうか?証明は必要だ、と答えたくなりますが、判例は違います。事案を見ます。化膿性髄膜炎、つまり細菌などで脳を包む膜に炎症が起きる病気で入院していた3歳の幼児が、病状が一貫して軽快していました。そこへ、医師が、腰に針を刺して髄液をとり、薬を注入する処置を行いました。この処置を、ルンバールと言います。処置のあと、15分から20分ほどで、幼児は突然、嘔吐とけいれんの発作を起こしました。右半身の麻痺や、知能障害、運動障害が残りました。原審は、発作の原因が、脳出血なのか、髄膜炎の再燃、つまり元の病気のぶり返しなのか判定し難く、処置が原因だと断定し難いとして、請求を退けました。最高裁は、この原判決を破棄して、差し戻しました。立証の程度についての、判決の言葉を見てください。
判例最判昭50・10・24 民集29巻9号1417頁
因果関係の立証の程度 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。
⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】事実的因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果を招いた関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することで足りる。その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持てるものであることを要し、かつ、それで足りる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は立証の程度を書いていない。決め手=訴訟は実験室ではなく、通常人が疑いを差し挟まない程度の確信で事実を認める仕組みだから)
順に読みます。必要なのは、自然科学的に一点の疑いも残さない証明ではありません。経験則、つまり、こういうときはふつうこうなる、という経験から分かる法則に照らして、全部の証拠をあわせて検討し、因果関係を是認できる高度の蓋然性があれば足ります。高度の蓋然性とは、通常の人が疑いを差し挟まない程度に、確かだと思えることです。なぜ、これで足りるのか。裁判は、実験室のように、一点の疑いもなくなるまで調べ尽くす場ではありません。それを求めれば、原因がはっきりしない被害は、ほとんど救われなくなります。だから、通常の人が疑いを差し挟まない程度の確信で足りる、と考えられます。
認められる場合があります。判決は、原因が医学的に断定できなくても、事情を積み重ねて判断しました。次のあてはめの部分を見ます。
図:判決が積み上げた事情
判例最判昭50・10・24 民集29巻9号1417頁
因果関係の立証の程度 あてはめ 他に特段の事情が認められないかぎり、経験則上本件発作とその後の病変の原因は脳出血であり、……上告人の本件発作及びその後の病変と本件ルンバールとの間に因果関係を肯定するのが相当である。
判決の言う上告人は、この幼児です。判決が重ねた事情は、板のとおりです。軽快していた時期に、処置の直後、突然発作が起きたこと。処置は昼食のあとまもなく、嫌がって泣く幼児を押さえて、何度も針をやり直し、約30分かかったこと。もともと血管がもろく、出血しやすい傾向があったこと。主治医も脳出血と判断して治療したこと。髄膜炎が再燃する可能性は通常低く、再燃するような特別の事情も見当たらなかったこと。これらを総合して、脳出血が原因で、処置と発作の間に因果関係を肯定するのが相当だとしました。断定的な医学鑑定がなくても、事情の積み重ねで、高度の蓋然性が認められる、ということです。言い過ぎないように注意してください。この判決が決めたのは、因果関係の立証の程度です。医師に過失があったかどうかは、差戻しのあとの審理に残されました。ですから、医師に責任があると認めた判決ではありません。
709条の要件ですから、損害賠償を求める被害者が、立証すべき事実になります。判決は立証責任の所在そのものを論じてはいませんが、要件の構造から、そう整理されます。設例のBなら、追突と骨折の間のつながりを、高度の蓋然性で示す必要があります。
相当因果関係 416条を不法行為に類推する
図:賠償の範囲の問い
- 709条には、賠償の範囲の規定がない
- 債務不履行の416条は、通常損害と特別損害で線を引く
- 判例は、この416条を不法行為にも類推適用する
問いです。思い出してください。416条の1項と2項は、通常損害と特別損害を、どう分けていましたか?1項が、通常生ずべき損害で、2項が、特別の事情によって生じた損害です。2項は、予見すべきであったときだけ賠償されます。条文を、もう一度全文で確認します。
条文民法416条
民法第416条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
ここまでは、債務不履行の賠償の範囲の回で見たところです。ここからが、不法行為の話です。不法行為の709条には、賠償の範囲を決める規定がありません。そこで判例は、債務不履行の416条を、不法行為にも類推適用します。類推適用とは、条文は債務不履行用ですが、同じ考え方を借りて使うことです。どうして、借りてこられるんですか。不法行為でも、事実のつながりをたどれば、損害は際限なく広がるからです。どこかで線を引かなければならない、という問題は同じです。だから、債務不履行用の線の引き方を借ります。判例は、416条を相当因果関係の原則を定めたものと解します。相当因果関係とは、事実のつながりに、法的な観点から限定をかけたもので、要は、賠償させるのが相当と言える範囲です。では、相当かどうかを、何で決めるのか。判例は、それを416条の線で決めます。線の内側に入る損害が相当で、外側の損害は、事実のつながりがあっても、請求できません。
図:不法行為への416条の類推
- 1項=通常生ずべき損害→賠償される
- 2項=特別の事情によって生じた損害→加害者がその事情を予見すべきであったときだけ賠償される
- 予見するのは損害ではなく、損害を生んだ特別の事情
- 相当因果関係が否定される損害は請求できない
内容を整理します。通常生ずべき損害は、賠償されます。特別の事情によって生じた損害は、加害者がその事情を予見すべきであったときに限って、賠償されます。予見するのは、損害そのものではなく、損害を生んだ特別の事情です。債務不履行の回と、同じ形です。なぜ、この線が、相当の中身になるのか。普通に続いて起きる損害や、予見すべきであった事情から生じた損害なら、加害者に負わせても、不意打ちにはなりません。反対に、知りようのない事情から生じた損害まで負わせると、行為者には予測のつかない責任になります。その境目を引くのが、416条の線です。
⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】不法行為による損害賠償にも416条が類推適用され、通常生ずべき損害は賠償される。特別の事情によって生じた損害は、加害者がその事情を予見すべきであったときに限り賠償される。相当因果関係が否定される損害は、請求できない。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。709条は賠償の範囲を書いていない。決め手=事実のつながりは際限なく広がるので、不法行為でも線が要り、債務不履行の416条の線の引き方を借りるから)
この類推は、2つの判決で語られます。1つは、大審院の、富喜丸事件と呼ばれる判決です。債務不履行の賠償の範囲の回で、不法行為のところで、もう一度出てきます、と約束しました。それがこれです。416条を相当因果関係の原則と解し、不法行為にも類推した、先例です。もう1つが、最高裁の、仮処分の損害の範囲の判決です。他人の財産に対する仮処分、つまり裁判の結論が出るまで裁判所にとってもらう仮の措置、の執行をめぐる損害賠償の事案で、債務不履行の賠償の範囲の回に、カードで見ました。判決は、不法行為による損害賠償についても、416条が類推適用される、というのは判例の趣旨とするところで、いまただちにこれを変更する要をみない、と言いました。そのうえで、仮処分を執行された側、つまり判決の言う上告人が主張した、財産上および精神上の損害は、通常生ずべき損害にあたらず、特別の事情によるものだとしました。加害者に予見すべき事情があったとは認められない、とした原審の判断を是認して、上告を退けました。債務不履行の回では、この判決の反対意見の筋を、要約だけ見ました。今日は、それを判決の言葉で読んで、学説と試験での扱いまで見ます。
設例にあてはめる 骨折の治療費
図:二段の図(設例)
- 追突→入院→院内で転倒・骨折。1段目:追突がなければ骨折もなかったか→はい(つながりあり)。2段目:入院中に院内で転ぶことは、追突によるけがの治療で入院した人に、一般に起こりうる範囲(通常損害)か→はい=賠償される
- いいえ=特別の事情をAが予見すべきであったか→はい=賠償される
- いいえ=賠償されない。
設例を、二段の図に通します。事故が起きて、骨折の損害が生じました。まず、事実的因果関係があるか。あれなければこれなしで、追突がなければ骨折もなかったので、あります。次に、通常損害か。通常損害なら、賠償されます。通常損害でなければ、特別の事情による損害です。その事情を、Aが予見すべきであったか。予見すべきであったなら賠償され、そうでなければ賠償されません。結局、骨折の治療費は、Aに請求できるんですか。ここは、事情次第です。入院中に院内で転ぶことが、追突のけがの治療で入院した人に、一般に起こりうる範囲と言えるなら、通常損害として賠償されます。たとえば、追突で足をけがして、つえをついて歩いていたときに転んだのなら、けがから一般に起こりうる、と言いやすくなります。けがと関係のない、ただの不注意で転んだのなら、言いにくくなります。そう言えないなら、特別の事情が必要です。たとえば、Bに歩行の障害があって、Aがそれを知っていた、という事情です。Aがその事情を予見すべきであったと言えるなら、賠償の対象になりえます。線の両側を、1組ずつ見ておきます。追突でBが負ったけがそのものの治療費は、追突から一般に生じる損害なので、通常損害として賠償されます。これに対して、入院のせいで、Bがその日に結ぶはずだった大きな取引を逃した、という損害はどうでしょう。その取引のことは、Aには知りようがありません。特別の事情で、Aが予見すべきであったとは言えないので、416条の線の外になり、賠償されません。
骨折の治療費のほうは、事情で結論が分かれます。断定せず、二段にあてはめる手順を押さえてください。問いです。入院中に病院で転んだ骨折の治療費について、まず確かめるのは何でしょうか?事実的因果関係、つまり、あれなければこれなしです。まず入口のつながりを確かめて、次に範囲です。
類推への批判 不法行為は無関係な者の間で突発する
図:類推への批判
- 債務不履行=契約を結んだ者どうし→特別の事情を事前に知らせることもできる
- 不法行為=多くの場合全く無関係な者の間で突発→知らせる機会がない
- 運転者が、被害者の収入や家庭の状況を、あらかじめ予見しているはずがない
先ほどの、仮処分の損害の範囲の判決には、反対意見がありました。判決の中の反対意見です。多数意見の言葉ではない点に、注意してください。
判例最判昭48・6・7 民集27巻6号681頁(反対意見)
416条の類推への反対意見 これに反して、多くの場合全く無関係な者の間で突発する不法行為にあつては、故意による場合はとにかく、過失による場合には、予見可能性ということはほとんど問題となりえない。たとえば、自動車の運転者が運転を誤つて人をひき倒した場合に、被害者の収入や家庭の状況などを予見しまたは予見しうべきであつたというがごときことは、実際上ありうるはずがないのである。
反対意見の筋は、こうです。債務不履行は、契約を結んだ者どうしの間で起こります。特別の事情があるなら、あらかじめ相手に知らせておくこともできます。ところが不法行為は、多くの場合、全く無関係な者の間で、突然起こります。運転を誤って人をはねた運転者が、被害者の収入や家庭の状況を、前もって考えているはずがありません。反対意見は、予見できたかどうかで線を引くこと自体に無理がある、と考えます。予見可能性で線を引くと、過失による不法行為ではほとんど意味をなしません。むしろ、公平の観念に照らして加害者に賠償させるのが相当な損害は、通常損害か特別損害か、予見できたかどうかを問わず、広く認めるべきだ、という方向です。一方で、この反対意見も、二段階の発想は共有しています。事実のつながりは際限がないので、そのつながりを前提に、どの範囲の損害を賠償させるのが妥当かを考える必要がある、という点です。位置づけを確認します。学説では、416条の類推を否定する見解が有力です。しかし、判例は、いまも416条を類推します。判例は変更されていません。試験では、判例の立場で書いてください。この批判は、論文で論点になりうるところです。
弁護士費用 不法行為では相当額が損害になる
図:弁護士費用の3つの請求根拠(前の回の整理)
- 債務不履行一般=原則として賠償の対象外(大審院の判例)
- 安全配慮義務違反=相当な額の範囲で認める(最高裁)
- 不法行為=相当な額の範囲で認める(最高裁)。今日は不法行為。
範囲の話に、もう一つ加えます。問いです。弁護士費用は、債務不履行一般では、請求できるのでしたか?原則として、賠償の対象になりません。大審院の判例がそう解してきました。安全配慮義務違反では、最高裁が相当額を認めました。そして、不法行為も、最高裁が相当額を認めています。この不法行為の判決は、債務不履行の賠償の範囲の回でも、比較としてカードを読みました。今日は、こちらが本題です。事案は、こうです。違法な不動産競売を申し立てられた所有者が、根抵当権設定登記の抹消を求めて訴えを起こしました。弁護士に訴訟の追行を委任して、着手金、つまり依頼したときに先に払う報酬を、支払っています。所有者の請求が認められ、競売を申し立てた人が、弁護士費用の賠償を争いました。つまり、持ち主は、不当に競売をかけられたせいで、担保の登記を消すための訴えを起こさざるを得なくなりました。そこで弁護士に払った費用を、競売を申し立てた人に、損害として賠償させられるか、が問題になったのです。規範の1文を見てください。
判例最判昭44・2・27 民集23巻2号441頁
不法行為と弁護士費用 訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。
⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】不法行為の被害者が訴えの提起を余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、不法行為と相当因果関係に立つ損害。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は弁護士費用を書いていない。決め手=現在の訴訟は専門化しており、一般の人が弁護士なしで十分に訴訟活動をするのはほとんど不可能なので、訴えを余儀なくされた被害者が弁護士に頼むのは通常だから)
順に説明します。斟酌とは、いろいろな事情を考えあわせることです。認容された額は、裁判で認められた賠償額のことです。つまり、事件の難しさや、請求額、認められた額などを考えあわせて、相当と認められる額の範囲に限って、損害になります。訴訟費用とは、裁判所に納める手数料など、負けた側が負担すると法律で決まっている費用です。現行法は、弁護士に頼むことを強制していません。本人だけでも訴訟はできるので、頼むかどうかは本人の選択です。そのため、負けた側に負わせると決まった費用には、弁護士費用は入っていません。ですから、勝っても、訴訟費用として相手に払わせることはできません。残る道が、不法行為の損害として請求することです。しかし判決は、現在の訴訟は専門化していて、一般の人が単独で十分な訴訟活動をするのは、ほとんど不可能に近い、と言います。ですから、権利を侵害された人が、訴えの提起を余儀なくされたなら、弁護士に頼むのは通常だと言えます。判決の言う、このようなことが通常と認められる、とは、訴えるために弁護士に頼むのは、不法行為から普通に続いて起きること、という意味です。416条で言えば、1項の通常生ずべき損害の側です。だから、相当な額が、416条の線の中、つまり相当因果関係の範囲に入ります。設例のBが、Aを訴えて勝った場合です。弁護士費用は、相当な額の範囲で、賠償に含まれます。実務では、認容額のおよそ1割程度とされることが多いようですが、これは目安です。決まりとして覚える必要はありません。
この判決の規範は、不法行為の賠償の範囲として答案に出てくるものなので、手元に置いておいてください。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 因果関係は2段階(事実的因果関係=あれなければこれなし・高度の蓋然性で足りる/相当因果関係=416条を類推)
- 類推への批判=無関係な者の間で突発する
- 弁護士費用=相当額の範囲で損害
- 冒頭の設例=骨折の治療費は、事実的因果関係はある
- 賠償に含まれるかは、通常損害か、特別の事情をAが予見すべきであったか、で決まる
冒頭の設例の答えです。骨折の治療費は、事実的因果関係は、あります。賠償に含まれるかは、相当因果関係で決まります。院内の転倒が通常生ずべき損害にあたるか、あたらないなら、特別の事情をAが予見すべきであったか、事情次第です。訴えを起こせば、弁護士費用も、相当額の範囲で損害に入ります。まとめます。1つめ、因果関係は2段階です。事実的因果関係は、あれなければこれなしで、立証は高度の蓋然性で足ります。相当因果関係は、賠償の範囲で、判例は416条を不法行為に類推します。2つめ、この類推には、不法行為は無関係な者の間で突発する、という批判があります。ただ、試験では判例の立場で書きます。3つめ、弁護士費用は、相当と認められる額の範囲で、不法行為と相当因果関係に立つ損害です。因果関係の立証の程度、416条の類推、その批判は、論文で論点になりうるところです。
参照条文
- 民法416条