民法ゼロから民法#300

損害賠償の方法と間接被害者

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第6章 法定債権 #300/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

被害者は1人なのに 会社も家族も損をした

冒頭の設例 一人で小さな工務店を営むBが、Aの運転する車に追突されて、3か月入院した。Bの会社Cは仕事を受けられず、売上が落ちた。CはAに賠償を求められるか。A=加害行為をした人/B=直接の被害者/C=Bの会社。 図:冒頭の設例 一人で小さな工務店を営むBが、Aの運転する車に追突されて、3か月入院した

  • Bの会社Cは仕事を受けられず、売上が落ちた
  • CはAに賠償を求められるか
  • A=加害行為をした人/B=直接の被害者/C=Bの会社

今日からは、要件がそろったあとの、効果を見ていきます。入口の設例です。一人で小さな工務店を営むBが、Aの運転する車に追突されて、3か月入院しました。Bの会社をCとします。Cは仕事を受けられず、売上が落ちました。CはAに、賠償を求められるでしょうか。会社にも売上減という実害が出ているので、賠償が認められそうに見えるのは自然です。でも、答えは、原則として求められません。どこで線が引かれるのか、例外はあるのかを、後半で見ます。今日は2つの問いを順に見ます。1つめは、賠償をどんな形で払わせるか、つまり方法です。2つめは、直接の被害者でない人が、賠償を請求できるか、つまり間接被害者です。

今日の地図。前半=賠償の方法(金銭が原則→懲罰的損害賠償は認めない→一時金と定期金→名誉毀損だけの例外)。後半=間接被害者(肩代わり損害→定型的付随損害→企業損害)。軸=賠償は現に生じた損害の穴埋め。誰が請求できるかは、因果関係の回の二段の線で決まる。 図:今日の地図

  • 前半=賠償の方法(金銭が原則→懲罰的損害賠償は認めない→一時金と定期金→名誉毀損だけの例外)
  • 後半=間接被害者(肩代わり損害→定型的付随損害→企業損害)
  • 軸=賠償は現に生じた損害の穴埋め
  • 誰が請求できるかは、因果関係の回の二段の線で決まる

板に、道筋を並べました。軸は、ひとつだけです。賠償は、現に生じた損害の穴埋めです。前半は、その穴の埋め方。後半は、穴の持ち主が誰で、その人が請求できるか、です。

金銭賠償が原則 722条1項と417条

賠償の方法。原則=金銭で額を定める(417条・722条1項で準用)。壊した物を作り直せ、とは求められない。例外=名誉毀損の723条(あとで)。 図:賠償の方法

  • 原則=金銭で額を定める(417条・722条1項で準用)
  • 壊した物を作り直せ、とは求められない
  • 例外=名誉毀損の723条(あとで)

問いです。債務不履行の回で見た、賠償は何で額を定めるのが原則でしたか?お金、つまり金銭です。条文を見ます。

条文民法417条

民法第417条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

これは債務不履行の条文です。不法行為には、次の条文が、これを借ります。

条文民法722条1項

民法第722条 第四百十七条及び第四百十七条の二の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。

準用とは、同じ扱いを借りて当てはめることです。722条1項は、417条と417条の2を、不法行為の賠償に準用しています。417条の2は、将来の利益の賠償で、利息相当額を引く場合の定めです。中身は、あとで一言ふれます。債務不履行は契約がありますから、賠償の方法を前もって約束できます。不法行為は、突然ぶつかる関係で、前もって約束することは通常ありません。だから、金銭が原則になります。たとえば、Aが壊したBの機械を、同じ物に作り直して返せ、とは求められません。壊れた分の価値を、お金で算定して払う、という形です。

⭐ 論文で書く規範:【成立要件(条文どおり)】不法行為による損害賠償は、金銭をもってその額を定める(722条1項・417条)。 (条文どおりの成立要件。短答では、722条1項が417条と417条の2を準用する点を押さえる)

懲罰的損害賠償は認めない

填補と制裁の比較。日本の不法行為=現実の損害を金銭で評価して賠償させ、不法行為がなかったときの状態に回復する(填補)。制裁や将来の同様の行為の抑止(一般予防)は目的でない。外国判決の懲罰的損害賠償の部分は、公序に反し効力なし。 図:填補と制裁の比較

  • 日本の不法行為=現実の損害を金銭で評価して賠償させ、不法行為がなかったときの状態に回復する(填補)
  • 制裁や将来の同様の行為の抑止(一般予防)は目的でない
  • 外国判決の懲罰的損害賠償の部分は、公序に反し効力なし

問いです。不法行為で、見せしめのために、実際の損害に上乗せして賠償させることは、できるでしょうか?加害者への見せしめとして、損害以上の額を命じたくなる気持ちは分かります。でも、日本の不法行為は、そうは働きません。喩えるなら、へこんだ地面を、同じ高さまで土で埋める作業です。埋めすぎて盛り上がれば、それは穴埋めではなく、別のでこぼこです。賠償は、現に生じた穴を埋めるところまで、です。穴の大きさは、損害の回で見た差額説のとおり、不法行為がなかったときとの差で測ります。これを示したのが、外国判決をめぐる最高裁の判決です。事案を役割で言います。外国の裁判所が、だまされた被害者に対して、実際の損害を埋める補償的損害賠償と、訴訟費用を認めました。それに加えて、悪質な行為をした会社に、見せしめと制裁のための損害賠償、つまり懲罰的損害賠償の支払を命じ、判決が確定しました。被害者は日本で、その外国判決の執行判決を求めました。執行判決とは、外国の判決を、日本で強制執行してよい、と裁判所が宣言する判決です。争点は、外国判決の効力を認める条件の一つです。民事訴訟法118条を見ます。

条文民事訴訟法118条

民事訴訟法第118条(外国裁判所の確定判決の効力) 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。 一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。 二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。 三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。 四 相互の保証があること。

3号を見てください。判決の内容が、日本の公の秩序に反しないことが要ります。では、判決の言葉を読みます。判決は3段で進みます。公の秩序に反するのはどんなときか、日本の損害賠償は何のためにあるのか、そして結論です。まず、1段目です。

判例最判平9・7・11 民集51巻6号2573頁

外国判決と公の秩序 外国裁判所の判決が我が国の採用していない制度に基づく内容を含むからといって、その一事をもって直ちに右条件を満たさないということはできないが、それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものと認められる場合には、その外国判決は右法条にいう公の秩序に反するというべきである

右条件、右法条とは、判決当時の民事訴訟法200条3号のことで、いまの118条3号にあたる、公の秩序に反しないという条件です。読み方はこうです。日本にない制度を含んでいるというだけでは、だめとはなりません。ただし、日本の法秩序の基本原則や基本理念と、相いれないなら、公の秩序に反します。次が、日本の損害賠償の基本理念です。

判例最判平9・7・11 民集51巻6号2573頁

日本の損害賠償制度の目的 我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり……、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。 ……不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、右に見た我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められる。

補てんとは、足りない分を埋め合わせることです。日本の賠償制度の目的は、現実の損害を評価して、不法行為がなかったときの状態に回復させることです。制裁や、同じ行為を将来させないための抑止、これを一般予防と呼びますが、これは目的ではありません。だから、実際の損害に上乗せして、制裁のための賠償金を受け取ることは、基本理念と相いれない、と述べました。なぜか。人を罰して、同じ行為を防ぐのは、刑罰や行政の仕事です。民事の賠償は、被害者の穴を埋める仕事、と役割を分けています。罰の分まで被害者が受け取れば、被害者は、事故の前より得をしてしまいます。結論の部分です。

判例最判平9・7・11 民集51巻6号2573頁

懲罰的損害賠償の部分の効力 ……本件外国判決のうち、補償的損害賠償及び訴訟費用に加えて、見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は、我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しないものとしなければならない。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】日本の不法行為の損害賠償は、現実の損害を填補して不法行為がなかったときの状態に回復させることが目的で、制裁や一般予防は目的でない。したがって、懲罰的損害賠償を命じた外国判決の部分は、日本の公序に反し、効力を有しない。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は賠償の目的を書いていない。決め手=賠償を受けた被害者が損害以上の利益を得るのは穴埋めではなく、制裁は刑事や行政の仕事だから)

判決の全体が否定されたわけではありません。効力がないとされたのは、懲罰的損害賠償を命じた部分だけです。実際の損害を埋める補償的損害賠償と、訴訟費用の部分は、この判決では問題になっていません。外国判決の全体が日本で効力を失う、という判決ではありません。

一時金と定期金 名誉毀損の723条

賠償の払い方。一時金方式=全損害を一括で払う(実務ではこちらを求めることが多い)。定期金方式=分割して払う。一時金では、将来の分について中間利息が引かれる(417条の2・722条1項)。 図:賠償の払い方

  • 一時金方式=全損害を一括で払う(実務ではこちらを求めることが多い)
  • 定期金方式=分割して払う
  • 一時金では、将来の分について中間利息が引かれる(417条の2・722条1項)

次は払い方です。賠償金を一括で払う形を、一時金方式と呼びます。分割で、たとえば毎月払う形が、定期金方式です。実務では、まとめて払う一時金で求めることが多いです。一時金なら、将来の介護費用や、将来得られたはずの収入も、いまのうちにまとめて払います。先にお金を受け取れば、利息が付く分だけ得になります。そこで、その利息相当額を引く、中間利息の控除が問題になります。基準は、さきほどの417条の2で、債務不履行の回で見ました。

723条。他人の名誉を毀損した者には、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命じられる(例=謝罪広告)。金銭賠償の原則の例外。 図:723条

  • 他人の名誉を毀損した者には、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命じられる(例=謝罪広告)
  • 金銭賠償の原則の例外

ここまで、金銭が原則でした。例外が、名誉毀損です。名誉毀損の回で、謝罪広告の例と一緒に名前だけ出した条文です。今日は、その中身です。

条文民法723条

民法第723条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

金銭を払っても、一度傷ついた社会的評価は、お金だけでは元に戻りません。そこで、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命じられます。例が、謝罪広告の掲載です。裁判所が、職権で命じるのではなく、被害者の請求が要ります。

⭐ 論文で書く規範:【成立要件(条文どおり)】他人の名誉を毀損した者に対し、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる(723条)。 (条文どおりの成立要件。規範として覚えるのではなく723条を挙げて当てはめる。金銭賠償の原則の例外。前もって侵害を止める差止めは、723条の処分ではない)

なお、まだ起きていない侵害を前もって止める、差止めは、723条の処分ではありません。差止めは、あとの回で扱います。

間接被害者 3つの類型と相当因果関係

設例の関係図。A(加害行為をした人)が B(直接の被害者)に追突。Bの会社C・Bの母D・Bの弟Eが周りで損をした。D=入院費を立て替えた/E=海外の勤務先から駆けつけた。 図:設例の関係図

  • A(加害行為をした人)が B(直接の被害者)に追突
  • Bの会社C・Bの母D・Bの弟Eが周りで損をした
  • D=入院費を立て替えた/E=海外の勤務先から駆けつけた

後半に入ります。設例に人を加えます。Bの母Dが、入院費を立て替えました。Bの弟Eが、海外の勤務先から駆けつけました。会社Cは、売上が落ちました。事故に遭ったのはBだけです。でも、損をした人は、ほかにもいます。直接の被害者以外の人が受けた損害を、間接損害と呼びます。その損害を受けた人が、間接被害者です。3つの類型があります。

間接損害の3類型。1 肩代わり損害(反射損害)=治療費などを、別の人が出した(母D)/2 定型的付随損害=看護のため駆けつけた旅費など、事故に付随して通常生じる損害(弟E)/3 企業損害=被害者が働けなくなって、会社が損をした(会社C)。 図:間接損害の3類型

  • 1 肩代わり損害(反射損害)=治療費などを、別の人が出した(母D)
  • 2 定型的付随損害=看護のため駆けつけた旅費など、事故に付随して通常生じる損害(弟E)
  • 3 企業損害=被害者が働けなくなって、会社が損をした(会社C)

1つめは肩代わり損害です。治療費などを、被害者の代わりに、別の人が出した場合で、母Dです。2つめは定型的付随損害です。看護のために駆けつけた旅費のように、事故にともなって通常生じる損害で、弟Eです。3つめが企業損害です。被害者が働けなくなって、会社が損をした場合で、会社Cです。問いです。思い出してください。因果関係の回の、不法行為の賠償の範囲を決める条文は、何を類推していましたか?416条です。判例と通説は、間接損害を請求できるかも、この線で考えます。相当因果関係が認められる間接損害に限って、請求できる、という整理です。

二段の図の再掲。1段目:事故がなければその損害もなかったか(事実的因果関係)。2段目:その損害は、賠償の範囲に入るか(416条の類推)。通常損害なら賠償される/特別の事情なら予見すべきだったとき賠償される。間接損害も、この線の内側かどうかで決まる。 図:二段の図の再掲

  • 1段目:事故がなければその損害もなかったか(事実的因果関係)
  • 2段目:その損害は、賠償の範囲に入るか(416条の類推)
  • 通常損害なら賠償される/特別の事情なら予見すべきだったとき賠償される
  • 間接損害も、この線の内側かどうかで決まる

相当因果関係とは、因果関係の回で見たとおり、事実のつながりのうち、賠償させるのが相当と言える範囲のことです。その範囲は、416条の線で決めます。通常生ずべき損害は、範囲に入ります。特別の事情で生じた損害は、加害者がその事情を予見すべきだったときだけ、入ります。喩えるなら、池に石を投げた波紋です。近くの波は、石を投げた人のせいと言えます。でも、遠くの岸まで届く波すべてを、投げた人の責任にはしません。どこかで線を引く。その線が、相当因果関係です。事実のつながりが、あるだけでは足りません。冒頭でCが請求できそうに思えたのは、事実のつながりだけを見ていたからです。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】間接被害者の損害は、相当因果関係が認められる範囲に限り、賠償を請求できる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例・通説)。条文は間接被害者の請求を書いていない。決め手=事実のつながりは際限なく広がるので、不法行為でも賠償の範囲に線が要るから)

肩代わり損害と家族の旅費

母Dの入院費。治療費は出した人が請求できると考えられる。実際に治療費を負担した人(扶養義務者など)が請求する。BとDの二重取りにはならない(同じ損害は一度だけ賠償)。 図:母Dの入院費

  • 治療費は出した人が請求できると考えられる
  • 実際に治療費を負担した人(扶養義務者など)が請求する
  • BとDの二重取りにはならない(同じ損害は一度だけ賠償)

1つめ、肩代わり損害です。入院費は、母Dが立て替えました。実際に治療費を負担した人、たとえば、家族を養う義務のある扶養義務者は、その分を請求できる、と考えられます。なぜ、Bではない母Dが、自分で請求できるのか。治療費は、事故がなければ出さずに済んだお金で、実際にそのお金が出ていったのは、Dの財布だからです。穴の持ち主が、Dなのです。BとDの両方が請求したら、二重取りになりませんか。なりません。同じ損害を、一度だけ賠償するだけだからです。Bが請求するなら、Dが出した分は含まれません。2つめ、定型的付随損害です。弟Eが、海外から駆けつけた旅費です。事案を役割で言います。交通事故で重傷を負った被害者の娘が、留学のため出発した途中でした。事故の知らせを受けて急に帰国し、入院中の被害者を看護しました。

昭49の事案。重傷を負った被害者の娘が、留学の途中で急遽帰国して看護した。請求したのは被害者本人(娘ではない)。娘の帰国旅費と、無駄になった留学の旅費を、被害者が自分の損害として加害者に請求。最高裁は認めた。 図:昭49の事案

  • 重傷を負った被害者の娘が、留学の途中で急遽帰国して看護した
  • 請求したのは被害者本人(娘ではない)
  • 娘の帰国旅費と、無駄になった留学の旅費を、被害者が自分の損害として加害者に請求
  • 最高裁は認めた

ここで、気をつけてください。請求したのは、被害者本人です。娘ではありません。被害者が、娘の旅費を、自分の損害として加害者に請求しました。最高裁は認めました。判決の言葉を読みます。

判例最判昭49・4・25

近親者の看護のための旅費 交通事故等の不法行為によつて被害者が重傷を負つたため、被害者の現在地から遠隔の地に居住又は滞在している被害者の近親者が、被害者の看護等のために被害者の許に赴くことを余儀なくされ、それに要する旅費を出捐した場合、当該近親者において看護等のため被害者の許に赴くことが、被害者の傷害の程度、当該近親者が看護に当たることの必要性等の諸般の事情からみて社会通念上相当であり、被害者が近親者に対し右旅費を返還又は償還すべきものと認められるときには、右旅費は、近親者が被害者の許に往復するために通常利用される交通機関の普通運賃の限度内においては、当該不法行為により通常生ずべき損害に該当するものと解すべきである。

出捐とは、お金を出すことです。償還とは、立て替えてもらったお金を返すことです。条件は3つです。1つめ、近親者が駆けつけることが、傷害の程度や、看護の必要性などから見て、社会通念上相当であること。2つめ、被害者が近親者に、旅費を返すべきものと認められること。この2つがそろったとき、3つめ、普通運賃の限度内で、通常生ずべき損害にあたります。通常生ずべき損害は、416条1項の言葉です。416条の類推で言えば、1項の通常損害にあたる、と答えているわけです。なぜ、近親者が出したお金が、被害者の損害になるのか。被害者が返さなければならないお金なら、結局は被害者の財布から出ていく穴だからです。そして、重傷の家族に近親者が駆けつけるのは、普通のことです。だから通常損害です。

判例最判昭49・4・25

外国に滞在する近親者の場合 ……国際交流が発達した今日、家族の一員が外国に赴いていることはしばしば見られる事態であり、……外国に滞在する者が、右の者の看護等のために一時帰国し、再び外国に赴くことも容易であるといえるから、前示の解釈は、被害者の近親者が外国に居住又は滞在している場合であつても妥当するものというべきである。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】近親者が被害者の看護のために駆けつけた旅費は、駆けつけることが社会通念上相当で、被害者が近親者に償還すべきものと認められるとき、普通運賃の限度内で、不法行為により通常生ずべき損害にあたる。外国に滞在する近親者でも同じ。請求するのは被害者。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は近親者の旅費を書いていない。決め手=重傷の被害者に近親者が付き添うのは通常で、その費用は被害者が返すべき費用だから、被害者の損害と言えるから)

設例にあてはめます。海外から駆けつけたEの旅費は、Bが、自分の損害として、Aに請求する形になります。近親者本人の請求は、この判決が言っているところではありません。言い過ぎないようにしてください。母Dの治療費と、向きが逆に見えるかもしれません。違いは、穴がどちらの財布に残るかです。Dの治療費は、Dが出したまま、Dの財布に穴が残ります。Eの旅費は、BがEに返すべきお金、つまり、Bの財布に穴が残る形でした。だから、この判決では、Bが請求します。たとえば、普通運賃の飛行機で駆けつけた旅費は、通常損害です。でも、わざわざ最上級の席を使った差額は、普通運賃の限度を超えます。また、重傷でもない軽いけがで、遠くの近親者が駆けつけるのは、社会通念上相当と言えないことがあります。決め手は、通常の範囲かどうかです。

企業損害 会社Cは請求できるか

冒頭の設例に戻る。BとCは別の人格。Cの売上減(逸失利益)を、そのままAに請求させると賠償が広がりすぎる。→原則として相当因果関係は否定される。 図:冒頭の設例に戻る

  • BとCは別の人格
  • Cの売上減(逸失利益)を、そのままAに請求させると賠償が広がりすぎる
  • →原則として相当因果関係は否定される

3つめ、企業損害です。冒頭の設例に戻ります。問いです。Bが働けなくなりました。会社Cは、別の人格です。会社の売上減は、そのままAに請求できるでしょうか?認められそうに見えますが、むしろ逆です。Bの損害と、Cの損害は別だからこそ、そのまま請求を認めれば、賠償が広がりすぎます。Bが倒れると、取引先も、従業員も、下請けも、連鎖して損をします。波紋が、どこまでも広がります。だから、原則として、相当因果関係は否定される、と整理されます。なお、損害の回で見たとおり、法人の名誉が傷つけられて、金銭に評価できる無形の損害が生じたときは、法人が自分の損害として請求できます。それは、会社が自分の権利を侵された話でした。今日は違います。Bがけがをしたことで会社が損をした、つまり間接損害の話です。では、例外はあるのか。事案を役割で言います。薬局を営む個人が、節税のために、有限会社を作りました。社員は本人とその妻だけで、妻は名目上の社員です。社員とは、ここでは会社の持ち主、つまり出資した人のことで、従業員のことではありません。取締役は本人だけで、薬剤師も本人だけです。交通事故で本人が負傷し、会社が、逸失利益を加害者に請求しました。最高裁は認めました。

昭43の事案。薬局を営む個人が、節税のため有限会社を設立。社員は本人とその妻だけ(妻は名目上)、取締役も薬剤師も本人だけ。本人が交通事故で負傷し、会社が逸失利益を請求。最高裁は認めた。判決文中のDは、薬局を営む本人。設例のDとは別人。 図:昭43の事案

  • 薬局を営む個人が、節税のため有限会社を設立
  • 社員は本人とその妻だけ(妻は名目上)、取締役も薬剤師も本人だけ
  • 本人が交通事故で負傷し、会社が逸失利益を請求
  • 最高裁は認めた
  • 判決文中のDは、薬局を営む本人
  • 設例のDとは別人

判例最判昭43・11・15 民集22巻12号2614頁

個人会社の逸失利益 法律上、両者が人格を異にすることは所論のとおりである。 ……被上告会社は法人とは名ばかりの、俗にいう個人会社であり、その実権は従前同様D個人に集中して、同人には被上告会社の機関としての代替性がなく、経済的に同人と被上告会社とは一体をなす関係にあるものと認められるのであつて、かかる原審認定の事実関係のもとにおいては、原審が、上告人のDに対する加害行為と同人の受傷による被上告会社の利益の逸失との間に相当因果関係の存することを認め、形式上間接の被害者たる被上告会社の本訴請求を認容しうべきものとした判断は、正当である。

判決文のDは、薬局を営む本人のことで、設例のDとは別人です。判決の言う被上告会社が、会社です。順に読みます。まず、法律上、会社と本人が別人格だという点は、そのとおりだと認めています。そのうえで、会社は名ばかりで、実権は本人に集中し、本人には、会社の機関としての代替性がない、と言います。機関としての代替性とは、本人の代わりをできる人が、会社の中にいるか、ということです。薬剤師が本人だけなら、本人が倒れれば、代わりがきかず、会社の仕事が止まります。経済的に本人と会社は一体、と見て、相当因果関係を認めました。なぜ例外になるのか。会社の損は、実質は本人が働けなくなった損そのものです。別の人格だからと切り離すと、名前だけの会社を作っただけで、賠償が消えてしまいます。

企業損害の判断要素。原則=相当因果関係なし(別人格・賠償が広がりすぎる)。例外=法人とは名ばかりの個人会社で、被害者に会社の機関としての代替性がなく、経済的に一体をなす関係のとき、会社の逸失利益に相当因果関係を認める。設例への当てはめ:従業員もいる実体のある会社で代わりがきく→否定/一人経営で代わりがなく一体→請求できうる(事実関係次第)。 図:企業損害の判断要素

  • 原則=相当因果関係なし(別人格・賠償が広がりすぎる)
  • 例外=法人とは名ばかりの個人会社で、被害者に会社の機関としての代替性がなく、経済的に一体をなす関係のとき、会社の逸失利益に相当因果関係を認める
  • 設例への当てはめ:従業員もいる実体のある会社で代わりがきく→否定/一人経営で代わりがなく一体→請求できうる(事実関係次第)

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】会社が法人とは名ばかりの個人会社で、被害者に会社の機関としての代替性がなく、経済的に被害者と会社とが一体をなす関係のとき、例外的に相当因果関係が認められ、会社の逸失利益の賠償を請求できる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は会社の損害の請求を書いていない。決め手=会社が実質は本人そのもので、会社の損害は本人の損害と同じ穴だから、別人格を理由に切り離す意味がないから)

2つのCを比べます。1つは、Bが一人で経営し、従業員も、代わりに仕事を引き受けられる人もいないCです。Bが倒れれば、会社も止まります。これは、経済的に一体と言え、請求できうる側です。もう1つは、従業員が複数いて、Bの代わりに現場を回せる人もいるCです。Bの入院中も売上が立つなら、会社はBの穴とは別の穴を持ちます。これは原則どおり、否定されます。決め手は、被害者の代わりが会社の中にいるかどうかです。ここは事実関係次第なので、この判決を、会社だから必ず認める、とは読まないでください。

今日の地図(保存版)

まとめ。方法=金銭が原則(417条・722条1項)/懲罰的損害賠償は認めない(填補が目的)/名誉毀損は723条の処分が例外。間接被害者=相当因果関係の問題。肩代わり損害=出した人が請求できると考えられる/定型的付随損害=被害者が通常損害として請求/企業損害=原則否定・個人会社で一体なら例外。 図:まとめ

  • 方法=金銭が原則(417条・722条1項)/懲罰的損害賠償は認めない(填補が目的)/名誉毀損は723条の処分が例外
  • 間接被害者=相当因果関係の問題
  • 肩代わり損害=出した人が請求できると考えられる/定型的付随損害=被害者が通常損害として請求/企業損害=原則否定・個人会社で一体なら例外

冒頭の設例の答えです。会社Cは、原則として、Aに賠償を求められません。ただし、Cが名ばかりの個人会社で、Bに代わりがなく、経済的に一体なら、請求できうる、という整理です。まとめます。1つめ、賠償は金銭が原則です。722条1項が417条を準用しています。懲罰的損害賠償は、損害の填補が目的の日本の制度とは相いれず、認められません。名誉毀損だけは、723条で、名誉を回復する処分を請求できます。2つめ、間接被害者の賠償は、相当因果関係の問題です。治療費を出した人は、請求できると考えられます。看護のために駆けつけた旅費は、被害者が通常損害として請求します。企業損害は、原則は否定で、個人会社で一体の関係なら例外です。企業損害の例外は、論文で論点になりうるところです。

参照条文

  • 民法417条
  • 民法722条1項
  • 民事訴訟法118条
  • 民法723条

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