離婚と子②親子交流の履行確保・養育費・子の氏
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第7章 親族 #327/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
決めた面会は断られ、養育費は止まった
図:冒頭の設例
- 夫A(38歳・会社員)と妻B(36歳・パート)は2026年7月に協議離婚
- 長女C(6歳)の親権者はB
- 交流は審判で「毎月第2・第4土曜日の午前10時から午後4時まで/受渡しはBがCを駅の改札付近でAに引き渡し、終了時にAが同じ場所で引き渡す」
- 養育費は二人で「毎月末に月5万円」と文書にまとめた
- A→C=会わせてもらえない/B→A=養育費が止まった/D(Aの母)→C=会いたい
離婚しても、親と子の関係は続きます。ですから、決めたことが守られないときの道具が用意されています。今日は、その道具を順に見ていきます。前の回では、離婚のときに決めることの表の前半を見ました。親権者は必ず決める。監護者と親子交流は任意だけれど、決めるなら子の利益が最優先でした。今日はその表の続きです。最初の問いは、Aさんは決まった面会を実現させるために何ができるのか、です。ただし、道具が使えるかどうかは、取決めの書き方で分かれます。そこが今日の山場です。
図:今日の地図
- 問いは4つ=決めた交流が守られないとき何ができるか/養育費が止まったらどうするか(取決めがなかったときの補いも)/祖母は孫に会えるか/離婚で子の氏はどうなるか
- 貫く軸=離婚で終わるのは夫婦の関係だけ・親と子のつながりは続く
今日の地図です。1つめ、決めた交流が守られないとき、何ができるか。2つめ、養育費が止まったとき、どうするか。取決めをしていなかったときの補いもここで見ます。3つめ、離れて暮らす祖母は、孫に会えるのか。4つめ、離婚で子の氏はどうなるのか、です。貫く軸は、前の回と同じ1本です。離婚で終わるのは、夫婦の関係だけです。親と子のつながりは続きます。
決めた交流が守られないとき 履行勧告と間接強制
図:履行の確保
- 取決めが守られない→履行勧告(家庭裁判所が履行状況を調査し履行を勧告・家事事件手続法289条)→強制執行
- 直接強制=継続的に実施する交流の性質からなじまない/間接強制=履行しないときは一定額の金銭を支払わせて履行を促す(民事執行法172条1項)
- 判断の鍵=給付の特定
766条の、父又は母と子との交流は、裁判所の決定や実務では、面会交流と呼ばれます。前の回で見たとおり、同じものです。取決めが守られないとき、使える手段を順に見ます。1つめは、履行勧告です。審判などで決まった義務が守られていないとき、権利のある側が家庭裁判所に申し出ると、家庭裁判所が履行の状況を調べて、義務のある人に、守るよう勧めます。家事事件手続法289条の手続です。勧告には、従わせる力はありません。あくまで説得です。ですから、それでも守られないときは、強制執行を考えます。強制執行の型は、債権の効力と強制執行の回で見ました。ここで使うのは、直接強制と間接強制です。直接強制は、国の力で、義務の中身そのものを実現させる方法でした。お金なら差押え、物の引渡しなら執行官が取り上げて渡します。
交流は、一度きりの引渡しではなく、日を重ねて続けていく関わりです。力ずくで実現するのは、その性質になじまないとされます。直接強制はなじまない、と押さえてください。そこで使われるのが、間接強制です。義務を守らない間、一定額のお金を支払わせて、守るよう促す方法でした。民事執行法172条1項です。たとえば、面会に応じなかったら1回につき5万円を払え、と命じます。払わされるのが嫌なら、守るほうが得になる、という圧力をかけるわけです。罰金は国に納める刑罰なので、別のものです。間接強制のお金は、守ってもらえなかった側、つまり債権者に支払われます。ここで問いです。決まった取決めがあれば、いつでも間接強制はできるのでしょうか?
実は、取決めがあるだけでは、いつでもできるとは限りません。取決めの中身しだいです。次に、その分かれ目を見ます。
山場 間接強制ができる取決め 給付の特定
図:事案(決定文の範囲)
- 父と母は離婚し親権者は母。家庭裁判所が、母に対し、父が長女と面会交流をすることを許さなければならない旨の審判をし、確定。内容=月1回・毎月第2土曜日の午前10時から午後4時まで
- 受渡場所は母の自宅以外(協議が調わないときは所定の駅の改札付近)で、母が開始時に長女を引き渡し、終了時に父が引き渡す。母は、長女が応じないという態度を理由に面会交流を許さなかった。父が間接強制を申し立て、最高裁は間接強制決定をすることができるとした。
事案です。離婚した母が親権者でした。家庭裁判所は、母に対して、父が長女と面会交流をすることを許さなければならない、という審判をしました。中身は、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時まで。受渡しは、母が開始時に長女を引き渡し、終了時に父が引き渡す、という決め方です。ところが母は、長女が応じないという態度を理由に、面会交流を許しませんでした。父が間接強制を申し立てました。
判例最決平25・3・28 民集67巻3号864頁
面会交流の間接強制は、給付が特定されていればできる したがって,監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は,上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。
ポイントは、給付の特定に欠けるところがないか、です。監護親が、何をすれば守ったことになるのかが、取決めを読めば分かる状態のことです。たとえば、そのうち駅で会おうという約束を想像してください。いつ会うのか、何時間か、どこで渡すのかが分かりません。これでは、すっぽかしたのかどうかを、誰も判定できません。間接強制は、守らなかったらお金を払わせる仕組みです。ですから、守らなかったという事実を言い切れなければ、お金を課すことができません。これが、給付の特定が必要な理由です。決定の言葉では、面会交流の日時又は頻度、各回の面会交流時間の長さ、子の引渡しの方法等です。覚えやすいように、こちらでは、日時又は頻度、時間の長さ、引渡しの方法の3点で押さえましょう。ただし決定は、等と付けています。この3点だけに限るとまでは言っていません。
図:同じ日の3決定の対比
- 平24(許)48=審判・日程(毎月第2土曜日の午前10時から午後4時まで)と受渡場所・引渡しの方法が定まっている→間接強制できる
- 平24(許)41=審判・頻度(1箇月に2回)と時間(1回6時間)は定まるが、子の引渡しの方法は何も定まっていない→できない
- 平24(許)47=調停調書・頻度「2箇月に1回程度」・時間「半日程度」・最初は1時間程度から徐々に・具体的な日時や場所や方法は協議で定める→大枠だけでできない
最高裁は、同じ日に、似た3つの事件で決定を出しています。分かれ目を比べましょう。1つめは、さっきの事件です。日程も、受渡しの場所と方法も定まっていました。間接強制ができます。2つめは、審判で、1箇月に2回、土曜日又は日曜日に、1回につき6時間、と決まっていました。ところが、子の引渡しの方法が、何も定められていませんでした。決定は、頻度と時間の長さは定められているといえるものの、引渡しの方法が何も定められていないので、給付が十分に特定されているとはいえず、間接強制はできない、としました。引渡しの場所や方法が分からなければ、母が子を連れていかなかったのか、父が受け取りに来なかったのか、判定できないからです。3つめは、調停の調書でした。頻度は2箇月に1回程度、時間は半日程度、最初は1時間程度から徐々に延ばす、と決まっていました。具体的な日時や場所や方法は、父母が協議して定めることになっていました。決定は、大枠を定めただけで、具体的な中身は協議に委ねていると見て、間接強制はできないとしました。
調停調書だからといって弱いわけではありません。調停調書でも、給付の特定に欠けるところがなければ、間接強制を許さない旨の合意などの特段の事情がない限り、間接強制ができます。問われるのは、書面の種類ではなく、中身の具体性です。設例に戻ります。Aさんの審判は、毎月第2・第4土曜日の午前10時から午後4時まで。受渡しはBさんが駅の改札付近でAさんに引き渡し、終了時にAさんが同じ場所で引き渡す、と決まっています。日時又は頻度、時間の長さ、引渡しの方法が、そろっています。ですから、間接強制ができます。子が嫌がっているという事情は、間接強制を妨げる理由にならない、というのが決定の判断です。決め手は、面会交流の審判が、子の心情等を踏まえた上でされているからです。嫌がっていることは、審判の後に、審判のときとは違う状況が生じたといえるなら、面会交流を禁止したり、新しい条項を定めたりするための調停や審判を申し立てる理由にはなり得ます。ただ、間接強制の場面では、妨げにならないのです。整理します。守らせる手段は、履行勧告と、間接強制です。使えるかどうかは、日時又は頻度、時間の長さ、引渡しの方法が具体的に定まっているかで決まります。ここは、論文で論点になりうる箇所です。給付の特定を、取決めの中身に即して説明できるようにしてください。強制執行の手続の細部は、別の回で扱います。
祖母は孫に会えるのか 766条の2
図:事案
- 決定文の範囲
- 子の祖父母が、孫の父を相手方として、子の監護に関する処分として祖父母と孫との面会交流について定める審判を申し立てた。孫の父は祖父母の子(孫の母)と婚姻して孫をもうけ、祖父母宅で同居していたが別居。のち孫の母が死亡し、父が孫を監護している。最高裁は、祖父母の申立てはできないとした。
次は、3つめの問いです。Aさんの母、つまりCちゃんの祖母は、Cちゃんに会えるのでしょうか。先に、前の回を思い出しましょう。子を世話してきた祖母は、監護者を定める審判を申し立てられたでしょうか?できませんでした。父母以外の第三者は、申し立てられないという決定でした。では、孫と会うための申立てはどうか、に進みます。事案です。子の祖父母が、孫の父を相手に、祖父母と孫との面会交流を定める審判を申し立てました。孫の母は、祖父母の子で、すでに亡くなっていました。その後は父が、孫を監護していました。
判例最決令3・3・29 集民265号113頁
祖父母は、孫との面会交流を定めるよう申し立てられない したがって,父母以外の第三者は,事実上子を監護してきた者であっても,家庭裁判所に対し,子の監護に関する処分として上記第三者と子との面会交流について定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である。
結論は、こちらも申し立てられない、です。前の回で見た、監護者を定める審判の決定と同じ日に出た、別の決定で、結論も同じです。決定は、理由を挙げています。766条2項は、1項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が定めることを予定している、と述べます。そして、事実上子を監護してきた第三者が申し立てられる旨の規定はなく、監護の事実をもって父母と同視することもできない、と述べます。子の利益を最も優先して考慮するという766条1項後段も、第三者に申立てを認める根拠にはならない、と述べます。決め手を一言で言えば、766条が、父母の協議とその代わりの手続という作りになっていて、第三者を入れる文言がなかったからです。ここまでは、令和6年の改正より前の条文の下での決定です。この結論のうち、祖父母などの親族と子との交流については、立法で改められました。離婚の場面について定めたのが、766条の2です。
条文民法766条の2
民法第766条の2(審判による父母以外の親族と子との交流の定め) 家庭裁判所は、前条第二項又は第三項の場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときは、同条第一項に規定する子の監護について必要な事項として父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。 2 前項の定めについての前条第二項又は第三項の規定による審判の請求は、次に掲げる者(第二号に掲げる者にあっては、その者と子との交流についての定めをするため他に適当な方法がないときに限る。)がすることができる。 一 父母 二 父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)
1項の、前条第二項又は第三項の場合、というのは、父母の協議が調わないか、協議ができずに家庭裁判所が定める場合と、家庭裁判所が定めを変更する場合のことです。その場面で、子の利益のため特に必要があると認めるときに、家庭裁判所が、父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定められます。2項は、申し立てられる人です。1号が父母。2号が父母以外の子の親族です。ただし2号の親族は、その人と子との交流を定める他に適当な方法がないときに限られます。直系尊属とは、祖父母のように、自分から見て、上の世代へ直線でつながる血族のことです。父母も含みます。直系尊属と兄弟姉妹は、そのまま2号に当たります。それ以外の親族、たとえばおじやおばは、過去にその子を監護していた人に限られます。
条文の作りから読むと、交流を決めるのは、本来は父母の協議です。父母以外の親族は、父母を通じて会えないときの補い、という位置づけになります。そして親族の範囲は広いので、祖父母や兄弟姉妹のように近い関係の人以外は、実際に子を世話して、つながりを作ってきた人に絞っています。
図:申立権者の表(766条の2第2項)
- 父母=1号・「他に適当な方法がないとき」の条件は付かない
- 祖父母などの直系尊属・兄弟姉妹=2号・他に適当な方法がないときに限る
- おじ・おば等の親族=2号・過去に子を監護していた者に限り・かつ他に適当な方法がないときに限る。下段=監護者を定める審判は第三者の申立てを認める規定が新設されていない(令3の結論が今も維持されると考えられる=条文の構造からの整理)
- 交流は766条の2で要件つきで可。離婚していない場面(婚姻中の別居・婚姻中の死亡など)にも817条の13第4項・5項に同じ仕組みがある。
祖母は直系尊属なので、2号の申立権者に当たりえます。条文の条件は、他に適当な方法がないとき、です。たとえば、Aさんが亡くなったり、行方不明になったりして、祖母がCちゃんに会う道が他にない場合は、申立てを検討できます。ただし、子の利益のため特に必要があると認められる場合に限ります。Aさんが健在で、祖母との交流もAさんが引き受けられるなら、他に適当な方法があるのかが争われます。ここは、条件がどこにあるかを押さえれば足ります。注意点が1つあります。新しい766条の2が定めたのは、交流だけです。第三者が監護者を定める審判を申し立てられる旨の規定は、新設されていません。ですから、令3の監護者指定の結論は、今も維持されると考えられます。ただし、これは改正後の判例ではなく、条文の構造から導いた整理です。境界の例で比べます。祖母が孫の監護者指定を申し立てるのは、できません。祖母が孫との交流を申し立てるのは、要件を満たせば、できます。離婚していない場面、たとえば婚姻中の別居や、この決定の事案のように婚姻中に父母の一方が亡くなった場面には、817条の13の第4項と第5項に、同じ仕組みがあります。名前だけ押さえておいてください。ここも、論文で論点になりうる箇所です。令3の理由と、766条の2の要件を、並べて説明できるようにしてください。
養育費と法定養育費 取決めなしでも最低限は請求できる
図:養育費
- 766条1項・2項
- 子の監護に要する費用の分担=協議で定める→調わなければ家庭裁判所(2項)。決めるときは子の利益を最も優先。取決めがなくても離婚届は受理される(765条)。算定の参考=養育費・婚姻費用算定表(名前だけ)。
次は、養育費です。2つめの問いの、前半から見ます。養育費とは、子の監護に要する費用の分担です。766条1項が、監護者や交流と並べて、協議で定めると規定しています。協議が調わなければ、2項で家庭裁判所が定めます。決めるときは、子の利益を最も優先して考慮します。そして前の回で見たとおり、養育費の取決めは、離婚届の受理の要件ではありません。金額は、実務では、養育費・婚姻費用算定表が参考にされます。ここでは名前を挙げるだけにします。扶養義務との関係は、別の回で扱います。取決めがないまま離婚した場合の補いとして、法定養育費という仕組みがあります。766条の3です。取決めをしないまま協議離婚した場合の特例です。協議離婚は、養育費を決めなくても、届出だけで成立します。決めないままの離婚が生じやすい場面なので、条文はこの場面を書いています。
条文民法766条の3
民法第766条の3(子の監護に要する費用の分担の定めがない場合の特例) 父母が子の監護に要する費用の分担についての定めをすることなく協議上の離婚をした場合には、父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うものは、他の一方に対し、離婚の日から、次に掲げる日のいずれか早い日までの間、毎月末に、その子の監護に要する費用の分担として、父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額の支払を請求することができる。ただし、当該他の一方は、支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと又はその支払をすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部又は一部の支払を拒むことができる。
まず1項の本文とただし書です。続いて、期間を決める各号を見ます。
条文民法766条の3
民法第766条の3第1項各号(子の監護に要する費用の分担の定めがない場合の特例) 一 父母がその協議により子の監護に要する費用の分担についての定めをした日 二 子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日 三 子が成年に達した日
続いて、2項と3項です。
条文民法766条の3
民法第766条の3第2項・第3項(子の監護に要する費用の分担の定めがない場合の特例) 2 離婚の日の属する月又は前項各号に掲げる日のいずれか早い日の属する月における同項の額は、法務省令で定めるところにより日割りで計算する。 3 家庭裁判所は、第七百六十六条第二項又は第三項の規定により子の監護に要する費用の分担についての定めをし又はその定めを変更する場合には、第一項の規定による債務を負う他の一方の支払能力を考慮して、当該債務の全部若しくは一部の免除又は支払の猶予その他相当な処分を命ずることができる。
図:法定養育費(766条の3)
- 要件=養育費の分担を定めないまま協議離婚
- 請求できる人=離婚の時から引き続き子の監護を主として行う父母の一方→他の一方へ
- 期間=離婚の日から、協議で定めた日・審判確定の日・子が成年に達した日のいずれか早い日まで
- 額=法務省令で算定(子1人につき月2万円×子の数・毎月末)
- ただし書=支払能力なし等を証明すれば拒める
- 位置づけ=暫定的・補充的。施行日(2026年4月1日)より前の離婚には使えない。
長い条文なので、核心だけ整理します。1つめ、養育費の分担を何も定めないまま、協議離婚をした場合です。2つめ、請求できる人は、父母の一方で、離婚の時から引き続き、その子の監護を主として担っている人です。相手は、他の一方です。3つめ、期間です。離婚の日から、3つの日のうち、いずれか早い日までです。父母が協議で養育費を定めた日、養育費の審判が確定した日、子が成年に達した日です。4つめ、額です。法務省令で定めるところにより算定した額で、これを毎月末に請求します。法律の委任を受けて、法務大臣が定める決まりです。法律本文には額を書かず、省令に任せているのです。その省令では、額は、子1人あたり月2万円に、子の数をかけた額とされています。離婚の月などは、日割りで計算します。2項の定めです。5つめは、ただし書です。支払う側は、支払能力を欠くためにその支払ができないこと、又は支払うと生活が著しく窮迫することを証明すれば、全部又は一部の支払を拒めます。3項は、家庭裁判所が養育費を定めるときに、支払う側の支払能力を考えて、免除や猶予を命じられる、という定めです。
これは、ずっと続く養育費なんですか。違います。位置づけは、暫定的で補充的なものです。取決めができるまでの、最低限の養育費だからです。協議や審判で養育費を定めたら、その日で法定養育費は終わります。その後は、定めた額が適用されます。では、裁判離婚はどうか。771条が、766条から769条までを、裁判上の離婚に準用しています。766条の3もこの範囲に入るので、裁判上の離婚で養育費を定めなかったときにも、法定養育費の仕組みが及びます。適用の線引きも一言だけ。2026年4月1日の施行より前に離婚した夫婦には、この法定養育費は使えません。設例で確かめます。もしAさんとBさんが、2026年7月に、養育費を何も決めないまま協議離婚していたらどうなるか。Cちゃんを離婚の時から引き続き主として監護しているBさんは、Aさんに、離婚の日から毎月末に、2万円を請求できます。離婚の月は日割りです。Aさんが、支払能力を欠くなどと証明すれば、拒めます。後で二人が毎月5万円と協議で定めたら、その日で法定養育費は終わって、5万円が適用されます。
ですから出番は法定養育費ではありません。止まった5万円を、どう取り立てるかが問題です。それが次の話です。
養育費を優先して回収する 306条3号と308条の2
図:306条(一般の先取特権)
- 債務者の総財産について先取特権=一 共益の費用
- 二 雇用関係
- 三 子の監護の費用
- 四 葬式の費用
- 五 日用品の供給。三の子の監護の費用が、令和6年の改正で加わった。
2つめの問いの、後半です。止まった5万円を、取り立てるときの話です。先に、前に見たことを思い出しましょう。一般先取特権は、債務者のどの財産について成立するのでしょうか?債務者の総財産です。特定の物に限られません。子の監護の費用も、この一般先取特権の1つです。養育費が払われないと子の暮らしが直接困るので、ほかの一般の債権者より先に回収できるようにしたのです。306条の3号です。一般先取特権が5種類になった、という話を前にしました。今日は、その3号の中身が、308条の2で定められている、という話です。
条文民法308条の2
民法第308条の2(子の監護費用の先取特権) 子の監護の費用の先取特権は、次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権の各期における定期金のうち子の監護に要する費用として相当な額(子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して当該定期金により扶養を受けるべき子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額)について存在する。 一 第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務 二 第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務 三 第七百六十六条及び第七百六十六条の三(これらの規定を第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務 四 第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
押さえる核心は、先取特権が存在するのは、定期金の各期のうち、子の監護に要する費用として相当な額について、という点です。確定期限の定めのある定期金債権とは、毎月末に5万円、のように、期日と額が決まっている債権です。設例の養育費が、これに当たります。対象になる義務は4つです。夫婦間の協力扶助の義務、婚姻費用の分担、離婚後の養育費や法定養育費、そして扶養の義務です。婚姻費用は、760条の回で見た、夫婦と子の共同生活の費用の分担です。3号に、さっき見た766条の3が入っていることに注意してください。法定養育費も、先取特権で守られます。
図:先取特権の範囲
- 養育費の定期金(各月)の横棒=左は相当な額(法務省令で月8万円×子の数まで)に先取特権あり/右はそれを超える部分で先取特権なし(一般債権)
- 上段=対象の4つ(752条の協力扶助/760条の婚姻費用/766条・766条の3の監護に関する義務/877〜880条の扶養義務)
- 優先は施行日以後に生じた各期の定期金から
相当な額も、法務省令で定められています。子1人につき月8万円に、子の数をかけた額と定められています。優先されるのは、この額までです。超える部分には先取特権がありません。そこは、普通の債権と同じ扱いです。どこまでも優先すると、ほかの債権者が回収できる分が減ります。そこで、子の監護に要する標準的な費用を基準にした額までに限っています。バスの優先席のように、枠の中は優先され、あふれた分は一般の列に並ぶ、というイメージです。設例では、取り決めた月5万円が止まりました。5万円は8万円以内なので、全額に先取特権があります。境界の例で比べます。たとえば月12万円と取り決めていたら、8万円の部分にだけ先取特権があり、残りの4万円は普通の債権です。
債務者の財産から、他の一般の債権者より先に回収できます。もう1つの実益は、判決などの債務名義がなくても、取決めを記した文書があれば、差押えを申し立てられることです。債権の効力と強制執行の回で見た、強制執行の根拠になる文書です。確定判決が典型でした。普通は、これを取ってからでないと、差し押さえられません。ところが、先取特権は担保物権です。担保物権は、判決を取る強制執行とは別に、担保権の実行という道で差し押さえられます。一般先取特権なら、その権利があることを示す文書を出せば始められます。ですから、判決を取らなくても、取決めの文書から始められるのです。手続の細部は、別の回で扱います。適用の線引きも一言。この先取特権は、2026年4月1日の施行日以後に生じた各期の定期金から使えます。施行前に取決めがあっても、施行後に生じる分だけです。なお、養育費が払われないときの手段は、ほかにもあります。扶養義務に関するお金は、お金なのに例外として、間接強制も選べます。
離婚しても子の氏は変わらない 790条・791条
図:子の氏の流れ
- 離婚前=田中(A・B・C)→離婚後=Aは田中・Bは鈴木に復氏(767条1項)・Cは田中のまま
- Bが婚氏続称をしても復氏をしても、Cの氏は動かない
- Cを母の氏にするには家庭裁判所の許可(791条1項)→戸籍法の届出(Cは15歳未満なので法定代理人のBが代わりにする・3項)
- 791条2項の許可不要は父母の婚姻中だけ=離婚後は使えない
最後の4つめの問いです。Cちゃんの氏はどうなるのか。Bさんと同じ氏にできるのか。その前に、前に見たことを思い出しましょう。婚姻で氏を改めた妻が離婚して、婚姻前の氏に復したとき、離婚の際に称していた氏を使い続けるには、離婚の日から何か月以内に届け出るのでしょうか?3か月以内です。これを婚氏続称といいます。妻の氏の話でした。子の氏は、また別に決まります。設例では、Aさんの氏は田中。Bさんは、婚姻前は鈴木で、婚姻のときに田中になっていました。離婚で、Bさんが婚姻前の鈴木に復氏したとします。では、Cちゃんの氏は、どうなるでしょうか。子は、嫡出である子として、父母の氏を称します。790条1項です。そして、離婚は、子の氏に影響しません。Cちゃんは、親権者がAさんでもBさんでも、田中のままです。Bさんが婚氏続称をしても、復氏をしても、子の氏は動きません。
条文民法791条
民法第791条(子の氏の変更) 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。 2 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。 3 子が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前二項の行為をすることができる。 4 前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。
押さえる核心は、1項の、家庭裁判所の許可です。子が父又は母と氏を異にする場合に、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることで、その父又は母の氏を称することができます。Cちゃんは6歳で、15歳未満です。3項により、法定代理人であるBさんが、代わりに手続をします。2項は、許可がなくても届け出られるんですね。離婚した場合も使えるんですか。使えません。2項は、父母の婚姻中に限られます。婚姻中に、父又は母が氏を改めて子と氏が違ってしまった場合に、許可なしで届け出られる定めです。婚姻中は、父母の氏が同じです。子を、その共通の氏にそろえるだけなので、父と母のどちらの氏にするかを選ぶ場面がありません。離婚後は、父と母の氏が分かれていて、どちらにするかを選ぶことになります。ですから、離婚後は2項が使えず、1項の許可が必要です。ここが弁別のポイントです。4項もあります。氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から1年以内に、届出で従前の氏に戻せます。Cちゃんがいったん鈴木になっても、成年に達した時から1年以内なら、田中に戻せます。子の氏をなぜ家庭裁判所の許可にかけるのか。子の氏は、子の生活や戸籍に長く関わるので、親の都合だけで動かさず、子にとってよいのかを確かめる仕組みです。
今日の地図(保存版)
図:離婚のときに決めること(空欄)。行=親権者/監護者・分掌/親子交流/養育費/子の氏。列=必須か任意か/決まらないときの補い/決めたのに守られないとき。
最後に、表を完成させましょう。決まらないときの補いと、決めたのに守られないときの手段を、埋めてみてください。親権者は必須で、決まらなければ家庭裁判所が決めます。監護者と親子交流は任意で、決まらなければ766条2項で家庭裁判所が定めます。親子交流が守られないときは、履行勧告と、間接強制です。ただし、間接強制には給付の特定が要ります。養育費は、決まらなければ家庭裁判所が定めて、それまでは法定養育費です。守られないときは、先取特権で優先されます。子の氏は、離婚で変わらなくて、変えるなら家庭裁判所の許可です。答えを板にします。
図:離婚のときに決めること(完成)
- 親権者=必須(765条=親権者の指定を求める調停・審判の申立てでも可)・決まらないとき家庭裁判所(819条5項)。監護者・分掌
- 親子交流=任意だが決めるなら子の利益が最優先(766条1項)・決まらないとき家庭裁判所(766条2項)・交流が守られないとき履行勧告・間接強制(日時又は頻度・時間の長さ・引渡しの方法が具体的に定まっているとき)。養育費=任意(766条1項)・決まらないとき家庭裁判所(766条2項)
- それまでは法定養育費(766条の3=法務省令で月2万円×子の数)・守られないとき先取特権(308条の2=法務省令で月8万円×子の数まで)。子の氏=離婚で変わらない・変えるなら家庭裁判所の許可(791条1項)。
冒頭の問いに答えます。Aさんは、履行勧告を申し出られます。そして、審判が日時、時間の長さ、引渡しの方法まで具体的に定めているので、間接強制ができます。Cちゃんが嫌がっていても、妨げになりません。Bさんの養育費は、先取特権で、月8万円までの範囲で優先されます。月5万円なら、全額です。取決めの文書があれば、判決などがなくても、差押えを申し立てられます。もし取決めがなかったら、法定養育費で、最低限、子1人月2万円を請求できました。Aさんの母は、他に適当な方法がないときに限り、交流を定めるよう申し立てられます。Cちゃんの氏は、田中のままです。Bさんの氏にするには、家庭裁判所の許可が要ります。離婚で終わるのは、夫婦の関係だけです。親と子のつながりは続きます。決めたことは守らせる道具があり、決めていなければ補う道具があることを、今日の表で整理しておいてください。
参照条文
- 民法766条の2
- 民法766条の3
- 民法308条の2
- 民法791条