普通養子縁組の成立
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第7章 親族 #335/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
節税のための養子は有効か
図:冒頭の設例
- A(76歳・配偶者は死亡・子は長男と長女E)
- 孫D(23歳・長男の子)
- 税理士の説明を受け、AとDが縁組届に署名して提出し受理された
- Aの死後、長女Eが「縁組は相続税の節税のためだけで、縁組をする意思がなかったから無効だ」と縁組の無効確認を求めた
- 問い=節税のためだけの縁組は有効か
- 他の要件は足りている
今日の問いは、1つです。節税のためだけの縁組は、有効か。他の要件は、すべて足りているとします。Aさんは20歳以上で、Dさんは成年の孫です。Aさんに配偶者はいません。問題は、縁組をする意思だけです。予想は、置いておいてください。答えは、縁組意思の山場で出します。前の回の終わりで、次は、縁組で作る親子を見ます、と言いました。親子の地図で、空いていた場所です。実親子は、生まれた事実と、届出で決まります。養親子は、縁組という行為で、親子の関係を作ります。
図:今日の地図
- 養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組がある(特別養子は別の回)
- 養子は養親の嫡出子の身分を取得する(809条)
- 縁組で養親の血族とも血族間と同じ親族関係が生じる(727条・法定血族)
- 今日の範囲=普通養子縁組が成立し有効になる要件=縁組の3段(①届出②縁組意思③養親適格など)
今日の地図です。縁組には、普通養子縁組と、特別養子縁組があります。特別養子縁組は、別の回で扱います。縁組をすると、養子は、養親の嫡出子の身分を取得します。809条です。そして、養親の血族とも、血族と同じ親族関係が生じます。727条です。親族の回で見た、法定血族です。今日は、普通養子縁組が、成立して有効になる要件を見ます。3段です。①届出。②縁組意思。③養親適格など。婚姻の回の、3段と同じ型です。入会にたとえると、手続きをすること、本気で入る気があること、入会の資格があること、の3つです。今日の問いは、冒頭の節税の縁組に加えて、あと2つあります。他人の子を、実子として出生届に出したら、縁組になるのか。そして、配偶者のある人は、どう縁組するのか、です。
縁組の3段 届出が成立要件
図:縁組の3段
- ①届出(成立要件・799条→739条)=欠ければ縁組は成立しない
- ②縁組意思(有効要件・802条1号)=欠ければ無効
- ③養親適格などの要件(792〜796条)=窓口で審査される(800条=これらの規定などに違反しないと認めた後でなければ受理できない)
- 違反が見落とされて受理された縁組=無効ではない
- 取消事由があるものは取り消せる(取消事由は条文ごとに決まっている・803条)
- 取り消すまでは有効
- 方式を欠くだけなら効力は妨げられない(802条2号ただし書)
縁組も、婚姻や離婚と同じで、届出で成立します。条文は、799条です。
条文民法799条
民法第799条(婚姻の規定の準用) 第七百三十八条及び第七百三十九条の規定は、縁組について準用する。
準用とは、縁組の場合に読み替えて使う、という意味です。739条を見ます。婚姻の回で見た条文です。
条文民法739条
民法第739条(婚姻の届出) 1 婚姻は、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。 2 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。
婚姻を縁組に、読み替えます。縁組は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、効力を生じます。届出は、当事者双方と、成年の証人2人以上が署名した書面か、口頭でします。なお、799条は738条も準用します。738条は、成年被後見人が婚姻をするのに、成年後見人の同意は要らない、という条文です。縁組に読み替えると、成年被後見人が、養親になるときも、養子になるときも、成年後見人の同意は要りません。婚姻と同じで、本人の意思が大事だからです。ただし、縁組をする時に、意思能力は必要です。届出は、1段目です。無効にならない、2段目があります。802条です。
条文民法802条
民法第802条(縁組の無効) 縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。 一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。 二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。
1号が、縁組意思です。届出で成立した縁組でも、縁組意思がなければ、効力がありません。これが無効です。2号が、届出です。届出は成立要件なので、届出をしなければ、縁組は、そもそも成立していません。2号の本文は、同じ無効という言葉を使っていますが、成立していないことを、条文でも確認しているだけです。婚姻の742条2号と同じ、確認規定です。中身があるのは、ただし書です。証人が2人そろっていなかったなど、方式を欠くだけなら、受理された縁組は、効力を妨げられません。届け出る意思は、届出を出したことで、もう表れています。形の欠けだけで、縁組を成立しなかったことにはしない、ということです。3段目が、養親適格などの要件です。792条から796条です。これらの要件は、届出を受け付ける窓口で、審査されます。800条です。要件に違反していないと認めたあとでなければ、受理できません。3段を、整理します。①届出がなければ、成立しない。②縁組意思がなければ、無効。③要件は、窓口で審査される。それでも、違反が見落とされて、受理されることがあります。婚姻の3段目と同じで、無効ではなく、取り消せる縁組になるものがあります。たとえば、養親が20歳未満だった、尊属を養子にした、後見人が許可なく縁組した、配偶者の同意がなかった、などです。取り消せるのは、条文が取消しを認めた違反だけで、要件ごとに決まっています。取り消されるまでは、有効です。取消しの中身は、次の回で見ます。
藁の上からの養子 出生届は縁組届になるか
図:藁の上からの養子
- 設例S2
- A・B夫婦が、実の親Cから生まれて間もない他人の子Dを引き取り、自分たちの嫡出子として出生届を出した。養子縁組の届出はしていない。実子同様に育てた。左=他人の子の嫡出子出生届→縁組届への転換×。右=自分の子の嫡出子出生届→認知届への転換◯(任意認知の回)。分かれ目=届出に、その行為をする意思の表示が含まれているか。
設例です。AさんとBさんは夫婦です。実の親Cさんから生まれて間もないDさんを引き取り、自分たちの嫡出子として、出生届を出しました。縁組届は、出していません。2人は、実の子同様にDさんを育てました。問いです。DさんはAさんとBさんの養子になっているか。出生届を、縁組届として扱えないか。判例を見ます。このように、他人の子を実子として届け出ることを、藁の上からの養子、と呼びます。
判例最高裁判所第三小法廷判決 昭和50年4月8日(民集29巻4号401頁)
藁の上からの養子 ……養子縁組届は法定の届出によつて効力を生ずるものであり、嫡出子出生届をもつて養子縁組届とみなすことは許されないと解すべきである
読み解きます。縁組届は、法定の届出によって、効力を生じます。つまり、届出が成立要件です。実子としての出生届を、縁組届とみなすことは、許されません。ですから、AさんとBさんと、Dさんの間に、養親子関係は生じません。3段の、1段目が欠けています。任意認知の回で見た、出生届の転換です。本来の形では無効な行為を、別の行為として有効にする、無効行為の転換でした。認知届は、自分の子だと承認する意思の表示を含んでいます。実の親が自分の子として出生届を出せば、その中に、自分の子と承認する意思が入っています。だから認知届に読み替えられます。一方、他人の子の出生届は、自分の実の子だ、と届けているだけです。この子を養子にする、という意思の表示が含まれていません。縁組届に読み替える土台が、ありません。ここが、転換できるかどうかの分かれ目です。転換できるのは、届出に、その行為をする意思の表示が含まれているときです。
不存在確認と権利濫用
図:不存在確認の原則と権利濫用
- 設例S2′
- A・Bの実子は長女Eと次女F。Dは約55年育てられた。A・Bは死亡。Fの死亡で相続が問題になり、Eが「DはA・Bの実の子でない」として親子関係不存在確認を求めた。動機はFの遺産を自分に集めること。Eは今まで争ったことがない。原則=戸籍の記載の正確性のため確認を求められる。例外=確認の請求が権利濫用で許されない場合がある(次の板)。
ここで、前に見たことを思い出してください。親子関係不存在確認の訴えの回です。この訴えは、誰が、いつまでに、起こせるのでしたか?原告にも期間にも、制限はありません。ただ、確認の利益は必要でした。もう一つ、権利濫用も、1条3項で見ました。客観的に見て、著しく不当な権利行使は、許されない、という考え方です。設例を変えます。AさんとBさんの実子は、長女のEさんと、次女のFさんです。Dさんは、実の子として、約55年間、育てられました。AさんとBさんは、すでに亡くなっています。次女のFさんが亡くなって、相続が問題になりました。するとEさんが、Dさんは、AさんとBさんの実の子ではない、と言って、親子関係不存在確認を求めました。動機は、Fさんの遺産の取り分を、自分に集めることです。Eさんは、Fさんの相続が問題になるまで、一度も、Dさんが実の子でないとは、言ったことがありません。なお、Dさんは、Bさんが産んだ子ではありません。772条の推定は、妻が産んだ子を、夫の子と推定するものなので、ここでは推定が立ちません。ですから、争い方は、嫡出否認ではなく、不存在確認です。事実としては、実の子ではありません。それでも、Eさんの請求は、認められるでしょうか。判例です。2つの区切りで見ます。
判例最高裁判所第二小法廷判決 平成18年7月7日(民集60巻6号2307頁)
不存在確認の原則 実親子関係不存在確認訴訟は、実親子関係という基本的親族関係の存否について関係者間に紛争がある場合に対世的効力を有する判決をもって画一的確定を図り、これにより実親子関係を公証する戸籍の記載の正確性を確保する機能を有するものであるから、真実の実親子関係と戸籍の記載が異なる場合には、実親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのが原則である。
読み解きます。不存在確認の訴えは、実親子関係の存否を、判決で画一的に確定して、戸籍の記載の正確性を守ります。対世的効力とは、訴えの当事者だけでなく、誰に対しても判決の効力が及ぶことです。ですから、真実と戸籍が違えば、確認を求められるのが、原則です。
判例最高裁判所第二小法廷判決 平成18年7月7日(民集60巻6号2307頁)
権利濫用となる場合 ……戸籍上の両親以外の第三者である丁が甲乙夫婦とその戸籍上の子である丙との間の実親子関係が存在しないことの確認を求めている場合においては、甲乙夫婦と丙との間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ、判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより丙及びその関係者の被る精神的苦痛、経済的不利益、改めて養子縁組の届出をすることにより丙が甲乙夫婦の嫡出子としての身分を取得する可能性の有無、丁が実親子関係の不存在確認請求をするに至った経緯及び請求をする動機、目的、実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に丁以外に著しい不利益を受ける者の有無等の諸般の事情を考慮し、実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすものといえるときには、当該確認請求は権利の濫用に当たり許されないものというべきである。
読み解きます。判旨の丁は、戸籍上の両親以外の第三者、設例のEさんです。丙は戸籍上の子、Dさんです。甲乙夫婦は、AさんとBさんです。
図:権利濫用となる場合の判断要素5つと設例S2′の当てはめ
- ①実の親子同様の生活の期間=約55年
- ②Dの精神的苦痛・経済的不利益=相続の場面で重い
- ③縁組の届出で嫡出子の身分を取得する可能性=A・Bが死亡して不可(①とともに特に重視)
- ④原告の経緯・動機・目的=遺産が問題になって初めて争う(動機・目的も比べて判断)
- ⑤確定されないと原告以外が被る著しい不利益
- 諸般の事情を考慮し、著しく不当な結果なら権利の濫用
考慮する事情は、5つ、プラス、等、です。①実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ。②不存在が確定することで、Dさんとその関係者が被る、精神的苦痛と経済的不利益。③改めて縁組の届出をすることで、Dさんが嫡出子の身分を取得する可能性があるか。④原告が請求に至った経緯と、動機、目的。⑤確定されないとき、原告以外に著しい不利益を受ける人がいるか。これらを考慮して、不存在を確定することが、著しく不当な結果をもたらすといえるとき、権利の濫用で、許されません。設例に当てはめます。①約55年間、実の親子同様に暮らしました。②相続が問題になっている中で、親子ではないとされるのは、Dさんにとって重い不利益です。③AさんとBさんは、すでに亡くなっています。もはや縁組の届出をして、嫡出子の身分を取得することは、できません。④Eさんは、遺産が問題になって初めて争い出しました。その動機や目的も、実の子として暮らしてきた経緯の重さと、比べて判断されます。特に重く見られたのは、①の長い生活の実体と、③です。③について言えば、生きていれば、縁組をやり直して、Dさんを救えます。亡くなっているので、救う道が、ありません。だから、不存在の確定は、著しく不当になりえます。
図:この判例の限定
- 1=原告は戸籍上の両親以外の第三者
- 2=戸籍上の両親が死亡し縁組ができないことが重い事情
- 3=原審を破棄して差戻し(権利濫用と確定したのではない)
- 4=養親子関係の不存在確認の請求は権利濫用とならない
- まとめ=出生届は縁組としては成立しない/それでも不存在確認が権利濫用で封じられる場合がある
ただし、この判例の限定を、落とさないでください。1つ。原告は、戸籍上の両親以外の、第三者です。戸籍上の両親本人が争う場面ではありません。2つ。戸籍上の両親が死亡して、縁組ができないことが、重い事情でした。3つ。最高裁は、権利濫用に当たらないとした原審の判断を、違法として、破棄して差し戻しました。権利濫用だと確定したのではなく、事情を十分検討するよう、求めたのです。4つ。Eさんは、実の親子関係がないことの確認と一緒に、養親子関係がないことの確認も、求めていました。こちらについては、同じ判決は、権利濫用とはならない、としました。Dさんは、実の子として育てられたのであって、養子として生活してきたわけではないからです。守るべき、養親子としての生活の実体が、ありません。そもそも縁組届は出ていないので、養親子関係は、はじめから生じていません。まとめると、こうです。出生届は、縁組としては成立しません。それでも、不存在確認が権利濫用で封じられ、事実上、子の地位が守られる場合があります。ここは、論文で論点になりうる箇所です。
縁組意思と節税目的 冒頭の答え
図:身分行為の意思の比較表
- 婚姻(742条1号)=社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思=実質的意思説(判例・通説)/届出だけが目的の便法なら無効
- 協議離婚(764条)=法律上の婚姻関係を解消する意思の合致=形式的意思説(判例・通説)/同居を続ける便法の離婚でも有効
- 縁組(802条1号)=社会通念上親子であると認められる関係を成立させる意思=実質的意思説(通説)/動機(節税)と縁組をする意思は併存し得る
- 見るのは動機ではなく親子関係をつくる意思があるか
ここで問いです。婚姻意思は、判例と通説で、何説でしたか。離婚意思は、何説でしたか。それぞれ、判決の言葉は、どうでしたか?婚姻意思は、実質的意思説です。社会観念上、夫婦と認められる関係を作ろうとする意思でした。離婚意思は、形式的意思説です。法律上の婚姻関係を解消する意思の合致、と言っていました。婚姻と離婚で、多数の側が逆でした。縁組はどちらでしょうか。縁組意思は、社会通念上、親子であると認められる関係を成立させる意思、と整理されます。通説は、実質的意思説です。婚姻と同じ側です。ただし、実質的意思説という名前は、学説の整理です。判決が自分で名付けたものではありません。次に見る平成29年の判決も、縁組意思の定義そのものは、示していません。そこは、区別してください。例を挙げます。AさんがDさんに無断で、縁組届を出しました。Dさんは、縁組のことを知りません。これは、Dさんに縁組意思がないので、無効です。親子関係を作る意思が、ないからです。
節税が目的でも、AさんもDさんも、署名しているんですよね。それなら、冒頭のケースは、どうなりますか。問いです。専ら節税のためなら、縁組意思は、ないといえるか? 判例です。
判例最高裁判所第三小法廷判決 平成29年1月31日(民集71巻1号48頁)
節税のための縁組 養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。 そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
図:節税のための縁組(平成29年判決)
- 1=節税の効果は、養子が相続人に加わるから生まれる(相続税法)。2=節税の動機と縁組をする意思は併存し得る。3=(解説)婚姻の便法との違い:便法=夫婦という関係そのものを望んでいない→無効
- 節税の縁組=法律上の親子として相続でつながる関係そのものを望む。4=専ら節税のためでも直ちに無効とはいえない(必ず有効ではない)。縁組意思がないことをうかがわせる事情の例=縁組届と知らされずに署名。見るのは動機ではなく、親子関係をつくる意思。
読み解きます。節税の効果は、相続税法の規定によって生じます。節税のために縁組をするのは、その効果を発生させることを、動機として縁組をする、ということです。そして、節税の動機と、縁組をする意思は、併存し得ます。なぜ併存するのか。節税の効果は、Dさんが本当に養子になって、Aさんの相続人に加わるから生まれます。親子関係ができなければ、節税もできません。ですから、節税を望むことは、親子関係を作る意思と、両立するのです。引っ越しにたとえると、動機が転勤でも、そこに住む意思があれば、住所は移ります。動機が何でも、住む意思があるかどうかが、問題です。
婚姻の便法の例では、二人は、子に夫婦の子の地位を得させるだけで、夫婦として暮らすつもりは、ありませんでした。夫婦という関係そのものは、望んでいなかったのです。今回は違います。二人は、法律上の親子になって、相続でつながる関係そのものを、望んでいます。ここは、判決の言葉ではなく、整理です。その関係を本気で望む以上、親子関係を作る意思と両立する、と考えられます。そこで、専ら節税のためでも、直ちに、縁組意思がないとはいえません。そして本件では、縁組意思がないことをうかがわせる事情はなく、縁組意思がないとはいえない、としました。言葉の限定を、落とさないでください。この判例は、節税目的なら必ず有効、とは言っていません。直ちに、無効とはいえない、です。縁組意思がないことをうかがわせる事情があれば、結論は変わりえます。たとえば、Dさんが、縁組届だと知らされないまま、署名していた、という事情です。法律上の親子になる意思そのものが、ないからです。また、見るのは、なぜ縁組するかという動機ではなく、親子関係を作る意思があるか、です。ここは、論文で論点になりうる箇所です。
図:冒頭の設例の答え(3段)
- ①届出=あり。②縁組意思=税理士の説明を受けたうえで二人とも自分で署名・DがAの養子になり相続人に加わることを望んだ=法律上の親子になる意思あり
- うかがわせる事情なし→直ちに無効とはいえず有効。③要件=足りる。→ Eの主張は通らない。参考=基礎控除:相続人2人 4200万円→3人 4800万円(実子がいれば算入できる養子は原則1人まで)。
冒頭の答えを出します。1段目の届出は、あります。2段目の縁組意思です。AさんとDさんは、税理士さんの説明を受けたうえで、二人とも自分で署名しています。DさんがAさんの養子になり、相続人に加わることを、二人は望んでいたといえます。動機は節税でも、法律上の親子になる意思は、あります。縁組意思がないことをうかがわせる事情は、設例にありません。直ちに無効とはいえず、有効です。3段目の要件も、足りています。Eさんの主張は、通りません。相続税の基礎控除についても、一言だけ。Aさんの相続人が実子2人なら、基礎控除は、3000万円に、600万円の2人分を足して、4200万円です。Dさんが養子になると、相続人は3人で、4800万円です。ただし、実子がいる場合、基礎控除の計算に入れられる養子は、原則として1人までです。詳しい計算は、相続の章で見ます。
養親になれる人 年齢と世代
図:養親適格
- 792〜794条
- 792条=20歳に達した者は養子をすることができる(成年年齢が18歳でも20歳のまま)。793条=尊属又は年長者は養子にできない。尊属=自分より前の世代(父母・祖父母・おじ・おば)。年長者=年齢が上の人(兄・姉)。例:Aは40歳。叔父(38歳)=尊属で不可。兄(45歳)=年長者で不可。弟(35歳)=可。794条=後見人が被後見人を養子にするには家庭裁判所の許可(後見の任務終了後、管理の計算が終わらない間も同様)。
3段目の要件に入ります。まず、養親になれる人です。792条です。
条文民法792条
民法第792条(養親となる者の年齢) 二十歳に達した者は、養子をすることができる。
養親になれるのは、20歳からです。注意があります。成年年齢は、18歳に下がりました。でも、養親になれる年齢は、20歳のままです。19歳のAさんは、成年でも、養親になれません。20歳になれば、なれます。なお、養子になる側の年齢の下限は、この条文にはありません。養子になる側は、15歳になれば、自分で縁組の承諾ができました。未成年者が一人でできることの回で見たとおりです。15歳より下の子の縁組は、797条の別の決まりになります。
条文民法793条
民法第793条(尊属又は年長者を養子とすることの禁止) 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。
793条です。養子縁組は、親子関係を作る行為です。ですから、自分より前の世代、尊属や、自分より年上の人は、養子にできません。尊属は、父母や祖父母のほか、おじ、おばも含みます。親族の回で見た、血族の軸です。尊属は、年下でも、養子にできません。例です。Aさんは40歳です。叔父さんが38歳でも、尊属なので、養子にできません。兄が45歳なら、年長者なので、できません。弟が35歳なら、尊属でも年長者でもないので、この条文では、妨げられません。
条文民法794条
民法第794条(後見人が被後見人を養子とする縁組) 後見人が被後見人(未成年被後見人及び成年被後見人をいう。以下同じ。)を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。後見人の任務が終了した後、まだその管理の計算が終わらない間も、同様とする。
794条です。後見人が、被後見人を養子にするには、家庭裁判所の許可が要ります。後見人が、預かった財産の使い込みを、親子になることで追及されにくくする、という手を封じるためです。後見の任務が終わっても、管理の計算が終わるまでは、同じです。管理の計算とは、預かっていた財産の出入りを締めくくって、清算することです。
配偶者のある者の縁組
図:795条と796条の比較表
- 未成年者を養子にする(795条)=夫婦が共同して縁組が原則/例外=①配偶者の嫡出である子を養子にする②配偶者が意思を表示できない→単独でできる
- 成年者を養子にする(796条)=単独でできる・配偶者の同意が要る(共同の場合・意思表示不能の場合は不要)
- 自分が養子になる(796条)=単独でできる・配偶者の同意が要る
- 配偶者のない者が未成年者を養子にする=単独縁組
ここで問いです。配偶者のある人が、未成年者を養子にするとき、夫婦の一方だけで、縁組できるでしょうか?条文を見ます。795条です。
条文民法795条
民法第795条(配偶者のある者が未成年者を養子とする縁組) 配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。
未成年者を養子にするときは、夫婦が共同して縁組するのが原則です。未成年の子は、両親がそろって親権を持つのが、育てるうえでいちばん安定する。だから、夫婦で一緒に養親になるのを原則にした、という趣旨です。例外は2つです。1つ目は、配偶者の嫡出である子を養子にする場合です。配偶者とその子の間には、すでに実の親子関係があるからです。2つ目は、配偶者が意思を表示できない場合です。心神喪失や、所在不明などです。次に、成年者を養子にする場合です。796条です。
条文民法796条
民法第796条(配偶者のある者の縁組) 配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。
成年者を養子にするときは、単独でよいのです。監護の問題が生じないからです。ただし、配偶者の同意が要ります。養子が増えると、養親の配偶者にとっても、相続人が増え、養子との間に姻族関係が生じ、扶養の関係も変わります。暮らしと財産に直接響くので、同意を求めているのです。養子になる人が、配偶者のある人のときも同じです。その人の配偶者の同意が要ります。
図:設例S3の6場面
- A(45歳)にはB(43歳)という配偶者がいる
- ①10歳の他人の子DをAだけが養子に(Bは同意)=共同が必要
- ②Bの前夫との子C(8歳・婚姻中に生まれた子)=Aは単独可・Bの同意は要る
- ③Bが交際相手との間にもうけた子C(8歳・嫡出でない子)=例外に入らず共同が必要
- ④①でBが重い病気で意思を表示できない=単独可・同意も不要
- ⑤成年の他人D(30歳)=Aは単独可・Bの同意が要る・Bは養親にならない
- ⑥成年のD(30歳・配偶者Eあり)がAの養子に=Dは単独可・Eの同意が要る
6つの場面で当てはめます。Aさんは45歳、配偶者のBさんは43歳です。場面1。Aさんが、10歳の他人の子Dさんを、Aさんだけが養親になって養子にしたい。Bさんは、いいよ、と同意しています。違います。未成年者なので、夫婦共同が原則です。Bさんが同意しても、足りません。同意ではなく、Bさんも養親になる必要があります。場面2。Bさんと前夫との子で、婚姻中に生まれた、8歳のCさんを、Aさんが養子にしたい。Aさんは、単独で縁組できるでしょうか?配偶者の嫡出である子だから、例外ですね。単独で、できます。ただし、796条の同意は要ります。795条の例外に当たる場合でも、796条の例外、つまり配偶者とともに縁組する場合や、意思表示不能の場合には、当たらないからです。場面3。Bさんが、婚姻していない交際相手との間にもうけた、8歳のCさんを、Aさんが養子にしたい。Aさんだけで縁組できるのか、夫婦共同が必要なのでしょうか?
連れ子ですけど、嫡出でない子ですよね。795条のただし書は、嫡出である子、だけです。例外に入らないので、夫婦共同縁組が必要です。理由はこうです。Aさんだけが養子にすると、Cさんは、Aさんとの間では嫡出子、Bさんとの間では嫡出でない子、と、親ごとに身分が食い違います。夫婦で一緒に縁組すれば、二人ともの嫡出子になって、そろいます。子の立場を安定させるためだ、と説明されています。場面4。場面1で、Bさんが重い病気で、意思を表示できません。Aさんは、単独で縁組できるのか、796条の同意は要るのでしょうか?
配偶者がその意思を表示できない場合ですから、Aさんは単独で縁組できます。796条の同意も、要りません。場面5。Aさんが、成年の他人、30歳のDさんを、養子にしたい。Aさんは単独でよいのか、Bさんの同意は要るのか、Bさんも養親になるのでしょうか?成年者なので、単独でよくて、Bさんの同意が要ります。同意したBさんは、養親にはなりません。同意と共同を、混同しないでください。同意は、賛成しただけです。共同は、自分も縁組の当事者になることです。場面6。30歳で配偶者Eさんのある、Dさんが、Aさんの養子になる。Dさんは単独で縁組できるのか、だれかの同意は要るのでしょうか?
Dさんは、単独で縁組できて、Dさんの配偶者のEさんの同意が要ります。ちなみに、配偶者のある人は、必ず18歳以上です。婚姻は18歳からだからです。ですから、配偶者の同意が要る養子は、成年者の縁組に出てくるわけです。なお、配偶者のない人が、未成年者を養子にするときは、単独縁組です。共同の原則は、当てはまりません。
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図:今日のまとめ
- 1=縁組の3段(届出=成立/縁組意思=有効/養親適格など792〜796条=窓口で審査・800条)
- 2=藁の上からの養子=出生届は縁組届に転換されない
- ただし不存在確認が権利濫用で許されない場合がある(判断要素5つ・原告は第三者・戸籍上の両親が死亡して縁組できないこと)
- 3=縁組意思は実質的意思説(通説)
- 節税が動機でも直ちに無効ではない(うかがわせる事情があれば別)
- 4=養親は20歳から・尊属/年長者は不可・後見人は家庭裁判所の許可
- 5=未成年者を養子にするときは夫婦共同(例外=配偶者の嫡出子・意思表示不能)/成年者や配偶者のある養子は単独+配偶者の同意
最後にまとめます。柱は、5本です。1本目。縁組の3段です。届出が成立要件、縁組意思が有効要件、養親適格などは窓口で審査されます。2本目。藁の上からの養子です。出生届は、縁組届に転換されません。ただし、不存在確認が、権利濫用で許されない場合があります。判断要素は5つ、プラス、等で、原告が第三者であることや、戸籍上の両親が亡くなって縁組できないことが、重い事情でした。3本目。縁組意思は、通説で、実質的意思説です。節税が動機でも、直ちに無効にはなりません。ただし、縁組意思がないことをうかがわせる事情があれば、別です。4本目。養親は、20歳からです。尊属と年長者は、養子にできません。後見人が被後見人を養子にするには、家庭裁判所の許可が要ります。5本目。未成年者を養子にするときは、夫婦共同が原則です。例外は、配偶者の嫡出である子と、配偶者が意思を表示できない場合です。成年者を養子にするときや、配偶者のある人が養子になるときは、単独でできて、配偶者の同意が要ります。冒頭の答えです。節税のためだけでも、直ちに縁組意思がないとはいえません。届出と縁組意思がそろえば、有効です。
動機を見るんじゃなくて、親子関係をつくる意思があるかを見る、ということですね。次の回は、未成年者の縁組と、縁組の効果、そして縁組の解消を見ます。
参照条文
- 民法799条
- 民法739条
- 民法802条
- 民法792条
- 民法793条
- 民法794条
- 民法795条
- 民法796条