未成年後見の開始と選任
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第7章 親族 #344/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
両親を亡くした子の財産は、だれが管理するのか
図:冒頭の設例
- A(父)とD(母)は交通事故で亡くなった
- B(子・9歳)に保険金と自宅が残った
- C(Aの弟・Bの叔父)が「自分が面倒を見る」と名乗り出た
- Bの祖父母はいない
- A・Dは遺言を書いていない
- 問い=親はもういない
- この子の財産は、だれが管理するのか
- 叔父Cは、その役になれるのか
設例です。交通事故で、Aさんと、妻のDさんが、亡くなりました。残されたのは、9歳のBさんです。Bさんには、保険金と、住んでいた自宅が残りました。Bさんの祖父母は、すでにいません。Aさんの弟のCさん、つまりBさんの叔父が、「自分が面倒を見る」と名乗り出ました。AさんとDさんは、遺言を書いていませんでした。今日の問いです。親はもういません。この子の財産は、だれが管理するのでしょうか。そして、叔父のCさんは、その役になれるのでしょうか。名乗り出ただけでは、決まりません。この引っかかりが、今日の出発点です。答えは最後に確かめます。自分なりの見立てを、頭に置いて進んでください。前の回までを、一言で受け直します。親権を行う人が、いない子のために、親に代わる人がつく仕組みが、未成年後見でした。前回は、親権が止まったり失われたりする場面を見ました。今日は、その後見が、どう始まり、だれがつくのかを見ます。
図:今日の地図
- ①未成年者を守る人の地図②未成年後見の開始③後見人になる人の決まり方(指定と選任)④後見人になれない人(欠格事由)⑤後見人の権限のうち、子の世話
- 核心の1行=未成年後見は、始まることと、後見人が就くことが別
今日の地図です。5つ進みます。①未成年者を守る人の地図。②未成年後見の開始。③後見人になる人の決まり方、つまり指定と選任。④後見人になれない人、欠格事由。⑤後見人の権限のうち、子の世話に関わる部分です。核心を、先に1行で言います。未成年後見は、始まることと、後見人が就くことが、別々です。始まりは、自動です。後見人は、指定か選任があって、初めてつきます。たとえで言います。後見の始まりは、空席ができることです。欠員が出れば、席は自動で空きます。けれども、そこに座る人は、別に決まります。席が空いたことと、人が座ったことは、別の出来事です。
この「空席」と「着席」の区別で、今日の条文は、ほとんど整理できます。
未成年者を守る人の地図
図:保護者の地図
- 未成年者(制限行為能力者の1つ)の保護者=①親権を行う人(原則)②親権を行う人がいない、または管理権がない→未成年後見人
- どちらも法定代理人
- 制限行為能力者の4類型=未成年者・成年被後見人・被保佐人・同意を要する旨の審判を受けた被補助人(13条1項10号)
- 総則=行為能力の制限と取消し/親族法=だれが、どう守るか
地図の①、未成年者を守る人の地図です。まず、前に見た話を思い出してください。未成年者の法定代理人になるのは、親権者と、あとだれだったでしょうか?未成年後見人です。親権者か、未成年後見人か、どちらかが法定代理人になる、と聞きました。そのとき、未成年後見人の中身は、また別に見ます、と言っていました。その入口が、今日です。そのときは、家庭裁判所が選ぶ、と短く整理しました。今日は、その前に、遺言で決めておく道もあることを見ます。順に整理します。未成年者が1人で契約をすると、あとから取り消せることがあります。これは、民法の最初のほうで、行為能力の制限として見ました。ただ、取り消せるだけでは、子は守られません。日々の暮らしを支え、財産を管理する人が、必要です。総則と親族法で、分担があります。総則は、子が単独でした契約を、あとから取り消せるかどうかを決めます。親族法は、だれが、どのように、その子を守るのかを決めます。今日読むのは、後者です。未成年者を守る人は、原則として、親権者です。親権者は、前にも見たとおり、子の世話をして、子の財産を管理します。父母の双方が親権者であれば、共同して行います。ところが、親権者による保護が、働かない場面があります。親権を行う人が、1人もいない場合です。もう1つは、親権を行う人はいるけれども、その人に管理権がない場合です。管理権とは、子の財産を管理する権限のことでした。
この2つの場合に、親権者に代わって子を守る人が、未成年後見人です。前に、未成年後見は、親権を行う人が、いない子のための仕組み、と言いました。正確には、管理権がない場合も加わります。この場合、子の世話は親権者に残り、後見人は、財産のことだけを受け持ちます。守られる未成年者は、ほかにもいますか。成年の人でも、判断が難しい人は、守られるのでしょうか。守られます。行為能力が制限される人は、4つの類型があります。未成年者、成年被後見人、被保佐人、そして同意を要する旨の審判を受けた被補助人です。13条1項10号に、まとめて出てきます。成年被後見人からあとの3つは、成年に達していても、判断の力が十分でない人を守る仕組みです。どれも、民法の最初のほうの回で見ました。今日は、未成年者だけに絞ります。ここで、1つ頭に置いてください。後見人の条文は、成年後見にも共通するものと、未成年後見だけのものに分かれています。
未成年後見の開始 838条
図:開始原因の整理
- 838条1号=(a)未成年者に対して親権を行う者がないとき(親権者の死亡・親権喪失・親権停止・親権の辞任・養親の双方死亡)(b)親権を行う者が管理権を有しないとき
- 開始のための審判は要らない(原因が起きれば当然に始まる)
- 双方が親権者のとき=残る一方が親権を行う限り始まらない
地図の②、未成年後見の開始です。その前に、思い出してください。前回、親権喪失の審判を受けた親が、一方のみの親権者だったとき、親権を行う人はどうなったでしょうか?親権を行う人が、いなくなります。それで、未成年後見が始まるのでした。そのとき、始まる根拠として、838条の1号を、板で出しました。今日は、その条文を、全文で読みます。
条文民法838条
民法第838条 後見は、次に掲げる場合に開始する。 一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。 二 後見開始の審判があったとき。
後見の制度を見直す改正法が、すでに成立していて、まだ施行されていません。今日は、現行の条文で説明します。未成年後見が始まる場面は、施行後も同じです。2号は、成年後見の開始を定めています。この条文は、成年後見にも使う共通の条文です。成年後見人の選び方や仕事は、別の回で見ます。今日は、1号だけです。1号を、骨組みに分けます。開始の原因は、2つです。1つ目は、未成年者に対して、親権を行う者がないとき。2つ目は、親権を行う者が、管理権を有しないときです。1つ目から見ます。親権を行う者が、いなくなる原因は、いくつかあります。いちばん分かりやすいのは、親権者の死亡です。冒頭の設例が、これです。AさんとDさんが、ともに亡くなりました。Bさんに対して、親権を行う人は、1人もいません。前回見た場面も、ここに入ります。一方のみが親権者の親が、親権喪失の審判を受けた場合です。親権停止の審判を受けた場合も、同じです。さらに、その親が、家庭裁判所の許可を得て、親権を辞した場合もそうです。もう1つ、前に見た場面があります。養子縁組をした養親の2人が、ともに亡くなったときです。実の親の親権は、回復しません。養親が亡くなっても、縁組そのものは終わらないからです。親権を行う人がいなくなるので、未成年後見が始まる、と言っていました。その開始の中身が、この1号です。
親が1人だけ亡くなった場合も、始まるのですか。始まりません。ここが大事です。双方が親権者だったとき、一方が亡くなっても、残る一方が親権を行います。親権を行う人がいる限り、後見は始まりません。始まるのは、親権を行う人が、誰もいなくなったときです。2つ目に進みます。親権を行う者が、管理権を有しないとき、です。例で確かめます。Bさんの親権者は、母のDさんだけだとします。Dさんは生きています。ところが、Bさんの財産を使い込んだため、管理権喪失の審判を受けました。
図:設例S2
- D(母・Bの親権者はDだけ・生きている)、B(子・9歳)、E(家庭裁判所)
- DがE家庭裁判所から管理権喪失の審判を受けた
- 親権はDに残る
- 管理権はない
- → 838条1号の後半(親権を行う者が管理権を有しないとき)に当たり、未成年後見が開始する
この場合、親権はDさんに残っています。子の世話や教育は、Dさんが続けます。しかし、子の財産を管理する権限は、Dさんにありません。管理する人が、いなくなりました。問いです。親権者が管理権を失っただけで、親権は残っています。この場合、未成年後見は始まるでしょうか?始まります。838条の1号の後半が、親権を行う者が管理権を有しないとき、と書いているからです。財産を管理する人が、いない状態を、放置しないための定めです。ただし、その中身は、あとで見る868条で、限られます。もう1つ、大事な点があります。後見が始まるために、家庭裁判所の審判は、要りません。条文は、次に掲げる場合に開始する、と書いています。比べると、違いが見えます。2号の成年後見は、後見開始の審判があったとき、と書いています。審判そのものが、開始の原因です。これに対して、1号の原因は、親権を行う者がない、管理権を有しない、という状態そのものです。審判を求めてはいません。ですから、その状態になれば、改めて審判を待たずに、当然に始まります。
後見が始まる時点を、後見人が決まる時点と考えるのは、よくある思い違いです。始まることと、後見人が決まることは、別です。誰が後見人になるかは、このあと見る、指定と選任で決まります。たとえで言えば、そうです。欠員が出た時点で、席は自動で空きます。誰が座るかは、そのあとの話です。この区別を、頭に置いてください。冒頭の設例に当てはめます。AさんとDさんが亡くなった時点で、Bさんに対する親権を行う人は、いなくなりました。この瞬間に、未成年後見は、当然に始まっています。家庭裁判所に申し立てる前から、です。問いです。母だけが親権者で、母が亡くなりました。未成年後見が始まるために、必要な手続はあるでしょうか?
必要ありません。親権を行う人が、いなくなった時点で、当然に始まります。
後見人の指定 839条
図:開始と選任は別の流れ
- 後見の開始(当然・審判不要)→ ①指定(最後に親権を行う者が遺言でする・839条)②指定がなければ選任(家庭裁判所が請求を受けてする・840条)→ 後見人が就く
- 指定も請求もなければ、後見は始まっていても後見人はいない
地図の③、後見人の決まり方です。まず、全体の流れを、板で確かめます。後見が始まったあと、後見人が就く道は、2本あります。1本目が、指定です。最後に親権を行った人が、遺言で、あらかじめ決めておく道です。そして2本目が、選任です。指定がなければ、家庭裁判所が、請求を受けて決める道です。問いです。未成年後見が始まれば、自動的に後見人も決まるでしょうか?さっきの席のたとえなら、席は空いても、座る人が決まるとは限りません。決まらないと思います。指定か選任がなければ、後見は始まっていても、後見人はいません。この状態も、ありえます。では、1本目の指定から、条文で読みます。
図:指定の板(839条)
- だれが=未成年者に対して最後に親権を行う者(管理権を有しない者は不可)
- どうやって=遺言
- 例=父が先に亡くなり、母が最後に親権を行う者として遺言で指定。2項=親権を行う父母の一方が管理権を有しないとき、他の一方が指定できる。口頭の約束や親族の話し合いでは決まらない。
未成年の子を残して亡くなりそうな親は、自分が亡くなったあとの子の世話を、誰に任せたいか、考えるはずです。その希望を、遺言という形で、法律上の効力のあるものにできます。これが指定です。
条文民法839条
民法第839条(未成年後見人の指定) 1 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。 2 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。
1項を、骨組みに分けます。指定できる人は、未成年者に対して、最後に親権を行う者です。方法は、遺言です。最後に親権を行う者、とは、その子の親権を行っていた最後の人のことです。たとえば、父母が親権者で、父が先に亡くなっていたなら、あとから亡くなる母が、最後に親権を行う者です。母は、自分の遺言で、未成年後見人を指定できます。冒頭の設例では、指定はあるのですか。ありません。AさんもDさんも、遺言を書いていませんでした。指定は、遺言があって初めて成り立ちます。遺言がなければ、指定はありません。ただし書です。管理権を有しない者は、指定できません。たとえば、管理権喪失の審判を受けた親は、財産の管理を任せるべきでないと判断された人です。その人が、財産を扱う後見人を、自分で選べては、おかしなことになります。だから、この指定はできません。2項は、その補いです。たとえば、母が管理権を失い、父は管理権を持っているとします。父が先に亡くなっても、母の親権は残ります。ですから、父は、最後に親権を行う者には、当たりません。1項だけでは、父は指定できないのです。そこで2項が、父にも、1項と同じ指定を認めています。母には財産を管理する権限がないので、父が亡くなれば、子の財産を管理する人が、いなくなるからです。このとき指定された後見人は、あとで見る868条で、財産に関することだけを受け持ちます。ここで1つ、注意があります。指定の方法は、遺言だけです。口頭の約束や、親戚同士の話し合いで、後見人が決まるわけではありません。名乗り出ただけでは決まらない、という冒頭の引っかかりは、この点にも関わります。
なお、遺言の方式や効力そのものは、遺言の回で見ます。今日は、遺言で指定できる、という結論だけを押さえてください。実際には、遺言で、未成年後見人が指定されることは、多くないと言われます。自分が亡くなったあとの、子の後見まで考えて遺言を書く人は、少ないからです。そのため、実際には、次に見る選任が、中心になります。問いです。管理権喪失の審判を受けた母が、遺言で、未成年後見人を指定しました。この指定は、有効でしょうか?ただし書があるので、有効ではありません。管理権を有しない者は、指定できません。
後見人の選任 840条
図:指定と選任の対比表
- 指定(839条)=だれが:最後に親権を行う者(管理権を有しない者は不可)/どうやって:遺言/いつ:後見人となるべき者を決めておくとき
- 選任(840条)=だれが:家庭裁判所/どうやって:被後見人・親族・利害関係人の請求/いつ:指定で後見人となるべき者がないとき・後見人が欠けたとき
地図の③の続き、2本目の選任です。先に、前に見た話を思い出してください。親権喪失などの審判を受けた親や、親権を辞した親は、未成年後見人について、どうしなければならなかったでしょうか?841条で、遅滞なく、未成年後見人の選任を、家庭裁判所に請求しなければなりません。その請求を受けて、家庭裁判所が決める。それが、840条です。条文を読みます。
条文民法840条
民法第840条(未成年後見人の選任) 1 前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。 2 未成年後見人がある場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で、更に未成年後見人を選任することができる。 3 未成年後見人を選任するには、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
1項から見ます。選ぶのは、家庭裁判所です。条件は、前の条文の指定で、未成年後見人となるべき者がいないときです。指定があれば、指定された人が後見人になりますから、選任の出番はありません。選任は、請求を受けて行います。請求できる人は、未成年被後見人、その親族、その他の利害関係人です。未成年被後見人とは、後見によって守られる子のことです。守られる子自身も、請求できます。前回の親権の審判でも、子自身が申し立てられました。守られる本人にも、家庭裁判所の手を借りる道を開いておく、という考え方です。1項の後半です。未成年後見人が欠けたときも、同様です。たとえば、選ばれた後見人が亡くなったとします。そのときは、また請求を受けて、家庭裁判所が新たな後見人を選びます。2項です。すでに後見人がいる場合でも、必要があると認めるときは、家庭裁判所は、更に後見人を選べます。請求を受けても、職権でも、できます。たとえば、子に多額の財産があって、親族の後見人だけでは管理しきれないとき、専門家をもう1人加える、という場合です。後見人が複数になったときは、原則として、共同して権限を行使します。857条の2に定めがあります。親権を、父母が共同して行うのと、同じような考え方です。結論だけ、覚えておいてください。3項は、選ぶときの考慮事情です。長い条文ですが、読みは、こうなります。子の年齢、心身の状態、生活と財産の状況。候補者の職業と経歴、子との利害関係の有無。それから、子自身の意見。その他、一切の事情を考慮する、というものです。
3項の、かっこの中に、注目してください。未成年後見人となる者が、法人であるとき、という部分です。条文が、法人が後見人になる場合を、想定しています。つまり、法人も、未成年後見人になれます。
図:841条と児童福祉法33条の8
- 板
- 民法841条=父若しくは母が親権若しくは管理権を辞し、又は父若しくは母について親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判があったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。児童福祉法33条の8第1項=児童相談所長は、親権を行う者のない児童について、その福祉のため必要があるときは、家庭裁判所に対し未成年後見人の選任を請求しなければならない。
選任の請求について、板に、2つの条文を出しています。結論だけ押さえてください。1つ目は、先ほどの841条です。親権を辞した親や、審判を受けた親は、遅滞なく選任を請求する義務があります。2つ目は、児童福祉法33条の8です。児童相談所長は、親権を行う者のない児童について、その福祉のために必要があるときは、選任を請求しなければなりません。義務です。親族が誰も動かないとき、子が放置されないための仕組みです。それでは、冒頭の設例に当てはめます。AさんとDさんは、遺言を書いていません。指定はありません。そこで、840条の出番です。請求があれば、家庭裁判所が、後見人を選びます。請求できる人には、Bさんの親族である叔父のCさんも入ります。Cさんは、請求する側にもなれて、候補にもなれる立場です。
叔父のCさんが請求して、自分が後見人に選ばれる、ということも、ありうるのですか。ありえます。ただし、必ず選ばれるとは、言えません。家庭裁判所は、先ほどの3項の事情を見て、決めます。Cさんの生活や財産の状況、Bさんとの関係、Bさん自身の意見などが、考慮されます。問いです。未成年後見人を選任するために、だれが家庭裁判所に請求できるでしょうか?未成年被後見人、その親族、その他の利害関係人です。
後見人になれない人 欠格事由 847条
図:欠格事由5つ(847条)
- 一 未成年者
- 二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
- 三 破産者
- 四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
- 五 行方の知れない者。覚え方の軸=責任を負えない(1号)・過去に解任された(2号)・財産面で不安(3号)・子と利害が対立(4号)・連絡がつかない(5号)。
地図の④、後見人になれない人です。叔父のCさんは、名乗り出ました。家庭裁判所が選ぶ、といっても、誰でも選べるわけではありません。後見人になれない人が、条文に列挙されています。条文を読みます。
条文民法847条
民法第847条(後見人の欠格事由) 次に掲げる者は、後見人となることができない。 一 未成年者 二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人 三 破産者 四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族 五 行方の知れない者
5つあります。この5つは、後見人の役に就けない理由で整理すると、覚えやすくなります。1号は、責任を負えない人。2号は、過去にその役を解任された人。3号は、財産面で不安のある人。4号は、子と利害が対立する人。5号は、連絡がつかない人です。1号から見ます。未成年者です。自分自身が守られる側の人に、他人を守る役はできません。たとえば、Bさんに17歳の兄がいたとします。兄は、Bさんの兄ですが、未成年者ですから、後見人にはなれません。2号です。家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人です。免ぜられた、とは、家庭裁判所に解任された、という意味です。自分から辞めた辞任とは、別です。たとえば、以前に後見人を務めていて、不正があって家庭裁判所に解任された人です。同じ役を、もう一度任せるわけにはいきません。保佐人と補助人は、成年の人を守る仕組みの回で見た役です。
条文が欠格にしているのは、免ぜられた人です。辞任は、書かれていません。ですから、辞任しただけでは、この2号には当たりません。3号です。破産者です。財産を管理する役ですから、自分の財産の管理に失敗した人は、任せにくい、という発想です。たとえば、叔父のCさんが破産者なら、3号で、後見人になれません。4号です。ここが、いちばん間違えやすいところです。被後見人に対して、訴訟をし、またはした者。並びに、その配偶者と、直系血族です。
図:設例S3
- C(叔父)が過去に、B(子)を相手に金銭をめぐる訴訟をした
- → 4号:C本人が欠格
- Cの配偶者・直系血族(親や子)も欠格
- 訴訟をし、又はした者=今している人も、過去にした人も含む
例です。叔父のCさんが、過去に、Bさんを相手に、金銭をめぐる訴訟を起こしたことがあるとします。この場合、Cさん本人は、4号で後見人になれません。範囲は、本人だけではありません。条文は、その配偶者と直系血族も、挙げています。Cさんの妻も、なれません。Cさんの親や子も、なれません。理由は、利害の対立です。子を相手に争ったことのある人が、子の財産を守る役に就けば、公平さが疑われます。本人だけを欠格にしても、家族を通して同じことが起きかねません。だから、家族にまで広げています。訴訟をし、または、した者、という文言にも、注意してください。今まさに訴訟をしている人も、過去に訴訟をした人も、含まれます。5号です。行方の知れない者です。連絡がつかない人には、そもそも後見の仕事ができません。この847条は、成年後見の後見人にも及ぶ、共通の条文です。ですから、保佐人、補助人、という成年の人を守る役の名前も入っています。問いです。子と訴訟をしたことのある叔父の妻は、後見人になれるでしょうか?
4号に、配偶者も入っているので、なれません。ここで、冒頭の叔父のCさんに戻ります。Cさんに、これら5つの欠格事由がなければ、Cさんは、選任の候補になれます。欠格事由があれば、候補にもなれません。
後見人の権限 子の世話と、財産だけの後見人
図:身上監護の板
- 857条=未成年後見人は、820条から823条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する(子の監護・教育、居所の指定、職業の許可など)
- S4=Cが後見人に選ばれたら、Bの居所を自分の家に決められる
地図の⑤、後見人の権限のうち、子の世話に関わる部分です。その前に、思い出してください。未成年後見人は、714条の法定の監督義務者にあたるのでしたか?未成年者の親権者と同じく、未成年後見人も、法定の監督義務者にあたるのでした。714条は、責任能力のない人、たとえば幼い子が、他人に損害を与えたとき、その人を監督する法定の義務を負う人が、代わりに賠償する責任を負う、という条文でした。この、監督する義務を負う人が、法定の監督義務者です。では、なぜ未成年後見人が、これにあたるのか。その理由が、今日の857条にあります。板の条文を、読みます。857条です。未成年後見人は、820条から823条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。820条から823条までは、親権者の身上監護にあたる事項でした。子の監護と教育、居所の指定、職業の許可などです。後見人は、これらについて、親権者と同じ立場に立ちます。例で確かめます。叔父のCさんが、後見人に選ばれたと仮定します。Cさんは、Bさんの居所を、自分の家に決められます。これは、822条の居所指定にあたる事柄です。ここで、前回の結びを、条文で裏づけます。前回は、手術への同意を拒み続ける親の親権を、審判で止める場面を見ました。止めたあと、その親だけが親権者だったなら、手術に同意するのは、選ばれた未成年後見人だ、と言いました。その足場が、この857条です。後見人は、子の監護や教育について、親権者と同じ立場に立つからです。選ばれた、という言葉も大事です。今日見たとおり、後見が始まっても、選任されるまでは、席は空いたままです。
医療行為への同意まで、何でも一人でできるとは、言い切れません。857条は、医療の同意を、名指しで書いてはいません。857条から言えるのは、子の監護について、親権者の立場に立つのが後見人だ、というところまでです。どこまでの医療行為に、一人で同意できるかは、条文からは断定できません。
図:財産だけの後見人の板
- 868条=親権を行う者が管理権を有しない場合には、未成年後見人は、財産に関する権限のみを有する
- 例=母Dが管理権を失ったとき、子の世話はDが続け、後見人は財産に関することだけを受け持つ
- 714条=未成年後見人は857条により子の監護について親権者と同一の権利義務を負うので法定の監督義務者にあたる
- 成年後見人は858条の配慮義務のみで、それだけでは法定の監督義務者にあたらない
次に、868条です。板の2つ目の条文です。親権を行う者が管理権を有しない場合には、未成年後見人は、財産に関する権限のみを有する。前に、財産に関することだけの後見人が立つ、と言っていました。その根拠が、この868条です。先ほどの設例で言えば、母のDさんが、管理権を失ったときです。Dさんの親権は残っていますから、子の世話は、Dさんが続けます。後見人が引き受けるのは、財産に関することだけです。整理します。後見人は、原則として、身上監護と財産、両方の権限を持ちます。ただし、親権を行う者が管理権を有しないときは、財産に関する権限だけを持ちます。身上監護の部分は、親権者の手に残るからです。先ほどの、714条に戻ります。未成年後見人が、法定の監督義務者にあたるのは、857条で、子の監護について、親権者と同一の権利義務を負うからです。成年後見人には、857条のような、監護の権利義務を定めた条文がありません。858条が定めるのは、事務を行うときに、本人の心身の状態や生活の状況に配慮する義務です。最高裁も、この義務は、行動を見張ることまでは求めていない、と述べていました。ですから、成年後見人であること自体は、それだけでは法定の監督義務者にあたりません。ただし、監督を引き受けたとみるべき特段の事情があれば、法定の監督義務者に準ずべき者として、714条の責任を問われうる側に入ります。そのうえで、免責の証明が残ることも、前に見たとおりです。
後見人は、子の世話のほかに、子の財産を管理し、子に代わって契約をする役目も、負います。その中身は、後編で見ます。問いです。選ばれた未成年後見人は、子の居所を決められるでしょうか?857条で、親権者と同一の権利義務を有するので、決められます。
今日の地図(保存版)

- 3本柱+冒頭の答え
- ①開始=親権を行う者がない・管理権を有しないとき(838条1号)
- 審判不要で当然に開始
- → 指定(最後に親権を行う者・遺言・839条)または選任(家庭裁判所・請求・840条)②欠格事由5つ(847条)③身上監護は親権者と同一(857条)
- 管理権がなければ財産に関する権限のみ(868条)
- 法定の監督義務者にあたる(714条)
- 冒頭の答え=後見は当然に始まる
- 指定がなければ家庭裁判所が選ぶ
- 叔父Cは欠格事由がなければ選ばれうる
最後にまとめます。柱は、3本です。1本目。開始と、後見人の決まり方です。親権を行う者がないとき、または、親権を行う者が管理権を有しないとき、未成年後見は、当然に始まります。審判は要りません。後見人は、始まりとは別に決まります。最後に親権を行う者が、遺言で指定します。指定がなければ、家庭裁判所が、請求を受けて選任します。2本目。欠格事由です。5つです。未成年者、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人、破産者、被後見人に対して訴訟をし、またはした者と、その配偶者と直系血族、行方の知れない者です。3本目。後見人の権限のうち、子の世話に関わる部分です。身上監護は、親権者と同一です。親権を行う者が管理権を有しないときは、財産に関する権限だけを持ちます。未成年後見人は、714条の法定の監督義務者にあたります。
冒頭の問いに戻ります。両親を亡くしたBさんの財産は、だれが管理するのか。叔父のCさんは、その役になれるのか。答えは、こうです。両親が亡くなった時点で、親権を行う人が、いなくなりましたから、未成年後見は、審判なしで当然に始まっています。遺言の指定がなければ、家庭裁判所が、請求を受けて、後見人を選びます。Cさんは、欠格事由がなければ、選ばれうる立場です。必ず選ばれるとは、言えません。選ばれた後見人が、Bさんの財産を、どのように扱うのか。代理人として何ができ、どんな制限があるのか。それは、後編で見ます。ここは、論文で論点になりうる箇所です。誰が後見人になるのかは、指定、選任、欠格の順に検討します。この順番を、頭に置いてください。
参照条文
- 民法838条
- 民法839条
- 民法840条
- 民法847条