民法ゼロから民法#350

扶養義務の範囲と程度

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第7章 親族 #350/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

母の生活費を、長男は毎月出さなければならないのか

冒頭の設例。B(母・78歳)は年金だけでは暮らせない。A(長男・48歳・会社員)に毎月の生活費を出してほしいと言っている。Aには妻C。誰が決めるのかはD(家庭裁判所)。問い=出さなければならないのか・いくらか・誰が決めるのか・Cにも義務はあるのか。 図:冒頭の設例

  • B(母・78歳)は年金だけでは暮らせない
  • A(長男・48歳・会社員)に毎月の生活費を出してほしいと言っている
  • Aには妻C
  • 誰が決めるのかはD(家庭裁判所)
  • 問い=出さなければならないのか・いくらか・誰が決めるのか・Cにも義務はあるのか

設例です。Bさんは78歳。年金だけでは、暮らしていけません。長男のAさんは48歳の会社員で、妻のCさんと暮らしています。Bさんは、Aさんに言います。「毎月の生活費を、出してほしい」。今日の問いは4つです。Aさんは、出さなければならないのでしょうか。出すとして、いくらなのでしょうか。それは、誰が決めるのでしょうか。そして、Aさんの妻のCさんにも、義務はあるのでしょうか。仲の良し悪しで、扶養の義務が消えるのかどうか。それが、まさに出発点です。これも、本編で答えが出ます。4つの答えは、今日の最後に、まとめて言い直します。

空気ではなく、条文で決まります。前に親族の数え方を学んだ回で、Cさんから見たBさんは、1親等の姻族でした。あのとき、扶養の中身は別の回で、と言い残していました。今日が、その回です。

今日の地図。①誰が義務を負うのか(877条)②どこまで負うのか(生活保持義務と生活扶助義務)③順序・程度・方法は誰が決めるのか(878条〜880条)④扶養を受ける権利の性質(881条)。核心の1行=扶養は、誰が・どこまで・どう決めて負う義務か。決まらなければ家庭裁判所が決める。 図:今日の地図

  • ①誰が義務を負うのか(877条)②どこまで負うのか(生活保持義務と生活扶助義務)③順序・程度・方法は誰が決めるのか(878条〜880条)④扶養を受ける権利の性質(881条)
  • 核心の1行=扶養は、誰が・どこまで・どう決めて負う義務か
  • 決まらなければ家庭裁判所が決める

今日の地図です。1つ目、誰が義務を負うのか。2つ目、どこまで負うのか。3つ目、順序と程度と方法を、誰がどう決めるのか。4つ目、扶養を受ける権利は、どんな性質を持つのか。核心を、先に1行で言います。扶養は、誰が、どこまで、どう決めて負う義務か。決まらないときは、家庭裁判所が決めます。扶養とは、自分の資産や労力だけでは生活を維持できない人を、お金などで支えることです。たとえば、毎月の生活費を渡す。あるいは、同じ家に引き取って世話をする。そういう援助を、法律の義務として定めたのが、今日の条文です。

扶養義務者 877条

扶養義務者の範囲。1項=直系血族と兄弟姉妹は当然に互いに扶養義務がある。2項=それ以外の三親等内の親族は、家庭裁判所が特別の事情があるときに義務を負わせる。3項=事情が変わったら審判を取り消せる。夫婦は別の条文(752条・760条)。B(母)←A(長男):当然/B←C(長男の妻):審判があるときだけ。 図:扶養義務者の範囲

  • 1項=直系血族と兄弟姉妹は当然に互いに扶養義務がある
  • 2項=それ以外の三親等内の親族は、家庭裁判所が特別の事情があるときに義務を負わせる
  • 3項=事情が変わったら審判を取り消せる
  • 夫婦は別の条文(752条・760条)
  • B(母)←A(長男):当然/B←C(長男の妻):審判があるときだけ

1つ目、誰が義務を負うのか。始める前に、親族の回の冒頭で出した問いを、もう一度確かめます。夫が亡くなったあと、妻は、夫の母を扶養する義務を負うのでしょうか。あの回で、答えは出しました。今日は、同じ条文を、扶養の側から読み直します。

条文民法877条

民法第877条(扶養義務者) 1 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。 2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。 3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

1項です。直系血族と兄弟姉妹は、互いに扶養する義務があります。直系血族とは、親、子、祖父母、孫のように、まっすぐ縦につながる血縁です。この義務は、当然に生じます。家庭裁判所の審判は、要りません。設例に当てはめます。Bさんは、Aさんの親です。直系血族です。ですから、Aさんには、当然に、扶養する義務があります。Aさんの姉、長女のEさんも、同じです。兄弟姉妹どうしも、互いに義務があります。不仲でも、義務は消えないのですか。消えません。条文のどこにも、仲が良いことを、要件にする言葉はありません。身分関係があれば、義務は生じます。仲が悪い、疎遠である、という事情は、あとで金額や方法を決めるときに考慮される余地はあっても、義務そのものをなくす理由には、なりません。2項です。直系血族でも兄弟姉妹でもない、3親等内の親族です。たとえば、叔父と姪。あるいは、夫と、妻の連れ子や妻の親のような、姻族です。この人たちは、当然には義務を負いません。家庭裁判所が、特別の事情があると認めて、義務を負わせたときに、初めて義務が生じます。つまり、1項は当然、2項は審判で、という二段構えです。関係のいちばん近い人たちには当然に、それより遠い親族には事情があるときだけ、と範囲を絞っています。3項です。2項の審判のあとに事情が変わったら、家庭裁判所は、その審判を取り消せます。義務を負わせた審判を、あとで外す道が、用意されています。

では、冒頭の確認に答えます。夫の母は、妻から見て、1親等の姻族でした。直系血族ではありません。1項には入りません。ですから、妻に、当然に義務は生じません。2項の審判があったときだけ、義務を負います。親族の回で見たとおり、夫が亡くなっても、姻族関係は当然には終わりません。妻が終わらせる意思を表示しない限り、続きます。それでも、続いているだけでは、義務になりません。これが、問いの4つ目の答えです。ただし、Cさんが、自分の意思でBさんを助けるのは、もちろん自由です。義務ではない、というだけです。夫婦は、別の条文です。752条が、同居し、協力し、扶助する義務を定めます。760条は、婚姻から生じる費用の分担です。877条が扱うのは、親族の扶養で、夫婦は別枠です。婚姻の回で見た条文に、つながります。ここで、家庭裁判所が関わる場面を、地図にしておきます。

家庭裁判所が決める4つの場面。①義務を負わせる(877条2項)②誰が先に扶養するか・誰を先に扶養するかの順序を定める(878条)③程度・方法を定める(879条)④変更・取消し(877条3項・880条)。いずれも協議が先、家庭裁判所は後。 図:家庭裁判所が決める4つの場面

  • ①義務を負わせる(877条2項)②誰が先に扶養するか・誰を先に扶養するかの順序を定める(878条)③程度・方法を定める(879条)④変更・取消し(877条3項・880条)
  • いずれも協議が先、家庭裁判所は後

家庭裁判所が決める場面は、4つあります。義務を負わせる。順序を定める。程度と方法を定める。そして、決まったあとに、変更したり取り消したりする。いずれも、まず当事者が話し合います。整わないときに、家庭裁判所の出番です。もう1点、大事な整理です。1項の義務があるだけでは、まだ、いくら払えと請求することはできません。金額と方法は、協議か審判で決まって初めて、具体的な扶養料の請求になります。額は、Bさんの需要とAさんの資力で決まるので、決まるまでは、いくら求めるのか、という中身が無いからです。これは、通説的な説明です。条文に、そう書いてあるわけではありません。この区別は、あとの881条で効いてきます。問いです。兄弟姉妹は、互いに扶養義務があるでしょうか?

あります。877条1項で、当然にです。

生活保持義務と生活扶助義務 817条の12

生活保持義務の板。誰と誰:夫婦・親から未成熟の子。どこまで:自己と同程度の生活(自分の生活を切り下げてでも相手に同じ水準を保たせる)。根拠:752条・760条・817条の12第1項。典型:婚姻費用・養育費。 図:生活保持義務の板

  • 誰と誰:夫婦・親から未成熟の子
  • どこまで:自己と同程度の生活(自分の生活を切り下げてでも相手に同じ水準を保たせる)
  • 根拠:752条・760条・817条の12第1項
  • 典型:婚姻費用・養育費

2つ目、どこまで負うのかです。ここで、通説の整理を使います。扶養の義務は、強さの違う2種類に分けられます。生活保持義務と、生活扶助義務です。生活保持義務から言います。夫婦の間と、親の、未成熟の子に対する扶養です。未成熟の子とは、年齢ではなく、経済的に自立して生活することを期待できない子のことです。この義務は、自分の生活を切り下げてでも、相手に、自分と同程度の生活をさせる義務です。

生活扶助義務の板。誰と誰:老いた親と子・祖父母と孫・兄弟姉妹・877条2項の親族。どこまで:自分の生活に余力がある範囲の援助。根拠:877条1項・2項。典型:老親の扶養・兄弟姉妹。 図:生活扶助義務の板

  • 誰と誰:老いた親と子・祖父母と孫・兄弟姉妹・877条2項の親族
  • どこまで:自分の生活に余力がある範囲の援助
  • 根拠:877条1項・2項
  • 典型:老親の扶養・兄弟姉妹

生活扶助義務は、それ以外です。老いた親と子、祖父母と孫、兄弟姉妹、そして877条2項で義務を負わされた親族です。この義務は、ふだんの暮らしぶりを崩さずにできる範囲の援助でよい、というものです。自分の生活に余力があるぶんだけ、助ければ足ります。

生活保持義務と生活扶助義務の比較板。生活保持義務=誰と誰:夫婦・親から未成熟の子/どこまで:自己と同程度の生活/根拠:752条・760条・817条の12第1項/典型:婚姻費用・養育費。生活扶助義務=誰と誰:老いた親と子・祖父母と孫・兄弟姉妹・877条2項の親族/どこまで:自分の生活に余力がある範囲/根拠:877条1項・2項/典型:老親の扶養・兄弟姉妹。 図:生活保持義務と生活扶助義務の比較板

  • 生活保持義務=誰と誰:夫婦・親から未成熟の子/どこまで:自己と同程度の生活/根拠:752条・760条・817条の12第1項/典型:婚姻費用・養育費
  • 生活扶助義務=誰と誰:老いた親と子・祖父母と孫・兄弟姉妹・877条2項の親族/どこまで:自分の生活に余力がある範囲/根拠:877条1項・2項/典型:老親の扶養・兄弟姉妹

食卓にたとえます。保持義務は、同じ食卓で、自分の皿と同じ量を、相手の皿にも盛る義務です。自分の分が減っても、同じ量を盛ります。扶助義務は、自分の食卓を満たしたあと、余ったぶんを分ける義務です。余りが無ければ、盛れません。Aさんと母のBさんは、親子ですが、Bさんは未成熟の子ではありません。老いた親と子の関係です。ですから、生活扶助義務です。Aさんは、自分の生活に余力がある範囲で、Bさんを支えればよいことになります。これが、問いの2つ目、いくらかという疑問への、答えの半分です。残りの半分は、あとで出します。

2つに分ける趣旨の板。夫婦=生活を共にする一体的な関係。親=子を育てる責任を自ら引き受けている。→他の親族より重い義務(生活保持義務)。離れて暮らす兄弟・老いた親=自分の生活を壊してまでの援助は酷。→余力の範囲(生活扶助義務)。保持と扶助は解釈上の整理で、条文の言葉は「扶養」だけ。 図:2つに分ける趣旨の板

  • 夫婦=生活を共にする一体的な関係
  • 親=子を育てる責任を自ら引き受けている
  • →他の親族より重い義務(生活保持義務)
  • 離れて暮らす兄弟・老いた親=自分の生活を壊してまでの援助は酷
  • →余力の範囲(生活扶助義務)
  • 保持と扶助は解釈上の整理で、条文の言葉は「扶養」だけ

趣旨は、こうです。夫婦は、生活を共にする一体的な関係です。親は、自分の子を育てる責任を、自分で引き受けています。この2つは、他の親族より、重い義務を負って当然です。一方、離れて暮らす兄弟や老いた親との間で、自分の生活を壊してまで援助を求めるのは、酷です。重さに差をつけた、と考えると腑に落ちます。付け加えます。この2つの区別は、解釈上の整理です。条文の言葉は、877条から880条まで、ただ「扶養」だけです。保持と扶助という言葉は、条文には出てきません。

817条の12の位置づけ。生活保持義務を明文で書いた条文=親の責務等(令和6年改正で新設・2026年4月1日施行)。1項後半=子が自己と同程度の生活を維持できるよう扶養。2項=婚姻関係の有無にかかわらず。 図:817条の12の位置づけ

  • 生活保持義務を明文で書いた条文=親の責務等(令和6年改正で新設・2026年4月1日施行)
  • 1項後半=子が自己と同程度の生活を維持できるよう扶養
  • 2項=婚姻関係の有無にかかわらず

次に、生活保持義務を明文で書いた条文を、読み直します。離婚と親権の回で初めて出てきた、817条の12です。令和6年の改正で新しく作られ、2026年4月1日から施行されています。

条文民法817条の12

民法第817条の12 (親の責務等) 1 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。 2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。

1項の後半です。子が、自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。先ほどの生活保持義務の定義と、ほぼ同じ言葉です。親の、子に対する生活保持義務を、条文に書いたものです。2項は、婚姻関係の有無にかかわらず、と書いています。この条文は、親権があるかどうかも、婚姻しているかどうかも、問いません。離婚して親権者でなくなった親にも、婚姻していない父母にも、及びます。条文は、子を未成年に限っていません。成年の子に、どこまで及ぶのかは、解釈に委ねられています。これまでも、大学生である成年の子について、未成年の子と同じ水準の養育費の支払いを命じた裁判例がありました。その解釈が、この条文で直ちに変わるとは言えません。養育費の回で見た、先取特権の条文も、この延長にあります。子の監護の費用の部分は、一般の先取特権で守られます。保持義務の重さが、そこにも表れています。問いです。夫が、病気の妻と、年金暮らしの自分の母を、両方扶養することになりました。どちらを、重く扶養しなければならないでしょうか?

妻です。夫婦は生活保持義務で、母は生活扶助義務だからです。同じ、自分の家計から出すお金でも、妻への義務のほうが重く、自分と同程度の生活を保たせる義務です。

順序・程度・方法・事情変更 878条〜880条

協議→家庭裁判所→事情変更の流れ。①当事者の協議(順序・程度・方法)②整わない・協議できない→家庭裁判所が定める(878条・879条)③決まった後に事情が変わった→家庭裁判所が変更・取消し(880条)。順序=誰が・誰を先に/程度・方法=いくら・どうやって。考慮要素=扶養権利者の需要・扶養義務者の資力・その他一切の事情。 図:協議→家庭裁判所→事情変更の流れ

  • ①当事者の協議(順序・程度・方法)②整わない・協議できない→家庭裁判所が定める(878条・879条)③決まった後に事情が変わった→家庭裁判所が変更・取消し(880条)
  • 順序=誰が・誰を先に/程度・方法=いくら・どうやって
  • 考慮要素=扶養権利者の需要・扶養義務者の資力・その他一切の事情

3つ目、順序と程度と方法を、誰がどう決めるのかです。ここに、問いの3つ目の答えがあります。条文を3つ、続けて見ます。まず、順序の878条です。

条文民法878条

民法第878条(扶養の順位) 扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする。

骨格だけ言います。義務者が数人いて、誰が扶養するかの順序が、協議で決まらない。そのときは、家庭裁判所が定める。権利者が数人いて、資力が全員分に足りない。誰を先に扶養するかの順序も、同じです。設例で言います。母のBさんには、長男のAさんと、長女のEさんがいます。2人のうち、誰が先に出すのか。これが、順序です。逆に、Aさんが、母のBさんと、祖母の両方を支えるとして、資力が足りないとき、誰を先にするか。これも、順序です。

条文民法879条

民法第879条(扶養の程度又は方法) 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。

879条です。程度と方法です。協議が整わないときは、家庭裁判所が、権利者の需要、義務者の資力、その他一切の事情を考慮して定めます。需要とは、その人が暮らすのに必要なお金です。878条は、誰が、あるいは誰を先に、という順序の話です。879条は、いくらを、どうやって、という程度と方法の話です。この区別が、とても大事です。方法は、毎月、決まった額のお金を渡す方法が、いちばん多いです。ほかに、自分の家に引き取って世話をする、引取り扶養という方法もあります。これで、問いの3つ目に答えが出ました。金額や方法を、誰が決めるのか。まず、当事者の協議です。整わなければ、家庭裁判所が決めます。設例では、AさんとBさんが話し合い、まとまらなければ、家庭裁判所が、Bさんの需要とAさんの資力を見て、決めます。これが、2つ目の問い、いくらかの、残りの半分でもあります。

令和6年の改正で、手当てがされました。扶養の程度や方法を決める審判で、家庭裁判所は、当事者に、収入や資産の情報の開示を命じられます。正当な理由なく開示しない、あるいは、うその開示をしたときは、過料、つまり裁判所が科すお金の制裁の対象になり、上限は10万円です。次の条文です。決まったあとの話です。

条文民法880条

民法第880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し) 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。

協議や審判が済んだあとに、事情が変わったら、家庭裁判所が、変更や取消しをできます。たとえば、母のBさんの収入が増えた。あるいは、Aさんが失業した。そういうとき、決めた額を、そのまま続けさせるのは、酷です。似ていますが、別です。877条3項が取り消すのは、2項の、義務を負わせる審判です。つまり、義務そのものです。880条が変更や取消しをするのは、順序や程度や方法についての、協議や審判です。何を動かすのかが違います。払われないときの話も、1つだけ。扶養義務の定期金債権、つまり毎月決まった額を受け取る債権のうち、子の監護の費用にあたる部分は、一般の先取特権で守られます。養育費の回で見た、306条3号と308条の2です。設例のBさんへの扶養料は、子の監護の費用ではないので、この先取特権の対象には入りません。強制執行そのものは、民事執行法の分野なので、ここでは扱いません。問いです。兄弟のうち、誰がいくら出すかが決まらないとき、誰が決めるでしょうか?

家庭裁判所です。順序は878条、程度と方法は879条です。

扶養を受ける権利の一身専属性 881条

扶養請求権の取り扱い表。譲渡・質入れ・放棄などの処分=できない(881条)/債権者代位=できない(423条1項ただし書・行使上の一身専属)/相続=されない(896条ただし書・帰属上の一身専属)/例外=協議・審判で額が決まり支払期が来た具体的な扶養料は普通の金銭債権(処分も相続も可)。 図:扶養請求権の取り扱い表

4つ目、扶養を受ける権利の性質です。始める前に、思い出してください。債権者代位の対象にならない権利を、何と呼びましたか?一身専属権です。債務者の一身に専属する権利です。債権者代位権の回で学びました。行使上と帰属上、2つの物差しがありました。行使上の一身専属は、本人に代わって、ほかの人が使えるか、という物差しです。帰属上の一身専属は、本人が亡くなったとき、相続人に移るか、という物差しです。条文を読みます。

条文民法881条

民法第881条(扶養請求権の処分の禁止) 扶養を受ける権利は、処分することができない。

とても短い条文です。扶養を受ける権利は、処分できません。譲渡も、質入れも、放棄も、できません。理由は、扶養の権利が、生活に困る人が生活を維持するための権利で、特定の身分関係に基づくものだからです。お金に換えて他人に渡せば、本人の生活が成り立たなくなります。定期券でたとえます。名前の入った定期券は、本人しか使えません。人に売ることも、できません。扶養を受ける権利は、そういう性質です。2つの物差しに当てはめます。行使上の一身専属です。たとえば、Bさんにお金を貸している人が、Bさんに代わって、Aさんに扶養料を請求することは、できません。423条1項ただし書に、債務者の一身に専属する権利は代位できない、とありました。債権者代位権の回で、行使上の一身専属の例に挙げたのが、まさにこの扶養請求権でした。扶養を求めるかどうかは、Bさん本人の事情と気持ちで決めることだからです。処分できないのは生活を守るため、代位できないのは本人の意思に委ねるため。理由の立て方が別です。帰属上の一身専属です。この権利は、相続もされません。896条のただし書に、被相続人の一身に専属したものは相続されない、とあります。相続の本体は、相続の章で扱います。

2つの扶養料の区別。これから先の扶養を受ける権利そのもの=本人専用(処分・代位・相続ができない)/協議・審判で額が決まり支払期が来た扶養料=普通の金銭債権(譲渡も相続もできる)。設例=毎月5万円と決まり、先月の分が未払い→先月の分は譲れる・来月から先は譲れない。 図:2つの扶養料の区別

  • これから先の扶養を受ける権利そのもの=本人専用(処分・代位・相続ができない)/協議・審判で額が決まり支払期が来た扶養料=普通の金銭債権(譲渡も相続もできる)
  • 設例=毎月5万円と決まり、先月の分が未払い→先月の分は譲れる・来月から先は譲れない

扶養を受ける権利そのものは、相続されません。ただ、例外があります。協議や審判で、具体的な額が決まって、支払期が来た分です。この扶養料は、もう、ただの金銭債権です。なぜでしょうか。額と支払期が決まった時点で、扶養を求めるかどうか、いくらか、という本人の判断は、もう済んでいます。残っているのは、払ってもらうことだけです。本人専用にしておく理由が、無くなるのです。債権者代位権の回で、財産分与について見た線の引き方と、同じ型です。処分もできますし、相続もされる、というのが通説です。定期券にたとえ直します。これから乗る権利は、本人専用です。ところが、もう振り込みの日が来て、金額が決まったお金は、ただの、受け取れるお金です。人に渡せますし、遺産にもなります。これから先の扶養を受ける権利そのものと、支払期が来て額が決まった扶養料。この2つを、分けて考えます。設例で言います。協議で、AさんがBさんに毎月5万円を渡す、と決まったとします。先月の分の5万円が、まだ払われていません。この先月分は、額も支払期も決まったお金です。ですから、Bさんは、これを人に譲ることもできます。来月から先の、扶養を受ける権利そのものは、譲れません。877条のところで、義務があるだけでは額は決まらない、と言った区別が、ここで効いてきます。差押えも、一定の範囲で制限されます。細かい範囲は、ここでは扱いません。問いです。扶養を受ける権利は、譲渡できるでしょうか?

できません。881条が、処分を禁止しています。

今日の地図(保存版)

冒頭の問いの4つの答え。①Aに義務はあるか=ある(877条1項・不仲でも消えない)②いくらか=生活扶助義務なので自分の生活に余力がある範囲③誰が決めるか=協議→整わなければ家庭裁判所(878条・879条)・事情が変われば880条④Cの義務=877条2項の審判があるときだけ。扶養請求権は処分・代位・相続ができない(881条)。 図:冒頭の問いの4つの答え

  • ①Aに義務はあるか=ある(877条1項・不仲でも消えない)②いくらか=生活扶助義務なので自分の生活に余力がある範囲③誰が決めるか=協議→整わなければ家庭裁判所(878条・879条)・事情が変われば880条④Cの義務=877条2項の審判があるときだけ
  • 扶養請求権は処分・代位・相続ができない(881条)

まとめます。冒頭の4つの問いに、答えます。1つ目。Aさんは、出さなければならないのか。母のBさんは直系血族です。877条1項で、Aさんには、当然に義務があります。不仲でも、消えません。2つ目。いくらか。AさんとBさんは、老いた親と子の関係ですから、生活扶助義務です。Aさんは、自分の生活に余力がある範囲で、支えます。夫婦や、未成熟の子に対する親なら、自己と同程度の生活を保たせる、生活保持義務で、もっと重くなります。3つ目。誰が決めるのか。まず、当事者の協議です。整わなければ、家庭裁判所が、需要と資力とその他一切の事情を見て、定めます。順序は878条、程度と方法は879条です。決まったあとに事情が変われば、880条で、変更や取消しができます。4つ目。妻のCさんにも、義務はあるのか。Bさんは、Cさんから見て姻族ですから、1項に入りません。877条2項で、家庭裁判所が義務を負わせたときだけです。

扶養を受ける権利そのものは、譲渡もできず、相続もされない。でも、支払期が来て額が決まった分は、普通のお金、という整理でした。ここまでは、これから先の扶養の義務の話でした。では、Bさんが助けを受けられないまま、誰かが先にお金を立て替えていたら。

参照条文

  • 民法877条
  • 民法817条の12
  • 民法878条
  • 民法879条
  • 民法880条
  • 民法881条

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