任意後見契約
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第7章 親族 #349/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
元気なうちに、任せる人を自分で決められるか
図:冒頭の設例
- A(父)は物忘れが増えてきたが、判断力はまだ十分
- B(長男)に「元気なうちに、将来の財産の管理を任せる人を、自分で決めておきたい。裁判所に決められるのではなく、お前に頼みたい」
- D(家庭裁判所)が決めるのではなく、A自身が決める
- 問い=そんな方法はあるのか
設例です。Aさんは、最近、物忘れが増えてきました。それでも、今は、自分のことは自分で決められます。契約の意味も、きちんと理解できます。ある日、Aさんは、長男のBさんに言いました。「元気なうちに、将来の財産の管理を任せる人を、自分で決めておきたい。裁判所に決められるのではなく、お前に頼みたい」。今日の問いです。こういう願いを、法的に実現する方法は、あるのでしょうか。判断力が落ちたら、家庭裁判所が、後見人を選ぶのです。それだと、Bさんが選ばれる保証はありません。そこが、Aさんの不安の中心です。前の回で見た保佐と補助は、本人の判断力が落ちたあとに、家庭裁判所が決める制度でした。誰が守る人になるかも、裁判所が決めます。今日は、その手前に目を向けます。落ちる前に、自分で決める方法です。答えは、今日の本編の中で出します。
契約で決める、という方向は正しいです。ただ、普通の契約と同じではありません。結んだ日から、Bさんが動けるわけではないのです。いつから動けるのか。ここが、今日の山場です。
図:今日の地図
- ①契約を結ぶ(方式と登記)②効力が生じる時(任意後見監督人の選任)③見張る役④やめるとき(解除と解任)⑤法定後見との関係⑥法改正
- 核心の1行=契約は元気なうちに結ぶ
- 効力は、落ちたあとに動き出す
今日の地図です。まず、契約をどう結ぶのか。次に、その契約がいつから効くのか。そのあと、見張る役、契約をやめるとき、そして、前の回までの法定後見との関係を見ます。最後に、成立済みで、まだ施行されていない改正法に、短く触れます。核心を、先に1行で言います。契約は、元気なうちに結びます。効力は、落ちたあとに動き出します。家にたとえます。留守番を頼む契約書と合鍵は、旅行に出る前に用意します。けれども、合鍵で扉が開くのは、持ち主が不在になったと確認され、見張る人が立ち会ってからです。この「用意は先、動くのはあと」という形を、最後まで通します。
任意後見契約の定義・方式・登記 任意後見法2条・3条
図:契約の締結
- A(父・本人)とB(長男・受任者)が契約を結ぶ
- C(公証人)が公正証書を作成
- 契約は登記される
- 委託する事務=生活・療養看護・財産の管理
- 与えるのは代理権
1つ目、契約そのものです。この制度を定める法律は、任意後見契約に関する法律です。以下、任意後見法と呼びます。まず、定義の条文を読みます。
条文任意後見契約に関する法律2条
任意後見契約に関する法律第2条(定義) この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。 一 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。 二 本人 任意後見契約の委任者をいう。 三 任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。 四 任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。
1号が、中心です。長いので、部品を3つに分けます。1つ目の部品。委託する事務です。精神上の障害で判断力が不十分になった状況での、自分の生活、療養看護、財産の管理に関する事務です。その全部でも、一部でも構いません。2つ目。代理権を付与します。Bさんに、Aさんの名前で契約などをする権限を与える、ということです。たとえば、Aさんの預金を下ろす、施設の入所契約を結ぶ、といった行為です。3つ目。効力は、任意後見監督人が選任された時から生じる、という定めです。この3つがそろった委任契約が、任意後見契約です。
効力が監督人の選任の時から生じる、という定めを欠く契約は、任意後見契約にあたりません。ふつうの委任契約です。ふつうの委任契約は、結んだ時から、すぐに効力が生じます。判断力が落ちる前から、Bさんが動けてしまいます。任意後見は、落ちたときのための制度ですから、この定めが、見分けの目印になります。
図:呼び名の言い分け(2条2号〜4号)
- 時間軸。契約時=A「本人」
- B「任意後見受任者」→(任意後見監督人Eの選任)→選任後=B「任意後見人」。Eが選任される前か後かで、同じBの呼び名が変わる。
2号から4号は、呼び名の決まりです。契約の委任者が、本人です。受任者のほうは、時期で呼び名が変わります。任意後見監督人が選ばれる前は、任意後見受任者。選ばれた後は、任意後見人です。設例で言います。契約を結んだ今のBさんは、任意後見受任者です。この先、監督人が選ばれたとき、同じBさんが、任意後見人になります。人は同じで、地位が変わる。この時間軸を、頭に置いてください。次に、方式です。条文は、短いです。
条文任意後見契約に関する法律3条
任意後見契約に関する法律第3条(任意後見契約の方式) 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
任意後見契約は、公正証書で結びます。公正証書とは、公証人という専門の公務員が、当事者の意思を確かめたうえで作る書面です。私文書の契約書では足りません。公正証書でない契約は、任意後見契約として成り立ちません。理由は、一般に、次のように説明されます。1つ目。本人の意思と契約の内容を、公証人が確かめて、本人の意思を確実にするためです。2つ目。のちに本人の判断力が落ちたとき、契約があったことと、その内容を、はっきり示せるようにするためです。落ちてしまった本人は、「そんな約束はしていない」とも、「した」とも、言えません。書面の確かさが、本人を守ります。そして、この契約は、登記されます。法務局の、後見登記等ファイルに記録されます。成年後見のときにも出てきた、外から見える札です。登記があることが、あとで効力を生じさせる要件になります。契約で任せられるのは、代理権を伴う事務です。2条1号は、任せる事務を、生活、療養看護及び財産の管理に関する事務と定めています。預金の管理や、介護サービスの契約などです。一方、婚姻や養子縁組のような身分に関する行為や、遺言のように本人自身の意思でするほかない行為は、他人が代わってできる性質ではありません。代理に向かないので、この契約では任せられません。もう1点。これは契約ですから、結ぶ時点で、Aさんに意思能力が要ります。意思能力の無い人の契約は、無効でした。だから、設例では、Aさんが契約の意味を理解できる、という前提を置いています。
さらに、重要な帰結があります。任意後見人が持つ道具は、代理権だけです。同意権も、取消権も、追認権も、ありません。契約で与えたのが代理権だけだからです。代理権は、Bさんが、Aさんに代わって契約をする道具です。Aさんが自分でしてしまった契約を、あとから無かったことにする道具ではありません。本人の行為能力を制限する規定も、この制度のどこにもありません。Aさんは、これまでどおり、一人で有効に契約できます。任意後見人に、取消権はありません。ここが、法定後見との、いちばん大きな違いです。Aさんが、Bさんに黙って自宅を売ってしまっても、Bさんは、取消権という道具を持たないので、取り消せません。代理権だけで、本人を守ることになります。後で、法定後見と並べた表で、改めて確かめます。問いです。任意後見契約は、どんな方式で結ぶのでしょうか?
公正証書です。法務省令で定める様式のものです。
効力の発生と監督 任意後見法4条・5条・7条
図:効力発生までの流れ
- ①A・Bが公正証書で契約→登記②数年後、Aの判断力が不十分に③Bが請求④D(家庭裁判所)が任意後見監督人Eを選任⑤その時から効力発生
- Bは「任意後見人」としてAを代理
- 契約を結んだだけでは、まだ動かない
2つ目、いつから効力が生じるのか。冒頭の問いの中心です。始める前に、思い出してください。ある出来事が起きた時から効力が生じる法律行為を、何と呼びましたか?停止条件付法律行為です。127条1項は、停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時から効力を生ずる、と定めていました。任意後見契約の効力は、この形になっています。先に、条文を読みます。
条文任意後見契約に関する法律4条1項柱書
任意後見契約に関する法律第4条(任意後見監督人の選任)第1項柱書 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
本文の要件は、3つです。1つ目。契約が登記されていること。2つ目。本人の判断力が不十分な状況にあること。3つ目。請求があること。請求できるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者の4種類です。この3つがそろうと、家庭裁判所は、任意後見監督人を選びます。任意後見が動き出す「不十分」は、補助と同じ段階の言葉です。
条文任意後見契約に関する法律4条1項各号
任意後見契約に関する法律第4条(任意後見監督人の選任)第1項各号 一 本人が未成年者であるとき。 二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。 三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。 イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者 ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族 ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
ただし書は、選ばない場合です。本人が未成年者のとき。すでに後見などを受けていて、それを続けることが本人の利益のため特に必要なとき。受任者に、欠格や不適格の事情があるとき。受任者に問題があれば、任せる土台が無いので、選ばれません。ここで、2条1号と結びます。契約は、任意後見監督人が選任された時から、効力を生じます。契約を結んだだけでは、まだ効力は生じません。Bさんは、任意後見受任者のままで、Aさんの代理人として動く権限が、まだ動いていません。
図:停止条件の時間軸
- 契約の締結(公正証書)→[効力は止まっている:Bは任意後見受任者・代理権は動かない]→任意後見監督人Eの選任(条件成就)→[効力が生じる:Bは任意後見人]
- 127条1項=停止条件が成就した時から効力を生ずる
停止条件で整理します。冒頭の、留守番の合鍵のたとえに戻ります。留守中の家の合鍵を、契約書の上でBさんに渡す約束をします。ただし、見張る人が選ばれるまでは、鍵は使えません。選ばれた瞬間に、鍵が使えるようになります。この「選ばれる」が、停止条件にあたります。停止条件という言葉は、条文に無いのです。条文の言葉は、「選任された時からその効力を生ずる旨の定め」です。それを、127条1項の型に当てはめて、停止条件と整理する、という見方です。冒頭の問いの答えを、確定します。AさんはBさんと、公証人の前で、公正証書による任意後見契約を結びます。3条です。契約は登記されます。数年後、Aさんの判断力が不十分になります。Bさんが請求して、家庭裁判所が任意後見監督人を選びます。4条1項です。その時から、契約の効力が生じ、Bさんは任意後見人として、Aさんを代理します。2条1号です。これが、冒頭の答えです。問いです。任意後見契約を結んだら、その時から、任意後見人は代理できるでしょうか?
違います。家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時からです。本人の気持ちの扱いも、見ます。4条3項です。本人以外の人の請求で監督人を選ぶには、あらかじめ本人の同意が必要です。ただし、本人が意思を表示できないときは、不要です。本人の意思は、できるだけ尊重する。けれども、本人が意思を表示できない状態になってしまうと、同意を取りようがない。それでは制度が働かないので、例外が置かれています。バランスをとった規定です。
図:任意後見監督人
- 職務(7条1項)=①任意後見人の事務の監督②家庭裁判所への定期報告③急迫の事情があるときの必要な処分(代理権の範囲内)④利益が相反する行為で本人を代表
- 欠格(5条)=受任者・任意後見人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹はなれない
3つ目、見張る役です。成年後見監督人の回では、成年後見人を見張る役は、必要があるときに選ばれる、と見ました。任意後見では違います。効力が生じる条件が、監督人の選任そのものです。ですから、任意後見人が動き出すときには、必ず見張る役が付いています。理由を言います。契約を結ぶ段階では、家庭裁判所は、関与していません。落ちた後に、誰も見ない状態で代理権が動くのは、危険です。そこで、動き出す条件に、見張る役の選任を組み込んでいます。職務は、7条1項です。任意後見人の事務を監督する。家庭裁判所に定期的に報告する。急迫の事情があるときは、代理権の範囲内で、必要な処分をする。利益がぶつかる行為では、本人を代表する。4つです。成年後見監督人の職務と、同じ型です。
成年後見監督人の職務は、851条の4つです。後見人の事務の監督、後任の選任の請求、急迫の事情での必要な処分、利益相反での代表です。任意後見のほうは、後任の選任請求の代わりに、家庭裁判所への定期報告が入っています。残りの3つは同じです。欠格は、5条です。任意後見受任者や任意後見人の、配偶者、直系血族、兄弟姉妹は、監督人になれません。見張る役が、見張られる側の身内では、意味が無いからです。守る側の心構えは、6条にあります。任意後見人は、本人の意思を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮します。保佐人の876条の5と、同じ型です。ここで、冒頭の1行がそろいました。契約は、元気なうちに結ぶ。効力は、落ちたあとに、見張る役が選ばれた時から動き出す。
解除・解任と法定後見との関係 任意後見法8条・9条・10条
図:解除と解任
- 解除(9条)=選任の前:本人または任意後見受任者がいつでも、公証人の認証を受けた書面で解除できる/選任の後:本人または任意後見人が、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除できる
- 解任(8条)=不正な行為などがあるとき、家庭裁判所が、監督人・本人・親族・検察官の請求により任意後見人を解任
4つ目、やめるときです。契約を終わらせる方法は、選任の前と後で、違います。9条です。
条文任意後見契約に関する法律9条1項
任意後見契約に関する法律第9条第1項(任意後見契約の解除) 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
条文任意後見契約に関する法律9条2項
任意後見契約に関する法律第9条第2項(任意後見契約の解除) 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。
選任の前は、本人でも任意後見受任者でも、いつでも、解除できます。ただし、公証人の認証を受けた書面で行います。認証とは、公証人が、その書面の署名が本人のものだと証明することです。公正証書で慎重に結んだ契約です。やめるときも、署名が本人のものだと公的に確かめておき、本当に本人がやめたのかをめぐる争いを防ぐわけです。選任の後は、本人か任意後見人が、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、解除できます。設例で言います。Bさんが、遠くへ転勤することになったとします。監督人が選ばれる前なら、Bさんは、いつでも解除できます。選ばれたあとなら、転勤のように仕事を続けられない正当な事由を示し、家庭裁判所の許可を得て、解除します。
選任のあとは、すでに本人の判断力が落ちています。任意後見人が勝手にやめてしまえば、本人が無防備になります。本人の側からやめる場合も、同じです。判断力が落ちた状態での解除が、本当に本人のためになるのかを、確かめる必要があります。そこで、家庭裁判所のチェックを入れています。選任の前は、多くの場合まだ本人が自分で判断できる段階なので、自由に解除できます。解任は、別の話です。8条です。任意後見人に、不正な行為、著しい不行跡、つまり行いがひどく悪いこと、そのほか任務に適しない事由があるとき、家庭裁判所は、解任できます。請求できるのは、任意後見監督人、本人、その親族、検察官です。解除は契約を終わらせる行為、解任は家庭裁判所が人を外す行為、という違いです。たとえば、任意後見人のBさんが、Aさんの預金を、自分の借金の返済に使い込んだ。これが、不正な行為の典型です。
図:法定後見との関係
- 10条
- 1項=任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始等の審判ができる。=任意後見が優先。3項=任意後見監督人の選任後に本人が後見開始等の審判を受けたとき、任意後見契約は終了する。
5つ目、法定後見との関係です。10条1項です。任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限って、後見開始などの審判をすることができます。つまり、任意後見が優先します。
条文任意後見契約に関する法律10条1項
任意後見契約に関する法律第10条第1項(後見、保佐及び補助との関係) 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
本人が自分で選んだ人を、まず尊重する。それで足りない例外のときだけ、法定後見を使う。自己決定を大切にする考え方が、条文に出ています。例で確かめます。Aさんが黙って自宅を売ってしまう場面でした。任意後見人のBさんには、取消権がありません。本人を守るために取り消す道具が要る。これが、特に必要があると認められる例の1つです。法定後見なら、取り消せる守る人を付けられます。3項は、監督人が選ばれた後に、本人が後見開始などの審判を受けたときです。このときは、任意後見契約は終了します。2つの制度が、並んで走ることはありません。選任の後に限るのは、そこから代理権が動いているからです。選任の前なら、まだ動いていないので、並んで走ることになりません。選任の前に、本人が後見開始などの審判を受けていたときは、あとで任意後見監督人を選ぶかどうかを、4条1項ただし書の2号で判断します。
10条2項で、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人も、請求できます。守る立場の人が、任意後見だけでは足りないと考えたら、自分で、法定後見を求められます。問いです。任意後見契約が登記されているとき、家庭裁判所は法定後見を開始できるでしょうか?本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、できます。
図:法定後見と任意後見の対比表
法定後見と任意後見を、1枚の表に並べます。法定後見は、後見、保佐、補助の総称でした。1行目、いつ始まるか。法定後見は、判断力が落ちたあとに、家庭裁判所の審判で始まります。任意後見は、契約を元気なうちに公正証書で結び、効力は、監督人が選ばれた時から生じます。2行目、守る人を誰が決めるか。法定後見は、家庭裁判所です。任意後見は、本人が、契約で決めます。3行目、守る範囲。法定後見は、審判の類型で決まります。任意後見は、契約で決めた代理権の範囲だけです。4行目、同意権と取消権。法定後見は、類型によって、あります。任意後見には、ありません。5行目、見張る役。法定後見の監督人は、必要があるときに付きます。任意後見の監督人は、効力の条件なので、必ず付きます。6行目、外から見える札は、どちらも後見登記等ファイルです。7行目、優先関係は、登記があれば任意後見が優先で、法定後見は、本人の利益のため特に必要なときだけです。任意後見と法定後見のどちらを優先するかという関係は、論文でも論点になりうる箇所です。
見直しの改正法 まだ施行されていない
図:改正法の骨格(現行と見直し後)
- 令和8年に成立した改正法は、施行日が政令で定められる=未施行。現行=後見・保佐・補助の三つ
- 見直し後=後見と保佐が補助に一元化(保佐人・被保佐人という地位も無くなる)。任意後見=効力の起点が「任意後見監督人が選ばれた時」から「任意後見開始の審判がされた時」に変わる。試験は施行までは現行法。
6つ目、改正法です。成年後見監督人の回で触れた改正法に、もう一度だけ触れます。令和8年に、成年後見制度を見直す改正法が成立しました。ただし、まだ施行されていません。施行される日は、政令で定められることになっています。見直しの1点目。施行後は、後見と保佐が補助に、一元化されます。その結果、保佐人、被保佐人という地位も、無くなります。前の回で見た保佐は、施行後には、残らないということです。2点目。任意後見の仕組みも、見直されます。今日の中心だった、効力が生じる時点が変わります。現行法では、任意後見監督人が選ばれた時からです。見直し後は、任意後見開始の審判がされた時からになります。
施行されるまでは、現行法です。司法試験では、出題の基準となる法令の時点が、年ごとに公表されます。施行前の改正は、原則として試験の範囲に入りません。今日の内容は、現行法の形として覚えてください。
今日の地図(保存版)
図:冒頭の答えと要点
- 答え=公正証書で契約(3条)→登記→判断力が不十分になったら請求により家庭裁判所が任意後見監督人を選任(4条1項)→その時から効力(2条1号)
- 要点=①公正証書②効力は監督人の選任の時から(停止条件)③任意後見人は代理権だけ④監督人は必ず付く・職務は成年後見監督人と同型(7条)⑤解除は選任の前はいつでも・後は正当な事由と許可、悪ければ解任⑥登記があれば任意後見が優先
まとめます。冒頭の答えです。Aさんは、Bさんと、公正証書で任意後見契約を結びます。3条です。契約は登記されます。のちに、Aさんの判断力が不十分になったとき、Bさんらの請求で、家庭裁判所が任意後見監督人を選びます。4条1項です。その時から効力が生じ、Bさんは任意後見人として、Aさんを代理します。2条1号です。確認は、6つです。1つ目。方式は公正証書です。契約を結ぶ時点では、意思能力が要ります。2つ目。効力は、任意後見監督人が選任された時から生じます。127条1項の、停止条件の形です。3つ目。任意後見人が持つ道具は、代理権だけです。同意権も取消権も、ありません。4つ目。監督人は、効力の条件なので、必ず付きます。職務は、成年後見監督人と同じ型です。5つ目。解除は、選任の前ならいつでも。選任の後は、正当な事由と家庭裁判所の許可が要ります。人を外すのは、解任です。6つ目。登記があれば、任意後見が優先です。法定後見は、本人の利益のため特に必要なときだけです。
落ちる前に、自分で決められる。そして、動き出すのは、落ちたあと。この2つの組み合わせが、制度の骨なのですね。法定後見は、家庭裁判所が決める制度。任意後見は、本人が決める制度。この2本立てで、判断力が落ちた本人の財産と暮らしを、守ります。親族の義務の最後の話題へ、進みましょう。
参照条文
- 任意後見契約に関する法律2条
- 任意後見契約に関する法律3条
- 任意後見契約に関する法律4条1項柱書
- 任意後見契約に関する法律4条1項各号
- 任意後見契約に関する法律9条1項
- 任意後見契約に関する法律9条2項
- 任意後見契約に関する法律10条1項