民法ゼロから民法#368

遺産分割協議の解除と当事者

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第8章 相続 #368/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

約束を破った長男、分割はやり直せるか

冒頭の設例。A(父・死亡)、B(母・約束の相手・預金200万円)、C(長男・約束をした側・実家と預金1,500万円=4,500万円)、D(長女・預金100万円)。C→B「亡くなるまで生活と通院の面倒を見る」(点線・実行されない)。 図:冒頭の設例

  • A(父・死亡)、B(母・約束の相手・預金200万円)、C(長男・約束をした側・実家と預金1,500万円=4,500万円)、D(長女・預金100万円)
  • C→B「亡くなるまで生活と通院の面倒を見る」(点線・実行されない)

前回の終わりに、問いを残しました。遺産分割の話し合いには、誰が入るのでしょうか。そして、話し合いで決めた分割を、あとからやり直せるのでしょうか。今日は、この2つに答えます。設例です。父が亡くなり、相続人は、母、長男、長女の3人です。遺産は、実家が3,000万円、預金が1,800万円で、合計4,800万円です。法定相続分で分けると、母が2,400万円、長男と長女が1,200万円ずつです。3人は話し合って、こう決めました。長男が、母を引き取って、亡くなるまで生活と通院の面倒を見る。その代わり、長男が実家と預金1,500万円で、合わせて4,500万円を取る。母は預金200万円、長女は預金100万円です。ところが長男は、母を引き取らず、面倒も見ません。母は言います。約束を破ったのだから、あの分割はなかったことにしたい。

約束を守らなかったのは長男ですから、母が怒るのは当然ですよね。契約なら、相手が約束を守らなければ、解除できたはずです。遺産分割も、同じようにやり直せるのではないですか。そう考えたくなりますよね。母は、約束違反を理由に、遺産分割をやり直せるのか。答えは、道筋を通ったあとで言います。

地図。遺産分割の4手続=①遺言による分割方法の指定②協議(今日)③審判④共有物分割訴訟。今日の道筋=当事者→考慮事由→協議の要件・瑕疵→解除→詐害行為取消し。 図:地図

  • 遺産分割の4手続=①遺言による分割方法の指定②協議(今日)③審判④共有物分割訴訟
  • 今日の道筋=当事者→考慮事由→協議の要件・瑕疵→解除→詐害行為取消し

遺産を分ける手続は、4つあります。遺言で分け方を指定する。相続人どうしの協議。協議が調わないときの家庭裁判所の審判。それに、共有物の分割訴訟です。今日は、2つ目の協議の中身を見ます。道筋は5つです。誰が話し合いに入るのか。何を基準に分けるのか。協議が成り立つ条件と、その欠点。協議を解除できるのか。そして、債権者は口を出せるのか。4つ目で、冒頭の設例に答えが出ます。

当事者は共同相続人の全員

当事者の一覧。共同相続人の全員(具体的相続分がゼロの者も)。1人でも除いた分割は無効。未成年=特別代理人/所在不明=不在者の財産管理人。+相続分の譲受人・包括受遺者。 図:当事者の一覧

  • 共同相続人の全員(具体的相続分がゼロの者も)
  • 1人でも除いた分割は無効
  • 未成年=特別代理人/所在不明=不在者の財産管理人
  • 相続分の譲受人・包括受遺者

まず、誰が入るのか、です。遺産分割の当事者は、共同相続人の全員です。907条1項が、共同相続人は、その協議で分割をすることができる、と定めています。大事なのは、全員という点です。たとえば、長女が生前に多額の贈与を受けていて、具体的相続分がゼロになる場合でも、長女は相続人のままです。具体的相続分というのは、特別受益や寄与分を反映した、実際の取り分のことでした。取り分がゼロでも、当事者です。結果が変わらなくても、呼ばなければ成立しません。具体的相続分がゼロかどうかは、贈与をどう数えるかで変わる計算の結果で、その計算には、長女自身も意見を言えるからです。母と長男の2人だけで実家と預金を分けると、長女が加わっていないので、その分割は無効です。長女は相続人のままですから、遺産は共有のままです。短答の核は、全員が参加しない協議は成立しない、です。相続人の中に、参加できない人がいる場合も、外して進めてはいけません。設例で、長女が未成年だったとします。母が長女を代理して協議に加わると、母は、自分の取り分と長女の取り分を、1人で決めることになります。前に見た、ケーキを切る人が自分も食べる形で、利益相反行為です。家庭裁判所に、その協議のための特別代理人を選んでもらいます。特別代理人を選ばずに母が代理した協議は、長女が成年に達してから追認するまでは、長女に効力を生じません。行方の分からない相続人がいるときも、同じです。その人を外すのではなく、前回も出てきた、不在者の財産管理人、つまり、いない人に代わって財産を管理する人を選んでもらって、参加させます。管理人が協議をするには、保存や管理を超える行為ですから、家庭裁判所の許可が要ります。

相続人以外の当事者

当事者②。相続分の譲受人・包括受遺者(990条)。 図:当事者②。相続分の譲受人・包括受遺者(990条)。

当事者は、相続人だけではありません。1つ目は、相続分の譲受人です。前に見たとおり、相続人のうちの1人から相続分を譲り受けた人は、その相続人の立場を受け継いで、遺産分割に加わります。2つ目は、包括受遺者です。遺産の3分の1を友人に譲る、といった、割合で遺言された人です。990条は、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する、と定めています。ですから、遺産分割の当事者になります。

分割のあとで現れた相続人

復習の問い。認知は、いつの時点にさかのぼって効力を生じますか? 図:復習の問い。認知は、いつの時点にさかのぼって効力を生じますか?

ここで、前に見たことを思い出してください。認知は、いつの時点にさかのぼって効力を生じますか?子が生まれた時にさかのぼります。遡及効でした。これが、ややこしい問題を生みます。設例の続きです。

910条の板。A=父(亡)、B=母、C=長男、D=長女、E=認知された子。分割済み(母2,400・長男1,200・長女1,200)→認知(出生にさかのぼる)→Eは相続開始から相続人→分割は無効にしない→Eの請求=価額800万円。 図:910条の板

  • A=父(亡)、B=母、C=長男、D=長女、E=認知された子
  • 分割済み(母2,400・長男1,200・長女1,200)→認知(出生にさかのぼる)→Eは相続開始から相続人→分割は無効にしない→Eの請求=価額800万円

父の遺産4,800万円を、母、長男、長女が、法定相続分どおりに分けて、済ませました。そのあと、自分も父の子だと主張する女性が、認知を求める訴えを起こしました。父はすでに亡くなっていますから、検察官が相手になります。認知を認める判決が確定しました。この女性を、Eとします。Eは、こう言えるでしょうか。自分を呼ばずにした分割は、無効だ。認知の遡及効を貫けば、Eを除いた分割は無効になる。理屈としては、そのとおりです。ただ、分割を無効にすると、すでに分けて使った財産や、売ってしまった財産まで、やり直しになります。遡及効を貫くか、済んだ分割を守るか。条文は、済んだ分割を守る側を取りました。

条文民法910条

民法 第九百十条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権) 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

価額というのは、金額で表した値打ちのことです。他の共同相続人が、すでに分割をしていたときは、Eは、価額だけを請求できます。つまり、分割は有効のまま、金銭で埋め合わせるのです。無効にすれば、他の共同相続人が困ります。だから条文は、分割は守り、その代わりにお金で調整する道を選びました。卒業アルバムを全員に配り終えたあとで、実は同級生だったと分かった人が出てきたら、配り直しではなく、同じ値打ちのお金を渡す、という感じです。数字で言います。Eが加わると、子は、長男、長女、Eの3人です。子の相続分は全体の2分の1で、これを3人で等分しますから、Eの相続分は6分の1です。4,800万円の6分の1で、800万円です。Eが請求できるのは、この800万円ぶんの価額です。母の相続分は、子が増えても2分の1のままです。

復習の問い。済んだ分割の後に認知された子は、「自分を呼ばなかった分割は無効だ」と主張できるか? 図:復習の問い

問いです。分割のあとで認知された子は、自分を呼ばなかった分割は無効だ、と主張できるでしょうか?できません。910条で、請求できるのは価額の支払だけで、分割の効力は維持されます。もう1つ、同じ構造の条文があります。嫡出否認の場合です。前に見たとおり、母が再婚したあとに生まれた子は、再婚後の夫の子と推定されます。この推定が否認で覆ると、1つ前の結婚の夫、つまり前の夫の子と推定し直されるのでした。ここに、新しい事情を加えます。否認の時点で、前の夫が、すでに亡くなっていたとします。すると子は、前の夫の子として、その相続人になります。

条文民法778条の4

民法 第七百七十八条の四(相続の開始後に新たに子と推定された者の価額の支払請求権) 相続の開始後、第七百七十四条の規定により否認権が行使され、第七百七十二条第四項の規定により読み替えられた同条第三項の規定により新たに被相続人がその父と定められた者が相続人として遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときは、当該相続人の遺産分割の請求は、価額のみによる支払の請求により行うものとする。

長い文は、3つに割ると読めます。1つ目、相続の開始後。2つ目、否認権が行使され、新たに被相続人が父と定められた者が。3つ目、相続人として分割を請求しようとする場合に、他の共同相続人がすでに分割していたときは、価額のみによる支払の請求で行う。910条と778条の4は、入口が違うだけです。認知か、否認か。そして効果は同じで、分割は有効のまま、価額の支払の請求になります。

分け方の基準は906条、ただし協議なら外れてよい

考慮事由と協議の自由。上段=906条の4要素(遺産の種類・性質/年齢/職業/心身の状態・生活の状況)。下段=協議なら全員の合意で外れてもよい(母2,400万円→200万円)。 図:考慮事由と協議の自由

  • 上段=906条の4要素(遺産の種類・性質/年齢/職業/心身の状態・生活の状況)
  • 下段=協議なら全員の合意で外れてもよい(母2,400万円→200万円)

次は、何を基準に分けるのか、です。

条文民法906条

民法 第九百六条(遺産の分割の基準) 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

考慮する、というのは、分け方を決める材料にする、という意味です。遺産の種類と性質、年齢、職業、心身の状態と生活の状況、そのほか一切の事情です。基準になる取り分は具体的相続分で、これに906条の事情が加わります。設例で言えば、実家に住み続けたい長男と、年金だけで暮らす母がいます。実家は誰が取るのが適当か、を考える材料が、906条の事情です。ただし、協議は、全員の合意で成り立ちます。全員が納得しているなら、具体的相続分や906条の基準から外れた分割も、できます。取り分をゼロにする分割さえ、可能です。母は、2,400万円のところ200万円、長女は、1,200万円のところ100万円ですが、全員が合意していますから、有効です。有効かどうかと、公平かどうかは、別の話です。これに対して、家庭裁判所の審判では、906条の事情に従って、裁判所が決めます。なお、相続開始から10年を過ぎると、特別受益と寄与分の規定が、原則として使えなくなり、基準が指定相続分と法定相続分に絞られます。904条の3です。10年を過ぎると、自分に有利な特別受益や寄与分を主張できなくなるので、主張したい人は、早く分割を済ませようとします。遺産分割を促すための規定でした。

協議の要件

協議の要件。全員の合意/多数決不可/期間制限なし(907条1項「いつでも」)。+遺言による分割方法の指定と異なる協議も可。 図:協議の要件

  • 全員の合意/多数決不可/期間制限なし(907条1項「いつでも」)
  • 遺言による分割方法の指定と異なる協議も可

協議の要件は、3つです。1つ目、共同相続人の全員の合意です。多数決は認められません。設例で、母と長男が賛成して、長女が反対なら、2対1でも成立しません。しっかり覚えてください。2つ目、期間の制限はありません。907条1項に、いつでも、とあります。ただし、被相続人が遺言で禁じたときや、相続人どうしで分けない約束をしたときは別です。これは、分割の禁止として、別の回で見ます。3つ目。遺言で分け方が指定されていても、全員が合意するなら、それと異なる分割ができます。たとえば遺言に、実家は長男、預金は長女、とあっても、全員が望むなら、実家を長女、預金を長男にして構いません。遺産は、父が亡くなった時から、相続人たちのものです。遺言どおりに受け取ったあとで、全員で交換することもできるのですから、はじめから全員の合意で違う分け方をするのを、止める理由はありません。遺言による指定の本体は、別の回で見ます。協議が調わないときは、家庭裁判所に請求する、という地図の位置は、前に見たとおりです。

協議の瑕疵と、履行の不履行

成立時の瑕疵と履行時の不履行。左=総則の無効・取消し(詐欺・錯誤)=取り消せる/右=債務不履行=解除できない(次の節)。 図:成立時の瑕疵と履行時の不履行

協議は、全員の合意という法律行為です。ですから、民法総則の、無効や取消しの規定が、そのまま適用されます。意思無能力、制限行為能力、公序良俗違反、心裡留保、通謀虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫です。詐欺の例です。長男が通帳を隠して、預金は200万円しかない、と母と長女に言いました。2人はそれを信じて、協議に応じました。実際は1,800万円ありました。96条1項で、詐欺による意思表示は、取り消せます。取り消せば、協議は最初から無かったことになります。錯誤は、厳しく見るべきだ、という見解があります。理由として、協議が全員の合意でできた帰属の確定ですから、あとで簡単にひっくり返されると、他の相続人が困る、と説明されます。厳しく見る方法は2つです。まず、思い違いが重要かどうかを、厳格に判断します。次に、重大な過失、つまりひどい不注意を、広く認めます。前に見たとおり、思い違いをした人に重過失があると、95条3項で、原則として取り消せません。ですから、重過失を広く認めるほど、取り消しにくくなります。たとえば、相続税がかからないと思い込んで合意した、というのは、合意の中身ではなく、合意した理由の思い違いで、前に見た基礎事情の錯誤です。95条2項で、そのことが協議の基礎として表示されていたときに限って、取り消せます。そのうえ重過失も認められやすく、取り消しにくいです。ここで、区別してください。だまされて合意した、つまり成立の段階の問題なら、取消しです。一方、合意はしたけれど約束を守らない、つまり履行の段階の問題は、解除です。冒頭の設例は、後者です。

協議は解除できるのか

復習の問い。契約を解除すると、契約はどうなりますか? 図:復習の問い。契約を解除すると、契約はどうなりますか?

ここで、前に見たことを思い出してください。契約を解除すると、契約はどうなりますか?さかのぼって消えます。直接効果説でした。ですから、協議を解除するというのは、分割をさかのぼって無かったことにする、つまり遺産を分け直すことになります。母は、541条で、長男の債務不履行を理由に、協議を解除したいのです。

協議の解除。上段=債務不履行解除は×(理由①協議の成立で終了し債権債務関係だけが残る②909条本文の遡及効→再分割→法的安定性)→でも履行請求・損害賠償は可/下段=全員の合意による解除は○(長男も含めて全員)。 図:協議の解除

最高裁の判断を見ます。結論は、1つです。理由は、2つです。

判例最判平元・2・9 民集43巻2号1頁

遺産分割協議と債務不履行解除 共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであつても、他の相続人は民法五四一条によつて右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法九〇九条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。

結論は、解除できない、です。理由は2つです。1つ目、遺産分割は、協議が成立した時点で終わります。遺産分割の仕事は、誰が何を取るかを決めることで、決まった時点で、その仕事は済んでいるからです。その後に残るのは、債務を負担した相続人と、その債権を取得した相続人の、債権債務関係だけです。債権債務関係というのは、請求する側とされる側の関係のことです。2つ目、解除を認めると、909条本文で、分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じますから、遡及効のある、遺産の再分割をせざるを得なくなります。そうなると、法的安定性が著しく害されます。法的安定性とは、決まったことが後から覆らない、という安心のことです。設例なら、約束と関係のない長女の預金100万円まで、分け直しの対象になります。遊園地のチケットを分けて、もう入場した人までいるのに、約束を破られたから分け直そう、と言っても、入場した分は戻せない、という感じです。

解除できなくても、母が何もできないわけではありません。協議は有効なまま、長男と母の間に、債権債務関係が残ります。母が債権者で、長男が債務者です。母は、長男に、約束どおり面倒を見ることを求められます。履行しないことで生じた損害の賠償も、415条1項で求められます。ただし、協議で決まった分け方、つまり長男が実家と預金を取る形は、動きません。約束の相手は母だけです。長女は債権者ではありません。長女が不満でも、この約束を理由に協議を解除することはできません。この、債務不履行を理由とする解除の可否は、論文でも論点になりうるところです。いまの理由の2つを、判例の理由として言えるようにしてください。

全員がそろって解除する場合は、話が別です。次の判断が、それを認めています。

判例最判平2・9・27 民集44巻6号995頁

共同相続人の全員による合意解除 共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、……

全員が合意で解除して、改めて協議することは、当然には妨げられない、という判断です。債務不履行を理由に、一方的に解除するのはできない。全員の合意で解除して、やり直すのはできる。ここが別です。全員が望んでいるのですから、妨げる理由がないのです。設例に当てはめます。母、長男、長女の3人全員が、やり直そうと合意すれば、解除して、改めて協議できます。長男を含めた全員が必要です。

復習の問い。母と長女が「やり直したい」と合意すれば、長男が反対しても、協議を解除してやり直せるか? 図:復習の問い

問いです。母と長女が、やり直したいと合意すれば、長男が反対しても、協議を解除してやり直せるでしょうか?できません。合意解除には、共同相続人の全員の合意が要ります。長男も含みます。母の取れる手段は、2つです。長男に履行や損害賠償を求める。または、長男を説得して、全員で合意解除する。910条と同じ考え方です。全員で決めて終わった分割は、さかのぼって壊さない。あとから現れた人にはお金で、約束を破られた人には履行と賠償で応じ、やり直すのは、全員が望んだときだけです。

協議は詐害行為取消しの対象になるか

復習の問い。相続放棄は、詐害行為取消しの対象になりますか?その理由は何でしたか? 図:復習の問い。相続放棄は、詐害行為取消しの対象になりますか?その理由は何でしたか?

ここで、前に見たことを思い出してください。相続放棄は、詐害行為取消しの対象になりますか?その理由は何でしたか?なりません。放棄は身分行為で、積極的に財産を減らす行為ではなく、取り消すと承認を強制することになるからです。では、遺産分割協議は、どうでしょうか。

弁別板。左=相続放棄=身分行為=取り消せない/右=遺産分割協議=財産権を目的とする法律行為=取り消しうる/下段=設例の母(2,400万円→200万円)。 図:弁別板

設例で言います。母は、友人のXから1,000万円を借りていて、返せない状態です。その母が、協議で、法定相続分2,400万円のところを、200万円しか取りませんでした。Xは、この協議を取り消せるでしょうか。詐害行為取消しは、借金を返せない人が財産を減らす行為を、債権者が裁判所に請求して取り消す制度でした。そして、前に見た424条2項は、財産権を目的としない行為には、この取消しを使わない、と定めています。協議は、相続財産の帰属を確定させる行為で、財産権を目的とする法律行為です。ですから、2項の外にあって、詐害行為取消しの対象になりえます。最高裁がそう判断したことは、前に見ました。ただし、取消権の要件、たとえば無資力などは、別に満たす必要があります。同じ、取り分がゼロになる結果でも、家庭裁判所で放棄するなら取り消せず、協議でゼロにするなら取り消しうるのです。1行の理由は、放棄は身分行為、協議は財産権を目的とする法律行為、です。結論だけを暗記せず、それぞれの理由で言えるようにしてください。

今日の地図(保存版)

冒頭の答え。母は債務不履行を理由に協議を解除してやり直すことはできない。長男に履行・損害賠償は請求できる。3人全員が合意すれば解除してやり直せる。 図:冒頭の答え

  • 母は債務不履行を理由に協議を解除してやり直すことはできない
  • 長男に履行・損害賠償は請求できる
  • 3人全員が合意すれば解除してやり直せる

まず、冒頭の答えです。母は、約束違反を理由に、協議を解除して、やり直すことはできません。分割は、協議の成立で終わり、残るのは債権債務関係だけだからです。ただし、母は、長男に約束の履行を求められ、損害の賠償も求められます。そして、長男も含めた3人全員が合意すれば、解除して、やり直せます。

まとめ。①当事者=共同相続人の全員(譲受人・包括受遺者も)②認知・否認後の者は価額の請求のみ③906条・協議なら外れてよい④要件・瑕疵⑤債務不履行解除は不可・合意解除は可⑥詐害行為取消し。 図:まとめ

6つ確認します。1つ、当事者は共同相続人の全員で、具体的相続分がゼロの人も含みます。1人でも除くと無効です。2つ、分割のあとで認知された子や、否認のあとで新たに子と推定された人は、分割の無効は主張できず、価額の支払を請求できるだけです。3つ、分け方の事情は906条ですが、協議なら全員の合意で外れても有効です。続けます。4つ、協議の要件は、全員の合意で、多数決は不可、期間の制限もありません。意思表示の規定が適用され、錯誤を厳しく見るべきだ、という見解があります。5つ、債務不履行を理由とする解除は、できません。全員の合意による解除は、できます。6つ、協議は詐害行為取消しの対象になり、放棄は対象になりません。次の問いです。話し合いがまとまらないとき、誰が、どうやって決めるのでしょうか。次は、そこを見ます。

参照条文

  • 民法910条
  • 民法778条の4
  • 民法906条

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