民法ゼロから民法#369

遺産分割の審判と分割の方法

民法の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→

印刷用PDFを開く

第8章 相続 #369/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

叔父は、共有物分割の訴えを起こせるか

冒頭の設例。父(死亡)と叔父が土地を2分の1ずつ共有→父の死亡→母・長男・長女が父の持分を相続(遺産共有)。叔父→母・長男・長女へ共有物分割の訴え。 図:冒頭の設例

  • 父(死亡)と叔父が土地を2分の1ずつ共有→父の死亡→母・長男・長女が父の持分を相続(遺産共有)
  • 叔父→母・長男・長女へ共有物分割の訴え

前回の終わりに、問いを残しました。話し合いがまとまらないとき、誰が、どうやって決めるのでしょうか。今日は、その答えを見ます。設例です。父と叔父が、土地を半分ずつ共有していました。父が亡くなり、相続人は、母、長男、長女の3人です。遺産分割は、まだしていません。そこへ叔父が言います。この土地を分けたい。そして、母、長男、長女を相手に、共有物分割の訴えを起こしました。共有物分割というのは、共有している物を、共有者の間で分けることです。叔父さんは相続人ではないのに、相続の途中の土地を分けてもらえるのですか。遺産分割が先ではないのでしょうか。迷いますよね。叔父は、この訴えを起こせるのか。答えは、道筋を通ったあとで言います。

地図。遺産分割の4手続=①遺言による分割方法の指定②協議(済)③審判(今日)④共有物分割訴訟(今日)。今日の道筋=審判→遺産共有と共有物分割訴訟→分け方の4つ。 図:地図

  • 遺産分割の4手続=①遺言による分割方法の指定②協議(済)③審判(今日)④共有物分割訴訟(今日)
  • 今日の道筋=審判→遺産共有と共有物分割訴訟→分け方の4つ

遺産を分ける手続は、4つありました。遺言による指定、相続人どうしの協議、家庭裁判所の審判、共有物の分割訴訟です。協議は前回、見ました。今日は、残りの2つ、審判と共有物分割訴訟です。道筋は3つです。まず、家庭裁判所の審判が、何を基準に、どう決めるのか。次に、遺産の共有を、共有物分割訴訟で分けられるのか。最後に、実際の分け方には、どんな種類があるのか。2つ目で、冒頭の叔父の問いに答えが出ます。

遺産分割の審判

審判の3点。①誰が請求=各共同相続人(全部または一部)②基準=具体的相続分+906条の事情③調停=前置ではないが通例は調停から。+10年経過後は904条の3。 図:審判の3点

  • ①誰が請求=各共同相続人(全部または一部)②基準=具体的相続分+906条の事情③調停=前置ではないが通例は調停から
  • 10年経過後は904条の3

まず、審判です。審判というのは、家庭裁判所が、当事者の主張を聞いたうえで、決めを下す手続です。話し合いがまとまらないとき、最後に決めるのは、家庭裁判所です。根拠は、907条2項です。前に見た条文ですので、板で確認します。協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部または一部の分割を、家庭裁判所に請求できます。ポイントは3つです。1つ目、請求できるのは、各共同相続人です。全員でそろって申し立てる必要はなく、1人だけでも請求できます。では2つ目、協議が調わないときだけでなく、協議をすることができないときも含みます。たとえば、相続人の1人が話し合いに応じない、連絡がつかない、といった場合です。3つ目、全部だけでなく、一部の分割も請求できます。ただし、一部だけ先に分けると、他の共同相続人の利益を害するおそれがあるときは、請求できません。たとえば、実家だけ先に分けてしまうと、残った預金では、他の相続人の取り分に届かない、という場合です。

協議のときは、全員の合意が必要でした。審判でも、全員が納得しないと決まらないのですか。違います。そこが協議との違いです。審判では、全員の合意は要りません。相続人の一部が反対していても、家庭裁判所が決めれば、その内容で決まります。では、何を基準に決めるのでしょうか。基準になる取り分は、具体的相続分です。特別受益や寄与分を反映した、実際の取り分のことでした。そのうえで、906条の事情、つまり、遺産の種類や性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態、生活の状況、その他一切の事情を考慮して、分け方を決めます。たとえば、母が実家に住み続けたい、長男は実家を売って現金にしたい、と折り合わなかったとします。裁判所は、母の年齢や生活の状況、長男の事情を見て、実家を誰が取るのかを決めます。協議なら、全員が合意すれば、基準から外れた分け方もできました。審判は、基準に従って決める、という違いがあります。10年の話を、一言だけ加えます。相続開始から10年を過ぎたあとの審判では、特別受益と寄与分の規定が、原則として使えません。指定相続分または法定相続分で分けます。904条の3でした。10年が過ぎる前に家庭裁判所に請求していれば、例外になるのでしたね。最後に、調停です。調停というのは、裁判所の場で、調停委員を交えて話し合い、合意を目指す手続です。調停を必ず先に経なければならない決まりを、調停前置といいます。この決まりは、家事事件手続法257条1項にありますが、訴えを起こす場合の規定です。遺産分割は、訴えではなく、家庭裁判所の審判で決める事件です。ですから、審判の申立てには、当てはまりません。いきなり審判を申し立てることもできます。

ただし、審判の手続が進んでいても、裁判所は、職権で、事件を調停に付することができます。274条1項です。実務では、まず調停で分割を試みるのが通例です。結論は、調停前置ではないが、通例は調停から入る、です。

遺産共有は、共有物分割訴訟では分けられない

復習の問い。遺産共有は、物権法の共有(249条以下)と同じ性質ですか、違う性質ですか? 図:復習の問い

ここで、前に見たことを思い出してください。遺産共有は、物権法の共有、つまり249条以下の共有と、同じ性質でしたか、違う性質でしたか?基本的に同じ性質です。ただ、905条から907条に特則がありました。そこで、疑問が出ます。共有と同じ性質なら、物権法の共有物分割、つまり258条の訴えで、遺産共有も分けられるのではないでしょうか。

対比板。遺産分割審判=対象は遺産全体/基準は具体的相続分+906条の事情/家庭裁判所の審判。共有物分割訴訟=対象はその共有物だけ/基準は持分の割合/通常の裁判所の訴訟。 図:対比板

  • 遺産分割審判=対象は遺産全体/基準は具体的相続分+906条の事情/家庭裁判所の審判
  • 共有物分割訴訟=対象はその共有物だけ/基準は持分の割合/通常の裁判所の訴訟

答えは、分けられません。性質が同じでも、解消の手続は別だからです。最高裁の言葉を見ます。

判例最大決平28・12・19 民集70巻8号2121頁

遺産共有の解消は共有物分割訴訟ではなく遺産分割審判による この共有関係を協議によらずに解消するには,通常の共有物分割訴訟ではなく,遺産全体の価値を総合的に把握し,各共同相続人の事情を考慮して行うべく特別に設けられた裁判手続である遺産分割審判(同法906条,907条2項)によるべきものとされており……

この決定は、前に見た、預貯金債権も遺産分割の対象になる、と判例を変えた大法廷の決定です。ここでは、理由づけの一節だけを使います。特別に設けられた手続である、遺産分割審判によるべきだ、という部分です。言葉を砕きます。遺産分割は、遺産全体の価値を、まとめて見ます。そして、各共同相続人の事情を考慮します。基準になる取り分は、特別受益などを考慮した具体的相続分です。対して、共有物分割は、その共有物だけを、持分の割合に応じて分ける手続でした。例で考えます。長男と長女の2人が相続して、遺産は実家と預金です。長男は、生前に多額の援助を受けていました。長女は、親の介護を長年、担ってきました。実家だけを共有物分割で、半分ずつに切ったとします。すると、援助を受けた分も、介護の貢献も、反映されません。つまり、特別受益も寄与分も、置き去りになります。宴会全体の会計を、事情に応じて精算するのが遺産分割、一品料理の取り分けを、人数で割るのが共有物分割、という違いです。

この考え方は、令和3年の改正で、258条の2 第1項として、条文になりました。共有物分割の回で、一度読んだ条文です。次の節で、もう一度、全文を読みます。論文でも論点になりうるところです。

258条の2、遺産共有と通常共有が重なる場面

復習の問い。相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、特別受益や寄与分を主張できますか? 図:復習の問い

ここで、前に見たことを思い出してください。相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、特別受益や寄与分を主張できますか?原則として、できません。10年が過ぎる前に家庭裁判所へ請求していれば、例外でした。10年を過ぎると、遺産分割の強みだった具体的相続分が、使えなくなります。それなら、遺産分割の手続にこだわる理由も、薄くなります。この10年が、次の条文に、もう一度出てきます。

条文民法258条の2

民法 第二百五十八条の二(相続財産に属する共有物の分割の特則) 1 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。 2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。 3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

長い条文ですので、3つに割って読みます。

258条の2の場面分け。入口=その共有物の持分が相続財産に属するか。No(相続人だけの共有)→遺産分割審判/Yes(相続人以外の者との共有)→10年前=共有物分割(叔父の部分/相続人側の部分)+相続人側は遺産分割/10年後=1回で全部(遺産分割の請求+異議〔2か月以内〕なら不可)。 図:258条の2の場面分け

  • 入口=その共有物の持分が相続財産に属するか
  • No(相続人だけの共有)→遺産分割審判/Yes(相続人以外の者との共有)→10年前=共有物分割(叔父の部分/相続人側の部分)+相続人側は遺産分割/10年後=1回で全部(遺産分割の請求+異議〔2か月以内〕なら不可)

1つ目、第1項は原則です。共同相続人の間で遺産分割をすべきときは、共有物分割ができない。さきほどの、遺産共有は共有物分割では分けられない、を明文にしたものです。2つ目、第2項本文は例外です。共有物の持分が相続財産に属する場合で、相続開始から10年を過ぎたときは、その持分についても、共有物分割ができます。3つ目、第2項ただし書と第3項は、待ったをかける道です。その持分について遺産分割の請求、つまり、家庭裁判所への遺産分割の申立てがあって、相続人が、共有物分割をすることに異議を申し出たときは、共有物分割はできません。異議の申出は、共有物分割の請求を受けた裁判所から、請求があった旨の通知を受けた日から、2か月以内にします。

よいところに目が向きました。第2項が、全部ではなく持分だけを挙げているのには、理由があります。共有物の持分が相続財産に属する、というのは、相続人と、相続人以外の者との共有の場面のことです。冒頭の設例が、そうです。叔父と父が共有していた土地は、父が亡くなって、父の持分だけが遺産になりました。土地は、母、長男、長女が相続した遺産共有の持分と、叔父の持分との、共有になります。これに対して、土地を父が1人で所有していた場合は、土地の全部が遺産です。遺産の全部が、相続人だけの共有になります。この場合は、共有物の持分が相続財産に属する、とはいえません。ですから、第2項は使えません。10年が過ぎても、共有物分割の訴えでは分けられず、遺産分割の審判によります。相続人以外の者がいないので、遺産分割だけで、1回で全部を分けられます。共有物分割に切り替えても、手続は少しも減りません。第2項は、相続人以外の者と共有している場面の規定、と読んでください。

冒頭の答えの板。叔父の訴え→10年前(叔父の部分/相続人側の部分に分ける→相続人側の部分は遺産のまま→3人の間は遺産分割で)/10年後(1回の訴えで3人の間の分まで全部)。 図:冒頭の答えの板

ここで、冒頭の叔父の問いに答えます。叔父は、共有物分割の訴えを起こせます。叔父の持分は、もともと叔父のもので、遺産ではありません。ですから、遺産分割では分けられません。叔父が共有から抜ける道は、共有物分割の訴えです。前に、遺産共有の性質を見たとき、相続人から持分を譲り受けた第三者の判例がありました。譲り受けた持分も、もう遺産ではないので、その第三者が共有から抜ける道も、共有物分割の訴えです。叔父と相続人側の共有は、通常の共有と遺産共有が、同じ土地に重なっている状態です。最高裁も、そう判断しています。

判例最判平25・11・29 民集67巻8号1736頁

遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合の手続 共有物について,遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい,これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合,共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である

この判断は、令和3年の改正より前のものです。改正前から、このように処理されていました。読み方を整理します。相続開始から10年が過ぎる前は、こうなります。叔父の訴えで分けられるのは、叔父の部分と、相続人側の部分の、2つまでです。判決で相続人側に分けられた部分は、なお遺産のままです。母、長男、長女の3人の間は、あらためて遺産分割で決めます。共有物分割のあとに遺産分割、という二重の手続になります。10年が過ぎたあとは、第2項本文により、同じ共有物分割の訴えの中で、相続人3人の間の分も、一緒に分けられます。1回の手続で済みます。ただし、相続人が遺産分割の請求をしたうえで、通知から2か月以内に異議を申し出れば、共有物分割では分けられません。

遺産分割には、具体的相続分で分けられる、という固有の利点がありました。でも、通常の共有と遺産共有が重なると、常に二重の手続が必要で、煩雑です。引っ越しを、2回するようなものです。そこで、10年を過ぎて、具体的相続分を主張できなくなったあとは、その利点を手放して、共有物分割という1回の手続で、全部の共有を解消できるようにしました。相続人だけの共有なら、もともと遺産分割の1回で済むので、この理由は当てはまりません。

2つの10年。904条の3=具体的相続分(特別受益・寄与分)を使わなくなる。258条の2=相続人以外の者との共有で、共有物分割の道が開く(異議の申出で止められる)。どちらも相続開始から数える別の規定。 図:2つの10年

  • 904条の3=具体的相続分(特別受益・寄与分)を使わなくなる
  • 258条の2=相続人以外の者との共有で、共有物分割の道が開く(異議の申出で止められる)
  • どちらも相続開始から数える別の規定

2つの10年は、どちらも相続開始の時から数えますが、別の規定です。904条の3は、具体的相続分を使わなくなる。258条の2は、共有物分割の道が開く。そして、258条の2 の例外は、904条の3 の例外とは関係なく、10年の経過と、異議の有無で決まります。たとえば、10年が過ぎてから遺産分割を請求した相続人は、具体的相続分を原則として使えません。それでも、異議を出せば、叔父の訴えで3人の間まで分けられることは、止められます。10年が過ぎて、具体的相続分が原則として使えなくなっても、遺産分割の利点は、まだ残っています。遺産全体をまとめて見て、906条の事情を考え、誰がどの財産を取るかを決められることです。共有物分割で分けると、その共有物だけを持分の割合で切るので、906条の事情は反映されません。だから、10年が過ぎても、遺産分割の請求をして、異議を出す道が、残されています。冒頭の問いの答えを、まとめます。叔父は、共有物分割の訴えを起こせます。10年が過ぎる前なら、相続人側の3人の間は、遺産分割に残ります。10年が過ぎたあとなら、1回の訴えで全部、分けられます。ただし、遺産分割の請求と異議があれば、止まります。

復習の問い。父が1人で所有していた土地を、母・長男・長女が相続し、相続開始から10年が過ぎた。長男は、共有物分割の訴えで分けてもらえるか? 図:復習の問い

  • 父が1人で所有していた土地を、母・長男・長女が相続し、相続開始から10年が過ぎた
  • 長男は、共有物分割の訴えで分けてもらえるか?

問いです。父が1人で所有していた土地を、母、長男、長女が相続しました。相続開始から10年が過ぎました。長男は、共有物分割の訴えで、分けてもらえるでしょうか?できません。遺産の全部が相続人だけの共有で、共有物の持分が相続財産に属する場合ではないので、第2項は使えません。遺産分割の審判によります。

遺産分割の具体的な分け方

復習の問い。共有物分割で、裁判所が分け方を考える順番は、どうなっていましたか? 図:復習の問い。共有物分割で、裁判所が分け方を考える順番は、どうなっていましたか?

ここで、前に見たことを思い出してください。共有物分割で、裁判所が分け方を考える順番は、どうなっていましたか?まず現物分割、次に賠償分割、最後に競売でした。では、遺産分割の分け方は、どうなるのでしょうか。最後の道筋です。

4つの分け方の比較。例=遺産は実家3,000万円、相続人は長男と長女(取り分は1,500万円ずつ)。現物=甲地・乙地を1つずつ/換価=3,000万円で売却して1,500万円ずつ/代償=長男が実家を取得し長女に1,500万円/共有=実家を2分の1ずつの共有名義。 図:4つの分け方の比較

  • 例=遺産は実家3,000万円、相続人は長男と長女(取り分は1,500万円ずつ)
  • 現物=甲地・乙地を1つずつ/換価=3,000万円で売却して1,500万円ずつ/代償=長男が実家を取得し長女に1,500万円/共有=実家を2分の1ずつの共有名義

分け方は、4つあります。現物分割、換価分割、代償分割、共有とする分割です。ここでは、遺産が実家3,000万円で、相続人が長男と長女の2人、取り分は半分ずつで1,500万円ずつ、として考えます。1つ目、現物分割です。遺産そのものを、そのまま分ける方法です。実家のように、分けられない物には向きません。遺産が、甲地と乙地、それぞれ1,500万円の2つがあれば、長男が甲地、長女が乙地を取れます。遺産が複数あって、値打ちが釣り合うときに、使いやすい方法です。2つ目、換価分割です。換価というのは、お金に換えることです。遺産を売却するなどして現金にし、その代金を分けます。実家が3,000万円で売れれば、1,500万円ずつです。費用や税金は除いて考えます。誰も取りたくない、誰も住まない、分けようがない、というときに使います。ただし、売れる価格で分けるので、現物の値打ちとずれることがあります。3つ目、代償分割です。一部の相続人が、自分の取り分を超えて現物を取得し、超えた分を、他の相続人に金銭で支払う債務を負担する方法です。長男が実家3,000万円を取得します。取り分は1,500万円ですから、超えた1,500万円を、代償金として、長女に支払います。長男が実家に住み続けたい、長女は現金がほしい、というときに向いています。払う側に、お金を用意できることが前提です。4つ目、共有とする分割です。遺産の一部または全部を、物権法上の共有にして分けます。実家を、長男2分の1、長女2分の1の共有名義にする、といった形です。今は決められない、当面は共有のまま持っておきたい、というときの選択肢です。ここで注意してください。分けたあとは、通常の共有です。この共有を解消するときは、共有物分割になります。遺産共有、遺産分割を経て通常共有、共有物分割で解消、という順です。

審判での条件。代償分割=家庭裁判所は特別の事情があると認めるとき(家事事件手続法195条)。換価分割=審判をするため必要があると認めるとき、競売による換価を命じられる(194条)。 図:審判での条件

  • 代償分割=家庭裁判所は特別の事情があると認めるとき(家事事件手続法195条)
  • 換価分割=審判をするため必要があると認めるとき、競売による換価を命じられる(194条)

審判では、どう決められるのでしょうか。代償分割は、条文があります。

条文家事事件手続法195条

家事事件手続法 第百九十五条(債務を負担させる方法による遺産の分割) 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をする場合において、特別の事情があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。

読み方は、こうです。家庭裁判所は、特別の事情があると認めるとき、一部の相続人に債務を負担させて、現物の分割に代えることができる。現物の分割に代える、という書き方から分かるとおり、審判では、まず現物を分けることを考え、代償分割は、特別の事情があるときの方法です。換価分割も、審判でできます。裁判所は、審判をするため必要があると認めるとき、相続人に対して、遺産の全部または一部を、競売で換価するよう命じられます。194条です。協議なら、全員が合意すれば、どの方法でも、組み合わせても構いません。実家は代償分割、預金は現物分割、といった形です。

代償分割と賠償分割の対応。遺産分割の代償分割=家庭裁判所/具体的相続分と906条の事情。共有物分割の賠償分割=通常の裁判所/持分の割合(258条2項2号)。どちらも「1人が取得し、他の人に金銭で調整する」仕組み。 図:代償分割と賠償分割の対応

  • 遺産分割の代償分割=家庭裁判所/具体的相続分と906条の事情
  • 共有物分割の賠償分割=通常の裁判所/持分の割合(258条2項2号)
  • どちらも「1人が取得し、他の人に金銭で調整する」仕組み

共有物分割で見た賠償分割と、この代償分割の関係を、一度だけ整理します。賠償分割は、共有者の1人が持分を取得して、他の共有者に金銭を支払う方法でした。1人が取得し、他の人にお金で調整する、という仕組みは、代償分割と同じです。ただし、手続が別です。代償分割は、家庭裁判所の遺産分割で、具体的相続分と906条の事情を見ます。賠償分割は、通常の裁判所の共有物分割で、持分の割合で考えます。言葉は混ぜないでください。1人が全部を取得して、他の共有者に価格を賠償する全面的価格賠償も、共有物分割の回で見た、共有物分割側の言葉です。

復習の問い。遺産が実家だけ。長男はそこに住み続けたい、長女は現金がほしい。どの分け方が向いているか? 図:復習の問い

  • 遺産が実家だけ
  • 長男はそこに住み続けたい、長女は現金がほしい
  • どの分け方が向いているか?

問いです。遺産が実家だけです。長男は住み続けたい、長女は現金がほしいと言っています。どの分け方が向いているでしょうか?代償分割です。長男が実家を取得して、長女に代償金を支払います。数字は、実家3,000万円で、長女の取り分が1,500万円ですから、代償金は1,500万円です。

今日の地図(保存版)

冒頭の答え。叔父は共有物分割の訴えを起こせる。10年前=相続人側の3人の間は遺産分割に残る。10年後=1回で全部。ただし遺産分割の請求+異議(通知から2か月以内)で不可。 図:冒頭の答え

  • 叔父は共有物分割の訴えを起こせる
  • 10年前=相続人側の3人の間は遺産分割に残る
  • 10年後=1回で全部
  • ただし遺産分割の請求+異議(通知から2か月以内)で不可

まず、冒頭の答えです。叔父は、共有物分割の訴えを起こせます。相続開始から10年が過ぎる前は、相続人側の3人の間の分は、あらためて遺産分割で決めます。10年が過ぎたあとは、1回の訴えで全部を分けられます。ただし、遺産分割の請求があって、相続人が通知から2か月以内に異議を申し出れば、共有物分割では分けられません。

まとめ。①審判=各共同相続人が請求・全部または一部・全員の合意は不要②基準=具体的相続分+906条の事情・調停前置ではない③遺産共有は共有物分割では分けられない④258条の2=相続人以外と共有で10年後に例外⑤分け方4つ。 図:まとめ

5つ確認します。1つ、協議が調わないときは、各共同相続人が、全部または一部の分割を、家庭裁判所に請求できます。全員の合意は要りません。2つ、基準は具体的相続分と906条の事情です。10年を過ぎると、指定相続分か法定相続分になります。調停前置ではありませんが、通例は調停から入ります。続けます。3つ、遺産共有は、共有物分割訴訟では分けられず、遺産分割によります。遺産全体を、具体的相続分と各人の事情で分ける、特別の手続だからです。4つ、258条の2の例外は、相続人以外の者と共有している場合で、相続開始から10年を過ぎたときです。父が単独で所有していた遺産は、10年を過ぎても対象外です。5つ、分け方は、現物、換価、代償、共有の4つで、代償分割は、共有物分割の賠償分割と仕組みが同じで、手続が別です。次の問いです。遺産分割でもらった土地に、欠陥があったら、どうなるのでしょうか。次は、分割の効力と、分けられない期間を見ます。

参照条文

  • 民法258条の2
  • 家事事件手続法195条

民法 全体ロードマップへ →

民法 の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→