民法ゼロから民法#371

相続と対抗要件(899条の2)

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第8章 相続 #371/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

遺言で全部もらった家を、次男が売った

冒頭の設例。A=被相続人(遺言「自宅は長男に相続させる」)/B=長男(登記していない)/C=次男(法定相続分2分の1の登記をして持分を売る)/D=第三者(先に登記を備える)。長男は家の全部を取り戻せるか。 図:冒頭の設例

  • A=被相続人(遺言「自宅は長男に相続させる」)/B=長男(登記していない)/C=次男(法定相続分2分の1の登記をして持分を売る)/D=第三者(先に登記を備える)
  • 長男は家の全部を取り戻せるか

前回の終わりに、問いを残しました。遺産分割で家をもらった長男が、登記をしないうちに、弟が自分の持分を売ったら、どうなるのでしょうか。今日は、その答えを見ます。設例を、少し変えて使います。父が亡くなりました。相続人は、長男と次男の2人です。父は、遺言で、「自宅は長男に相続させる」と書いていました。ところが、長男が登記をしないうちに、次男が、自分の法定相続分、2分の1の登記をして、その持分を、第三者に売ってしまいました。この第三者が、先に登記を備えています。長男は、家の全部を、取り戻せるでしょうか。

遺言があるのですから、家は全部、長男さんの物ですよね。次男さんは、もう持分を持っていないはずです。長男さんが全部取り戻せるのでは、ないのですか。そこが、今日の入口です。鍵だけ、先に言います。物差しは、法定相続分の1本です。その内側は登記なしで守れて、超える部分だけ、登記が要ります。数字の答えは、1つ目で出します。

地図。①899条の2第1項と「相続分」②相続放棄③承継の原因ごとの整理④債権の承継(899条の2第2項)⑤相続登記の義務は別の話。 図:地図

今日の道筋は、5つです。1つ目、899条の2第1項、「相続分」とは何か。2つ目、相続放棄で増えた分の扱いです。3つ目、承継の原因ごとの総整理で、今日の中心です。4つ目、債権を承継したときの特則です。5つ目、相続登記の義務は、対抗要件とは別の話、という位置づけです。物権の回では、登記の側から見ました。今日は、相続の側から、何が、どんな原因で承継されると登記が要るのかを、一枚に整理します。

899条の2第1項、「相続分」は法定相続分

899条の2第1項の板。相続による権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分(900条=法定相続分/901条=代襲相続人)を超える部分は、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗できない。 図:899条の2第1項の板

1つ目です。物権の回で、結論まで見た条文です。全文を読みます。

条文民法899条の2第1項

民法 第899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)第1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

見るのは、「相続分を超える部分については」という箇所です。ここでいう相続分は、法定相続分です。条文は、「次条」と、901条を引いています。次条は900条で、法定相続分です。901条は、代襲相続人の相続分です。どちらも、法律が決めている取り分です。条文が引いているのは、900条と901条だけです。つまり、法定相続分です。遺言で取り分を指定する902条は、引かれていません。ですから、遺言で取り分が決められていても、物差しは、法定相続分のまま変わりません。反対から読むと、結論が出ます。法定相続分までは、登記が無くても、第三者に対抗できます。それを超える部分だけが、対抗問題になります。登記などを、先に備えた側が勝ちます。喩えで言います。法定相続分は、玄関の表札のようなものです。戸籍を見れば、誰でも計算できます。ところが、遺言や遺産分割で増えた分は、箱の中の手紙です。外からは見えません。外の人は、表札を信じて取引をします。ですから、手紙で増えた分は、登記という形で、表札に書き足さないと、外の人には通らない。平成30年の改正で、この考え方が明文になりました。

冒頭の設例の数字。子2人=各2分の1(900条4号)。長男=法定相続分2分の1(内側=登記なしで対抗可)+遺言で増えた2分の1(外側=対抗要件が要る)。次男名義の残り2分の1は、先に登記した第三者に負ける。 図:冒頭の設例の数字

  • 子2人=各2分の1(900条4号)
  • 長男=法定相続分2分の1(内側=登記なしで対抗可)+遺言で増えた2分の1(外側=対抗要件が要る)
  • 次男名義の残り2分の1は、先に登記した第三者に負ける

冒頭の設例に、数字で答えます。子が2人ですから、長男の法定相続分は、2分の1です。長男は、この2分の1までは、登記が無くても、第三者に対抗できます。ところが、遺言で増えた、残りの2分の1は、次男の法定相続分に当たる部分です。ここは、第三者が先に登記を備えたら、長男は、対抗できません。ですから、長男は、家の全部は取り戻せません。半分は、第三者の物になります。前回の問いの、遺産分割で家をもらった長男も、同じです。弟の持分の2分の1は、先に登記をした買主に負けます。次男さんは、遺言で持分を失っているはずですよね。それなのに、第三者が勝てるのですか。勝てます。決め手は、登記を信頼した第三者を守るために、法定相続分を超える部分は、先に登記した方が勝つ、という対抗問題にしたことです。次男は、遺言の内容から見れば、その持分を失っていますが、外からは見えません。登記を信じた第三者を、取引の安全のために守るわけです。物権の回で見た、無権利、つまり、何ももらっていない人からは、誰も何も取得できない、という法理は、法定相続分の内側でだけ働く、というわけです。問いです。第三者が、長男の法定相続分に当たる2分の1についても、自分の物だと主張してきたら、長男は、登記なしで勝てますか。

勝てます。長男さんのもともとの持分は、法定相続分の内側ですから、登記は要りません。

相続放棄で増えた分は、登記なしで対抗できる

相続放棄の数字。X死亡・相続人は子A・B・C(各3分の1)。Aが放棄→B・Cは各2分の1。3分の1→2分の1=増えた6分の1は、「相続分」を超えるか? 図:相続放棄の数字

  • X死亡・相続人は子A・B・C(各3分の1)
  • Aが放棄→B・Cは各2分の1
  • 3分の1→2分の1=増えた6分の1は、「相続分」を超えるか?

2つ目です。相続放棄です。設例です。Xが、甲土地を残して亡くなりました。相続人は、子のA、B、Cの3人で、各3分の1です。Aが、相続を放棄しました。すると、BとCの持分は、3分の1だったものが、2分の1に増えます。この、増えた6分の1は、BとCの「相続分」を超える取得でしょうか。登記が無いと、第三者に対抗できないのでしょうか。結論から言います。超えません。登記が無くても、第三者に対抗できます。理由を見ます。増えているのに、超えない。ここが、今日の山場の1つです。939条は、相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなす、と定めています。Aは、初めからいなかったことになります。すると、相続人は、BとCの2人だけで、2人の法定相続分は、最初から、2分の1ずつです。つまり、放棄は、法定相続分そのものを、書き換えるのです。BとCの2分の1は、書き換えのあとの、法定相続分の内側です。ですから、超えません。

判例最判昭42・1・20

相続放棄と登記——放棄の絶対効 相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。

放棄についての最高裁の判決です。放棄の効力は絶対的で、誰に対しても、登記などなくして生じます。放棄については、第三者を守る規定も、置かれていません。放棄は、借金の多い相続から、相続人を救うための制度です。放棄は、借金ごと、相続から完全に抜けるための仕組みです。相手によって、相続人だったり、そうでなかったりしては、抜けたことになりません。ですから、さかのぼる効果は、徹底されるべきだ、と考えます。この結論は、899条の2が入ったあとも、そのまま維持されます。平成30年の改正は、遺産分割や遺言による承継に、及んだものであって、放棄を、変えていません。

対比の数字板。同じ「2分の1」でも結論が逆。Aが放棄→Bが2分の1(法定相続分が書き換わる=内側=登記不要)/遺産分割でBが2分の1(Aは放棄ではない=法定相続分は3分の1のまま=超える6分の1が外側=登記要)。 図:対比の数字板

  • 同じ「2分の1」でも結論が逆
  • Aが放棄→Bが2分の1(法定相続分が書き換わる=内側=登記不要)/遺産分割でBが2分の1(Aは放棄ではない=法定相続分は3分の1のまま=超える6分の1が外側=登記要)

対比します。同じ2分の1でも、結論が逆になります。Aが放棄して、Bが2分の1になったなら、法定相続分が書き換わっているので、内側で、登記は要りません。ところが、遺産分割で、Bが2分の1を取得したなら、Aは放棄をしていませんから、法定相続分は、3分の1のままです。超える6分の1は、外側です。ですから、登記が要ります。数字は同じでも、物差しが動いたかどうかで、決まるのです。

⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】899条の2第1項の「相続分」と相続放棄 899条の2第1項の「相続分」は、相続放棄による変動を織り込んだあとの相続分を指す。∵ 相続放棄は債務超過の相続財産から相続人を解放する制度であり、939条の遡及効は徹底されるべきである。したがって、相続放棄で増えた持分の取得は法定相続分の範囲内であり、登記なくして第三者に対抗できる。 (規範(通説で立てる))

ここは、論文で論点になりうるところです。答案では、問題提起、規範、あてはめの順です。BとCの2分の1が、「相続分」を超える取得か、と問いを立てます。次に、相続分は、放棄を受けて定まるものだ、と規範を立てます。最後に、BとCの2分の1は、Aの放棄を受けて定まる、法定相続分の範囲内だ、と当てはめます。条文どおり、超える部分は対抗要件が要る、という部分は、成立要件です。覚えるのは、相続分の意義の部分です。問いです。Aが放棄をしたあと、Aの債権者が、Aの持分を差し押さえました。BとCは、登記なしで、勝てますか。

勝てます。放棄の効力は絶対的で、Aは、初めから相続人ではないので、差押えは空振りになります。

承継の原因ごとの総整理

総整理の導入。原因を問わず、物差しは「法定相続分」1本。放棄だけは物差し自体を書き換える。遺贈だけは物差しの外(177条)。 図:総整理の導入

  • 原因を問わず、物差しは「法定相続分」1本
  • 放棄だけは物差し自体を書き換える
  • 遺贈だけは物差しの外(177条)

3つ目です。今日の中心です。899条の2は、「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」と書いています。つまり、承継の原因を問いません。原因ごとに、同じ物差しで見ます。物差しは、法定相続分1本です。まず、遺産分割です。分割で、法定相続分を超えて取得した部分は、対抗要件が要ります。分割のあとに現れた第三者との関係です。物権の回で見たとおり、分割のあとの第三者に対して、登記なしで守れるのは、自分のもともとの持分だけです。さっきの、遺産分割でBが2分の1を取得した例なら、超える6分の1に、登記が要ります。なお、分割の前に現れた第三者は、909条ただし書で守られます。分割の効果は、相続の時にさかのぼりますが、ただし書は、そのさかのぼりで、第三者の権利を害することはできない、と定めています。こちらは、別の道です。分割前の第三者は、ただし書、分割後は、899条の2、と通る道が違います。次に、特定財産承継遺言です。「相続させる」旨の遺言のことです。条文では、遺産分割の方法の指定として、遺産に属する特定の財産を、共同相続人の1人、または数人に承継させる旨の遺言、と定義されています。冒頭の設例が、これです。この遺言による取得にも、899条の2第1項が適用されます。法定相続分を超える部分は、登記が要ります。この遺言の効果そのものは、遺言の回で見ます。

判例最判平14・6・10

「相続させる」旨の遺言——旧判例 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずに,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される……。このように,「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は,法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして,法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる……。

ここで、注意です。この判決は、平成30年の改正より前のものです。「相続させる」遺言で取得した不動産は、登記なくして、第三者に対抗できる、としています。しかし、これは、今の結論ではありません。899条の2が、法定相続分を超える部分は、対抗要件が要る、と決めたからです。遺言は、外から見えない、箱の中の手紙です。手紙で増えた分は、登記をしないと、外の人には通りません。旧判例は、上書きされています。

旧判例の上書き板。最判平14(相続させる遺言=登記なくして対抗できる)→ 899条の2第1項(平成30年改正)で法定相続分を超える部分は対抗要件が要る。判旨の中の「指定相続分も登記不要」も同じく上書き。 図:旧判例の上書き板

  • 最判平14(相続させる遺言=登記なくして対抗できる)→ 899条の2第1項(平成30年改正)で法定相続分を超える部分は対抗要件が要る
  • 判旨の中の「指定相続分も登記不要」も同じく上書き

判決は、法定相続分だけでなく、指定相続分も、登記不要と述べています。この指定相続分の部分も、今は、そのままでは通りません。次に、その相続分の指定を見ます。相続分の指定です。遺言で、共同相続人の相続分を、法定相続分と違う割合に決めることができます。902条です。冒頭の設例を変えます。子2人の相続で、遺言で、長男の相続分を4分の3、次男を4分の1と指定したとします。長男の法定相続分は、2分の1です。4分の3から2分の1を引いた、4分の1が、法定相続分を超える部分です。この4分の1については、登記が要ります。先ほどの、902条は物差しに入らない、という話の、帰結です。指定された割合は、遺言という、外から見えない事情で決まります。ですから、物差しには、使えません。

遺贈は、意思表示で財産が動くので、177条の対抗関係として扱われます。相続させる遺言は、さっきの定義のとおり、遺産分割の方法の指定です。財産は、相続そのものの中で、長男に行きます。遺贈は違います。相続とは別に、遺言者が、意思表示で財産を贈るものです。ですから、登記が無ければ、対抗できません。物権の回で見た決め手は、誰かが相続人から消えたのか、財産が意思表示で動いただけなのか、でした。遺贈は、後者です。本体は、遺贈の回で見ます。

承継の原因の総整理板。行=法定相続分/遺産分割/特定財産承継遺言/相続分の指定/遺贈/相続放棄。列=根拠/法定相続分の内側/超える部分。法定相続分=900・901条/内側=不要/-。遺産分割=899条の2/不要/要(+909条ただし書=分割前の第三者)。特定財産承継遺言=899条の2/不要/要(旧判例=平14は上書き)。相続分の指定=902条・899条の2/不要/要。遺贈=177条(物差しの外)/-/登記を先に備えた方が勝つ。相続放棄=939条/物差し自体を書き換える/不要。 図:承継の原因の総整理板。行=法定相続分/遺産分割/特定財産承継遺言/相続分の指定/遺贈/相続放棄。列=根拠/法定相続分の内側/超える部分。法定相続分=900・901条/内側=不要/-。遺産分割=899条の2/不要/要(+909条ただし書=分割前の第三者)。特定財産承継遺言=899条の2/不要/要(旧判例=平14は上書き)。相続分の指定=902条・899条の2/不要/要。遺贈=177条(物差しの外)/-/登記を先に備えた方が勝つ。相続放棄=939条/物差し自体を書き換える/不要。

6つを、一枚に並べます。法定相続分での承継は、内側で、登記は要りません。遺産分割は、超える部分に、対抗要件が要ります。特定財産承継遺言も、同じです。旧判例の、登記不要は、上書きされています。相続分の指定も、超える部分に要ります。遺贈は、物差しの外で、177条です。相続放棄は、物差し自体を書き換えて、登記は要りません。物差しは、法定相続分の1本です。放棄だけが、その物差しを動かし、遺贈だけが、物差しの外に出る。この読み方で、6つを言い分けてください。問いです。「自宅は長男に相続させる」と書いた遺言と、「自宅は長男に遺贈する」と書いた遺言です。登記が要る理屈は、同じでしょうか。

違います。相続させる遺言は、899条の2で、法定相続分を超える部分に登記が要ります。遺贈は、177条で、普通の対抗関係です。数字で確かめます。冒頭の設例を、長男への遺贈に置き換えても、答えは同じです。長男は自分の2分の1を守れて、次男の2分の1は、先に登記した第三者に負けます。違いが出るのは、受け取る人が、相続人でないときです。父の友人に遺贈したなら、友人には、法定相続分がありません。内側が無いので、登記なしで守れる部分は、ありません。相続させる遺言の相手は、相続人なので、必ず内側があります。

債権の承継は、通知で対抗する

復習の問い。債権を譲渡したとき、債務者に通知をするのは、譲渡人?譲受人? 図:復習の問い。債権を譲渡したとき、債務者に通知をするのは、譲渡人?譲受人?

ここで、債権譲渡の回で見たことを、思い出してください。債権を譲渡したとき、債務者に通知をするのは、譲渡人でしたか、譲受人でしたか?譲渡人です。譲受人が通知しても、対抗要件にはなりませんでした。これが、今日の道具になります。4つ目です。設例です。父が、友人のCに、300万円を貸していました。相続人は、長男と次男です。遺言で、「貸金は長男に相続させる」とありました。ところが、次男が、自分の取り分を、第三者のDに譲渡してしまいました。長男は、Cに請求できるでしょうか。まず、899条の2第1項からです。債権も、相続による権利の承継です。法定相続分は、各150万円です。この内側は、通知が要りません。可分債権は、相続開始と同時に、法定相続分に従って、各自の債権になるからです。長男は、自分の150万円は、通知なしで、Cに請求できます。超える150万円には、対抗要件が要ります。債権の対抗要件は、467条の通知です。

467条の原則だと詰まる。467条1項=譲渡人が債務者に通知。相続では譲渡人の立場=被相続人=死亡→共同相続人全員が通知する必要→次男が協力しないと長男は対抗要件を備えられない。 図:467条の原則だと詰まる

  • 467条1項=譲渡人が債務者に通知
  • 相続では譲渡人の立場=被相続人=死亡→共同相続人全員が通知する必要→次男が協力しないと長男は対抗要件を備えられない

ところが、467条の原則だと、詰まります。通知を出すのは、譲渡人です。相続でも、債権は、亡くなった父から、長男に移ります。ですから、譲渡人の立場にあるのは、父です。父は、すでに亡くなっていて、その立場は、相続人の全員が引き継いでいます。ですから、共同相続人の全員が、通知することになります。次男が協力しなければ、長男は、いつまでも、対抗要件を備えられません。これでは、困ります。この行き詰まりを解くための条文が、899条の2第2項です。全文を読みます。

条文民法899条の2第2項

民法 第899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)第2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

法定相続分を超えて債権を承継した共同相続人が、遺言の内容、分割による場合は分割の内容を明らかにして、債務者に通知をします。すると、共同相続人の全員が通知したものとみなされて、1項の対抗要件を備えたことになります。みなす、とは、事実と違っても、そう扱うことです。設例で言えば、次男が通知していなくても、全員が通知したものとして扱います。

修正前/修正後の比較。467条の原則=譲渡人(被相続人)が通知→相続では全員の通知→1人でも協力しないと詰む。899条の2第2項=承継した相続人が、遺言・分割の内容を明らかにして通知→全員の通知とみなす。脚注=第三者に対抗するには、467条2項の確定日付のある証書による通知が別に要る。

  • 修正前/修正後の比較
  • 467条の原則=譲渡人(被相続人)が通知→相続では全員の通知→1人でも協力しないと詰む
  • 899条の2第2項=承継した相続人が、遺言・分割の内容を明らかにして通知→全員の通知とみなす
  • 脚注=第三者に対抗するには、467条2項の確定日付のある証書による通知が別に要る

比べます。467条の原則では、全員の通知が要りました。第2項は、それを、承継した相続人1人の通知で、足りるように、修正したものです。次男の協力は、要りません。ただし、1つ注意です。みなされるのは、共同相続人の全員が通知した、という点だけです。債務者以外の第三者に対抗するには、467条2項のとおり、その通知を、確定日付のある証書でする必要があります。通知をすれば、全部が済むわけでは、ありません。設例に戻ります。長男は、自分の150万円は、通知なしで、Cに請求できます。もう半分の150万円は、次男から譲り受けたDと取り合いになります。長男とDのうち、確定日付のある証書による通知が、先にCに届いた方が勝ちます。債権譲渡の回で見た、届いた順です。遺言執行者がいるときは、遺言執行者が対抗要件の具備に必要な行為をできます。これは、遺言の回で見ます。誰が何を備えるか、まとめます。不動産は、登記です。177条と、899条の2第1項です。債権は、債務者への通知です。467条と、899条の2第2項です。同じ、超える部分でも、備え方が違います。問いです。債権を、法定相続分を超えて承継した相続人は、他の相続人の協力が無くても、対抗要件を備えられますか。

備えられます。遺言や分割の内容を明らかにして、自分で通知すれば、全員が通知したものとみなされます。

相続登記の義務は別の話、まとめ、冒頭の答え

相続登記の義務は対抗要件と別。不動産登記法76条の2第1項(取得を知った日から3年)/第2項(法定相続分で登記後、分割で超えて取得→分割の日から3年)/76条の3(相続人申告登記=義務を履行したとみなす・対抗要件にはならない)。 図:相続登記の義務は対抗要件と別

5つ目です。相続登記の申請義務は、対抗要件とは、別の話です。対抗要件は、私人どうしの優劣の話です。申請義務は、国が申請を義務づける、公法上のルールです。相続で所有権を取得した者は、取得を知った日から3年以内に、申請します。分割で、法定相続分を超えて取得した者は、分割の日から3年以内です。ここに、899条の2と同じ、超える部分という線が、登記の義務にも出てきます。相続人申告登記は、自分が相続人だと、登記官に申し出るだけの手続です。これで、義務を履行したとみなされますが、対抗要件にはなりません。本体は、物権の回で見ました。

冒頭の答え。長男の法定相続分2分の1=登記なしで守れる/遺言で増えた残り2分の1=先に登記した第三者に負ける。→ 早く登記(債権は通知)を備える。 図:冒頭の答え

  • 長男の法定相続分2分の1=登記なしで守れる/遺言で増えた残り2分の1=先に登記した第三者に負ける
  • → 早く登記(債権は通知)を備える

まず、冒頭の答えです。長男は、自分の法定相続分、2分の1は、登記なしで守れます。ところが、遺言で増えた、残りの2分の1は、先に登記した第三者に負けます。ですから、遺言で承継した人は、早く登記を備える。債権なら、早く通知をする。これが、結論です。

まとめ。①相続分=法定相続分(900・901条)。902条は物差しに入らない②相続放棄=物差し自体を書き換える→増えた分も登記不要③分割・特定財産承継遺言・相続分の指定=超える部分に対抗要件。平14は上書き。遺贈は177条④債権=第2項で承継者1人の通知(確定日付は別)⑤登記の義務は対抗要件と別。 図:まとめ

  • ①相続分=法定相続分(900・901条)
  • 902条は物差しに入らない②相続放棄=物差し自体を書き換える→増えた分も登記不要③分割・特定財産承継遺言・相続分の指定=超える部分に対抗要件
  • 平14は上書き
  • 遺贈は177条④債権=第2項で承継者1人の通知(確定日付は別)⑤登記の義務は対抗要件と別

5つ確認します。1つ目は、899条の2第1項の相続分は、法定相続分です。内側は登記なし、超える部分は対抗要件が要ります。遺言で決めた割合、指定相続分は、物差しに入りません。2つ、相続放棄は、物差し自体を書き換えます。増えた分も内側で、登記なしで対抗できます。続けます。3つ、遺産分割、特定財産承継遺言、相続分の指定は、超える部分に対抗要件が要ります。「相続させる」遺言の旧判例は、上書きされています。遺贈は、177条です。4つ、債権は、法定相続分を超えて承継した相続人が、遺言や分割の内容を明らかにして通知すれば、全員が通知したものとみなされます。第三者への対抗には、確定日付が別に要ります。5つ、相続登記の申請義務は、対抗要件とは別の、公法上の義務です。次の問いです。遺産が、自宅しかないとき、妻は、家と生活費の両方を、確保できるのでしょうか。次は、配偶者居住権を見ます。

参照条文

  • 民法899条の2第1項
  • 民法899条の2第2項

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