相続人の不存在
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第8章 相続 #376/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
身寄りのない男性の家は、誰のものになるか
図:冒頭の設例
- A=被相続人(男性・死亡・子も親も兄弟姉妹もいない・遺言なし)/B=内縁の妻(20年)/C=国
- A⇄B 内縁
- A→「家・預金」
- B=相続人ではない
身寄りのない一人暮らしの男性が亡くなりました。子も親も、兄弟姉妹もいません。遺言もありません。ただ、20年連れ添った内縁の妻がいます。男性の家と預金は、誰のものになるでしょうか。両方の直観に、正しい部分があります。内縁の妻は、相続人ではありません。内縁には、相続権を借りられない、という結論は、内縁の回で見ました。かといって、相続人は他にいません。この場合、遺産はいったん、持ち主のいない財産として扱われ、手続を踏んだうえで、行き先が決まります。先に答えの形だけ言うと、妻は、当然にはもらえません。請求して、家庭裁判所が認めた分だけを受け取り、残りは国に行きます。その道筋を、回の終盤で組み立てます。その前に、道具を順に見ます。
図:地図
道筋は4つです。884条の期間が過ぎる前に、取得時効を主張できるか。2つ目、財産分離。相続財産と、相続人自身の財産を分けて、清算する制度です。3つ目、相続人の不存在。冒頭の問いの本体です。4つ目、相続人がいないとき、遺産は誰のところへ行くのか。判定の練習です。
884条と取得時効:表見相続人は取得時効を援用できるか
図:設例の関係図
- A=被相続人(父・死亡)/B=次男(実子)/C=長男(縁組が無効だった者)
- C→甲土地 占有15年/B→C「抹消と明渡し」/C→B「時効取得」
- 相続開始から16年で縁組の無効が確定
始める前に、前回の確認です。884条の相続回復請求権は、侵害を知った時から何年、相続開始から何年で消えるのでしたか?知った時から5年と、相続開始から20年です。今日は、その別物を、条文と判例で言い切ります。設例で見ます。父Aが亡くなりました。Aの子は、実子の次男Bと、Aが養子にしたつもりの長男Cです。ところが、Cとの養子縁組は、届出に不備があって、無効でした。誰も気づかないまま、遺産分割の協議で、甲土地はCが取得し、Cは登記も備えて、自分の土地として住み続けました。相続開始から16年後に、縁組の無効が確定します。Bは、甲土地は自分が単独で相続した、と考えて、事実を知るとすぐに、登記の抹消と明渡しを求めました。Cは、15年住んだから時効で取得した、と言えるでしょうか。
Cさんは、相続人のように振る舞っていたので、表見相続人です。まず、884条の側を確かめます。Bは、事実を知ってすぐに請求しました。5年は、動き出していません。相続開始から20年も、まだ16年です。Cは、884条の期間が過ぎたとは言えません。残る問いは1つです。884条の期間が過ぎていないのに、取得時効を援用できるか。取得時効の要件は、第1章で見ました。Cに当てはめます。Cは、遺産分割で取得した土地を、自分の物として持つ意思がありました。所有の意思です。平穏、公然にも問題がありません。Bのものという、他人のものを占有しています。そして、Cは、自分が相続人だと積極的に信じ、信じたことに過失もありませんでした。この場合は10年で足りるので、15年は十分です。あとは、Cが援用すれば、所有権を取得します。
特別な期間が満了するまでは取得時効を使えない、という見方があります。これが反対の考え方です。884条が特別法で、162条が一般法。特別法の期間が満了するまでは、一般法の取得時効で、請求を退けることはできない。そう考えるのです。最高裁は、この考えを採りませんでした。
図:比較板
- 884条の消滅時効:5年(知った時)/20年(相続開始)・効果=相続回復請求権が消える・援用の制約=悪意・合理的事由なしは不可
- 162条の取得時効:20年(善意無過失なら10年)・効果=所有権を取得・援用の制約=期間と要件を満たせばよい
- 関係=どちらも独立、片方が過ぎていなくても他方は使える
結論は、援用できる、です。理由は3段です。1つ目、884条の消滅時効と、162条の取得時効は、要件も効果も違う、別個の制度です。特別法と一般法の関係ではありません。2つ目、表見相続人が、消滅時効の完成前に時効取得することを妨げる規定は、どこにもありません。3つ目、884条の趣旨は、相続権の帰属と法律関係を、早く、終局的に確定することです。取得時効の要件を満たした人が、相手の消滅時効が未完成だというだけで、取得できない。これは、この趣旨に整合しません。判旨を読みます。
判例最判令6・3・19 民集78巻1号63頁
表見相続人は、消滅時効の完成前でも、取得時効を援用できる 民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効と同法162条所定の所有権の取得時効とは要件及び効果を異にする別個の制度であって、特別法と一般法の関係にあるとは解されない。また、民法その他の法令において、相続回復請求の相手方である表見相続人が、上記消滅時効が完成する前に、相続回復請求権を有する真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられる旨を定めた規定は存しない。そして、民法884条が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにある(……参照)ところ、上記表見相続人が同法162条所定の時効取得の要件を満たしたにもかかわらず、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより、当該真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられると解することは、上記の趣旨に整合しないものというべきである。以上によれば、上記表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるものと解するのが相当である。
3つ目の、整合しない、を言い換えます。884条は、早く決着をつけるための制度でした。それなのに、期間が満了するのを待たないと取得時効が使えない、とすると、長く落ち着いて占有してきた人の立場が、決まらないまま残ります。早い確定という趣旨と、逆向きです。だから、884条は、取得時効の邪魔をしないのです。相続回復請求権を持つ側が、包括受遺者の場合も、同じです。Cが援用すれば、甲土地の所有権はCのものになり、Bの請求は通りません。ただし、援用できるのは、162条の要件を満たしたときです。884条の期間が未経過でも使える、というだけで、要件が不要になるわけではありません。
⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】884条の消滅時効と162条の取得時効は、要件・効果を異にする別個の制度で、特別法・一般法の関係にない。また、884条の期間の満了前は取得時効を援用できないとする規定もない。884条の趣旨は、相続権の帰属等の早期・終局的な確定にあり、時効取得の要件を満たす表見相続人が、消滅時効が未完成だというだけで所有権を取得できないとするのは、この趣旨に整合しない。したがって、表見相続人は、消滅時効の完成前であっても、取得時効を援用できる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文は、884条の期間の満了前に取得時効を援用できるかを定めていない。手がかり=両制度は別個で、妨げる規定がなく、884条の趣旨にも整合する。論文で論点になりうる)
答案は、この3点で書きます。問題提起は、表見相続人は、884条の消滅時効が完成する前に、取得時効を援用できるか。規範は、カードのとおりです。あてはめは、Cは、所有の意思をもって平穏、公然に甲土地を占有し、占有開始時に善意かつ無過失で、15年占有した。援用すれば所有権を取得し、Bの請求は認められない。前回の、弟が相続人だと知りながら土地を自分の名義にした兄も、同じ道を通ります。884条の期間が過ぎたとは言えませんでしたが、884条は取得時効を妨げません。兄が取得時効を言えるかは、別に、162条の要件で決まります。
財産分離:誰を守る制度か
図:2種類の債権者の関係図
- P=相続債権者(被相続人Xに貸していた)→X(被相続人)/Q=相続人の債権者(相続人Yに貸していた)→Y(相続人)
- X→Y 相続・財産が混ざる
2つ目です。相続人が相続を単純承認すると、被相続人の財産と、相続人自身の財産が、1つに混ざります。すると、2種類の債権者が、同じ財産を取り合うことになります。被相続人にお金を貸していた人、これを相続債権者と呼びます。そして、相続人にもともとお金を貸していた人、これは相続人の債権者です。名前が似ていますが、別の人です。財産分離は、この混ざりを防ぐため、家庭裁判所の処分で、相続財産と相続人の固有財産を分けて、相続財産を清算する制度です。限定承認は、相続人が自分の負担を遺産の範囲に限るために選ぶ道です。財産分離は、債権者が請求して財産を分ける道です。
違います。2つの場合に分かれます。第1種は、相続債権者と受遺者を守る場合です。父の遺産は、預金800万円。父の債務は、200万円です。相続人の子は、自分に3000万円の借金があり、財産はありません。子が単純承認すると、父の預金は、子の債権者の引当てにもなります。父の債権者は、本来なら200万円を預金から取れたはずなのに、子の借金取りと取り合うことになります。そこで、父の債権者が、財産分離を請求します。第2種は、逆に、相続人の債権者を守る場合です。父の遺産は、預金100万円。父の債務は、900万円です。相続人の子は、自分の預金が500万円あります。子が単純承認すると、父の債務900万円が子の財産にも及び、子の預金500万円まで、父の債権者への弁済に使われかねません。子にもともとお金を貸していた人は、引当てを食われます。そこで、子の債権者が、財産分離を請求します。
図:第1種・第2種の対比板
- 第1種(941条)=請求する人:相続債権者・受遺者/守る人:相続債権者・受遺者/期間:相続開始から3か月以内(混合しない間は期間後も)
- 第2種(950条)=請求する人:相続人の債権者/守る人:相続人の債権者/期間:相続人が限定承認できる間、または混合しない間
条文民法941条1項
民法第941条(相続債権者又は受遺者の請求による財産分離) 相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。
条文民法950条1項
民法第950条(相続人の債権者の請求による財産分離) 相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、相続人の債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。
条文から、3つ読み取ります。誰が請求するか、いつまでか、誰を守るか、です。第1種は、請求するのが相続債権者か受遺者で、期間は、相続開始から3か月以内。ただし、相続財産がまだ相続人の財産と混ざっていない間は、3か月を過ぎても請求できます。第2種は、請求するのが相続人の債権者で、期間は、相続人が限定承認をできる間、または、混ざっていない間です。請求が認められると、公告をします。公告とは、限定承認の回で見たとおり、官報に載せて、広く知らせることです。第1種では、請求した人が、5日以内に、ほかの相続債権者と受遺者に、2か月を下らない期間を定めて、配当に加わる申出を促す公告をします。第2種では、限定承認の公告の規定が準用されます。そのあと、請求した人と配当に加わった人は、相続財産から、相続人の債権者より先に弁済を受けます。相続財産だけでは全額を受けられなかったときに限って、相続人の固有財産にも請求できます。ただし、その場合は、相続人の債権者に後れます。不動産は、登記をしなければ、第三者に対抗できません。試験では比重の軽い論点ですから、誰が請求し、誰を守り、いつまでか、を言えれば足ります。問いです。相続債権者が請求できるのは、第1種と第2種のどちらでしょうか。そのとき、守られるのは誰ですか。
第1種です。守られるのは、相続債権者と受遺者です。
相続人のあることが明らかでないとき
図:手続の時系列板
3つ目です。冒頭の問いの本体です。まず、入口の条文を読みます。
条文民法951条
民法第951条(相続財産法人の成立) 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
法人とは、財産の持ち主になれる、人でない主体のことです。持ち主のいない財産が宙に浮かないように、管理と清算をする主体として、相続財産法人が作られます。この法人の手足になるのが、家庭裁判所が選ぶ、相続財産清算人です。清算人は、財産の管理と清算をします。相続人を探す公告をするのは、家庭裁判所です。この制度全体を、相続人の不存在と呼びます。
図:要件の2類型と例外
- ①戸籍上の相続人がいないことが明らか②戸籍上の相続人の全員が、欠格・廃除・放棄により相続権を失った
- 例外=相続財産全部の包括受遺者がいる場合は「明らかでないとき」にあたらない(法人は成立せず、清算人の選任も不要)
2つの場合があります。1つ目、戸籍上の相続人が、そもそもいないことが明らかな場合です。2つ目、戸籍上の相続人はいるけれど、その全員が、欠格、廃除、放棄によって、相続権を失った場合です。放棄の連鎖が、全員に行き着いて、次の順位もいない、という行き止まりが、この2つ目です。なお、相続人がいることは分かっているけれど、行方が分からないだけなら、それは不在者の財産管理の問題です。相続人のあることが明らかでないとき、とは区別してください。問いです。全財産を内縁の妻に包括遺贈する遺言があり、相続人は他にいません。951条は適用されるでしょうか。
相続人がいないので、適用されそうです。でも、問いにするくらいなので、違うんでしょうか。適用されません。判旨を読みます。
判例最判平9・9・12 民集51巻8号3887頁
全部の包括受遺者がいれば、951条の「明らかでないとき」にあたらない 遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、民法九五一条にいう「相続人のあることが明かでないとき」には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条から九五九条までの同法第五編第六章の規定は、相続財産の帰属すべき者が明らかでない場合におけるその管理、清算等の方法を定めたものであるところ、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し(同法九九〇条)、遺言者の死亡の時から原則として同人の財産に属した一切の権利義務を承継するのであって、相続財産全部の包括受遺者が存在する場合には前記各規定による諸手続を行わせる必要はないからである。
理由は、手続の目的にあります。951条から959条までの手続は、財産の帰属先が分からないときに、管理と清算を行うためのものです。包括受遺者は、相続人と同じ権利義務を持ち、遺言者の死亡の時から、財産に関する一切の権利義務を承継します。帰属先がはっきりしているので、清算人も公告も要りません。全財産の包括遺贈を受けた内縁の妻は、そのまま全部を承継します。冒頭の男性は、遺言がありませんでした。だから、951条以下の手続に進みます。
清算人の選任・公告・清算
図:令和3年改正の前後
- 改正前=①選任の公告②債権申出の公告(2か月以上)③相続人捜索の公告(6か月以上)を順に重ね、10か月以上
- 改正後=選任の公告(952条2項)が相続人捜索の公告を兼ねる(6か月以上)・債権申出の公告(957条)はその期間の中で並行
手続の順に見ます。その前に、前の確認です。遺産分割までの保存のために選ばれる管理人と、相続人があるか明らかでないときに選ばれる清算人は、何が違いましたか?管理人は、遺産分割までの保存のための人です。清算人は、遺産を片づける人です。まず、清算人の選任です。
条文民法952条
民法第952条(相続財産の清算人の選任) 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
請求できるのは、利害関係人か検察官です。利害関係人には、相続債権者、相続債務者、受遺者、そして、特別縁故者として分与を請求するつもりの人が含まれます。冒頭の内縁の妻は、特別縁故者になる予定の人として、自分で、清算人の選任を請求できます。公告は、6か月以上です。ここに、令和3年の改正があります。改正の前は、選任の公告、債権者への申出の公告、相続人捜索の公告を、順に重ねていて、手続に10か月以上かかっていました。そこで、手続を短くするために、改正後は、選任の公告が、相続人捜索の公告を兼ねます。債権者と受遺者への公告は、その6か月の中で、並行して進みます。清算人の権限は、不在者の財産管理人の規定が準用されます。953条です。財産目録の作成、保存行為や利用、改良を超える行為への家庭裁判所の許可、担保の提供と報酬。遺産の不動産を売るにも、許可が要るのは、遺産の管理人の回で見たとおりです。家庭裁判所が選び、財産を代わりに管理する、という型は、不在者の財産管理人と同じです。違いは、不在者の管理人は、不在者のために管理して返す人であるのに対し、清算人は、相続財産法人のために、財産を片づける人だ、という点です。限定承認で、家庭裁判所が相続人の中から選ぶ清算人は、936条の、別の人です。途中で相続人が現れたら、どうなるでしょうか。法人は、成立しなかったものとみなされます。955条です。相続人は、相続開始の時から遺産を引き継いでいたことになるので、仮の持ち主として置いた法人は、はじめから要らなかった、という扱いにするのです。ただし、清算人が権限内でした行為は、有効なままです。法人がなかったことにしても、清算人と取引した相手を害さないためです。では、清算人はいつまで働くのか。相続人が相続を承認した時に、清算人の代理権が消えます。956条です。承認するまでは、相続人が遺産を引き継ぐかどうかが決まらないので、それまでは清算人が管理を続けるのです。
図:清算の流れ
条文民法957条1項
民法第957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済) 第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。
次に、清算です。957条です。952条2項の公告があったら、清算人は、すべての相続債権者と受遺者に、2か月以上の期間を定めて、請求の申出をするよう公告します。この期間は、952条2項の6か月の期間内に、満了しなければなりません。申出をした人や、清算人に知れている人には、相続財産から弁済します。ここで、順序があります。受遺者への弁済は、相続債権者への弁済の後です。遺贈で、債権者を害することを防ぐためです。清算人は、債権者や受遺者から請求があれば、相続財産の状況を報告します。6か月の期間内に、相続人としての権利を主張する人が現れなかったとします。958条によって、相続人と、清算人に知れなかった相続債権者、受遺者は、その権利を行使できなくなります。ここで、相続人の不存在が確定します。
特別縁故者への分与と国庫
図:冒頭の答えの流れ
冒頭の問いに戻ります。清算が終わって、財産が残っています。ここで登場するのが、特別縁故者への分与です。
条文民法958条の2
民法第958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与) 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
要件を、5つに整理します。1つ目、清算を経て、財産が残っていること。2つ目、家庭裁判所が、相当と認めること。裁量です。3つ目、請求する人が、特別縁故者であること。生計を同じくしていた人、療養看護に努めた人、その他、特別の縁故があった人の3類型です。4つ目、請求の期間は、952条2項の期間の満了後、3か月以内です。5つ目、与えられるのは、清算後に残る財産の、全部または一部です。内縁の配偶者は、その典型です。趣旨は2つです。1つ目、特別な縁故のあった人がいるのに、国のものにしてしまう不条理を避けること。2つ目、被相続人が生きていれば、遺贈などをしたであろう意思を推測して、それを補うことです。問いです。冒頭の内縁の妻は、いつまでに、誰に、何を請求しますか。
6か月以上の期間が満了してから3か月以内に、家庭裁判所に、清算後に残った財産を、請求します。冒頭の答えは、こうなります。妻は、当然には、取得しません。請求して、家庭裁判所が相当と認めた分だけを、取得します。請求しなければ、残りは全部、国に行きます。男性の家と預金は、清算で債務を払ったあとに残る分が、分与の対象です。なお、男性が借家に住んでいた場合は、内縁の回で見たとおり、相続人がいないので、借地借家法36条によって、同居していた妻が、借家の権利と義務を引き継ぎます。持ち家なら、この分与の道です。
図:共有持分との順序
- 共有者の1人が相続人なく死亡→持分はまず958条の2の分与の対象→分与されずに残ったとき、はじめて255条により他の共有者に帰属
- 持分の放棄の場合は、958条の2を経ず、直ちに255条
- 出典=最判平元・11・24 民集43巻10号1220頁
共有の回で見た順序を、位置づけ直します。甲建物を、男性と友人が共有していたとします。男性が、相続人なく死亡すると、男性の持分は、まず958条の2の分与の対象です。内縁の妻が、請求できます。分与されずに残ったときに、はじめて、255条によって、友人に帰属します。255条より、958条の2が先です。持分だけを分与から外すと、同じ遺産なのに扱いが分かれ、内縁の妻のような縁故者を守れないからです。ただし、持分の放棄のときは、特別縁故者への分与を経ず、直ちに255条です。分与は、相続人がいないときの制度だからです。最後に、国庫です。959条は、前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する、と定めています。特別縁故者が現れなかったとき、また、分与が一部だけで、財産が残ったときの、最後の受け皿です。
弁別:遺産は誰のところへ行くか
図:判定フロー
- Q1 相続財産全部の包括受遺者がいるか→はい=包括受遺者が承継
- いいえ→Q2 戸籍上の相続人が1人でもいて、相続権を失っていないか→はい=相続(行方不明なら不在者の財産管理)
- いいえ(いない・全員が欠格・廃除・放棄)=相続財産法人→清算人の選任・公告6か月以上・清算→Q3 清算後の残りがあり、特別縁故者が3か月以内に請求したか→はい=相当と認めれば全部または一部を分与→残りは国庫
- 共有持分は先に958条の2・残れば255条
4つ目です。判定の順番は、3段です。まず、相続財産の全部の包括受遺者がいれば、その人が承継します。いなければ、戸籍上の相続人が1人でもいて、相続権を失っていないか。いれば、相続です。いない、または全員が失ったなら、相続財産法人になり、清算人の選任、公告、清算へ進みます。最後に、清算後に残りがあり、特別縁故者が3か月以内に請求したか。請求があれば、相当と認められた分が分与され、残りは国庫です。事例を4つ解いてください。先に答えを考えてから聞いてください。事例Aです。冒頭の、内縁の妻です。内縁の妻は相続人ではないので、分与の請求が、遺産に届くただ1つの入口になります。次は、事例Bです。全財産を内縁の妻に包括遺贈する遺言があり、相続人はいません。
包括受遺者は相続人と同じ立場に立つので、行き先は、はじめから決まっています。次は、事例Cです。子2人と配偶者が全員放棄しました。次の順位の直系尊属も、兄弟姉妹もいません。戸籍上の相続人は全員が相続権を失っているので、相続人のあることが明らかでないとき、の2つ目の場合です。951条以下の手続に進みます。事例Dです。甲建物を、男性と友人が共有し、男性が、相続人なく死亡しました。最後に、数字の取り違えを確認します。
図:数字の弁別板
- 3か月=941条(相続開始から・第1種の請求)/958条の2(952条2項の期間の満了後)
- 6か月以上=952条2項(公告期間の下限)
- 2か月以上=957条1項(債権申出)・941条2項(配当加入)
- 5日=941条2項
- 5年・20年=884条(前回)
3か月は、2つあります。941条の第1種の請求は、相続開始から3か月以内。958条の2の特別縁故者の請求は、公告期間の満了後、3か月以内です。起算点が違います。6か月以上は、952条2項の公告期間の下限です。2か月以上は、957条1項の債権申出と、941条2項の配当加入の期間です。5日は、941条2項です。5年と20年は、前回の884条です。もう1つ、884条の期間が過ぎたかどうかと、取得時効の要件を満たしたかどうかは、別の問いです。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
5つ確認します。1つ目、表見相続人は、884条の期間の満了前でも、取得時効を援用できます。2つの制度が別個で、妨げる規定がなく、884条の趣旨にも整合するからです。2つ目、財産分離は、第1種が、相続債権者と受遺者を守る制度で、941条。第2種が、相続人の債権者を守る制度で、950条です。3つ目、相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法人になります。全部の包括受遺者がいれば、適用されません。家庭裁判所が清算人を選び、6か月以上の公告をして、清算をします。4つ目、特別縁故者は、期間の満了後3か月以内に請求し、相当と認められれば、残った財産の全部または一部を取得します。共有持分は、255条より先に958条の2です。残りは国庫に帰属します。5つ目、冒頭の答えです。内縁の妻は、当然には取得せず、請求して認められた分だけを取得します。
参照条文
- 民法941条1項
- 民法950条1項
- 民法951条
- 民法952条
- 民法957条1項
- 民法958条の2