相続欠格と相続人の廃除
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第8章 相続 #354/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
遺言書を破った次男は、父を相続できるか
図:冒頭の設例
- A(父・被相続人)、B(次男)、C(Bの子=孫)、D(長男)、E(Aの妻)
- Aは「自宅と預金の大半を長男Dに」という遺言書を残して死亡
- 次男Bが遺言書を見つけ、自分の取り分が減ると考えて破り捨てた
- 問い=Bはそれでも父Aを相続できるか
設例です。父が亡くなりました。父は、自宅と預金の大半を長男に渡す、という遺言書を残していました。この遺言書を、次男が見つけました。次男は、これでは自分の取り分が減ってしまう、と考えて、遺言書を破り捨てました。家族は、妻、長男、次男の3人です。次男には子がいて、父から見れば孫にあたります。問いです。遺言書を破り捨てた次男は、それでも父を相続できるのでしょうか。悪いことをしたから外れる、と感じるのも、子だから相続人のまま、と感じるのも、気持ちとしては自然です。ただ、法律の答えは、気持ちではなく条文の作りから出てきます。答えは、あとで出します。前回、誰が相続人になるのかを見ました。範囲と順位、代襲相続です。そこで確定した相続人は、あくまで法定相続人、つまり民法が一般的に定めた相続人です。個別の事件では、法定相続人であっても、実際には相続人にならないことがあります。相続人の資格を失う道は、3つあります。欠格、廃除、放棄です。今日は、このうち欠格と廃除を扱います。欠格は、一定の重大な非行があると、法律上当然に資格を失う制度です。廃除は、被相続人の求めに応じて、家庭裁判所が資格を奪う制度です。放棄は、自分から相続人の立場を手放す制度で、これは別の回に譲ります。道筋です。まず欠格の5つの事由を見ます。次に、冒頭の設例のような、遺言書を破る場合に何が要るのかを、判例で確かめます。そのあと欠格の効果を見て、廃除に移ります。最後に、欠格と廃除を比べて整理します。
相続欠格とは何か 891条の5つの事由
図:891条の5事由の分類
- 左=生命への攻撃(1号 故意に被相続人または先順位・同順位の者を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた/2号 被相続人の殺害を知って告発・告訴しなかった。ただし書=是非の弁別がない・殺害者が自己の配偶者または直系血族)
- 右=遺言への不当な干渉(3号 詐欺・強迫で遺言を妨げた/4号 詐欺・強迫で遺言をさせた/5号 遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿)
欠格から見ます。欠格とは、相続制度の基礎を壊すような重大な非行をした人から、相続人の資格を、民事上の制裁として奪う制度です。しかも、資格は、事由に当たれば、法律上当然に奪われます。ここが、あとで見る廃除との大きな違いです。欠格になる事由は、891条に挙がっている5つだけです。条文を全文で読みます。
条文民法891条
民法第891条(相続人の欠格事由) 次に掲げる者は、相続人となることができない。 一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者 二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。 三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者 四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者 五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
柱書は、「相続人となることができない」です。5つの事由を、2つに仕分けると読みやすくなります。1号と2号は、人の生命に関わる非行です。3号から5号は、遺言への不当な干渉です。1号です。故意に、被相続人、または相続について先順位もしくは同順位にある人を、死亡させたか、死亡させようとして、刑に処せられた人です。未遂でも、刑に処せられれば足ります。同じ相続で、自分より順位が先の相続人か、自分と同じ順位の相続人のことです。たとえば、父が亡くなって、子が2人、長男と次男がいるとします。長男と次男は、同順位です。次男が、長男を死亡させようとして、刑に処せられたとします。この次男は、父の相続について、1号に当たります。被相続人ではなく、同じ順位の長男を狙った場合でも、欠格になるのです。
図:891条2号
- 被相続人の殺害を知って告発・告訴しなかった者は欠格
- ただし書=①その者に是非の弁別がないとき②殺害者が自己の配偶者または直系血族であったとき→欠格にならない
- 例=殺害者が自分の子(直系血族)→欠格にならない/殺害者が自分の兄弟(傍系)→ただし書に当たらず欠格
2号です。被相続人が殺されたことを知りながら、告発も告訴もしなかった人です。告訴も告発も、捜査機関に犯罪を知らせて、処罰を求めることです。告訴ができるのは、被害者本人です。被害者が亡くなっている場合は、その配偶者や、親、子、兄弟姉妹などです。告発は、誰でもできます。ここには、ただし書があります。落とさないでください。ただし書は、2つの場合に、欠格にならない、と定めています。1つ目は、その人に是非の弁別がないとき。是非の弁別とは、物事の善悪を判断する能力のことです。2つ目は、殺害者が、自分の配偶者または直系血族であったときです。直系血族とは、親や子、祖父母や孫のように、真っすぐに上下につながる血族です。例で確かめます。被相続人が殺されて、その殺害者が、告発をしなかった人自身の子だった場合を考えます。子は直系血族ですから、ただし書に当たります。告発しなくても、欠格にはなりません。一方、殺害者が、告発しなかった人の兄弟だった場合は、どうでしょう。兄弟は、真っすぐつながる関係ではなく、傍系です。配偶者でも直系血族でもないので、ただし書に当たらず、2号の欠格になります。
2号は、原則を言い切らずに、ただし書までをセットで押さえてください。続いて、3号と4号です。どちらも、詐欺または強迫によって、被相続人の遺言に干渉する場合です。違いは、干渉の向きです。3号は、詐欺または強迫によって、被相続人が遺言をしたり、撤回したり、取り消したり、変更したりすることを、妨げた場合です。たとえば、遺言を書き直そうとしている父を、脅して、やめさせた場合です。4号は、反対に、詐欺または強迫によって、被相続人に遺言をさせた場合です。撤回させる、取り消させる、変更させる場合も含みます。たとえば、父をだまして、自分に有利な遺言を書かせた場合です。3号は妨げた、4号はさせた、と区別してください。最後に5号です。相続に関する被相続人の遺言書を、偽造、変造、破棄、または隠匿した人です。冒頭の次男は、遺言書を破り捨てたので、この破棄に当たりそうです。ただ、当たるかどうかは、このあと見るように、もう一歩の検討が要ります。なお、5号には改正法が成立していて、死亡の危急に迫った人の遺言などを、録音や録画などで記録した電磁的記録について、不正に作ったり、破棄したり、隠したりすることも加わる予定です。ここでは、現行の条文で読みます。
図:仕分けの確認
確認です。被相続人をだまして、自分に有利な遺言を書かせた人は、891条の何号に当たりますか。4号です。詐欺で、遺言をさせたからです。では、次に、5号の中身に入ります。
遺言書を破棄したら欠格か 5号と二重の故意
図:5号の問題
- 遺言書の破棄・隠匿の行為があれば、すべて欠格か
- 同じ「遺言書を破った」でも、結論が分かれる
- 設例1=取り分を守るため遺言の実現を妨げた→欠格
- 設例2=同じ遺言書を破ったが、不当な利益を目的としていない→欠格でない
5号に戻ります。条文は、遺言書を破棄した者、と書いています。では、遺言書を破りさえすれば、いつでも欠格になるのでしょうか。ここで、先に問いです。冒頭の設例を、設例1と呼びます。これと似た、別の設例2です。同じ父の遺言書を、次男が破りました。ところが、その紙には、父が、ある第三者について書いた私的な悩みが、長く綴られていました。次男は、親族に読まれたくない、と思っただけでした。遺言の内容、つまり財産の分け方は、次男に有利でも不利でもありません。次男には、自分の取り分を増やす目的も、遺言の実現を妨げる目的もありませんでした。これは、そう仮定した設例です。この次男は、5号の欠格者になるでしょうか? 破棄の事実はあります。
設例2の次男は、5号の欠格者に当たりません。その理由を、判例で確かめます。
図:最判平9・1・28
- 民集51巻1号184頁
- 判旨=相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄または隠匿した場合において、その行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、891条5号の欠格者には当たらない。理由=5号の趣旨は、遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に資格を失わせる民事上の制裁。不当な利益を目的としない行為は著しく不当な干渉行為といえず、厳しい制裁は趣旨に沿わない。
最高裁の判決です。判旨を読みます。
判例最判平9・1・28 民集51巻1号184頁
5号の欠格と不当な利益の目的 相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条五号の趣旨は遺言に関し著しく不当な干渉行為をした相続人に対して相続人となる資格を失わせるという民事上の制裁を課そうとするところにあるが(…)、遺言書の破棄又は隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課することは、同条五号の趣旨に沿わないからである。
言葉を直しながら読み解きます。「右行為」は、直前に出てきた、遺言書を破棄または隠匿する行為のことです。「けだし」は、その理由を言うよ、という合図です。判旨の骨格は、2段です。まず、結論です。遺言書を破棄または隠匿した場合でも、その行為が、相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、5号の欠格者に当たりません。次に、理由です。5号の趣旨は、遺言に関して、著しく不当な干渉をした相続人から、相続人の資格を奪う、という民事上の制裁を課すことにあります。不当な利益を目的としない破棄や隠匿は、著しく不当な干渉とはいえません。そのような人から、相続人の資格を奪うのは、厳しすぎる制裁で、5号の趣旨に沿わない、ということです。
民事上の制裁というのは、刑罰とは違うのですか。違います。刑罰は、国が科す罰です。ここでいう民事上の制裁は、相続という私法上の場面で、資格を奪う、という不利益のことです。だからこそ、奪うに値するほど悪質な干渉かどうかが、問われるのです。ここから、5号の規範が導かれます。5号が適用されるには、遺言書を破棄、隠匿するなどの行為についての故意に加えて、その行為が、相続に関して不当な利益を目的とすることが必要です。行為の故意と、不当な利益を得ようとする意思という、2つの心の要素が要るので、これを、二重の故意と呼びます。規範の出どころは、5号の趣旨と、この判例です。学説では、少なくとも3号から5号は、行為の故意に加えて、不当な利益を得ようとする意思が必要だ、という二重の故意説が、通説です。判例は、5号について、このように判断しました。ここは、論文で論点になりうる部分です。
図:設例1と設例2の分岐
- 同じ「遺言書を破棄」→上=不当な利益を目的とする(設例1)→欠格:Bは相続人から外れる・Bの子Cが代襲相続人・遺贈も受けられない
- 下=不当な利益を目的としない(設例2)→欠格でない:Bは相続人のまま・Cの代襲相続なし・遺贈も受けられる
- 登場人物=A(被相続人)・B・C・D・E
規範を、2つの設例に当てはめます。判断の視点は、遺言の実現を妨げて、自分が得をする目的があったか、です。設例1です。次男は、長男に厚く渡す遺言の実現を妨げて、自分の取り分が減るのを防ごうとして、遺言書を破りました。遺言の実現を妨げて、自分が得をしようとした、つまり相続に関して不当な利益を目的としています。破棄の行為についての故意に加えて、この目的も認められるので、5号の欠格者に当たります。設例2です。次男は、私的な悩みを読まれたくないと思っただけです。取り分を増やす目的も、遺言の実現を妨げる目的もありません。破棄の故意はありますが、相続に関して不当な利益を目的とするものではありません。だから、5号の欠格者に当たりません。
目的の有無で分かれるのは、それが、著しく不当な干渉といえるかどうかを分けるからです。民事上の制裁に値するかどうか、という5号の趣旨から出てくる区別です。もう1つ、結論だけ押さえておく最高裁判例があります。遺言が、方式の不備のために無効だったとします。そこで相続人が、方式を整えて、有効に見える外形を作りました。これは、偽造や変造にあたる行為です。しかし、被相続人の意思を実現させるためにしたにすぎないときは、5号の欠格者に当たりません。ここでも、結論を分けているのは、不当な利益を目的としていたか、被相続人の意思の実現のためだったか、という点です。5号は、こうして、行為の故意と、不当な利益の目的という、二重の要件で読みます。
欠格の効果
図:欠格の効果
- ①相続資格の喪失(891条柱書)②遺贈を受ける資格の喪失(965条が891条を準用)③事由があれば法律上当然に生じる(審判・意思表示は不要)④887条2項は891条に該当する時期を限定していない(「相続の開始以前に」が掛かるのは死亡だけ)→代襲相続の原因になる読み
- 設例1=Bは欠格→この読みでは、相続人はE・D・C
- ⑤欠格は、その被相続人との関係で判断される
欠格の効果を見ます。設例1の次男が欠格だと、何が起きるのかです。1つ目の効果は、相続資格の喪失です。891条の柱書のとおり、相続人となることができません。次男は、父の相続人から外れます。2つ目に、この効果は、法律上当然に生じます。条文を見直してください。891条に、家庭裁判所に請求する、という語はありません。審判も、被相続人の意思表示も要りません。事由に当たれば、その時点で、当然に資格を失います。この点は、あとで見る廃除と、はっきり違います。
図:965条
- 受遺者について、886条と891条を準用
- 遺贈を受ける資格=欠格者は失う
- 設例1=同じ遺言書に「Bに形見の時計を遺贈する」とあってもBは受けられない
3つ目の効果は、遺贈を受ける資格を失うことです。遺贈とは、遺言によって、無償で財産を与えることです。条文です。
条文民法965条
民法第965条(相続人に関する規定の準用) 第八百八十六条及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。
965条は、受遺者、つまり遺贈を受ける人について、886条と891条を準用する、と定めています。891条が準用されるので、欠格に当たる人は、遺贈を受ける資格も失います。準用とは、ある場面のために作られた条文を、必要な読み替えをして、別の場面にも当てはめることです。ここでは、相続人について決めた891条を、遺贈を受ける人にも当てはめています。設例1で、仮に同じ遺言書に、次男に形見の時計を遺贈する、と書いてあったとします。次男が欠格者なら、この遺贈も受けられません。受遺者の欠格そのものは、遺贈の回で詳しく扱います。さて、ここで、問いを1つ置きます。前回の確認です。長男が相続を放棄していました。長男の子の孫は、長男に代わって相続人になるでしょうか?
放棄は、代襲相続の原因に挙がっていませんでした。だから、ならない、でした。代襲相続の原因は、死亡、891条該当、廃除の3つでした。では、欠格は、どうでしょう。
図:887条2項
- 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡し、または891条の規定に該当し、もしくは廃除によって相続権を失ったときは、その者の子が代襲して相続人となる
- ただし書=被相続人の直系卑属でない者は除く
- 「相続の開始以前に」が掛かるのは死亡だけ
- 891条該当の時期は限定されていない
- 設例1=Bは891条該当→この読みでは、Bの子Cが代襲相続人
- 相続人=E・D・C
条文民法887条2項
民法第887条(子及びその代襲者等の相続権) 2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
887条2項に、891条の規定に該当し、とあります。ですから、欠格は、代襲相続の原因になります。4つ目の効果です。ここで、条文の読み方を1点確かめます。「相続の開始以前に」という時期の限定が掛かっているのは、死亡だけです。891条に該当する時期には、相続の開始以前に、という限定が付いていません。設例1に当てはめます。次男が遺言書を破ったのは、父の死亡後です。ただ、887条2項は、891条に該当する時期を、相続の開始以前に限っていません。この読み方によれば、欠格で相続権を失った次男の子の孫は、父Aの直系卑属で、ただし書に当たりません。したがって、孫が、次男に代わって代襲相続人になります。父の相続人は、妻、長男、そして孫の3人です。次男は外れます。取り分、つまりいくらずつ受け取るかは、あとの回で扱います。
欠格は、あくまで、悪いことをした本人の資格を奪う制度です。その子には及びません。もう1点、押さえます。欠格は、その相続の被相続人との関係で判断されます。5号を見てください。「相続に関する被相続人の遺言書」とあります。次男が破ったのは、父の遺言書です。ですから、父の相続について、次男は欠格です。もし、あとで母が亡くなったとして、母の相続では、次男は、母の遺言書を破ったわけではありません。5号の文言からは、父の遺言書を破ったことを理由に、母の相続でも欠格になるとは読めません。なお、遺言を書いた本人が、自分の遺言書を破棄する場合は、欠格の問題ではなく、遺言の撤回の問題です。別の制度なので、そちらの回で扱います。
廃除とは何か
図:欠格と廃除の対比
- 欠格=事由に当たれば法律上当然に資格を失う(審判・意思表示は不要)
- 廃除=欠格の事由に当たらなくても、被相続人の請求により、家庭裁判所の審判によって資格を奪う
次に、廃除です。欠格は、事由があれば、当然に資格を失う制度でした。しかし、世の中には、欠格の5つの事由には当たらないけれども、被相続人にとって、この人には相続させたくない、というほどの事情がある場合もあります。そこで、民法は、もう1つの制度を用意しています。家庭裁判所の審判によって、相続人の資格を奪う制度です。これが、廃除です。欠格と廃除の違いを、先に1行で言います。欠格は、法律が当然に外します。廃除は、被相続人が家庭裁判所に求め、審判があって初めて外れます。この対比を頭に置いて、廃除の要件に入ります。
廃除の要件 892条・893条
図:設例3
- A(父)が次男Bから繰り返し暴力を受けている
- Bは子=遺留分を有する推定相続人
- Aは家庭裁判所にBの廃除を請求
- 審判が確定するとBは推定相続人でなくなる
- 要件=①遺留分を有する推定相続人②廃除事由(虐待/重大な侮辱/その他の著しい非行)③家庭裁判所への請求と審判
設例3です。父Aは、次男Bから、繰り返し暴力を受けています。父は、次男に遺産を渡したくありません。次男の暴力は、欠格の5つの事由には、当たりません。この場合、父は、廃除を使えます。条文を全文で読みます。
条文民法892条
民法第892条(推定相続人の廃除) 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
分けて読みます。要件は3つです。1つ目、廃除の対象は、遺留分を有する推定相続人です。推定相続人とは、条文のかっこ書のとおり、相続が開始した場合に相続人となるべき人、つまり、いま相続が始まれば相続人になる人です。遺留分とは、一定の相続人に保障された、相続財産の最低限の取り分です。2つ目、廃除事由です。3つあります。被相続人に対して虐待をしたこと。被相続人に重大な侮辱を加えたこと。そして、推定相続人にその他の著しい非行があったことです。3つ目の文言を、よく見てください。1つ目と2つ目は、被相続人に対して、と書かれていますが、3つ目は、被相続人に対して、という限定を付けていません。ですから、3つ目は、被相続人に向けた行為でなくても、推定相続人自身に著しい非行があれば、当たりうる、という作りです。設例3の暴力は、被相続人に対する虐待に当たります。3つ目の要件は、家庭裁判所への請求と、その審判です。廃除は、事由があっても、当然には生じません。被相続人が、家庭裁判所に請求して、審判が確定して初めて、効力を生じます。欠格のように、当然、ではありません。次に、問いです。兄弟姉妹には、遺留分があるでしょうか?
前回、ありませんでした。1042条1項でした。ここから、廃除が、遺留分を有する推定相続人にだけ使える理由が見えてきます。
図:設例4と対比
- 左(設例3の形)=子Bに渡したくないとき→全財産をDに遺贈しても、子には遺留分があるので、Bは遺留分侵害額の請求ができる→取り分を根こそぎ外すには廃除が要る
- 右(設例4)=A(独身・子も、親や祖父母などの直系尊属もいない)の相続人は兄B
- Bに渡したくない→全財産を第三者Dに遺贈すれば足りる
- 兄弟姉妹に遺留分は無い
- 廃除は使えず、使う必要もない
設例4です。被相続人Aは独身で、子も、親や祖父母などの直系尊属もいません。そのため、相続人は、兄のBだけです。889条1項2号です。Aは、この兄に遺産を渡したくありません。どうすればよいでしょうか。兄弟姉妹には、遺留分がありません。ですから、Aが、遺言で、全財産を第三者のDに遺贈すれば、それで足ります。兄のBは、取り戻せません。生前贈与で財産を処分しても、同じです。廃除という手間のかかる制度を、使う必要がありません。廃除の条文も、遺留分を有する推定相続人だけを対象にしていますから、兄には使えません。
設例3の次男の場合は、どうなりますか。次男にも、遺言で、全財産を長男や第三者に遺贈すれば、足りるのではないですか。そこが違います。次男は、子です。子には、遺留分があります。遺言で全財産を他の人に遺贈しても、子は、遺留分侵害額の請求をして、その額に当たるお金の支払を求められます。遺留分の中身と請求の仕組みは、遺留分の回で詳しく扱います。ここでは、子には取り分を守る力がある、と押さえてください。ですから、子や、配偶者、直系尊属のように、遺留分がある人の取り分を根こそぎ外したいなら、遺言や生前贈与では足りません。廃除という制度が必要になるのです。遺留分が無い人は遺言や生前贈与で外せば足り、遺留分がある人は、廃除が要る、という対比です。
図:893条
- 遺言による廃除
- 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示→遺言執行者が、遺言の効力発生後、遅滞なく家庭裁判所に廃除を請求しなければならない
- 認められれば、廃除は被相続人の死亡の時にさかのぼって効力を生ずる
廃除には、もう1つ、方法があります。生きている間に請求するのではなく、遺言で廃除する方法です。893条です。
条文民法893条
民法第893条(遺言による推定相続人の廃除) 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
前段です。父が遺言で、次男を廃除する、と書いて亡くなった場合です。このとき、請求するのは、父本人ではありません。遺言執行者です。父は、もう亡くなっているので、自分では請求できないからです。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、必要な行為をする役目を持つ人です。遺言執行者は、遺言が効力を生じたあと、遅滞なく、家庭裁判所に廃除を請求しなければなりません。請求「できる」ではなく、「しなければならない」という義務である点に、注意してください。後段は、効力の時期です。遺言による廃除が認められた場合、廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼって効力を生じます。次の節で、この時期の違いを整理します。
廃除の効果と取消し 893条後段・894条
図:廃除の効果
- ①相続権の喪失(時期=被相続人が生前に請求した場合は審判の確定時から/遺言廃除は被相続人の死亡の時にさかのぼる)②887条2項により代襲相続は生じる(設例3のBの子C)③廃除でも遺贈は受けられる
- 965条の準用先に892条は入っていない
廃除の効果です。まず、相続権を失います。時期が大事です。被相続人が生きているうちに請求した場合は、審判が確定した時から、相続権を失います。遺言による廃除の場合は、先ほどの893条後段のとおり、被相続人の死亡の時にさかのぼります。遺言による廃除では、家庭裁判所の審判が出るのは、被相続人が亡くなった後です。もし、さかのぼらなければ、相続が始まってから審判が確定するまでの間、次男は相続人として扱われてしまいます。893条後段は、死亡の時までさかのぼらせて、相続が始まった時から次男は相続人でなかった、と扱うのです。設例3で、父の請求で審判が確定したとします。次男は、そのときから、父の推定相続人でなくなります。2つ目、代襲相続です。887条2項は、廃除によって相続権を失ったときも、代襲相続の原因に挙げています。ですから、次男に子の孫がいれば、孫が代襲相続人になります。欠格と同じです。3つ目、遺贈です。ここが、欠格との違いです。965条は、891条を準用していますが、892条は準用していません。したがって、廃除された人は、遺贈を受ける資格を失いません。廃除は、相続人としての資格を奪う制度であり、遺贈を受ける資格までは奪わないのです。問いです。廃除の審判を受けた次男に、父が遺言で、財産を遺贈していました。次男は、遺贈を受けられるでしょうか。もし、次男が欠格だったら、どうでしょう?
廃除なら、受けられます。965条が892条を準用していないからです。欠格なら、965条が891条を準用しているので、受けられません。決め手は、965条の準用の対象に、892条が入っているかどうか、です。
図:894条
- 廃除の取消し
- 1項=被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求できる
- 2項=前条(893条)の規定は取消しに準用→遺言でも取消しができ、遺言による取消しは被相続人の死亡の時にさかのぼって効力を生ずる(相続開始の時に廃除はなかったことになる)
最後に、廃除の取消しです。被相続人の気が変わって、やはり許したい、という場合です。894条です。
条文民法894条
民法第894条(推定相続人の廃除の取消し) 1 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。 2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
1項です。被相続人は、いつでも、廃除の取消しを、家庭裁判所に請求できます。2項は、893条を準用しています。ですから、遺言で取消しを求めることもできます。その場合、遺言執行者が、遅滞なく、家庭裁判所に請求します。遺言による取消しが認められると、その効力は、被相続人の死亡の時にさかのぼります。つまり、相続が始まった時には、廃除はされていなかったことになり、その人は相続人になります。このように、過去にさかのぼって扱いが変わることを、遡及する、といいます。
今日の地図(保存版)
図:欠格と廃除の比較表
- 観点=対象/手続/相続資格/遺贈/代襲相続/取消し
- 欠格(891条)=5事由をした相続人/法律上当然(審判不要)/喪失/失う(965条→891条)/生じる(887条2項)
- 廃除(892〜894条)=遺留分を有する推定相続人(虐待・重大な侮辱・著しい非行)/家庭裁判所の審判(被相続人の請求・遺言なら遺言執行者)/喪失(生前=審判確定時・遺言=死亡時にさかのぼる)/失わない(965条は892条を準用しない)/生じる(887条2項)/取消し894条
- 放棄=自分から手放す・代襲相続は生じない(詳細は別の回)
まとめます。表の軸は、誰が、どう決めるか、です。欠格は、法律が決めます。891条の5つの事由があれば、審判も意思表示も要らず、当然に資格を失います。遺贈を受ける資格も失います。廃除は、被相続人が決めます。対象は、遺留分を有する推定相続人です。虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行があれば、家庭裁判所に請求し、審判を受けて、資格を失います。遺贈を受ける資格は失いません。共通点が1つあります。どちらも、代襲相続の原因になります。887条2項です。一方、放棄は、自分から手放す制度で、代襲相続は生じません。放棄の中身は、別の回に譲ります。
冒頭の設例1の次男は、父の遺言書を破って、遺言の実現を妨げて自分が得をしようとしたので、891条5号の欠格です。審判は要らず、当然に相続人から外れます。同じ遺言書に遺贈があっても、受けられません。ただし、次男の子の孫は、代襲相続人になります。父の相続人は、妻、長男、孫です。一方、同じ破棄でも、不当な利益を目的としていなければ、欠格ではありません。次男は相続人のままで、遺贈も受けられます。孫の代襲相続も起きません。次男は生きていて、相続人だからです。補足を1つ置きます。以前、親権喪失の審判を受けても、相続人でなくなるわけではない、と見ました。親権の問題と相続の問題は、別だからです。相続人から外すのは、欠格と廃除です。今日の整理です。欠格は5事由で当然、5号は二重の故意。廃除は遺留分を有する推定相続人に、家庭裁判所の審判で。どちらも代襲相続は生じ、遺贈は、欠格では受けられず、廃除では受けられます。次は、相続の承認と放棄に進みます。
参照条文
- 民法891条
- 民法965条
- 民法887条2項
- 民法892条
- 民法893条
- 民法894条