民法ゼロから民法#387

遺留分の放棄と民法の総復習

民法の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→

印刷用PDFを開く

第8章 相続 #387/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

次女は生前に遺留分を手放せるのか

冒頭の設例。父(A)は元気。長男(B)と次女(C)。遺言は全財産をBに遺贈する予定。Cは遺留分を求めない約束を、生きているうちの父にしておけるのか。 図:冒頭の設例

  • 父(A)は元気
  • 長男(B)と次女(C)
  • 遺言は全財産をBに遺贈する予定
  • Cは遺留分を求めない約束を、生きているうちの父にしておけるのか

前の回の設例を続けます。父、長男B、次女Cの家族です。母は先に亡くなっています。現金は4,800万円で、父の遺言は、全財産を長男Bに遺贈する、というものでした。前の回では、父が亡くなったあとで、次女Cが何を請求できるかを見ました。今回は時間を巻き戻します。父はまだ元気です。次女Cが、父に、私は遺留分を求めません、と約束しておくことはできるでしょうか。生前の相続放棄と、生前の遺留分の放棄の違いが、今日の入口です。結論は、遺留分の放棄は相続放棄と同じ扱いではない、ということです。生前でもできます。ただし条件があり、他の相続人の取り分も動きません。今日の道のりです。まず遺留分の放棄を見ます。次に、ここまで学んだ条文と考え方から、四つの選び分けを練習します。最後に、民法全体の地図を一枚で引き直します。

遺留分の放棄

問いの板。前の回の1048条。請求できる期間は、知った時から何年で、開始から何年か。 図:問いの板

  • 前の回の1048条
  • 請求できる期間は、知った時から何年で、開始から何年か

その前に、前の回の確認です。遺留分侵害額の請求ができる期間は、知った時から何年で、相続の開始から何年だったでしょうか?知った時から1年で、開始から10年です。しかも、かかるのは行使するまでの期間でした。では本題です。

1049条の読み方。1項=開始前の放棄は家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生ずる。2項=共同相続人の一人の放棄は他の遺留分に影響しない。 図:1049条の読み方

  • 1項=開始前の放棄は家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生ずる
  • 2項=共同相続人の一人の放棄は他の遺留分に影響しない

条文民法1049条

民法 第1049条(遺留分の放棄) 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

1049条です。1項は、相続の開始前の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限って効力が生じる、と定めます。2項は、共同相続人の一人が放棄しても、他の相続人の遺留分には影響しない、と定めます。相続放棄と遺留分の放棄は、手放すものが違います。相続放棄は、相続人という立場ごと手放します。生前にそれを認めると、父の意向に押されて、立場そのものを失う人が出かねない、と説明されます。だから、そもそも認めません。遺留分の放棄は、最低限の取り分だけを手放します。それでも、父や兄の圧力で、無理に書かされる心配は残ります。そこで、家庭裁判所が関門に立つ、と考えられています。申立ては、遺留分を持つ相続人本人が、相続の開始前に、被相続人の住所地の家庭裁判所へ行います。何を見て許可するかは、条文にはありません。たとえば、家業を長男Bに継がせたい父が、生きているうちに次女Cへマンションを贈り、その代わりにCが遺留分を手放す。こういう話では、たとえば、Cの本心から出た放棄かどうかが問題にされます。相続が始まったあとは、家庭裁判所の許可はいりません。始まった後の遺留分は、次女C自身の具体的な権利です。使わないのは本人の自由で、実際、請求しなければ、知った時から1年で消える権利でした。財産を持つ父の意向に押される場面も、もうありません。

比較板。行=開始前にできるか/開始前の家庭裁判所の許可/放棄したらどうなるか/他の相続人の遺留分。列=相続放棄・遺留分の放棄。相続放棄=できない/なし(開始後に家庭裁判所へ申述・938条)/初めから相続人でなかったことになる(939条)/率が変わる。遺留分の放棄=許可でできる/必要(1049条1項)/遺留分を手放す/影響しない。 図:比較板。行=開始前にできるか/開始前の家庭裁判所の許可/放棄したらどうなるか/他の相続人の遺留分。列=相続放棄・遺留分の放棄。相続放棄=できない/なし(開始後に家庭裁判所へ申述・938条)/初めから相続人でなかったことになる(939条)/率が変わる。遺留分の放棄=許可でできる/必要(1049条1項)/遺留分を手放す/影響しない。

二つの放棄を比べます。相続放棄は、開始前にはできません。相続が始まったあとに、家庭裁判所へ申述する手続でした。放棄すると、939条により、初めから相続人でなかったことになります。遺留分の放棄は、開始前でも許可でできます。手放すのは遺留分だけです。ここで、2項と、939条の違いが出ます。確認します。子B・Cの二人が相続人で、Cが相続放棄をしたとします。長男Bの個別的遺留分は、いくつになるでしょうか?Cは初めから相続人でなかったことになるので、Bは子ひとりです。2分の1です。では、Cが相続放棄ではなく、遺留分の放棄をした場合は、どうなるでしょうか。

Cは相続人のままで、法定相続分も変わらないのですから、Bは4分の1のままです。個別的遺留分は、総体的遺留分に法定相続分を掛けて出す、と前に見ました。この家族では、総体的遺留分は2分の1です。Cが遺留分を手放しても、Bの法定相続分は2分の1のままです。ですから、Bの遺留分は4,800万円の4分の1、1,200万円のままで、上乗せされません。Cの分の1,200万円は、父が自由に処分できる範囲に戻ります。父は、Bへの遺贈などで、その分も使えるようになります。相続人のままですから、相続債務も引き継ぎます。たとえば、父に借金があり、Cが生前に遺留分だけを放棄していたとします。父の死後、Cは法定相続分に応じて、借金を負う立場に残ります。相続放棄をすれば、初めから相続人でなかったことになり、借金を負いません。そこが、二つの放棄の大きな違いです。

節目の弁別 問1 遺贈か特定財産承継遺言か

弁別の板。四つの選び分け。①何を・誰に ②何のための計算か ③開始前にできるか ④誰と誰の争いか。 図:弁別の板

  • 四つの選び分け
  • ①何を・誰に
  • ②何のための計算か
  • ③開始前にできるか
  • ④誰と誰の争いか

ここから、選び分けの練習です。事例を聞いて、どのルールが当たるかを先に選んでください。答えは、考える間をおいてから出します。

問1。遺言①自宅の土地建物を長男Bに相続させる。遺言②別荘を世話になった友人に遺贈する。①と②は、遺贈か、特定財産承継遺言か。 図:問1

  • 遺言①自宅の土地建物を長男Bに相続させる
  • 遺言②別荘を世話になった友人に遺贈する
  • ①と②は、遺贈か、特定財産承継遺言か

問1です。父の遺言が二つあります。①は、自宅の土地建物を長男Bに相続させる。②は、別荘を、世話になった友人に遺贈する。①と②は、それぞれ、遺贈でしょうか、特定財産承継遺言でしょうか?①は、相続人に相続させるのですから、特定財産承継遺言だと思います。②は、相続人でない友人ですから、遺贈です。①は、遺贈と読むべき特段の事情がない限り、遺産分割方法の指定、つまり特定財産承継遺言です。②は、相続人でない人への遺贈です。軸は、何を、誰に、です。特定の財産を、相続人に、相続させるなら特定財産承継遺言です。ここまでの話につなげます。①の自宅を受けた長男Bも、②の別荘を受けた友人も、どちらも遺留分侵害額請求の相手になります。負担の順序でも、遺贈と同じ扱いです。登記も見ておきます。①は相続による承継なので、Bは、法定相続分である2分の1までは登記なしで対抗でき、超える部分は、899条の2により登記が要ります。②は相続人でない友人への遺贈なので、別荘の全部について、177条で登記が要ります。相続人が受け取るなら、相続させるでも遺贈するでも、結果は同じだと前に見ました。差が出るのは、受け取る人が相続人かどうかです。

節目の弁別 問2 903条か1044条か

問2。父は15年前、長男Bに生計の資本として800万円を贈与していた。(a)遺言がなく遺産分割をするなら持ち戻すか。(b)次女Cの遺留分の基礎財産に入るか。 図:問2

  • 父は15年前、長男Bに生計の資本として800万円を贈与していた
  • (a)遺言がなく遺産分割をするなら持ち戻すか
  • (b)次女Cの遺留分の基礎財産に入るか

問2です。父は15年前に、長男Bへ、生計の資本として800万円を贈与していました。ふたつ聞きます。a、遺言がなく遺産分割をするなら、Bはこの800万円を持ち戻すでしょうか? b、次女Cの遺留分の基礎財産に、この800万円は入るでしょうか?aは持ち戻すと思います。bは、10年より前なので入らないと思います。aは903条の持戻しです。持戻しとは、生前にもらった分を遺産に戻して数え、取り分を計算することでした。903条には、遡る期間の限定がありません。例えば、15年前の生計の資本としての贈与でも、持ち戻します。bは1044条3項です。相続人への贈与は、相続開始前の10年間のものに限り、しかも生計の資本等に当たるものだけが入ります。15年前の800万円は入りません。ただし、贈った父ともらったBの双方が、遺留分権利者に損害を加えると知っていた場合は、10年より前でも入ります。軸は、何のための計算か、と、遡る期間です。遺産分割は、残った遺産を相続人の間で分け直す計算なので、古い贈与も数えて公平にします。遺留分は、もらった人からお金を取り戻す計算のもとです。そこで条文は、相続人への贈与を、原則として相続開始前の10年に限っています。なお、相続が始まってから10年たつと、原則として、遺産分割で持戻しを主張できなくなります。904条の3の、別の10年でした。加えて、次女Cが15年前に生計の資本などの贈与を受けていれば、侵害額を出すとき、1046条2項1号で、Cがすでにもらった分として引きます。誰かから取り戻す話ではなく、C自身の手元の話なので、期間の制限がありません。

節目の弁別 問3 相続放棄か遺留分の放棄か

問3。生前の父に、次女Cが「家は長男が継ぐから、私は何も要らない」と書面を差し入れた。Cは生前に相続放棄できるか。遺留分の放棄ならできるか。 図:問3

  • 生前の父に、次女Cが「家は長男が継ぐから、私は何も要らない」と書面を差し入れた
  • Cは生前に相続放棄できるか
  • 遺留分の放棄ならできるか

問3です。生きている父に、次女Cが、家は長男が継ぐから、私は何も要りません、と書面を差し入れました。Cは、生前に、相続放棄ができるでしょうか? 遺留分の放棄ならできるでしょうか?相続放棄はできません。遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可があればできます。ただ、この書面だけでは、どちらとしても効力はありません。相続が始まる前の相続放棄は、そもそもできません。遺留分の放棄も、1049条1項により、Cが家庭裁判所に申し立てて、許可を受けたときに限り、効力が生じます。軸は、開始前にできるか、です。相続放棄なら、相続人でなくなり、ほかの人の遺留分の率も変わります。遺留分の放棄なら、相続人のままで、ほかの人の遺留分は動きません。さきほどの比較板が、そのまま答えです。

節目の弁別 問4 侵害額請求か899条の2か

問4。遺言「自宅は長男Bに相続させる」。遺産は自宅だけ。相続人は子2人で登記は未了。次女Cの債権者Dが、Cに代わって法定相続分2分の1の共同相続の登記をして持分を差し押さえた。BはDに対抗できるか。CはBに何を請求できるか。 図:問4

  • 遺言「自宅は長男Bに相続させる」
  • 遺産は自宅だけ
  • 相続人は子2人で登記は未了
  • 次女Cの債権者Dが、Cに代わって法定相続分2分の1の共同相続の登記をして持分を差し押さえた
  • BはDに対抗できるか
  • CはBに何を請求できるか

問4です。遺言は、自宅を長男Bに相続させる、というものです。遺産は、この自宅だけです。相続人は子ふたりで、登記はまだです。次女Cにお金を貸しているDが、Cに代わって、法定相続分どおりの共同相続の登記をし、Cの持分2分の1を差し押さえました。長男BはDに対抗できるでしょうか? 次女CはBに何を請求できるでしょうか?整理しましょう。ふたつの関係は別の話です。長男BとDの優劣を決めるのは、問1で見た、899条の2第1項です。法定相続分を超える部分は、登記などの対抗要件がなければ、第三者に対抗できません。次女の2分の1は、Bの超過部分にあたります。登記がないBは、Dに対抗できません。次女CとBの間は、遺留分侵害額請求です。遺産は自宅だけで、Cは何も受け取っていませんから、Cの遺留分、自宅の価額の4分の1が侵害されています。請求できるのは、その額の金銭です。では、債権者Dが、この請求権をCに代わって使えるか。債権者が債務者の権利を代わりに使う、423条の債権者代位です。前の回で見たとおり、原則としてできません。遺留分を取り戻すかどうかは、C自身が決めることだからです。Cが請求する意思をはっきり外に示した、などの特段の事情があれば別でした。Dが頼れるのは、登記の優劣です。軸は、誰と誰の争いか、です。相続人どうしの金銭の争いなら、遺留分侵害額請求です。権利を取得した人と第三者の優劣なら、対抗要件の問題です。

四問の軸を並べます。何を誰に。何のための計算か。開始前にできるか。誰と誰の争いか。

民法の地図を一枚で引き直す

民法の地図。第1章 民法総則(人と物と法律行為)→第2章 物権(物の支配)→第3章 担保物権(回収の確保)→第4章 債権総論(債権の効力と消滅)→第5章 債権各論・契約(約束)→第6章 法定債権(約束によらない債権)→第7章 親族(家族の関係)→第8章 相続(死後の承継)。下段=民法典の五つのパート(総則・物権・債権・親族・相続)。物権と債権=財産法/親族と相続=家族法。 図:民法の地図

  • 第1章 民法総則(人と物と法律行為)→第2章 物権(物の支配)→第3章 担保物権(回収の確保)→第4章 債権総論(債権の効力と消滅)→第5章 債権各論・契約(約束)→第6章 法定債権(約束によらない債権)→第7章 親族(家族の関係)→第8章 相続(死後の承継)
  • 下段=民法典の五つのパート(総則・物権・債権・親族・相続)
  • 物権と債権=財産法/親族と相続=家族法

最後に、民法の地図を引き直します。民法は、八つの章で学んできました。第1章は民法総則で、人と物と法律行為です。第2章は物権で、物の支配です。第3章は担保物権で、回収の確保です。第4章は債権総論で、債権の効力と消滅です。第5章は契約で、約束です。第6章は法定債権で、約束によらない債権です。第7章は親族で、家族の関係です。第8章は相続で、死後の承継です。民法典の側では、五つのパートです。総則、物権、債権、親族、相続です。物権と債権を合わせて財産法、親族と相続を合わせて家族法と呼びました。総則は、その両方に共通します。

前の回と今日の話で、数えてみます。次女が請求の意思表示をして、それが相手に届く場面は、民法総則の97条です。請求して生まれたお金の債権が、時効で消えるのは、同じく総則の166条です。長男が登記をして第三者に対抗する場面は、物権の177条と、相続の899条の2です。債権者が債務者の権利を代わりに行使できるかは、債権総論の423条です。負担の順序に出てくる死因贈与で、遺贈の規定を準用するのは、契約の554条です。そして、相続放棄の938条と939条は、相続そのものです。遺留分は、多くの章の道具を使う最終地点です。個々の条文は、地図のどこにあるかで、意味がつかめます。条文を読んでいて迷ったら、地図に戻って、いまどの章の道具を使っているかを確かめてください。

今日の地図(保存版)

まとめ。①遺留分の放棄=開始前は家庭裁判所の許可・開始後は自由・他の遺留分は増えない・相続放棄は開始前不可②選ぶ軸=何を誰に/何のための計算か/開始前にできるか/誰と誰の争いか③民法の地図=八つの章と五つのパート。 図:まとめ

三点で確認します。一つ目、遺留分の放棄です。開始前は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力が生じ、開始後は自由です。共同相続人の一人が放棄しても、他の人の遺留分は増えません。相続放棄は、開始前にはできず、放棄すると初めから相続人でなかったことになります。二つ目、四つの選び分けの軸です。遺贈か特定財産承継遺言かは、何を誰に。903条か1044条かは、何のための計算か。相続放棄か遺留分の放棄かは、開始前にできるか。侵害額請求か899条の2かは、誰と誰の争いか。三つ目、地図です。八つの章を、五つのパートと財産法、家族法につなげて持ち歩いてください。地図を持って、条文に戻りましょう。

参照条文

  • 民法1049条

民法 全体ロードマップへ →

民法 の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→