民法ゼロから民法#386

遺留分侵害額請求権の行使と負担の順序

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第8章 相続 #386/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

次女は今から請求できるのか

冒頭の設例。父が亡くなり、遺言で全財産(現金4,800万円)を長男に遺贈した。相続人は長男と次女の2人。次女は、父の死と遺言の中身を同じ日に知り、その日から1年が過ぎようとしている(あと1週間)。次女は長男に何も言っていない。今から請求できるのか。どう伝えればよいのか。 図:冒頭の設例

  • 父が亡くなり、遺言で全財産(現金4,800万円)を長男に遺贈した
  • 相続人は長男と次女の2人
  • 次女は、父の死と遺言の中身を同じ日に知り、その日から1年が過ぎようとしている(あと1週間)
  • 次女は長男に何も言っていない
  • 今から請求できるのか
  • どう伝えればよいのか

今日は、これまでとは別の家族で考えます。前の2回に出てきた友人や長女の設例とは、人物も数字も関係ありません。父が亡くなりました。母は先に亡くなっていて、子は長男と次女の2人だけです。遺産は現金4,800万円だけで、借金はありません。遺言は、全財産を長男に遺贈する、というものでした。次女は、父が亡くなったことと、遺言の中身を、同じ日に知りました。その日から、もうすぐ1年です。あと1週間しかありません。次女は、長男にまだ何も言っていません。今日の問いは2つです。次女は、今からでも長男に請求できるのか。できるとして、どう伝えればよいのか。この回の中で答えを出します。数字を先に置きます。次女の遺留分額は、前の回の式で出せます。4,800万円に、総体的遺留分の2分の1と、次女の法定相続分の2分の1を掛けて、1,200万円です。次女は何も受け取っておらず、借金もありませんから、侵害額もそのまま1,200万円です。軸を先に言います。遺留分の請求は、3つを順に決めれば答えが出ます。1つ目は、何を請求するのか、つまり権利の性質です。2つ目は、誰に、どの順序で請求するのかです。3つ目は、いつまでに請求するのかです。前の回の終わりに予告した、誰に、どの順序で、いつまでに、がこの3つです。道のりです。権利の性質、相手方、行使の方法、期間と進んで、冒頭の答えを出します。そのあと、債権者が代わりに行使できるのか、相手が複数いるときの負担の順序を見ます。遺留分の放棄は、別の回で扱います。

請求権の性質は形成権

形成権の図。行使前=次女に債権なし。次女が長男に意思表示→長男に対する金銭支払請求権(1,200万円)が発生。遺贈の効力は否定されない。出典=最判昭41・7・14 民集20巻6号1183頁 図:形成権の図

  • 行使前=次女に債権なし
  • 次女が長男に意思表示→長男に対する金銭支払請求権(1,200万円)が発生
  • 遺贈の効力は否定されない
  • 出典=最判昭41・7・14 民集20巻6号1183頁

1つ目、権利の性質です。遺留分権利者とその承継人は、受遺者や受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます。1046条1項でした。前の回までに、請求の中身が、物を取り戻す形から金銭の形に変わったことは見ています。今日は、この請求する権利そのものの性質を見ます。

条文民法1046条1項

民法 第1046条第1項(遺留分侵害額の請求) 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

結論は、遺留分侵害額請求権は形成権だということです。意思表示だけで、法律関係を変えてしまう権利です。取消権や解除権と同じ型です。取り消すと言えば、契約の効力が変わりますね。それと同じです。遺留分の場合、次女が長男に請求すると意思表示をすると、その瞬間に、次女は長男に対して、侵害額に相当する金銭を支払えという債権を持ちます。行使する前の次女は、まだ債権を持っていません。持っているのは、債権を生み出す権利だけです。権利と、そこから生まれる債権は別物です。たとえるなら、スイッチです。押す前は何も起きず、押した瞬間に、金銭の請求権という電灯がつきます。もう1つ大事な点があります。行使しても、遺贈の効力は否定されません。遺贈された現金は、そのまま長男のもとに残ります。次女が持つのは、長男に対する金銭の請求権です。改正の前は、行使すると物の権利が動きましたが、今はそうなりません。なぜ形成権なのか。遺言は、まずそのとおりに効力を生じます。それを覆して取り戻すかどうかは、権利者本人が決めることだからです。だから、本人が意思表示をした時に初めて効果が出る形になっています。最高裁も、この権利を形成権と解しています。改正前の旧法の権利についての判断ですが、考え方は今の条文でも同じです。意思表示で足りて、裁判を起こす必要はないとされました。規範として覚えるのは、遺留分侵害額請求権は形成権で、行使すると金銭支払請求権が発生する、という形です。

誰に請求するのか

相手方の4類型。①遺贈の受遺者②特定財産承継遺言で財産を承継した相続人③相続分の指定を受けた相続人④遺留分を算定するための財産の価額に算入される贈与の受贈者。 図:相手方の4類型

2つ目、誰に請求するかです。1046条1項は、相手を受遺者と受贈者としています。受遺者には、普通の遺贈を受けた人のほかに、かっこ書の中で、特定財産承継遺言で財産を承継した相続人と、相続分の指定を受けた相続人が含まれます。前に、これらの相続人も請求の相手になると言いました。ここで、その根拠の条文が確認できました。どちらも、遺言で、特定の財産や多めの割合を相続人に与える形です。名前は遺贈と違っても、遺言で多く受け取る点は同じなので、受遺者と同じに扱います。設例の長男は、遺言で全財産の遺贈を受けた受遺者です。相続人かどうかは関係ありません。遺贈を受ければ、受遺者として相手になります。受贈者は、無条件に相手になるわけではありません。基礎財産に算入される贈与の受贈者だけです。1047条1項の柱書にある、2つ目のかっこ書です。基礎財産に入らない贈与、たとえば、相続開始の1年より前に第三者へした贈与で、双方が遺留分権利者に損害を加えると知らなかったものの受贈者は、負担を求められません。なぜ外れるのか。侵害額は、計算のもとに入れた財産から出しています。計算に入れなかった贈与は、侵害を生んだ側に数えていないので、その受贈者に負担させる理由がないのです。整理します。相手になるのは、受遺者に、基礎財産に入る贈与の受贈者を加えた人たちです。

行使の方法は意思表示

行使の方法。相手方への意思表示で足りる(裁判上の請求は不要)。意思表示は相手に到達した時に効力を生ずる(97条1項)=発信ではない。遺産分割協議の申入れに意思表示が含まれうる。 図:行使の方法

  • 相手方への意思表示で足りる(裁判上の請求は不要)
  • 意思表示は相手に到達した時に効力を生ずる(97条1項)=発信ではない
  • 遺産分割協議の申入れに意思表示が含まれうる

3つ目の柱に入る前に、行使の方法を見ます。形成権ですから、相手方に対する意思表示で足ります。裁判を起こす必要はありません。口頭でも成り立ちますが、実務では、いつ届いたかが証拠に残る内容証明郵便がよく使われます。出した日ではなく、届いた日です。意思表示は、相手に到達した時から効力を生じます。97条1項です。到達とは、相手が内容を知ろうと思えば知れる状態に置かれることをいいます。ですから、期間内に、相手に届いていなければなりません。発信ではありません。次の問題です。次女が、遺贈の効力は争わずに、長男に、遺産を分けよう、とだけ伝えていたら、請求の意思表示になるでしょうか。最高裁は、なると判断しました。ただし、旧法の事件で、判旨も旧法の言葉で書かれています。読むときは、遺留分侵害額の請求、と置き換えてください。

判例最判平10・6・11 民集52巻4号1034頁

遺産分割協議の申入れに、遺留分の意思表示が含まれる場合 被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合において、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべきである。

理由は、全財産が遺贈されているなら、遺産の配分を求めるには、遺留分の請求によるほかないからです。遺贈を認めたうえで、分けてほしいと言うなら、その中に遺留分の請求の意思が含まれると読むのです。特段の事情とは、そう読めない例外の事情のことです。この判決は、全財産が遺贈された事案です。設例も遺贈ですから、当てはまります。同じ判決は、到達についても判断しています。内容証明郵便が、郵便局に留置されたまま、期間が過ぎて返ってきた場合でも、内容が分かり、受け取ろうと思えば受け取れたなどの事情があれば、遅くとも留置期間が満了した時に到達した、とされました。届くかどうかは、相手が受け取れる状態になったかで決まります。規範として覚えるのは、意思表示で足りること、到達が要ること、遺産分割協議の申入れでも意思表示ありとされうること、の3つです。

期間の制限と冒頭の答え

問いの板。相続開始から10年が過ぎたら、知らなかった遺留分権利者は請求できるか。 図:問いの板。相続開始から10年が過ぎたら、知らなかった遺留分権利者は請求できるか。

期間の話の前に、問いです。相続開始から10年が過ぎたとき、遺留分があることを知らなかった権利者は、請求できるでしょうか?できません。理由は、これから条文で見ます。

1048条の読み方。①知った時から1年(時効)=相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時②相続開始の時から10年=知らなくても同様。 図:1048条の読み方

条文民法1048条

民法 第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限) 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

1048条です。期間は2つあります。1つ目、知った時から1年です。知った内容は2つで、相続が始まったことと、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことです。両方を知った時から数えます。設例の次女は、父の死と遺言の中身を同じ日に知ったので、その日から1年です。2つ目、相続開始の時から10年です。こちらは、知っていたかどうかを問いません。知らなくても、10年を過ぎれば、請求できなくなります。さきほどの問いの答えは、できない、です。次に、この期間がかかる対象を見ます。1048条がかかるのは、遺留分侵害額の請求権、つまり形成権の行使までです。行使で生じた金銭の請求権は、1048条の外にあり、普通の債権と同じ時効のルール、166条1項で数えます。知った時から5年、行使できる時から10年です。

行使→金銭債権→166条の図。形成権(1048条の1年・10年)→行使(意思表示)→金銭支払請求権(166条1項)。 図:行使→金銭債権→166条の図

1年以内に必要なのは、請求しますという意思表示を相手に届かせることだけです。支払そのものは後でかまいません。意思表示が届けば、金銭債権が生まれ、その債権は別の時効で進みます。最高裁も、行使すれば確定的に効力が生じ、その権利そのものについて、時効を考える余地はない、と述べています。旧法の事件ですが、考え方は同じです。さきほどのスイッチで言えば、1年は、スイッチを押すまでの期限です。押して点いた電灯、つまり金銭の請求権の寿命は、別に数えます。

時間軸の板。相続開始=知った日→1年の期限(あと1週間)。期限前に意思表示が届けば間に合う。期限後に届けばアウト。相続開始から10年の矢印も別に引く。 図:時間軸の板

  • 相続開始=知った日→1年の期限(あと1週間)
  • 期限前に意思表示が届けば間に合う
  • 期限後に届けばアウト
  • 相続開始から10年の矢印も別に引く

冒頭の答えを出します。次女は、今からでも請求できます。1年が過ぎる前に、長男へ意思表示が届けば、間に合います。金額の支払は後でかまいません。口頭でも成り立ちますが、あと1週間ですから、日付が証拠に残る方法で、期限の前に届くようにします。期限の1週間前に内容証明郵便を発送しても、届いたのが期限を過ぎてからなら、間に合いませんでした。97条1項で見たとおり、効くのは届いた時です。発送した日ではありません。

3つの10年の表。904条の3=相続開始の後に流れる10年(特別受益・寄与分の主張の制限)/1044条3項=相続開始の前にさかのぼる10年(相続人への贈与の算入)/1048条=相続開始から10年(請求権の消滅)。 図:3つの10年の表

前の前の回、遺留分の計算のもとを数えた回で、10年がもう1つ出てくると予告しました。ここで3つを整理します。904条の3の10年は、相続開始の後に流れる10年で、特別受益や寄与分の主張を制限するものでした。1044条3項の10年は、相続開始の前にさかのぼる10年で、相続人への贈与が基礎財産に入る範囲です。そして1048条の10年は、相続開始から10年で、請求権が消える期間です。覚えるのは、1048条の条文として、知った時から1年と開始から10年の2つ、そのうえで、かかるのは行使までで、生じた金銭債権は166条で数える、の4点です。

債権者は代わりに行使できるのか

問いの板。債権者代位で、代位できないと423条1項ただし書が定める権利は何か。 図:問いの板。債権者代位で、代位できないと423条1項ただし書が定める権利は何か。

債権者代位の回の問いです。債権者は、債務者の権利を代わりに行使できますが、できない権利を423条1項ただし書は、何と定めていたでしょうか?債務者の一身に専属する権利と、差押えを禁じられた権利です。承継される権利でも、行使上は一身専属で、代位できない例として、遺留分の請求の権利を挙げました。ここで回収します。設例を足します。次女には、知人のDから借りたお金があります。次女が長男に何も言わないなら、Dは次女の代わりに、長男へ請求の意思表示をできるでしょうか。

債権者代位の板。原則=代位できない(行使上の一身専属)。例外=権利行使の確定的意思を外部に表明したと認められる特段の事情。理由=遺留分を回復するかは権利者の自律的決定にゆだねられている。 図:債権者代位の板

  • 原則=代位できない(行使上の一身専属)
  • 例外=権利行使の確定的意思を外部に表明したと認められる特段の事情
  • 理由=遺留分を回復するかは権利者の自律的決定にゆだねられている

最高裁は、原則としてできないと判断しました。旧法の事件で、判旨も旧法の言葉で書かれていますが、現行法でも同じように解されるのが一般です。判決は、理由をこう述べています。

判例最判平13・11・22 民集55巻6号1033頁

遺留分は、権利者の自律的決定にゆだねられている 遺留分制度は,被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。民法は,被相続人の財産処分の自由を尊重して,遺留分を侵害する遺言について,いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上,これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを,専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる。

判例最判平13・11・22 民集55巻6号1033頁

確定的意思を外部に表明した特段の事情がなければ、債権者代位の目的とならない 遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができないと解するのが相当である。

読み方です。遺言は、いったんそのとおりの効果が生じます。それを覆すかどうかは、権利者本人が決めるべきことだ、という理由です。これが、行使上の一身専属性です。この権利は、相続人に承継されます。しかし、承継されても、代位はできません。承継されることと、行使の自由が本人にあることは、別の物差しだからです。例外は、権利者本人が、行使する確定的な意思を外部に表明したと認められる場合です。たとえば、権利を第三者に譲渡した場合です。設例では、次女が請求すると外部に表明していない限り、Dは次女に代わって、長男へ意思表示をすることはできません。規範として覚えるのは、行使上の一身専属により代位できない、ただし確定的意思を外部に表明した等の特段の事情を除く、という形です。

受遺者・受贈者の負担額

1047条1項柱書の読み方。負担の限度=遺贈・贈与の目的の価額。受遺者・受贈者が相続人のときは、目的の価額から自分の遺留分額を引いた額が限度。 図:1047条1項柱書の読み方

  • 負担の限度=遺贈・贈与の目的の価額
  • 受遺者・受贈者が相続人のときは、目的の価額から自分の遺留分額を引いた額が限度

条文民法1047条1項

民法 第1047条第1項(受遺者又は受贈者の負担額) 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

次は、2つ目の柱、誰に、どの順序で、の続きです。まず、負担の上限です。1047条1項の柱書は、遺贈や贈与の目的の価額を限度として、遺留分侵害額を負担する、と定めます。受けた物以上は、負担しません。かっこ書の特則があります。受遺者や受贈者が相続人であるときは、目的の価額から、自分の遺留分額を引いた額が限度です。相続人の遺留分を侵害してまで、負担させることはしないのです。設例で見ます。長男は、4,800万円の遺贈を受けました。長男も相続人ですから、自分の遺留分額は、4,800万円の4分の1で、1,200万円です。この分は削られません。負担の限度は、4,800万円から1,200万円を引いた、3,600万円です。

次女は、侵害額の1,200万円を全額、請求できます。

1047条2項。目的の価額の算定に準用=904条(相続開始の時の状態で評価)、1043条2項(条件付権利・存続期間の不確定な権利は鑑定人の評価)、1045条(負担付贈与・不相当な対価の有償行為)。 図:1047条2項

条文民法1047条2項

民法 第1047条第2項 第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。

2項です。目的の価額の算定には、基礎財産の算定と同じ規定が準用されます。贈与の価額は相続開始の時の状態で評価し、条件付きの権利などは鑑定人が評価し、負担付贈与などは1045条の考え方によります。新しい考え方はなく、基礎財産の評価をそのまま使う、という趣旨です。条文の定めとして覚えるのは、限度は目的の価額で、相続人であればそこから自分の遺留分額を引く、という形です。

受遺者・受贈者が複数いるとき

問いの板。死因贈与には、遺贈のどんな規定が準用されるか。 図:問いの板。死因贈与には、遺贈のどんな規定が準用されるか。

死因贈与の回の問いです。死因贈与には、遺贈のどんな規定が準用されるでしょうか?554条で、その性質に反しない限り、準用されます。ここでは、その準用を負担の順序に当てはめます。

問いの板。遺贈と死因贈与、先に負担するのはどちらか。 図:問いの板。遺贈と死因贈与、先に負担するのはどちらか。

続けて問いです。遺贈と死因贈与がともにあるとき、先に負担するのはどちらでしょうか?先に負担するのは、遺贈のほうです。理由を順に見ます。まず、条文の号です。

1047条1項各号。一=受遺者と受贈者がいるときは受遺者が先/二=受遺者が複数、または受贈者が複数で贈与が同時なら、目的の価額の割合で負担(遺言者の別段の意思があればそれに従う)/三=受贈者が複数で時期が違えば、後の贈与の受贈者から順に。 図:1047条1項各号

条文民法1047条1項各号

民法 第1047条第1項各号(受遺者又は受贈者の負担額) 一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。 二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。 三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

1号は、受遺者と受贈者がいるときは、受遺者が先に負担します。2号は、受遺者が複数のとき、または、受贈者が複数でも贈与が同時のときです。目的の価額の割合に応じて負担します。ただし、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。3号は、受贈者が複数で時期が違うときです。後の贈与の受贈者から順に、前の贈与の受贈者が負担します。覚え方は、財産を取得した時期が、現在に近い人から負担する、です。遺贈は、亡くなった時に効力が生じる、一番新しい取得です。次に新しい贈与、その次に古い贈与、と遡ります。同時なら割合です。この順序の理由は、条文には書かれていません。ただ、新しい取得からという1本の物差しにそろえると、遺贈、死因贈与、新しい贈与、古い贈与の並びが、まとめて覚えられます。遺贈には、特定財産承継遺言による承継と、相続分の指定による取得も含まれます。1項柱書のかっこ書でした。これらの相続人も、受遺者と同じ順位で負担します。

ここで残る問題が、死因贈与の位置です。1047条には、その位置を定める文言がありません。554条で遺贈の規定が準用されるとはいえ、死因贈与は契約で行う贈与でもあります。遺贈の側に置くのか、贈与の側に置くのか、条文だけでは決まりません。この点は、裁判例が補っています。下級審ですが、東京高裁の判決があります。旧法の事件で、判旨は旧法の言葉で書かれています。

判例東京高判平12・3・8 高民集53巻1号93頁

死因贈与は遺贈の次、生前贈与より先に対象とする 通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である。

理由は、死因贈与は贈与として扱うべきでも、通常の生前贈与より遺贈に近いからです。死因贈与には、遺贈の規定が準用される、という554条の考え方とつながります。この判決は、同じ事件で、相続させる遺言、つまり今の特定財産承継遺言を受けた相続人を先に負担させました。それで足りるなら、死因贈与の受贈者には請求しなくてよいとしました。計算のもとを数えた回では、死因贈与の財産を、遺贈と同じく相続開始の時の財産の側に数えました。あれは何を数えるかの話で、ここは誰が先に負担するかの話です。ここまでを、数字で確かめます。ここだけは計算のための仮の場面で、冒頭の家族とは違います。長男はいないことにして、相続人は次女ひとり、基礎財産は2,200万円、遺留分額は1,100万円とします。次女は何も受けておらず、侵害額は1,100万円です。

計算表。侵害額1,100万円。E=遺贈600万円、F=死因贈与200万円、G=10か月前の生前贈与500万円、H=4か月前の生前贈与900万円。負担の順=E600(全額)→F200(全額)→H300(後の贈与から)→G0。 図:計算表

  • 侵害額1,100万円
  • E=遺贈600万円、F=死因贈与200万円、G=10か月前の生前贈与500万円、H=4か月前の生前贈与900万円
  • 負担の順=E600(全額)→F200(全額)→H300(後の贈与から)→G0

受けた人は4人です。Eは遺贈600万円、Fは死因贈与200万円、Gは10か月前に500万円、Hは4か月前に900万円の生前贈与です。まず遺贈のEが、600万円を全額負担します。残りは500万円です。次に死因贈与のFが、200万円を全額負担します。残りは300万円です。そのあとは生前贈与で、新しいHが先です。Hは900万円のうち300万円を負担して、侵害額は埋まります。Gの負担はゼロです。同時の場合も見ます。遺贈が2人で、E1が600万円、E2が400万円、侵害額が500万円なら、目的の価額の割合の6対4で、E1が300万円、E2が200万円を負担します。覚えるのは、条文の号の順序に、死因贈与を遺贈の次に置く裁判例を足した形で、遺贈、死因贈与、新しい贈与の順、同時なら目的の価額の割合です。

無資力・承継債務の弁済・期限の許与

1047条4項。受遺者・受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担。例:Eが無資力で600万円が取れない→次女が負担。Hの負担は300万円のまま。次女が受け取れるのはF200+H300=500万円。 図:1047条4項

  • 受遺者・受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担
  • 例:Eが無資力で600万円が取れない→次女が負担
  • Hの負担は300万円のまま
  • 次女が受け取れるのはF200+H300=500万円

条文民法1047条4項・5項

民法 第1047条第4項・第5項 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

4項です。受遺者や受贈者が無資力で払えない場合、その損失は、遺留分権利者が負います。他の受遺者や受贈者に、肩代わりさせることはできません。理由は、他の受遺者や受贈者に、その人たちの無資力の危険まで負わせるのは相当でないからです。さきほどの計算で、Eが無資力で、600万円が取れなかったとします。次女がその損失を負います。Hの負担は300万円のままです。次女が受け取れるのは、Fの200万円とHの300万円で、500万円です。無資力の損失は権利者が負うので、他の人の負担は増えず、順序もずれません。ずれないことが、4項の意味です。5項です。裁判所は、受遺者または受贈者の請求により、負担する債務の全部または一部の支払に、相当の期限を与えられます。支払の猶予です。受遺者が、すぐには払えないときのための定めです。たとえば、相続した土地を売ってから払う場合や、住んでいる自宅を手放せない場合です。

1047条3項。遺留分権利者承継債務を弁済した受遺者・受贈者は、消滅した債務の額の限度で、意思表示により負担を消滅させられる。例:借金600万円→次女の承継分300万円→侵害額1,350万円。長男が600万円を全額弁済→負担は1,350−300=1,050万円。 図:1047条3項

  • 遺留分権利者承継債務を弁済した受遺者・受贈者は、消滅した債務の額の限度で、意思表示により負担を消滅させられる
  • 例:借金600万円→次女の承継分300万円→侵害額1,350万円
  • 長男が600万円を全額弁済→負担は1,350−300=1,050万円

条文民法1047条3項

民法 第1047条第3項 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

最後に3項です。前の回で見た、侵害額に承継する債務を足す、1046条2項3号の続きです。受遺者や受贈者が、遺留分権利者が承継する債務を弁済したときは、消滅した額の限度で、意思表示によって、自分の負担を消せます。その代わり、遺留分権利者に対する求償権も、同じ額だけ消えます。数字で見ます。冒頭の家族で、父に借金が600万円あったとします。遺産は現金4,800万円ですから、基礎財産は4,200万円で、次女の遺留分額は1,050万円です。次女は借金の2分の1、300万円を承継します。侵害額は、1,050万円に300万円を足した、1,350万円です。長男が、債権者に600万円を全額弁済したとします。そのうち、次女が承継する300万円は、次女のために払った分です。長男は、意思表示をして、その300万円の分だけ、次女への負担を消せます。負担は、1,350万円から300万円を引いた、1,050万円になります。条文の定めとして覚えるのは、無資力の損失は遺留分権利者の負担で、期限の許与は裁判所が受遺者などの請求によって行う、という形です。ここは、論文で論点になりうるところです。

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まとめ。①性質と期間=形成権・意思表示で足りる・知って1年・開始から10年・生じた金銭債権は166条②相手方と順序=受遺者→死因贈与→新しい贈与から・同時は割合・無資力は権利者の負担③代位は原則できない。冒頭の答え=期限前に届けばよい。 図:まとめ

  • ①性質と期間=形成権・意思表示で足りる・知って1年・開始から10年・生じた金銭債権は166条②相手方と順序=受遺者→死因贈与→新しい贈与から・同時は割合・無資力は権利者の負担③代位は原則できない
  • 冒頭の答え=期限前に届けばよい

3点で確認します。1つ目、性質と期間です。遺留分侵害額請求権は形成権で、意思表示が相手に届けば、金銭支払請求権が生まれます。知った時から1年、開始から10年で、これがかかるのは行使までです。生じた金銭債権は、166条1項に従います。2つ目、相手方と順序です。相手は受遺者と、基礎財産に入る贈与の受贈者です。負担の順序は、遺贈、死因贈与、新しい贈与からで、同時なら目的の価額の割合です。無資力の損失は、遺留分権利者が負担します。3つ目、債権者は、確定的な意思を外部に表明した等の特段の事情がない限り、代位できません。冒頭の問いに戻ります。次女は、あと1週間でも請求できます。1年が過ぎる前に、長男へ意思表示が届けばよく、金額の支払は後でかまいません。遺留分の放棄は、次の回で見ます。

参照条文

  • 民法1046条1項
  • 民法1048条
  • 民法1047条1項
  • 民法1047条2項
  • 民法1047条1項各号
  • 民法1047条4項・5項
  • 民法1047条3項

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