法定単純承認(処分・期間経過・背信行為)
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第8章 相続 #356/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
父の家具を売ったら、もう放棄できないのか
図:前回の呼び戻し
- 相続開始(被相続人の権利義務は当然に承継される)→相続人が選ぶ:単純承認(920条)/限定承認(922条)/相続放棄(939条)
- 選ぶ期間=熟慮期間(自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月・915条1項)
- 期間内に限定承認も放棄もしなければ単純承認とみなされる(921条2号)
前回のまとめを、3つだけ思い出します。1つ目、相続の効果は当然に生じますが、相続人は、単純承認、限定承認、放棄の3つから選べます。2つ目、選ぶ期間は熟慮期間で、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です。3つ目、この期間内に何もしないと、単純承認をしたものとみなされます。前回は、この一言だけ使いました。前回の設例の答えも、確認しておきます。父の死から4か月後に保証債務が見つかった子は、財産が全く無いと信じ、そう信じるについて相当な理由がある場合に限って、保証債務を知った日から3か月以内なら、放棄できるのでした。そして前回の最後に、放棄を考えている人は、遺産には手をつけないでください、とお伝えしました。今日は、その理由を見ます。
図:冒頭の設例
- A(父・被相続人)、B(子・相続人はBだけ・Aの死亡を知っている)、C(中古家具の買取業者)、D(Aの債権者)
- BがAの名義の家具一式をCに売る→数週間後、DがAの借金をBに請求
- 熟慮期間の3か月はまだ過ぎていない
- 問い=Bは、今から相続を放棄できるか
設例です。父が亡くなりました。相続人は、子がひとりだけです。子は、父の死亡を知っています。父には、借金があるかもしれません。子は、放棄も考えながら、ひとまず、父の家を片づけ始めました。そのうちに、置き場に困ってしまい、父名義の家具一式を、中古家具の買取業者に売ってしまいました。数週間後、父の債権者から、父の借金の請求書が届きました。父の死亡を知ってから、3か月は、まだ過ぎていません。問いです。この子は、いまから相続を放棄できるのでしょうか。放棄できそうに思えるのは、自然な感覚です。ただ、答えは、道筋を通ったあとで出します。道筋です。まず、単純承認とは何か、そして、何もしなくても単純承認とみなされる法定単純承認の全体像を、920条と921条で見ます。次に、いちばん大事な1号、処分を、ただし書、主観要件、時期の順に読みます。そのあと、2号と3号を見て、最後に、この行為は単純承認になるのか、という仕分けをします。
単純承認と法定単純承認 920条・921条
図:単純承認の2つの形
- ①意思表示による単純承認(相続人が自ら承認する)②法定単純承認(一定の事由があると、単純承認をしたものとみなされる・921条)
- 実務上、単純承認のほとんどは②
- 効果=無限に被相続人の権利義務を承継する(920条)
まず、単純承認の効果の条文です。920条を全文で読みます。
条文民法920条
民法第920条(単純承認の効力) 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
単純承認をすると、無限に、被相続人の権利義務を承継します。無限に、というのは、プラスの財産だけでなく、保証債務のような借金まで、限りなく引き受ける、という意味です。意思を示して単純承認をする場合もあります。相続人が、自分から、単純承認をする意思を示すやり方です。ただ、前回見たとおり、単純承認には申述が要りません。実は、もう1つの形があります。一定の事由があるために、相続人の意思とは関係なく、単純承認をしたものと、みなされる場合です。これを、法定単純承認といいます。実務上、単純承認のほとんどは、この法定単純承認だと言われます。わざわざ宣言して引き受ける人は、あまりいません。何もしないうちに、あるいは、うっかり何かをしてしまった結果、単純承認になっているのです。その事由を定めたのが、921条です。
図:921条の3つの事由の地図
- 1号=相続財産の全部又は一部の処分(ただし書=保存行為・602条に定める期間を超えない賃貸は除く)
- 2号=熟慮期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかった
- 3号=限定承認又は放棄をした後であっても、財産の隠匿・私に消費・悪意で目録に不記載(ただし書あり)
事由は3つです。板で全体を見てから、条文を読みます。1号は、相続財産の処分です。2号は、熟慮期間内に、限定承認も放棄もしなかったことです。3号は、限定承認や放棄をしたあとでも、財産を隠したり、勝手に使ったりした場合です。
条文民法921条(柱書・1号)
民法第921条(法定単純承認) 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
条文民法921条(2号・3号)
民法第921条(法定単純承認) 二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。 三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
柱書の、みなす、というのは、本人がそのつもりでなくても、法律が、そう扱う、という意味です。覚えるのは、骨格です。1号は処分、2号は期間の経過、3号は背信行為です。背信行為とは、放棄や限定承認をした後に、財産を隠したり、勝手に使ったりすることです。この3つを、まず頭に置いてください。ただし書や細かい条件は、これから1つずつ見ます。
1号 処分の内容とただし書
図:1号の処分
- 処分に当たる例=相続財産の譲渡(売却)・相続した債権の取立て・故意の損壊などの事実行為
- 全部でも一部でも、1つでも処分すれば単純承認とみなされる
- ただし書で除かれるもの=保存行為/602条に定める期間を超えない賃貸
ここから、1号です。相続人が、相続財産の全部または一部を処分したとき、単純承認とみなされます。処分とは、何でしょうか。典型は、譲渡です。相続した家や動産を売ってしまう場面です。次に、相続した債権の取立てがあります。たとえば、父が人に貸していたお金を取り立てて、受け取る場面です。さらに、故意に壊してしまうような事実行為も、処分に含まれます。注意点があります。条文は、全部又は一部、と書いています。つまり、財産の一部でも、1つ売れば、それで1号に当たります。全部を処分する必要はありません。家具を売ることは、処分の典型である譲渡に当たります。ただ、1号には、ただし書と、主観要件があります。順番に確認してから、設例に戻ります。まず、ただし書です。保存行為と、602条に定める期間を超えない賃貸は、処分から除かれます。保存行為とは、財産の現状を維持する行為です。たとえば、父の空き家で雨漏りがしたとき、業者に頼んで応急修理をするのは、保存行為です。財産を減らす行為ではなく、守る行為なので、単純承認にはなりません。

もう1つの、602条に定める期間を超えない賃貸です。602条は、処分の権限を有しない者が賃貸借をするときの、期間の上限を定めています。処分の権限を有しない者とは、物を管理する権限しか持たない人でした。以前、短期賃貸借のところで見ました。上限は、樹木の栽植や伐採を目的とする山林が10年、それ以外の土地が5年、建物は、3年、動産が6箇月です。たとえば、相続した空き家を、建物の賃貸借として貸すとします。期間が3年なら、上限の範囲内です。だから、これは処分とされず、単純承認になりません。期間が3年を超える賃貸は、ただし書の外になります。ただし書で除かれるのは、期間を超えない賃貸だけだからです。以前、短期賃貸借のところでは、超える約束はその期間に縮む、と見ました。あれは、貸した契約の期間がどうなるか、という問いです。今日の問いは別で、相続人のした賃貸が、921条1号の処分に当たるか、です。条文の組み立てからは、ただし書で除かれない以上、1号の本文に戻り、処分として、単純承認とみなされうる、ということになります。
1号 主観要件と時期 最判昭42
図:1号の主観要件
- 処分をしただけでは足りない
- 最判昭42・4・27の判断=相続人が、①自己のために相続が開始した事実を知りながら処分した、又は②少なくとも被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえて処分したことを要する
- 死亡を知らず、確実に予想もしていない処分では、単純承認とみなされない
次に、主観要件です。処分をしさえすれば、いつでも単純承認になるのでしょうか。たとえば、父が行方不明だと思っている間に、父のものだった家具を売った場合です。後から、父は、行方不明になった当初に亡くなっていたと分かりました。結果だけ見れば、売った時点で家具は相続財産だったことになります。ただ、最高裁は、相続人が、自分の知らない間に、というケースを考えました。判決を読みます。
判例最判昭42・4・27 民集21巻3号741頁
処分行為による単純承認の擬制・趣旨 ……民法九二一条一号本文が相続財産の処分行為があつた事実をもつて当然に相続の単純承認があつたものとみなしている主たる理由は、本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限りしてはならないところであるから、これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があつたと信ずるのが当然であると認められることにある(…参照)。
まず、前半です。1号が、処分の事実だけで、単純承認をしたものとみなす理由です。処分行為は、本来、相続人が単純承認をしない限り、してはならないことだからです。遺産を売るのは、父の財産を、自分の財産として扱うことです。引き受けると決めた人でなければ、することではありません。したがって、処分をしたなら、黙示の単純承認があったと推認できます。それだけでなく、第三者から見ても、単純承認があったと信じるのが当然です。黙示、というのは、言葉にしていなくても、行動から読み取れる、という意味です。「引き受けます」と言っていなくても、遺産を売ったという行動から、引き受けたのだと読み取れる。これが、1号の考え方です。この理由づけが、次の結論につながります。続きを読みます。
判例最判昭42・4・27 民集21巻3号741頁
処分行為による単純承認の擬制・主観要件 ……したがつて、たとえ相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の事実を知らなかつたときは、相続人に単純承認の意思があつたものと認めるに由ないから、右の規定により単純承認を擬制することは許されないわけであつて、この規定が適用されるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するものと解しなければならない。
判決の、擬制する、は、みなす、と同じ意味です。要件を整理します。1号で単純承認とみなされるには、2つのうち、どちらかが必要です。1つ目は、相続人が、自己のために相続が開始した事実を知りながら、相続財産を処分したこと。2つ目は、少なくとも、被相続人が死亡した事実を確実に予想しながら、あえて処分したことです。決め手は、先ほどの理由づけです。処分から単純承認の意思を推認できるのは、相続人が、自分のために相続が開始した事実を知っているか、少なくとも、被相続人の死亡を確実に予想しているときだけです。死亡を知らない人に、単純承認の意思があるとは、認めようがないからです。問いです。さっきの、行方不明の父の家具を売った相続人です。売った時、相続人は、父の死亡を知らず、確実に予想もしていませんでした。単純承認になるでしょうか?
ならない、だと思います。売った時に、相続が始まったことを知らなかったので、単純承認の意思があったとは言えません。主観要件を欠くので、1号では、単純承認とみなされません。
図:1号の時期
- 処分は、限定承認・放棄をする前の行為として1号で処理する
- 限定承認・放棄をした後の行為は、1号ではなく3号(限定承認又は相続の放棄をした後であっても)で処理される
- 時系列=相続開始→(処分)=1号→限定承認・放棄→(隠匿・私消など)=3号
最後に、時期です。1号の処分は、限定承認や放棄をする前の行為です。限定承認や放棄をしたあとに、財産に手をつけた場合は、1号ではなく、3号で処理されます。判例と通説の整理です。条文からも、読み取れます。3号は、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、と、わざわざ書いています。放棄や限定承認の後の行為は、3号が別に扱っている、ということです。では、冒頭の設例に、まだ戻りません。2号と3号を見てから、仕分けをして、最後に答えを出します。
2号と3号 期間の経過と背信行為

- 2号=熟慮期間の経過
- 915条1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき=単純承認とみなされる
- 期間の数え方=原則は相続開始の原因となる事実と自分が相続人になった事実を知った時から3か月
- 前回の例外(財産が全く無いと信じた場合)が使えるときは、その起算点で数える
復習の問いです。前回見た熟慮期間は、原則として、何を知った時から3か月でしたか?相続開始の原因となる事実と、それで自分が相続人になった事実を、両方知った時です。2号は、この、3か月の期間内に、限定承認も放棄もしなかったとき、単純承認とみなす、と定めています。前回、一言だけ使った条文の、本体です。何もせずに、期間が過ぎるだけで、単純承認になります。起算点の例外が使える場合は、その例外の起算点から数えます。例外が使えなければ、原則どおりの3か月で、期間が尽きます。冒頭の設例でいえば、子は、まだ3か月の期間内です。ですから、2号の問題は、まだ起きていません。問題になるのは、1号です。

- 3号=背信行為
- 限定承認又は放棄をした後であっても、①相続財産の全部若しくは一部を隠匿する②私にこれを消費する③悪意でこれを相続財産の目録中に記載しない→単純承認とみなされる(限定承認・放棄の効力が失われる位置づけ)
- 「私に消費」=ほしいままに処分して原形の価値を失わせること・公然としたものでもよい
- 「悪意の不記載」=目録を作る限定承認の場合の規定(924条)
- ただし書=その相続人が放棄したことによって相続人となった者が承認した後は、この限りでない
次に、3号です。ここが、先ほどの時期と、つながります。限定承認や放棄をした後であっても、次の3つのどれかをすると、単純承認をしたものとみなされます。隠匿すること、私に消費すること、悪意で財産目録に記載しないことです。放棄をした人は、初めから相続人でなかったことになります。限定承認をした人は、相続した財産の限度でだけ、父の借金を払うと決めた人です。どちらも、父の財産を、自分のものとして使える立場ではありません。それなのに、あとで財産を隠したり、勝手に使ったりするのは、1号の処分と同じく、父の財産を自分のものとして扱う行為で、自分がした選択に背きます。だから、背信行為、つまり、信頼を裏切る行為、と呼ばれ、単純承認とみなされます。その結果、放棄や限定承認の効力が失われる、という位置づけです。3つを具体的に見ます。隠匿とは、財産を隠すことです。たとえば、放棄をしたあとに、父の貴金属を、自宅の押し入れに隠す場面です。私に消費する、というのは、ほしいままに処分して、その原形の価値を失わせることです。たとえば、放棄が受理されたあとで、父の預金を引き出して、自分のために使う場面です。この点は、こっそり行うことまでは要りません。公然と使った場合でも、当たりうると解されています。問いです。放棄の申述が受理されたあとで、父の預金を引き出して、自分のために使いました。放棄は、有効のままでしょうか?
放棄の後なので、1号ではなく、3号で処理します。前回、承認や放棄は撤回できない、と見ました。撤回は、本人が気を変えて取り下げることでした。3号は、本人が取り下げるのではありません。本人の背信行為があったので、法律が単純承認とみなし、その結果、放棄の効力が失われるのです。3つ目の、悪意で財産目録に記載しない、は少し違います。目録を作る義務があるのは、限定承認の場合です。限定承認は、財産目録を作成して提出します。924条です。財産目録は、相続した財産を一覧にして、家庭裁判所に出すものです。ですから、この不記載は、限定承認の場面で働く規定です。目録のない放棄には、働きません。最後に、3号のただし書です。その相続人が放棄をしたことによって相続人となった者が、相続の承認をした後は、この限りでない、とあります。たとえば、子が放棄をすると、子は初めから相続人でなかったことになります。ほかに子がいなければ、相続人は、次の順位の、父の親などに移ります。これを、次順位の相続人と呼びます。次順位の人が、相続の承認をしたあとで、放棄した子が、財産を隠したとします。この場合、3号の単純承認とはなりません。ここで、子の放棄が否定されると、承認をした次順位の人は、相続人でなくなってしまいます。その人の相続権を守るための規定です。
この行為で単純承認になるか 仕分け
図:仕分け板
- 1
- ①〜⑤は、B(子)がA(父)の死亡を知った後・放棄も限定承認もする前の行為。⑥はBが死亡を知らない場合。①Aの自宅を知人に売った→単純承認になる(921条1号・譲渡)②Aの預金を払い戻して自分の生活費に使った→なる(1号・債権の取立て)③Aの家財道具を故意に壊して捨てた→なる(1号・故意の損壊)④Aの空き家の雨漏りを業者に頼んで応急修理した→ならない(1号ただし書・保存行為)⑤Aの空き家(建物)を3年の賃貸借で貸した→ならない(1号ただし書・602条の建物3年)⑥Bが死亡を知らず確実に予想もしていない間に、Aの動産を売った→ならない(1号の主観要件・最判昭42)。
ここから、仕分けです。行為ごとに、単純承認になるかを、判断します。判断の手順は、3つです。何号に当たるか。ただし書に当たるか。主観要件は満たすか。この順に考えます。前提を置きます。⑤までは、子は、父の死亡を知っています。まだ、放棄も限定承認もしていません。この時期の行為を、まず見ます。①、父名義の自宅を、知人に売りました。譲渡なので、1号の処分です。単純承認になります。②、父の預金を払い戻して、自分の生活費に使いました。預金は、父が銀行に対して持っていた、払戻しを求める債権です。それを払い戻すのは、債権の取立てにあたり、1号の処分です。単純承認になります。③、父の家財道具を、故意に壊して捨てました。故意の損壊は、事実行為ですが、処分に含まれます。単純承認になります。④、父の空き家の雨漏りを、業者に頼んで応急修理しました。これは保存行為です。1号のただし書で、処分から除かれるので、単純承認になりません。⑤、父の空き家を、3年の賃貸借で貸しました。建物の賃貸借の上限は、602条で3年です。期間を超えない賃貸なので、ただし書で除かれ、単純承認になりません。⑥だけは、前提が違います。子が、父の死亡を知らず、確実に予想もしていない間に、父の動産を売りました。処分には違いありませんが、主観要件を欠くので、1号で単純承認とはなりません。最高裁の判断のとおりです。
図:仕分け板
- 2
- ⑦Bが何もしないまま3か月が過ぎた(起算点の例外に当たらない)→なる(921条2号)⑧放棄の申述が受理された後に、Aの預金を引き出して使った→なる(3号・放棄の後であっても・私に消費)⑨放棄の後に、Aの貴金属を隠した→なる(3号・隠匿)⑩限定承認の際、悪意で一部の財産を目録に載せなかった→なる(3号・目録に記載しない・924条)⑪放棄した後、次順位の相続人が承認した後に、放棄した者が財産を隠した→ならない(3号ただし書)。
続いて、期間と、選んだあとの行為です。⑦、子が何もしないまま、3か月が過ぎました。起算点の例外には当たりません。2号の、期間の経過です。単純承認になります。⑧番、放棄の申述が受理されたあとに、父の預金を引き出して使いました。放棄の後なので、3号です。私にこれを消費したにあたり、単純承認になります。⑨、放棄したあとに、父の貴金属を隠しました。3号の隠匿です。単純承認になります。⑩、限定承認をするとき、悪意で、一部の財産を目録に載せませんでした。3号の、悪意で目録中に記載しなかったときに当たります。目録を作る、限定承認の規定です。単純承認になります。⑪、子が放棄をして、次順位の相続人が承認をしました。そのあとで、放棄した子が財産を隠しました。3号のただし書があるので、単純承認になりません。
図:仕分け板(3)
- ⑫相続財産の調査のため、Aの通帳の入出金を調べた・不動産の登記を取った→ならない(処分ではなく調査・915条2項。調査にとどまる場合)。別枠(判断が割れうる)=葬儀費用をAの預金から出した
- 形見分けとして遺品をもらった。基準は社会的に見て相当な範囲かと説明されるのが一般的だが、判例が一本の線を引いたものではなく、範囲は事案による。迷ったら手をつけず、家庭裁判所や専門家に相談する。
⑫、財産を調べるために、父の通帳の入出金を確認したり、不動産の登記を取ったりしました。これは、処分ではなく、調査です。915条2項で、承認や放棄の前に、財産を調査できると定められています。調査にとどまるなら、単純承認になりません。葬儀の費用を、父の預金から出したり、形見分けとして遺品をもらったりするのは、どうなりますか。ここは、判断が分かれうるところです。基準としては、社会的に見て相当な範囲か、と説明されるのが一般的です。ただし、判例が一本の線を引いたものではなく、範囲は事案によります。ですから、ここは断定できません。迷ったら、手をつけないでください。そして、家庭裁判所や、専門家に相談するのが、安全な対応です。判断の軸をまとめます。放棄を考えているうちは、遺産に手をつけない。売る前に、まず、何号に当たるかを疑う。保存行為や、調査は別です。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- ①単純承認=無限に権利義務を承継(920条)
- 意思表示による場合のほか、法定単純承認(921条)がある
- 実務上ほぼすべて法定
- ②法定単純承認=1号 処分(死亡を知って・確実に予想して/保存行為と602条を超えない賃貸を除く/限定承認・放棄の前の行為)、2号 熟慮期間の経過、3号 背信行為(放棄・限定承認の後でも・隠匿・私に消費・悪意の不記載)
- ③冒頭の設例の答え=死亡を知って家具を売った→1号の処分→単純承認とみなされ、熟慮期間内でも放棄できない
- 応急修理なら保存行為でならない
まとめます。1つ目、単純承認は、無限に被相続人の権利義務を承継することです。意思表示による場合のほか、法定単純承認があり、実務上のほとんどは、法定です。2つ目、法定単純承認は、3つです。1号は処分です。相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら、または、被相続人の死亡を確実に予想しながら、あえて処分した場合です。保存行為と、602条の期間を超えない賃貸は除かれます。処分は、放棄や限定承認の前の行為です。2号は、熟慮期間の経過です。3号は、放棄や限定承認の後でも、隠匿、私に消費、悪意の不記載をした場合です。
父の死亡を知ったうえで、父名義の家具一式を、買取業者に売った子は、相続財産の一部を処分しています。死亡を知っているので、主観要件も満たします。1号の処分にあたり、単純承認をしたものとみなされます。ですから、熟慮期間の3か月内でも、もう放棄はできません。父の借金も、920条のとおり、無限に承継します。同じ時期に、雨漏りの応急修理を頼んでいたとしても、それは保存行為なので、単純承認にはなりません。また、子が父の死亡を知らず、確実に予想もしていない間に売っていたなら、主観要件を欠いて、単純承認にはなりません。放棄を考えているうちは、遺産に手をつけない。それでは、実際に選ぶ限定承認と相続放棄は、どう進めるのでしょうか。次は、その中身を見ます。
参照条文
- 民法920条
- 民法921条(柱書・1号)
- 民法921条(2号・3号)