民訴ゼロから民訴#3

前 話し合いで終わらせる道——相談・斡旋・調停・仲裁とADR

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第0章 序章 民事訴訟手続の全体像 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

第三者は、どこまで踏み込んでくるか

紛争調整の6段階グラデーションボード

まず、全体の並びを見てください。紛争を調整する方式は、6つの段階で並びます。直接交渉、相談、斡旋、調停、仲裁、そして裁判です。覚える必要はありません。1本の軸で並んでいるだけだからです。第三者が、どこまで踏み込んでくるかです。そして、踏み込むほど、出てくる結論の強制力が強くなります。いちばん左の直接交渉は、当事者同士の話し合いだけ。第三者はいません。いちばん右の裁判は、裁判所が判決という形で、拘束力のある結論を出します。この軸さえ持っていれば、間の4つは「どこまで踏み込むか」で位置が決まります。ひとつずつ、確かめていきましょう。

相談と斡旋——決めるのは、まだ自分

相談と斡旋の対比ボード

直接交渉の次に来るのが、相談です。誰かに知識や情報をもらい、それをもとに自分がどう動くかを決める段階です。幅があります。たとえば、消費生活センターや弁護士会の法律相談のような窓口もあれば、役所の相談窓口もある。もっと手前で、職場の上司や知人に聞くのも相談です。ここで大事なのは、決めるのはあくまで自分だということです。相談相手は情報をくれますが、相手方と話をつけてくれるわけではありません。斡旋です。第三者が両者の間に立ち、当事者どうしが折り合えるよう、話を前に進めます。相談との違いは、第三者が相手方にも関わってくるところ。相談は自分の側だけ。斡旋は、両者の間に立つ。第三者が一歩、踏み込みました。ただし、斡旋の段階では、第三者はまだ「案」を出しません。話をつなぐところまでです。

調停——案は出るけれど、従う義務はない

調停ボード(長所と短所)

もう一歩進みます。話し合いの中身を踏まえて、第三者が調整の案を作って示す——これが調停です。裁判所がやっている民事調停・家事調停は、まさにこの方式です。根拠は、民事調停法2条と、家事事件手続法244条。年間の申立件数も相当な数にのぼります。民間や行政の機関でも調停はやっていますが、件数でいえば裁判所の調停が中心です。調停の長所は、型どおりの結論に縛られないことです。当事者が納得できる形に、柔らかく調整できます。敷金の話なら「18万円は無理でも12万円で」といった着地もありうる——そういう調整ができるのが強みです。ただし、ここに短所があります。示された案に、当事者が従う義務はありません。「この案でどうですか」と示されても、当事者は断ることができるということです。進め方についても、無理に従わせる力は強くありません。ここを押さえておいてください。

仲裁——「委ねる」という合意が前提

仲裁ボード(仲裁合意が前提)

仲裁になると、第三者がさらに一歩踏み込んで、みずから結論を出します。決定的な違いが1つあります。仲裁は、当事者が「委ねる」と合意していることが前提なんです。紛争の解決を仲裁人の判断にゆだね、その判断に従う——この取り決めを、仲裁合意と呼びます。仲裁法2条1項と13条が、その足場です。それが典型です。ただ、条文はそこを限っていません。すでに起きてしまった紛争についても、いまから仲裁に委ねると合意できます。2条1項が、両方を並べて書いています。そして、その仲裁人が間に入って、結論——仲裁判断を出します。原則は、当事者があらかじめ決めておいたルールに沿って判断します。ただし、当事者の双方がはっきり求めたときは、「衡平と善」——その紛争ごとに何が公平かを基準に、判断することもできます。仲裁法36条です。法律ではなく当事者にとっての落としどころ、というイメージで構いません。法の外に出るのではなく、その事案にとって何が公平かを基準に据える、ということです。この方式を使いやすくするために、仲裁法という法律が用意されています。

訴えても、門前払いになる

仲裁の抗弁の関係図

ここで、仲裁の効き目がいちばんはっきり出る場面を見ます。たとえば、フリーランスのデザイナーが、制作会社と業務委託契約を結んでいたとします。契約書の隅に、「紛争は、ある協会の仲裁による」という一文がありました。よくある話で、あまり読まずにサインしてしまいがちですが、そこが落とし穴です。報酬が支払われず、デザイナーが裁判所に訴えを起こしました。前回の言葉でいうと、訴えたデザイナーが原告、訴えられた制作会社が被告です。ところが、相手方は「仲裁合意がある」と主張して、訴えを退けてほしい——却下を申し立てることができます。これを仲裁の抗弁と呼びます。却下されても負けたわけではない——そこが大事なところです。却下は、中身に入らずに門前払いにすることです。「報酬を払え」という言い分が正しいかどうかは、判断されないまま終わります。この「却下と棄却の違い」は、後の回で正面から扱います。

「必ず却下」ではない——ただし書の3号

仲裁の抗弁の条文と例外ボード

条文を見ましょう。

条文仲裁法14条1項

仲裁法第14条(仲裁合意と本案訴訟)第1項 仲裁合意の対象となる民事上の紛争について訴えが提起されたときは、受訴裁判所は、被告の申立てにより、訴えを却下しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。 一 仲裁合意が無効、取消しその他の事由により効力を有しないとき。 二 仲裁合意に基づく仲裁手続を行うことができないとき。 三 当該申立てが、本案について、被告が弁論をし、又は弁論準備手続において申述をした後にされたものであるとき。

注意してほしいのは、「しなければならない」と書いてあることです。裁判所に選択の余地はありません。そこが実戦的に効きます。とくに3号を見てください。被告が本案について弁論をした後に申し立てても、もう却下してもらえません。本案について弁論をするとは、「報酬は受け取っていない」「仕事の質が悪かった」といった、中身の言い分を述べることです。中身の話を始めてしまったら、もう「そもそも仲裁のはずだ」とは言えなくなる、ということです。仲裁合意さえあれば必ず却下される、わけではない——ここまで込みで覚えてください。

裁判——相手が嫌がっても、始まってしまう

軸の終点=裁判ボード

軸のいちばん右、裁判に戻ります。裁判の特徴は、原告が訴えを起こせば、被告が同意しなくても手続が始まることです。そこが決定的な違いです。調停は相手が来なければ進みませんし、仲裁は事前の合意が要ります。裁判だけは、相手の意思にかかわらず始められます。裁判官が間に立って話し合いを促し、それでも決着がつかなければ、法にもとづいて、裁判所が拘束力を持つ判決を出します。当事者はこれを断ることができません。だから、6段階のいちばん右にいるわけです。ここで軸を確かめ直しましょう。左から右へ、第三者の踏み込みが深くなり、結論の強制力が強くなる。きれいに並びました。この1本の軸が、今日の骨です。

「裁判以外」をまとめて何と呼ぶか

ADRの範囲ボード

いま見た6段階から裁判を除いた分を、ひとまとめに呼ぶ言葉があります。裁判外紛争処理、英語の頭文字をとってADRです。言葉のうえでは裁判を除いた5つ全部ですが、実際にADRという言葉で扱われる場面は、調停と仲裁にほぼ限られます。第三者が実際に手続を動かす2つ、と捉えると分かりやすいです。そして、こうした方式を担う、裁判所ではない組織を、ADR機関と言います。裁判所が行う手続であっても、民事調停や家事調停は代表的なADRの一つに数えます。実は、もっとややこしいところがあります。訴訟の中で、判決を待たずに当事者が和解して終わることがあります。これは、斡旋や調停と重なる面があるんです。だから、ADRの定義や分類は、一義的には決まりません。ここは「きっちり線が引ける」と思わないことが、かえって正確な理解になります。

誰が設営しているかで、3つに分ける

ADR3分類ボード

線が引きにくいと言いましたが、便宜上よく使われる分け方があります。設営主体、つまり誰が用意している手続か、で3つに分けます。司法型行政型民間型です。司法型は、裁判所が設営するもの。裁判所による調停や、労働審判がこれにあたります。行政型は役所が設営するもので、国の公害等調整委員会や、都道府県の公害審査会。消費生活センターも、ここに入ります。そして民間型。交通事故紛争処理センターや、日本商事仲裁協会などです。名前を見ると扱う紛争の種類がはっきりしている——そこに気づけたのは大きいです。その理由は、次で扱います。

ADRの長所は、4つある

ADRの長所4つボード

ADRの強みは、大きく4つあります。1つ目。手続にかかる時間もお金も、少なくて済むこと。18万円のために大がかりな裁判をしたくない、という最初の気持ちに応えてくれます。2つ目。非公開の手続であること。話の中身が外に漏れず、秘密が守られます。裁判は公開が原則なので、争っている中身が人目に触れます。たとえば会社同士の紛争では、これが重い問題になります。取引の条件や技術のことが外に出てしまうと困る——そういう場面で効きます。3つ目。その紛争の事情に合わせて、やり方も基準も選べること。

専門知見の活用ボード

4つ目。法律以外の専門知見を活用できることです。さきほどの、機関の名前に紛争の種類が入っている話が、ここにつながります。交通事故、医療紛争、知的財産——多くのADR機関が、紛争の分野ごとに名前を分け、その道の専門家に加わってもらう体制を作っています。法律の専門家だけでは判断が難しい話があり、医療の紛争なら医学の知見が要ります。そこがADRの強みです。なお、たくさんある機関のうち、どれが自分の紛争に合うかを紹介してくれる窓口もあります。日本司法支援センター、通称・法テラスです。

時効が来てしまう心配をなくす

ADR法と時効の完成猶予ボード

現在のADRは非常に多様です。そこで、全体に共通する基本的な法規制が求められ、ADR法が作られました。裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律、という名前です。「促進」=使ってもらうための法律、というところがポイントです。とくに民間型のADR機関は、数の割に利用が少なかった。そこで、2つの仕掛けが用意されました。どちらも、法務大臣の認証を受けた機関の手続に限られます。1つ目の仕掛け。時効の完成猶予です。ADRで話し合っている間に時効が来てしまったら、安心して手続を使えませんよね。そこで、認証を受けた手続で和解の見込みがないとして終わった場合に、その通知を受けた日から1か月以内に訴えを起こせば、手続の中で請求したときに訴えを起こしたものとみなす。ADR法25条です。「中断」ではなく「完成猶予」という言葉を使う点も、覚えておいてください。

訴訟とADRが重なったら、止めておける

訴訟手続の中止ボード

2つ目の仕掛けは、訴訟手続の中止です。同じ紛争について、訴訟と、認証を受けたADRが重なることがあります。そのとき、当事者の共同の申立てがあれば、裁判所は4か月以内の期間を定めて、訴訟手続を中止できます。ADR法26条です。話し合いに集中している間、訴訟のほうは待っていてもらえる、という仕掛けです。ここで注意してほしいのは、共同の申立てという点です。一方が「話し合いたい」と言っても、もう一方が乗らなければ止まりません。両方が揃って申し立てたときだけ、裁判所は中止を決められます。時効の話も中止の話も、認証を受けた機関が前提です。認証のない機関の手続には、この2つは付いてきません。

ここまでを、いったんまとめます

前編まとめボード

今日たどった道を、1本につなぎます。出発点は、「国が用意したのは裁判だけなのか」という問いでした。答えは6段階——直接交渉、相談、斡旋、調停、仲裁、裁判。その6つを並べていた軸は、第三者がどこまで踏み込むかでした。踏み込むほど結論の強制力が強くなる。踏み込みが浅いほうは柔軟で、負担も軽い。深いほうは、相手の同意がなくても進む。どちらが優れているという話ではなく、紛争の性格と状況で選ぶものです。簡易・迅速・低廉、非公開、柔軟、専門知見。この4つが長所です。さて、ここで1つ、宿題が残っています。話し合いで決着したとして、相手がその約束を破ったら、どうなるのか。合意しただけでは、払ってもらえないかもしれない。実は、同じ「話し合いで決めた」でも、破られたときにできることがまるで違います。次は、そこから始めます。

参照条文

  • 仲裁法14条1項

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