民訴ゼロから民訴#8

訴訟はどう終わり、判決が確定すると何が起きるのか

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第0章 序章 民事訴訟手続の全体像 ⑧/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

判決が確定したのに、払わない——それでも何ができるのか

確定判決なのに払わないボード 図:確定判決なのに払わないボード

少し時間を先取りして、こんな場面を考えてみましょう。「Bは300万円をAに支払え」という判決が、確定したとします。それでもBが払わないとき、Aは何ができるでしょうか。やり直す必要はありません。同じ争いをもう一度持ち込むことは、そもそも許されないからです。裁判所がするのは、権利があるかないかの判定までだからです。判定された権利を現実に実現する仕事は、別の法律が引き受けています。以前、判決手続の周りに強制執行や保全の制度が控えている、という地図を見ましたね。このうち、判決の前に財産などを仮に押さえておくほうが民事保全、確定した判決を現実にするほうが、今日たどりつく強制執行です。同じ地図の上でも、保全は判決の前、強制執行は判決の後——向きが逆になります。

その答えには、今日の後半でたどりつきます。ただ、そこにたどりつく前に、まず知っておいてほしいことがあります。訴訟は、実は、判決だけで終わるわけではないんです。

手続の終了——取下げと訴訟上の和解

訴えの取下げと訴訟上の和解ボード 図:訴えの取下げと訴訟上の和解ボード

Aが訴えを起こしたあとでも、途中でBと話がついて、争いをやめることがあります。そもそも、なぜ、当事者の都合で訴訟を終わらせられるのでしょうか。始まりと終わりを握っているのは当事者だ——当事者主義の回で見た、処分権主義です。訴えるかどうかを当事者が決める以上、やめるかどうかも当事者が決める。今日の2つの終わり方は、どちらもその出口です。1つ目は、訴えの取下げです。条文の言葉で言うと、判決が確定するまでは、訴えの全部または一部を、取り下げることができます。訴えの取下げは、基本的にはAの意思だけで足ります。細かい手続は、別の回で扱います。2つ目は、訴訟上の和解です。

裁判所が、双方の言い分を聞きながら調整案を示すなどして、AとBの間で折り合いをつけることです。ここで大事なのは、この和解に、強い効力が与えられていることです。

条文民事訴訟法267条1項

民事訴訟法第267条第1項(和解等に係る電子調書の効力) 裁判所書記官が、和解又は請求の放棄若しくは認諾について電子調書を作成し、これをファイルに記録したときは、その記録は、確定判決と同一の効力を有する。

条文を見てください。和解の中身は、裁判所書記官が電子調書という記録にします。かつては紙の調書でしたが、システムでの記録に置き換えられました。大事なのは、その記録が、確定判決と同一の効力を持つ、という一文です。この「同一の効力」には、このあと見ていく力もすべて含まれます。だから、和解で終わっても、Aは決して弱い決着で終わるわけではないんです。

判決とは何か——証明責任というルール

判決とは何か・証明責任ボード 図:判決とは何か・証明責任ボード

では、AとBが自分たちで終わらせず、最後まで争ったとします。その場合、裁判所が判決を下します。双方の主張が、どこまで法的に認められるか、という判定です。前回の事件で言えば、「工事に欠陥があったかどうか」という争点に、決着をつける役割です。実は、裁判所は、それでも判決を拒否できません。根拠は、裁判を受ける権利を定めた、憲法32条です。だからこそ、証明責任というルールが必要になります。事実の有無が最後まではっきりしないとき——どちらの当事者に不利益を負わせるか、あらかじめ決めておくルールです。分配の細かい基準は、別の回で扱います。今日は、そういうルールが存在する、ということだけ押さえてください。欠陥があったと認められなければ、その事実を前提にした主張は通らない、という形で働きます。

そして、もう1つ。判決の結論は、唯一絶対の正解ではありません。間違っているというより、法の内容は、目の前の事件がそれに当たるかどうか、という場面では、必ずしも一義的に明確ではないんです。判決は、当事者がどう争ったかを反映した、1つの解決策にすぎません。Aの事件で言えば、Bが欠陥を裏づける見積書をどこまで出したか、で判断の材料が変わります。同じ工事をめぐる争いでも、出された材料が違えば、裁判所がたどりつく結論も変わりうる、ということです。判決は、正解を言い当てる装置ではなく——双方の主張を踏まえた、1つの決着にすぎない、ということです。

判決の言渡し——効力が生まれる瞬間

言渡期日と電子判決書ボード 図:言渡期日と電子判決書ボード

判決の中身がまとまると、裁判所は、それを言い渡す日を決めます。

条文民事訴訟法251条

民事訴訟法第251条(言渡期日) 判決の言渡しは、口頭弁論の終結の日から二月以内にしなければならない。ただし、事件が複雑であるときその他特別の事情があるときは、この限りでない。 2 判決の言渡しは、当事者が在廷しない場合においても、することができる。

1項を見てください。弁論が終結してから、原則2か月以内に言い渡す決まりです。もっと注目してほしいのは、2項です。判決の言渡しは、当事者が法廷にいなくても、することができます。主張や証拠を出す場面と、決まった結論を告げる場面は、性質が違うんです。言渡期日は、当事者が話す場ではなく、裁判所が一方的に結論を告げる場だからです。では、その言渡しで、何が起きるのでしょうか。

条文民事訴訟法250条

民事訴訟法第250条(判決の発効) 判決は、言渡しによってその効力を生ずる。

この一文が、今日、いちばん正確に覚えてほしいところです。判決は、言渡しによって効力が生じます。ただし、ここでの「効力」は、まだ確定ではありません。ここは、あとで混同しやすいところなので、今のうちに分けておきます。言い渡した瞬間に、判決は裁判所の手を離れます。裁判所自身が、あとから原則として中身を書き直すことはできません。不服があるなら、当事者が上の裁判所へ持っていくしかない——そういう状態になる、ということです。「言渡しで効力が生じる」ことと、「確定して勝敗が定まる」ことは、別の出来事です。この2つを混ぜずに、順番に見ていきましょう。

では、法廷では、何を読み上げるのでしょうか。

条文民事訴訟法252条1項

民事訴訟法第252条第1項(電子判決書) 裁判所は、判決の言渡しをするときは、最高裁判所規則で定めるところにより、次に掲げる事項を記録した電磁的記録(以下「電子判決書」という。)を作成しなければならない。  一 主文  二 事実  三 理由  四 口頭弁論の終結の日  五 当事者及び法定代理人  六 裁判所

裁判所は、判決の言渡しにあたって、電子判決書を作らなければなりません。かつては紙の判決書でしたが、今は電磁的記録として作られます。中身は、1号から6号まで並んでいます。いちばん大事なのは、1号の「主文」です。実は、法廷で言い渡すとき、裁判官が読み上げるのは、この主文だけです。同じ法廷で、いくつもの事件の言渡しをこなす必要があるからです。詳しい理由は、電子判決書のほうに、きちんと書かれています。電子判決書の送達を受け取れば、それで足ります。詳しい送達の仕組みは、別の回に譲ります。

判決後——「確定」して初めて勝敗が定まる

確定の仕組みと上訴ボード 図:確定の仕組みと上訴ボード

さて、判決に効力が生じても、それで終わりではありません。勝敗が本当に定まるのは、判決が確定したときです。もう、この判決を争えなくなる、ということです。判決に不服があれば、当事者は、上級の裁判所に上訴できます。まず、第一審の判決に不服があれば、控訴します。控訴審は、事実審です。第一審の資料を土台にしつつ、新しい主張や証拠を出して、争いを続けられます。ただし、当事者が不服を唱えている範囲に限って、判断のよしあしが吟味されます。控訴審の判決にも不服があれば、次は上告です。上告審は、法律審です。

上告できる理由は、法律問題だけです。事実の主張や証拠の提出は、もうできません。さらに、上告先が最高裁判所のときは、上告できる理由が、いっそう絞られます。最高裁は、全国から事件が集まる、いわば最後の砦です。すべての事件を丁寧に見ていたら、審理が立ち行かなくなります。理由を絞ることで、最高裁の負担を軽くし、本当に重要な法律問題に取り組めるようにしているんです。では、いつ確定するのか。条文を見てください。

条文民事訴訟法285条

民事訴訟法第285条(控訴期間) 控訴は、電子判決書又は第二百五十四条第二項の規定により当事者及び法定代理人、主文、請求並びに理由の要旨が記録された電子調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならない。ただし、その期間前に提起した控訴の効力を妨げない。

電子判決書などの送達を受けた日から——2週間という決まった期間内に、控訴を起こさなければなりません。控訴を起こさないまま2週間が過ぎると、判決は確定します。

条文民事訴訟法116条

民事訴訟法第116条(判決の確定時期) 判決は、控訴若しくは上告(第三百二十七条第一項(第三百八十条第二項において準用する場合を含む。)の上告を除く。)の提起、第三百十八条第一項の申立て又は第三百五十七条(第三百六十七条第二項において準用する場合を含む。)、第三百七十八条第一項若しくは第三百八十一条の七第一項の規定による異議の申立てについて定めた期間の満了前には、確定しないものとする。 2 判決の確定は、前項の期間内にした控訴の提起、同項の上告の提起又は同項の申立てにより、遮断される。

少し長い条文ですが、骨格だけ取り出すと、こういうことです。控訴や上告を起こせる期間が満了するまでは、判決は確定しません。控訴審の判決も、同じように、上告の期間が満了して初めて確定します。ここで、正確に覚えてほしい例外が、1つあります。上告審の判決は、言い渡されると同時に確定します。上告審は、それより上の審級がありません。最後の裁判所だからです。「2週間待って確定」という感覚を、上告審にまで持ち込まないでください。

確定判決の3つの力

確定判決の3つの力——判決の種類による違い 図:確定判決の3つの力——判決の種類による違い

判決が確定すると、その判決に、いくつかの力が備わります。ただし、その前に、1つ釘を刺しておきます。この3つの力は、どの判決にも全部そろって生まれるわけではありません。判決の種類によって、生まれる力が変わります。今日は、その対応関係まで押さえます。まず1つ目、既判力です。確定した判決の判断は、当事者も、他の裁判所も、もう蒸し返せなくなる、という効力です。Aの事件で言えば、「Bは300万円をAに支払え」という判決が確定すれば——Bが後から「やっぱり支払う義務はなかった」と言うことも——Aが後から「もっと請求できたはずだ」と言うことも、許されません。

既判力には、どこまで及ぶかという、細かい射程の議論もあります。そこは、別の回でじっくり扱います。今日は、まず「蒸し返しを禁じる力」という骨格だけ持ち帰ってください。2つ目、執行力です。判決に基づいて、Bの財産を差し押さえて、そこから取り立てることができます。マンションのような不動産、給料債権——差し押さえの対象は、いろいろあります。お金の請求だけでなく、建物の明渡しや——騒音・悪臭の差止めが必要な場合にも、この力で強制的に実現させられます。この手続を強制執行と呼びます。中身は、別の法律——民事執行法が受け持ちます。名前だけ、頭に入れておいてください。

実は、先ほど見た訴訟上の和解の「確定判決と同一の効力」にも、この執行力が含まれています。だから、和解で終わっても、Bが約束を守らなければ、Aは同じように強制執行に踏み切れます。3つ目、形成力です。判決そのものによって、新しい法律関係が作られる力です。典型例は、離婚を認める判決や、会社の決議を取り消す判決です。判決が確定した瞬間に、離婚という関係や、決議が取り消された状態が生まれます。詳しくは、それぞれ専用の回で扱います。今日は、名前と骨格だけです。まとめると、こうなります。見分け方はひとつです。その判決が、何をする判決なのかを見てください。判決が求めているものと、そこに生まれる力は、まっすぐつながっています。お金を支払え、という給付判決は、相手に何かをさせたり、やめさせたりする命令です。だから、従わないときに国の力で実現する——執行力が要ります。離婚や決議取消しのような形成判決は、誰かに命令するのではなく、関係そのものを変えることを求める判決です。命令する相手がいないので、判決自体が関係を変えます。これが形成力です。そして、権利があるかないかを確認するだけの確認判決には、既判力だけが生まれます。

Aの事件を裏返してみてください。Bの側から「300万円を支払う義務は無い」ことの確認を求める、という訴え方があります。そこで「義務は無い」と認められても、Bが誰かから何かを取り立てるわけではありません。争いをはっきりさせること自体が目的だからです。確認判決は、何かを強制したり、新しく作ったりする判決ではないからです。ただし、既判力だけは、どの判決にも共通して生まれます。判決の種類と、そこに生まれる力を、必ずセットで覚えてください。

ここまでのまとめ——訴訟は、こう終わる

訴訟の終わり方まとめボード 図:訴訟の終わり方まとめボード

では、ここで、今日の話を一度、畳んでおきましょう。Aの事件は、代理人を選び、緊急の保全措置をとるところから始まりました。訴状を提出し、送達を経て、答弁書が返ってきました。争点整理と集中証拠調べを経て、弁論が終結しました。そして今日、訴訟が終わる道筋を、3つ見ました。1つ目、判決以外にも、取下げや訴訟上の和解という終わり方がありました。2つ目、言渡しで効力が生じることと、確定して勝敗が定まることは、別の出来事でした。3つ目、確定判決には、判決の種類に応じて——既判力・執行力・形成力という力が生まれました。

ただ、まだ1つ、大事な問いが残っています。「Bは300万円をAに支払え」——この主文は、そもそも、どうやって導かれたのでしょうか。

参照条文

  • 民事訴訟法267条1項
  • 民事訴訟法251条
  • 民事訴訟法250条
  • 民事訴訟法252条1項
  • 民事訴訟法285条
  • 民事訴訟法116条

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