民訴ゼロから民訴#32

法廷には誰がいるのか——裁判官・書記官・専門委員から、代理人・証人・鑑定人まで

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第0章 序章 民事訴訟手続の全体像 ㉜/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

法廷の風景

法廷の傍聴席から見た人物配置の板(中央の一段高い席=裁判官。その脇で書類を扱う=書記官。手前の机に原告側代理人と被告側代理人。事件によっては専門家の席や証言のために控える人も) 図:法廷の傍聴席から見た人物配置の板

法廷を、傍聴席から一度、眺めてみます。中央の一段高いところに、裁判官がいます。その脇で書類を扱っているのが、書記官です。手前の机には、原告側の代理人と、被告側の代理人が座っています。事件によっては、専門家のための席が用意されていたり、証言のために呼ばれた人が控えていたりします。これまでの回で、専門委員や執行官、訴訟代理人という言葉は、何度も出てきました。今日の問いは、これです。法廷に見える肩書きの数だけ、役割もきれいに独立しているのか、それとも互いに重なり合っているのか。答えを先に言うと、後者です。裁判所サイド・当事者サイド・第三者サイドという3つの列に分けることはできますが、実際には、この境界を越えてくる人たちがいます。今日は、その一人ひとりが、なぜそこにいて、何を担っているのかを、1枚の地図にまとめます。先に物差しを渡しておきます。一人ひとりがそこにいる理由は、正しい判断を支えるため、本人の負担を軽くするため、手続を現実に動かすため、の3つに畳めます。まず、法廷という場所そのものの成り立ちから見ていきましょう。

三極構造とその限界

伝統的な三極構造とその限界の板(原告側・被告側を両端に置き裁判官を等距離に置く三角形。裁判官と両代理人だけを中心的担い手とみると当事者本人が置き去りになる危険。ラウンドテーブル法廷の活用例) 図:伝統的な三極構造とその限界の板

伝統的に、民事訴訟の構造は、対立する原告側と被告側を両端に置き、そこから等しい距離に裁判官を置く三角形として説明されてきました。実際の法廷の席の配置も、この考え方をそのまま形にしたものです。ただ、ここで一つ注意しておきたいことがあります。裁判官や両当事者の弁護士だけを手続の中心的な担い手だと考えてしまうと、困ったことが起きます。訴訟を実際に利用している当事者本人が、置き去りになってしまう危険です。例えば、初めて訴えられた人が、弁護士同士の専門用語のやりとりを、隣で黙って聞いているだけの場面を想像してください。

手続を進めているのは裁判官と弁護士だという見方を強く持ちすぎると、当事者本人は蚊帳の外に置かれた存在になりかねません。だから実務では、対立を強調する対面式ではなく、円卓を囲む形の法廷を使うなど、当事者本人が発言しやすい工夫も取り入れられています。裁判官・弁護士・当事者が同じ高さの席で向き合う形にするだけで、話しかけやすさは変わります。これから見ていく登場人物は、単なる肩書きの列挙ではありません。三極構造だけでは捉えきれない、多面的な関わり方の実例として見てください。

裁判官の職権と身分

裁判所サイドの顔ぶれの板(裁判官・書記官・事務官のほか専門委員(92条の2)。簡裁の和解に関与する司法委員(279条・簡裁限定)。人事訴訟の参与員(人訴9条)・家裁調査官(人訴34条)は通常訴訟には登場しない) 図:裁判所サイドの顔ぶれの板

まず、裁判所サイドから見ていきます。裁判所サイドには、裁判官のほかに、書記官、裁判所の事務を担う事務官、そして専門委員がいます。簡易裁判所の和解では司法委員、離婚などの人事訴訟では参与員や家庭裁判所調査官が加わることもあります。この2つは、通常の民事訴訟には出てきません。離婚や親子関係などを扱う、人事訴訟や家事事件といった家庭裁判所の手続のための制度です。参与員は、民間から選ばれて審理や和解に立ち会い、裁判官に意見を述べる人。家裁調査官は、子どもや家庭の事情を専門的に調べる裁判所の職員です。詳しい中身は別の回で扱います。

司法委員も、簡易裁判所だけの制度です。地方裁判所にはいません。民間から選ばれて、和解の話し合いを手伝ったり、審理に立ち会って裁判官に意見を述べたりします。さて、裁判官です。裁判官というと、両者の言い分を聞いて勝ち負けを判定するだけの人、というイメージを持たれがちです。ですが、裁判官には、両当事者のやりとりを促進する役割もあります。手続をどう進めるかは裁判所の職権で決まりますが、実際には進め方や選択に当事者の意向を反映させながら手続を運びます。次の期日をいつにするか、争点をどの順番で整理するか、といった段取りを決めるときに、当事者双方の都合や希望を聞いたうえで進めます。決めるのは裁判所ですが、聞かずに決めるわけではありません。

3つの理由でいえば、裁判官は「正しい判断を支える」側の中心です。この裁判官という地位を支えているのが、職権と身分の独立です。

条文日本国憲法76条3項

日本国憲法第76条第3項(裁判官の職権の独立) すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

裁判官は、誰かの指示や世間の空気に流されて判断するのではなく、自分の良心と憲法・法律だけに従って判断します。例えば、国や地方公共団体が被告になる裁判でも、この独立は変わりません。相手が国であっても、裁判官は良心と法律にのみ従って判断します。だから身分もあわせて強く保障されています。裁判官は、心身の故障による職務不能の裁判か、公の弾劾によらなければ、つまり国会に設けられる弾劾裁判所で辞めさせる判断がされなければ罷免されません。行政機関が裁判官を懲戒することも、憲法で禁じられています。最高裁判所の裁判官には、任命後に国民審査を受ける仕組みもあります。

任命の資格や、裁判所の構成、単独で担当するか、複数の裁判官の合議で担当するかといった細かい仕組みは、別の回で扱います。今日は、裁判官の独立という骨格だけ、持ち帰ってください。

書記官の役割変容と専門委員

書記官の役割変容の板(かつて=法廷記録・記録管理の係。今=当事者と裁判官の橋渡し役、手続のコーディネーター。判断ではなく手続の段取りを引き受ける) 図:書記官の役割変容の板

次に、書記官です。かつて書記官は、法廷でのやりとりを記録し、記録を管理するだけの係だと考えられていました。今の書記官は、当事者と裁判官の橋渡しをする、いわば手続のコーディネーターへと役割が広がっています。裁判官が判断そのものに集中できるよう、判断ではない手続の段取りを引き受けている。3つの理由のうち「手続を現実に動かす」役です。

書記官が主役を担う4場面の板(送達98条2項/訴訟費用額の確定71条1項/督促手続382条/執行文付与手続民執26条1項。規則により訴状審査・第1回期日前の準備・期日外釈明への関与も) 図:書記官が主役を担う4場面の板

  • 送達98条2項
  • 訴訟費用額の確定71条1項
  • 督促手続382条
  • 執行文付与手続民執26条1項
  • このほか規則により、訴状審査・第1回期日前の準備・期日外釈明にも関与

代表的な場面が4つあります。書類を相手方に届ける送達、訴訟にかかった費用を確定させる手続、支払いを命じる督促手続、そして判決の内容を実現するための執行文を付与する手続です。督促手続も、思い出してください。お金の支払いを求めるだけの単純な事件で、書記官が中心になって支払いを命じる手続でした。法廷での審理を開かずに進みます。このほかにも、規則によって、訴状の内容を審査したり、最初の期日の前に準備を進めたり、期日の外で当事者に事情を確認したりする場面にも関わっています。例えば、弁護士を立てずに訴えを起こした人の訴状で、何を求めているのかがはっきりしないとき、書記官がその人に連絡して、どこを直せばよいかを伝えることがあります。裁判官が判断に入る前に、手続が止まらないよう整えているわけです。続いて、専門委員です。前の回で名前だけ出てきた制度ですが、あれは、どういう人だったでしょうか?

専門委員とは誰かの板(非常勤で常勤の裁判所職員ではない。医師・建築士・会計士などが名簿に登録され事件ごとに指定される。争点整理から証拠調べ・和解まで関与できるが、その説明は証拠調べを経ないため証拠ではない) 図:専門委員とは誰かの板

医療や建築のように、専門的な知識がないと争点そのものが理解しづらい事件があります。専門委員は、そうした事件で、裁判所と当事者に不足している専門知識を補う専門家です。医師や建築士、会計士などが名簿に登録されていて、個別の事件ごとに指定されます。3つの理由でいえば、こちらは「正しい判断を支える」側です。専門委員は常勤の裁判所職員ではなく、非常勤です。争点や証拠の整理の段階から、証拠調べや和解の場面まで、幅広く関与できます。

条文民事訴訟法92条の2第1項

民事訴訟法第92条の2第1項(専門委員の関与) 裁判所は、争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、訴訟関係を明瞭にし、又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。

専門委員の説明は、証拠ではありません。条文が言っているのは、訴訟関係を明瞭にし、手続を円滑に進めるための説明を聴くという関与です。証拠調べそのものとは区別されます。証拠になるものは、証拠調べという決まった手続を通ります。証人や鑑定人なら、両方の当事者がその場で質問して、中身を争えます。専門委員の説明は、その手続を通っていません。当事者が尋問のように問いただす場を経ないまま、その説明で判決が決まれば、当事者は不意打ちを受けます。例えば、医療過誤の裁判で、医師が専門委員として、手術の一般的な手順や危険性を説明したとします。この説明は、争点を理解しやすくするためのものであって、この医師の発言そのものが証拠になるわけではありません。

同じひとでも、証人として証言すれば、それは証拠になります。専門委員としての説明と、証人としての証言は、まったく別の場面です。専門委員の説明と証拠との違いは、証拠を扱う回で改めて詳しく見ます。今日は、専門委員が果たしているのが「説明」であって「証拠」ではない、という一点を持ち帰ってください。なお、知的財産の事件では、専門委員と同じような役割を、裁判所調査官という別の職に担わせることができます。知財訴訟の特則としての中身は、このシリーズでは扱いません。

執行官という裁判所の常勤職員

執行官の役割の板(裁判所の常勤職員(裁62条)。訴訟手続では郵便と並ぶ送達の実施(101条1項)・訴え提起前の物の形状・占有関係などの現況の調査(132条の4第1項4号)。強制執行手続の中心的担い手) 図:執行官の役割の板

裁判所サイドの最後は、執行官です。専門委員が非常勤だったのに対して、執行官は裁判所の常勤の職員です。名前のとおり、強制執行の手続で主要な役割を果たしますが、訴訟手続の中にも顔を出す場面があります。書類を届け、現地を調べる。紙の上で決まった手続を、現場で形にする人です。3つの理由でいえば「手続を現実に動かす」役です。

条文民事訴訟法101条1項

民事訴訟法第101条第1項(送達実施機関) 書類の送達は、特別の定めがある場合を除き、郵便又は執行官によってする。

送達を実際に行うのは、原則として郵便か執行官です。書記官は送達の事務を取り扱い、ふだんは送達を実施させる立場ですが、裁判所に出頭した人に対しては、自分で書類を渡して送達することもできます。郵便ではなく、執行官が自ら書類を届けることもあります。そのほかにも、訴えを起こす前の証拠収集の一つとして、物の形状や占有関係といった現況を調査する場面でも、執行官が動きます。例えば、自分の建物を明け渡してほしいと訴えを起こす前に、中に実際に誰が住んでいるのか分からないとします。誰を相手に訴えるかが決まりません。そこで、執行官が現地に赴いて、占有の状況や建物の現況を調べます。

民事執行法という別の法律の領分です。今日は、執行官という職と、訴訟手続に顔を出す2つの場面だけ押さえておいてください。

本人訴訟主義と代理人

本人訴訟主義の板(当事者本人が代理人を立てずに自分で訴訟活動をしてよい原則。三極構造で本人が置き去りになる危険の裏返し。本人の負担を軽くする理由に対応) 図:本人訴訟主義の板

ここからは、当事者サイドに移ります。当事者サイドにいるのは、原告・被告の本人、法定代理人、そして訴訟代理人です。訴訟代理人は多くの場合は弁護士ですが、その前に押さえておきたいのは、民事訴訟では当事者本人が、代理人を立てずに自分で訴訟活動をしてよい、ということです。弁護士を立てなくてかまいません。以前の回で、弁護士を立てずに自分で進める本人訴訟を見ました。それを許す建前を、本人訴訟主義と呼びます。三極構造の話で見た、本人が置き去りになる危険の裏返しで、本人が主役として手続に立てることが出発点です。3つの理由でいえば、このあと見る代理人は、この本人の負担を軽くするためにいます。一問、考えてみてください。簡易裁判所で本人訴訟をしていた人が、途中から代理人を頼みたくなったとします。近くに弁護士がいない地域だったら、誰に頼めるでしょうか?

弁護士がいなければ頼めない、とは限りません。実は、頼める相手がもう一人います。それを見ていきましょう。

訴訟代理人の種類の一覧板(弁護士代理の原則54条=地裁以上は原則弁護士のみ。簡裁の例外=許可を得た者(54条ただし書)・研修修了+能力認定の司法書士(司書3条1項6号7号2項)。補佐人は代理人ではなく付添い) 図:訴訟代理人の種類の一覧板

  • 弁護士代理の原則(54条)=地裁以上は原則として弁護士のみ
  • 簡裁の例外=許可を得た者(54条ただし書)・研修修了+能力認定を受けた司法書士(司書3条1項6号7号・2項)
  • 補佐人は代理人ではなく付添い

本人訴訟主義とは別の話として、代理人に頼むとなると、選べるのは基本的に弁護士だけです。訴訟活動には、法律の知識だけでなく、相手方や裁判所とやりとりする力も要ります。この能力を担保するために、原則として弁護士に限っています。

条文民事訴訟法54条

民事訴訟法第54条(訴訟代理人の資格) 法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。

これが、以前の回でも見た弁護士代理の原則です。ただし書に注目してください。簡易裁判所では、裁判所の許可を得れば弁護士でない者も訴訟代理人になれます。簡裁は、訴額が小さく、手続も簡易にできている裁判所です。原則を貫くより、本人の利用しやすさを優先した例外です。もう一つあります。簡易裁判所では、司法書士も訴訟代理人になれます。弁護士は大都市に集まりがちで、簡易裁判所では本人訴訟が多い。その本人を身近で支えてきたのが司法書士だったので、一定の条件のもとで代理を認めたわけです。誰でもではありません。そこに境界があります。所定の研修課程を修了し、能力認定を受けた司法書士だけです。すべての司法書士が簡裁の訴訟代理人になれるわけではありません。認定を受けていれば、140万円以下の紛争について、裁判外の和解の代理もできます。

では、認定を受けていない司法書士は何もできないのかというと、できることはあります。裁判所に出す書類の作成を手伝うことは、認定の有無にかかわらずできます。ただし、本人の代わりに法廷でやりとりする代理人になれるのは、認定を受けた司法書士だけです。書類作成の手伝いと、代理人になることは別の話です。「司法書士なら簡裁で代理できる」ではなく「研修を修了し能力認定を受けた司法書士なら」と覚えてください。最後に、補佐人です。

条文民事訴訟法60条

民事訴訟法第60条(補佐人) 当事者又は訴訟代理人は、裁判所の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。

補佐人は、当事者や訴訟代理人に付き添って期日に出頭し、主張を補足する人です。補佐人は、訴訟代理人ではありません。本人に代わって訴訟行為をするのではなく、あくまで付き添って、その場での説明を助ける立場です。例えば、専門的な事件で、当事者本人が技術的な説明をうまくできないとき、補佐人が横で補って説明することはできます。ですが、補佐人が単独で主張したり、和解を決めたりする権限は持ちません。ここは取り違えやすいので、はっきり分けておいてください。

コラム 弁護士という資格

弁護士の職務と制限の板(職務=法律事務全般(弁護3条)。資格=司法試験合格+司法修習+弁護士名簿登録(弁護4条・8条・9条)。職務を行ってはならない事件(同25条)。非弁行為の禁止(同72条)と罰則(同77条)) 図:弁護士の職務と制限の板

  • 職務=法律事務全般(弁護3条)
  • 資格=司法試験合格+司法修習+弁護士名簿登録(弁護4条・8条・9条)
  • 職務を行ってはならない事件(同25条)
  • 非弁行為の禁止(同72条)と罰則(同77条)

ここで、当事者サイドのもう一人の主役、弁護士について少し詳しく見ておきます。弁護士は、依頼を受けて、訴訟事件や非訟事件、行政庁への不服申立てなど一般の法律事務を行うことを職務とします。司法試験に合格したうえで、司法修習を終える必要があります。そのうえで、各地の弁護士会を経て、日本弁護士連合会の弁護士名簿に登録されて、初めて弁護士として活動できます。地方裁判所以上の民事訴訟で、訴訟代理人の資格を原則として弁護士が独占しているのは、この資格の重さに支えられています。では、弁護士ならどんな事件でも引き受けられるかというと、そうとは限りません。法律上、引き受けられない事件が決まっています。例えば、以前に相手方から相談を受けていた事件のように、公正さが保てない事件です。同じ弁護士が、片方の相談に乗ってから、もう片方の代理人になることは許されません。また、弁護士でない者が報酬を目的に法律事務を取り扱うことは禁じられています。非弁行為の禁止と呼ばれます。

資格や懲戒の仕組みに縛られない者が、報酬目的で法律相談を引き受けると、質の低い助言で依頼者が不利益を受けても、責任を追及する手段が乏しくなるからです。違反には罰則もあります。訴訟代理人を原則として弁護士に限る54条も、能力の担保に加えて、この非弁行為を訴訟の場で防ぐ意味を持っています。なお、弁護士が非常勤の裁判官として調停事件を扱う制度もありますが、これは別の回に譲ります。ここまで見た当事者サイドには、原告・被告本人と法定代理人、訴訟代理人としての弁護士や司法書士、補佐人のほかにも、訴訟に途中から参加する人や、和解の利害関係人がいます。当事者サイドと第三者サイドの境目は、実は厳密には引けません。

証人と鑑定人

証人の実質的な近さを示す関係図(A=原告と衝突するB=被告の車にCが同乗していた交通事故の設例。CはBの友人としてBに近い立場で証人になる。鑑定人は専門知識の提供で裁判所サイドと連続する) 図:証人の実質的な近さを示す関係図

そのことが、いちばんよく表れるのが第三者サイドです。第三者サイドの代表は、証人と鑑定人です。第三者というと当事者と無関係な中立の立場に聞こえますが、実は、中立とは言い切れません。具体例で考えてみます。Bの運転する車が、Aの車に追突する事故が起きたとします。事故の瞬間、Bの車には助手席に友人のCが同乗していました。この事故をめぐる裁判で、Cが証人として呼ばれたとします。Cは当事者ではありません。ですが、Bの友人として、Bに有利な証言をしたい気持ちが働きやすい立場にあります。証人はほとんどの場合、原告か被告のどちらかとつながりがあり、どちらかを応援する立場にあります。実質的な利害関係という点では、当事者と紙一重です。反対に、たまたま歩道から事故を見ていただけの通行人が証人になったら、どうでしょう。AともBとも無関係です。同じ証人でも、近さを決めるのは「証人」という肩書きではなく、当事者とのつながりです。

一方、鑑定人はどうでしょうか。さっき出てきた専門委員と、少し似ている気がします。鑑定人も、専門的な知識を裁判所に提供する点で、裁判所サイドとも重なりあいます。ただし、専門委員との違いもあります。鑑定人が意見を述べる鑑定は、正式な証拠調べの手続です。例えば、さっきの医療過誤の裁判で、裁判所が別の医師に「この手術に落ち度があったか」を調べて意見を出すよう頼んだとします。その医師が出す鑑定の意見は、判決の材料になる証拠です。専門委員の医師がした説明は、争点を分かりやすくするためのもので、証拠ではありませんでした。

専門委員・鑑定人・証人の比較板(列=専門委員/鑑定人/証人。行=何を出すか(説明/鑑定意見/証言)・証拠か(×/○/○)・どちら寄りか(裁判所の手続を補助/裁判所サイド寄り/当事者サイド寄り)) 図:専門委員・鑑定人・証人の比較板

  • 何を出すか:専門委員=説明/鑑定人=鑑定意見/証人=証言
  • 証拠か:専門委員=×/鑑定人=○/証人=○
  • どちら寄りか:専門委員=裁判所の手続を補助/鑑定人=裁判所サイド寄り/証人=当事者サイド寄り

証人が当事者側にはみ出しているとすれば、鑑定人は裁判所サイドにはみ出しています。証人も鑑定人も、裁判所の判断の材料を届けるためにいます。「正しい判断を支える」理由でそこにいるのに、立ち位置は当事者側と裁判所側に分かれるわけです。このほかにも、裁判所が第三者に事実の調査を頼む調査の嘱託、文書を送るよう頼む文書送付嘱託、文書を出すよう命じる文書提出命令の相手方、そして傍聴人も、第三者サイドに含まれます。証人尋問や鑑定の中身、文書提出命令の要件は、それぞれ別の回で扱います。

今日の地図(保存版)

3列の地図の板(裁判所サイド=裁判官・書記官・専門委員・司法委員・参与員・家裁調査官・執行官。当事者サイド=本人・法定代理人・訴訟代理人(弁護士/司法書士)・補佐人・訴訟参加人。第三者サイド=証人・鑑定人・調査/文書提出命令の相手方・傍聴人) 図:3列の地図の板

  • 裁判所サイド=裁判官・書記官・専門委員・司法委員・参与員・家裁調査官・執行官
  • 当事者サイド=本人・法定代理人・訴訟代理人(弁護士/司法書士)・補佐人・訴訟参加人
  • 第三者サイド=証人・鑑定人・調査/文書提出命令の相手方・傍聴人

今日見てきた登場人物を、1枚の地図に畳んでおきます。裁判所サイドには、裁判官、書記官、専門委員、司法委員、参与員、家裁調査官、そして執行官がいます。当事者サイドには、本人、法定代理人、訴訟代理人としての弁護士や司法書士、補佐人、そして訴訟に参加してくる人がいます。第三者サイドには、証人、鑑定人、調査や文書提出命令の相手方、傍聴人がいます。証人は当事者サイドに、鑑定人は裁判所サイドに、それぞれ実質的にはみ出していました。三極構造という単純な三角形では、この動きは説明できません。正しい判断を支えるためか、本人の負担を軽くするためか、手続を現実に動かすためか。今日の一人ひとりに、その理由を当ててきました。一人ひとりの役割は、これから先の回で改めて深掘りしていきます。次は、この登場人物たちが動く手続そのものを、通常の訴訟と特別な訴訟という2つの型に分けて、序章の締めくくりとして地図にします。

参照条文

  • 日本国憲法76条3項
  • 民事訴訟法92条の2第1項
  • 民事訴訟法101条1項
  • 民事訴訟法54条
  • 民事訴訟法60条

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