民訴ゼロから民訴#49

争点整理後も失権しない理由

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第2章 訴訟の審理 ㊾/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

終わったはずなのに

冒頭事案の関係図(弁論準備手続が終結し口頭弁論期日に戻った法廷・A原告代理人とB被告代理人が着席・B被告代理人が終結前には一度も出していなかった新しい抗弁をその場で持ち出す) 図:冒頭事案の関係図

前回、争点整理の3つの部屋を見終えたところで、こう言いました。整理が終わったら、その結果はどうなるのか。そこにも条文が用意した仕組みがある、と。まず、ある場面を見てください。弁論準備手続が終結して、事件は口頭弁論の期日に戻ってきました。ところが、被告の代理人Bは、終結前には一度も出していなかった新しい抗弁を、その口頭弁論の期日で、いきなり持ち出しました。争点整理はもう終わったはずですよね。今さら新しい主張を出して、それは通るんですか。そこが、今日の出発点です。整理が終わったはずなのに、なぜ今、新しい主張が出てくるのか。結論から言うと、今の法律には失権効がありません。かといって、出し放題でもありません。なぜそうなるのか、そのからくりは、今日の後半でじっくり見ていきます。今日はまず、整理が終わったあとに何が起きるのかを、順番に見ていきます。

証明すべき事実を確認する

争点の確認の板(準備的口頭弁論と弁論準備手続=終了終結に際してその場で証明すべき事実を確認165条1項・170条5項準用・裁判長は争点証拠整理の結果を要約した書面を提出させられる165条2項・書面による準備手続だけは終結時点ではまだ確認できず終結後の口頭弁論期日で確認177条) 図:争点の確認の板

まず、1つ目の問いからです。争点整理の手続を終えるとき、裁判所は、その後の証拠調べで何を証明すべきかを、当事者との間で確認します。条文を見てください。

条文民事訴訟法165条1項2項

民事訴訟法165条1項2項(証明すべき事実の確認・要約書面) 裁判所は、準備的口頭弁論を終了するに当たり、その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする。 2 裁判長は、相当と認めるときは、準備的口頭弁論を終了するに当たり、当事者に準備的口頭弁論における争点及び証拠の整理の結果を要約した書面を提出させることができる。

1項が定めているのは、準備的口頭弁論を終了する、まさにそのときに、その後の証拠調べで証明すべき事実を確認する、という規律です。前回見た170条5項は、口頭弁論の規定を弁論準備手続に及ぼす準用規定でしたね。その170条5項によって、この規律は弁論準備手続にも準用されます。だから、準備的口頭弁論を終了するときも、弁論準備手続を終結するときも、その場で証明すべき事実を確認する、という点は共通しています。裁判長が必要だと判断したときに、争点と証拠を整理した結果をまとめた書面を、当事者に提出させることができる、という規定です。口頭で確認するだけでなく、書面でも残せるようにしてあるわけです。

書面による準備手続も、同じように、終結のその場で確認するんですか。ここが、今日いちばん最初の落とし穴です。書面による準備手続だけは、違います。

条文民事訴訟法177条

民事訴訟法177条(書面による準備手続の終結後の確認) 裁判所は、書面による準備手続の終結後の口頭弁論の期日において、その後の証拠調べによって証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする。

書面による準備手続は、そもそも当事者が出頭しません。前回見たとおり、電話でつながって、書面でやり取りをする手続でした。終結のその場で、当事者と対面して事実を確認する、という行為自体が成り立ちません。だから、177条は、終結したあとの、次の口頭弁論の期日で確認する、という形にしています。165条1項の「終了するに当たり」という言葉と、177条の「終結後の口頭弁論の期日において」という言葉の違いに、注目してください。ここを同じ話だと思い込むと、短答で足をすくわれます。冒頭の事件も、弁論準備手続でしたから、終結するその場で、裁判所とA・B双方との間で、何を証明すべきかが確認されていたことになります。

この後の証拠調べ、集中証拠調べと呼ばれる手続では、文書の取調べは争点整理の段階でほぼ済んでいるのが通例で、証人や当事者本人への尋問が中心になります。何を聞くのかを絞り込むには、証明すべき事実、つまり立証のテーマを、先にはっきりさせておく必要があります。だからこそ、確認して、電子調書に記録させておくのです。裁判所書記官に記録させる規律は、民事訴訟規則の86条1項と90条にあります。書面による準備手続の場合は、規則93条が同じ役割を果たします。

手続の結果を陳述する

手続結果の陳述の板(弁論準備手続の終結後は当事者が口頭弁論で弁論準備手続の結果を陳述しなければならない173条・理由=非公開が原則の弁論準備手続で顕出された資料を訴訟資料にするには口頭で述べたことだけが判決の材料になるという原則と公開の法廷で行うという原則の枠内に収める必要があり受命裁判官が実施した場合は立ち会った裁判官だけが判決を書くという直接主義も満たす必要がある・準備的口頭弁論は口頭弁論そのものなので顕出資料が当然に訴訟資料になり陳述は不要) 図:手続結果の陳述の板

2つ目の問いです。弁論準備手続が終結すると、事件は口頭弁論に戻ります。そこで、もう1つ、やらなければならない作業があります。

条文民事訴訟法173条

民事訴訟法173条(手続結果の陳述) 当事者は、口頭弁論において、弁論準備手続の結果を陳述しなければならない。

当事者は、口頭弁論の期日で、弁論準備手続の結果を陳述しなければなりません。これを、手続結果の陳述と呼びます。弁論準備手続でやり取りした内容をもう一度口頭弁論で述べ直すのには、理由があります。前回見たとおり、弁論準備手続は、原則として非公開の期日でした。非公開の場で出てきた資料を、そのまま判決の基礎にできる訴訟資料として扱ってよいかというと、それは別の問題です。口頭弁論は、当事者が口頭で述べたことだけを判決の材料にできるのが原則で、しかも公開の法廷で行われなければなりません。非公開の場で出た資料を訴訟資料にするなら、この2つの原則の枠内に収める必要があります。だから、あらためて公開の口頭弁論の場で、当事者自身の口から、弁論準備手続の結果を陳述させるのです。冒頭の事件でいえば、非公開の場でAとBが詰めた争点や書証は、口頭弁論の期日で当事者が陳述して、はじめて判決の基礎になります。

さらにもう1つ、加わるものがあります。受命裁判官というのは、合議体のメンバーの1人が、一定の事件処理を任されたときの呼び名でした。弁論準備手続を受命裁判官がおこなった場合、その裁判官は、その事件を担当する裁判所そのものではありません。受命裁判官が手続をしていたなら、判決をする裁判所自身はその場にいなかったことになりますから、判決の基礎となる弁論と証拠調べに立ち会った裁判官だけが判決を書けるという直接主義の原則も、あわせて満たしていなければなりません。手続結果の陳述は、この直接主義の原則も同時に満たす役割を持っています。

準備的口頭弁論のほうは、どうですか。ここが、今日2つ目の大きな罠です。準備的口頭弁論は、名前のとおり口頭弁論そのものです。公開の法廷で、当事者本人が直接、主張し立証する場です。そこで顕出された資料は、その場ですでに口頭主義、公開主義、直接主義のすべてを満たしています。だから、あらためて陳述するという橋渡しの作業は要りません。顕出された資料は、当然に訴訟資料になります。3つの手続のうち、この陳述という橋渡しが必要なのは、弁論準備手続だけです。書面による準備手続には、手続結果の陳述にあたる規定はありません。さっき見た177条の確認か、要約書面の陳述で代わりを果たします。陳述する中身についても指針があって、証明すべき事実を明らかにしながら行うことが、民事訴訟規則89条に定められています。

終わったあとに新しい主張は出せるか——#2-9の答え合わせ

終結後の3段階フロー板(①証明すべき事実の確認165条177条②手続結果の陳述173条③終結後の新しい主張の扱いは失権効なしただし相手方の求めがあれば説明義務167条174条178条・#2-9で見た旧法の準備手続は失権効が強すぎて失敗した) 図:終結後の3段階フロー板

ここまでの2つは、手続を閉じるための後始末でした。義務として、確認し、陳述する。3つ目の問いは、性質が逆になります。手続を閉じたあとの、自由と制約の話です。整理が終わったあとに、それまで出していなかった新しい攻撃防御方法、つまり新しい主張や証拠を出したら、その主張は却下されるのか。冒頭で先に言った結論を、ここから条文で確かめていきます。特には妨げられません。準備的口頭弁論の終了後、または弁論準備手続の終結後に、新しい主張を出すこと自体は、原則として認められています。ここで、少し思い出してください。旧い民事訴訟法にあった準備手続という制度は、なぜ失敗したと学びましたか?

たしか、失権効が強すぎたから、でしたね。準備手続で言い忘れると、あとから口頭弁論で主張できなくなる。その効果が強すぎて、かえって使われなくなった、と聞きました。現行法は、その反省をそのまま条文に持ち込みました。争点整理の手続を終えたからといって、新しい主張ができなくなる、という失権の効果は、現行法には置かれていません。旧法の準備手続とは、正反対の選択です。そこで、失権効の代わりに、法が用意したのが説明義務です。相手方から求めがあったときに、なぜ手続の終了前にその主張を出せなかったのかを、説明しなければならない、という規律です。この、相手方の求めのことを、詰問権と呼びます。

条文民事訴訟法167条

民事訴訟法167条(準備的口頭弁論終了後の説明義務) 準備的口頭弁論の終了後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、相手方に対し、準備的口頭弁論の終了前にこれを提出することができなかった理由を説明しなければならない。

準備的口頭弁論の終了後に新しい主張を出した当事者は、相手方から求められたら、なぜ終了前に出せなかったのかを説明しなければなりません。この説明義務は、相手に不利益を押し付けない誠実さを求める、訴訟上の信義則——条文でいえば2条——の具体的な現れです。争点整理という共同作業に加わった以上、あとから何かを出すときは、誠実に理由を説明する、という道理です。

詰問権と説明義務の対応板(相手方の求め=詰問権があるときに手続終了前に提出できなかった理由を説明する義務・準備的口頭弁論の終了後は167条・弁論準備手続の終結後は174条が167条を準用・書面による準備手続の場合は178条・条文ごとに対応する手続が違うだけで発想は同じ) 図:詰問権と説明義務の対応板

弁論準備手続と、書面による準備手続には、それぞれ別の条文があるんですか。あります。まず、弁論準備手続の場合です。

条文民事訴訟法174条

民事訴訟法174条(弁論準備手続版の準用) 第百六十七条の規定は、弁論準備手続の終結後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者について準用する。

174条は、167条をそのまま準用しています。弁論準備手続が終結したあとに新しい主張を出した当事者にも、同じ説明義務がかかります。

条文民事訴訟法178条

民事訴訟法178条(書面による準備手続版) 書面による準備手続を終結した事件について、口頭弁論の期日において、第百七十六条第三項において準用する第百六十五条第二項の書面に記載した事項の陳述がされ、又は前条の規定による確認がされた後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるときは、相手方に対し、その陳述又は確認前にこれを提出することができなかった理由を説明しなければならない。

書面による準備手続の場合は、少し文言が長くなります。要約書面に記載した事項の陳述がされたあと、または、さっき見た177条の確認がされたあとに、新しい主張を出した当事者に、同じ説明義務がかかります。167条、174条、178条は、それぞれ準備的口頭弁論、弁論準備手続、書面による準備手続に対応した、同じ発想の条文だと考えてください。説明義務を果たさなかったら、その新しい主張は却下されるんですか。ここが、今日いちばんの罠です。説明義務を果たさなくても、説明が著しく理屈に合わなくても、それだけで当然に却下されるわけではありません。167条、174条、178条のどれも、却下するとは書いていません。効いてくるのは、別の条文、以前見た157条1項の判断です。

157条1項には、①時機に後れた提出であること、②故意または重大な過失があったこと、③訴訟の完結が遅延することという3つの要件があります。中身そのものは、以前扱った回に譲ります。今日確認したいのは、この失権効の否定の話が、①と②にどう接続するかです。③は、今日はこれ以上立ち入りません。まず、争点整理手続を経たという事実それ自体が、①時機に後れて提出されたという要件の判断材料になります。整理の場で出す機会が十分にあったのに、そこを過ぎてから出してきた、という事情として働きます。そして、説明がされなかった、または著しく理屈に合わない、という事情は、②当事者に故意または重大な過失があったという要件の、有力な判断材料になります。

できない、でもなく、何でもできる、でもない。第三の道です。出すことはできる。ただし、なぜ今まで出さなかったのかを問われ、その答え次第で、後の却下の判断に影響が及ぶ。この間接的な効き方を、押さえておいてください。

却下ルート対比板(説明義務ルート=167条174条178条から相手方の求めがあれば説明義務それが157条1項の要件①②の判断材料になる/審理計画ルート=147条の3第3項156条の2で提出期間が定められている場合は徒過分は原則却下157条の2ただし相当の理由の疎明があれば却下されない・2つのルートは別建て) 図:却下ルート対比板

  • 説明義務ルート=167条174条178条から相手方の求めがあれば説明義務それが157条1項の要件①②の判断材料になる
  • 審理計画ルート=147条の3第3項156条の2で提出期間が定められている場合は徒過分は原則却下157条の2ただし相当の理由の疎明があれば却下されない・2つのルートは別建て

さっきから、原則却下ではない、という話をしていますが、原則却下になる場合は、無いんですか。あります。ただし、それは別建てのルートです。審理の計画をあらかじめ立てて、特定の事項について提出期間を定めている事件では、話が変わります。

条文民事訴訟法157条の2

民事訴訟法157条の2(審理計画がある場合の却下) 第百四十七条の三第三項又は第百五十六条の二(第百七十条第五項において準用する場合を含む。)の規定により特定の事項についての攻撃又は防御の方法を提出すべき期間が定められている場合において、当事者がその期間の経過後に提出した攻撃又は防御の方法については、これにより審理の計画に従った訴訟手続の進行に著しい支障を生ずるおそれがあると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。ただし、その当事者がその期間内に当該攻撃又は防御の方法を提出することができなかったことについて相当の理由があることを疎明したときは、この限りでない。

147条の3第3項、または156条の2によって、提出すべき期間があらかじめ定められている事件で、その期間を過ぎてから攻撃防御方法が出されると、審理の計画どおりの進行に著しい支障が出るおそれがあると認められれば、裁判所は却下の決定ができます。ただし書もあって、期間内に出せなかったことについて、証明ほど強い確信までは要らず一応確からしいと思わせる程度の疎明があれば、却下されません。混ぜないでください。説明義務のルートは、争点整理を経たという事実と、説明の欠如が、157条1項の判断材料に取り込まれるだけの、間接的な効き方でした。こちらは、審理計画で決められた期間を過ぎたという一点で、原則として却下される、より直接的なルートです。審理計画は、争点整理や尋問の期間をあらかじめ定める計画でしたね。審理計画そのものについては、また別の回で扱います。今日は、この2つのルートが別物だ、ということだけ押さえておいてください。

あの場面には、審理計画で期間が定められている、という事情はありませんでした。だから、157条の2の原則却下のルートには乗りません。特には妨げられない、というのが原則です。ただし、原告の代理人Aが求めれば、Bは、弁論準備手続の終結前にその抗弁を出せなかった理由を、説明しなければなりません。その説明が無い、または著しく理屈に合わないなら、そのことが、時機に後れた提出だったのか、Bに重大な過失があったのか、という157条1項の判断の材料になります。却下されるかどうかは、その判断次第です。

専門委員——鑑定人ではない脇役

専門委員の位置づけの板(平成15年改正で新設92条の2以下・医療過誤訴訟建築関係紛争など専門的知見を要する訴訟の増加が背景・専門委員は裁判所が専門的な知見を要する事実を理解するのを手助けする非常勤の裁判所職員92条の5第3項・鑑定人ではないので専門委員の説明は証拠資料にならない・事件ごとに当事者の意見を聴いて指定92条の5第2項・員数は各事件1人以上92条の5第1項) 図:専門委員の位置づけの板

最後に、もう1つだけ見ておきます。専門委員という制度です。専門的な知識を持つ人に裁判所が意見を聴く、という理解は近いですが、専門委員は単に意見を聞かれるだけの外部の人ではなく、非常勤の裁判所職員として位置づけられている点が違います。医療過誤の訴訟や、建築関係の紛争など、法律以外の専門的な知見が必要になる事件が増えたことを背景に、平成15年の改正で、専門委員の制度が設けられました。ただし、ここで、今日3つ目の罠があります。専門委員は、裁判所が専門的な知見を要する事実を理解するのを手助けする、非常勤の裁判所職員です。鑑定人ではありません。鑑定人というのは、裁判所の求めに応じて、専門的な判断そのものを述べる人です。

専門家が説明するなら、鑑定人と同じではないんですか。そこが取り違えやすいところです。専門委員の説明は、証拠資料にはなりません。鑑定人による鑑定は、証拠調べの一種で、その結果は証拠資料として、判決の基礎になります。これは別の回で扱う制度です。専門委員は、そうではありません。裁判所が専門的な事実を理解するための補助であって、専門委員が述べたことそのものを、証拠として使うことはできません。事件ごとに、当事者の意見を聴いたうえで、裁判所が指定します。員数は、各事件について1人以上です。あらかじめ全事件に共通の専門委員がいる、という制度ではありません。

専門委員の関与場面の板(あらゆる審理段階で関与できる=争点証拠整理・訴訟手続の進行に関する協議・証拠調べ・和解の勧試92条の2各項・中立性公平性確保のため裁判官の除斥忌避規定を準用92条の6・除斥忌避の申立てがあればその決定が確定するまで手続に関与できない92条の6第2項) 図:専門委員の関与場面の板

専門委員が関与できる場面は、幅広いです。争点や証拠の整理、訴訟手続の進行に関する協議、証拠調べ、そして和解の勧試まで、審理のあらゆる段階に関与できます。幅広いぶん、中立性が気になります。裁判官寄りになってしまわないか、とか。そこは、条文が手当てしています。専門委員には、裁判官の除斥・忌避の規定が準用されます。

条文民事訴訟法92条の6

民事訴訟法92条の6(除斥・忌避の準用) 第二十三条から第二十五条まで(同条第二項を除く。)の規定は、専門委員について準用する。 2 専門委員について除斥又は忌避の申立てがあったときは、その専門委員は、その申立てについての決定が確定するまでその申立てがあった事件の手続に関与することができない。

裁判官の除斥や忌避について定めた規定が、専門委員にも及びます。除斥や忌避の申立てがあれば、その決定が確定するまで、その専門委員は、その事件の手続に関与できません。裁判官の除斥・忌避そのものについては、以前扱った回に譲りますが、同じ発想がここにも生きています。

意見聴取と同意の段階板(関与の程度に応じて手続保障が重くなる=口頭弁論の準備進行協議期日証拠調べでの説明は当事者の意見聴取で足りる92条の2第1項3項前段/人証の証拠調べ期日で専門委員が証人当事者本人鑑定人に直接問いを発する場合または和解の勧試に際して説明させる場合は当事者の同意が要る92条の2第3項後段4項) 図:意見聴取と同意の段階板

  • 関与の程度に応じて手続保障が重くなる=口頭弁論の準備進行協議期日証拠調べでの説明は当事者の意見聴取で足りる92条の2第1項3項前段
  • 人証の証拠調べ期日で専門委員が証人当事者本人鑑定人に直接問いを発する場合または和解の勧試に際して説明させる場合は当事者の同意が要る92条の2第3項後段4項

そして、専門委員の関与の重さに応じて、必要な手続保障の重さも変わります。まず、軽いほうから見ます。

条文民事訴訟法92条の2第1項

民事訴訟法92条の2第1項(争点証拠整理・進行協議での関与) 裁判所は、争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、訴訟関係を明瞭にし、又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、専門委員の説明は、裁判長が書面により又は口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日において口頭でさせなければならない。

争点や証拠の整理、訴訟手続の進行に関する協議で専門委員を関与させるときは、当事者の意見を聴いたうえで、決定で関与させます。専門委員の説明は、裁判長が書面で、または口頭弁論や弁論準備手続の期日で口頭でさせなければなりません。

条文民事訴訟法92条の2第3項

民事訴訟法92条の2第3項(証拠調べでの関与) 裁判所は、証拠調べをするに当たり、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、証拠調べの期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人質問の期日において専門委員に説明をさせるときは、裁判長は、当事者の同意を得て、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするために必要な事項について専門委員が証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発することを許すことができる。

証拠調べに専門委員を関与させるときも、前段は同じ形です。当事者の意見を聴いて、決定で関与させます。ですが、後段を見てください。証人や当事者本人の尋問、または鑑定人質問の期日で、専門委員に説明をさせる場合に、専門委員が証人や当事者本人、鑑定人に対して、直接、問いを発することを許すときだけは、当事者の同意が要ります。専門委員は、あくまで裁判所の理解を補助する立場です。それが、証人や当事者本人に対して直接、問いを発するというのは、審理そのものに一歩踏み込む行為です。だから、意見を聴くだけでは足りず、当事者の同意という、重い手続保障が求められます。

条文民事訴訟法92条の2第4項

民事訴訟法92条の2第4項(和解の勧試での関与) 裁判所は、和解を試みるに当たり、必要があると認めるときは、当事者の同意を得て、決定で、当事者双方が立ち会うことができる和解を試みる期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。

もう1つ、和解を試みる場面でも、専門委員を関与させることができます。ここでも、意見を聴くだけでは足りず、当事者の同意が要ります。和解の話し合いに専門的な知見が持ち込まれると、心証や話し合いの流れそのものに大きく影響するからです。当事者の意向に反する形で、専門的な知見が判断に紛れ込まないようにする趣旨です。仮に、冒頭の事件に専門委員が関与していたとしましょう。専門委員が、この契約に関する業界の慣行について説明したとします。その説明を、判決の証拠として使えますか。さっき聞いたとおりなら、使えませんよね。専門委員は鑑定人ではないので。専門委員の説明は、あくまで裁判所の理解を助けるためのものであって、証拠資料にはなりません。事実を証拠として認定したいなら、鑑定という別の手続を使う必要があります。

今日の地図(保存版)

今日の全体像の板(①証明すべき事実の確認=終了終結のその場で165条1項・書面による準備手続だけは終結後の口頭弁論期日で177条②手続結果の陳述=弁論準備手続だけに要る橋渡し173条・口頭主義公開主義直接主義を満たすため③失権効は無いが説明義務がある167条174条178条・説明義務違反は157条1項の判断材料/専門委員=非常勤の裁判所職員で鑑定人ではない・意見聴取と同意の2段階) 図:今日の全体像の板

  • ①証明すべき事実の確認=終了終結のその場で165条1項・書面による準備手続だけは終結後の口頭弁論期日で177条②手続結果の陳述=弁論準備手続だけに要る橋渡し173条・口頭主義公開主義直接主義を満たすため③失権効は無いが説明義務がある167条174条178条・説明義務違反は157条1項の判断材料
  • 専門委員=非常勤の裁判所職員で鑑定人ではない・意見聴取と同意の2段階

今日は、争点整理が終わったあとに何が起きるかを、順番に見てきました。証明すべき事実の確認は、準備的口頭弁論と弁論準備手続では、終了・終結のその場で行われますが、書面による準備手続だけは、終結後の口頭弁論の期日で行われます。時点がずれる、という点が、今日の最初の罠でした。そして、今日いちばんの主役、終わったあとに新しい主張を出せるかという問いには、こう答えます。特には妨げられません。現行法の争点整理手続に、失権効はありません。旧法の準備手続とは、正反対の選択です。ただし、無条件ではありません。相手方の求めがあれば、説明義務が課され、その説明の有無や内容が、時機に後れた攻撃防御方法の却下という判断の材料になります。

ここまでで、争点整理の全体像が揃いました。証拠調べに先立って争点と証拠を整理しておく意義、争点整理には3つの手続があり、それぞれ何が異なるのかという異同、そして、手続を終えたあとにどんな規律が続くのか。これで、争点整理という1つの山を、一通り歩き終えたことになります。争点整理を経て、証明すべき事実は、もう絞られました。では、その証明に使う証拠は、どうやって手に入れるのでしょうか。訴えを起こす前から、証拠が手もとに十分あるとは限りません。相手方や、第三者の手もとにしかない証拠を、どう引き出すのか。そこに、条文が用意した道具箱があります。

参照条文

  • 民事訴訟法165条1項2項
  • 民事訴訟法177条
  • 民事訴訟法173条
  • 民事訴訟法167条
  • 民事訴訟法174条
  • 民事訴訟法178条
  • 民事訴訟法157条の2
  • 民事訴訟法92条の6
  • 民事訴訟法92条の2第1項
  • 民事訴訟法92条の2第3項
  • 民事訴訟法92条の2第4項

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