争点整理の3つの手続
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第2章 訴訟の審理 ㊽/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
法服を着ない裁判官
図:冒頭事案の関係図
前回、期日の外側で何が起きているかを見て、最後にこう言いました。争点整理手続には、実は部屋が3つある、と。今日は、その3つの部屋の中に、実際に入ってみます。弁護士になって3年目のある日、と想像してください。今日は初めての、弁論準備手続という期日です。案内された部屋は、法廷ではありませんでした。丸い机の向こうに座っていたのは、法服を着た裁判官ではなく、背広姿の裁判官です。書記官の姿もありません。相手方の代理人と、3人だけの、小さな会議室のような部屋でした。法廷じゃないんですか。それで、裁判の手続として成り立つんですか。そこが、今日の出発点です。ここは法廷ではないのに、なぜここで証拠のやり取りができるのか。答えを先に言うと、争点整理には部屋が3つあって、そのうち2つは法廷ではないからです。今日は、3つの部屋を、誰が入れるか・誰が来るか・何ができるかの3点で見分けます。
弁論準備手続——期日の指定
図:弁論準備手続の定義と開始の板
弁論準備手続とは、争点と証拠を整理するために、裁判所が口頭弁論とは別に開く、特別な期日のことです。法廷という堅い場ではなく、当事者双方が自由に、率直に話し合いながら、事案を解明していくのに向いています。弁論兼和解は、条文の根拠が無いまま実務が編み出した運用でした。弁論準備手続は、あの条文に基づかなかった運用を、条文の制度として正式に採り入れたものだといえます。だからこそ、実務での利用割合が、いちばん高いのです。
条文民事訴訟法168条
民事訴訟法168条(弁論準備手続に付する決定) 裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を弁論準備手続に付することができる。
裁判所が、争点や証拠の整理のために必要だと認めたときに、当事者の意見を聴いたうえで、決定でこの手続に付します。当事者の意見を聴く、という一言が入っていることを、覚えておいてください。この後、他の手続と比べるときに効いてきます。
図:期日の指定と公開性の板
期日の中身に入ります。まず、弁論準備手続の期日には、原告と被告の双方が出席できる日を指定しなければなりません。どちらか片方だけを呼び出して進める、ということは許されません。そして、ここが今日いちばんの注意どころです。弁論準備手続は、一般には公開されません。ですが、完全に非公開というわけではないのです。
条文民事訴訟法169条1項2項
民事訴訟法169条1項2項(弁論準備手続の期日・傍聴) 弁論準備手続は、当事者双方が立ち会うことができる期日において行う。 2 裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。ただし、当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除き、その傍聴を許さなければならない。
2項を見てください。裁判所は、相当と認める者に傍聴を許すことができます。これがまず1つ目、裁判所の裁量による公開です。そのうえで、ただし書があります。当事者が申し出た者については、手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除いて、傍聴を許さなければならない、とされています。169条2項本文の「許すことができる」と、ただし書の「許さなければならない」の書き分けが核心です。裁判所が自分の判断で許す場合と、当事者が申し出た者について原則として許さなければならない場合との、2段構えになっています。後者を、関係者公開と呼びます。だから、弁論準備手続を、完全非公開だと覚えると、短答で誤答します。原則は非公開でも、裁量公開と関係者公開の扉が、開いているのです。なぜ扉を残したのか。前回見た弁論兼和解には、非公開の場で実質的な弁論がされ、そこで裁判官が心証を作ってしまう、という批判がありました。その批判に応えて、当事者が申し出た者は原則として入れる、としたのです。
あの場面では、誰も傍聴を申し出ていなかっただけです。申し出れば、原則として入れます。ここを、はっきり区別してください。
弁論準備手続でできること
図:できることの板
次に、弁論準備手続の中で、何ができるのかを見ていきます。条文を見ましょう。
条文民事訴訟法170条1項
民事訴訟法170条1項(準備書面の提出) 裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができる。
まず1項です。裁判所は、当事者に準備書面を提出させることができます。前回見た、あの準備書面です。続いて2項です。少し長いので、2つに分けて見ます。まず前半です。
条文民事訴訟法170条2項
民事訴訟法170条2項前段(証拠の申出に関する裁判・証拠調べ) 裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判、文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べ、第二百三十一条の二第一項に規定する電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べ
弁論準備手続の期日では、証拠の申出に関する裁判や、その他、口頭弁論の期日の外でできる裁判をすることができます。そして、文書の証拠調べ、電磁的記録に記録された情報の内容についての証拠調べも、この期日の中でできます。書証、つまり文書を証拠として取り調べることと、電磁的記録の証拠調べは、弁論準備手続の中でできます。後半も見ておきましょう。
条文民事訴訟法170条2項
民事訴訟法170条2項後段(調査嘱託等の結果の提示) 並びに第百八十六条第二項、第二百五条第三項(第二百七十八条第二項において準用する場合を含む。)、第二百十五条第四項(第二百七十八条第二項において準用する場合を含む。)及び第二百十八条第三項の提示をすることができる。
後半は、少し専門的です。調査の嘱託の結果や、尋問調書、鑑定書、送付を受けた文書などを、その場で提示することができる、という内容です。細かな条文番号までは、ここでは覚えなくて構いません。証拠の申出についての裁判と、証拠調べそのものが、この期日でできる、という骨格だけ押さえておいてください。ここは、この後見る受命裁判官の話にも、そのままつながります。
図:準用規定の板
さらに、170条5項が、口頭弁論に関する多くの規定を、弁論準備手続にも準用しています。訴訟指揮権、釈明権、弁論の制限や分離、通訳人、弁論能力を欠く者への措置、そして、以前見た適時提出主義や、時機に後れた攻撃防御方法の却下、出頭しなくても書面の内容を陳述したことにする陳述擬制、争わなかった事実を自白したとみなす自白の擬制まで、幅広く準用されます。主張や証拠は出せる時に出す、遅れて出したものは却下されることがある——あの2つの規律も、この部屋に及びます。証拠調べの範囲を除けば、かなり近いです。ただし、証拠の取調べは、文書と電磁的記録に限られます。証人尋問や、当事者本人の尋問は、原則として口頭弁論に戻ってから行います。ここは、この後の比較板で、もう一度きちんと確認します。
ここで、冒頭の問いに戻れますか。戻れます。法廷ではないあの部屋で、なぜ証拠のやり取りができたのか。答えは単純です。文書や電磁的記録の証拠調べを、非公開の弁論準備手続でもできると、170条2項が明文で認めているからです。だから、法服も書記官もいない、あの小さな会議室でも、契約書のやり取りが手続として成り立っていたのです。
令和4年IT化改正とウェブ会議
図:ウェブ会議の板
もう1つ、令和4年のIT化改正で変わった点があります。この改正は、すでに全面施行されていて、今の実務は、この新しい条文のもとで動いています。
条文民事訴訟法170条3項
民事訴訟法170条3項(音声の送受信による方法) 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、弁論準備手続の期日における手続を行うことができる。
映像が要るのかどうかは、条文の文言を確かめておく値打ちがあります。170条3項が求めているのは、音声の送受信だけです。映像は要件ではありません。裁判所と当事者双方が、電話会議のような形で、同時に通話できれば足ります。別のところにあります。以前見た、口頭弁論そのもののウェブ会議、87条の2は、映像と音声の両方を求めています。弁論準備手続の170条3項は、音声だけで足りる。同じウェブ会議でも、条文が求める中身が違うのです。口頭弁論は、公開の法廷で、裁判所が当事者の様子まで直接見て心証を作る場だから、映像が要ります。弁論準備手続は、争点と証拠を整理する場だから、意思疎通ができる音声で足ります。
カメラ越しに顔を見ながら行うことも実際には多くありますが、それは条文が求める最低限を超えた運用です。条文上の要件としては、音声で足りることを押さえておいてください。改正前は、遠隔の地に居住しているといった例示がついていましたが、この例示は削除されました。そして、改正前にあった、一方の当事者は現実に出頭していなければならないという要件も、削除されています。裁判所が相当と認め、当事者の意見を聴けば、双方とも出頭せずに、この方法で期日を行うことができます。改正前は、代理人のどちらか一方が、必ずあの会議室に座っていなければなりませんでした。今は、双方とも事務所から電話でつないだまま、期日を開けます。
受命裁判官——できることとできないこと
図:受命裁判官①——原則の除外の板
弁論準備手続は、裁判所が自分自身で行うこともできますが、実務では、その裁判所を構成する裁判官の1人に行わせることが多くなっています。この裁判官を、受命裁判官と呼びます。合議体のメンバーの1人が、一定の事項の処理を任された場合の呼び名でしたね。今日は、その受命裁判官が、弁論準備手続で何をどこまでできるかを見ていきます。
条文民事訴訟法171条1項2項
民事訴訟法171条1項2項(受命裁判官・その権限の限界) 裁判所は、受命裁判官に弁論準備手続を行わせることができる。 2 弁論準備手続を受命裁判官が行う場合には、前二条の規定による裁判所及び裁判長の職務(前条第二項に規定する裁判を除く。)は、その裁判官が行う。ただし、同条第五項において準用する第百五十条の規定による異議についての裁判及び同項において準用する第百五十七条の二の規定による却下についての裁判は、受訴裁判所がする。
受命裁判官が弁論準備手続を行う場合、条文は、もとの裁判所や裁判長がしていた職務を、その裁判官が行う、という形で定めています。ただし、そこには2つの限定がついています。2つ、ですか。まず、括弧書きです。前条、つまり170条2項に定められている裁判は、受命裁判官の職務から除かれています。証拠の申出に関する裁判、そしてそれに続く一連の裁判は、170条2項に定められた裁判所の職務です。この職務は、括弧書きによって、受命裁判官が行う職務から、最初から除外されています。だから、証拠の申出に関する裁判は、受命裁判官にはできません。
もう1つの限定は、171条2項のただし書です。150条の規定による異議についての裁判、そして157条の2の規定による却下についての裁判、この2つは、受訴裁判所——その事件を担当している裁判所そのもの——がする、と定められています。釈明に対する異議と、審理計画、つまり争点整理や尋問の期間をあらかじめ定める計画がある場合の却下です。この2つも、受命裁判官の手を離れます。
図:受命裁判官②——例外で戻すものの板
条文民事訴訟法171条3項
民事訴訟法171条3項(受命裁判官ができること) 弁論準備手続を行う受命裁判官は、第百八十六条第一項の規定による調査の嘱託、鑑定の嘱託、文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)を提出してする書証の申出及び電磁的記録を提出してする証拠調べの申出並びに文書(第二百二十九条第二項及び第二百三十一条に規定する物件を含む。)及び電磁的記録の送付の嘱託についての裁判をすることができる。
3項は、逆に、受命裁判官が積極的にできることを並べています。調査の嘱託、鑑定の嘱託、書証の申出についての裁判、電磁的記録の証拠調べの申出についての裁判、そして文書や電磁的記録の送付の嘱託についての裁判です。さっき、証拠の申出に関する裁判はできない、と聞きました。でも今、書証の申出についての裁判はできる、と言われました。矛盾していませんか?ここが、今日いちばん混同しやすい場所です。2項が定める「証拠の申出に関する裁判」には、たとえば、相手方が出してきた契約書を証拠として採用するかどうかの裁判も、証人を尋問するかどうかの裁判も、まとめて含まれます。170条2項の裁判は、このひとまとまりとして、受命裁判官の手から離れます。3項は、その中から、書証についての申出の裁判、電磁的記録についての申出の裁判、そして調査・鑑定・送付の嘱託についての裁判という、特定の項目だけを名指しして、あらためて受命裁判官に戻しています。
原則は2項で除外、例外として3項が名指しした項目だけを積極的に戻す。この原則と例外の構造を、覚えておいてください。契約書や電磁的記録についての申出は戻ってきますが、証人尋問についての申出は、3項に名指しされていないので、もとの裁判所に残ったままです。2項の括弧書きが除いているのは、170条2項の「裁判」です。文書の証拠調べそのものは、そこから除かれていません。だから、背広の裁判官は、相手方が出した契約書をその場で取り調べることはできます。ですが、証人を呼んで尋ねましょう、という裁判はできません。そこだけは、もとの裁判所に持ち帰ります。
準備的口頭弁論——唯一の公開の部屋
図:準備的口頭弁論の板
ここで、2つ目の部屋に移ります。準備的口頭弁論です。「準備」という名前から非公開だと思い込むのが、今日2つ目の大きな罠です。準備的口頭弁論は、名前に「準備」とついていますが、口頭弁論そのものです。そして、口頭弁論は、公開の法廷で行うのが原則でした。つまり、3つの部屋のうち、公開の法廷で行われるのは、この準備的口頭弁論だけです。名前の響きに引きずられないでください。準備的口頭弁論は、社会的な関心が高い事件など、公開の法廷でこそ争点整理をするのがふさわしい事件類型に向いています。傍聴席が埋まった法廷で、争点の整理そのものを、公開の場で行う、という光景をイメージしてください。
条文民事訴訟法164条
民事訴訟法164条(準備的口頭弁論) 裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、この款に定めるところにより、準備的口頭弁論を行うことができる。
条文を見てください。ここには、当事者の意見を聴いて、という言葉がありません。弁論準備手続の168条には、当事者の意見を聴いて、と書いてありましたね。準備的口頭弁論を開始するときは、当事者の意見聴取が要件になっていません。裁判所が必要だと認めれば、開始できます。そのうえで、開始する決定はして、当事者にその旨を明示します。ただ、あらかじめ意見を聴く手続までは、条文上求められていないのです。そして、準備的口頭弁論は口頭弁論そのものなので、一般の口頭弁論や準備書面についての規定が、すべて適用されます。弁論準備手続では証拠調べが文書と電磁的記録に限られていましたが、準備的口頭弁論には、そうした制限がありません。証人尋問も、当事者尋問も、その場でできます。
そして、そこで顕出された資料は、当然に訴訟資料になります。口頭弁論そのものだからです。今日は、性質の違いを押さえておくだけで十分です。
書面による準備手続——出頭すらしない部屋
図:書面による準備手続の板
3つ目の部屋です。書面による準備手続。この手続の最大の特徴は、名前のとおりです。出頭しないんですか?出頭しません。当事者は裁判所に足を運ばず、書面のやり取りだけで、争点と証拠を整理していく手続です。あの会議室には、誰も行きません。裁判所と双方の代理人が、それぞれの事務所から電話でつながって、争点を詰めていきます。この通話の根拠は、この後すぐに見る176条です。書面による準備手続では、契約書をその場で取り調べることはできません。この部屋でできるのは、準備書面のやり取りと協議までです。契約書を取り調べたいなら、弁論準備手続に切り替えることになります。
条文民事訴訟法175条
民事訴訟法175条(書面による準備手続) 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を書面による準備手続(当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続をいう。以下同じ。)に付することができる。
開始の要件は、裁判所が相当と認めるとき、当事者の意見を聴いて決定で付す、という形です。ここは、弁論準備手続の168条と同じく、意見聴取が要ります。準備的口頭弁論だけが、意見聴取が不要だったことを、思い出してください。意見聴取が要るのは弁論準備手続と書面による準備手続の2つで、準備的口頭弁論だけが不要です。もう1つ、改正で変わった点があります。改正前の175条には、遠隔の地に居住しているといった例示がありましたが、この例示も削除されました。弁論準備手続のウェブ会議のところで見たのと、同じ削除です。
図:176条の板
続いて176条です。1項は、準備書面の提出期間を、裁判長が定めなければならない、という規定です。
条文民事訴訟法176条1項
民事訴訟法176条1項(準備書面の提出期間) 裁判長は、書面による準備手続を行う場合には、第百六十二条第一項に規定する期間を定めなければならない。
2項をよく見てください。主語が変わっています。
条文民事訴訟法176条2項
民事訴訟法176条2項(ウェブ会議による協議) 裁判所は、書面による準備手続を行う場合において、必要があると認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について、当事者双方と協議をすることができる。この場合においては、協議の結果を裁判所書記官に記録させることができる。
2項の主語は、裁判長ではなく、裁判所です。期間を定めるのは裁判長、ウェブ会議で協議をするのは裁判所。条文が意図して書き分けています。そして、ここで求められているのも、音声の送受信です。170条3項の弁論準備手続と、同じ型です。映像は、どちらにも要件として書かれていません。協議をしたときは、その結果を裁判所書記官に記録させることもできます。ここは、170条3項のところで見た87条の2との対比を、そのまま持ってきて構いません。口頭弁論のほうだけが、映像も求めています。
図:176条の2の板
続いて176条の2です。今回の改正で、新しくできた条文です。
条文民事訴訟法176条の2
民事訴訟法176条の2(受命裁判官による書面による準備手続) 裁判所は、受命裁判官に書面による準備手続を行わせることができる。 2 書面による準備手続を受命裁判官が行う場合には、前条の規定による裁判所及び裁判長の職務は、その裁判官が行う。ただし、同条第三項において準用する第百五十条の規定による異議についての裁判は、受訴裁判所がする。
書面による準備手続についても、受命裁判官に行わせることができるようになりました。中身も、さきほど見た171条2項と、よく似た形をしています。書面による準備手続を受命裁判官が行うときは、もとの裁判所や裁判長がしていた職務を、その裁判官が行います。ただし、150条の異議についての裁判だけは、受訴裁判所がします。並べてみると、覚えやすくなります。受命裁判官には、原則としてもとの職務を任せるが、異議の裁判だけは、もとの裁判所に残す。この型が、弁論準備手続にも、書面による準備手続にも、共通しています。実は、便利さだけの話ではありませんでした。改正前の弁論準備手続には、一方の当事者は現実に出頭しなければならない、という要件がありました。さきほど見たとおり、これは今回の改正で削除された要件です。改正前は、双方とも出頭せずにウェブ会議で争点整理をしたいときでも、弁論準備手続ではそれができませんでした。
双方が出頭しないままウェブ会議で争点整理をする迂回路として、書面による準備手続が活用されていました。そして今回の改正で、弁論準備手続そのものが、双方不出頭のウェブ会議に対応しました。この迂回路を通る必要は、薄れたのです。とはいえ、この手続がまるごと不要になったわけではありません。最初から、当事者双方が出頭しないと決めて進めたい事案では、今でも書面による準備手続を選ぶ意味があります。誰が入れるかは問題にならず、誰も来ず、できるのは書面のやり取りと協議まで。3つの部屋のうち、いちばん軸の振れ幅が大きいのが、この手続です。
では、非公開はどちらか
図:一問一答の板
ここで、3つの部屋を紹介し終えました。1つ、確認します。非公開で行われるのは、どの手続でしたか。公開されるのは、どれでしたか。ええと、弁論準備手続は原則非公開だけど裁量公開と関係者公開がある。準備的口頭弁論は公開。書面による準備手続は、そもそも出頭しないから、公開かどうかという話自体が出てこない。今、答えたことを、1枚の表にまとめます。
3手続の比較板
図:3手続の比較表
- 縦軸=公開性・当事者の出頭・できること・意見聴取の要否
- 横軸=弁論準備手続・準備的口頭弁論・書面による準備手続
- 弁論準備手続=原則非公開で裁量公開関係者公開あり・双方立会いの期日・証拠の申出に関する裁判と書証電磁的記録の証拠調べ・意見聴取が要る
- 準備的口頭弁論=公開の法廷・口頭弁論そのものなので出頭が前提・証拠調べに制限なし・意見聴取は不要
- 書面による準備手続=出頭が無いため公開性は問題にならない・出頭なし・準備書面の提出等に限る・意見聴取が要る
4つの軸で並べます。1つ目、公開性。弁論準備手続は、原則非公開ですが、裁量公開と関係者公開があります。準備的口頭弁論は、公開の法廷です。書面による準備手続は、そもそも出頭がありませんから、公開性という問いそのものが立ちません。弁論準備手続は、原告と被告の双方が出席できる期日です。準備的口頭弁論は、口頭弁論そのものですから、出頭が前提になります。書面による準備手続は、出頭なし。ここが、いちばんはっきりした違いです。弁論準備手続は、証拠の申出に関する裁判や、文書と電磁的記録の証拠調べができますが、それ以上の証拠調べには制限があります。準備的口頭弁論は、口頭弁論そのものなので、証拠調べに制限がありません。書面による準備手続は、準備書面の提出などに限られます。
弁論準備手続と書面による準備手続は、開始のときに当事者の意見を聴くことが条文上の要件です。準備的口頭弁論だけ、その要件がありません。弁論準備手続は、口頭弁論ではなく、特別な期日です。法廷で開く必要が無いので、法服は要りません。書記官がいなかったのは、条文が求めているからではなく、あくまで運用の一場面です。そこまで見えていれば、今日の目的は達成です。もし、あの部屋が公開の法廷だったら、準備的口頭弁論だったはずです。もし、そもそも部屋に誰も行かず、電話越しに話していたら、書面による準備手続だったはずです。同じ争点整理でも、選ぶ手続によって、まったく違う場面になります。
今日の地図(保存版)
図:今日の全体像の板
- 弁論準備手続=原則非公開だが裁量公開関係者公開あり・証拠の申出に関する裁判は170条2項の職務として受命裁判官から除かれるが書証と電磁的記録の証拠調べの申出等は171条3項で受命裁判官に戻される
- 準備的口頭弁論=唯一公開の法廷・証拠調べに制限なし・意見聴取不要
- 書面による準備手続=出頭なし・改正で受命裁判官176条の2が新設
今日は、争点整理の3つの部屋を見てきました。弁論準備手続は、原則非公開ですが、完全非公開ではありません。証拠の申出に関する裁判は、原則として受命裁判官の職務から除かれていますが、書証や電磁的記録の証拠調べの申出についての裁判、調査や鑑定、送付の嘱託についての裁判は、171条3項によって、あらためて受命裁判官に戻されています。準備的口頭弁論は、3つの中で唯一、公開の法廷で行われる手続でした。証拠調べに制限が無く、当事者の意見聴取も不要です。書面による準備手続は、当事者が出頭しないまま、書面とウェブ会議で争点を整理する手続でした。
3つとも同じ争点整理なのに、公開性も、出頭のしかたも、できることも、それぞれ違う。今日の比較表が、いちばんの収穫でした。ですが、まだ1つ、大事な問いが残っています。この3つの部屋のどれかで争点と証拠を整理し終えたら、その整理の結果は、どうなるのでしょうか。終わりではありません。整理された争点を、あらためて確認し、その結果を、もとの手続にどう橋渡しするか。そこにも、条文が用意した仕組みがあります。
参照条文
- 民事訴訟法168条
- 民事訴訟法169条1項2項
- 民事訴訟法170条1項
- 民事訴訟法170条2項
- 民事訴訟法170条3項
- 民事訴訟法171条1項2項
- 民事訴訟法171条3項
- 民事訴訟法164条
- 民事訴訟法175条
- 民事訴訟法176条1項
- 民事訴訟法176条2項
- 民事訴訟法176条の2