民訴ゼロから民訴#50

提訴予告通知と提訴前の証拠収集

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第2章 訴訟の審理 ㊿/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

絞られた事実、足りない証拠

冒頭事案の関係図(手術を受けた患者Aに後遺症が残り、カルテと検査データはすべて病院Bの手もとにある・Aはまだ訴えるべきかどうかも判断できない) 図:冒頭事案の関係図

前回、争点整理という山を歩き終えたところで、こう言いました。証明すべき事実は絞られた。では、その証拠は、どうやって手に入れるのか、と。訴えを起こす前から、証拠が手もとに十分あるとは限らない。今日は、そこから始めます。まず、ある場面を見てください。Aさんは、手術を受けたあと、後遺症が残りました。手術のやり方に問題があったのか、それとも避けられない合併症だったのか、Aさん自身には分かりません。カルテも、検査データも、手術の記録も、すべて病院Bの手もとにあります。証拠が相手の手もとにあって、訴えるべきかどうかさえ判断できない。今日のテーマは、まさにそこです。先に答えを言っておくと、訴える前でも使える道具は、平成15年の改正で増えました。ただし、どの道具も、相手が応じなければそれまで、という限界を抱えています。今日は、その訴える前の道具と限界を見ていきます。

なぜ証拠が問題になるのか——弁論主義③と証拠の偏在

前提が崩れる場面の板(弁論主義③=証拠の収集提出は当事者の責任・職権証拠調べの禁止/対等な私人どうしの争いなら前提が成り立つ/病院と患者・メーカーと消費者・金融機関と顧客のように力関係が対等でない現代型訴訟では前提が崩れる=医療過誤・製造物事故・公害・薬害・金融商品) 図:前提が崩れる場面の板

  • 弁論主義③=証拠の収集提出は当事者の責任・職権証拠調べの禁止
  • 対等な私人どうしの争いなら前提が成り立つ
  • 病院と患者・メーカーと消費者・金融機関と顧客のように力関係が対等でない現代型訴訟では前提が崩れる=医療過誤・製造物事故・公害・薬害・金融商品

以前、弁論主義の3つのテーゼを見ました。3つ目のテーゼを覚えていますか。職権証拠調べの禁止、ですよね。裁判所は、当事者が申し出た証拠に基づかなければならない、という原則でした。つまり、証拠を集めて、法廷に出す責任は、当事者自身にあります。裁判所が代わりに探してくれることはありません。ここで考えてほしいのは、この建前がなぜ公平に見えるのか、その前提です。訴訟が、対等な私人どうしの争いである限り、自分の敗訴を招く証拠を自分から進んで出す当事者を期待できないのは、お互い様です。だから、自分の分は自分で集める、という役割分担が、当事者間の公平に合致します。

いつもお互い様とは限らない。そこが今日の出発点です。病院と患者、メーカーと消費者、金融機関と顧客のように、当事者どうしの力関係が、そもそも対等ではない場面があります。医療過誤、製造物事故、公害、薬害、金融商品の取引をめぐる紛争は、こうした現代型訴訟と呼ばれます。想像してください。双眼鏡を持たずに、遠くの山に登るかどうかを決めろと言われるようなものです。斜面が急なのか、道があるのか、天気が崩れそうなのか、双眼鏡が無ければ、登る前にそれを確かめることすらできません。冒頭のAさんも、同じ状態です。手術のやり方に問題があったのかを判断する材料そのものが、病院Bの手の中にあります。

これを証拠の偏在と呼びます。証拠収集の場面で、形式的に当事者主義を貫いた結果、こういう不都合が生じたとき、それをどこまで是正できるかというのが、証拠法における最大の課題です。これから見ていく道具は、すべて、この課題への現行法なりの答えです。

従前の状況——使えたのは証拠保全だけだった

変遷の年表板(従前=提訴前に使える民訴法上の制度は証拠保全234条のみ・本来は証拠がやがて使えなくなる事情があるときに証拠調べを前倒しして残す制度・開示目的への転用には保全の必要性という限界/平成15年改正=提訴予告通知132条の2を起点に提訴前照会と提訴前証拠収集処分132条の4を新設) 図:変遷の年表板

  • 従前=提訴前に使える民訴法上の制度は証拠保全234条のみ・本来は証拠がやがて使えなくなる事情があるときに証拠調べを前倒しして残す制度・開示目的への転用には保全の必要性という限界
  • 平成15年改正=提訴予告通知132条の2を起点に提訴前照会と提訴前証拠収集処分132条の4を新設

では、Aさんのような立場の人は、これまで何もできなかったのでしょうか。実は、まったく手が無かったわけではありません。ただし、使える制度は1つしかありませんでした。証拠保全という制度です。条文の番号だけ挙げておくと、234条です。中身は別の回でじっくり扱いますが、今日はその位置づけだけ押さえてください。証拠保全は、本来、あらかじめ証拠調べをしておかないと、その証拠がやがて使えなくなってしまう事情があるときに、証拠調べを前倒しして、結果を残しておく制度です。ところが実務では、この制度を、証拠や情報を早い段階で見るための道具として使う動きがありました。カルテを見るために、証拠保全を申し立てる、というような使い方です。

本来「残す」ための制度を「見る」ために使う、いわば転用です。この転用が認められるには、証拠がやがて使えなくなる事情、保全の必要性という要件が要ります。無制限に使えるわけではないので、おのずと限界がありました。今日押さえてほしいのは、平成15年の改正が起きるまで、訴える前に使える民訴法上の制度は、この証拠保全1つだけだった、という事実です。ここから、今日の本題に入ります。

提訴予告通知——訴える前でも道具が使えるようになる仕組み

予告通知の位置づけ板(訴えを提起しようとする者が被告となるべき者に対し請求の要旨と紛争の要点を書面で通知する=132条の2第3項・通知によって訴訟中に準じる関係が生まれる・訴状ほど具体的でなくてよいが規則52条の2第2項が具体的な記載を要求) 図:予告通知の位置づけ板

平成15年の改正で作られたのが、提訴予告通知という仕組みです。訴えを起こそうとする人が、相手になるはずの人に対して、これから訴えを起こしますよ、と書面で知らせます。この通知を、予告通知と呼びます。知らせるだけではありません。この予告通知を出したことが、これから見る2つの道具を使うための入口になります。まず、予告通知の書面に何を書くか、条文で確認しましょう。

条文民事訴訟法132条の2第3項

民事訴訟法132条の2第3項(予告通知書面の記載事項) 予告通知の書面には、提起しようとする訴えに係る請求の要旨及び紛争の要点を記載しなければならない。

予告通知の書面には、これから起こそうとする訴えの請求の要旨と、紛争の要点を書きます。訴状ほど細かく書くことまでは、求められません。予告通知は、訴えを起こす前の段階で使う制度で、これから訴状を作るための情報を集める段階だからです。訴状と同じくらい具体的に書けというのは、酷な話です。適当に書いてもいいんですか。そこが罠です。適当ではいけません。予告通知を出すと、通知を受けた相手方との間に、訴訟が始まったときに準じるような関係が生まれます。つまり、まだ訴えられていないのに、相手は訴訟の当事者と同じように、照会を受けて答えを求められたり、裁判所から証拠収集処分について意見を聴かれたりする立場に立つのです。Aさんが病院Bに予告通知を出せば、Bは、訴状が届く前から、そういう立場に置かれます。これから見る照会や証拠収集処分は、この関係があるからこそ使えるようになります。だから、相手に何の話かが分かるように、ある程度は具体的に書く必要があり、そこは条文ではなく、規則が定めています。

条文民事訴訟規則52条の2第1項・第2項

民事訴訟規則52条の2第1項・第2項(予告通知書面の記載事項・具体的記載の要求) 予告通知の書面には、法第百三十二条の二(訴えの提起前における照会)第三項に規定する請求の要旨及び紛争の要点を記載するほか、次に掲げる事項を記載し、予告通知をする者又はその代理人が記名押印するものとする。 一 予告通知をする者及び予告通知の相手方の氏名又は名称及び住所並びにそれらの代理人の氏名及び住所 二 予告通知の年月日 三 法第百三十二条の二第一項の規定による予告通知である旨 2 前項の請求の要旨及び紛争の要点は、具体的に記載しなければならない。

1項は、氏名や住所、通知の日付といった、形式的な記載事項を定めています。ポイントは2項です。請求の要旨と紛争の要点は、具体的に記載しなければならない、とあります。条文が大枠を決めて、規則が具体化の程度を担う、という役割分担だと考えてください。訴訟中に準じる関係を作る以上、あまりに抽象的な通知では、制度の濫用にもつながります。だから規則が、具体的にと念を押しているのです。冒頭のAさんで言えば、単に「手術で後遺症が残った」と書くだけでは足りません。いつ、どの手術で、どんな後遺症が残ったのか、紛争の要点が分かる程度には、具体的に書く必要があります。

提訴前照会——当事者照会の前倒し

前倒しの構図板(以前見た当事者照会163条=訴訟が続いている間に裁判所を介さず当事者どうしが直接照会する制度・提訴前照会=この当事者照会を予告通知の日から4か月以内に限り訴える前に前倒しした制度・被予告通知者からも返答をすれば同様に照会できる132条の3) 図:前倒しの構図板

ここで、少し思い出してほしい制度があります。以前、当事者照会という制度を見ました。裁判所を介さずに、何を照会する制度でしたか?ええと、訴訟が続いているあいだに、当事者どうしが直接、主張や立証の準備に必要な事柄を、期限を切って照会する制度でした。今日見る提訴前照会は、この当事者照会を、訴えを起こす前に使えるようにした制度です。つまり、前倒しです。

条文民事訴訟法132条の2第1項

民事訴訟法132条の2第1項(提訴前照会・本文とただし書) 訴えを提起しようとする者が訴えの被告となるべき者に対し訴えの提起を予告する通知(以下この章において「予告通知」という。)を書面でした場合には、その予告通知をした者(以下この章において「予告通知者」という。)は、その予告通知を受けた者(以下この章において「被予告通知者」という。)に対し、その予告通知をした日から四月以内に限り、訴えの提起前に、訴えを提起した場合の主張又は立証を準備するために必要であることが明らかな事項について、相当の期間を定めて、書面により、又は被予告通知者の選択により書面若しくは電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって最高裁判所規則で定めるものをいう。以下同じ。)のいずれかにより回答するよう、書面により照会をすることができる。ただし、その照会が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

予告通知をした者は、予告通知を受けた者に対して、訴えを起こした場合の主張や立証の準備に必要であることが明らかな事項について、書面で照会ができます。たとえばAさんなら、執刀した医師は誰か、どの術式を選んだのか、手術のあとにどんな検査をしたのか、といったことを、病院Bに書面で尋ねることができます。当事者照会とそっくりですが、決定的な違いが1つあります。期間です。当事者照会には、期間の制限がありませんでした。ですが、提訴前照会は、予告通知をした日から、4か月以内に限られます。訴えを起こす前の、限られた時間の中でしか使えません。

条文民事訴訟法132条の2第1項

民事訴訟法132条の2第1項(ただし書の各号=照会できない事項) 一 第百六十三条第一項各号のいずれかに該当する照会 二 相手方又は第三者の私生活についての秘密に関する事項についての照会であって、これに回答することにより、その相手方又は第三者が社会生活を営むのに支障を生ずるおそれがあるもの 三 相手方又は第三者の営業秘密に関する事項についての照会

拒める事由の枠組みは、当事者照会の163条と、基本的に同じ発想です。中身は以前扱った回に譲ります。この照会は、予告通知を出した側からしか、できないんですか。違います。そこも押さえておいてください。予告通知を受けた側、被予告通知者も、返答さえすれば、同じように照会ができます。

条文民事訴訟法132条の3第1項

民事訴訟法132条の3第1項(被予告通知者からの照会) 被予告通知者は、予告通知者に対し、当該予告通知者がした予告通知の書面に記載された前条第三項の請求の要旨及び紛争の要点に対する答弁の要旨を記載した書面でその予告通知に対する返答をしたときは、予告通知者に対し、その予告通知がされた日から四月以内に限り、訴えの提起前に、訴えを提起された場合の主張又は立証を準備するために必要であることが明らかな事項について、相当の期間を定めて、書面により、又は予告通知者の選択により書面若しくは電磁的方法のいずれかにより回答するよう、書面により照会をすることができる。

被予告通知者が、予告通知に対して返答をしたときは、予告通知者に対して、同じように照会ができます。照会は、一方通行ではありません。冒頭の事案で言えば、Aさんが病院Bに予告通知を出して照会をするだけでなく、Bが返答をすれば、Bの側からAさんに照会を返すこともできる、ということです。

提訴前証拠収集処分——裁判所が判断する道具

証拠収集処分の位置づけ板(提訴前照会との最大の違いは裁判所が判断すること・要件は2つ=①訴えの立証に欠かせないことが明らかな証拠②申立人が自ら収集することが困難・相手方の意見を聴いて処分・従来の証拠保全234条より広く前倒しできる) 図:証拠収集処分の位置づけ板

ここまでの提訴前照会は、当事者どうしのやり取りで、裁判所は関与しませんでした。もう1つの道具は、ここが違います。提訴前証拠収集処分は、裁判所が判断して行う処分です。要件は2つあります。1つ目は、これから起こす訴えの立証に欠かせないことが明らかな証拠だという点。2つ目は、申立人自身の力では、その証拠を手に入れられないと裁判所が判断することです。この2つがそろって初めて、裁判所は相手方の意見を聴いたうえで、訴えを起こす前に、決められた処分をすることができます。冒頭のAさんで言えば、カルテや検査データは病院Bの中にあり、Aさんが自分で病院に立ち入って持ち出すことはできません。このように、当事者自身の力ではどうにもならない証拠に限って、この道具が使えます。従来の証拠保全よりも広く、訴える前の証拠収集を可能にする制度だと考えてください。

4種類の一覧板(提訴前証拠収集処分は4種類のみ=一号文書または電磁的記録の送付嘱託・二号調査嘱託官庁公署学校商工会議所取引所その他の団体・三号専門的知識経験を有する者の意見陳述嘱託・四号執行官による現況調査・4種類のいずれも相手方第三者の任意の協力が前提) 図:4種類の一覧板

条文で見てみましょう。

条文民事訴訟法132条の4第1項

民事訴訟法132条の4第1項(提訴前証拠収集処分・柱書) 裁判所は、予告通知者又は前条第一項の返答をした被予告通知者の申立てにより、当該予告通知に係る訴えが提起された場合の立証に必要であることが明らかな証拠となるべきものについて、申立人がこれを自ら収集することが困難であると認められるときは、その予告通知又は返答の相手方(以下この章において単に「相手方」という。)の意見を聴いて、訴えの提起前に、その収集に係る次に掲げる処分をすることができる。ただし、その収集に要すべき時間又は嘱託を受けるべき者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない。

まず柱書です。申立てができるのは、予告通知をした人と、予告通知に返答をした相手方です。裁判所は、相手方の意見を聴いたうえで処分をします。そして、ただし書にあるとおり、集めるのに時間がかかりすぎる場合や、嘱託を受ける側の負担が重すぎる場合など、相当でないと認めるときは、処分をしません。

条文民事訴訟法132条の4第1項

民事訴訟法132条の4第1項(提訴前証拠収集処分・各号) 一 文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。以下この章において同じ。)の所持者にその文書の送付を嘱託し、又は電磁的記録を利用する権限を有する者にその電磁的記録の送付を嘱託すること。 二 必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体(次条第一項第二号において「官公署等」という。)に嘱託すること。 三 専門的な知識経験を有する者にその専門的な知識経験に基づく意見の陳述を嘱託すること。 四 執行官に対し、物の形状、占有関係その他の現況について調査を命ずること。

処分は、この4種類です。嘱託という言葉は、以前、裁判の登場人物の回で見たとおり、裁判所が相手に頼むことです。1号は、文書やデータを持っている人に、送ってくださいと頼む送付嘱託。2号は、官庁や学校、商工会議所などに、調べてくださいと頼む調査嘱託。3号は、専門家に意見を聞かせてくださいと頼む意見陳述の嘱託。4号は、裁判所の職員である執行官に、物の形や、誰が占有しているかを見に行かせる現況調査です。冒頭のAさんなら、病院Bにカルテの送付を嘱託してもらう、というのが1号の使い方になります。ここで、1つ質問です。この4種類の中に、相手が拒んでも強制できる、文書提出命令は入っているでしょうか。

言われてみると……入っていない気がします。全部「嘱託」や「調査」で、命令、とは書いてありませんね。入っていません。この4種類は、いずれも相手方や第三者の任意の協力を前提とする、嘱託や調査です。強制的に文書を出させる文書提出命令や、検証物の提出を命じる制度は、ここには含まれていません。なぜ、そこまで強い道具は前倒しできないんですか。強制力を持つ手続を、訴えがまだ起こされていない未成熟な段階で使わせてしまうと、相手方の手続保障とのバランスを欠くからです。文書提出命令のような、強制できる手続そのものの中身は、また別の回で扱います。今日は、証拠収集処分の4種類に、強制できるものが入っていない、という位置づけだけ押さえておいてください。

2つの道具の比較と、制度の限界

比較表(提訴前照会=当事者どうしのやり取り・裁判所の関与は無い・対象は主張立証の準備に必要であることが明らかな事項・132条の2と132条の3/提訴前証拠収集処分=裁判所が判断する・対象は立証に必要であることが明らかな証拠そのもの・132条の4/共通=どちらも強制力が無く義務違反への制裁も無い) 図:比較表

  • 提訴前照会=当事者どうしのやり取り・裁判所の関与は無い・対象は主張立証の準備に必要であることが明らかな事項・132条の2と132条の3
  • 提訴前証拠収集処分=裁判所が判断する・対象は立証に必要であることが明らかな証拠そのもの・132条の4
  • 共通=どちらも強制力が無く義務違反への制裁も無い

ここまで見た2つの道具を、並べて整理しましょう。提訴前照会は、当事者どうしのやり取りで、裁判所は関与しません。提訴前証拠収集処分は、裁判所が判断して行う処分です。対象も違います。提訴前照会は、主張や立証の準備に必要な事項という、やや広い範囲です。提訴前証拠収集処分は、立証に必要であることが明らかな証拠そのものに絞られます。裁判所が関わる分、証拠収集処分のほうが強い道具に見えるかもしれません。ですが実は、提訴前照会と証拠収集処分の両方に共通する、大きな弱点があります。どちらの制度にも、応じなかった場合の制裁が定められていません。照会に答えなくても、処分に協力しなくても、罰則や不利益な扱いは規定されていないのです。

これは、当事者どうしの自主性、自律性に期待した制度だからです。裁判所が強制するのではなく、当事者どうしが自分から情報を出し合うことで、当事者主義を強め、訴えたあとの審理を充実させ、速く進める。そういう狙いで作られた道具なので、無理に出させる仕組みは付いていないのです。制裁が無い以上、実際にはあまり利用されていないのが現状です。冒頭のAさんの場合を考えてみましょう。予告通知を出して照会をし、証拠収集処分も申し立てました。それでも、病院Bが応じなかったら、どうなるでしょうか。訴える前の道具は、そこで手詰まりになります。冒頭で見た、証拠が偏っているという問題を、訴える前の段階では、法はここまでしか正せていない、ということです。ですが、そこで終わりではありません。実際に訴えを起こしたあとには、また別の道具が用意されています。

今日の地図(保存版)

今日の全体像の板(出発点=弁論主義③と証拠の偏在という現代型訴訟の課題/従前=証拠保全234条のみ・開示目的への転用には限界/新設=提訴予告通知132条の2で訴訟中に準じる関係を作る/提訴前照会=当事者どうし・予告通知の日から4か月以内・132条の2と132条の3/提訴前証拠収集処分=裁判所が判断・4種類のみで文書提出命令は含まれない・132条の4/共通の限界=制裁が無く利用が少ない) 図:今日の全体像の板

  • 出発点=弁論主義③と証拠の偏在という現代型訴訟の課題
  • 従前=証拠保全234条のみ・開示目的への転用には限界
  • 新設=提訴予告通知132条の2で訴訟中に準じる関係を作る
  • 提訴前照会=当事者どうし・予告通知の日から4か月以内・132条の2と132条の3
  • 提訴前証拠収集処分=裁判所が判断・4種類のみで文書提出命令は含まれない・132条の4
  • 共通の限界=制裁が無く利用が少ない

今日は、訴える前に証拠を集める道具を見てきました。出発点は、弁論主義③が前提にする対等な私人という建前が、現代型訴訟では崩れ、証拠が偏在するという課題でした。そこで平成15年の改正が、提訴予告通知を起点に、新しい道具を用意しました。予告通知をすると、相手方との間に訴訟中に準じる関係ができて、そこから提訴前照会と、提訴前証拠収集処分が使えるようになります。そして、どちらの道具にも、応じなかった場合の制裁がありません。だからこそ、実際にはあまり使われていない、というのが今の姿です。Aさんのように、証拠が相手の手もとにしかない人にとって、訴える前の道具には、まだ限界があるということですね。では、訴えを起こしたあとなら、何が使えるのでしょうか。訴訟が始まれば、当事者だけでなく、第三者の協力を引き出す道具や、裁判所を通じた道具も増えてきます。

参照条文

  • 民事訴訟法132条の2第3項
  • 民事訴訟規則52条の2第1項・第2項
  • 民事訴訟法132条の2第1項
  • 民事訴訟法132条の3第1項
  • 民事訴訟法132条の4第1項

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