民訴ゼロから民訴#53

5つの証拠方法と集中証拠調べ

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第2章 訴訟の審理 #53/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の続き――採用された証拠を、どう調べるのか

冒頭事案の関係図(前回Aさんの事件でカルテの証拠保全・証拠の申出・採否まで進んだ・採用された証拠をこれからどう取り調べるかが今日のテーマ) 図:冒頭事案の関係図

前回は、Aさんの事件で、証拠が消える前にカルテを残し、集めた証拠の中から選んで申し出て、裁判所がそれを取り調べるかどうかを決めるところまでを見ました。採用されたあとの調べ方が、今日のテーマです。採用された証拠を、実際にどんな作法で取り調べていくのか。カルテは早い段階で調べられるのに、証人はずっと後になってから調べられます。この違いには、理由があります。

5つの証拠方法――何を調べるかで種類が決まる

5つの証拠方法の対応板(カルテ=書証219条・看護師=証人尋問190条・Aさん本人=当事者尋問207条・専門医=鑑定212条・手術器具と病室=検証232条・証拠調べの種類と証拠方法は1対1で対応する) 図:5つの証拠方法の対応板

Aさんの事件に、5つ全部を当てはめてみましょう。まず、証拠調べの種類と、調べられる対象、つまり証拠方法は、1対1で対応しています。

条文民事訴訟法190条

民事訴訟法190条(証人義務) 裁判所は、特別の定めがある場合を除き、何人でも証人として尋問することができる。

担当していた看護師を調べるなら、証人尋問です。対象は証人。

条文民事訴訟法207条1項

民事訴訟法207条1項(当事者本人の尋問) 裁判所は、申立てにより又は職権で、当事者本人を尋問することができる。この場合においては、その当事者に宣誓をさせることができる。

Aさん自身に、手術の前後にどう感じたかを聞くなら、当事者尋問です。対象は当事者本人。証人は事件の外にいる第三者、当事者本人は事件の当事者自身、という違いです。この2つには共通する規定が多いので、あとでまとめて扱います。

条文民事訴訟法212条1項

民事訴訟法212条1項(鑑定義務) 鑑定に必要な学識経験を有する者は、鑑定をする義務を負う。

手術の適否を専門的に評価してもらうなら、鑑定です。対象は鑑定人。

条文民事訴訟法219条

民事訴訟法219条(書証の申出) 書証の申出は、文書を提出し、又は文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。

カルテそのものを調べるなら、書証です。対象は文書。

条文民事訴訟法232条1項

民事訴訟法232条1項(検証の目的の提示等) 第二百十九条、第二百二十三条、第二百二十四条、第二百二十六条及び第二百二十七条第一項の規定は、検証の目的の提示又は送付について準用する。

手術に使われた器具や、事故が起きた病室そのものを見るなら、検証です。対象は検証物。いまの条文は番号ばかりですが、検証物を出してもらう手続は、書証の規定を借りて使う、という意味です。何を調べるかが決まれば、どの証拠調べを使うかも自動的に決まります。調べる対象そのものが証拠方法、それをどう調べるかが証拠調べの種類です。別々の言葉ですが、1対1でつながっています。

準文書と電磁的記録――文書に準じるものたち

準文書と電磁的記録の設例板(手術室の監視カメラの録画=準文書231条=書証の規定を準用・電子カルテのサーバーログ=電磁的記録231条の2・231条の3=令和4年改正で新設・いずれも書証と同じ扱いを受ける) 図:準文書と電磁的記録の設例板

もう1つ、書証には仲間がいます。図面や写真、録音テープやビデオテープのような、文書ではないけれど情報を表すために作られた物件です。

条文民事訴訟法231条

民事訴訟法231条(文書に準ずる物件への準用) この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。

これを準文書と呼びます。Aさんの事件なら、手術室に設置された監視カメラの録画テープが、まさにこれにあたります。文書ではありませんが、書証と同じ規定で調べられます。紙ではなくデータで残る記録が増えたことから、比較的新しい改正で、電磁的記録に記録された情報の証拠調べの規定が新しく設けられました。

条文民事訴訟法231条の2第1項

民事訴訟法231条の2第1項(電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出) 電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出は、当該電磁的記録を提出し、又は当該電磁的記録を利用する権限を有する者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。

Aさんの事件なら、病院の電子カルテのサーバーに残っているログデータが、これにあたります。USBメモリなどに記録できるデジタルデータ一般が対象です。準文書と同じく、書証の規定を準用するかたちで調べられます。文書そのものではなくても、書証と同じ扱いを受ける。この仲間の広さを押さえておいてください。

書証だけが特別扱いされる理由

書証の特殊性の板(裁判所が文書を閲読するだけで実施される=公開法廷になじまない・事案の解明と争点の絞り込みに役立つ客観的な記録=早く読むほど有用・だから文書と準文書と電磁的記録に限り原則非公開の弁論準備手続で調べられる170条2項) 図:書証の特殊性の板

ここからが今日の中心です。文書、それに準文書と電磁的記録も含めて、これらだけが特別扱いされます。まず、なぜ特別扱いされるのか、理由から見ていきます。2つの理由があります。1つ目は、文書から得られる情報が、事件の結論を決めるだけでなく、事案そのもの、つまりどういう経緯で何が起きたのかを解明し、争点を絞り込むことにも役立つという点です。カルテのような客観的な記録は、訴え提起よりも前から存在しているので、早く読めば早く事件の全体像がつかめます。2つ目は、書証は、裁判所が文書を閲読するだけで実施される、という点です。裁判官が黙って文書を読む作業には、傍聴人に見せて公開する必要性がありません。この2つの理由から、法律は、文書と準文書と電磁的記録に限って、弁論準備手続で調べることを認めています。争点整理の回で見たとおり、弁論準備手続は原則非公開です。裁判所が相当と認めた人や、当事者が申し出た人は傍聴できますが、法廷のように誰でも入れる場ではありません。

条文民事訴訟法170条2項

民事訴訟法170条2項(弁論準備手続における訴訟行為等) 裁判所は、弁論準備手続の期日において、証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判、文書(第二百三十一条に規定する物件を含む。)の証拠調べ、第二百三十一条の二第一項に規定する電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べ並びに第百八十六条第二項、第二百五条第三項(第二百七十八条第二項において準用する場合を含む。)、第二百十五条第四項(第二百七十八条第二項において準用する場合を含む。)及び第二百十八条第三項の提示をすることができる。

病院Bのカルテは、実は訴状の段階から写しの添付が求められています。争点整理が始まってすぐ、裁判が本格化するかなり早い時期に、非公開の準備室で裁判官が読むことになります。

条文民事訴訟規則55条2項

民事訴訟規則55条2項(訴状の添付書類) 前項に規定するほか、訴状には、立証を要する事由につき、証拠となるべき文書の写し(以下「書証の写し」という。)で重要なものを添付しなければならない。

手術の器具は、ちょうど境目にあたります。監視カメラの録画は、再生して中身を読み取るので、書証の仲間でした。でも器具は、裁判官が自分の目で傷や形を確かめる検証です。読むだけでは済まないので、非公開の準備室ではなく、口頭弁論期日で調べます。証人や、Aさん本人も、同じように早く調べてもらえないんですか。それができないんです。ここが今日のもう1つの軸になります。人に話を聞くという行為は、文書を読むという行為とは、性質がまったく違います。この違いを、次に見ていきましょう。

厳格な証明と自由な証明――境目を区切る

厳格な証明と自由な証明の比較板(厳格な証明=文書以外の証拠方法は口頭弁論期日で行う87条1項・公開主義直接主義口頭主義双方審尋主義に支配される/自由な証明=法定の手続に縛られない・許されるのは職権調査事項の認定と準拠法経験則の探知の2類型に限る) 図:厳格な証明と自由な証明の比較板

  • 厳格な証明=文書以外の証拠方法は口頭弁論期日で行う87条1項・公開主義直接主義口頭主義双方審尋主義に支配される
  • 自由な証明=法定の手続に縛られない・許されるのは職権調査事項の認定と準拠法経験則の探知の2類型に限る

文書と準文書と電磁的記録を除く証拠方法、つまり証人、当事者本人、鑑定人、検証物の取調べは、口頭弁論期日で行わなければなりません。人の話は、言葉だけでなく、表情や言いよどみ、相手方からの突っ込みへの反応まで見て、初めて信用できるかが分かります。口頭弁論の諸原則の回で見た直接主義、つまり判決の基礎となる弁論と証拠調べに直接立ち会った裁判官だけが、その判決を書けるというルールは、そのためにあります。しかも密室で聞いた話で結論が決まらないよう、誰でも見られる場所で行います。

条文民事訴訟法87条1項

民事訴訟法87条1項(口頭弁論の必要性) 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。

口頭弁論期日は憲法82条が求める公開の法廷です。そこでは、公開主義、直接主義、口頭主義、双方審尋主義といった諸原則に支配されます。このように、法律で定められた手続に従う証明を、厳格な証明と呼びます。厳格じゃない証明もあるんですか。あります。この厳格な証明の規定に縛られない証明を、自由な証明と呼びます。ただし、自由な証明が使えるのは、どんな場面でも、というわけではありません。決定で終わる手続なら、いつでも自由な証明でいい、という理解でいいですか。そこが誤解されやすい点です。自由な証明は、主に、序章で見た、より弾力的な手続で裁判する非訟事件の決定手続で使われます。ですが、民事訴訟の中で許される場面は、2つの類型に限られます。1つは、訴訟要件や上訴の要件のように、裁判所が自分の判断で調べる職権調査事項を認定する場面。もう1つは、外国が関わる事件でどの国の法律を使うかという準拠法や、一般的な経験に基づくルールである経験則を探知する場面です。2つに共通するのは、どちらも裁判所が自分の責任で決める事柄で、原告と被告が勝ち負けをかけて争う事件そのものの事実ではない、という点です。準拠法や経験則は、裁判所の専権事項、つまり裁判所だけが決める事柄とされています。だから、公開の法廷で当事者に攻防させる手続まで踏まなくてよいのです。この2つ以外に、勝手に広げないでください。

たとえば、Aさんが同じ病院Bを相手に、別の裁判所にも同じ訴えを起こしていないか。二重起訴の回で見た、裁判所が自分で調べる事柄です。こうした点は、法定の証拠調べの手続を踏まずに確かめられます。これに対して、看護師が当日何を見たかという事件そのものの事実は、必ず厳格な証明です。

裁判所外の証拠調べ――公開主義・直接主義の緩和

裁判所外の証拠調べの板(相当と認めるとき185条1項=受命裁判官または受託裁判官が現地に出向く・比較的新しい改正で185条3項=その現地での証拠調べにウェブ会議で加わる方法も新設・204条=通常の尋問そのものを出頭困難な証人とウェブでつなぐ別の条文・いずれも公開主義直接主義の緩和) 図:裁判所外の証拠調べの板

口頭弁論期日の公開主義や直接主義にも、緩和される場面があります。

条文民事訴訟法185条1項

民事訴訟法185条1項(裁判所外における証拠調べ) 裁判所は、相当と認めるときは、裁判所外において証拠調べをすることができる。この場合においては、合議体の構成員に命じ、又は地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託して証拠調べをさせることができる。

裁判所が相当と認めれば、法廷の外で証拠調べができます。合議体の一員である受命裁判官に命じたり、他の裁判所である受託裁判官に嘱託したりする方法です。看護師が、けがをして遠くの病院に入院していて、法廷まで来られない場合を考えてみましょう。この場合、受命裁判官が実際にその病院まで出向いて、話を聞くことができます。あるいは、手術室そのものを、裁判所がその場へ出向いて確かめる場合も同じです。この、裁判所が現地へ出向いて行う証拠調べに、比較的新しい改正で加わった規定があります。

条文民事訴訟法185条3項

民事訴訟法185条3項(ウェブ会議による証拠調べ) 裁判所……は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、第一項の規定による証拠調べの手続を行うことができる。

当事者の意見を聴いたうえで、映像と音声をやり取りするウェブ会議の方法で、この裁判所外の証拠調べの手続を行うことができます。受命裁判官が病院まで出向いて話を聞くその場に、当事者や代理人が現地へ行かずにウェブ会議でつないで加わる、というかたちです。さっき出てきた、入院中の看護師のことですが、その看護師本人が、病室にいながらウェブ会議で尋問を受ける、というのは、この185条3項のことですか。そこは違います。看護師本人が出頭できないまま、尋問そのものをウェブ会議でつなぐのは、204条という別の条文です。185条3項は、受命裁判官が現地に出向く証拠調べの手続に、当事者などがウェブでつないで加わる規定。204条は、証人が出頭困難なときに、その尋問そのものをウェブ会議で行う規定です。

条文民事訴訟法204条

民事訴訟法204条(映像等の送受信による通話の方法による尋問) 裁判所は、次に掲げる場合であって、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、証人の尋問をすることができる。 一 証人の住所、年齢又は心身の状態その他の事情により、証人が受訴裁判所に出頭することが困難であると認める場合 二 事案の性質、証人の年齢又は心身の状態、証人と当事者本人又はその法定代理人との関係その他の事情により、証人が裁判長及び当事者が証人を尋問するために在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合 三 当事者に異議がない場合

遠くの病院に入院していて出頭できない看護師を、法廷とウェブ会議でつないで尋問するのは、この204条にあたります。185条3項と204条、どちらもウェブ会議を使いますが、何をウェブでつなぐのかが違う、という点を分けて覚えてください。法廷の外での証拠調べでは、公開主義や直接主義は、完全に守られているわけではありません。裁判官が現地まで出向けば、その場を直接確かめられますが、法廷にいる当事者や傍聴人からは見えなくなります。公開の法廷でそろって直接調べられない不利益より、証拠が得られる利益が大きいと裁判所が認めた場合に限って、その2つの原則を緩めているんです。ここまでで、書証が非公開で早く調べられる理由と、それ以外は公開の法廷が原則だということを見ました。ここからは、証人や当事者本人のような、人に話を聞く証拠調べに移ります。

人証の意義――鑑定人だけ違う扱い

人証の意義の板(証人・当事者本人・鑑定人=人を対象にする証拠調べ=人証・証人と当事者本人は共通規定が多い210条・鑑定人だけ違う=裁判所が選任213条・尋問ではなく質問215条の2・専門委員は証拠資料そのものではない) 図:人証の意義の板

ここからは、書証との対照のために、書証は早く・非公開で/人証は最後に・公開で、という対照を頭に置いておいてください。まず、証人、当事者本人、鑑定人という、人を対象にする証拠調べを、まとめて人証と呼びます。

条文民事訴訟法210条

民事訴訟法210条(証人尋問の規定の準用) 第百九十五条、第二百一条第二項、第二百二条から第二百四条まで及び第二百六条の規定は、当事者本人の尋問について準用する。

証人と当事者本人は、判決で終わる訴訟ではほぼ必ず尋問が行われますし、共通する規定も多いです。ですが、鑑定人だけは違います。

条文民事訴訟法213条

民事訴訟法213条(鑑定人の指定) 鑑定人は、受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官が指定する。

証人は、当事者が「この人を調べてほしい」と申し出るんですよね。鑑定人も同じですか。違います。鑑定人は、当事者ではなく裁判所が指定します。専門医を鑑定人として選ぶのは、Aさんでも病院Bでもなく、裁判所です。看護師は、その場に居合わせた本人なので、代わりはいません。でも専門的な意見なら、同じ分野の医師はほかにもいます。代わりがきく立場だからこそ、中立な人を裁判所が選ぶんです。さらに、実際の手続でも違いがあります。

条文民事訴訟法215条の2第1項・2項

民事訴訟法215条の2第1項・2項(鑑定人質問) 裁判所は、鑑定人に口頭で意見を述べさせる場合には、鑑定人が意見の陳述をした後に、鑑定人に対し質問をすることができる。 2 前項の質問は、裁判長、その鑑定の申出をした当事者、他の当事者の順序でする。

鑑定人も、証人と同じように尋問されるんですか。そこがよく誤解される点です。鑑定人は尋問されるのではなく、質問を受けます。専門医は、まず書面か口頭で意見を述べ、その後、裁判長、鑑定を申し出た当事者、他の当事者の順で質問を受けます。証人は自分が見聞きした事実を語る立場ですが、鑑定人はすでに述べた意見について、さらに掘り下げて聞かれる立場です。この違いが、質問という言葉に表れています。専門委員は、裁判所が専門的な知見を借りるための補助者にすぎず、専門委員の説明そのものは証拠資料になりません。これに対して、鑑定人は証拠方法そのものです。専門委員と鑑定人、似ているようで、証拠になるかならないかが違います。

集中証拠調べの原則――書証との対照

書証と人証の対照板(カルテ書証=訴状の段階から早く原則非公開の弁論準備手続で調べる・看護師Aさん本人人証=争点整理が終わった後にできる限り集中して公開の口頭弁論期日で調べる182条・専門医鑑定人は別扱い・弁論準備手続の期日では人証はできない) 図:書証と人証の対照板

ここで、今日いちばん大事な問いに戻ります。カルテは訴状の段階から早く、非公開の準備室で読まれます。なのに看護師の証言や、Aさん本人への尋問は、なぜ最後にまとめて、公開の法廷で行われるんでしょうか。専門医は鑑定人なので、この集中の条文には名前が挙がっていません。ただ、口頭で意見を述べる場合は、公開の口頭弁論期日で聞く点は、証人と同じです。人に話を聞くという行為には、聞くべき論点が絞られていないと、的外れな質問を重ねてしまうという弱点があります。争点が固まっていないうちに証人を呼んでも、何を聞けばいいのか分からず、手続が余計に長引きます。だから、争点と証拠の整理が終わってから、まとめて集中して聞くことにしているんです。

Aさんの事件で、争点整理の結果、争いは手術の腕前ではなく、術後の夜に容体の変化を見落としたかどうかに絞られたとします。そうなれば、看護師に聞くべきは、その夜何時に病室を回ったか、です。整理の前に呼んでいたら、手術室の様子ばかり聞いてしまい、もう一度呼び直すことになります。

条文民事訴訟法182条

民事訴訟法182条(集中証拠調べ) 証人及び当事者本人の尋問は、できる限り、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行わなければならない。

「集中して」が1回の期日で終えることまで意味するかは、条文の要件と、実務の運用を区別して考えてください。条文が求めているのは「できる限り、争点及び証拠の整理が終了した後に集中して行う」ことだけです。1回の期日で完了させる、というのは、条文に書かれた要件ではなく、実務上そう運用されているというだけです。混同しないでください。人証を、弁論準備手続の非公開の部屋で先に済ませることは、できません。人証は、必ず公開の法廷、つまり口頭弁論期日で実施しなければなりません。さっき見た185条のような例外を除けば、弁論準備手続の期日で人証を実施することは許されません。読むだけで済むか、話を聞くか。この違いが、書証は非公開で早く、人証は公開で最後にまとめて、という対照を生んでいます。ここが、今日いちばん覚えてほしいところです。

人証の準備――証明すべき事実の確認と対質

人証の準備手続の板(争点整理の終わりに証明すべき事実を確認165条1項・尋問の申出はできる限り一括規100条・裁判所が必要性を判断181条1項・呼び出した証人らを同席させ陳述させる対質規118条規126条・集中証拠調べは合計2から3時間通して行われる) 図:人証の準備手続の板

争点整理が終わったら、すぐに証人を呼ぶわけではありません。まず、裁判所は、その後の証拠調べで何を証明するのかを、当事者との間で確認します。

条文民事訴訟法165条1項

民事訴訟法165条1項(証明すべき事実の確認等) 裁判所は、準備的口頭弁論を終了するに当たり、その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする。

この確認は、争点整理の方式が違っても行われます。ただ、確認する時点が違います。争点整理が終わったあとの回で見たとおり、弁論準備手続なら、口頭弁論の規定を準用する170条5項によって、終結するその場で確認します。書面による準備手続は、そもそも当事者が出頭しないので、177条によって、終結したあとの次の口頭弁論の期日で確認します。証人や当事者本人の尋問の申出は、できる限り一括して行うことになっています。

条文民事訴訟規則100条

民事訴訟規則100条(証人及び当事者本人の一括申出) 証人及び当事者本人の尋問の申出は、できる限り、一括してしなければならない。

そのうえで、裁判所が、それぞれの証人や当事者の供述が本当に必要かどうかを判断します。これは前回見た採否の判断、181条1項の話です。採用されたら、主尋問と反対尋問にどれだけ時間を使うか、全体で何時間かけるかまで、綿密に計画が組まれます。同じ期日に、まとめて2時間から3時間ほど通して行われることが多いです。さらに、必要があれば、対質という方法も使えます。

条文民事訴訟規則118条1項

民事訴訟規則118条1項(対質) 裁判長は、必要があると認めるときは、証人と他の証人との対質を命ずることができる。

条文民事訴訟規則126条

民事訴訟規則126条(対質) 裁判長は、必要があると認めるときは、当事者本人と、他の当事者本人又は証人との対質を命ずることができる。

証人や当事者本人を同席させて、互いの話を聞いたうえで、さらに陳述させる方法です。看護師の証言と、Aさん本人の供述が食い違うような場面で、裁判長が必要だと判断すれば、2人を同席させて、その場でつじつまを確認することができます。

Aさんの事件で振り返る

まとめの板(カルテ書証=訴状の段階から早く原則非公開の弁論準備手続で・準文書と電磁的記録も同じ扱い・看護師Aさん本人=人証=争点整理が終わった後に公開の口頭弁論期日でまとめて集中して・専門医の鑑定は質問という別の方式・軸=読むことか聞くことかで場所と時期が決まる) 図:まとめの板

今日見てきたことを、Aさんの事件で振り返りましょう。まず、カルテは書証として、訴状の段階から早く、原則非公開の弁論準備手続で調べられます。監視カメラの録画のような準文書、電子カルテのログのような電磁的記録も、同じ扱いを受けます。これに対して、看護師とAさん本人という人証は、争点整理がすべて終わった後、公開の法廷でまとめて集中して調べられます。専門医の鑑定は、質問という別の方式で扱われるのでしたね。聞くべきことが絞られていないと的外れな質問になること、そして、人の話は表情や反応まで見て初めて信用できるかが分かることが、その理由でした。

鑑定人は裁判所が選び、尋問ではなく質問を受ける。この点も押さえておいてください。専門的な知見を借りる立場だからこそ、証人とは扱いが違います。読むことか、聞くことか。この1つの違いが、証拠が調べられる場所と時期を、全部決めていました。

参照条文

  • 民事訴訟法190条
  • 民事訴訟法207条1項
  • 民事訴訟法212条1項
  • 民事訴訟法219条
  • 民事訴訟法232条1項
  • 民事訴訟法231条
  • 民事訴訟法231条の2第1項
  • 民事訴訟法170条2項
  • 民事訴訟規則55条2項
  • 民事訴訟法87条1項
  • 民事訴訟法185条1項
  • 民事訴訟法185条3項
  • 民事訴訟法204条
  • 民事訴訟法210条
  • 民事訴訟法213条
  • 民事訴訟法215条の2第1項・2項
  • 民事訴訟法182条
  • 民事訴訟法165条1項
  • 民事訴訟規則100条
  • 民事訴訟規則118条1項
  • 民事訴訟規則126条

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