民訴ゼロから民訴#88

上告と上告受理の申立て

印刷用PDFを開く

第5章 上訴・再審 #88/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

証人を信じた控訴審に最高裁で文句を言えるか

冒頭の関係図(売主A=Aさん・買主B=Bさん・証人C=Cさん/AはBに中古ピアノの代金250万円を請求/第一審の地方裁判所=売買成立を認めAの勝訴/Bが控訴/控訴審の高等裁判所=売買の場にいたCの証言を信用して売買の合意は成立していなかったと認定しAの請求を棄却/Aは最高裁に訴えたい/問い=Cの証言を信じた認定がおかしいと最高裁で言えるか) 図:冒頭の関係図

  • 売主A=Aさん・買主B=Bさん・証人C=Cさん
  • AはBに中古ピアノの代金250万円を請求
  • 第一審の地方裁判所=売買成立を認めAの勝訴
  • Bが控訴
  • 控訴審の高等裁判所=売買の場にいたCの証言を信用して売買の合意は成立していなかったと認定しAの請求を棄却
  • Aは最高裁に訴えたい
  • 問い=Cの証言を信じた認定がおかしいと最高裁で言えるか

Aさんは、中古のピアノをBさんに売りました。代金は250万円です。ところが、Bさんが払わないので、AさんはBさんを相手に、代金の支払を求めて地方裁判所に訴えました。第一審は、売買が成立したと認めて、Aさんを勝たせました。Bさんが控訴します。控訴審は高等裁判所です。売買の場にいたCさんが証人に呼ばれ、「あの場では、買うとも買わないとも、はっきり決まっていませんでした」と証言しました。高等裁判所は、このCさんの証言を信用して、「売買の合意はなかった」と認定し、第一審判決を取り消して、Aさんの請求を棄却しました。逆転敗訴です。Aさんは納得できません。「Cさんは、Bさんの親戚です。そんな人の証言を信じるのはおかしい。最高裁に訴えたい」と考えています。

最高裁は、証言の信用性を見比べ直して、判断をやり直す場所ではありません。原則として、Aさんのこの不満は、最高裁への上告の理由になりません。ただし、不満の言い方によっては、道が残ります。今日は、その線を引きます。

上告先と上告の理由——法律審とは

上告先の板(第一審が地方裁判所=控訴審は高等裁判所=その終局判決への上告は最高裁判所/第一審が簡易裁判所=控訴審は地方裁判所=その終局判決への上告は高等裁判所/高等裁判所が第一審としてした終局判決への上告も最高裁判所/311条1項/控訴をしない合意で直ちに上告=飛越上告=311条2項) 図:上告先の板

  • 第一審が地方裁判所=控訴審は高等裁判所=その終局判決への上告は最高裁判所
  • 第一審が簡易裁判所=控訴審は地方裁判所=その終局判決への上告は高等裁判所
  • 高等裁判所が第一審としてした終局判決への上告も最高裁判所
  • 311条1項
  • 控訴をしない合意で直ちに上告=飛越上告=311条2項

まず、どの裁判所へ上告するかです。

条文民事訴訟法311条1項・2項

民事訴訟法311条(上告裁判所) 第三百十一条 上告は、高等裁判所が第二審又は第一審としてした終局判決に対しては最高裁判所に、地方裁判所が第二審としてした終局判決に対しては高等裁判所にすることができる。 2 第二百八十一条第一項ただし書の場合には、地方裁判所の判決に対しては最高裁判所に、簡易裁判所の判決に対しては高等裁判所に、直ちに上告をすることができる。

1項です。上告は、控訴審などの終局判決に対してします。Aさんの事案は、地方裁判所が第一審、高等裁判所が控訴審でした。その判決への上告先は、最高裁です。第一審が簡易裁判所なら、控訴審が地方裁判所になり、その判決への上告先は、高等裁判所になります。2項は、判決が出たあとで、当事者双方が、上告する権利は残したまま、控訴はしないと合意した場合です。281条1項ただし書が、この合意を認めています。控訴審を飛び越えて、地方裁判所の判決なら最高裁へ、簡易裁判所の判決なら高等裁判所へ、直ちに上告します。飛越上告といいます。ここでは名前だけ押さえます。上告できるかどうかは、上訴の利益があることに加えて、上告の理由を主張できるかで決まります。理由を示さない上告は、不適法として却下されます。では、上告の理由になるのは何か。上告審が法律審だからこそ、法令違反に限られます。

法令違反というと、たとえば、どんなものですか。2種類あります。法令の解釈の誤りと、適用の誤りです。Aさんの事案を少し変えて考えます。控訴審が「売買は契約書がなければ成立しない」と考えて、請求を棄却したとします。売買は、合意だけで成立するのに、です。これは法の見方そのものが違っているので、解釈の誤りです。では、売買は合意だけで成立すると正しく考えたうえで、「Bさんが買うと言った場面が確定した事実にあるのに、合意なしと結論した」場合はどうでしょう。ものさしは合っているのに、当てはめを誤っています。これが適用の誤りです。どちらも法令違反ですが、上告審が見るのは、この法の側だけです。

法律審——事実の認定には手を出さない

法律審の板(上告審=法律審/原判決で適法に確定した事実は上告裁判所を拘束・321条1項/事実審の仕事=証人の信用性の判断/上告理由にならない例=Cは被上告人の親戚なのに証言を信用したのはおかしい/法令違反の問題になりうる例=証言が領収書と明らかに食い違うのに触れず信用=認定の過程の法令違反の主張) 図:法律審の板

  • 上告審=法律審
  • 原判決で適法に確定した事実は上告裁判所を拘束・321条1項
  • 事実審の仕事=証人の信用性の判断
  • 上告理由にならない例=Cは被上告人の親戚なのに証言を信用したのはおかしい
  • 法令違反の問題になりうる例=証言が領収書と明らかに食い違うのに触れず信用=認定の過程の法令違反の主張

さきほどの、Aさんの不満に戻ります。Cさんの証言を信じたのは、おかしい。この不満を最高裁に持ち込めるかは、次の条文で決まります。

条文民事訴訟法321条1項

民事訴訟法321条(原判決の確定した事実の拘束) 第三百二十一条 原判決において適法に確定した事実は、上告裁判所を拘束する。

原判決で適法に確定された事実は、上告裁判所を拘束します。控訴審は、Cさんの証言などから、売買の合意はなかった、と確定しました。最高裁は、この認定を受け取るしかありません。どの証言がもっともらしいかは、証人を目の前で見た事実審が決めることで、記録だけを見る最高裁が決め直すことではないからです。上訴の利益の回で見たとおり、事実の認定まで見直すのは、第一審と控訴審の事実審でした。事実認定への不満が上告の理由になるかどうかは、言い方ではなく、主張の中身で決まります。境目を並べます。「Cさんは、Bさんの親戚なのに、その証言を信用したのはおかしい」。これは、どちらの証言が本当かという、信用性の争いです。上告の理由になりません。では、「Cさんの証言は、Aさんが出した領収書と明らかに食い違っている。その食い違いに一言も触れずに信用したのは、経験則に反し、審理を尽くしていない」と書いたらどうでしょう。調べるべきことを調べないまま結論を出したことを、審理不尽といいます。こちらは、認定の結果ではなく、認定の過程が法令に違反している、という主張です。法令に違反した認定は、適法に確定した事実とは言えません。だから、法令違反の主張として出せる余地があります。自由心証主義の回で見た、経験則に反する事実認定はできない、という歯止めを、ここで使っているわけです。「理由の不備」という名前をつければ通る、ということもありません。判例を見ます。

判例最判平14・12・17 集民208号581頁

「理由の不備」をいう上告理由の線引き 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反の主張であって、上記各項に規定する事由に該当しない。

判決は、上告の理由が理由の不備をいっていても、その実質が事実誤認や単なる法令違反の主張なら、312条1項と2項の事由に当たらない、と言っています。名前ではなく実質で見る、ということです。冒頭の一文も確認してください。最高裁への上告が許されるのは、312条1項か2項の場合に限られる、とあります。この点は、次の節で中身を見ます。条文の言葉にも触れておきます。312条2項6号の理由不備は、判決に理由を付けていない、または理由に食違いがある、という形式の欠陥です。認定が不十分だ、不当だ、という不満一般は入りません。ここで一問です。Aさんの上告理由書は、理由の不備(312条2項6号)をいっていますが、中身は、Cさんの証言を信用したのはおかしい、という不満でした。最高裁への上告は、どう扱われるでしょうか?

事実認定への不満だけなので、上告の理由に当たらなくて、退けられると思います。どんな形で退けられるのかは、あとで条文を見ます。

高等裁判所への上告と最高裁への上告——入口が分かれる

振り分け板(行=憲法違反312条1項/絶対的上告理由312条2項/判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反312条3項/列=高等裁判所への上告・最高裁への上告/憲法違反=どちらも上告の理由/絶対的上告理由=どちらも上告の理由/法令違反=高等裁判所への上告は理由になる・最高裁への上告は理由にならず上告受理の申立てへ・318条/高等裁判所への上告=権利上告・最高裁への法令違反=裁量上告) 図:振り分け板

  • 行=憲法違反312条1項
  • 絶対的上告理由312条2項
  • 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反312条3項
  • 列=高等裁判所への上告・最高裁への上告
  • 憲法違反=どちらも上告の理由
  • 絶対的上告理由=どちらも上告の理由
  • 法令違反=高等裁判所への上告は理由になる・最高裁への上告は理由にならず上告受理の申立てへ・318条
  • 高等裁判所への上告=権利上告・最高裁への法令違反=裁量上告

上告の理由の本題です。上告の理由は、どんな法令違反でもよい、というわけではありません。しかも、上告先が高等裁判所か最高裁かで、範囲が違います。条文を見ます。

条文民事訴訟法312条1項・3項

民事訴訟法312条1項・3項(上告の理由) 第三百十二条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。 3 高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。

1項は、憲法違反です。2項は、手続の根本的な欠陥を並べた、絶対的上告理由です。中身は、次の節で見ます。そして3項は、高等裁判所にする上告に限って、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反も理由にできる、という定めです。表にします。高等裁判所への上告は、1項・2項・3項の3つが理由になります。権利としてできるので、権利上告といいます。最高裁への上告は、1項と2項だけです。3項は、高等裁判所にする上告に限られているので、最高裁への上告の理由には入りません。上告としては持ち込めません。ただし、それを言うための別の入口があります。上告受理の申立てです。最高裁への上告で、3項に当たるような法令違反を言いたいときは、上告ではなく、上告受理の申立てを使います。受理するかどうかは最高裁が決めるので、裁量上告ともいいます。条文は、あとの節で見ます。ここで一問です。Aさんの主張が、「領収書を無視した審理不尽は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反だ」というものだったとします。最高裁に向けて、これは上告の理由になるでしょうか?

3項は高等裁判所にする上告だけなので、最高裁への上告の理由にはなりません。上告受理の申立てに回ります。では、同じ主張で、上告先だけ変えます。代金が100万円で、第一審が簡易裁判所、控訴審が地方裁判所だった事案なら、上告先は高等裁判所です。同じ主張が、今度は3項の上告の理由になります。違いを生むのは、主張の中身ではなく、上告先です。一方、憲法違反や絶対的上告理由なら、上告先がどちらでも、上告の理由になります。

なぜ最高裁だけ絞るのか(理由1=負担・あらゆる法令違反を受けると事件があふれる/理由2=役目・法令の解釈の統一/旧法=判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反も最高裁への上告の理由/現行法=法令違反の大半を上告受理の申立てへ・裁量上告/高等裁判所が上告審としてした終局判決→最高裁へは憲法違反を理由とする特別上告だけ・327条1項) 図:なぜ最高裁だけ絞るのか

  • 理由1=負担・あらゆる法令違反を受けると事件があふれる
  • 理由2=役目・法令の解釈の統一
  • 旧法=判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反も最高裁への上告の理由
  • 現行法=法令違反の大半を上告受理の申立てへ・裁量上告
  • 高等裁判所が上告審としてした終局判決→最高裁へは憲法違反を理由とする特別上告だけ・327条1項

理由は2つです。1つめは、負担です。最高裁が、あらゆる法令違反を上告として受けると、事件があふれます。2つめは、役目です。上訴の利益の回で見たとおり、上告の主な目的が、法の統一か、当事者の救済かは、見解が分かれていました。ただ、どの見解に立っても、全国で法令の解釈をそろえることができるのは、最高裁だけです。だから最高裁には、個別の事件の不当をすべて正すことより、解釈の統一に力を注ぐことが期待されています。そこで現行法は、最高裁に限って、法令違反の大半を上告受理の申立てに回し、受ける事件を最高裁自身が選べるようにしました。古い法律では、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反も、最高裁への上告の理由でした。現行法で導入されたのが、裁量上告です。地図を閉じます。高等裁判所が上告審としてした終局判決に対して、さらに最高裁へ行けるのは、憲法違反を理由とする特別上告だけです。327条1項です。

絶対的上告理由——手続の根本的な欠陥

絶対的上告理由の板(312条2項の6つ=構成・関与・管轄・代理・公開・理由/判決に影響したかを問わずそれだけで上告の理由/4号の代理権欠缺は追認があれば除く/6号=理由を付けない・理由に食違い/実例=判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をした裁判官として署名押印=1号の事由) 図:絶対的上告理由の板

  • 312条2項の6つ=構成・関与・管轄・代理・公開・理由
  • 判決に影響したかを問わずそれだけで上告の理由
  • 4号の代理権欠缺は追認があれば除く
  • 6号=理由を付けない・理由に食違い
  • 実例=判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をした裁判官として署名押印=1号の事由

2項の各号は、判決の結果が正しいかどうかを、問いません。手続そのものが壊れている場合に、それだけで上告の理由になります。覚え方は、構成、関与、管轄、代理、公開、理由です。

条文民事訴訟法312条2項

民事訴訟法312条2項(上告の理由・絶対的上告理由) 2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。 一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。 二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。 二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。 三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。 四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。 五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。 六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。

具体例を挙げます。1号は、判決をした裁判所の構成が、法律どおりでない場合です。2号は、当事者の配偶者のように、法律上、その事件に関われない裁判官が、判決に関わった場合です。2号の2と3号は、管轄の専属に関する規定の違反です。4号は、代理権や、代理人が訴訟行為をするのに必要な授権がなかった場合で、追認があれば別です。5号は、口頭弁論を公開しなかった場合。6号は、判決に理由を付けていない、または、主文は請求棄却なのに、理由の中身は請求を認める内容になっている、といった食違いがある場合です。結果が正しくても、上告の理由になるんですか。なります。審理の枠組み自体が壊れていれば、結果が正しくても、その判決を維持できないからです。たとえば、裁判が非公開で行われていたなら、結果が正しくても、手続への信頼が保てません。判例の実例です。判決書に、その基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が、判決をした裁判官として署名押印していた事件です。

判例最判平19・1・16 集民223号1頁

口頭弁論に関与していない裁判官の署名押印 職権をもって調査すると、記録によれば、原判決には、その基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をした裁判官として署名押印していることが明らかである。そうすると、原判決は、民訴法249条1項に違反し、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官によってされたものであり、同法312条2項1号に規定する事由が存在する。したがって、上告理由について判断をするまでもなく、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すのが相当である。なお、民訴法319条及び140条(同法313条及び297条により上告審に準用)の規定の趣旨に照らせば、上告裁判所は、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をした裁判官として署名押印していることを理由として原判決を破棄し、事件を原審に差し戻す旨の判決をする場合には、必ずしも口頭弁論を経ることを要しないと解するのが相当である。

249条1項は、判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする、という定めです。口頭弁論の諸原則の回で見た、直接主義です。判決は、審理に関わっていない裁判官が判決をした形になっているので、312条2項1号の事由がある、としました。そして、上告理由について判断するまでもなく、原判決を破棄して、差し戻しました。結果の当否を見るまでもなく、手続の欠陥だけで破棄になる、という絶対的上告理由の働きが、よく出ています。後半の、口頭弁論を経なくてよい、という部分は、あとで使います。

上告受理の申立て——最高裁が選ぶ

上告受理の申立ての流れ(原判決の送達→2週間以内に原裁判所へ上告受理申立書を提出→原裁判所は形式面だけ審査→最高裁へ送付→最高裁が受理する事件かを決定/受理決定=上告があったものとみなす・318条4項/不受理決定=終了/Aの事案=理由は認定の過程の審理不尽・経験則違反の法令違反/受理しても上告審は法律審) 図:上告受理の申立ての流れ

  • 原判決の送達→2週間以内に原裁判所へ上告受理申立書を提出→原裁判所は形式面だけ審査→最高裁へ送付→最高裁が受理する事件かを決定
  • 受理決定=上告があったものとみなす・318条4項
  • 不受理決定=終了
  • Aの事案=理由は認定の過程の審理不尽・経験則違反の法令違反
  • 受理しても上告審は法律審

最高裁への入口のもう一つ、上告受理の申立てです。

条文民事訴訟法318条1項・2項

民事訴訟法318条1項・2項(上告受理の申立て) 第三百十八条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。 2 前項の申立て(以下「上告受理の申立て」という。)においては、第三百十二条第一項及び第二項に規定する事由を理由とすることができない。

1項です。受理の対象は、判例と相反する判断がある事件や、法令の解釈に関する重要な事項を含む事件です。たとえば、最高裁の判例が示した基準と違う基準で、控訴審が判断したような場合です。最高裁は、申立てを受けて、決定で、上告審として事件を受理できます。「できる」ですから、受理するかどうかは、最高裁の判断です。2項が、さきほどの振り分けの、逆向きの制限です。受理の申立てでは、312条の1項と2項の事由を、理由にできません。つまり、憲法違反と絶対的上告理由は、上告で言うもの。法令の解釈に関する重要な事項は、受理の申立てで言うもの。入口が分かれています。

条文民事訴訟法318条3項〜5項

民事訴訟法318条3項〜5項(上告受理の申立て) 3 第一項の場合において、最高裁判所は、上告受理の申立ての理由中に重要でないと認めるものがあるときは、これを排除することができる。 4 第一項の決定があった場合には、上告があったものとみなす。この場合においては、第三百二十条の規定の適用については、上告受理の申立ての理由中前項の規定により排除されたもの以外のものを上告の理由とみなす。 5 第三百十三条から第三百十五条まで及び第三百十六条第一項の規定は、上告受理の申立てについて準用する。

4項の「みなす」は、こう働きます。受理の決定があった瞬間から、上告があったものとして扱われ、あとは通常の上告手続で進みます。3項は、受理のときに、重要でない理由を排除できる、という定めです。排除されなかった理由だけが、上告の理由とみなされます。Aさんの事案では、「領収書を無視した審理不尽」を理由に、上告受理の申立てをします。受理されても、上告審は法律審です。最高裁が見るのは、認定の過程の法令違反の有無で、証言の信用性を見直してくれるわけではありません。受理するかどうかは最高裁だけが決める、という点について、判例があります。上告受理の申立てに対し、原裁判所が、この事件は318条1項の事件に当たらない、として申立てを却下した事件です。申立人がその却下の決定を抗告で争ったので、最高裁の決定には、「原決定」「抗告理由」という言葉が出てきます。

判例最決平11・3・9 集民192号109頁

原裁判所は受理事件に当たらないことを理由に却下できるか 職権で検討すると、上告受理の申立てに係る事件が同項の事件に当たるか否かは、上告裁判所である最高裁判所のみが判断し得る事項であり、原裁判所は、当該事件が同項の事件に当たらないことを理由として、同条五項、同法三一六条一項により、決定で当該上告受理の申立てを却下することはできないと解すべきであるから、右と異なる原審の前記判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、本件については、抗告理由について判断するまでもなく、原決定を破棄するのが相当である。

最高裁の決定は、事件が318条1項の事件に当たるかどうかは、最高裁のみが判断し得る事項だ、と言っています。原裁判所は、それを理由に却下できません。原裁判所にできるのは、形式面の審査だけです。申立てが不適法で、補正もできないことが明らかな場合や、理由書を出さない場合などです。318条5項が、316条1項を準用しているからです。受理後の破棄の根拠も、先取りしておきます。受理された事件で、原判決を破棄するときは、通常、325条2項が根拠になります。312条の1項・2項の事由がなくても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があれば、最高裁は破棄できます。受理されたことと、破棄されることは、別です。

上告と上告受理の申立ての手続

手続の時間軸(判決書の送達→2週間の不変期間内に上告状または上告受理申立書を原裁判所へ・313条が準用する285条・314条1項・318条5項/この提起と同時に確定が遮断される・116条/上告理由書は電子上告提起通知書の送達を受けた日から50日以内に原裁判所へ・315条1項・規則194条/原裁判所は明らかな形式の不備を決定で却下・316条1項/却下しなければ相手方へ送達し最高裁へ送付) 図:手続の時間軸

  • 判決書の送達→2週間の不変期間内に上告状または上告受理申立書を原裁判所へ・313条が準用する285条・314条1項・318条5項
  • この提起と同時に確定が遮断される・116条
  • 上告理由書は電子上告提起通知書の送達を受けた日から50日以内に原裁判所へ・315条1項・規則194条
  • 原裁判所は明らかな形式の不備を決定で却下・316条1項
  • 却下しなければ相手方へ送達し最高裁へ送付

手続を見る前に、前に見た内容の確認です。控訴や上告を出すと、判決の確定に、どう働くのでしたか?確定遮断効でした。上訴が出されている間は、判決が確定しません。上訴の利益の回で見た、116条2項です。判決が確定してしまえば、もう上訴で取り消すことはできません。上級の裁判所が見直している途中で確定したら、上訴した意味がなくなります。だから、上訴が出ている間は、確定を止めておくのです。そしてあの回で、2項の「申立て」には、上告受理の申立ても入る、と見ました。この働きが、今日の手続で効いてきます。期間と提出先は、控訴と同じです。上告状も、上告受理の申立書も、電子判決書などの送達を受けた日から2週間の不変期間内に、判決をした原裁判所へ出します。控訴の規定が準用されているからです。ですから、上告の提起だけでなく、上告受理の申立てにも確定遮断効があります。「受理されるまで確定する」ではありません。申立てをした時点で、確定は止まります。受理されるかどうかは分からなくても、最高裁が見直す可能性が残っている以上、その間に確定させるわけにはいかないからです。Aさんで考えます。高等裁判所の判決がAさんに届いたのが10月1日なら、上告受理の申立ては10月15日までです。申立てさえ出しておけば、最高裁が受理するかどうかを決めるまで何か月かかっても、その間に、Aさんの代金の請求を退けた判決は確定しません。違いが出るのは、理由の書き方です。控訴は、理由を書かなくても成立しました。上告は、上告状に理由がなければ、上告理由書を、原裁判所に出さなければなりません。期間は、電子上告提起通知書の送達を受けた日から50日です。上告状を却下する命令などがあった場合を除いて、上告があったことを当事者に知らせる書面です。上告審が法律審なので、どの法令に、どう違反しているかを、書面で特定する必要があるのです。上告受理の申立てにも、同じように理由書(上告受理申立理由書)の提出期間50日が及びます。民事訴訟規則199条2項が、194条を準用しているからです。

書き方にも決まりがあります。憲法違反なら、憲法の条項を書いて、どう違反するかを示します。312条2項の事由なら、その条項と、該当する事実を示します。3項の法令違反なら、違反した法令と違反の事由を示し、訴訟手続の法令なら、違反の事実も書きます。いずれも民事訴訟規則の定めで、具体的に書くことが求められます。

原裁判所のふるいと附帯上告受理の申立て(原裁判所が決定で上告を却下できる場合=1上告が不適法で補正できないことが明らか2上告理由書を出さない・理由の記載が方式に違反することが明らか・316条1項/この決定には即時抗告ができる/却下しなければ事件は最高裁へ/被上告人は附帯上告・附帯上告受理の申立てができる・293条の準用/上告受理の申立てに不受理決定→附帯上告受理の申立ては申立ての要件を備えない限り効力を失う) 図:原裁判所のふるいと附帯上告受理の申立て

  • 原裁判所が決定で上告を却下できる場合=1上告が不適法で補正できないことが明らか2上告理由書を出さない・理由の記載が方式に違反することが明らか・316条1項
  • この決定には即時抗告ができる
  • 却下しなければ事件は最高裁へ
  • 被上告人は附帯上告・附帯上告受理の申立てができる・293条の準用
  • 上告受理の申立てに不受理決定→附帯上告受理の申立ては申立ての要件を備えない限り効力を失う

原裁判所は、ふるいにもかけます。上告が不適法でその不備を補正できないことが明らかな場合。上告理由書を出さない、あるいは記載が方式に違反していることが明らかな場合。この二つは、原裁判所が決定で上告を却下します。この決定には、即時抗告ができます。方式違反の場合は、先に補正を命じます。なお、上告状そのものに不備があるときは、原裁判所の裁判長が上告状を審査し、不備が補正されなければ、命令で上告状を却下します。313条が準用する288条と137条で、その審査は、314条2項により原裁判所の裁判長が行います。却下されなければ、被上告人に書面が送られ、事件は最高裁に送られます。被上告人の側にも道具があります。控訴のときに見た、附帯控訴と同じ仕組みで、附帯上告と、附帯上告受理の申立てができます。ここで判例です。

判例最決平11・4・8 集民193号1頁

不受理決定と附帯上告受理の申立て 上告受理の申立てに対して附帯上告受理の申立てがされた場合において、上告受理の申立てにつき事件を上告審として受理しない旨の決定がされたときは、同法三一八条五項、三一三条、二九三条二項により、附帯上告受理の申立ては、それが上告受理の申立ての要件を備えるものでない限り、その効力を失うものと解するのが相当である。記録に照らすと、本件附帯上告受理の申立ては、上告受理の申立期間経過後にされたものであって、上告受理の申立ての要件を備えるものでないことが明らかであるから、本決定により、本件附帯上告受理の申立ては、その効力を失うものというべきである。

附帯控訴の付従性と、同じ理屈です。最初の申立てに付き従う附帯の申立ては、本体が不受理で終われば、一緒に効力を失います。例外は、附帯の側が、上告受理の申立てとして独立に必要な要件を備えている場合です。この事件の附帯の申立ては、申立期間を過ぎてされていたので、独立した申立てとも言えず、効力を失いました。実務の一言です。上告と上告受理の申立てを一通の書面でする場合は、両方を兼ねることを明らかにして、理由を区別して書きます。入口が別だからです。

却下と棄却——形式の門前払いと最高裁の決定棄却

却下と棄却の区別(却下=方式の不備・上告として成り立たない・原裁判所も上告裁判所もできる・316条1項・317条1項/決定による棄却=上告の理由が明らかに312条1項2項の事由に該当しない・最高裁だけ・口頭弁論なし・317条2項/判決による棄却=書類で理由がないと認める・口頭弁論なし・319条/Aの事案=理由の不備(312条2項6号)を掲げるが中身はCの証言の信用性への不満なので最高裁が決定で棄却・憲法の条項も2項の各号も掲げない書面は方式の面から補正を求められ却下の場合もある) 図:却下と棄却の区別

  • 却下=方式の不備・上告として成り立たない・原裁判所も上告裁判所もできる・316条1項・317条1項
  • 決定による棄却=上告の理由が明らかに312条1項2項の事由に該当しない・最高裁だけ・口頭弁論なし・317条2項
  • 判決による棄却=書類で理由がないと認める・口頭弁論なし・319条
  • Aの事案=理由の不備(312条2項6号)を掲げるが中身はCの証言の信用性への不満なので最高裁が決定で棄却・憲法の条項も2項の各号も掲げない書面は方式の面から補正を求められ却下の場合もある

先ほどの問いの続きです。Aさんの上告理由書が、中身は事実認定への不満だけのとき、上告は退けられます。その形は、却下と棄却のどちらでしょうか。混ぜやすいので、条文で分けます。

条文民事訴訟法316条

民事訴訟法316条(原裁判所による上告の却下) 第三百十六条 次の各号に該当することが明らかであるときは、原裁判所は、決定で、上告を却下しなければならない。 一 上告が不適法でその不備を補正することができないとき。 二 前条第一項の規定に違反して上告理由書を提出せず、又は上告の理由の記載が同条第二項の規定に違反しているとき。 2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

1項の1号は、上告が不適法で補正もできない場合。2号は、上告理由書を出さない場合や、理由の記載が方式に違反している場合です。原裁判所は、これらが明らかなときに、決定で上告を却下します。次の317条が「前条第一項各号」というのは、この1号と2号を指します。

条文民事訴訟法317条

民事訴訟法317条(上告裁判所による上告の却下等) 第三百十七条 前条第一項各号に掲げる場合には、上告裁判所は、決定で、上告を却下することができる。 2 上告裁判所である最高裁判所は、上告の理由が明らかに第三百十二条第一項及び第二項に規定する事由に該当しない場合には、決定で、上告を棄却することができる。

1項が却下です。前の条文の場合、つまり、上告が不適法で補正できない場合や、理由書を出さない場合などに、上告裁判所も、決定で却下できます。上告として成り立っていない、という門前払いです。2項が決定による棄却です。最高裁だけが、上告の理由が、明らかに312条の1項・2項の事由に当たらないとき、口頭弁論なしに、決定で棄却できます。上告として成り立ってはいるけれど、中身が届かない、という場面です。最高裁の負担を軽くする仕組みです。判例が、この区別を示しています。上告の理由が、理由の不備をいうが、実質は事実誤認を主張するものだった事件です。

判例最決平11・3・9 集民192号99頁

実質が事実誤認の上告は却下できるか なお、本件本案事件についての上告の理由は、理由の不備をいうが、その実質は事実誤認を主張するものであって、明らかに民訴法三一二条一項及び二項に規定する事由に該当しない。しかし、このような上告も、上告裁判所である最高裁判所が決定で棄却することができるにとどまり(民訴法三一七条二項)、原裁判所又は上告裁判所が民訴三一六条一項又は三一七条一項によって却下することはできないと解するのが相当である。本件上告を却下した原決定は、法令の解釈を誤ったものというべきであるが、原決定に憲法の違反があるとはいえない。

最高裁の決定の中で、「なお」として述べられている部分です。実質が事実誤認の上告は、最高裁が決定で棄却できるにとどまり、原裁判所や上告裁判所は、却下できない、としています。最後の一文は、この事件が、原裁判所の却下の決定を、憲法違反だけを理由にできる抗告で争ったものだったからです。最高裁は、却下は誤りだと述べたうえで、憲法違反ではないとして、抗告そのものは退けました。決定が述べているのは、ここまでです。なぜ却下ではなく棄却なのかは、条文の組み立てから考えます。決め手は、方式が整っているかどうかです。Aさんの理由書が理由の不備を掲げていても、中身が証言の信用性への不満なら、この判例と同じ形で、最高裁が決定で棄却します。憲法の条項も2項の各号も掲げない書面は、方式の面から補正を求められ、却下される場合もあります。方式が整わない不備は却下、中身に理由がないのは棄却、と覚えてください。

上告審の審理——書面が中心、破棄には口頭弁論

上告審の審理の流れ(上告または受理された事件→方式審査=却下→最高裁の決定棄却317条2項→書類による審理=判決で棄却319条→口頭弁論を開く→棄却か破棄/調査の範囲=上告の理由に基づき不服の申立てがあった限度・320条/ただし職権調査事項には適用しない・322条/破棄で口頭弁論を経なかった例=不適法で補正できない訴えを却下する前提として破棄・訴訟の終了を宣言する前提として破棄・口頭弁論に関与していない裁判官の署名押印を理由とする破棄差戻し) 図:上告審の審理の流れ

  • 上告または受理された事件→方式審査=却下→最高裁の決定棄却317条2項→書類による審理=判決で棄却319条→口頭弁論を開く→棄却か破棄
  • 調査の範囲=上告の理由に基づき不服の申立てがあった限度・320条
  • ただし職権調査事項には適用しない・322条
  • 破棄で口頭弁論を経なかった例=不適法で補正できない訴えを却下する前提として破棄・訴訟の終了を宣言する前提として破棄・口頭弁論に関与していない裁判官の署名押印を理由とする破棄差戻し

上告審の審理です。

条文民事訴訟法319条

民事訴訟法319条(口頭弁論を経ない上告の棄却) 第三百十九条 上告裁判所は、上告状、上告理由書、答弁書その他の書類により、上告を理由がないと認めるときは、口頭弁論を経ないで、判決で、上告を棄却することができる。

上告審は、書面審理が中心です。書類を読んで、理由がないと分かれば、口頭弁論を開かずに、判決で棄却できます。これが判決による棄却で、さきほどの決定による棄却とは別です。

条文民事訴訟法320条・322条

民事訴訟法320条・322条(調査の範囲・職権調査事項) 第三百二十条 上告裁判所は、上告の理由に基づき、不服の申立てがあった限度においてのみ調査をする。 第三百二十二条 前二条の規定は、裁判所が職権で調査すべき事項には、適用しない。

322条の「前二条」は、320条と321条のことです。調べる範囲は、320条で、上告の理由に基づいて、不服の申立てがあった限度に限られます。上告人が不服を言った範囲だけを調べる、ということです。ただし、322条により、320条と321条は、職権調査事項には適用されません。当事者が言い出さなくても、裁判所が自分から調べなければならない事項です。たとえば、訴訟要件が欠けていないかは、判決の土台なので、上告理由に書かれていなくても、最高裁が調べます。その点については、原審の確定した事実にも縛られません。

原則として、破棄には口頭弁論が要ります。条文の組み立てから確かめます。判決で終わる事件は、口頭弁論を開いて審理するのが原則でした。87条1項の、必要的口頭弁論の原則です。87条は総則の規定なので、上告審にもそのまま及びます。319条は、その例外として、上告を理由がないと認めて棄却するときに限って、口頭弁論を省いてよい、と定めています。例外が棄却に限られている以上、破棄するときは、原則に戻って、口頭弁論を開くことになります。棄却なら、原判決で勝っている被上告人は困りません。破棄は、その勝ちを覆すので、被上告人の言い分を聴く場を省けないからだと考えられます。ただし、破棄でも口頭弁論を経ないでできた例を、判例が認めています。さきほどの署名押印の判決が、その一つです。もう一つは、Aさんとは別の事件です。その事件の上告人が予備的に出していた請求の訴えが、不適法で補正できないものだったので、その訴えを却下する前提として、原判決を破棄しました。

判例最判平14・12・17 集民208号581頁

訴えを却下する前提として原判決を破棄する場合と口頭弁論 なお、上告人の予備的請求に係る訴えは、上記のとおり不適法でその不備を補正することができないものである。このような訴えについては、民訴法140条が第1審において口頭弁論を経ないで判決で訴えを却下することができるものと規定しており、この規定は上告審にも準用されている(民訴法313条、297条)。したがって、当裁判所は、口頭弁論を経ないで上告人の予備的請求に係る訴えを却下する判決をすることができる。そして、これらの規定の趣旨に照らせば、このような場合には、訴えを却下する前提として原判決を破棄する判決も、口頭弁論を経ないですることができると解するのが相当である。

140条は、訴えが不適法で補正できないときは、口頭弁論を経ずに、判決で却下できる、という定めです。上告審でも、その訴えを口頭弁論なしで却下できるなら、その前提として原判決を破棄するのも、口頭弁論なしでよい、という筋道です。別の判例も、訴訟が、すでに終了していたことを宣言する前提として破棄する場合に、同じ趣旨で口頭弁論を不要としました。注意点です。判例が認めたのは、不適法な訴えの却下や訴訟の終了の宣言の前提、そして署名押印の欠陥のような場合です。破棄は常に口頭弁論が要らない、と言っているのではありません。原則は、破棄には口頭弁論です。

上告審の終わり方——差戻しが原則

上告審の終わり方の表(取下げ=終局判決まで・313条が準用する292条/却下=方式の不備/棄却=上告理由が認められても結論が正当なら棄却・313条が準用する302条2項/破棄=312条1項2項の事由があれば破棄して差戻しまたは移送が原則・325条1項/最高裁は事由がなくても判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があれば破棄できる・325条2項/例外=自判・326条) 図:上告審の終わり方の表

  • 取下げ=終局判決まで・313条が準用する292条
  • 却下=方式の不備
  • 棄却=上告理由が認められても結論が正当なら棄却・313条が準用する302条2項
  • 破棄=312条1項2項の事由があれば破棄して差戻しまたは移送が原則・325条1項
  • 最高裁は事由がなくても判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があれば破棄できる・325条2項
  • 例外=自判・326条

終わり方を見ます。その前に、控訴の回の復習です。控訴審が第一審判決を取り消すときの出口は、自判と差戻しのどちらが原則でしたか?上告審は、これが逆になります。まず一覧です。上告は、終局判決があるまで取り下げられます。却下は、方式の不備があるときでした。棄却は、上告の理由が認められても、原判決の結論が正当なら、棄却します。控訴のときに見た302条2項が準用されています。そして、上告に理由があるとき、破棄です。

条文民事訴訟法325条1項・2項

民事訴訟法325条(破棄差戻し等) 第三百二十五条 第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由があるときは、上告裁判所は、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送しなければならない。高等裁判所が上告裁判所である場合において、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときも、同様とする。 2 上告裁判所である最高裁判所は、第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる。

1項です。312条の1項か2項の事由があれば、上告裁判所は原判決を破棄して、差し戻すか、同等の他の裁判所に移送します。「しなければならない」です。高等裁判所が上告裁判所のときは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があっても同じです。2項は、最高裁の職権破棄です。1項・2項の事由がなくても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があれば、破棄「できる」。受理された事件は、この条文で破棄されます。ここは、「できる」という裁量です。なぜ、自判ではなくて、差戻しが原則なんですか。上告審は法律審で、事実を確かめ直せないからです。破棄したあとに、事実の審理が必要なら、それができるのは事実審です。だから差戻しです。自判できるのは、原判決が確定した事実だけで、結論が出せるときに限られます。

条文民事訴訟法326条

民事訴訟法326条(破棄自判) 第三百二十六条 次に掲げる場合には、上告裁判所は、事件について裁判をしなければならない。 一 確定した事実について憲法その他の法令の適用を誤ったことを理由として判決を破棄する場合において、事件がその事実に基づき裁判をするのに熟するとき。 二 事件が裁判所の権限に属しないことを理由として判決を破棄するとき。

326条の場合は、自判が義務です。1号は、確定した事実に法令の適用を誤っていて、その事実だけで裁判ができるとき。2号は、事件が裁判所の権限に属しないことを理由に破棄するときです。

自判と差戻しの分かれ目(Aの事案の2つの場面/法の見方を誤った場合=控訴審が売買は契約書がなければ成立しないと誤って考えて請求棄却・確定した事実にはBが買うと言った場面がある・事実の審理は不要・326条1号で最高裁が自判して原判決を破棄しBの控訴を棄却(第一審のA勝訴が確定する形)/証拠を見落とした場合=控訴審が領収書を検討しないまま合意なしと認定・事実の審理が必要・差戻し・控訴審が新たな口頭弁論で審理をやり直す/対比=控訴審は自判が原則・上告審は差戻しが原則) 図:自判と差戻しの分かれ目

  • Aの事案の2つの場面
  • 法の見方を誤った場合=控訴審が売買は契約書がなければ成立しないと誤って考えて請求棄却・確定した事実にはBが買うと言った場面がある・事実の審理は不要・326条1号で最高裁が自判して原判決を破棄しBの控訴を棄却(第一審のA勝訴が確定する形)
  • 証拠を見落とした場合=控訴審が領収書を検討しないまま合意なしと認定・事実の審理が必要・差戻し・控訴審が新たな口頭弁論で審理をやり直す
  • 対比=控訴審は自判が原則・上告審は差戻しが原則

Aさんの事案で、二つの場面に分けます。1つめは、控訴審が、「売買は契約書がなければ成立しない」という誤った法の見方で、請求を棄却した場合です。確定した事実には、Bさんが買うと言った場面があるとします。事実の審理はもう要りません。法の見方を直せば結論が出るので、326条1号で、最高裁が自分で、原判決を破棄して、Bさんの控訴を棄却します。第一審のAさん勝訴が確定する形です。2つめは、控訴審が、Aさんの出した領収書を調べないまま、合意なしと認定した場合です。領収書の意味は、誰かが事実として確かめなければ分かりません。事実の審理が必要なので、自判はできず、差戻しです。対比しておきます。控訴審は続審なので、自分で事実も見られます。だから自判が原則でした。上告審は法律審で、事実を見られません。だから差戻しが原則で、自判は、確定事実だけで足りる例外です。

差戻審を縛る——破棄判決の拘束力

破棄判決の拘束力の板(325条3項=差戻し・移送を受けた裁判所は新たな口頭弁論に基づき裁判・上告裁判所が破棄の理由とした事実上および法律上の判断は拘束する/325条4項=原判決に関与した裁判官は関与できない/趣旨=差戻審が同じ結論を再び出すのを防ぐ/裁判所法4条=上級審の判断はその事件について下級審を拘束する/例=領収書を検討せず合意なしと認定した点が破棄の理由→差戻審は領収書の検討を求めるその判断に従う) 図:破棄判決の拘束力の板

  • 325条3項=差戻し・移送を受けた裁判所は新たな口頭弁論に基づき裁判・上告裁判所が破棄の理由とした事実上および法律上の判断は拘束する
  • 325条4項=原判決に関与した裁判官は関与できない
  • 趣旨=差戻審が同じ結論を再び出すのを防ぐ
  • 裁判所法4条=上級審の判断はその事件について下級審を拘束する
  • 例=領収書を検討せず合意なしと認定した点が破棄の理由→差戻審は領収書の検討を求めるその判断に従う

最後の山場です。差戻しを受けた控訴審は、何を見て、どう判断するのでしょうか。

条文民事訴訟法325条3項・4項

民事訴訟法325条(破棄差戻し等) 3 前二項の規定により差戻し又は移送を受けた裁判所は、新たな口頭弁論に基づき裁判をしなければならない。この場合において、上告裁判所が破棄の理由とした事実上及び法律上の判断は、差戻し又は移送を受けた裁判所を拘束する。 4 原判決に関与した裁判官は、前項の裁判に関与することができない。

条文裁判所法4条

裁判所法4条(裁判の拘束力) 第四条 上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。

3項の前半です。差戻しを受けた裁判所は、新たな口頭弁論に基づいて裁判します。従前の訴訟手続は、破棄の理由とされた違法な部分を除いて、効力が維持されます。4項は、原判決に関与した裁判官は、差戻し後の裁判に関与できない、という定めです。同じ裁判官が、もう一度同じ判断をするのを避けるためです。3項の後半が、拘束力です。上告裁判所が破棄の理由とした事実上と法律上の判断は、差戻しを受けた裁判所を拘束します。上級審の判断が下級審を拘束する、という裁判所法4条の一般原則を、この場面で具体化したものです。趣旨は、同じ判決の繰り返しを防ぐことです。もし差戻審が、最高裁の判断に従わなくてよいなら、同じ理由で同じ判決をして、また上告、という往復が、いつまでも続きかねません。証拠を見落とした場合で考えます。最高裁が、「領収書を調べないまま、売買の合意なしと認定したのは、審理を尽くしていない」として破棄し、差し戻したとします。差戻審は、この判断に従わなければなりません。領収書を検討せずに、もう一度、前と同じ認定をすることは、許されません。

条文の文言は、破棄の理由とした判断です。理由とされていない部分は、この条文では縛られません。

今日の地図(保存版)

総括の板(冒頭の答え=Cの証言の信用性への不満だけでは上告の理由にならない・321条1項/最高裁へは憲法違反と絶対的上告理由だけ・認定の過程の法令違反は上告受理の申立て・受理するかは最高裁が決める/4つの持ち帰り=1法律審・2振り分け・3上告受理の申立てにも確定遮断効・受理で上告とみなす・4破棄は差戻しが原則・破棄の理由は差戻審を拘束) 図:総括の板

  • 冒頭の答え=Cの証言の信用性への不満だけでは上告の理由にならない・321条1項
  • 最高裁へは憲法違反と絶対的上告理由だけ・認定の過程の法令違反は上告受理の申立て・受理するかは最高裁が決める
  • 4つの持ち帰り=1法律審・2振り分け・3上告受理の申立てにも確定遮断効・受理で上告とみなす・4破棄は差戻しが原則・破棄の理由は差戻審を拘束

冒頭の問いに答えます。Aさんが、「Cさんの証言を信じた認定がおかしい」と、最高裁に言えるか。信用性への不満だけでは、上告の理由になりません。原判決で適法に確定した事実に、上告審は拘束されるからです。最高裁への上告は、憲法違反と絶対的上告理由でしかできません。「領収書と食い違うのに触れなかった」という、認定の過程の法令違反は、上告受理の申立てで言います。受理するかどうかは、最高裁が決めます。受理されても、上告審は法律審で、事実を見直しません。4つ、振り返ります。1つめ、上告審は法律審で、見るのは法の側です。2つめ、高等裁判所への上告は、1項・2項・3項が理由になり、最高裁への上告は、1項・2項だけです。3項に当たる法令違反は、上告受理の申立てに回ります。なぜ絞るか。負担を減らして、法令の解釈を統一するためです。3つめ、上告受理の申立てにも、確定を止める効果があり、受理されると、上告があったものとみなされます。4つめ、破棄は差戻しが原則で、自判は、確定事実だけで足りる例外です。差戻審は、破棄の理由とされた判断に、従わなければなりません。上告の理由の振り分けと、破棄判決の拘束力は、論文で論点になりうるところです。

参照条文

  • 民事訴訟法311条1項・2項
  • 民事訴訟法321条1項
  • 民事訴訟法312条1項・3項
  • 民事訴訟法312条2項
  • 民事訴訟法318条1項・2項
  • 民事訴訟法318条3項〜5項
  • 民事訴訟法316条
  • 民事訴訟法317条
  • 民事訴訟法319条
  • 民事訴訟法320条・322条
  • 民事訴訟法325条1項・2項
  • 民事訴訟法326条
  • 民事訴訟法325条3項・4項
  • 裁判所法4条

民事訴訟法 全体ロードマップへ →