民訴ゼロから民訴#92

支払督促・即決和解と法定審理期間訴訟手続

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第6章 簡易裁判所の手続 #92/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

借りたことは認めているのに、払わない

冒頭の関係図(A=Aさん・食器を卸した業者/B=Bさん・飲食店の経営者/Aさんが売掛金180万円をBさんに請求する・納品書も請求書もある・Bさんは納品を受けたこと自体は認めるが資金繰りが苦しいと言って払わない/問い=争いがないのに1年かけて訴訟をするしかないのか) 図:冒頭の関係図

  • A=Aさん・食器を卸した業者
  • B=Bさん・飲食店の経営者
  • Aさんが売掛金180万円をBさんに請求する・納品書も請求書もある・Bさんは納品を受けたこと自体は認めるが資金繰りが苦しいと言って払わない
  • 問い=争いがないのに1年かけて訴訟をするしかないのか

Aさんは、食器を卸す業者です。飲食店を経営するBさんに、食器を納めました。代金の総額は、180万円。納品書も請求書も、手元にあります。ところが、Bさんは払いません。「納品を受けたのは確かです。でも、資金繰りが苦しくて」と言うばかりです。争いは、ないのです。お金の話だけが残っている。それでも、訴訟を起こして、何度も期日を重ねて、判決をもらって、ようやく差押え、という道しかないのでしょうか。民事訴訟法には、その無駄を省く道が、いくつか用意されています。今日は、民事訴訟法の本編の最後の回です。通常の訴訟を、フルで通らない手続を3つ見ます。Aさんは債権者、Bさんは債務者として、最後まで通します。

支払督促とは——書面だけで債務名義を取る

支払督促の板(支払督促=債権者の申立てにより簡易裁判所の裁判所書記官が債務者に支払えと命じる手続・裁判官ではなく書記官・債務者を審尋しない/債務名義=強制執行の根拠になる公の文書・民事執行法22条4号仮執行の宣言を付した支払督促・7号確定判決と同一の効力を有するもの/2つの限定=対象は金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付・日本において公示送達によらないで送達できる場合に限る/価額を問わない=60万円や140万円とは別) 図:支払督促の板

  • 支払督促=債権者の申立てにより簡易裁判所の裁判所書記官が債務者に支払えと命じる手続・裁判官ではなく書記官・債務者を審尋しない
  • 債務名義=強制執行の根拠になる公の文書・民事執行法22条4号仮執行の宣言を付した支払督促・7号確定判決と同一の効力を有するもの
  • 2つの限定=対象は金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付・日本において公示送達によらないで送達できる場合に限る
  • 価額を問わない=60万円や140万円とは別

1つめの道、支払督促です。まず、中身を整理します。債権者の申立てを受けて、簡易裁判所の裁判所書記官が、債務者に、「支払いなさい」と命じる手続です。裁判官ではなく、書記官です。そして、債務者の言い分は、聞きません。条文は、あとで見ます。言い分を聞かずに、命じていいんですか。そこが、この手続の発想です。争いがない事件なら、審理は空回りします。だから、債権者の言い分と書面だけを見て、書記官が督促を出す。そして、債務者が黙っていれば、そのまま強制執行の根拠が手に入ります。強制執行の根拠になる公の文書を、債務名義と呼ぶのでした。民事執行法の22条が列挙していて、仮執行の宣言を付した支払督促は4号、確定判決と同一の効力を有するものは7号です。宅配便の受け取り印に似ています。荷物が届いて、受け取る人が何も言わなければ、そのまま話が進む。ただし、受け取る人には、「これは違います」と言う道が残っています。それが、あとで見る督促異議です。聞かない手続だからこそ、条文は、2つの限定をかけています。

条文民事訴訟法382条

民事訴訟法382条(支払督促の要件) 第三百八十二条 金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促を発することができる。ただし、日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。

1つめの限定は、対象です。金銭その他の代替物、または有価証券の、一定の数量の給付を目的とする請求に限られます。代替物とは、同じ種類の物なら、どれでも同じ価値のものです。たとえば、小麦粉や、規格の決まった部品です。Aさんの180万円の代金は、金銭ですから、対象です。逆に、このマンションの部屋を明け渡せ、という請求や、この土地は自分のものだと確かめてほしい、という請求は、対象外です。公示送達は、送達する書類を裁判所に掲示して、送達したことにする制度でした。相手の居場所が分からないときの、最後の手段です。ところで、督促は、債務者の言い分を聞かずに出します。債務者が、督促が出たことを実際に知って、異議を出す機会が、現実に保障されていることが前提です。掲示しただけで送達したことになる公示送達では、債務者は、督促が出たことすら知らないまま、債務名義を取られかねません。だから、公示送達は、この手続では使えません。言い分を聞かない代わりに、異議の機会を実際に与える。省いた点と、安全弁が、ここに出ています。もうひとつ、数字です。支払督促は、請求の価額を問いません。簡裁の事物管轄は140万円、少額訴訟は60万円でした。しかし、督促には、金額の上限がありません。Aさんの180万円は、簡裁の140万円を超えていますが、支払督促は申し立てられます。140万円と60万円は、督促には関係ない数字として、切り離してください。

申立てから送達まで——却下・発付・電子支払督促

手続の流れ(申立て=債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の書記官へ383条1項/却下=要件違反や請求に理由がないことが明らか385条1項・却下処分に1週間の不変期間内に異議385条3項/発付=債務者を審尋しない386条1項・電子支払督促を作成して記録387条/送達=債務者に送達388条1項・効力は送達の時388条2項/送達できないとき=債権者に通知・2か月以内に送達場所を申し出ないと取下げ擬制388条3項/オンライン申立て=もとは督促手続のための仕組み397条) 図:手続の流れ

  • 申立て=債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の書記官へ383条1項
  • 却下=要件違反や請求に理由がないことが明らか385条1項・却下処分に1週間の不変期間内に異議385条3項
  • 発付=債務者を審尋しない386条1項・電子支払督促を作成して記録387条
  • 送達=債務者に送達388条1項・効力は送達の時388条2項
  • 送達できないとき=債権者に通知・2か月以内に送達場所を申し出ないと取下げ擬制388条3項
  • オンライン申立て=もとは督促手続のための仕組み397条

流れを順に追います。Aさんは、Bさんの普通裁判籍の所在地を管轄する簡裁の書記官に、申し立てます。383条1項です。債務者の住所地、法人なら主たる事務所の所在地、という普通裁判籍は、管轄の回で見ました。債権者の都合ではなく、債務者の近くです。書記官は、申立てを見て、要件が満たされていない場合や、請求に理由がないことが明らかな場合は、申立てを却下します。385条1項です。この却下の処分には、告知から1週間の不変期間内に、異議を申し立てられます。385条3項です。これは、書記官の却下の処分に対する異議で、あとで見る督促異議とは、別物です。却下されなければ、書記官は、債務者を審尋せずに、支払督促を発します。そして、令和4年の改正で、書記官は、支払督促を、電子支払督促として、電子データで作成して、記録します。387条です。紙で申し立てた場合でも、この扱いです。実際に債務者へ届けるときの送達の方法は、債務者の状況で変わります。まず、その条文です。

条文民事訴訟法387条

民事訴訟法387条(電子支払督促の記録事項) 第三百八十七条 裁判所書記官は、支払督促を発するときは、最高裁判所規則で定めるところにより、電子支払督促(次に掲げる事項を記録し、かつ、債務者がその送達を受けた日から二週間以内に督促異議の申立てをしないときは債権者の申立てにより仮執行の宣言をする旨を併せて記録した電磁的記録をいう。以下この章において同じ。)を作成しなければならない。 一 第三百八十二条の給付を命ずる旨 二 請求の趣旨及び原因 三 当事者及び法定代理人 2 裁判所書記官は、前項の規定により電子支払督促を作成したときは、最高裁判所規則で定めるところにより、これをファイルに記録しなければならない。

その、送達の条文です。

条文民事訴訟法388条1項・2項

民事訴訟法388条1項・2項(支払督促の送達及び効力発生) 第三百八十八条 電子支払督促(前条第二項の規定によりファイルに記録されたものに限る。以下この章において同じ。)は、債務者に送達しなければならない。 2 支払督促の効力は、債務者に送達された時に生ずる。

督促の効力は、債務者に送達された時に生じます。2項です。送達されなければ、督促は、効力を生じません。公示送達が使えないので、督促は止まります。書記官が債権者に通知します。債権者が、その通知を受けた日から2か月の不変期間内に、送達できる場所を申し出ないと、申立ては取り下げたものとみなされます。388条3項です。公示送達を使えない手続の、当然の帰結です。少しだけ、沿革です。これまで、オンラインでの申立てを手続の最初から最後まで定めていたのは、督促手続だけで、397条にその定めがあります。令和4年の改正で、132条の10が、民事訴訟の手続全体に、それを広げました。

仮執行宣言——債務名義が手に入る時点

仮執行宣言の板(送達を受けた日から2週間以内に督促異議がない→債権者の申立てで書記官が仮執行の宣言を付す391条1項・しなければならない/仮執行宣言を付した電子支払督促を当事者に送達391条2項/債務名義=民事執行法22条4号/債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から30日以内に申立てをしないと支払督促は失効392条/仮執行宣言後も異議がなければ確定判決と同一の効力396条・民事執行法22条7号/民事執行法25条ただし書=仮執行の宣言を付した支払督促は単純執行文が不要・和解調書は執行文が必要) 図:仮執行宣言の板

  • 送達を受けた日から2週間以内に督促異議がない→債権者の申立てで書記官が仮執行の宣言を付す391条1項・しなければならない
  • 仮執行宣言を付した電子支払督促を当事者に送達391条2項
  • 債務名義=民事執行法22条4号
  • 債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から30日以内に申立てをしないと支払督促は失効392条
  • 仮執行宣言後も異議がなければ確定判決と同一の効力396条・民事執行法22条7号
  • 民事執行法25条ただし書=仮執行の宣言を付した支払督促は単純執行文が不要・和解調書は執行文が必要

督促が送達されて、債務者のBさんが、何も言わなかったとします。次の条文です。

条文民事訴訟法391条1項

民事訴訟法391条1項(仮執行の宣言) 第三百九十一条 債務者が電子支払督促の送達を受けた日から二週間以内に督促異議の申立てをしないときは、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、電子支払督促に手続の費用額を併せて記録して仮執行の宣言をしなければならない。ただし、その宣言前に督促異議の申立てがあったときは、この限りでない。

送達から2週間以内に、Bさんが異議を出さなければ、Aさんの申立てにより、書記官は、仮執行の宣言を付します。しなければならない、という書き方で、書記官に裁量はありません。仮執行の宣言は、電子支払督促に記録されて、当事者に送達されます。2項です。仮執行の宣言を付した支払督促は、債務名義、民事執行法22条4号です。確定を待たず、Bさんの預金などを差し押さえられます。通常の訴訟では、判決に仮執行宣言が付くと、確定を待たずに、執行できました。259条です。督促では、判決なしで、書記官が、この宣言を付します。

債権者が申立てを放置した場合の条文です。

条文民事訴訟法392条

民事訴訟法392条(期間の徒過による支払督促の失効) 第三百九十二条 債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から三十日以内にその申立てをしないときは、支払督促は、その効力を失う。

申立てをできる時から30日以内に、Aさんが仮執行宣言を申し立てなければ、督促そのものが失効します。債権者が、放置できないようにしている安全弁です。2週間と30日は、混ぜないでください。2週間は、仮執行宣言を申し立てられるようになるまでの待ち時間。30日は、債権者が、その申立てをするための期間です。さらに、仮執行宣言のあとの2週間にも異議がなければ、どうなるか。

条文民事訴訟法396条

民事訴訟法396条(支払督促の効力) 第三百九十六条 仮執行の宣言を付した支払督促に対し督促異議の申立てがないとき、又は督促異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は、確定判決と同一の効力を有する。

異議がなければ、支払督促は、確定判決と同一の効力を持ちます。債務名義としては、民事執行法22条7号です。前回、少額訴訟の判決で見た、執行文の話です。民事執行法25条のただし書で、仮執行の宣言を付した支払督促も、執行文が要りません。後で見る即決和解の和解調書は、執行文が要ります。省いた点は、審尋と、判決の手間。債務名義が、書記官の書面審査だけで手に入ります。安全弁は、送達から2週間の異議です。

督促異議は2回——効果が逆になる

対比板=督促異議は2回(行=仮執行宣言前386条2項・390条/仮執行宣言後393条・403条1項3号・列=いつまで/効果/執行/共通/宣言前=異議の期限は決まっていない・宣言前に出せば宣言は付かない391条1項ただし書・支払督促はその督促異議の限度で効力を失う・強制執行の根拠がそもそもない/宣言後=送達を受けた日から2週間の不変期間・異議すれば訴訟に移る・執行は当然には止まらない・停止するには執行停止の裁判を別に求める/共通=適法な督促異議で申立ての時に訴えの提起があったものとみなす395条)

ここが、今日の核です。督促異議は、2回あります。仮執行の宣言の前と、後です。まず、異議そのものの条文です。

条文民事訴訟法386条

民事訴訟法386条(支払督促の発付等) 第三百八十六条 支払督促は、債務者を審尋しないで発する。 2 債務者は、支払督促に対し、これを発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に督促異議の申立てをすることができる。

2項です。異議は、督促を発した書記官の所属する、同じ簡裁に出します。控訴でも抗告でもありません。上級の裁判所に持ち込むのではなく、同じ裁判所に出す、少額訴訟の異議と同じ形です。異議の期限は、さっきの2週間ですか。そこが、一番引っかかるところです。仮執行の宣言の前については、異議に、期限はありません。さっきの2週間は、異議の期限ではなく、仮執行の宣言を申し立てられるまでの待ち時間です。391条1項のただし書を見てください。その宣言前に、督促異議の申立てがあったときは、宣言を付さない。つまり、2週間を過ぎても、宣言が付く前なら、異議を出せます。宣言前に異議が出たら、どうなるでしょうか?

条文民事訴訟法390条

民事訴訟法390条(仮執行の宣言前の督促異議) 第三百九十条 仮執行の宣言前に適法な督促異議の申立てがあったときは、支払督促は、その督促異議の限度で効力を失う。

支払督促が、効力を失います。その督促異議の限度で、ですから、180万円のうち、一部だけに異議を出せば、その部分だけです。次に、仮執行の宣言のあとです。

条文民事訴訟法393条

民事訴訟法393条(仮執行の宣言後の督促異議) 第三百九十三条 仮執行の宣言を付した電子支払督促の送達を受けた日から二週間の不変期間を経過したときは、債務者は、その支払督促に対し、督促異議の申立てをすることができない。

こちらが、本当の意味での、異議の期限です。宣言を付した督促の送達を受けた日から、2週間の不変期間。不変期間は、裁判所が伸縮できない期間です。この期間を過ぎたら、もう異議は出せません。そして、期間内に異議を出せば、訴訟に移ります。ただし、執行は、止まりません。宣言の前には、まだ債務名義がありません。止めるべき執行が、そもそも無いのです。だから、異議が出れば、督促を消して、訴訟で決着をつければ足ります。宣言の後は、Bさんが異議を出さないまま宣言が付いたので、Aさんは、もう債務名義を持っています。判決に仮執行宣言が付いていれば、控訴しても執行が止まらないのと、同じ発想です。異議を出すだけで止まるなら、時間稼ぎの異議で、差押えを逃れられてしまいます。執行を止めるには、別の手続が要ります。403条です。

条文民事訴訟法403条1項柱書・ただし書・3号(一号・二号・四号から六号は省略)

民事訴訟法403条1項(強制執行の停止) 第四百三条 次に掲げる場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、担保を立てさせて、若しくは立てさせないで強制執行の一時の停止を命じ、又はこれとともに、担保を立てて強制執行の開始若しくは続行をすべき旨を命じ、若しくは担保を立てさせて既にした執行処分の取消しを命ずることができる。ただし、強制執行の開始又は続行をすべき旨の命令は、第三号から第六号までに掲げる場合に限り、することができる。 三 仮執行の宣言を付した判決に対する控訴の提起又は仮執行の宣言を付した支払督促に対する督促異議の申立て(次号の控訴の提起及び督促異議の申立てを除く。)があった場合において、原判決若しくは支払督促の取消し若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと又は執行により著しい損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき。

仮執行の宣言を付した督促に異議を出しても、それだけでは強制執行は止まりません。止めたいなら、裁判所に、強制執行の停止を求める申立てをして、決定をもらいます。3号が、その督促異議の場合です。支払督促の取消しや変更の原因となるべき事情がないとはいえないことなどを、疎明する必要があります。具体例です。Aさんは、180万円の督促に仮執行の宣言を付して、Bさんに送達されました。Bさんは、数日後に、実は納品された食器の一部を返品していたことを思い出します。Bさんが、2週間以内に異議を出せば、訴訟には移ります。ただし、Aさんが差押えを申し立てれば、Bさんの預金は、止まりません。Bさんが、預金を守りたいなら、403条の、執行停止の申立てを、別にしなければなりません。対比を、1つにまとめます。宣言前の異議は、督促が消える。宣言後の異議は、訴訟には移るが、執行は止まらない。この2つを、逆にしないでください。省いた点は、債務者の言い分を聞くこと。安全弁は、この2回の異議です。

異議のあと——訴え提起の擬制・不適法な異議

督促から訴訟へ(適法な督促異議→申立ての時に訴えの提起があったものとみなす395条/行き先=訴額に従い支払督促を発した書記官の所属する簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所/Aさんの180万円は140万円超なので地方裁判所/督促手続の費用は訴訟費用の一部/呼び名=債権者Aさんが原告・債務者Bさんが被告/不適法な異議=簡裁が決定で却下394条1項・即時抗告394条2項・異議なし又は却下確定は確定判決と同一の効力396条) 図:督促から訴訟へ

  • 適法な督促異議→申立ての時に訴えの提起があったものとみなす395条
  • 行き先=訴額に従い支払督促を発した書記官の所属する簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所
  • Aさんの180万円は140万円超なので地方裁判所
  • 督促手続の費用は訴訟費用の一部
  • 呼び名=債権者Aさんが原告・債務者Bさんが被告
  • 不適法な異議=簡裁が決定で却下394条1項・即時抗告394条2項・異議なし又は却下確定は確定判決と同一の効力396条

適法な異議があると、どうなるか。395条です。

条文民事訴訟法395条

民事訴訟法395条(督促異議の申立てによる訴訟への移行) 第三百九十五条 適法な督促異議の申立てがあったときは、督促異議に係る請求については、その目的の価額に従い、支払督促の申立ての時に、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては、督促手続の費用は、訴訟費用の一部とする。

督促の申立ての時に、訴えが提起されたものとみなされます。みなす、というのは、実際には起こしていなくても、起こしたことにする、という意味です。行き先は、請求額に応じて決まります。Aさんの180万円は、簡裁の140万円を超えますから、地方裁判所です。ここで初めて、Aさんは原告、Bさんは被告になります。訴えを起こした時には、時効の完成を防ぐ効果などが、生じます。督促の申立ての時にさかのぼれば、その分、債権者が有利です。訴えを起こしたのと同じ扱いにする、という発想です。もうひとつ、異議が不適法な場合です。条文です。

条文民事訴訟法394条

民事訴訟法394条(督促異議の却下) 第三百九十四条 簡易裁判所は、督促異議を不適法であると認めるときは、督促異議に係る請求が地方裁判所の管轄に属する場合においても、決定で、その督促異議を却下しなければならない。 2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

簡裁は、決定で、その異議を却下します。1項です。請求が地裁の管轄に当たる額でも、却下するのは簡裁です。この却下の決定に対しては、2項で、即時抗告ができます。即時抗告は、抗告の回で見た、決定に対する上訴で、告知から1週間の不変期間内に出します。異議は上訴ではありませんが、異議を却下する決定への不服は、抗告です。異議と抗告は、別の段階です。そして、却下が確定すれば、396条のとおり、支払督促は確定判決と同一の効力を持ちます。省いた点は、審理。安全弁は、異議で通常の訴訟に戻る道、そのとき督促の申立ての時にさかのぼること、そして不適法な異議の却下には抗告がある、ということです。

訴え提起前の和解——合意に歯をつける

即決和解の流れ(CさんがDさんに100万円を貸す・Dさんが毎月5万円ずつ払うと私的な合意書で約束・申し立てる側=Cさん/CさんがDさんの普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立て275条1項・訴額を問わない/和解成立=和解調書は確定判決と同一の効力267条・債務名義/不調=期日に出頭した当事者双方の申立てで直ちに訴訟の弁論・申立ての時に訴えの提起があったものとみなす275条2項・不出頭なら調わないものとみなせる275条3項/和解調書は執行文が必要) 図:即決和解の流れ

  • CさんがDさんに100万円を貸す・Dさんが毎月5万円ずつ払うと私的な合意書で約束・申し立てる側=Cさん
  • CさんがDさんの普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立て275条1項・訴額を問わない
  • 和解成立=和解調書は確定判決と同一の効力267条・債務名義
  • 不調=期日に出頭した当事者双方の申立てで直ちに訴訟の弁論・申立ての時に訴えの提起があったものとみなす275条2項・不出頭なら調わないものとみなせる275条3項
  • 和解調書は執行文が必要

2つめの道です。例を変えます。CさんがDさんに、現金で100万円を貸しました。Dさんは、毎月5万円ずつ払うと約束して、合意書も作りました。ただし、その合意書は、私的な文書です。払わなくなったときに、そのまま差し押さえることは、できません。Cさんが申し立てる側です。そこで、使うのが、訴え提起前の和解、即決和解です。条文です。

条文民事訴訟法275条1項〜3項

民事訴訟法275条(訴え提起前の和解) 第二百七十五条 民事上の争いについては、当事者は、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立てをすることができる。 2 前項の和解が調わない場合において、和解の期日に出頭した当事者双方の申立てがあるときは、裁判所は、直ちに訴訟の弁論を命ずる。この場合においては、和解の申立てをした者は、その申立てをした時に、訴えを提起したものとみなし、和解の費用は、訴訟費用の一部とする。 3 申立人又は相手方が第一項の和解の期日に出頭しないときは、裁判所は、和解が調わないものとみなすことができる。

民事上の争いなら、訴えを提起する前に、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡裁に、和解を申し立てられます。訴額の制限は、ありません。Dさんの住所地の簡裁へ、請求が100万円でも1億円でも、申し立てられます。争いがあるから申し立てるんじゃないんですか。もう話がついているのに、どうして裁判所に行くんですか。そこが、実際の使い方です。民事上の争いには、これから争うかもしれない、という段階も含みます。多くの場合、すでに裁判外で、合意はできている。それを、裁判所の和解調書にしてもらうのです。裁判所書記官が作る電子調書に記録された和解には、確定判決と同一の効力があります。条文です。

条文民事訴訟法267条

民事訴訟法267条(和解等に係る電子調書の効力) 第二百六十七条 裁判所書記官が、和解又は請求の放棄若しくは認諾について電子調書を作成し、これをファイルに記録したときは、その記録は、確定判決と同一の効力を有する。 2 前項の規定によりファイルに記録された電子調書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、第二百五十五条第二項の規定を準用する。

267条1項です。最初の回で、紙に書いただけの合意と、裁判所を通した合意は、効き目が違う、と見ました。和解の期日には、裁判官が期日を開いて、合意の中身を確かめ、それを書記官が調書に記録します。裁判所が確かめた合意だから、判決と同じ力が認められるのです。これで、調書は債務名義になります。払わなくなったら、そのまま強制執行に進めます。合意はできている。足りないのは、強制執行できる力、つまり歯です。その歯を、訴訟をせずに付ける手続です。ただし、調書は、執行文が要ります。仮執行宣言付の支払督促とは、そこが違います。安全弁は、2項です。和解が調わないとき、期日に出頭した当事者の双方が申し立てれば、裁判所は、直ちに訴訟の弁論を命じ、和解の申立てをした時に、訴えが提起されたものとみなします。督促異議と同じ型の、擬制です。3項は、一方が出頭しないときは、調わないものとみなせる、という規定です。省いた点は、訴訟そのもの。安全弁は、不調なら、そのまま訴訟へ進める、ということです。

法定審理期間訴訟手続① 何を選ぶ手続か

法定審理期間訴訟手続の入口の板(令和4年改正で新設・民事訴訟法第七編の特則・簡易裁判所専用ではない地方裁判所でも使える/申出381条の2第1項・当事者が裁判所に求める/除外=消費者契約に関する訴え・個別労働関係民事紛争に関する訴え/決定=双方が申出又は一方が申出し相手方が同意・当事者間の衡平を害し又は適正な審理の実現を妨げると認めるときを除き決定をしなければならない同2項/申出と同意は書面・期日では口頭可同3項/審理計画147条の3との違い=審理計画は裁判所が必要と認めて当事者双方と協議して定める・法定審理期間は当事者が選ぶ) 図:法定審理期間訴訟手続の入口の板

  • 令和4年改正で新設・民事訴訟法第七編の特則・簡易裁判所専用ではない地方裁判所でも使える
  • 申出381条の2第1項・当事者が裁判所に求める
  • 除外=消費者契約に関する訴え・個別労働関係民事紛争に関する訴え
  • 決定=双方が申出又は一方が申出し相手方が同意・当事者間の衡平を害し又は適正な審理の実現を妨げると認めるときを除き決定をしなければならない同2項
  • 申出と同意は書面・期日では口頭可同3項
  • 審理計画147条の3との違い=審理計画は裁判所が必要と認めて当事者双方と協議して定める・法定審理期間は当事者が選ぶ

3つめの道です。令和4年の民事訴訟法の改正で新設された、法定審理期間訴訟手続です。登場人物を変えます。内装工事業のE社が原告、施主のF社が被告です。争点は、請負代金の残額と、追加工事があったかどうか、の2つだけです。E社が申し出る側、F社が同意する側です。まず、誤解をひとつ除きます。この手続は、簡裁専用ではありません。民事訴訟法の第七編の特則ですが、地方裁判所でも使えます。前に確かめたとおりです。通常の訴訟は、いつ判決が出るのか、見通しが立ちにくいのです。E社にとっては、代金がいつ入るかで、資金繰りが変わります。争点が2つに絞れているなら、判決まで何か月、と先に決めてしまったほうが、計画が立てられます。条文です。

条文民事訴訟法381条の2第1項

民事訴訟法381条の2第1項(法定審理期間訴訟手続の申出と除外) 第三百八十一条の二 当事者は、裁判所に対し、法定審理期間訴訟手続による審理及び裁判を求める旨の申出をすることができる。ただし、次に掲げる訴えに関しては、この限りでない。 一 消費者契約に関する訴え 二 個別労働関係民事紛争に関する訴え

1項のただし書が、除外です。消費者契約に関する訴えと、個別労働関係民事紛争に関する訴えは、選べません。管轄の回で見た、同じ区切りです。力の差がある関係を、保護する発想でした。たとえば、個人が消費者として結んだ契約や、従業員との、個別の労使紛争は、この手続を選べません。労働事件、と大雑把に言うのではなく、個別労働関係民事紛争に関する訴え、と正確に言ってください。

条文民事訴訟法381条の2第2項・3項

民事訴訟法381条の2第2項・3項(法定審理期間訴訟手続の決定) 2 当事者の双方が前項の申出をした場合には、裁判所は、事案の性質、訴訟追行による当事者の負担の程度その他の事情に鑑み、法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正な審理の実現を妨げると認めるときを除き、訴訟を法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない。当事者の一方が同項の申出をした場合において、相手方がその法定審理期間訴訟手続による審理及び裁判をすることに同意したときも、同様とする。 3 第一項の申出及び前項後段の同意は、書面でしなければならない。ただし、口頭弁論又は弁論準備手続の期日においては、口頭ですることを妨げない。

申し出られるのは、当事者です。E社が申し出て、F社が同意する。あるいは、双方が申し出る。すると、裁判所は、衡平を害するなどの例外に当たらない限り、決定をしなければなりません。原則は決定、例外が却下です。審理計画は、147条の3で、裁判所が、事件が複雑で必要と認めるとき、当事者双方と協議して定める、裁判所主導の計画でした。法定審理期間訴訟手続は、当事者が申し出て、選びます。しかも、期間が法定で、あとで見るとおり控訴もできません。裁判所が主導する目安か、当事者が選ぶ法定の枠か、という違いです。省いた点は、期間に縛りのない審理。選ぶのは当事者で、その代わり除外があります。

法定審理期間訴訟手続② 期間の設計

期間の設計板(時間軸=決定→2週間以内に第1回期日381条の3第1項→その期日で当該期日から6か月以内に口頭弁論終結の日と終結から1か月以内に判決言渡し期日を指定同2項→攻撃防御方法は第1回期日から5か月以内に提出・裁判所は当事者双方の意見を聴いて短縮できる同3項→争点証拠整理の結果に基づき判決で判断すべき事項を当事者双方と確認同4項→証拠調べも第1回期日から6か月以内同5項→期日変更はやむを得ない事由がある場合に限る同6項/判決=確認した事項に係る判断の内容だけを理由に記録381条の5) 図:期間の設計板

  • 時間軸=決定→2週間以内に第1回期日381条の3第1項→その期日で当該期日から6か月以内に口頭弁論終結の日と終結から1か月以内に判決言渡し期日を指定同2項→攻撃防御方法は第1回期日から5か月以内に提出・裁判所は当事者双方の意見を聴いて短縮できる同3項→争点証拠整理の結果に基づき判決で判断すべき事項を当事者双方と確認同4項→証拠調べも第1回期日から6か月以内同5項→期日変更はやむを得ない事由がある場合に限る同6項
  • 判決=確認した事項に係る判断の内容だけを理由に記録381条の5

決定が出たら、期間が走ります。条文です。

条文民事訴訟法381条の3第1項〜3項

民事訴訟法381条の3第1項〜3項(法定審理期間訴訟手続の審理) 第三百八十一条の三 前条第二項の決定があったときは、裁判長は、当該決定の日から二週間以内の間において口頭弁論又は弁論準備手続の期日を指定しなければならない。 2 裁判長は、前項の期日において、当該期日から六月以内の間において当該事件に係る口頭弁論を終結する期日を指定するとともに、口頭弁論を終結する日から一月以内の間において判決言渡しをする期日を指定しなければならない。 3 前条第二項の決定があったときは、当事者は、第一項の期日から五月(裁判所が当事者双方の意見を聴いて、これより短い期間を定めた場合には、その期間)以内に、攻撃又は防御の方法を提出しなければならない。

数字を、時間軸に並べます。決定の日から2週間以内の間に、第1回期日を開きます。その期日で、そこから6か月以内の間に口頭弁論を終結する期日を、さらに、終結する日から1か月以内の間に、判決言渡しの期日を指定します。攻撃防御の方法は、第1回期日から5か月以内に出します。裁判所は、双方の意見を聴いて、これより短くできます。起点で、仕分けます。2週間は、決定から第1回期日まで。ここだけ、起点が決定の日です。6か月と5か月は、第1回期日から数えます。6か月は口頭弁論の終結と証拠調べ、5か月は、攻撃防御の方法の提出です。1か月は、口頭弁論の終結から、判決の言渡しまで。第1回期日から5か月で、主張と証拠を出し終える。6か月までに、証拠調べを済ませて、口頭弁論を終結する。終結から1か月以内に、判決。つまり、第1回期日から数えて、判決まで、長くても7か月です。さらに、4項から6項です。3項で見た期限が満たされるまでに、争点と証拠の整理の結果に基づいて、判決で判断すべき事項を、当事者双方と確認します。証拠調べも、第1回期日から6か月以内に済ませます。そして、期日の変更は、やむを得ない事由がある場合に限られます。通常の訴訟でも、口頭弁論と弁論準備手続の期日の変更は、顕著な事由がある場合に限られます。93条3項です。合意で変えられるのは、最初の期日だけです。この手続では、さらに絞られて、やむを得ない事由がある場合でなければ、期日は変えられません。

判決の理由も、軽くなります。条文は、381条の5です。

条文民事訴訟法381条の5

民事訴訟法381条の5(法定審理期間訴訟手続の電子判決書) 第三百八十一条の五 法定審理期間訴訟手続の電子判決書には、事実として、請求の趣旨及び原因並びにその他の攻撃又は防御の方法の要旨を記録するものとし、理由として、第三百八十一条の三第四項の規定により当事者双方との間で確認した事項に係る判断の内容を記録するものとする。

電子判決書の理由には、確認した事項に係る判断の内容だけを記録します。E社とF社の場合なら、請負代金の残額と、追加工事の有無、という確認した2つの事項について、裁判所がどう判断したかだけです。省いた点は、審理の長さと、判決の理由の範囲。期間を、あらかじめ、縛るのです。

法定審理期間訴訟手続③ 通常の手続への移行

移行の板(381条の4=裁判所は当事者の双方又は一方が通常の手続に移行する旨の申出をしたとき・提出された攻撃又は防御の方法及び審理の現状に照らして法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をするのが困難と認めるときは通常の手続による旨の決定をしなければならない・決定に不服申立てできない・既に指定した期日は通常の手続のために指定したものとみなす/開始=双方の申出又は申出と同意・戻る=一方の申出だけで足りる/例=E社が申出F社が同意して開始後にF社が証拠調べが多いと考え一方で移行を申し出る→通常の手続) 図:移行の板

  • 381条の4=裁判所は当事者の双方又は一方が通常の手続に移行する旨の申出をしたとき・提出された攻撃又は防御の方法及び審理の現状に照らして法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をするのが困難と認めるときは通常の手続による旨の決定をしなければならない・決定に不服申立てできない・既に指定した期日は通常の手続のために指定したものとみなす
  • 開始=双方の申出又は申出と同意・戻る=一方の申出だけで足りる
  • 例=E社が申出F社が同意して開始後にF社が証拠調べが多いと考え一方で移行を申し出る→通常の手続

期間で縛った手続でも、無理だと分かることがあります。その出口が、381条の4です。

条文民事訴訟法381条の4

民事訴訟法381条の4(通常の手続への移行) 第三百八十一条の四 次に掲げる場合には、裁判所は、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない。 一 当事者の双方又は一方が訴訟を通常の手続に移行させる旨の申出をしたとき。 二 提出された攻撃又は防御の方法及び審理の現状に照らして法定審理期間訴訟手続により審理及び裁判をするのが困難であると認めるとき。 2 前項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。 3 訴訟が通常の手続に移行したときは、法定審理期間訴訟手続のため既に指定した期日は、通常の手続のために指定したものとみなす。

1号は、当事者の双方または一方が、通常の手続への移行を申し出たとき。2号は、攻撃防御の方法の出し方など、現状に照らして、この手続で審理を続けるのが困難なときです。どちらでも、裁判所は、通常の手続による旨の決定を、しなければなりません。2項で、この決定に不服は申し立てられません。注目してほしいのは、非対称です。始めるときは、双方の申出、または申出と同意が要る。ところが、戻るときは、一方だけの申出で足ります。E社とF社が、この手続を選んだあとで、F社が、証拠調べが思ったより多い、と考えて、移行を申し出る。すると、裁判所は、通常の手続に移さなければなりません。

薄くなる面は、あります。ただ、期間に縛られて十分な主張立証ができないまま、判決を受けるおそれを、一方的な申出で外せるようにしておく。縛る手続に乗るのを、安心して選べるようにするための、安全弁です。省いた点は、通常の手続の自由さ。安全弁は、一方の申出で戻れる、移行の道です。

法定審理期間訴訟手続④ 控訴の禁止と異議

対比板=少額訴訟と法定審理期間訴訟の対応表(左=少額訴訟377条から379条・右=法定審理期間訴訟手続381条の6から8・行=控訴/異議の先と期間/準用/異議後/執行停止/控訴=377条は例外なく控訴できない・381条の6は訴えを却下した判決には控訴できる/異議=378条も381条の7も送達を受けた日から2週間の不変期間内に判決をした裁判所へ/準用=358条から360条・381条の7は364条も/異議後=379条も381条の8も口頭弁論の終結前の程度に復し通常の手続で審理及び裁判/執行停止=少額訴訟の異議は執行を止めない・403条1項5号の執行停止の裁判が別に必要・381条の8第2項は異議の申立てが執行停止の効力を有する)

前回の少額訴訟を思い出してください。判決に不満があるとき、控訴はできましたか?では、期間で縛って判決を出したあと、不満があるときは、どうか。条文は、2つです。

条文民事訴訟法381条の6・381条の7

民事訴訟法381条の6と381条の7(控訴の禁止・異議) 第三百八十一条の六 法定審理期間訴訟手続の終局判決に対しては、控訴をすることができない。ただし、訴えを却下した判決に対しては、この限りでない。 第三百八十一条の七 法定審理期間訴訟手続の終局判決に対しては、訴えを却下した判決を除き、電子判決書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に異議を申し立てることができる。ただし、その期間前に申し立てた異議の効力を妨げない。 2 第三百五十八条から第三百六十条まで及び第三百六十四条の規定は、前項の異議について準用する。

控訴は、できません。ただし、訴えを却下した判決は、別です。訴えが不適法だという判断は、実質審理を縮めた結果ではありません。だから、通常どおり、控訴できます。それ以外の終局判決には、送達を受けた日から2週間の不変期間内に、その判決をした裁判所に、異議を出します。少額訴訟の377条、378条と、同じ型です。期間の前に出した異議も有効で、準用する条文も、358条から360条までそろっています。違いは、少額訴訟は例外なしで控訴できないのに対して、法定審理期間訴訟手続は、訴えを却下した判決だけ控訴できる、という点です。異議のあとです。

条文民事訴訟法381条の8第1項・2項

民事訴訟法381条の8第1項・2項(異議後の審理及び裁判) 第三百八十一条の八 適法な異議があったときは、訴訟は、口頭弁論の終結前の程度に復する。この場合においては、通常の手続によりその審理及び裁判をする。 2 前項の異議の申立ては、執行停止の効力を有する。

訴訟は、口頭弁論の終結前の程度に戻り、通常の手続で、審理をやり直します。これも、少額訴訟の379条と同じです。2項で、止まります。異議の申立ては、執行停止の効力を持つのです。ここが、大事な違いです。少額訴訟の異議は、前回見たとおり、執行を止めません。止めたければ、別に、執行停止の裁判を求めます。督促異議も、仮執行宣言のあとは、止まりません。法定審理期間訴訟手続の異議だけは、異議自体に、止める効力があります。少額訴訟は、勝った判決に必ず仮執行宣言が付く手続でした。法定審理期間訴訟手続には、そうした必置の決まりはなく、異議そのものに、執行を止める効力が条文で与えられています。E社とF社でいえば、E社が勝った判決に、F社が2週間以内に異議を出せば、E社は、その判決で差押えに進むことはできません。通常の手続で、もう一度決着をつけることになります。省いた点は、控訴という第二の審理。安全弁は、同じ裁判所への異議で、通常の手続に戻れること。しかも、執行も止められます。

今日の地図(保存版)

地図板(6手続の一覧=手続・省くもの・通常訴訟へ戻る道/手形・小切手訴訟=手形による請求だけの略式訴訟・省くもの=審理を縮める・戻る道=控訴の代わりに同じ裁判所への異議/少額訴訟=1回の期日で終わらせる・戻る道=同じ簡裁への異議・通常の手続への移行/法定審理期間訴訟手続=期間を縛る・戻る道=一方の申出での移行・控訴の代わりの異議/支払督促=書面審査だけで債務名義・戻る道=督促異議で訴え提起擬制/訴え提起前の和解=訴訟をしない・戻る道=不調なら訴え提起擬制/保全命令手続=仮の救済で通常訴訟の前段・民事保全法) 図:地図板

  • 6手続の一覧=手続・省くもの・通常訴訟へ戻る道
  • 手形・小切手訴訟=手形による請求だけの略式訴訟・省くもの=審理を縮める・戻る道=控訴の代わりに同じ裁判所への異議
  • 少額訴訟=1回の期日で終わらせる・戻る道=同じ簡裁への異議・通常の手続への移行
  • 法定審理期間訴訟手続=期間を縛る・戻る道=一方の申出での移行・控訴の代わりの異議
  • 支払督促=書面審査だけで債務名義・戻る道=督促異議で訴え提起擬制
  • 訴え提起前の和解=訴訟をしない・戻る道=不調なら訴え提起擬制
  • 保全命令手続=仮の救済で通常訴訟の前段・民事保全法

冒頭の問いに答えましょう。Aさんは、Bさんが納品を認めている売掛金、180万円を、訴訟をフルで通さずに、回収できます。簡裁の書記官に、支払督促を申し立てる。送達から2週間、Bさんが異議を出さなければ、Aさんの申立てで、仮執行の宣言が付く。債務名義が手に入り、そのまま預金の差押えへ進めます。4つ、振り返ります。1つめ、支払督促は、書面審査だけで債務名義を取る手続です。対象は金銭などの一定の数量の給付、公示送達によれず、価額を問いません。2つめ、督促異議は2回あります。宣言前は督促が失効し、宣言後は訴訟に移っても執行は止まらない。3つめ、即決和解は、できあがった合意に、強制執行できる力を付ける手続で、訴額を問わず、不調なら訴えの提起が擬制されます。4つめ、法定審理期間訴訟手続は、当事者が選び、2週間、5か月、6か月、1か月という期間で縛る代わりに、控訴ができず、異議で通常の手続に戻れます。最後に、通しの軸を、1枚に畳みます。手形・小切手訴訟は、人事訴訟の回の地図で名前を出した、略式の訴訟です。たとえば、受け取った手形が不渡りになったとき、その金額を請求する。証拠を、書証などに絞って、早く判決を出します。保全命令の手続は、民事保全法の領域で、通常の訴訟の前段にある、仮の救済です。どの手続も、実質審理を省く、あるいは縮める代わりに、通常の訴訟へ戻る道を、必ず残しています。督促異議、不調のときの擬制、控訴の代わりの異議、通常の手続への移行。道の名前は違っても、型は、同じです。

民事訴訟法の本編は、ここまでで通しました。

参照条文

  • 民事訴訟法382条
  • 民事訴訟法387条
  • 民事訴訟法388条1項・2項
  • 民事訴訟法391条1項
  • 民事訴訟法392条
  • 民事訴訟法396条
  • 民事訴訟法386条
  • 民事訴訟法390条
  • 民事訴訟法393条
  • 民事訴訟法403条1項柱書・ただし書・3号(一号・二号・四号から六号は省略)
  • 民事訴訟法395条
  • 民事訴訟法394条
  • 民事訴訟法275条1項〜3項
  • 民事訴訟法267条
  • 民事訴訟法381条の2第1項
  • 民事訴訟法381条の2第2項・3項
  • 民事訴訟法381条の3第1項〜3項
  • 民事訴訟法381条の5
  • 民事訴訟法381条の4
  • 民事訴訟法381条の6・381条の7
  • 民事訴訟法381条の8第1項・2項

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