上場株式の振替制度と株式の担保
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第2章 株式 ㉒/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
配当は届くのに権利は止められる
図:導入の場面
- C=証券会社のアプリで上場会社の株式を100株買った個人/B=上場会社
- ①C 名簿の書換えは頼んでいない→配当と総会の招集通知は届く
- ②Cと仲間〔合計で議決権の3%以上〕が帳簿の閲覧を請求
- ③B「株主かどうかこちらでは分からない」/答え=配当は基準日にまとめて届く株主の一覧で処理・基準日と関係ない権利は個別株主通知が要る
上場会社の株式の話です。Cさんは、証券会社のアプリで、ある上場会社の株式を100株買いました。名簿の書換えなど、会社に頼んだ覚えはありません。それでも配当は振り込まれ、株主総会の招集通知も届きました。ところが、Cさんが数人の仲間と一緒に、会社の会計帳簿を見せてほしいと請求しました。議決権の3%以上を集めたので、請求の資格はあるはずです。すると会社は、あなたが株主かどうか、こちらでは分かりません、と答えました。先に答えを言います。配当は、基準日にまとめて会社に届く株主の一覧で処理されるので、届きます。でも、基準日と関係なく権利を使うときは、名簿が古いままです。そこで、自分の口座の記録を会社に知らせてもらう手続、個別株主通知を踏む必要があります。
一本の筋で見ます。上場株式は、毎日大量に売買されます。株券を手渡すのも、売買のたびに名簿を書き換えるのも、現実には無理です。そこで、第一に、持ち主の移転は口座の記録の書換えで起こします。株券の代わりです。第二に、会社は売買のたびではなく、一定の日にまとめて株主の一覧を受け取り、名簿を書き換えます。すると名簿は、次の通知までは古いままです。第三に、その古い間に権利を使う人のために、名簿に代わる手続が用意されています。これが個別株主通知です。地図です。まず登場人物、次に株式がいつ移るか、会社がどう株主を知るか、個別株主通知。そのあと、相続、通知に代わる公告、最後に株式を担保にする方法を見ます。前の回までの、株式の移し方、名簿の書換え、基準日が出てきますので、思い出しながら進めます。
口座の階層
図:口座の階層
- 振替機関〔国の指定を受けた株式会社・現在は1社〕
- 口座管理機関P社・Q社〔証券会社など〕
- 加入者D・E〔口座の開設者〕
- 各口座に振替口座簿=保有欄
- 口座管理機関は振替機関に口座を持ち、加入者は口座管理機関に口座を持つ
- 128条1項の振替株式=株券を発行しない会社の株式で譲渡制限株式を除き振替機関が取り扱うもの
紙の株券は、なくしたり盗まれたりすれば権利を失うおそれがありますし、発行と保管と受渡しに費用がかかります。上場株式のように大量に動くものでは、もう回りません。そこで、社債、株式等の振替に関する法律、以下、振替法と呼びますが、これにより、上場会社の株券は紙をやめて、口座の記録で管理することになりました。
条文社債、株式等の振替に関する法律128条1項
振替法第128条第1項 株券を発行する旨の定款の定めがない会社の株式(譲渡制限株式を除く。)で振替機関が取り扱うもの(以下「振替株式」という。)についての権利の帰属は、この章の規定による振替口座簿の記載又は記録により定まるものとする。
振替株式と呼びます。条件は、株券を発行しない会社の株式であること、譲渡制限株式ではないこと、振替機関が取り扱っていることです。典型は上場株式です。答案で効くのは、譲渡制限株式は入らない点です。譲渡に会社の承認が要る株式は、口座の記録だけで次々に移す仕組みには、なじまないから、と考えられます。ですから、非公開会社の株式は、そもそも振替の対象ではなく、移し方は、株券の回で見た2つの系統で考えます。そして権利の帰属は、振替口座簿の記録で定まります。登場人物は3層です。一番上が振替機関で、国の指定を受けた株式会社です。現在は1社だけです。真ん中が口座管理機関で、証券会社のように、他人のために口座を開く金融機関です。一番下が加入者で、口座を開いた人、つまり私たち投資家です。口座は、銀行の口座と同じ感覚で大丈夫です。残高が、株数にあたります。口座ごとに帳簿があり、それを振替口座簿と言います。その中に、保有している株数を記録する保有欄があります。質権の欄もありますが、これは後で使います。階層は、上下に重なっています。加入者の口座は証券会社の帳簿の中に、証券会社の口座は振替機関の帳簿の中にあります。管理組合の帳簿のようなものです。部屋の鍵を渡す代わりに、管理人の帳簿の名義欄が書き換わると、持ち主が替わる、という感覚です。
上場株式はいつ移るか
図:振替の流れ
- D〔売り手・P社に口座〕と E〔買い手・Q社に口座〕
- ①D→E 売買〔契約だけでは移らない〕
- ②D→P社 振替の申請
- ③P社が D の口座を減少の記録→振替機関→Q社へ通知
- ④Q社が E の保有欄に増加の記録=この時点で効力/会社以外への対抗も同じ記録で足りる/会社への対抗は名簿
株券の回で、株式の移し方を、株券を出さない会社と、株券を出す会社の2つで比べました。上場株式は口座の振替で動かす、とだけ言いました。ここで、その3つ目、振替株式を加えて、移し方を3つの系統にそろえます。設例です。Dさんが持つ上場株式100株を、Eさんに売りました。Dさんは証券会社のP社に、EさんはQ社に、口座があります。
条文社債、株式等の振替に関する法律140条
振替法第140条 振替株式の譲渡は、振替の申請により、譲受人がその口座における保有欄(機関口座にあっては、第百二十九条第五項第二号に掲げる事項を記載し、又は記録する欄)に当該譲渡に係る数の増加の記載又は記録を受けなければ、その効力を生じない。
効力が生じるのは、譲受人の保有欄に、増加の記録がされたときです。売買の契約だけでは移りません。株券を出す会社で、株券の交付に当たるものが、振替では口座の記録です。流れは、こうです。まずDさんが、P社に振替を申請します。P社は、Dさんの口座を減らす記録をします。その連絡が、振替機関を通って、Q社に届きます。Q社が、Eさんの口座の保有欄を増やす記録をした時点で、効力が生じます。会社以外の第三者に対しては、口座の記録で足ります。名簿の書換えは要りません。前の回で、名簿の書換えは会社その他の第三者に対抗する条件だと見ましたが、振替株式では、その中の第三者の部分が、口座の記録で満たされます。ただし、会社に対しては、依然として名簿です。ここが次の節につながります。口座の記録には、2つの働きがあります。口座に記録された加入者は、その権利を適法に有するものと推定されます。143条です。また、増加の記録を受けた加入者は、悪意や重過失がなければ、権利を取得します。144条です。株券の回で見た、株券の権利推定と善意取得と、同じ働きです。振替機関などの過誤で記録が真実より多くなったときの調整は、145条と146条にあります。比較表を完成させます。振替株式は、効力が口座の増加の記録、会社以外への対抗も同じ記録、会社への対抗は名簿、権利推定と善意取得も口座の記録、です。
会社はどうやって株主を知るか
図:総株主通知
- 基準日3月31日→振替機関がその日の口座の記録で株主の氏名・住所・株数を会社へ通知→会社は名簿に記載→その日に名義書換えがされたものとみなす
- 通知の契機=基準日・株式併合の効力発生日・事業年度開始から6か月の日 など
- 名簿は通知の日の姿で止まる
- 4月10日に買ったEは名簿に載らない
前の回で、基準日は何のために置かれるのか、覚えていますか。基準日の名簿に載っている人を、権利を行使できる人と決めるため、でした。ここで問題です。振替株式では、売買のたびに名簿の書換えを頼む仕組みは回りません。実際、振替法の161条で、売買のたびの書換え請求の規定は、適用しないことになっています。では、配当や議決権は、誰に渡すのでしょうか。そのための仕組みが、総株主通知です。会社が基準日を定めると、振替機関が、その日の口座の記録に基づいて、株主の氏名、住所、株数を、会社へ通知します。会社は、これを名簿に記載します。すると、基準日に名義書換えがされたものとみなされます。みなす、とは、その日に書換えがされたことにして扱う、という意味です。
条文社債、株式等の振替に関する法律152条1項
振替法第152条第1項 発行者は、前条第一項(同条第八項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の通知を受けた場合には、株主名簿に通知事項及び同条第三項(同条第八項において準用する場合を含む。)の規定により示された事項のうち主務省令で定めるもの並びに同条第五項(同条第八項において準用する場合を含む。以下この条において同じ。)の規定により示された事項を記載し、又は記録しなければならない。この場合において、同条第一項各号に定める日に会社法第百三十条第一項の規定による記載又は記録がされたものとみなす。
通知がされるのは、基準日のほか、株式の併合の効力発生日や、事業年度の開始から6か月を経過した日などです。配当と総会の議決権は、この名簿で処理されます。だから、Cさんの配当は、頼まなくても届いたのです。大事な点は、名簿が通知の日の姿で止まることです。基準日が3月31日で、Eさんが4月10日に株を買ったとします。Eさんの口座には記録されますが、会社の名簿は3月31日のままで、Eさんは載っていません。これが、次の節の問題の根っこです。なお、失念株が上場株式で生じないのは、そもそも書換えを頼む必要がないからでした。
名簿が古いときに権利を使う——個別株主通知
図:個別株主通知
- 株主が自分の口座管理機関に申出→口座管理機関→振替機関→会社へ氏名・住所・株数・増加の記録日などを通知
- 効果=名簿の記載にかかわらず少数株主権等を行使できる〔130条1項不適用〕
- 通知後4週間が経過する日までの間でなければ行使できない
- 少数株主権等=基準日株主の権利〔124条1項〕を除く株主の権利
- 例=帳簿閲覧請求・株主提案・価格決定申立て
ここで、冒頭の問いです。配当は届くのに、なぜ帳簿の閲覧は止まるのか。基準日とのつながりで、考えてみてください。配当や総会の議決権は、基準日の名簿に載っている人が、一斉に行使する権利でした。それ以外の権利は、基準日と関係なく、思い立ったときに、各株主が行使します。帳簿の閲覧、株主提案、代表訴訟の提起、差止めの請求などです。こうした権利を、少数株主権等と呼びます。
条文社債、株式等の振替に関する法律154条1項・2項
振替法第154条第1項・第2項 1 振替株式についての少数株主権等の行使については、会社法第百三十条第一項の規定は、適用しない。 2 前項の振替株式についての少数株主権等は、次項の通知がされた後政令で定める期間が経過する日までの間でなければ、行使することができない。
少数株主権等は、振替法の147条4項で、株主の権利のうち、会社法124条1項に規定する権利、つまり基準日株主の権利を除いたもの、と定義されています。少数、という名前ですが、単独で行使できる権利も含みます。基準日で一斉に行使させる権利以外は、全部です。
条文社債、株式等の振替に関する法律147条4項
振替法第147条第4項(抜粋) ……株主の権利(会社法第百二十四条第一項に規定する権利を除く。次条第四項及び第百五十四条において「少数株主権等」という。)……
そこで個別株主通知です。株主が、自分の口座管理機関に申し出ます。口座管理機関から振替機関へ伝わり、振替機関が、会社に、氏名、住所、株数、増加の記録がされた日などを通知します。会社は、名簿を見なくても、株主だと確認できます。総株主通知が、決まった日にまとめて届く名簿だとすると、個別株主通知は、途中で自分の分だけ出してもらう証明書です。効果は、154条1項のとおり、名簿の記載にかかわらず、少数株主権等を行使できることです。ただし2項で、通知の後、政令で定める期間までに行使する必要があります。この期間は、4週間です。通知のあとに株主が株式を他に譲渡するおそれがあるので、一定の期間に限っています。例えば、基準日が3月31日の会社の株を4月10日に買った、さきほどのEさんについて、4月20日に個別株主通知がされたとします。Eさんは名簿に載っていませんが、4週間が経過する5月18日までなら、帳簿の閲覧を請求できます。5月18日を過ぎたら、もう一度、通知を申し出直すことになります。Cさんは、仲間と一緒に、まず個別株主通知の申出をして、通知から4週間以内に帳簿の閲覧を請求する、という順序を踏めばよかったのです。
図:平22の事案の時系列
通知が要らない場面があるかは、通知がどういう性質の要件かで決まります。その性質を、最高裁が判断しています。上場会社が、全部取得条項付種類株式を使って、少数株主を締め出しました。反対した株主は、価格の決定を裁判所に申し立てました。株主は証券会社に個別株主通知の申出をしましたが、その後に会社が上場廃止となり、通知ができなくなりました。会社は、通知がないことを理由に争いました。最高裁の判断は、二段です。一つ目は、価格決定の申立てが、少数株主権等にあたるか。二つ目は、個別株主通知を、いつまでにすればよいか、です。
判例最高裁判所決定・平成22年12月7日 民集64巻8号2003頁
個別株主通知の性質と、争われたときの時期 「会社法172条1項所定の価格決定申立権は,その申立期間内である限り,各株主ごとの個別的な権利行使が予定されているものであって,専ら一定の日(基準日)に株主名簿に記載又は記録されている株主をその権利を行使することができる者と定め,これらの者による一斉の権利行使を予定する同法124条1項に規定する権利とは著しく異なるものであるから,上記価格決定申立権が社債等振替法154条1項,147条4項所定の「少数株主権等」に該当することは明らかである。」 …… 「個別株主通知は,社債等振替法上,少数株主権等の行使の場面において株主名簿に代わるものとして位置付けられており(社債等振替法154条1項),少数株主権等を行使する際に自己が株主であることを会社に対抗するための要件であると解される。そうすると,会社が裁判所における株式価格決定申立て事件の審理において申立人が株主であることを争った場合,その審理終結までの間に個別株主通知がされることを要し,かつ,これをもって足りるというべきである」
図:平22判旨の二段
- 一つ目=価格決定申立権は少数株主権等にあたる
- 二つ目=個別株主通知は会社に対抗するための要件・会社が株主であることを争えば審理終結までに通知を要し足りる
- 総株主通知に2回載っていても、その間ずっと持ち続けたかは分からないので代わりにならない
結論が先です。価格決定の申立てをする権利は、少数株主権等にあたります。そして、個別株主通知は、会社に対抗するための要件です。会社が株主であることを争ったら、審理が終わるまでに通知がされていなければなりません。逆に、終結までにされれば足ります。理由を、順に見ます。価格決定の申立ては、基準日の株主が一斉に行使する権利とは違い、各株主が申立期間内に、それぞれ行使するものです。だから少数株主権等にあたります。次に、総株主通知は年に数回しか行われません。その間に買った人が名簿に載らなくても、権利を使えるようにするのが、個別株主通知です。通知には増加の記録の日も載るので、会社は、株式が移る効力の要件である、口座の記録で資格を確かめられます。
この事案でも、総株主通知には二回とも載っていました。ただ、その間ずっと持ち続けたかどうかは、そこから分かりません。だから、総株主通知で個別株主通知の代わりにはできない、とされました。対抗要件を欠いた申立ては、直ちに不適法になるのではなく、争われたら備えればよい、というのが判旨の組み立てです。本件の株主は、申出まではしていました。でも、会社に対抗する要件は、申出ではなく、会社に届く通知そのものです。会社が資格を確かめられるのは、さきほどの、記録の日が載った通知だからです。ですから、上場廃止で通知ができなくなっても、争われたのに終結までに通知がされなかった本件は、申立てが却下されたままで結論が維持されました。判旨は、終結までに通知があれば足りるとしても、株主に著しい負担にはならない、と述べています。申立期間の短い権利で、申立ての前に通知を必須としない配慮とも読めます。さっきの問いに戻ります。この決定が答えたのは、会社が株主であることを争った場合です。通知は会社に対抗するための要件なので、会社が争わずに株主と認めるなら、通知がなくても手続は進む、と読めます。前の回で見た、書換えが済んでいない譲受人を、会社の側から認めてよい、というのと同じ形です。答案では、振替株式の少数株主権等の行使で、個別株主通知があるかを見ます。ないときは、争われたかどうか、終結までに備えられるかを検討します。短答では、通知後4週間と、終結までで足りる、という二点です。
⭐ 論文で書く規範:総株主通知と個別株主通知 総株主通知:基準日などの日に、まとめて、振替機関から会社へ。会社が名簿を書き換える(その日に書換えがされたものとみなす)。配当・議決権は、この名簿で処理。 個別株主通知:基準日と関係なく行使する権利(少数株主権等)のとき、株主の申出で、振替機関から会社へ。名簿の記載にかかわらず行使できる。通知から4週間以内。 会社が株主資格を争えば、審理の終結までに通知がされる必要があり、足りる。 (社債、株式等の振替に関する法律147条4項・151条・152条・154条)
相続と通知に代わる公告
図:振替株式の相続
- 被相続人A名義の口座の振替株式→相続とともに当然に相続人へ承継〔民896条〕・口座開設者の地位も承継→相続人の口座に記録されているものとみる
- 相続は譲渡でないので口座の振替は不要
- 強制執行の事案:債権者が差押命令→譲渡命令を申立て
- 共同相続すると株式は共有
- 通知に代わる公告:名簿は基準日の姿で今の株主と一致しない
次は、株主が亡くなった場合です。株式の持ち主が替わる原因は、売買だけではありません。では、相続は譲渡でしょうか? 譲渡制限の回で、相続は一般承継なので、承認の網にかからない、と見ました。振替でも同じで、相続は譲渡ではありません。ですから、相続人が口座の振替を申請する必要はありません。民法896条により、相続人は、被相続人の振替株式を、当然に承継します。口座を開いた者としての地位も、承継します。この点を述べた判例があります。事案は、株主の権利行使ではなく、強制執行です。債権者が、共同相続された被相続人名義の口座の株式の共有持分に、差押命令を得て、さらに、差し押さえた持分を、裁判所が決めた値段で債権者に移させる命令、譲渡命令を申し立てました。原審は、債務者名義の口座に記録がないので、その差押えは違法だとして、譲渡命令を取り消しましたが、最高裁は破棄して差し戻しました。
判例最高裁判所決定・平成31年1月23日 民集73巻1号65頁
被相続人名義の口座の振替株式 「被相続人が有していた振替株式等は相続開始とともに当然に相続人に承継され,口座管理機関が振替株式等の振替を行うための口座を開設した者としての地位も上記と同様に相続人に承継されると解される(民法896条本文)。そうすると,被相続人名義の口座に記録等がされている振替株式等は,相続人の口座に記録等がされているものとみることができる。このことは,共同相続の場合であっても異ならない。」
結論は、債務者名義の口座に記録がない、というだけで、差押命令を違法とはいえない、です。被相続人名義の口座の記録は、相続人の口座に記録されているものとみます。共同相続すると株式は共有になります。あわせて最高裁は、共有持分だというだけで、譲渡命令を出せないとはいえない、とも述べて、差し戻しました。招集通知は、これまでどおり届きます。違うのは、株式の併合や、合併などの組織再編、事業の譲渡のように、反対する株主が買取りを求めるきっかけになる通知などです。振替法161条2項は、会社法のそうした条文を1つずつ挙げて、振替株式の会社は、株主に個別に知らせる代わりに、公告で知らせる、としています。前の回で、会社の通知は、名簿の住所に出せば足りる、と見ました。でも振替株式の名簿は、基準日の姿で、今の株主と一致しません。名簿の宛先に通知しても、今の株主には届かないからです。
株式を担保にする——質入れ
図:質入れの3系統
- 株券を発行する会社=効力要件〔株券の交付・146条2項〕
- 対抗要件〔質権者が株券を継続して占有・147条2項〕
- 株券を発行しない会社=効力〔契約・146条1項〕
- 対抗〔名簿に質権者を記載・147条1項〕
- 振替株式=効力〔質権者の口座の質権欄に増加の記録・振替141条〕
- 民法364条は不適用〔147条3項〕
株式を担保にしてお金を借りるのは、よく行われます。方法は2つです。質入れと、譲渡担保です。質入れは会社法に定めがあります。譲渡担保には明文がなく、判例や学説で認められた担保です。まず質入れです。株式の移し方は3つの系統に分かれましたが、質入れの付け方も同じ3つに分かれそうだと、予想してみてください。
条文会社法146条
会社法第146条 1 株主は、その有する株式に質権を設定することができる。 2 株券発行会社の株式の質入れは、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。
予想のとおりです。株券を出す会社は、効力要件が株券の交付です。株券を出さない会社は、契約だけで効力が生じます。振替株式は、振替法の141条で、質権者の口座の質権欄に増加の記録を受けなければ、効力を生じません。
条文社債、株式等の振替に関する法律141条
振替法第141条 振替株式の質入れは、振替の申請により、質権者がその口座における質権欄に当該質入れに係る数の増加の記載又は記録を受けなければ、その効力を生じない。
条文会社法147条1項・2項
会社法第147条第1項・第2項 1 株式の質入れは、その質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。 2 前項の規定にかかわらず、株券発行会社の株式の質権者は、継続して当該株式に係る株券を占有しなければ、その質権をもって株券発行会社その他の第三者に対抗することができない。
対抗要件は、株券を出さない会社では、名簿に質権者を記載すること。株券を出す会社では、質権者が株券を継続して占有することです。株券を持ち続けることが、会社にも第三者にも対抗する条件になります。振替株式は、質権欄の記録で足ります。なお、債権に質権を設定したときに、債務者への通知で対抗する、という民法364条の方法は、株式には使いません。会社法147条3項です。質権設定者が請求して、名簿に質権者を載せたものを、登録質と言います。載せないものが略式質です。株券を出す会社では、略式質は株券の交付だけで成り立ちます。振替株式では、総株主通知のときに質権者が申し出ると、質権者の氏名などが会社に通知されます。これが登録質にあたり、申出がなければ略式質です。違いが現れるのは、物上代位です。質権には、担保の目的物が姿を変えたものにも力が及ぶ、物上代位があります。会社法151条は、配当や株式分割などで株主が受けるものに、質権が及ぶと定めます。略式質は、会社が質権者を知らないので、払渡しの前に差押えが必要です。登録質は、会社が質権者を知っているので、会社から直接に受け取れます。
条文会社法154条1項
会社法第154条第1項 登録株式質権者は、第百五十一条第一項の金銭等(金銭に限る。)又は同条第二項の金銭を受領し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済に充てることができる。
設例です。Fさんが、貸主に500万円を借りて、自分の100株に質権を設定したとします。会社が株主に1株50円の配当をすると、100株で5,000円です。登録質なら、貸主は会社から直接5,000円を受け取り、他の債権者に先立って、貸金に充てられます。略式質なら、貸主は、Fさんに払われる前に差し押さえなければなりません。
譲渡担保とまとめ
図:譲渡担保の3系統
- 移し方は譲渡と同じ
- 株券を発行する会社=株券の交付:略式〔交付だけ・会社以外に対抗可・会社に知られない〕と登録〔名簿の書換え・会社は担保権者を株主扱い〕
- 株券を発行しない会社=契約で効力・名簿が対抗要件
- 振替株式=口座の増加記録・総株主通知で担保権者が申出なし→担保権者が株主として通知
- 申出あり→設定者が株主として通知
もう1つの担保が、譲渡担保です。形は株式の譲渡で、実質は担保です。ですから、移し方は、質入れと同じく、この回の前半でそろえた3つの系統そのままです。株券を出す会社は株券の交付、株券を出さない会社は契約で効力が生じ、名簿の書換えが対抗要件、振替株式は口座の増加の記録です。株券を出す会社では、2つの形があります。略式譲渡担保は、株券の交付だけです。会社以外の第三者には、株券の交付で対抗できます。弁済されなければ、株券を換価して弁済に充てられるので、担保として足ります。会社に知られずに済むので、実務ではよく使われるようです。登録譲渡担保は、名簿を担保権者の名義に書き換えます。会社との関係では、担保権者が株主として扱われます。振替株式では、総株主通知のときに担保権者が申出をしなければ、担保権者が株主として会社に通知され、登録譲渡担保にあたります。申出をすれば、設定者が株主として通知され、略式譲渡担保にあたります。会社に知られたくない事情に応える仕組みです。譲渡制限株式の譲渡担保は、前に見たとおり、承認が必要です。判例は、譲渡担保の設定も、承認を要する譲渡にあたるとします。承認のない譲渡は、会社との関係で効かない、という筋と同じです。
設定も承認の要る譲渡だ、という判例の立場には、批判があります。受戻しのたびに承認を求めることになり、得られないかもしれない、という批判です。これに対しては、こう応答できます。承認のない譲渡が会社との関係で効かないなら、設定者も担保権者も承認請求をしない限り、会社から見た株主は、設定者のままです。会社は設定者を株主として扱わなければならず、書換えが済んでいないときの、認めてよい、とは違って、選ぶ余地はありません。受け戻しても、会社から見た株主は替わらないので、受戻しの際に承認は要りません。設定時に承認を得た場合の受戻しは、一度手放した人が再び取得するのと同じで、再び承認を要するのも筋が通ります。会社は、株式が担保として移ったのか、売られたのかを、手元の記録から見分けられません。見分けのつかないものを、承認の要否で分けない、という点でも、判例の立場は説明がつきます。批判と応答の両方がある、という温度で押さえてください。まとめです。一本の筋は、上場株式は毎日大量に動くので、移転は口座の記録で、会社は一定の日にまとめて株主を知る、でした。すると名簿は通知の間は古く、基準日と関係なく権利を使うときは、個別株主通知で補う。そして担保は、株式の移し方の3つの系統が、そのまま付け方になる、でした。
図:3系統の比較表(行=株券を発行する会社/株券を発行しない会社/振替株式。列=移転の効力/会社への対抗/質入れの効力/質入れの対抗/譲渡担保。株券あり=株券の交付/株券の交付〔会社以外〕・名簿〔会社〕/株券の交付/株券の継続占有/略式〔交付〕・登録〔名簿〕。株券なし=契約/名簿/契約/名簿記載/契約・名簿。振替=口座の増加記録/名簿〔総株主通知〕・個別株主通知/質権欄の記録/同/口座の記録・申出で分かれる)
板の表が、3つの系統を並べたものです。短答では、効力発生時期、会社への対抗は名簿であること、個別株主通知の要否と4週間、終結までで足りること、質入れの効力要件と対抗要件、登録質と略式質の違いである直接受領を押さえます。論文では、少数株主権等の行使で個別株主通知を欠く場面と、譲渡制限株式の譲渡担保と承認が、問われやすい形です。Cさんがとるべきだった手順は、証券会社に個別株主通知を申し出て、通知から4週間以内に、仲間と一緒に帳簿の閲覧を請求することです。配当は基準日の名簿で、帳簿の閲覧は個別株主通知で、という分け方でした。
参照条文
- 社債、株式等の振替に関する法律128条1項
- 社債、株式等の振替に関する法律140条
- 社債、株式等の振替に関する法律152条1項
- 社債、株式等の振替に関する法律154条1項・2項
- 社債、株式等の振替に関する法律147条4項
- 会社法146条
- 社債、株式等の振替に関する法律141条
- 会社法147条1項・2項
- 会社法154条1項