会社法ゼロから会社法#23

株式の共有と権利行使者の指定

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第2章 株式 ㉓/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

兄が一人で全部の票を使った

導入の場面(A〔兄〕・B〔姉〕・C〔弟〕が父の死亡で600株を相続分どおり3分の1ずつ共有/遺産分割は未了/AがD〔会社〕の臨時総会で600株全部の議決権を一人で行使/DはAの行使に同意/Cは反対/答え=会社の同意で足りるのは民法の共有のルール〔持分の過半数〕で決めた場合だけ・Aは3分の1で足りない) 図:導入の場面

  • A〔兄〕・B〔姉〕・C〔弟〕が父の死亡で600株を相続分どおり3分の1ずつ共有
  • 遺産分割は未了
  • AがD〔会社〕の臨時総会で600株全部の議決権を一人で行使
  • DはAの行使に同意
  • Cは反対
  • 答え=会社の同意で足りるのは民法の共有のルール〔持分の過半数〕で決めた場合だけ・Aは3分の1で足りない

町の老舗の和菓子店を営む、非公開の株式会社の話です。社長だった父が亡くなり、発行済みの600株のすべてを、子ども3人が相続しました。兄をAさん、姉をBさん、弟をCさんとします。相続分どおり、持分は3分の1ずつで、遺産分割はまとまっていません。Aさんは、自分の側の取締役を選ぶために臨時株主総会を開かせ、600株全部の議決権を一人で行使して、決議を通しました。Cさんは、勝手に全部の株で投票するな、と怒ります。するとAさんは、会社が認めたのだから有効だ、と言います。先に答えを言います。有効とは限りません。3人が民法のルール、つまり持分の過半数で使い方を決めていなければ、会社が同意しても有効にはなりません。Aさんの持分は3分の1で、過半数に届きません。会社が同意していても、この決議は、決議の方法が法令に違反するものとして、取り消される対象になります。

3分の1だと足りない、というのは何となく分かります。でも、そもそもなぜ、3人のうちの誰かが代表して使う、という話になるんですか。3人とも200株ずつ持つ株主、ではだめなんですか。そこが、この回の出発点です。順に見ていきます。

株式を何人かで持つとき——共有の典型は相続

共有の図(A・B・Cが600株を持分3分の1ずつで共有/権利行使者に指定されたAがD〔会社〕へ氏名を通知/遺産分割が済むまで続く/共有者がばらばらに行使するとDは受付先を決められない) 図:共有の図

  • A・B・Cが600株を持分3分の1ずつで共有
  • 権利行使者に指定されたAがD〔会社〕へ氏名を通知
  • 遺産分割が済むまで続く
  • 共有者がばらばらに行使するとDは受付先を決められない

株式は、議決権、配当を受ける権利、残った財産の分配を受ける権利などを、まとめて含んだ権利の束です。この株式を、数人が共同で持つことがあります。民法の言葉では準共有と言い、判決にもこの言葉が出てきます。会社法の条文では、単に共有と書かれています。典型は共同相続です。民法898条1項は、相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属する、と定めています。しかも、共同相続された株式は、相続した時点で相続分どおりに自動的に分かれるのではなく、遺産分割がまとまるまで共有のままです。これが最高裁の考え方です。ですから、Aさん、Bさん、Cさんは、各人が200株の株主になるのではありません。600株の全体を、持分3分の1ずつで、3人で一緒に持っている状態です。

600株の全体に対する、取り分の割合です。600株は、遺産分割がまとまるまで、3人の間でまだ切り分けられていない、と考えてください。ここで困るのが、会社です。総会の招集通知に、3人がそれぞれ別の返事を返してきたとします。Aさんは賛成、Bさんは反対、Cさんは白紙です。同じ600株について、3つの意見が届きます。会社は、どれを票として数えればよいのでしょうか。数えられないですね。そこで会社法は、共有者に、代表を一人決めて会社に知らせることを求めています。

この回の地図(1 なぜ代表を一人に絞るのか/2 代表はどう決めるのか/3 会社が同意すれば代表なしで足りるのか/4 代表を決めていない共有者は決議を争えるのか/5 株式を信託したとき誰が株主になるのか) 図:この回の地図

  • 1 なぜ代表を一人に絞るのか
  • 2 代表はどう決めるのか
  • 3 会社が同意すれば代表なしで足りるのか
  • 4 代表を決めていない共有者は決議を争えるのか
  • 5 株式を信託したとき誰が株主になるのか

この回の地図です。代表を一人に絞る理由、代表の決め方、会社の同意で足りるかどうか、代表を決めていない共有者が決議を争えるか、そして最後に、株式を信託したとき誰が株主になるのかを見ます。

代表を一人決めて会社に知らせる

106条本文の流れ(共有者A・B・C→権利行使者を一人定める→D〔会社〕へ氏名を通知→通知されたAだけが行使できる/通知がなければ行使できない/会社からの通知を受け取る者〔126条3項〕とは別の話) 図:106条本文の流れ

  • 共有者A・B・C→権利行使者を一人定める→D〔会社〕へ氏名を通知→通知されたAだけが行使できる
  • 通知がなければ行使できない
  • 会社からの通知を受け取る者〔126条3項〕とは別の話

まず、条文を見ます。

条文会社法106条

会社法第106条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。

本文は、共有者が権利を行使する者を一人定めて、会社に氏名を通知しなければ、その株式の権利を行使できない、というものです。この一人を、権利行使者と呼びます。ここは条文に書かれているとおりで、特別な解釈は要りません。なぜこんなルールがあるのか。先ほどの、3通の返事を思い出してください。会社が、誰の行使を受け付けるかを、一つに決められるようにするためです。つまり、会社の事務処理の便宜のための規定です。この趣旨が、このあとのすべての場面で効いてきます。会社との関係では、通知された権利行使者だけが、議決権を行使できます。Aさんが指定されて通知されていれば、Bさんが自分で票を投じようとしても、会社は受け付けません。注意点が一つあります。会社が株主に通知や催告を出すとき、それを受け取る人も、共有者は一人決めて会社に通知することになっています。126条3項です。通知がなければ、会社は共有者のうちの一人に出せば足りる、と4項にあります。前に、会社の通知は名簿の住所に出せば足りると見ましたが、共有の場合もその延長です。ただし、これは受け取る窓口の話で、権利を行使する人の話とは別です。混ぜないでください。

設例で考えます。3人は、取締役選任の議案は、Cさんの推す人に賛成しよう、と取り決めました。そしてAさんを権利行使者に指定し、会社に通知しました。ところが総会で、Aさんは別の人に投票しました。

判例最高裁判所判決・昭和53年4月14日

共有持分の議決権行使者 「有限会社において持分が数名の共有に属する場合に、その共有者が社員の権利を行使すべき者一人を選定し、それを会社に届け出たときは、社員総会における共有者の議決権の正当な行使者は、右被選定者となるのであつて、共有者間で総会における個々の決議事項について逐一合意を要するとの取決めがされ、ある事項について共有者の間に意見の相違があつても、被選定者は、自己の判断に基づき議決権を行使しうると解すべきである。」

結論は、Aさんの投票は、会社との関係で有効です。権利行使者は、自分の判断で議決権を行使できます。この事案は有限会社の持分でした。判決の言う社員は従業員ではなく、有限会社にお金を出した人、株式会社なら株主にあたる人で、社員総会は株主総会にあたります。株式にも同じ考え方が及ぶとされています。判決自体は理由を述べていませんが、さきほどの趣旨から説明できます。権利行使者を一人に絞ったのは、会社が共有者どうしの内部の取決めに立ち入らずに済むようにするためです。内部の取決めに反したかどうかを会社が確かめなければならないなら、一人に絞った意味がなくなります。取決めに反した点は、共有者どうしの間の問題になります。なお、会社が取決めを知っていた場合にどうなるかは、この判決は触れていません。整理します。通知された権利行使者が、内部の取決めに反して使った場合は、有効です。通知されていない共有者が、自分で使おうとした場合は、会社は受け付けません。分かれ目は、会社に届け出た権利行使者かどうかです。

代表はどう決めるのか——持分の過半数

決め方の2つの考え方(全員一致〔共有物の処分・変更に準じる考え方〕/持分の価格の過半数〔共有物の管理に準じる考え方〕/Cが反対すると全員一致では誰も行使できない/持分3分の1ずつなら2人賛成で3分の2=過半数・1人は3分の1=足りない/過半数=半分を超える・ちょうど半分は含まない) 図:決め方の2つの考え方

  • 全員一致〔共有物の処分・変更に準じる考え方〕
  • 持分の価格の過半数〔共有物の管理に準じる考え方〕
  • Cが反対すると全員一致では誰も行使できない
  • 持分3分の1ずつなら2人賛成で3分の2=過半数・1人は3分の1=足りない
  • 過半数=半分を超える・ちょうど半分は含まない

条文に、決め方はありません。考え方は2つあります。1つは、全員一致で決める、という考え方です。もう1つは、持分の過半数で決める、という考え方です。設例で見ます。Aさんを権利行使者にしたいのに、Cさんが、Aには任せたくない、と反対したとします。全員一致が必要だとすると、どうなるでしょう。Cさん一人の反対で、誰も決められなくなる、です。権利行使者が決まらなければ、600株全体の議決権を、誰も使えません。会社の運営にも支障が出ます。最高裁は、こちらを採りませんでした。

判例最高裁判所判決・平成9年1月28日 判例時報1599号139頁

権利行使者の決め方 「そして,この場合に,持分の準共有者間において権利行使者を定めるに当たっては,持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができるものと解するのが相当である。けだし,準共有者の全員が一致しなければ権利行使者を指定することができないとすると,準共有者のうちの一人でも反対すれば全員の社員権の行使が不可能となるのみならず,会社の運営にも支障を来すおそれがあり,会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた右規定の趣旨にも反する結果となるからである。」

理由は二つです。一人の反対で全員の権利行使が止まり、会社の運営にも支障が出ること。そして、会社の事務処理の便宜のための規定の趣旨にも反することです。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例):権利行使者の決め方 共有株式の権利行使者は、持分の価格に従い、その過半数で決することができる。 (最高裁判所判決・平成9年1月28日)

数え方は、人数ではなく、持分です。設例では3人とも3分の1ずつですから、AさんとBさんの2人が賛成すれば、合わせて3分の2で、過半数です。Aさん一人は3分の1で、足りません。仮にAさんの持分が5分の3なら、Aさん一人で過半数に届きます。過半数とは、半分を超える、という意味です。ちょうど半分は、過半数ではありません。この点は、次の節で効いてきます。過半数で決める、というのは、決め方の話です。少数派の意見を聞かなくてよい、という意味ではありません。判決はこの点に触れていませんが、反対する共有者に何も知らせず、形だけ指定してしまうやり方まで許される趣旨ではない、と受け止めておくのが安全です。それでも、一人の反対で600株が全部動かなくなる不都合のほうが大きい、というのが判例の判断です。もう一点あります。この判決の事案は、有限会社の持分の共有で、権利行使者が指定されていなかった共有者が、総会の決議を争う訴えを起こしたところ、訴えを起こす資格がないとされた事件です。過半数で決められるという部分は、結論を直接決めた部分ではなく、一般論として述べられたものです。民法のどの条文によるのかは、判決は挙げていません。条文との結びつきは、次に見る判決で出てきます。

会社が「いい」と言えば足りるか——106条ただし書

ただし書の読み方(106条ただし書「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない」/文言だけ見ると会社が同意すれば誰でも行使できるように見える/判例は限定する) 図:ただし書の読み方

  • 106条ただし書「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない」
  • 文言だけ見ると会社が同意すれば誰でも行使できるように見える
  • 判例は限定する

106条には、ただし書がありました。会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。文言だけを読むと、会社さえ同意すれば、指定も通知もなしに、誰でも使えるように見えます。冒頭でAさんが、会社が認めたのだから有効だ、と言ったのは、この読み方です。一度、止まって考えてみてください。Aさんの持分は3分の1です。会社は同意しています。この行使は有効でしょうか。判例が見ているのは、会社の同意の有無ではありません。では、何を見ているでしょうか。持分、ですか。さっきの過半数。事案を見てから確かめます。

判例の事案(株式会社として扱われる特例有限会社/発行済3000株のうち2000株を被相続人の妹ともう一人の相続人が2分の1ずつ共同相続・遺産分割未了/指定・通知なし/もう一人の相続人が臨時総会で2000株全部の議決権を行使し取締役・代表取締役の選任と本店所在地の変更を決議/会社は行使に同意/妹は欠席し無効だと通知して決議の取消しを請求) 図:判例の事案

  • 株式会社として扱われる特例有限会社
  • 発行済3000株のうち2000株を被相続人の妹ともう一人の相続人が2分の1ずつ共同相続・遺産分割未了
  • 指定・通知なし
  • もう一人の相続人が臨時総会で2000株全部の議決権を行使し取締役・代表取締役の選任と本店所在地の変更を決議
  • 会社は行使に同意
  • 妹は欠席し無効だと通知して決議の取消しを請求

事案です。特例有限会社は、前に見たとおり、以前の有限会社が、名前に有限会社を残したまま、株式会社として続いているものです。発行済み3000株の特例有限会社で、そのうち2000株を、亡くなった人の妹と、もう一人の相続人が、2分の1ずつ共同相続しました。遺産分割は未了で、権利行使者の指定も通知もありません。もう一人の相続人が、臨時総会で2000株全部の議決権を行使し、取締役と代表取締役の選任、本店の所在地の変更を決議しました。会社は、この行使に同意しました。妹は欠席し、無効だと通知して、決議の取消しを求めました。判旨は3段です。会社が同意しても適法にならない場合がある、ということ。その物差しが、民法の共有のルールである持分の過半数だ、ということ。そして、この事案へのあてはめです。

判例最高裁判所判決・平成27年2月19日

ただし書の限界 「共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条ただし書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではないと解するのが相当である。」 …… 「そして,共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である。」

1段目。指定と通知がないまま権利が行使された場合に、その行使が民法の共有の規定に従ったものでないときは、会社が同意しても、適法にはなりません。2段目。民法の共有の規定に従う、とはどういうことか。民法では、共有物に変更を加えるには、共有者全員の同意が要ります。251条1項です。これに対して、管理なら、252条1項により、持分の価格に従い、過半数で決まります。議決権の行使は、直ちに株式を処分したり、株式の内容を変更したりするような特段の事情がない限り、株式を手放すわけでも中身を変えるわけでもないので、管理にあたる行為です。先ほどの過半数が、ここで民法の条文とつながりました。

判例最高裁判所判決・平成27年2月19日

ただし書の限界(あてはめ) 「本件議決権行使をしたBは本件準共有株式について2分の1の持分を有するにすぎず,また,残余の2分の1の持分を有する被上告人が本件議決権行使に同意していないことは明らかである。そうすると,本件議決権行使は,各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられているものとはいえず,民法の共有に関する規定に従ったものではないから,上告人がこれに同意しても,適法となるものではない。」

3段目はあてはめです。行使した相続人の持分は、2分の1にすぎません。残りの2分の1を持つ妹は、同意していません。2分の1は、半分を超えていませんから、過半数ではありません。だから、会社が同意しても、適法ではありません。決議は、決議の方法が法令に違反するものとして、取り消されるべきだとされました。会社法831条1項1号です。前に見た、決議の取消しの訴えです。株主などが訴えを起こし、判決で取り消されるまでは、決議は一応、有効なものとして扱われます。2分の1って、半分ですよね。五分五分なら、どちらも対等で、過半数じゃないんですか。そこが落とし穴です。五分五分は、決められない状態です。過半数とは、半分を超えることでした。ですから、2分の1ずつの二人は、どちらも、一人だけでは過半数に届きません。

決め手は、106条の趣旨です。指定と通知の手続は、会社の事務処理の便宜のためのものでした。だから、その手続を免除するのは、会社の自由です。ただし書は、それを認めています。しかし、共有者どうしの内部のルール、つまり持分の過半数で決めるという約束事は、会社のものではありません。会社が飛び越えられるのは、会社の側の手続だけです。たとえば、イベント会場が、代表者の届出は要りません、と言うのは、会場の自由です。でも、参加するグループの中で、誰が何を決めるかという取り決めまで、会場が書き換えることはできません。それと同じです。

設例の対比(Aが3分の1で単独行使→過半数でない→会社が同意しても決議は取消しの対象/AとBが賛成して3分の2で決定しAが行使→民法の共有規定に従う→指定・通知なしでも会社が同意すれば適法になりうる〔判旨の組み立てから導かれる読み〕/AとCだけの相続で2分の1ずつ→Aが単独行使→過半数でない→会社が同意しても適法でない) 図:設例の対比

  • Aが3分の1で単独行使→過半数でない→会社が同意しても決議は取消しの対象
  • AとBが賛成して3分の2で決定しAが行使→民法の共有規定に従う→指定・通知なしでも会社が同意すれば適法になりうる〔判旨の組み立てから導かれる読み〕
  • AとCだけの相続で2分の1ずつ→Aが単独行使→過半数でない→会社が同意しても適法でない

冒頭の設例に戻して、整理します。まず、Aさんが3分の1で、一人で行使した場合です。過半数で決まっていません。会社が同意しても適法ではなく、決議は取り消される対象です。次に、AさんとBさんが賛成して、3分の2になったうえで、Aさんが行使した場合です。民法の共有の規定に従っていますから、指定と通知がなくても、会社が同意していれば、適法になりうる、と読めます。ただしこれは、判決が事案で直接判断した部分ではなく、ただし書が本文の適用を排除するという組み立てから導かれる読み方です。最後に、AさんとCさんの2人だけが相続人で、2分の1ずつの場合です。Aさんが一人で行使しても、判決の事案と同じ形で、会社が同意しても適法ではありません。特段の事情にも、一言触れます。議決権の行使が、直ちに株式の処分や内容の変更にあたるような議案は、管理行為の過半数とは別の整理になりうると、判決は含みを残しています。何が必要かまでは、判決は述べていません。取締役の選任や本店の移転は、この特段の事情にあたらないと判断されました。ここは、論文で論点になりうる箇所です。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例):ただし書の射程 指定及び通知を欠いたまま共有株式の権利が行使された場合に、その行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、会社がただし書の同意をしても、適法とならない。 議決権の行使は、直ちに株式を処分し又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、管理行為として、持分の価格の過半数で決せられる。 (最高裁判所判決・平成27年2月19日)

代表を決めていない共有者は決議を争えるか——信義則の例外

事案と原則・例外(一人会社の全株式7000株を妻と子らが共同相続→妻の死亡で子7人が共同相続・遺産分割未了・指定と通知なし/共同相続人の一人らを取締役に選ぶ決議がされたとして登記/長男が総会は開かれていないとして決議が存在しないことの確認を求める/原則=指定・通知がなければ原告適格なし/例外=発行済株式の全部・取締役選任の登記→原告適格あり) 図:事案と原則・例外

  • 一人会社の全株式7000株を妻と子らが共同相続→妻の死亡で子7人が共同相続・遺産分割未了・指定と通知なし
  • 共同相続人の一人らを取締役に選ぶ決議がされたとして登記
  • 長男が総会は開かれていないとして決議が存在しないことの確認を求める
  • 原則=指定・通知がなければ原告適格なし
  • 例外=発行済株式の全部・取締役選任の登記→原告適格あり

次は、権利行使者を決めていない共有者が、総会の決議を争えるか、です。事案です。ある会社の全株式、7000株を、全株式を持っていた人の死亡後に、妻と子らが共同相続しました。その後、妻も亡くなり、7人の子が共同相続しました。遺産分割は終わらず、権利行使者の指定も通知もありません。ところが、総会で共同相続人の一人らを取締役に選ぶ決議がされたとして、その旨が登記されていました。長男が、そんな総会は開かれていない、として、決議が存在しないことの確認を求める訴えを起こしました。原則は、そのとおりです。ここで問われるのは、原告適格、つまり、その訴えを起こして判断を求める資格があるかどうかです。

判例最高裁判所判決・平成2年12月4日

指定のない共有者の原告適格 「権利行使者としての指定を受けてその旨を会社に通知していないときは、特段の事情がない限り、原告適格を有しないものと解するのが相当である。」 …… 「しかしながら、株式を準共有する共同相続人間において権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠く場合であっても、右株式が会社の発行済株式の全部に相当し、共同相続人のうちの一人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されている本件のようなときは、前述の特段の事情が存在し、他の共同相続人は、右決議の不存在確認の訴えにつき原告適格を有するものというべきである。」

原則として、指定と通知がない共同相続人は、決議が存在しないことの確認を求める訴えでも、原告適格がありません。106条の趣旨は、訴えの場面にも及びます。ところがこの事案では、例外が認められました。判決が挙げた事情は2つです。問題の株式が、会社の発行済株式の全部にあたること。そして、共同相続人の一人を取締役に選んだという決議がされたとして、登記されていること。この場合は、他の共同相続人に原告適格があります。

判例最高裁判所判決・平成2年12月4日

指定のない共有者の原告適格(理由) 「会社は、本来、右訴訟において、発行済株式の全部を準共有する共同相続人により権利行使者の指定及び会社に対する通知が履践されたことを前提として株主総会の開催及びその総会における決議の成立を主張・立証すべき立場にあり、それにもかかわらず、他方、右手続の欠缺を主張して、訴えを提起した当該共同相続人の原告適格を争うということは、右株主総会の瑕疵を自認し、また、本案における自己の立場を否定するものにほかならず、右規定の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けるものとして、訴訟上の防御権を濫用し著しく信義則に反して許されない」

会社の主張の矛盾です。決議があったとして登記までされていますから、この裁判で会社は、総会が開かれ、決議が成立した、と主張する側に立ちます。そして、全株式が共有ですから、総会が適法に開かれたと言うなら、共同相続人が、権利行使者の指定と通知を済ませていたことが前提のはずです。2つの事情は、この矛盾を作るための材料です。それなのに、同じ訴訟で、指定と通知がないから訴える資格がない、と言う。これは、自分が主張する決議の瑕疵を自分で認め、自分の立場を自分で否定するのと同じだ、と判決は言います。そこで、信義則に反して許されない、とされました。信義則とは、相手の信頼を裏切るような、筋の通らない振る舞いは許されない、という原則です。自分で言ったことと矛盾する主張をするのも、その一つです。たとえば、店が、この客の注文を受けて料理を出した、と主張しながら、同じ裁判の中で、この人は注文していない、と言うようなものです。主張が食い違っています。射程に注意してください。この判決が判断したのは、決議が存在しないことの確認を求める訴えの原告適格です。共有者の一人が、指定なしで株主権を行使できる、という一般論ではありません。また、判決が挙げたのは、全株式にあたることと、取締役選任の登記の2つの事情で、これらが揃わない場合に同じ結論になるかは、直接は述べていません。決議が存在しないことの確認を求める訴えの中身は、別の回で扱います。

2つの判決の見分け方(会社が行使に同意している場面で議決権行使の有効性が問われる→ただし書→持分の過半数で決まったか/会社の同意はなく指定・通知を欠く共有者が決議の不存在確認を求める場面→原則は原告適格なし・例外は信義則に反する特段の事情) 図:2つの判決の見分け方

  • 会社が行使に同意している場面で議決権行使の有効性が問われる→ただし書→持分の過半数で決まったか
  • 会社の同意はなく指定・通知を欠く共有者が決議の不存在確認を求める場面→原則は原告適格なし・例外は信義則に反する特段の事情

2つの判決の守備範囲を、整理します。会社が行使に同意している場面で、議決権行使が有効かどうかが問われるなら、ただし書です。見るのは、持分の過半数で決まったかどうかです。会社の同意はなく、指定と通知を欠く共有者が決議の不存在の確認を求める場面なら、原則は原告適格なし、例外は信義則に反する特段の事情です。答案では、どちらの場面なのかを、最初に切り分けます。

株式を信託する——株主は受託者

信託の関係図(X〔委託者〕が株式をY〔受託者〕に信託〔信託契約〕/Yが管理し株主名簿上の株主になる→D〔会社〕/損益はZ〔受益者〕に帰属/議決権の行使は信託契約の定めによる/例=株式投資信託はX=運用会社・Y=信託銀行・Z=投資家) 図:信託の関係図

  • X〔委託者〕が株式をY〔受託者〕に信託〔信託契約〕
  • Yが管理し株主名簿上の株主になる→D〔会社〕
  • 損益はZ〔受益者〕に帰属
  • 議決権の行使は信託契約の定めによる
  • 例=株式投資信託はX=運用会社・Y=信託銀行・Z=投資家

最後に、信託された株式です。ここまでは、株式を数人で持つ話でした。信託は、名簿に載る持ち主と、得をする人がずれる仕組みです。信託とは、ある人が、信頼できる人に財産を預けて、一定の目的のために管理させる仕組みです。信託法2条1項と3条1号が定義です。財産を預ける人が委託者、預かって管理する人が受託者、利益を受ける人が受益者です。契約で、委託者が受託者に財産を譲渡し、受託者が目的に従って管理や処分をする旨を定めます。設例です。Xさんは、まだ幼い孫のZさんのために、信頼できる知人のYさんに、会社の株式100株を信託しました。このとき、会社の株主名簿に載り、会社との関係で株主として議決権を行使するのは、受託者のYさんです。配当などの利益は、受益者のZさんのものになります。議決権をどう使うかは、信託契約の定めに従います。

身近な例が、株式投資信託です。多くの投資家が出したお金で、運用会社の指図に従って、信託銀行が株式を持ちます。株主として名簿に載るのは信託銀行で、値上がりや配当は投資家のものになります。図では、運用会社がX、信託銀行がY、投資家がZです。もう一つ、議決権信託があります。複数の株主が、議決権を統一して使うことを目的に、株式を一人の受託者に信託するものです。原則として有効ですが、株主の権利を不当に制限するものは、無効になります。無効とされた例が、大阪高等裁判所の決定です。従業員が株式を取得するときに、共済会の理事に株式を信託する契約が強制され、解約もできず、議決権は受託者だけが使い、従業員が自分で議決権を使う道はありませんでした。裁判所は、株主の議決権を含む権利の自由な行使を阻止するもので、委託者である従業員の利益の保護に著しく欠ける、として無効としました。ここは、名前と結論を押さえれば足ります。議決権信託と議決権を拘束する契約の比べ方は、別の回で扱います。

信託の対抗要件——154条の2

154条の2の3系統(株券を発行しない会社〔振替株式を除く〕=名簿に信託財産である旨の記載がなければ会社その他の第三者に対抗できない/株券発行会社=不要〔4項〕/振替株式=振替口座簿の記載〔振替法142条1項〕・会社法154条の2第1項から3項は適用しない〔振替法161条1項〕) 図:154条の2の3系統

  • 株券を発行しない会社〔振替株式を除く〕=名簿に信託財産である旨の記載がなければ会社その他の第三者に対抗できない
  • 株券発行会社=不要〔4項〕
  • 振替株式=振替口座簿の記載〔振替法142条1項〕・会社法154条の2第1項から3項は適用しない〔振替法161条1項〕

信託した株式を、信託財産だと主張するには、条件があります。その前に、前に見た問いを一つ。株券を発行する会社で、株式の譲渡を会社以外の第三者に対抗するのに、名簿の名義書換えは必要でしたか?要らなかったと思います。株券を持っていることで足りて、名簿は、会社に対抗するときだけ、でした。130条2項でした。この記憶が、これから見る条文の理由に効きます。

条文会社法154条の2第1項・第4項

会社法第154条の2第1項・第4項 1 株式については、当該株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、当該株式が信託財産に属することを株式会社その他の第三者に対抗することができない。 4 前三項の規定は、株券発行会社については、適用しない。

1項のとおり、信託財産に属する旨を株主名簿に記載しなければ、信託財産であることを、会社その他の第三者に対抗できません。設例で見ます。先ほどのXさんが、株式をYさんに信託しました。名簿には、Yさんの名前しかありません。ここで、Yさん個人にお金を貸しているFさんが、その株式を差し押さえたとします。信託財産に属する財産は、信託財産のための債務に係る債権による場合を除いて、強制執行などの対象になりません。信託法23条1項です。違反した執行には、受託者や受益者が異議を主張できます。5項です。ですから本来、Fさんの差押えは、はねのけられるはずです。ところが、名簿に、信託財産である旨の記載がなければ、受託者や受益者の側は、Fさんに対して、これは信託財産だと対抗できません。Fさんから見れば、名簿に載っているYさんの株でしかないからです。だから、排除できません。名簿に記載があれば、はねのけられます。

株券を発行する会社では、4項により、この規定は適用されません。名簿の記載は要りません。理由は、さきほどの問いです。株券を発行する会社では、130条2項により、名簿は、会社以外の第三者に対する譲渡の対抗要件ではありません。株式の譲渡でさえ、名簿で会社以外の第三者に対抗する仕組みではないのに、信託財産であることだけを名簿に求める意味が乏しいからです。ですから株券発行会社では、名簿に書いていなくても、信託財産であることを第三者に主張できます。もう一つ、前の回で見た振替株式です。上場株式のように、株券を出さず、証券会社などの口座の記録で権利が決まる株式でした。その帳簿が振替口座簿です。権利が口座の記録で決まるので、信託財産だという記録も、名簿ではなく口座の側に置きます。振替法142条1項により、信託財産に属する旨を振替口座簿に記載しなければ、第三者に対抗できません。そして161条1項で、会社法154条の2の1項から3項は、振替株式には適用しないとされています。短答では、この3系統を区別できれば足ります。

共有と信託の筋を通す

この回のまとめ(相続した株式は遺産分割まで相続人の間で切り分けられない→共有株式は会社が聞く相手を一人に絞る〔106条本文・会社の事務処理の便宜〕→決め方=持分の価格の過半数→ただし書=会社が飛び越えられるのは会社の側の手続だけ・過半数で決まっていない行使は会社が同意しても適法でない→指定のない共有者=決議の不存在確認の訴えの原告適格は原則なし・会社の矛盾した主張は信義則違反で例外→信託=名簿上の株主は受託者・信託財産の対抗要件は3系統) 図:この回のまとめ

まとめです。一本の筋は、相続した株式は遺産分割まで3人の間で切り分けられないから、共有の株式では、会社が聞く相手を一人に絞る、でした。106条本文がその手続で、趣旨は会社の事務処理の便宜です。権利行使者は、持分の過半数で決められます。通知された権利行使者は、内部の取決めに反しても、有効に議決権を使えます。ただし書の会社の同意は、会社の側の手続を免除するだけです。共有者どうしの、持分の過半数というルールまでは、飛び越えられません。指定と通知のない共有者は、原則として、決議が存在しないことの確認を求める訴えの原告にもなれません。ただし、会社が自分の主張と矛盾することを言うときは、信義則で例外になります。信託では、名簿に載る株主は受託者で、得をするのは受益者です。信託財産であることは、株券を発行しない会社では、名簿の記載がなければ対抗できません。株券発行会社では要らず、振替株式では口座簿でした。

Aさんの持分は3分の1で、過半数に届きません。会社が同意しても、決議は取り消される対象です。Bさんの賛成を取りつけて3分の2で決めていれば、持分の過半数というルールは満たしていました。短答では、決め方が持分の過半数であること、内部の取決めに反しても有効であること、ただし書の限界、指定がない場合の原告適格と信義則、154条の2の3系統が問われます。論文では、相続で共有になった株式の議決権行使と決議の効力、権利行使者の選任、指定のない共有者による決議の訴えが、論点になりえます。

参照条文

  • 会社法106条
  • 会社法154条の2第1項・第4項

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