株式の併合・分割と単元株
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第2章 株式 ㉔/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
割るのは軽く、まとめるのは重い
図:導入の場面
- 山あいの老舗醸造会社D〔上場〕・1単元100株で数百万円・若い個人投資家は手が出ない
- 分割〔1株を割る〕=取締役会の決議で足りる
- 併合〔10株を1株にまとめる〕=株主総会の特別決議・7株のAは0.7株になり株主でなくなる
- 端数はお金に替えて渡され不満なら公正な価格での買取りを請求できる
- 重さを決めるのは「株主の地位を失う人が出るか」
山あいの老舗の醸造会社が、上場しています。株価が上がって、最低売買単位の100株を買うと、数百万円になってしまいました。若い個人投資家が、応援したいのに手が出ない、と言います。そこで会社は、1株を何株かに割る案を出しました。同じ頃、別の会社が、10株を1株にまとめる、と言い出しました。手元に7株しかない株主のAさんは、驚きます。私はどうなるのか、と。先に答えを言います。株式を割る、つまり分割は、取締役会設置会社なら、取締役会の決議で足ります。株式をまとめる、つまり併合は、株主総会の特別決議が要ります。そして7株のAさんは、7株を10で割った0.7株になりますから、株主でなくなります。端数はお金に替えて渡され、不満なら、公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。
株主でなくなる、って。持っている株が、取り上げられるということですか。そこが、この回の中心です。手続の重さを決めているのは、株主の地位を失う人が出るかどうか、という一点です。この一本の筋で、分割、併合、無償割当て、単元株を、順に通していきます。
なぜ1株の大きさを変えるのか
図:通しの設例
- 会社の時価総額72億円
- 発行済24万株→1株3万円・1単元100株で300万円
- 1株を4株に分割→96万株・1株7,500円・1単元75万円
- 10株を1株に併合→2.4万株・1株30万円
- 時価総額は変わらない・切り方が変わるだけ
まず、なぜ会社は1株の大きさを変えたいのか。1株の値段は、会社全体の値打ちである時価総額を、発行済みの株式の数で割ったものです。例えば、時価総額が72億円の会社で、発行済みの株式が24万株なら、1株は3万円です。100株の1単元を買うには、300万円かかります。個人には重いですね。買い手が減れば、株は売れにくくなります。逆に、1株の値段が低すぎると、持ち株が少ない小さな株主が増えます。会社は、株主の全員に、総会の通知を出し、名簿を管理します。小口の株主が多いほど、その事務の費用がかさみます。だから会社は、発行済株式の数を動かして、1株の大きさを調整する自由を持っています。
数を動かしたら、会社の値打ちも動くんじゃないですか。動きません。ケーキで考えてください。ホールの大きさは同じで、何切れに切るかが変わるだけです。1株を4株に分割すると、発行済みの株式は96万株になり、1株は7,500円です。1単元は75万円です。逆に、10株を1株に併合すると、2.4万株になり、1株は30万円です。どちらも時価総額の72億円は変わりません。定義を押さえます。併合とは、数個の株式を合わせて、より少数の株式にすること。分割とは、1株をより多数の株式にすることです。会社がこれをできることは、併合は180条1項、分割は183条1項が定めています。どちらも、全株主の持ち株数が、一律に、同じ割合で増減しますから、会社の財産は動きません。併合は、少数の株主を株主の座から出す、前に全部取得条項で見た、キャッシュ・アウトの手段に使われることもあります。併合を使う場合の詳しい話は、ここでは扱いません。暗記表を先に予告します。小さくする分割と無償割当ては軽い。大きくする併合は重い。単元株は別の道具です。この違いに、なぜ、を付けていくのが、今日の仕事です。
図:この回の地図
- 1 株式を合わせる併合はなぜ重いのか
- 2 併合で株主でなくなる人をどう守るか
- 3 買取請求をした人は議事録を見られるか
- 4 株式を割る分割と無償割当て
- 5 端数はお金に替えて配る
- 6 追い出さずに単位を大きくする単元株
地図です。併合が重い理由、併合で株主でなくなる人の守り方、買取請求をした人が議事録を見られるかという判例、分割と無償割当て、端数の処理、そして単元株の順に見ます。
株式を合わせる——併合はなぜ重いのか
図:180条の読み方
- 併合を決める総会で定めること=併合の割合・効力発生日・種類・効力発生日の発行可能株式総数
- 決議要件=特別決議〔309条2項4号〕
- 取締役は必要とする理由を説明
- 割合しだいで端数しか持たない株主は地位を失う→だから重い
ここで一度、止まって考えてください。10株を1株にまとめる併合では、なぜ株主総会の特別決議が要るのか。分割は取締役会で足りるのに、何が違うのでしょうか。株主に与える影響の大きさで手続が分かれる、という方向は合っています。何が大きな変化なのか、一語で言えますか。株主でなくなる人が、出るかもしれない。条文を見ます。
条文会社法180条
会社法第180条(第1項・第2項) 1 株式会社は、株式の併合をすることができる。 2 株式会社は、株式の併合をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。 一 併合の割合 二 株式の併合がその効力を生ずる日(以下この款において「効力発生日」という。) 三 株式会社が種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類 四 効力発生日における発行可能株式総数
条文会社法180条
会社法第180条(第3項・第4項) 3 前項第四号の発行可能株式総数は、効力発生日における発行済株式の総数の四倍を超えることができない。ただし、株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。 4 取締役は、第二項の株主総会において、株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
2項で、併合の割合、効力発生日、種類株式発行会社なら併合する株式の種類、そして効力発生日の発行可能株式総数を、総会の決議で定めます。この総会の決議は、特別決議です。309条2項4号に書かれています。そして4項で、取締役は、併合を必要とする理由を説明しなければなりません。なぜ特別決議で、理由まで説明させるのか。割合しだいで、端数しか持たない株主は、株主の地位を失うからです。10株を1株にすれば、9株以下の人は、全員が株主でなくなります。影響が大きいので、重い手続にして、なぜ必要かを株主の前で説明させます。
発行可能株式総数は、会社が出せる株式の上限です。公開会社は、取締役会の決議だけで新しい株式を出せますから、持ち株比率が薄まる限度を、この上限で画しています。そこで、上限は発行済株式の総数の4倍まで、という規制があります。この規制を、併合の場面にも及ぼすのが、3項です。具体的に、公開会社で、発行可能株式総数が40万株、発行済みが10万株、つまりちょうど4倍とします。ここで5株を1株に併合すると、発行済みは2万株になります。上限を40万株のままにすると、20倍です。併合で発行済みの株が減るのに上限をそのままにすると、上限の枠が相対的に膨らんで、4倍の規制をすり抜けてしまいます。だから、効力発生日の上限は、2万株の4倍、8万株以下に定める必要があります。
ただし書のとおり、公開会社でない会社は除かれます。この4倍を超える定めで併合を決議すれば、条文の要件違反です。あとで見る差止めの事由になります。効力です。182条1項により、効力発生日の前日に持っていた株式の数に、併合の割合を掛けた数の株式の株主になります。また2項により、会社は効力発生日に、決議で定めた発行可能株式総数に従って、定款を変更したものとみなされます。定款変更の総会決議を、別に開く必要はありません。
併合で株主でなくなる人を守る
図:併合の株主保護の時系列
- 通知・公告〔181条・株主への通知は効力発生日の20日前まで(182条の4第3項)・質権者への通知と適用除外の併合は2週間前のまま〕と事前開示〔182条の2〕→効力発生日の前まで差止め〔182条の3〕・買取請求〔182条の4・効力発生日の20日前から前日まで〕→効力発生→事後開示〔182条の6・効力発生日から6箇月〕
- なぜ=情報を渡して買取請求と差止めの機会を与える
では、株主でなくなる人を、どう守るのか。時系列で並べると、見通しが良くなります。総会の前から効力発生日までに、情報を渡します。効力発生日の前までに、差止めと買取請求ができます。効力発生のあとに、結果を開示します。一貫した理由は、情報を渡して、買取請求や差止めの機会を与えることです。一つ目は、通知です。181条で、会社は、株主と、名簿に載った質権者、つまり前に見た登録株式質権者に、180条2項の事項を通知します。公告で代えることもできます。期限は、181条1項では、効力発生日の2週間前までです。ところが、株主への通知は、182条の4第3項の読替えで、2週間が20日に変わります。効力発生日の20日前までに知らせなければなりません。読み替わるのは株主への通知だけです。質権者への通知は2週間前のままです。また、単元株式数を定めた会社で、単元の分に端数が出ない併合は、このあと見る適用除外に当たり、こちらも2週間前のままです。
20日、なんですね。どうして20日なんですか。買取請求ができる期間が、効力発生日の20日前から前日までだからです。請求が始まる前に知らせておく、という仕組みです。
図:買取請求の段と差止めの段
- 買取請求〔182条の4〕=反対株主・端数となる全部を公正な価格で・効力発生日の20日前から前日までに請求・価格は182条の5・買取りの効力は効力発生日
- 差止め〔182条の3〕=法令又は定款に違反+株主が不利益を受けるおそれ・著しく不公正な方法は要件にない
二つ目は、買取請求です。条文を読みます。
条文会社法182条の4第1項
会社法第182条の4第1項 株式会社が株式の併合をすることにより株式の数に一株に満たない端数が生ずる場合には、反対株主は、当該株式会社に対し、自己の有する株式のうち一株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することができる。
反対株主は、2項に書かれています。総会に先立って併合に反対する旨を会社に通知し、かつ総会で反対した株主です。議決権を行使できない株主も含まれます。前に見た、定款変更などに反対する株主の買取請求で、116条2項が定めていた反対株主と同じ型です。請求は、効力発生日の20日前から前日までに、株式の数を明らかにして行います。株券を発行する会社なら、株券も出します。撤回するには会社の承諾が要ります。冒頭のAさんなら、10株を1株にまとめる併合で、7株がまるごと0.7株の端数になります。総会の前に反対を通知し、総会でも反対したうえで、効力発生日の20日前から前日までに、その全部の買取りを請求する、という流れです。価格の決め方も、前に見た117条と同じ型で、182条の5です。協議が調えば、効力発生日から60日以内に支払います。効力発生日から30日以内に協議が調わなければ、その満了日から30日以内に、株主か会社が、裁判所に価格決定を申し立てます。会社は、価格が決まるまでの間、公正と認める額を、仮に払うことができます。これを仮払いと呼びます。そして、買取りの効力が生じるのは、効力発生日です。
株主でなくなりますが、代金は、あとで決まります。この、株主でなくなったあとの立場が、次の判例の問題です。公正な価格の中身は、ここでは扱いません。三つ目は、差止めです。条文を読みます。
条文会社法182条の3
会社法第182条の3 株式の併合が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、当該株式の併合をやめることを請求することができる。
要件は二つです。法令か定款に違反していること、そして株主が不利益を受けるおそれがあること。前に見た、会社が株式を発行するときの、募集株式の発行の差止め、210条には、もう一つ、著しく不公正な方法で行われること、という事由があります。この事由は、182条の3にはありません。違いとして押さえてください。例です。総会で、取締役が併合の理由を説明しなかった。あるいは、発行可能株式総数が、発行済みの4倍を超えている。どちらも法令違反です。
図:事前開示と事後開示の段
- 事前開示〔182条の2〕=総会の2週間前の日と通知・公告の日の早いほうから効力発生日後6箇月を過ぎる日まで本店に備え置き・株主が閲覧
- 事後開示〔182条の6〕=効力発生日から6箇月間本店に備え置き・閲覧できるのは株主と効力発生日に株主だった者
- 違い=事後開示は元株主を含む
四つ目は、事前開示です。182条の2で、会社は、総会の2週間前の日と、通知か公告の日のうち、早いほうから、効力発生日の後6箇月を過ぎる日まで、180条2項の事項などを書いた書面を、本店に備え置きます。株主は、営業時間内なら、いつでも閲覧を請求できます。法務省令で定める事項には、併合の割合が相当か、端数の処理の方法と、交付される見込みの金額が相当か、といったものが含まれます。五つ目は、事後開示です。182条の6で、効力発生日の後、遅滞なく、併合が効力を生じた時の発行済株式の総数や、差止めと買取請求の手続の経過などを書いた書面を作り、効力発生日から6箇月間、本店に備え置きます。閲覧できるのは、株主と、効力発生日に株主だった者です。併合で株主でなくなった人も、見られます。事前開示との違いは、この元株主を含めている点です。
自分が出された手続が、きちんと行われたかを、確かめるためです。
図:適用除外の見分け方
- 単元株式数50株の会社
- 5株を1株に併合→50×1/5=10株・整数=端数なし→事前開示・差止め・買取請求・事後開示は及ばない
- 20株を1株に併合→50×1/20=2.5株・整数でない=端数あり→規律が及ぶ
- 見るのは「1に満たない」かではなく「整数にならない」か
例外が一つあります。ここで、問いです。50株ごとに議決権1個、と定款で決めた会社、つまり単元株式数が50株の会社で、5株を1株にする併合と、20株を1株にする併合。端数が出て、買取請求ができるのは、どちらでしょうか。20株を1株にするほう、でしょうか。計算します。単元株式数に、併合の割合を掛けて、整数にならなければ、端数が生じます。50株の5分の1は10株で整数です。単元の分に端数は出ません。50株の20分の1は2.5株です。端数が出ます。
条文会社法182条の2第1項
会社法第182条の2第1項 株式の併合(単元株式数(種類株式発行会社にあっては、第百八十条第二項第三号の種類の株式の単元株式数。以下この項において同じ。)を定款で定めている場合にあっては、当該単元株式数に同条第二項第一号の割合を乗じて得た数に一に満たない端数が生ずるものに限る。以下この款において同じ。)をする株式会社は、次に掲げる日のいずれか早い日から効力発生日後六箇月を経過する日までの間、同項各号に掲げる事項その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
会社が定款で単元株式数を定めていて、単元株式数に併合の割合を掛けた数に、端数が生じない併合は、182条の2第1項のかっこ書により、ここでいう株式の併合に当たりません。ですから、事前開示、差止め、買取請求、事後開示は及びません。なぜ、整数かどうかを見るのか。単元の50株は、5分の1にすると10株で、整数です。ですから、単元の分は、何単元持っていても整数のまま残ります。端数が出るのは、50株に満たない、もともと議決権の無い単元未満の部分だけです。影響が小さいので、手続を外しています。見るのは、1に満たないかではなく、整数にならないかです。
買取請求をした人は議事録を見られるか
図:判例の事案
- Y社が臨時総会と普通株式の種類株主総会で125万株を1株に併合する決議
- X〔4万4400株〕は事前に反対を通知し総会で反対→効力発生日の前に買取請求〔182条の4第1項〕
- 協議が調わず裁判所へ価格決定の申立て
- 会社が仮払い〔182条の5第5項〕として公正と認める額1332万円を支払
- 価格決定の事件は係属中
- Xは債権者として総会議事録の閲覧・謄写を請求〔318条4項〕
前に見たことの復習です。反対株主の買取請求で、会社が株式を買い取る効力が生じるのは、いつだったでしょう?効力発生日、でした。では、効力発生日に株主でなくなった人は、会社の総会議事録を見られるでしょうか。前に、結論だけ見ました。ここで本体を見ます。事案です。会社が、臨時総会と、普通株式の種類株主総会で、普通株式などの125万株を1株に併合する決議をしました。株主のXさんは、4万4400株を持っていました。1株の125万分の4万4400ですから、端数です。Xさんは、事前に反対を通知し、総会でも反対し、効力発生日の前に、買取請求を182条の4第1項に基づいてしました。価格の協議は調わず、Xさんは、裁判所に価格決定を申し立てました。会社は、182条の5第5項により、公正と認める額として、1332万円を支払いました。仮払いです。ところが、価格決定の事件は、まだ裁判所で続いています。この状況で、Xさんは、自分は価格の支払を求める権利を持つ債権者だとして、318条4項に基づき、株主総会議事録の閲覧と謄写を求めました。318条4項は、株主と債権者が、株式会社の営業時間内なら、いつでも総会議事録の閲覧や謄写を請求できると定めています。争点は、仮払いを受けたあとも、Xさんは債権者といえるか、です。仮払いを受けた以上、もう債権者ではないのではないか、という会社の言い分です。
判決は、仮払いを受けたからXさんは債権者でなくなる、とは考えませんでした。判旨を四つに分けて見ます。
判例最高裁判所第二小法廷判決・令和3年7月5日 民集75巻7号3392頁
買取請求者は仮払い後も議事録を見られる(買取請求で債権者になる) 「会社法318条4項は,株式会社の株主及び債権者は株主総会議事録の閲覧等を請求できる旨を定めている。そして,同法182条の4第2項各号に掲げる株主(反対株主)は,株式併合により1株に満たない端数となる株式につき,同条1項に基づく買取請求をした場合,会社との間で法律上当然に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることにより上記株式につき公正な価格の支払を求めることのできる権利を取得し(最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参照),同法318条4項にいう債権者に当たることとなると解される。」
判例最高裁判所第二小法廷判決・令和3年7月5日 民集75巻7号3392頁
買取請求者は仮払い後も議事録を見られる(価格はまだ形づくられていない) 「ところで,会社は,上記株式の価格の決定があるまでは,上記買取請求をした者に対し,自らが公正な価格と認める額を支払うことができる(同法182条の5第5項)。もっとも,上記株式の価格は上記の者と会社との間の協議により又は裁判によって決定されるところ(同条1項,2項),同法182条の4第1項の趣旨が,反対株主に株式併合により端数となる株式につき適切な対価の交付を確保することで上記株式についての反対株主の利益の保護を図ることにあることからすれば,上記裁判は,裁判所の合理的な裁量によってその価格を形成するものであると解される(前掲最高裁平成23年4月19日第三小法廷決定参照)。そうすると,上記協議が調い又は上記裁判が確定するまでは,この価格は未形成というほかなく,上記の支払によって上記価格の支払請求権が全て消滅したということはできない。」
一つ目です。買取請求をすると、会社との間で、法律上当然に、売買契約が成立したのと同じ関係が生まれます。そして、公正な価格の支払を求める権利を取得します。ですから、318条4項の債権者です。二つ目です。仮払いはあくまで、会社が、公正と認める額を、とりあえず払うものです。価格は協議か裁判で決まり、裁判は、裁判所が合理的な裁量で価格を形づくります。協議が調うか、裁判が確定するまでは、価格はまだ形づくられていません。仮払いで、支払請求権が全部消えたとはいえない、というわけです。
判例最高裁判所第二小法廷判決・令和3年7月5日 民集75巻7号3392頁
買取請求者は仮払い後も議事録を見られる(318条4項の趣旨) 「また,同法318条4項の趣旨は,株主及び債権者において,権利を適切に行使し,その利益を確保するために会社の業務ないし財産の状況等に関する情報を入手することを可能とし,もってその保護を図ることにあると解される。そして,上記買取請求をした者は,会社から上記支払を受けたとしても,少なくとも上記株式の価格につき上記協議が調い又は上記裁判が確定するまでは,株式併合により端数となる株式につき適切な対価の交付を確保するため会社の業務ないし財産の状況等を踏まえた合理的な検討を行う必要がある点においては上記支払前と変わるところがなく,上記情報の入手の必要性は失われないというべきである。」
判例最高裁判所第二小法廷判決・令和3年7月5日 民集75巻7号3392頁
買取請求者は仮払い後も議事録を見られる(結論) 「したがって,同法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者は,同法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても,上記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは,同法318条4項にいう債権者に当たるというべきである。」
三つ目と四つ目です。318条4項の趣旨は、権利を適切に使うために、会社の状況を知る手段を与えることです。仮払いを受けても、価格が決まるまでは、会社の状況を踏まえて、適切な対価かどうかを検討する必要は、払われる前と変わりません。だから、情報を得る必要も失われません。結論は、仮払いを受けても、協議が調うか裁判が確定するまでは、債権者です。
図:判旨の筋のまとめ
- 買取請求→売買契約が成立したのと同様の関係→公正な価格の支払を求める権利=債権者
- 仮払いは価格決定前の暫定の支払・価格は協議か裁判で形づくられる→確定まで請求権は消えない
- 318条4項の趣旨=権利を適切に行使するための情報入手→検討の必要は仮払い前と変わらない
- 結論=協議が調うか裁判が確定するまでは債権者
併合で株主でなくなっても、適切な対価を受け取る権利は残ります。会社がとりあえず払った額が、裁判所が決める価格より低くないかを検討するには、会社の状況を知る必要があります。権利があるのに、情報が閉ざされるのは、不公平だからです。例で考えます。冒頭のAさんが、7株の端数で買取請求をしたとします。会社が、併合後の1株を18万円とみて、Aさんの0.7株の分として、12万6000円を仮払いしました。Aさんは、裁判所が決める価格は、これより高いはずだと考え、総会議事録を見て、併合の目的や説明の内容を確かめたいと思います。会社は、もう払った、と断ります。判例によれば、価格が決まるまでは、Aさんは債権者として、議事録を見られます。
図:注意点2つ
- 1 見られるのは株主総会議事録=株主名簿の閲覧〔125条〕とは別・根拠は318条4項
- 2 判旨が判断したのは仮払いを受けた場合に債権者といえるかまで・価格が確定して全部が支払われたあとは判旨からは言えない→「確定するまでは」と判旨のとおりに止める
注意点が二つあります。見られるのは、株主総会議事録です。株主名簿の閲覧とは別のもので、根拠は125条ではなく、318条4項です。もう一つ、判旨が判断したのは、仮払いを受けた場合に債権者といえるか、までです。価格が確定して、全部が支払われたあとのことは、判旨からは言えません。ここは、確定するまでは、と判旨のとおりに止めてください。
株式を割る——分割と無償割当て
図:分割と無償割当ての手続
- 分割の決議〔183条2項〕=取締役会設置会社は取締役会・それ以外は株主総会の普通決議
- 基準日の名簿上の株主が効力発生日に取得〔184条1項〕・条文の割合は「増える分」〔1株を3株なら2〕
- 基準日の2週間前までに公告〔124条3項〕
- 株主の地位を失う人はいない→軽い
次は、小さくするほうです。分割の決議は、183条2項で、分割の割合、基準日、効力発生日などを、取締役会設置会社なら取締役会の決議で、そうでない会社なら株主総会の普通決議で定めます。特別決議は要りません。併合と、同じ株数が動くのに、どうして軽いんですか。株主の地位を失う人が、誰もいないからです。1株を1.5株に割ると、端数が出る人はいますが、2株の人が3株になり、1株の人は1株のままです。持ち株の比率は少しだけ動きうるものの、地位は誰も失いません。影響が相対的に小さいので、取締役会で足ります。効力は184条1項です。基準日に名簿に載っている株主が、効力発生日に、基準日の株式数に割合を掛けた数の株式を取得します。注意してください。ここでいう割合は、増える分の割合です。1株を3株にするなら、割合は2です。基準日は、124条3項で、基準日の2週間前までに公告します。定款に定めがあれば公告は要りません。名義書換えの機会を与える趣旨で、基準日は前に見ました。失念株と株式分割の判例も、前に見ました。名義書換えを忘れた買主がいる間に、名簿上の売主が、分割で得た株式を売ったなら、買主に、売却代金に相当する額を返す義務がある、という結論でした。発行可能株式総数も確認します。分割で発行済みの株式は増えますが、発行可能株式総数は、当然には増えません。ただし184条2項により、分割の割合の限度で、株主総会の決議によらずに、つまり特別決議なしに、定款を変えて増やせます。現に2以上の種類の株式を発行している会社は、除かれます。
条文会社法184条2項
会社法第184条第2項 株式会社(現に二以上の種類の株式を発行しているものを除く。)は、第四百六十六条の規定にかかわらず、株主総会の決議によらないで、前条第二項第二号の日における発行可能株式総数をその日の前日の発行可能株式総数に同項第一号の割合を乗じて得た数の範囲内で増加する定款の変更をすることができる。
例えば、発行可能株式総数が40万株、発行済みが10万株の会社が、1株を3株に分割します。割合は2です。40万株に2を掛けた80万株を足して、120万株まで増やせます。発行可能株式総数は、新株の発行で持ち株比率が下がる限度を決めています。分割に合わせて比例して増やすなら、限度は変わりません。40万株のうち10万株は4分の1ですが、120万株のうち30万株でも、4分の1です。株主の利害が、変わらないからです。分割の差止めは、明文がありません。併合には差止めがありますが、分割にはないのです。裁判例は、分割をしても、既存の株主は、持ち株の比率が下がるなどの不利益を受けないとして、募集株式の発行の差止めの規定を、似た場面として借りて当てはめること、つまり類推適用を否定しました。もっとも、必要な機関の決議を欠く分割には、類推適用を認めるべきだという見解があります。分割をした後に効力を争うときは、新株発行の無効の訴えを似た場面として借りる、と説明されます。短答の線は、裁判例の否定です。
図:分割と株式無償割当ての違い
- 無償割当て=株主に払込みをさせずに自社株を割り当てる・保有数に応じて〔186条2項〕・1株につき1株を渡すなら1株を2株にする分割と経済的に同じ
- 違い1=別の種類の株式を割り当てられる〔186条1項1号・分割は同じ種類のまま数が増える〕
- 違い2=自己株式には割り当てない〔分割では自己株式も分割される〕
- 決定機関=株主総会〔取締役会設置会社は取締役会〕・定款に別段の定めがあれば別〔186条3項〕
- 効力発生日に株主になる〔187条〕
次に、株式無償割当てです。株主に、新たに払込みをさせないで、自社の株式を割り当てます。保有数に応じて割り当てます。1株につき1株を渡すなら、1株を2株にする分割と経済的に同じです。分割との違いは二つで、根っこは同じです。分割は、今ある株式そのものを割ります。無償割当ては、会社が株主に、新しく株式を渡します。だから一つ目、渡す株式を選べるので、別の種類の株式を割り当てられます。分割は、同じ株式を割るだけなので、同じ種類のまま数が増えます。二つ目、自己株式には割り当てません。会社は、自分の株式について配当を受けないのと同じで、渡される側に立たないからです。割当ては、会社以外の株主の持ち株数に応じて行います。分割は、株式そのものを割りますから、会社が持つ自己株式も分割されます。決定機関は、186条3項で、株主総会、取締役会設置会社なら取締役会です。定款で別の定めをすることもできます。効力発生日に、株主は、割り当てられた株式の株主になります。会社は、遅滞なく通知します。
図:4つの道具の比較表
- 併合=株主総会の特別決議・株主の地位を失う人が出る・理由説明・差止め・買取請求・事前事後開示
- 分割=取締役会〔非設置会社は総会の普通決議〕・失う人は出ない・自己株式も分割・種類は変わらない
- 無償割当て=総会〔取締役会設置会社は取締役会・定款で別段可〕・失う人は出ない・自己株式は対象外・別の種類を割り当てられる
- 単元株=定款変更〔総会の特別決議〕・地位は失わず議決権だけ外れる
4つの道具を並べます。併合は、特別決議が要り、株主の地位を失う人が出るので、理由の説明、差止め、買取請求、事前と事後の開示で守ります。分割は、取締役会で足り、誰も地位を失いません。無償割当ても、地位を失う人は出ませんが、自己株式は対象外で、別の種類も割り当てられます。単元株は、定款変更で、地位は失わず、議決権だけが外れます。これは最後に見ます。
端数はお金に替えて配る
図:端数の処理の例
- 20株を1株に併合
- B 35株→1株+端数0.75・C 12株→端数0.6・E 8株→端数0.4・F 5株→端数0.25
- 端数の合計=2株を会社が競売して代金36万円〔1株18万円〕を端数の割合で配る→B13.5万円・C10.8万円・E7.2万円・F4.5万円
- Bは1株残り株主のまま・C・E・Fは株主でなくなる
併合、分割、無償割当てで、交付すべき株式に、1株に満たない端数が出ることがあります。端数の株式そのものは持てません。だから、お金に替えます。原則の手順は二つです。まず、端数の合計数に相当する数の株式を、競売します。合計に1に満たない端数が出れば、切り捨てます。そして、代金を、端数に応じて株主に交付します。具体的に、20株を1株に併合する会社で、Bさんは35株、Cさんは12株、Eさんは8株、Fさんは5株を持っています。Bさんは1株と、端数0.75です。Cさんは0.6、Eさんは0.4、Fさんは0.25です。端数の合計は、0.75と0.6と0.4と0.25で、ちょうど2株です。会社は、この2株を売却し、代金が36万円なら、端数の割合で配ります。Bさんは13.5万円、Cさんは10.8万円、Eさんは7.2万円、Fさんは4.5万円です。
C、E、Fの3人は、株主でなくなります。売り方には例外があります。競売に代えて、市場価格のある株式は、市場価格として法務省令で定める方法による額で売却できます。株式に市場価格がないときは、裁判所の許可を受ければ、競売でなく当事者どうしの合意で売ってもよいことになっています。許可の申立ては、取締役が2人以上いれば、全員の同意で行います。さらに、会社が自分で買い取ることもできます。取締役会設置会社なら、取締役会の決議が要ります。分割と併合は235条、無償割当てや合併などは234条です。ただ、235条2項が、売却の方法や会社の買取りを、234条の規定の準用で定めていますから、売り方は同じです。併合では、端数の処理の方法と交付見込額の相当性は、先ほどの事前開示の事項でした。
株主を追い出さずに単位を大きくする——単元株
図:単元株の仕組み
- 定款で一定数を1単元・1単元に1個の議決権〔188条・308条1項ただし書〕
- 単元未満株主は議決権なし→招集通知を出さなくてよい・事務費の節約
- 併合のように株主の地位は奪わず議決権だけ外す
- 上限=1000と発行済株式総数の200分の1のうち小さい数〔会社則34条〕
- 例=発行済2万株は100株が上限・100万株は1000株が上限
最後は、単元株です。投資単位は上げたい。ただ、株主を減らさずに済ませたい。そこで、地位は残し、議決権だけを外す、という道具があります。188条により、定款で一定の数の株式を一単元と定めると、株主は、一単元につき1個の議決権を持ちます。単元未満の株主は、議決権を持ちません。だから会社は、その人たちに総会の招集通知を送る費用を省けます。上場会社では広く使われていて、全国の取引所の売買単位は、100株に統一されています。単元株式数の上限は、前にも少し触れましたが、法務省令の会社法施行規則34条で、1000と、発行済株式の総数の200分の1に当たる数、の小さいほうです。単元を大きくしすぎると、多くの株主の議決権が一度に外れてしまうので、上限で止めています。種類株式発行会社は、種類ごとに定めます。設例です。発行済みが2万株の会社なら、200分の1は100株で、1000より小さいので、100株が上限です。200株にはできません。発行済みが100万株なら、200分の1は5000株ですが、1000のほうが小さいので、1000株が上限です。手続は、定款変更ですから、総会の特別決議です。取締役は、総会で、単元株式数を定める理由を説明します。例外は、株式の分割と同時に導入や増加をして、各株主の議決権の数が減らないときで、総会の決議は要りません。例えば、1株を100株に分割すると同時に、単元株式数を100株にすれば、1株を持っていた人は100株で1単元、議決権は1個のままです。また、単元株式数の減少や廃止は、取締役の決定で足ります。株主に不利にならないからです。
図:単元未満株主の権利
- 189条1項=議決権なし
- 2項=それ以外の権利は定款で制限できる・ただし定款でも制限できない権利=全部取得条項付種類株式の取得対価を受ける権利・取得条項付株式の取得と引換えに金銭等を受ける権利・株式無償割当てを受ける権利・単元未満株式の買取請求権〔192条〕・残余財産の分配を受ける権利・法務省令で定める権利〔剰余金の配当を受ける権利など〕
- 株券発行会社は単元未満株式の株券を発行しない旨を定款で定められる〔3項〕
- 例=単元株50株・Bが120株→2単元〔議決権2〕+単元未満20株〔議決権なし〕
単元未満の株主の権利です。189条1項で、議決権はありません。単元株式数が50株の会社で、Bさんが120株を持つなら、2単元で議決権2個、残りの20株は単元未満で、議決権はありません。議決権以外の権利は、単元未満の株主にも、原則としてあります。ただし定款で制限できます。しかし、189条2項各号の権利は、定款でも制限できません。全部取得条項付種類株式の取得対価を受ける権利、取得条項付株式の取得と引換えに金銭などを受ける権利、株式無償割当てを受ける権利、単元未満株式の買取請求権、残余財産の分配を受ける権利、そして法務省令で定める、剰余金の配当を受ける権利などです。要するに、お金に関わる中核の権利は、外せません。議決権を外しても、持ち分の経済的な価値は守られているわけです。株券を発行する会社は、単元未満株式に株券を発行しない旨を、定款で定められます。流通を止められます。出口もあります。192条で、単元未満の株主は、いつでも、会社に買取りを請求できます。撤回するには会社の承諾が要ります。価格は193条で決まり、市場価格のある株式なら、法務省令の方法による額、ない株式なら協議で、調わなければ請求の日から20日以内に裁判所に申し立てます。申立てがなく協議も調わないときは、1株当たりの純資産額で決まります。議決権などが外れていても、その分を値引きして買い取ることはしません。買取りの効力が生じるのは、代金を支払った時です。併合の買取りが、効力発生日に効力を生じたのとは違います。
買増請求もあります。194条で、定款に定めがあれば、単元未満の株主は、自分の株式と合わせて単元株式数になる数の株式を、会社に売り渡すよう請求できます。会社が自己株式を持たなければ、請求は成り立ちません。
地位を失う人が出るかで、手続の重さが決まる
図:この回のまとめ
- 1株の大きさを変える理由→分割・無償割当て=誰も地位を失わない=取締役会など軽い
- 併合=端数の人が株主でなくなる=特別決議・理由説明・差止め・買取請求・事前事後開示
- 買取請求者は価格が決まるまで債権者として総会議事録を閲覧できる〔318条4項〕
- 端数は競売してお金に替えて配る〔234条・235条〕
- 単元株=議決権だけ外す・お金の権利は外せない・出口は192条の買取請求
まとめです。一本の筋は、手続の重さは、株主の地位を失う人が出るか、で決まる、でした。1株の値段が高すぎれば買い手が減り、低すぎれば事務費がかさむので、会社は、発行済株式の数で、1株の大きさを調整します。時価総額は変わらず、切り方が変わるだけです。小さくする分割と無償割当ては、誰も地位を失わないので、取締役会などの軽い手続です。大きくする併合は、端数の人が株主でなくなるので、特別決議、理由の説明、差止め、買取請求、事前と事後の開示で守ります。買取請求をした人は、効力発生日に株主でなくなりますが、価格が決まるまでは債権者です。仮払いを受けても、協議が調うか裁判が確定するまでは、株主総会議事録を見られます。端数は、競売してお金に替えて配ります。単元株は、地位を残して議決権だけを外し、お金の権利は外せません。出口が、192条の買取請求です。
10株を1株にまとめる併合なら、0.7株の端数で、株主でなくなります。端数はお金に替えて渡され、不満なら、反対株主として、公正な価格での買取りを請求できます。単元株式数を100株にする方法なら、7株のままで、議決権はなくなりますが、配当を受ける権利は残ります。短答では、併合の特別決議と4倍規制、通知の20日、適用除外、分割の決定機関と184条2項、無償割当てと自己株式、端数の売却方法、単元株の上限と外せない権利が問われます。論文では、併合の差止め、分割の差止めの可否、買取請求後の閲覧が、論点になりうるところです。
参照条文
- 会社法180条
- 会社法182条の4第1項
- 会社法182条の3
- 会社法182条の2第1項
- 会社法184条2項