株式の評価とDCF法
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第2章 株式 ⑰/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
1株5万円か、1万円か
図:導入の場面
- A=株主Aさん〔味噌蔵の会社の1,000株・全体の1割〕
- B=味噌蔵の会社〔発行済株式1万株・全株式に譲渡制限・上場していない〕
- A→B 手放したい
- B→A 買い取る
- Aの言い値=1株5万円〔総額5,000万円〕
- Bの言い値=1株1万円〔総額1,000万円〕
- 市場の値段は無い
地方の老舗、味噌蔵の会社の話です。株式は全部で1万株。すべてに譲渡制限が付いた、上場していない会社です。株主のAさんは、そのうち1割、1,000株を持っています。手放したくなりました。会社に、譲渡の承認を求めました。会社は承認せず、自分で買い取ると言います。ところが、値段が合いません。Aさんは1株5万円。会社は1株1万円。総額にすると、5,000万円と1,000万円で、4,000万円の開きです。どちらも、それなりの理屈がある数字です。難しいのは、上場会社と違って、今日の値段が取引所に出ていないことです。比べる物差しがありません。本題の前に、思い出してください。反対した株主が買取請求をして、会社と値段で揉めたとき、最終的に値段を決めるのは誰だったでしょうか?
裁判所です。前の回までは、揉めたら裁判所が決める、というところで止めていました。今日は、その先です。裁判所は、何を根拠にして、1つの値段にするのか。先に答えを言います。理屈の上でいちばん筋が通るのは、その会社が将来稼ぐお金を、今の値打ちに割り引いて決める方法です。DCF法といいます。ただし、裁判所は、事案に応じて、ほかの方法を選んでもよいとされています。そして、5万円と1万円の差は、実は、ほぼ割引率の置き方だけで説明できます。これは、あとで計算して確かめます。今日の地図です。まず、裁判所が値段を決める場面。次に、DCF法。それから、ほかの評価方法。最後に、裁判例と、裁判所の選び方です。
裁判所が値段を決める場面
図:値段を裁判所が決める3つの場面
- 中央=裁判所が値段を決める〔非訟事件・決定〕
- ①反対株主の株式買取請求〔A=反対した株主/B=会社/117条2項・協議が調わないとき株主か会社が申立て・組織再編は786条2項など〕
- ②譲渡制限株式の売買価格〔A=承認を求めた株主/B=会社/C=指定買取人/144条2項・指定買取人は7項で準用〕
- ③キャッシュ・アウト〔A=締め出される少数株主/B=取得する側/172条1項など・全部取得条項は最初から裁判所へ〕/市場価格がある上場株式は参照できる・非上場は無い
最初に、裁判所が株式の値段を決めなければならない場面を、3つ見ます。1つ目は、前に見た、反対株主の株式買取請求です。定款変更や合併などに反対した株主が、会社に公正な価格で買い取らせる権利でした。株主と会社の協議が調わないとき、どちらからでも、裁判所に価格の決定を申し立てられます。
条文会社法117条2項
会社法第117条第2項 株式の価格の決定について、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主又は株式会社は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。
協議が調わなければ、株主か会社が、裁判所に価格の決定を申し立てられる。値段は、最終的に裁判所が決めます。この条文は定款変更のときの定めで、合併などの組織再編のときは、786条などに同じ仕組みがあります。2つ目は、譲渡制限株式です。株式を売りたい株主が会社に承認を求め、会社が認めないときは、会社か、会社が指名した買取人が自分で買い取る、という道が用意されています。冒頭のAさんは、この2つ目の場面です。この売買価格でも、揉めれば裁判所が決めます。手続の流れは、別の回で扱います。ここでは、値段の決め方だけを見ます。条文は144条です。
条文会社法144条2項・3項・5項
会社法第144条第2項・第3項・第5項 2 株式会社又は譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知があった日から二十日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。 3 裁判所は、前項の決定をするには、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。 5 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第一項の協議が調った場合を除く。)は、一株当たり純資産額に第百四十条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をもって当該対象株式の売買価格とする。
2項は、会社か株式を売りたい株主のどちらからでも、会社が、自分で買い取ると株主に通知した日から、20日以内に、売買価格の決定を申し立てられる、という定めです。注目してほしいのは3項です。裁判所は、承認を求められた時の会社の資産状態、その他一切の事情を考慮しなければならない。方法は指定されていません。事情を総合して決めなさい、と言っているだけです。5項は、20日以内に誰も申し立てなかった場合です。協議が調った場合は除きます。このときは、1株あたりの純資産額に株数を掛けた額が、売買価格になります。今日の味噌蔵で言えば、1株あたりの純資産額は、純資産を1万株で割った額です。会社の稼ぐ力は見ません。だから、これでは納得できない側が、裁判所に申し立てるわけです。3つ目は、キャッシュ・アウトです。少数株主を締め出して、株式を会社や支配株主が取得する取引です。ここでも、価格に納得できない株主は、裁判所に価格の決定を申し立てられます。前に見た全部取得条項も、その手段の1つでした。全部取得では、会社への請求を経ずに、最初から裁判所に価格の決定を申し立てるのでした。今日は、ここまでにとどめます。3つの場面に共通するのは、値段を決めるのが裁判所だという点です。しかも、判決ではなく決定です。こうした事件を、非訟事件といいます。請求を認めるか認めないかを判断するのではなく、裁判所自身が、事情を見て、値段を決めます。そのぶん、裁判所の裁量が大きい手続です。
上場株式なら、市場価格を参照できます。ただ、市場の値段がそのまま本当の値打ちを映しているとは限りません。たとえば、取引がほとんど無く、わずかな売買で値段が動いてしまう株式です。映していない事情があれば、別に考えることになります。そして、今日の主役は、そもそも市場価格が無い、非上場株式です。では、何を根拠に値段を付けるのか。ここから、DCF法に入ります。
DCF法 将来のお金を今の値段に直す
図:DCF法の4ステップ
- 出発点=株式は会社が将来稼ぐお金の分け前だから値段を持つ
- ①会社が自由に使えるお金〔フリー・キャッシュ・フロー=現金収入から事業に必要な現金支出を差し引いた額〕を予測→②割引率で今の値打ちに割り引く→合計=企業価値〔会社全体の値打ち〕→③負債を差し引く→株主価値〔株主の取り分〕→④発行済株式数で割る→1株の値段
そもそも、株式はなぜ値段を持つんでしょうか。持っていれば、会社が事業で稼いだお金の分け前を、配当などで受け取れるからです。株式の値打ちは、突き詰めれば、会社が将来稼ぐお金の分け前です。DCF法は、この考えをそのまま計算にしたものです。手順は4つです。1つ目、会社が将来稼ぐお金を予測します。ここで使うのが、フリー・キャッシュ・フローです。会社に入る現金収入から、賃金や設備投資など、事業を続けるのに必要な現金支出を差し引いた額です。今日は、会社が自由に使えるお金、と言い換えます。2つ目、その将来のお金を、割引率で、今の値打ちに割り引きます。全部足した合計が、企業価値、つまり、会社全体の値打ちです。3つ目、そこから負債を差し引きます。残りが、株主の取り分で、株主価値といいます。4つ目、発行済株式数で割ります。これが1株の値段です。
負債を引くのは、どうしてですか。会社全体の値打ちのうち、借入れの返済に回る分は、株主のものではないからです。債権者に先に払って、残りが株主のものになります。
図:割り引く2つの理由
- ①時間=今の1円と1年後の1円は同じではない・年10%で運用できるなら1年後の110万円は今の100万円〔110÷1.1=100〕・2年後の121万円も今の100万円〔121÷1.21=100〕
- ②リスク=将来のお金は予想にすぎず幅がある・確実な定期預金100万円と豊作200万円か不作0円が半々の梅畑〔期待値は同じ100万円〕・同じ期待値なら確実な方を選ぶ→梅畑の値打ちは100万円より低い
将来のお金を小さく見る理由は、2つあります。1つ目は、時間です。今の1円と、1年後の1円は、同じではありません。今のお金は、すぐ使えますし、運用もできます。年10%で運用できるなら、今の100万円は1年後に110万円になります。逆に言えば、1年後の110万円は今の100万円と同じ値打ちです。110万円を1.1で割ると100万円です。2年後の121万円も、1.1を2回掛けた1.21で割って、今の100万円です。2つ目は、リスクです。将来のお金は予想にすぎません。実際には幅があります。比べてみます。確実に100万円が入る定期預金と、梅畑の収穫です。梅は、豊作なら200万円、不作なら0円。確率は半々とします。平均すると、どちらも100万円です。
平均が同じでも、多くの人は、確実な定期預金のほうを選びます。梅畑の収穫の値打ちは、100万円より低く見られているのです。同じ金額でも、不確かなお金ほど、小さく見る。この分も、割引に含めます。まとめると、割引率が高いほど、将来のお金を厳しく見ていることになります。
図:味噌蔵の計算
- 会社が自由に使えるお金=毎年6,000万円が続くと予測・最初のお金は1年後・割引率12%
- 1年目6,000万÷1.12+2年目6,000万÷1.12²+…の合計=6,000万÷0.12=企業価値5億円
- 負債1億円を引く→株主価値4億円
- 発行済株式1万株で割る→1株4万円
- Aさんの1,000株=4,000万円
味噌蔵で、実際に計算します。会社が自由に使えるお金が、最初は1年後から毎年6,000万円ずつ続くと予測します。割引率は12%とします。1年目の6,000万円は、1.12で割ります。2年目は、1.12を2回掛けた数で割ります。3年目、4年目と、ずっと続けて足します。この果てしない足し算は、実は簡単な形になります。毎年の額を、割引率で割ればいいのです。6,000万円を0.12で割ると、5億円です。これが、企業価値です。なぜ、割引率で割るだけで合計になるんですか。1年目の6,000万円を1.12で割った額が最初の項で、そこから1年進むごとに、さらに1.12で割った大きさへ小さくなる並びを、すべて足したものだからです。高校の等比数列の和の式に当てはめると、ちょうど、6,000万円を0.12で割った額になります。毎年同じ額が続くなら、年の額を割引率で割る、です。次に、負債を引きます。この会社の負債が1億円なら、5億円から1億円を引いて、株主価値は4億円です。発行済株式は、1万株です。4億円を1万で割って、1株4万円。Aさんの1,000株は、4,000万円です。実際の算定では、数年分は具体的に予測して、その後は最後の年のお金が続くと仮定します。
割引率で値段が大きく動く
図:割引率と1株の値段
- 毎年6,000万円・負債1億円・1万株は固定
- 割引率10%→企業価値6億円・株主価値5億円・1株5万円
- 12%→5億円・4億円・4万円
- 15%→4億円・3億円・3万円
- 20%→3億円・2億円・2万円
- 30%→2億円・1億円・1万円
- 割引率が高い=将来のお金を厳しく見る→値段は低い
予測するお金も、負債も、株数も同じまま、割引率だけを動かしてみます。割引率が10%なら、企業価値は6億円、株主価値は、5億円、1株は5万円。12%なら、先ほどのとおり、4万円。15%なら、企業価値4億円、株主価値3億円で、1株3万円。20%で2万円。30%なら、企業価値は2億円、株主価値は、1億円で、1株は1万円です。ここで1問です。割引率が10%から15%に上がると、1株の値段は、上がるでしょうか、下がるでしょうか?下がります。将来のお金を厳しく見るほど、今の値打ちは小さくなって、5万円から3万円になります。冒頭に戻ります。Aさんの1株5万円は、割引率10%。会社の1株1万円は、割引率30%。予測するお金は同じでも、割引率の置き方だけで、5倍の差が出ます。
割引率は、リスクのない資産の金利に、株式に投資するリスクに応じた上乗せを足して決めます。たとえば、国債の利回りが1%で、上乗せが9%なら、10%です。どのくらい上乗せするかが、争いの的になりやすいところです。上乗せは、さっきの梅畑の話です。将来のお金の振れ幅が大きいと見るほど、上乗せは大きくなります。小さな非上場会社は、さらに大きく上乗せされることがあります。事業が1つの商品に偏りがちで、業績の振れが大きく、外から確かめられる情報も少ないからです。味噌蔵の5万円と1万円の開きも、この上乗せをどう見るかの違いです。Aさんは、老舗で売上げが安定している、と見て、上乗せを小さく置きます。会社は、地方の小さな味噌蔵で、味噌の需要が落ちれば稼ぎも落ちる、と見て、上乗せを大きく置きます。冒頭で、どちらにもそれなりの理屈がある、と言ったのは、このことです。
ほかの評価方法はDCF法の近道
図:評価方法の比較
- 同じ味噌蔵で比べる
- DCF法=将来の会社が自由に使えるお金を割り引く・1株4万円
- 配当還元法=将来の配当だけ・1株の配当1,200円÷0.12=1万円・弱み=配当を絞ると低く出る
- 収益還元法=会計上の利益・純利益3,600万円÷0.12=3億円→1株3万円・弱み=利益は現金とズレる
- 類似会社比準法=似た上場会社の倍率・純利益の10倍→3.6億円→1株3.6万円・弱み=似た会社があるか
- 純資産法=今ある財産〔資産−負債〕・簿価2億円→1株2万円・時価3億円→1株3万円・弱み=稼ぐ力を見ない
DCF法は、将来の予測と、割引率の決定が難しい方法です。そこで、何かを省いた近道が使われます。ほかの方法を、DCF法の何を省いたか、で並べます。同じ味噌蔵で計算します。1つ目は、配当還元法です。会社が自由に使えるお金のうち、株主に配当で渡る分だけを見て、割り引きます。1株の配当が毎年1,200円、割引率がDCF法と同じ12%なら、1,200円を0.12で割って、1万円です。会社の言い値と同じ水準です。弱みは、会社が配当を低く絞ると、値段も低く出る点です。内部留保として会社に残ったお金も、将来のお金を生むのに、無視されてしまいます。2つ目は、収益還元法です。現金ではなく、会計上の利益を使います。DCF法の簡略版です。会社全体の年の純利益が、3,600万円で、割引率にあたる資本還元率が12%なら、3,600万円を0.12で割って3億円。1株3万円です。この例では、負債は引きません。純利益は、借入れの利息を払ったあとの数字です。債権者の取り分はもう差し引かれていて、残りが株主の取り分なので、DCF法のように、あとで負債を引く必要がありません。強みは、会計の数字があれば計算できること。弱みは、利益が、現金とずれることです。3つ目は、類似会社比準法です。将来を予測せず、似た上場会社が、利益の何倍で取引されているかを当てはめます。似た上場会社が純利益の10倍で取引されているなら3,600万円の10倍で、3億6,000万円。1株3万6,000円です。弱みは、本当に似た会社があるのか、という点です。
4つ目は、純資産法です。今ある財産を見ます。資産から負債を引いた額です。帳簿上の資産が3億円、負債が1億円なら純資産は2億円で、1株2万円。これが簿価です。蔵の土地に1億円の含み益があれば、時価の資産は4億円、純資産は3億円で、1株3万円。これが時価です。ここでは税金の分は考えません。会社が解散するなら、残る財産の目安になります。ただ、会社の稼ぐ力は見ません。5つ目は、市場株価法です。市場価格がある場合の参照で、先ほど触れたとおりです。ここで1問です。配当還元法は、DCF法のどんなお金を見ていないでしょうか?
配当に回らずに、会社に残った分です。どの方法にも、DCF法の何かが欠けています。同じ会社でも、1万円から4万円まで、方法でばらつきます。だから、どの方法を使うか、どう組み合わせるかが、争いになります。
裁判例 方法を組み合わせる
図:併用の事案
- A=申立人の株主〔発行済株式の約18.9%・他の親族グループにも同程度の持株がありA単独で支配できる株主はいない〕
- B=不動産賃貸が主な事業の非公開会社〔全株式に譲渡制限〕
- C=筆頭株主〔指定買取人〕
- A→B 全株式の譲渡承認を請求
- B 不承認・半分を会社が買取り・残り半分をCが買取り
- A 144条2項(Cの分は7項で準用)で売買価格の決定を申立て
- 裁判所の結論=鑑定に依拠・収益還元法3,000円に80%と配当還元法300円に20%の重み→3,000×0.8+300×0.2=1株2,460円
では、裁判所は、実際にどうしているか。大阪地方裁判所の決定を見ます。譲渡制限株式の売買価格が争われた事件です。会社は、不動産賃貸を主な事業とする、非公開会社です。申立人は、発行済株式の約18.9%を持つ株主です。他の親族のグループにも同じ程度の持株があり、単独で会社を支配できる株主はいませんでした。申立人が、持株の全部の譲渡の承認を請求しましたが、会社は認めませんでした。半分は会社が、残り半分は筆頭株主が指定買取人として買い取ることになり、申立人が売買価格の決定を申し立てました。裁判所は、鑑定に依拠して、収益還元法の評価額に80%、配当還元法の評価額に20%の重みを付けました。収益還元法では、市場で売りにくい分を差し引いた後で1株3,000円、実際の配当額をもとにした配当還元法では1株300円です。3,000円に0.8、300円に0.2を掛けて足して、1株2,460円と決めました。
理由は2つの側面から説明されました。少数株主は、配当でしか会社に影響を及ぼせません。だから、配当に着目した方法を、ある程度考慮するのは不合理でない。他方、この申立人は、他の親族のグループと組めば、会社の経営に影響を与えうる立場にあります。だから、収益還元法に80%の重みを置くのも不合理でない。経営に関われる株主にとっては、配当に回らず会社に残った利益も、使い道を左右できる自分の値打ちです。配当だけでは測れないので、会社全体の利益を見る方法が合う、ということです。株主の立場で、重みが変わるのです。味噌蔵で、併用の型を体験します。収益還元法が1株3万円、配当還元法が1株1万円。重みを80%と20%にすると、3万円に0.8を掛けた、2万4,000円と、1万円に0.2を掛けた2,000円を足して、2万6,000円です。裁判例の一般的な傾向も押さえます。会社が続く見込みが高いなら、将来のお金を見る方法、とくに会社全体の稼ぎを見るDCF法や収益還元法の重みが大きくなります。少数株主の株式は、配当をもとにした方法が重視されやすい。支配株主の株式は、収益還元法やDCF法が重視されやすい。会社の稼ぎ全体の使い道を決められるからです。学説の評価は分かれます。理論的にはDCF法が最も合理的で、方法を混ぜることには批判的な立場が、有力です。他方で、将来の予測と割引率の決定は難しく、専門家の鑑定に高額の費用をかけられない中小の会社の事件では、DCF法以外の方法を使うことも、一概には否定できないと思われます。
最高裁の立場 選ぶのは裁判所の裁量
図:最高裁の立場
- 事案=吸収合併に反対した非上場会社の株主が株式買取請求・価格決定
- 収益還元法で算定
- 原決定は非流動性ディスカウント〔市場で売りにくいことを理由に値段を下げること〕25%を行い1株80円
- 最高裁は破棄しディスカウントなしの1株106円
- 判旨=①どの評価手法を用いるかは裁判所の合理的な裁量
- ②選んだ手法の内容・性格からして考慮することが相当でない要素を考慮して価格を決定することは許されない
最高裁の立場を確認します。事案は、吸収合併に反対した、非上場会社の株主が、株式買取請求をした事件です。価格は収益還元法で算定されました。ところが、原決定、つまり最高裁の1つ前の裁判所の決定は、そこから非流動性ディスカウントを25%行いました。非流動性ディスカウントとは、市場で売りにくいことを理由に、値段を下げることです。その結果、1株80円になりました。最高裁は、これを誤りとして、ディスカウントなしの1株106円と決めました。最高裁の判断は、2つに分かれます。どの方法を使うかは裁判所の裁量だ、という部分と、その裁量の限界です。
判例最高裁判所第一小法廷決定・平成27年3月26日 民集69巻2号365頁
評価手法の選択は裁判所の合理的な裁量 「非上場会社の株式の価格の算定については,様々な評価手法が存在するが,どのような場合にどの評価手法を用いるかについては,裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。」
1つ目の判旨です。評価手法はいろいろあるが、どれを使うかは、裁判所の合理的な裁量に委ねられる。つまり、特定の方法を強制しません。ほかの方法にはDCF法の何かが欠けていて、DCF法には予測と割引率の難しさがあります。どれが合うかは、会社や株主の事情で変わるからです。さきほどの併用も、この考え方の上にあります。
判例最高裁判所第一小法廷決定・平成27年3月26日 民集69巻2号365頁
裁量の限界と結論 「しかしながら,一定の評価手法を合理的であるとして,当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。」 …… 「したがって,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。」
ただし、裁量は無制限ではありません。方法を選ぶのは自由でも、選んだ方法の性格に合わない要素を、持ち込んではいけない。収益還元法は、市場での取引価格との比較という要素を含まない方法です。そこに、市場で売りにくいから、という理由の減額を重ねてはいけない、ということです。結論の範囲を、正確に押さえてください。言えるのは、買取請求の場面で、裁判所が収益還元法を使って価格を決めるなら、非流動性ディスカウントはできない、までです。非流動性ディスカウントは常に許されない、とは言っていません。
図:同じ売りにくさでも場面で扱いが分かれる
- 場面=反対株主の買取請求〔最高裁平成27年の決定〕
- 譲渡制限株式の売買価格〔その後の最高裁決定〕
- 趣旨=買取請求は組織再編に反対して退出する株主に企業価値を適切に分配する
- 144条の手続は承認されない場合に譲渡に代わる投下資本の回収を保障する
- 売りにくさを理由とする減額=収益還元法で決めるときはできない
- DCF法の評価額から減額することができる
譲渡制限株式の売買価格では、非流動性ディスカウントの扱いが、買取請求と違います。その後の最高裁は、この売買価格の場面では、DCF法で算定した評価額から、市場性が無いことを理由とする減額をすることができる、としました。理由に挙げたのは、144条の手続の趣旨です。会社が譲渡を承認しない場合に、譲渡に代わる投下資本の回収の手段を保障するために設けられている、というものです。DCF法も、市場での値段と比べない方法ですよね。収益還元法なら減額できなくて、DCF法ならできる、ということですか。そこが分かれ目です。2つの決定は、方法も場面も違います。ただ、決め手として最高裁が挙げたのは、方法ではなく、場面の趣旨です。144条の手続は、第三者に売る代わりの道です。第三者に売れていたなら、買い手は、売りにくい株式だからと、安い値を付けたはずです。だから、売りにくさが値段に入るのは自然で、DCF法の評価額から減らしてよい。ただし、評価額を出す段階で売りにくさを既に十分に織り込んでいれば、重ねて減らすことはできない、とも言っています。これに対して、買取請求は、組織再編に反対して出ていく株主に、企業価値を適切に分配する趣旨です。株主が受け取るのは、会社全体の値打ちのうちの自分の取り分で、誰かに売ったらいくらか、ではありません。だから、売りにくさを理由に減らすのは、この趣旨に合いません。1つ目の最高裁の決定が、収益還元法には市場での取引価格と比べる要素が無い、と言ったのも、取り分を測る方法に、売る場面の事情を混ぜてはいけない、という意味に読めます。同じ売りにくさでも、場面の趣旨が違うから、結論が分かれます。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 軸=株式の値打ちは会社が将来稼ぐお金の分け前→割り引く〔DCF法〕
- 手順=予測→割引→企業価値→負債控除→株主価値→株式数で割る
- 割引の理由=時間とリスク・割引率が高いほど値段は低い
- ほかの方法はDCF法の近道〔配当還元法=配当/収益還元法=会計上の利益/類似会社比準法=似た上場会社の倍率/純資産法=資産−負債〕
- 最高裁=評価手法の選択は合理的な裁量・選んだ方法に合わない要素は不可・場面で扱いが分かれる
まとめです。持ち帰ってほしいのは3点です。1つ目、株式の値打ちは、会社が将来稼ぐお金の分け前です。だから、将来のお金を割り引いて今の値段にする。これがDCF法です。2つ目、ほかの方法は、DCF法の何を省いたかで、強みと弱みが決まる、近道です。3つ目、最高裁は、方法を強制せず、裁判所の合理的な裁量としました。ただし、場面によって結論が分かれます。短答では、DCF法の手順を押さえてください。将来の会社が自由に使えるお金を割り引き、負債を引いて、発行済株式数で割る。各方法の定義の区別は、配当還元法が配当、収益還元法が会計上の利益、類似会社比準法が似た上場会社の倍率、純資産法が資産から負債を引いた額で、簿価と時価があります。最高裁は、評価手法の選択を、裁判所の合理的な裁量としました。買取請求で収益還元法を使うときは、非流動性ディスカウントはできません。論文では、価格決定は非訟事件で、裁判所が決める、というところから書きます。そのうえで、どの評価方法を、なぜ選ぶのかを、事案の事情から理由づけます。見る事情は4つ。上場かどうか。会社が続く見込みか、清算に近いか。株主が支配株主か少数株主か、配当の実績はどうか。そして、場面です。裁量は無制限ではなく、選んだ方法の性格に合わない要素は持ち込めない、という限界も書きます。ここは論文で論点になりうる部分です。
Aさんと会社の言い値の開きは、割引率の違いで説明できます。Aさんの5万円は割引率10%、会社の1万円は30%の見方です。裁判所は、会社が続く見込みか、Aさんがどんな株主かといった事情を見て、方法と組み合わせを選び、最終的な値段を自分で決めます。5万円でも1万円でもなく、その間のどこかに、理由を付けて決まるのです。
参照条文
- 会社法117条2項
- 会社法144条2項・3項・5項