株式の譲渡制限と承認手続
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第2章 株式 ⑱/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
売りたい人と入れたくない人
図:導入の場面
- A=引っ越す株主〔100株〕
- B・C=残りの株主〔各100株〕
- D=Aが売りたい見知らぬ買い手
- E=焙煎コーヒー店の会社〔全株式に譲渡制限・発行済300株〕
- A→D 売りたい
- B・C「知らない人は困る」→E
- Eの承認が要る
町の焙煎コーヒー店の話です。仲間の3人で作った会社で、株式は全部で300株。全員が100株ずつ持っています。株主のAさんが、遠くへ引っ越すことになりました。店の株を手放したいと思います。買い手も見つかりました。ところが、その人は、残りの2人が会ったこともない相手です。残りの2人は言います。知らない人と一緒に店はやれない。一方のAさんには、この株を売るしか、出資したお金を取り戻す道がありません。先に答えを言います。定款に定めておけば、会社は、その人を株主としては認めない、と言えます。ただし、Aさんが、認めないなら代わりに買い取ってほしい、と併せて求めておけば、会社か、会社が指名した人が、Aさんの株を買い取らなければなりません。Aさんは、必ず抜けられるのです。今日は、この折り合いの付け方を、一本の筋で見ます。株主は、最後には必ず誰かに売って抜けられる。この筋で、手続の期限も、決議も、供託も、なぜそうなっているのかが読めるようになります。地図です。まず、株式はなぜ自由に売れるのか。次に、定款で承認を求めるとはどういうことか。最後に、承認されなかったときの買取りの手続です。
株式はなぜ自由に売れるのか
図:払戻しは無い、だから譲渡
- 払戻しなし=会社の財産の土台を守る
- 譲渡自由=株主の出口を保障する
- この2つは1セット・片方だけ覚えない
- 出口=株式を売る〔127条〕
- 払戻しに近い例外は取得請求権付株式や買取請求など限られた場面だけ
本題の前に、思い出してください。この章の最初の回で、株主は出資を会社に返してもらえるのか、そして会社から出ていく道は何か、を見ました。その道は、どんなものだったでしょうか?会社に出資を返してもらうことはできないので、株式を売るか、反対株主として買取請求をするか、でした。今日は、そのうち、売るほうの道を掘ります。
条文会社法127条
会社法第127条 株主は、その有する株式を譲渡することができる。
株式譲渡自由の原則です。短い条文ですが、これは単独で覚える条文ではありません。株主は、会社が続いている間は、出資の払戻しを求められません。例外は、取得請求権付株式や、買取請求のような、限られた場面だけです。そこで、譲渡が自由になります。たとえば、出資した100万円は、会社から返ってきません。しかし、株式を誰かに売れば、お金に換えられます。払戻しをしないのは、会社の財産の土台を守るためです。出資が自由に引き出せたら、会社の財産が減って、会社に貸した人たちが困ります。その代わり、株主には出口を保障する。払戻しの禁止と譲渡の自由は、セットで1つの仕組みです。払戻しは無いのに譲渡も縛られるなら、株主は逃げ場を失います。片方だけを覚えないでください。もう1つ、効用があります。自由に売れるなら、株価は会社の将来の稼ぎを映します。経営者が会社の価値を高めれば、いまの株主の得にもなります。売れない株なら、自分が亡くなったあとに初めて実る事業に、誰も力を入れません。売れることが、株主と会社の利益をそろえるのです。
定款で承認を要求する
図:禁止ではなく承認
- Aは売りたい・B・Cは知らない人は困る・条文の形=売るのを禁止するのではなく「譲渡による取得に会社の承認を要する」・結果=入る人は会社が選べる
- 出る道は別に保障される
家族や仲間で営む会社では、株主どうしの信頼が大事です。好ましくない人が株主になるのを防ぎたい。この事情は、小さな会社ほど強いでしょう。非上場の会社では、広く使われています。注意してほしいのは、その形です。売ることを禁止するのではありません。株式を譲渡によって取得することに、会社の承認を要する、という形です。誰に売ってもよいが、買い手を会社が承認するかどうかを決める、という仕組みです。
条文会社法2条17号
会社法第2条第17号 十七 譲渡制限株式 株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいう。
この定めのある株式が、譲渡制限株式です。定款にどう書くか、後から付けるときの決議はどうか、は前に見ました。ここでは繰り返しません。
条文会社法139条
会社法第139条 1 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。 2 株式会社は、前項の決定をしたときは、譲渡等承認請求をした者(以下この款において「譲渡等承認請求者」という。)に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。
承認するかどうかを決めるのは、誰なんですか。1項です。原則は株主総会です。取締役会を置いている会社では、取締役会です。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。たとえば、取締役会のある会社でも、定款で、承認を株主総会や代表取締役に任せることができます。2項は、決定したら請求した人に通知せよ、です。この通知が、このあとの主役になります。
図:誰が承認を決めるか
- 原則=取締役会設置会社は取締役会
- それ以外は株主総会
- 定款で別段の定め可〔例=取締役会設置会社でも株主総会や代表取締役を承認機関にできる〕
- 短答=原則と別段の定めの可否を押さえる
短答では、原則と、定款で変えられること、この2点を押さえてください。次に、前に名前だけ出した、みなし承認です。定款に、一定の場合は承認したものとみなす、と前もって書いておけます。たとえば、株主どうしの譲渡や、少ない数の譲渡です。
条文会社法107条2項1号
会社法第107条第2項(第1号) 株式会社は、全部の株式の内容として次の各号に掲げる事項を定めるときは、当該各号に定める事項を定款で定めなければならない。 一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 次に掲げる事項 イ 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨 ロ 一定の場合においては株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合
ロです。一定の場合は承認したものとみなす、と定款に書いておけば、その場合は、承認の請求そのものが要らなくなります。株主どうしの譲渡なら自由、と決めておけば、いちいち会社に頼まなくても売れます。
図:2つのみなし承認の違い・区別・対比
- 定款のみなし承認=前もって定款に書いた緩和・会社が自分で決めた制度設計・請求そのものが不要・107条2項1号ロ
- 145条のみなし承認=会社が期限や供託を怠った結果・制裁・請求の手続の中で起きる・145条1号から3号
- 同じ「みなし」でも向きが逆
定款のみなし承認と、このあと手続の中で出てくる145条のみなし承認は、言葉が同じでも別物です。ここは取り違えやすいので、板で比べます。定款のみなし承認は、会社が前もって自分で決めた緩和です。請求がなくても売れます。145条のみなし承認は、会社が手続を怠った結果です。請求を受けたあとの手続の中で、期限が切れて初めて起きます。前者は設計、後者は制裁。短答では、この区別が問われます。最後に、公示です。譲渡制限は、買う人の側にも関わる情報です。だから、登記します。株券を発行する会社では、株券にも書きます。
条文会社法908条1項
会社法第908条第1項 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
登記の前なら、会社は、譲渡制限があることを、制限を知らない買い手に主張できません。登記の後はどうか。前に見たとおり、正当な事由は狭く、登記簿を見られる状態なら、見ていなかっただけでは認められません。ただ、株券を発行する会社では、株式は株券を渡して売り買いするので、買う人が株券の記載を信じるのは当然です。そこで、株券に制限が書かれていないことは、908条1項後段の、正当な事由に当たると解する立場が有力です。登記があっても、株券を信じて知らずに買った人は守られる、ということです。たとえば、焙煎店が株券を出す会社で、Aさんの株券に制限の記載が無かったとします。それを見て買った人に、会社は、登記があることを理由に、制限を主張できません。
図:公示の2段
- 登記=911条3項7号〔登記事項〕
- 株券発行会社の株券への記載=216条3号
- 登記が無い=善意の譲受人に対抗できない〔908条1項〕
- 登記はあるが株券に記載が無い=善意者に対抗できないと解される〔908条1項後段の正当な事由にあたる〕
公示は、登記と株券の2段です。
承認されなかったら、売れる道は三つ
図:手続の全体像
- 出発点=譲渡制限株式でも株主は最終的に3つのどれかに売れる〔当初の譲渡先/会社が指定した買取人/会社自身〕
- 承認請求→2週間以内に決定通知→承認
- 不承認で買取先指定なし
- 不承認で買取先指定あり→会社が買う or 指定買取人が買う→買取り通知で売買契約成立→価格の決定
- 期限切れ・供託欠如=すべてみなし承認
ここからが山場です。冒頭の答えを、手続に置き直します。譲渡制限株式でも、株主には、最終的に3つのどれかに売る道があります。当初の譲渡先、会社が指定した買取人、会社自身。このどれかです。手続の各段の期限も、決議も、供託も、この保障と、会社に選ばせる権利との折り合いで読めます。条文を番号順に覚えるのではなく、この筋に当てはめて読んでください。流れを先に一望します。株主が請求する。会社が決めて、通知する。承認なら、そこで終わりです。不承認で、買取先の指定があれば、会社か買取人が買う。最後に、値段を決める。そしてどの段でも、会社が期限や準備を怠れば、承認とみなされます。この板の順に、1段ずつ見ます。
図:請求の入口と中身
- 入口は2つ=①株主からの請求〔136条〕②株式を取得した人からの請求〔137条・原則として名簿上の株主またはその相続人等と共同〕
- 請求に書くこと=株式の数・譲り受ける者の氏名または名称
- 買取先指定請求=「不承認なら会社か指定買取人が買ってほしい」を併せて請求
- 請求なしで売ることもできる・当事者間では有効
まず、請求です。入口は2つあります。株主が出す請求と、株式を取得した人が出す請求です。
条文会社法136条
会社法第136条 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。
株主が、売る前に会社へ請求します。この株式を、この人に売りたい。承認するかどうかを決めてください、という請求です。請求せずに売ることもできます。当事者の間では、売買は有効です。ただ、会社に対する効力は別の話で、別の回で扱います。
条文会社法137条
会社法第137条 1 譲渡制限株式を取得した株式取得者は、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。 2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。
取得した人からも請求できます。株主名簿は、会社が備えている、株主の一覧です。ただし、原則として、株主名簿に載っている株主、またはその相続人などと、共同でする必要があります。法務省令で定める場合を除き、です。例外は、確定判決で取得した場合などで、ここでは名前だけにとどめます。共同にする理由は、真の株主を守るためです。たとえば、見知らぬFさんが、Aさんから株を買ったと言い張って、会社に承認を請求したとします。Aさんは何も知りません。取得した本人だけで請求できるなら、本物の株主の知らないところで、手続が進んでしまいかねません。名簿上の株主が一緒に請求するなら、本当に譲渡があったことを、会社は確かめられます。名簿上の株主が一緒でなければ、請求は通らないのです。
条文会社法138条1項1号
会社法第138条第1項(第1号) 次の各号に掲げる請求(以下この款において「譲渡等承認請求」という。)は、当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。 一 第百三十六条の規定による請求 次に掲げる事項 イ 当該請求をする株主が譲り渡そうとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数) ロ イの譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名又は名称 ハ 株式会社が第百三十六条の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第百四十条第四項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨
請求には、株式の数と、買い手の名前を書きます。そしてハです。承認しない場合には、会社か、会社が指定する買取人が、この株式を買い取ってほしい、と併せて請求できます。これを、買取先指定請求と呼びます。名前が似ているのは、反対株主の買取請求、116条です。あちらは、会社の決定に反対して出ていく株主が、会社に買わせる権利です。こちらは、承認しないなら誰かが買え、と求めるものです。取得者からの請求も、同じ形です。Aさんは、この買取先指定請求を付けておくことで、不承認でも抜ける道を確保します。付け忘れると、あとで見るとおり、不承認の通知で終わってしまいます。ここは大事な分かれ目です。
会社の決定と2週間
図:2週間の分かれ道
- 請求を受けた会社は請求の日から2週間以内に決定を通知
- 通知した→承認なら譲渡の効力・不承認なら次の手続
- 黙っていた→承認したものとみなす〔145条1号〕
- 期間は定款で短くできるが長くはできない
- 会社と請求者が合意で別段の定めをしたときはみなされない〔ただし書〕
請求を受けた会社は、承認機関の決議で決めて、請求者に通知します。この通知には、期限があります。たとえば、Aさんが請求を出したのに、会社が何も言わないまま、時間だけが過ぎていくとします。会社は、いつまで待たせられるのでしょうか。
条文会社法145条
会社法第145条 次に掲げる場合には、株式会社は、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をする旨の決定をしたものとみなす。ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、この限りでない。 一 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の規定による請求の日から二週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百三十九条第二項の規定による通知をしなかった場合 二 株式会社が第百三十九条第二項の規定による通知の日から四十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十一条第一項の規定による通知をしなかった場合(指定買取人が第百三十九条第二項の規定による通知の日から十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十二条第一項の規定による通知をした場合を除く。) 三 前二号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合
請求を受けた会社は、請求の日から2週間以内に、承認するかどうかを通知しなければなりません。この期間は、定款で短くすることはできますが、長くはできません。40日と10日も同じです。通知しなかったら、どうなるか。承認したものとみなされます。145条1号です。ただし、会社と請求者が合意で別段の定めをしたときは、この限りでない。ここで立ち止まって考えてください。会社が2週間、黙っていたら、株主にとって得でしょうか、損でしょうか?得です。承認されたことになって、買い手に売れるので。会社が黙っているだけで、株主の望みがかなってしまうんですね。この向きが、手続全体を貫きます。会社が選ぶ権利を持つなら、その権利は期限内に使わなければならない。黙って放置されると、株主は、売ることも抜けることもできないまま塞がれます。それを許さないために、怠った側、つまり、会社の不利に倒すのです。承認すれば、会社との関係でも、譲渡の効力が生じます。Aさんの売却は、これで完了です。問題は、承認しなかった場合です。
会社が買うか、買取人を指定するか
図:不承認のあとの分かれ道
- 不承認でも買取先指定請求が無ければ不承認の通知で終了・Aは株主のまま
- 買取先指定請求が有れば=①会社が自分で買う〔株主総会の決議・Aは議決権なし〕②買取人を指定する〔全部または一部・一部だけ指定なら残りは会社が買う〕
会社が承認しなかった場合です。買取先指定請求が無ければ、不承認の通知で終わりです。Aさんは元のまま、株主です。買取先指定請求があれば、会社が自分で買うか、買取人を指定します。まず、会社が買う場合です。
条文会社法140条1項・2項
会社法第140条第1項・第2項 1 株式会社は、第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求を受けた場合において、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしない旨の決定をしたときは、当該譲渡等承認請求に係る譲渡制限株式(以下この款において「対象株式」という。)を買い取らなければならない。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。 一 対象株式を買い取る旨 二 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数) 2 前項各号に掲げる事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
会社が買う場合です。会社は、買わなければなりません。買う旨と、買う株数を、株主総会の決議で決めます。この決議は、309条2項1号の特別決議です。なぜ重い決議にしてあるのかは、すぐ次の決まりと同じ根から読めます。そして、この総会には、特別な決まりがあります。
条文会社法140条3項
会社法第140条第3項 3 譲渡等承認請求者は、前項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、当該譲渡等承認請求者以外の株主の全部が同項の株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。
請求した本人は、この総会で議決権を行使できません。ただし、請求者以外の株主の全員が議決権を行使できない場合は、この限りでない。なぜ、請求者本人は投票できないんですか。請求者本人が、自分の株を会社が買うかどうかの総会で、議決権を持って入るのは、おかしいからです。売る本人が、自分の株を会社に買わせるかどうかを決める側にも座るようなものです。焙煎店なら、Aさんが総会で自分の100株の議決権を使えたら、自分の株を会社に買わせる方向へ、票を入れられてしまいます。値段は、このあと協議や裁判所で決まります。ただ、買うと決めた時点で、会社のお金を、Aさん1人の株を引き取るために使うことが決まります。そのお金は、ほかの株主にとっても、会社の財産の土台です。だから、使うかどうかは、売る本人を外して決めるのです。重い決議にしてあるのも、同じ理由です。会社が特定の株主から自分の株を買い取る場面に共通する規制で、本体は別の回で扱います。ただし書は、請求者を外すと総会が成り立たなくなる場合の逃げ道です。たとえば、請求者以外の株主が、この議題について議決権の無い株式しか持っていないとき、請求者まで外すと、決議をする人が誰も残りません。そのときは、請求者も議決権を行使できます。
条文会社法140条4項・5項
会社法第140条第4項・第5項 4 第一項の規定にかかわらず、同項に規定する場合には、株式会社は、対象株式の全部又は一部を買い取る者(以下この款において「指定買取人」という。)を指定することができる。 5 前項の規定による指定は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
会社が買う代わりに、買取人を指定することもできます。仲間の誰かや、親しい人にです。全部でも、一部でも構いません。一部だけ指定して、残りを会社が買うこともできます。指定の決議は、株主総会か、取締役会設置会社なら取締役会です。定款の別段の定めも可能です。株主総会で決める場合は特別決議です。
図:会社が買う場合と指定買取人の違い・比較
- 会社が買う=140条1項から3項
- 決議=株主総会〔特別決議〕
- 請求者は議決権を行使できない〔3項〕
- 通知の期限=不承認通知の日から40日
- 指定買取人=140条4項・5項
- 決議=取締役会設置会社は取締役会・それ以外は株主総会〔特別決議〕・定款で別段の定め可
- 通知の期限=不承認通知の日から10日
- どちらも供託と書面が要る
- 買う側が誰かが違う
2つの道を、板で並べて違いを確かめます。会社が買うなら、株主総会の決議で、請求者は議決権を使えません。指定買取人なら、取締役会設置会社は取締役会の決議でよく、請求者の議決権を外すのは、会社が買う総会の決まりです。決議の機関が違えば、通知までの期限も変わります。さて、次の期限です。
通知の期限、40日と10日
図:期限・決議・通知の一覧
- 段/誰が/期限と起算点/決議/怠ったとき:①承認の可否の通知=会社が請求者に・請求の日から2週間・承認機関の決議・怠れば承認とみなす〔145条1号〕
- ②会社が買う旨の通知=会社が・不承認通知の日から40日・株主総会の特別決議で請求者は議決権なし・供託と書面・怠れば承認とみなす〔145条2号3号〕
- ③指定買取人の通知=指定買取人が・不承認通知の日から10日・取締役会等の決議・供託と書面・怠れば承認とみなす
- ④価格決定の申立て=会社か請求者が・買取りの通知があった日から20日・裁判所へ・申し立てなければ純資産額×株数
板です。起算点に注意してください。承認の可否の通知は、請求の日から2週間。買取りの通知は、不承認の通知の日から、会社が買うなら40日、指定買取人なら10日です。ここで1問です。40日と10日、なぜ長さが違うのでしょうか?会社が買うには、総会の決議を経なければなりません。総会で決めるなら、招集の通知を出して、日を置いて、決議をする、という順を踏むので、日数がかかります。焙煎店のように株主が少なくても、決議は要ります。指定買取人のほうは、145条2号のかっこ書を見てください。会社の期限は、もともと40日です。会社が買取人に回すなら、その人が10日以内に通知すれば足りる、という作りです。指定は、不承認を決めるときに一緒に決めておけます。だから、指定に回すなら早く知らせなさい、と短く切ってあると読めます。取締役会の無い会社で、総会が指定する場合も、やはり10日のままです。起算点は段ごとに変わるので、いつから数えるのかを、必ず確かめてください。このあと見る値段の申立ては、買取りの通知があった日から数えます。通知が間に合えば、買取りの手続は進みます。次は、通知に添えるものです。
通知に添える供託
図:通知に添える2つ
- 買取りの通知をしようとするとき=①1株当たり純資産額×買い取る株数を本店所在地の供託所に供託②供託を証する書面を請求者に交付
- 会社が買う=141条・指定買取人=142条・どちらも同じ
- 欠いた通知はみなし承認〔145条3号〕
- 株券発行会社は請求者の側にも株券の供託が求められる〔名前だけ〕
買取りの通知には、お金の裏付けが要ります。会社が買う場合から見ます。
条文会社法141条1項・2項
会社法第141条第1項・第2項 1 株式会社は、前条第一項各号に掲げる事項を決定したときは、譲渡等承認請求者に対し、これらの事項を通知しなければならない。 2 株式会社は、前項の規定による通知をしようとするときは、一株当たり純資産額(一株当たりの純資産額として法務省令で定める方法により算定される額をいう。以下同じ。)に前条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をその本店の所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない。
条文会社法142条1項・2項
会社法第142条第1項・第2項 1 指定買取人は、第百四十条第四項の規定による指定を受けたときは、譲渡等承認請求者に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。 一 指定買取人として指定を受けた旨 二 指定買取人が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、対象株式の種類及び種類ごとの数) 2 指定買取人は、前項の規定による通知をしようとするときは、一株当たり純資産額に同項第二号の対象株式の数を乗じて得た額を株式会社の本店の所在地の供託所に供託し、かつ、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付しなければならない。
買取りの通知をするときは、1株あたりの純資産額に、買い取る株数を掛けた額を、会社の本店の所在地の供託所に供託します。供託とは、国の窓口である供託所に、お金を預けておくことです。そして、供託したことを証する書面を、請求者に渡します。指定買取人も同じです。通知をしても、期限内にこの書面を渡さなければ、145条3号の法務省令で定める場合に当たり、やはり承認したものとみなされます。通知そのものが期限に遅れたときは、2号です。1株あたり純資産額は、帳簿上の資産から負債などを引いた純資産を、株式数で割った額です。算定の細かい方法は法務省令が決めていて、計算式の暗記は要りません。なぜ、純資産額が基準なのか。条文は理由を書いていませんが、帳簿から機械的に出せるので、値段の争いを待たずに、手続の入口で金額を決められるからだ、と説明されます。
条文に、供託させる趣旨が書かれているわけではありません。ただ、構造から、こう説明されます。売買の値段は、あとから協議や裁判所で決まります。それでも、買う側に払う用意があることを、手続の入口で形にして見せさせる。そうしないと、空の通知で請求者を宙づりにして、引き延ばせてしまいます。たとえば、会社が、買います、とだけ通知して、実はお金が用意できていないとします。Aさんは、買うと言われたまま、ほかに売ることもできず、待たされます。供託があれば、買う側の払う用意が、先に形になります。供託したお金は、あとで代金の支払にあてられます。株券を発行している会社では、請求者の側にも株券の供託が求められます。ここでは名前だけにとどめます。
図:供託の数字の例
- 会社の純資産1,800万円・発行済300株=1株あたり純資産額6万円
- Aの100株の全部を会社が買う=6万円×100株=供託600万円
- 協議も申立てもないまま20日→売買代金も600万円
- 供託金は代金の支払にあてられる〔144条6項〕
- 純資産額は帳簿上の数字で単純化した例
焙煎店で計算します。純資産が1,800万円、株式が300株なら、1株あたり6万円です。会社がAさんの100株を全部買うなら、6万円に100株を掛けて、供託は600万円です。数字は、帳簿上の純資産として単純化しています。
売買契約の成立と値段の決まり方
図:通知のあとに起きること
- 適法な買取りの通知で、値段が未定のまま売買契約が成立
- 成立後は、相手方〔会社または指定買取人〕の承諾がなければ請求を撤回できない〔143条〕
- 理由=通知の時点で相手方は総会・取締役会・供託の準備を済ませている
- 次は値段=協議→裁判所→なければ純資産額×株数
通知が適法に届くと、次に進みます。買取りの売買契約が成立するのです。値段は、まだ決まっていません。
条文会社法143条
会社法第143条 1 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知を受けた後は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができる。 2 第百三十八条第一号ハ又は第二号ハの請求をした譲渡等承認請求者は、前条第一項の規定による通知を受けた後は、指定買取人の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができる。
通知を受けたあとは、請求者は、相手の承諾を得た場合に限り、請求を撤回できます。適法な通知で、値段が決まらないまま、売買契約が成立します。条文に理由は書かれていませんが、通知の時点で、相手は総会や取締役会、供託という準備を済ませているからだ、と説明されます。たとえば、会社が総会を開いて、600万円を供託したあとで、Aさんが、やっぱりDさんに売る、と言い出したら、会社の準備は全部無駄になります。請求者が自由にひっくり返せたら、相手が振り回されます。そこで、通知を受けた後は、相手の承諾が要る、と説明されるのです。次は価格です。ここで、確認です。裁判所が、譲渡制限株式の値段を決めるときの評価は、どう決めるのでしたか?
方法は決まっていなくて、裁判所が事案に応じて選ぶ裁量でした。評価の中身は前に見たので、ここでは手続の流れだけを見ます。
図:値段の決まり方
- 協議→調わなければ買取りの通知があった日から20日以内に裁判所へ売買価格の決定を申し立てる〔144条2項〕→裁判所が定めた額が売買価格〔4項〕
- 20日以内に申立てが無く協議も調わない→1株当たり純資産額×株数が売買価格〔5項〕
- 供託金は代金の支払にあてられる〔6項〕
- 指定買取人の場合も同じ手続
値段は、3つの道のどれかで決まります。協議、裁判所、そして既定値です。順に見ます。
条文会社法144条1項・2項
会社法第144条第1項・第2項 1 第百四十一条第一項の規定による通知があった場合には、第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格は、株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定める。 2 株式会社又は譲渡等承認請求者は、第百四十一条第一項の規定による通知があった日から二十日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。
まず協議です。会社と請求者が話し合って値段を決めます。調わなければ、買取りの通知があった日から20日以内に、どちらからでも、裁判所に申し立てられます。20日は短いので、数字を覚えてください。
条文会社法144条4項・5項
会社法第144条第4項・第5項 4 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格とする。 5 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第一項の協議が調った場合を除く。)は、一株当たり純資産額に第百四十条第一項第二号の対象株式の数を乗じて得た額をもって当該対象株式の売買価格とする。
申し立てれば、4項で、裁判所が決めた額が値段になります。注目してほしいのが5項です。20日以内に誰も申し立てず、協議も調わなかったとき。このときは、1株あたり純資産額に株数を掛けた額が、売買価格になります。焙煎店なら、供託した600万円が、そのまま代金です。何もしなくても値段が決まります。協議がまとまらないまま止まってしまわないための、既定値です。この値段が不満で、実際の価値はもっと高いと考えるAさんは、20日以内に裁判所へ申し立てる手があります。動かずに20日がたてば、帳簿の数字で確定します。だから、20日は短いのです。
条文会社法144条6項
会社法第144条第6項 6 第百四十一条第二項の規定による供託をした場合において、第百四十条第一項第二号の対象株式の売買価格が確定したときは、株式会社は、供託した金銭に相当する額を限度として、売買代金の全部又は一部を支払ったものとみなす。
6項で、供託したお金は、代金の支払にあてられます。指定買取人の場合も、同じ手続です。承認なら買い手に売れる。不承認でも、買取先指定請求があれば、会社か指定買取人が買う。期限を逃せば承認になる。どの道でも、Aさんは出られます。唯一、買取先指定請求を付けなかった場合は、不承認でAさんは元のまま、株主です。だから、請求のときに、買取先指定を付けるかどうかが、実際には大事です。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- 一本の筋=払戻しは無い→出口は譲渡→仲間の会社は知らない人を入れたくない→売るなではなく誰に売るかを会社が選ぶ→代わりに株主は最後には必ず誰かに売って抜けられる
- 期限=2週間・40日・10日・20日
- 会社が買う=特別決議で請求者は議決権なし
- 怠る=みなし承認
- 定款のみなし承認と145条は別物
まとめです。一本の筋は、こうでした。株主は払戻しを受けられない。だから、出口は譲渡。ただ、仲間の会社には、知らない人を入れたくない事情がある。そこで会社法は、売るな、とは言わず、誰に売るかを会社が選べるようにした。その代わり、株主は最後には必ず誰かに売って抜けられる。承認か、会社の買取りか、指定買取人の買取りか、です。短答で押さえる点です。承認機関は、原則として株主総会か、取締役会設置会社なら取締役会で、定款で別段の定めができます。期限は、承認の可否の通知が請求の日から2週間、会社の買取りの通知が不承認通知の日から40日、指定買取人は10日。これらの通知を怠ると、承認したものとみなされます。会社が買う決議は特別決議で、請求者は議決権を行使できません。値段を裁判所に申し立てる期限は、買取りの通知の日から20日以内です。申立てが無いときの値段は、1株あたり純資産額に株数を掛けた額です。定款のみなし承認と、145条のみなし承認は別物です。論文では、手続がどこで止まったかを、事実に当てはめることになります。請求はあったか。買取先指定請求はあったか。期限内の通知か。供託と書面はあったか。ここは論文で論点になりうる部分です。
買取先指定請求を付けて請求すれば、Aさんは、承認されるか、会社か指定買取人が買い取るか、のどちらかで、必ず抜けられます。残りの2人も、知らない人を入れずに済みます。折り合いが付いたのです。
参照条文
- 会社法127条
- 会社法2条17号
- 会社法139条
- 会社法107条2項1号
- 会社法908条1項
- 会社法136条
- 会社法137条
- 会社法138条1項1号
- 会社法145条
- 会社法140条1項・2項
- 会社法140条3項
- 会社法140条4項・5項
- 会社法141条1項・2項
- 会社法142条1項・2項
- 会社法143条
- 会社法144条1項・2項
- 会社法144条4項・5項
- 会社法144条6項