会社法ゼロから会社法#19

譲渡制限違反の株式譲渡と契約による譲渡制限

会社法の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→

印刷用PDFを開く

第2章 株式 ⑲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

黙って売られた株

導入の場面(A=売主〔100株〕/B・C=残りの株主〔各100株〕/D=買主/E=焙煎コーヒー店の会社〔全株式に譲渡制限・発行済300株〕/A→D 会社に黙って売却・300万円/株主名簿の上はAのまま/問い=総会の案内は誰に・配当は誰に・Aは取り戻せるか) 図:導入の場面

  • A=売主〔100株〕
  • B・C=残りの株主〔各100株〕
  • D=買主
  • E=焙煎コーヒー店の会社〔全株式に譲渡制限・発行済300株〕
  • A→D 会社に黙って売却・300万円
  • 株主名簿の上はAのまま
  • 問い=総会の案内は誰に・配当は誰に・Aは取り戻せるか

前回の焙煎コーヒー店の会社に戻ります。株式は全部で300株。Aさん、Bさん、Cさんが100株ずつ持っていて、全部の株式に譲渡制限が付いています。今回、Aさんは、会社に何も言わないまま、Dさんに自分の100株を300万円で売ってしまいました。代金も受け取り済みです。ただ、株主名簿の上では、まだAさんの名前のままです。先に答えを言います。AさんとDさんの間の売買は有効です。Aさんは、取り戻せません。ただし、会社に対しては効力がありません。会社は、Aさんを株主として扱わなければなりません。案内も配当もAさんです。前回は、承認の手続を踏んだ場合を見ました。今回は、踏まなかった場合の効力と、定款の外で、契約によってかける譲渡制限を持ち帰ります。一本の筋で通します。譲渡制限は、好ましくない人が株主になるのを防いで、ほかの株主を守る制度です。守るための制度だから、効かせる範囲も、守る必要のある範囲に収まる。この筋で、今日の結論は全部、理由から出てきます。地図です。まず、黙って売ったら、誰との間でどうなるのか。次に、承認が無くても有効になる場面と、相続という別の入口。最後に、定款ではなく契約で縛る場合です。

当事者の間では有効

線が2本ある(AとDの間=売買は有効〔実線〕/Aと会社の間=Dへの譲渡は効力を生じない〔切れた線〕/判例=承認のない譲渡は会社に対する関係では効力を生じないが、当事者間では有効) 図:線が2本ある

  • AとDの間=売買は有効〔実線〕
  • Aと会社の間=Dへの譲渡は効力を生じない〔切れた線〕
  • 判例=承認のない譲渡は会社に対する関係では効力を生じないが、当事者間では有効

最初に、AさんとDさんの間です。

判例最高裁判所判決・昭和48年6月15日 民集27巻6号700頁

承認のない譲渡の効力 「定款に前述のような定めがある場合に取締役会の承認をえずになされた株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効であると解するのが相当である。」

判旨の取締役会は、承認を決める機関です。前回見たとおり、取締役会を置く会社では取締役会、置かない会社では株主総会が決めます。定款に承認を要する定めがあるのに、承認を得ないでされた譲渡は、会社に対しては効力を生じません。しかし、譲渡した当事者の間では有効です。これが判例の出した答えです。理由は、制度の目的から読めます。譲渡制限は、会社の側から見て望ましくない人が入ってくるのを止めるための仕組みでした。一方で、株式の譲渡は、本来自由であるべきものです。この二つを合わせると、会社との関係で効かせないだけで、目的は果たせます。AさんとDさんの間の売買まで、潰す必要がありません。条文からの裏付けもあります。前回見たとおり、承認をまだ得ていない取得者は、会社に承認を請求できます。請求できるのは、取得そのものは、当事者の間で成り立っているからです。当事者の間でも無効なら、請求する人がそもそもいません。焙煎店で言えば、Aさんは、Dさんに、株を返せとは言えません。売買の履行を拒むこともできません。売ったことは、動かないのです。この判例の事案は、株式を担保に取る、譲渡担保でした。お金を借りる人が、返せないときに備えて、株式そのものを貸す側に移しておく仕組みです。譲渡担保も、譲渡に当たるので承認が要ります。承認が無くても、当事者の間では有効、という結論は同じです。学説には、当事者の間でも無効と考える立場もありました。判例は、会社との関係でだけ効かない、という側に立っています。

会社は譲渡人を株主として扱う

会社の扱い(総会の招集通知=Aに出す/配当=Aに支払う/Dは出さない/AとDの精算=二人の契約の話/会社の義務=Aを株主として扱う〔扱ってもよい、ではない〕/Dの道=承認の請求〔前に見た〕) 図:会社の扱い

  • 総会の招集通知=Aに出す
  • 配当=Aに支払う
  • Dは出さない
  • AとDの精算=二人の契約の話
  • 会社の義務=Aを株主として扱う〔扱ってもよい、ではない〕
  • Dの道=承認の請求〔前に見た〕

次が、今回の一番の山です。会社は、AさんとDさんのどちらを、株主として扱うのか。

判例最高裁判所判決・昭和63年3月15日 集民153号553頁

承認のない譲渡と会社の扱い 「取締役会の承認をえないでされた株式の譲渡は、譲渡の当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであるから……、会社は、右譲渡人を株主として取り扱う義務があるものというべきであり、その反面として、譲渡人は、会社に対してはなお株主の地位を有するものというべきである。」

承認のない譲渡は、会社に対しては効力を生じません。だから会社との関係では、Aさんは今も株主のままです。そして、会社はAさんを株主として扱う義務を負います。この事件は、競売で株式を取得した人が、承認の請求をしなかったために、名簿に元の株主が残っていた場面でした。焙煎店なら、総会の招集通知はAさんに出します。配当もAさんに払います。Dさんには出しません。AさんとDさんの間で、代金や配当をどう精算するかは、二人の契約の話で、会社は関わりません。ここで1問です。会社は、Aさんを株主として扱ってよい、のでしょうか。それとも、扱わなければならない、のでしょうか?

判例は、扱わなければならない、としました。扱ってもよい、にとどまるなら、AさんとDさんのどちらを株主にするかを、会社が選べることになります。たとえば、Aさんが経営をめぐってBさん、Cさんと対立していたとします。会社が選べるなら、代表者は、Aさんが売ったことを口実に、通知を出さずに、都合の悪い議決権を消せてしまいます。気に入らない側を、会社が好きに締め出せる。裁量を会社に与えると、濫用の危険が大きいのです。だから、選ばせずに、義務としたのです。この義務を破ると、どうなるか。株主の地位をめぐって争いがある場面で、会社が総会の招集通知を出さなかった事件があります。最高裁は、招集通知は、株主総会での公正な意思形成を保障するためのものだと述べました。そして、一人への通知の欠如は、すべての株主との関係で、取締役の職務上の義務違反になる、としました。一人でも案内が届かなければ、総会の話し合いと決議の全体がゆがみ、ほかの株主の意思形成も害されるからです。

判例最高裁判所判決・平成9年9月9日 集民185号199頁

招集通知の欠如と取締役の義務 「株主総会開催に当たり株主に招集の通知を行うことが必要とされるのは、会社の最高の意思決定機関である株主総会における公正な意思形成を保障するとの目的に出るものであるから、……右通知の欠如は、すべての株主に対する関係において……職務上の義務違反を構成するものというべきである。」

見落としやすい点が、もう一つあります。株主の地位をめぐる訴訟があります。焙煎店で言えば、Aさんはもう株主ではない、と会社が争っている訴訟です。その訴訟で、会社に有利な判決が控訴審で出ていても、判決が確定するまでは、会社の義務は変わりません。勝ちそうだから通知を省く、という取締役の便宜は、許されないのです。設例なら、会社が、Aさんはもう株主でないと見切って、総会の通知を出さなかった場合です。後で、決議の効力も、取締役の責任も、問題になります。決議の効力は、別の回で扱います。Dさんには道があります。前に見た、取得者からの承認の請求です。この請求は、原則として、名簿に載っているAさんと一緒にします。Aさんは売買の履行を拒めないので、この手続にも協力する立場です。会社が承認すれば、会社との関係でも、Dさんが株主になります。承認されるまでは、Aさんが株主として扱われる、ということです。

守る相手がいなければ有効

守る相手がいるか(譲渡制限が守る=譲渡人以外の株主の利益/①株主が1人の会社〔最判平5・3・30〕=守る相手がいない→承認が無くても会社に対して有効/②譲渡人以外の全員が同意〔最判平9・3・27=有限会社の持分の事案・株式にも同じ理屈〕=守る相手が了解済み→同様と解されている/1人でも反対=原則どおり会社には効かない) 図:守る相手がいるか

  • 譲渡制限が守る=譲渡人以外の株主の利益
  • ①株主が1人の会社〔最判平5・3・30〕=守る相手がいない→承認が無くても会社に対して有効
  • ②譲渡人以外の全員が同意〔最判平9・3・27=有限会社の持分の事案・株式にも同じ理屈〕=守る相手が了解済み→同様と解されている/1人でも反対=原則どおり会社には効かない

今の結論は、実は絶対ではありません。制度の目的に戻ります。譲渡制限は、好ましくない人が株主になるのを防いで、譲渡する人以外の株主の利益を守るものでした。それなら、守る相手がいない場面では、承認が無くても、会社との関係で有効にしてよいはずです。一つ目は、株主が1人しかいない会社です。焙煎店が、最初はAさん1人で作った会社だったころを考えてください。Aさんが株を売っても、害される株主が、ほかにいません。この場合は、承認が無くても、会社に対して有効だとされています。最高裁の判断があります。二つ目は、譲渡する人以外の株主が、全員、その譲渡に同意している場合です。BさんもCさんも、Dさんなら構わない、と言っているなら、守られるはずの人が、了解済みです。この場合も、同様に有効と解されています。最高裁の判断は、有限会社の持分を譲った事件でしたが、守る相手が了解済みという理屈は、株式にもそのまま当てはまります。

ほかの株主が1人でも反対していれば、守る相手が残っているので、この理由が使えません。原則どおり、会社には効かず、Aさんが株主として扱われます。覚えるのは結論ではなく、理由です。守る相手がいない、つまり、株主が1人か、ほかの全員が同意。このとき、有効になります。前回の、定款で前もって承認を不要にする定めとは別の話です。こちらは定めが無くても、理由から有効になります。

相続には承認の網がかからない

取得ルート比較(譲渡による取得=承認が要る・買取りや承認請求の道具〔前に見た〕/相続・合併による取得〔一般承継〕=承認は要らない〔134条4号〕/好ましくない承継人を外す道具=売渡しの請求・定款の定めが前提〔174条〕) 図:取得ルート比較

  • 譲渡による取得=承認が要る・買取りや承認請求の道具〔前に見た〕
  • 相続・合併による取得〔一般承継〕=承認は要らない〔134条4号〕
  • 好ましくない承継人を外す道具=売渡しの請求・定款の定めが前提〔174条〕

次は、譲渡ではない取得です。設例です。Aさんが亡くなり、息子のFさんが100株を相続しました。Fさんは焙煎に興味がなく、BさんともCさんとも仲が悪い。Bさん、Cさんは困りますが、承認を拒んで、Fさんを外せるでしょうか。拒めません。譲渡制限が承認を求めているのは、譲渡による取得です。相続や合併は、譲渡ではなく、一般承継です。前に見た、まとめての引き継ぎです。承認の仕組みは、株主が売り先を選び、会社がその買い手を見て判断するためのものでした。相続では、亡くなった時に、株式も当然に相続人へ移ります。民法896条です。株主が誰かを選んで渡す手続ではないので、会社が承認を挟む場面がありません。だから、承認の対象から外れています。条文にも、そのように出ています。

条文会社法134条

会社法第134条(柱書・4号) 前条の規定は、株式取得者が取得した株式が譲渡制限株式である場合には、適用しない。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。 四 当該株式取得者が相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者であること。

前条は、株式を取得した人が、会社に名簿の書換えを請求できる、という規定です。譲渡制限株式には、原則として適用しません。ただし、承認を受けた場合などは別で、その一つが四号です。相続その他の一般承継によって取得した人は、この限りでない、つまり、承認なしに、名簿の書換えを請求できます。結局、譲渡制限は、相続による取得を止められません。好ましくない人が相続で入ってきても、承認で拒む手段が無いのです。そこで別の道具が用意されています。その前に、前回の復習です。会社が買取りの通知をするとき、用意しておくお金は、何だったでしょうか?

1株あたりの純資産額に、買い取る株数を掛けた額を、供託所に供託するんでした。今回の売渡しの請求には、この供託の定めがありません。その違いを意識しながら進めます。

条文会社法174条

会社法第174条 株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

定款に定めておけば、会社は、相続人などに、株式を会社に売り渡すよう請求できます。前回の買取先指定請求は、株を手放したい側から、会社に出す請求でした。こちらは、会社から、相続人に出す請求です。一番大事な点は、定款の定めが前提だということです。定めが無ければ、請求できません。焙煎店の定款にこの定めがあれば、会社は、Fさんに、100株を会社に売り渡すよう請求できます。手続は、五つの点で押さえます。板で一覧にします。

売渡しの請求の手続(定款の定め〔174条〕→請求する株式の数と相手の氏名を株主総会の特別決議で定める〔175条1項・309条2項3号〕/相手は議決権を行使できない〔175条2項・他の株主全員が行使できないときは例外〕/請求の期限=会社が一般承継を知った日から1年〔176条1項ただし書〕/撤回=会社はいつでもできる〔176条3項〕/価格=協議→請求の日から20日以内に裁判所へ申立て→申立ても協議の成立も無ければ請求は効力を失う〔177条〕) 図:売渡しの請求の手続

  • 定款の定め〔174条〕→請求する株式の数と相手の氏名を株主総会の特別決議で定める〔175条1項・309条2項3号〕
  • 相手は議決権を行使できない〔175条2項・他の株主全員が行使できないときは例外〕
  • 請求の期限=会社が一般承継を知った日から1年〔176条1項ただし書〕
  • 撤回=会社はいつでもできる〔176条3項〕
  • 価格=協議→請求の日から20日以内に裁判所へ申立て→申立ても協議の成立も無ければ請求は効力を失う〔177条〕

一つ目。請求するたびに、株主総会の決議で、請求する株式の数と、相手の氏名を定めます。特別決議です。誰から買うかを、多数派が一方的に選べるので、重い決議にしてあります。二つ目。売渡しを請求される相続人本人は、この総会で議決権を行使できません。自分の運命を、自分の票で決めるのは公正でないからです。ほかの株主全員が議決権を行使できない場合だけは、例外です。前回の、買取りの総会と同じ考え方です。三つ目は、期限です。会社が、一般承継があったことを知った日から、1年を過ぎると請求できません。相続人の地位を、いつまでも不安定にしておかないためです。会社は、請求を、いつでも撤回できます。四つ目は、価格です。まず協議します。まとまらなければ、請求の日から20日以内に、会社か相続人が裁判所に、価格の決定を申し立てます。裁判所は、請求の時の会社の資産の状態、その他一切の事情を考えて決めます。前に見た、譲渡の承認で値段が揉めたときと、同じ言葉です。20日以内に、申立ても協議の成立も無ければ、請求は効力を失います。

前回の買取りとは、申立ても協議の成立も無いときの扱いが、違います。買取りでは、会社が供託を済ませていたので、帳簿の額で決まりました。売渡しの請求には供託が無く、決まらないままなら、請求そのものが効力を失います。起算点も、買取りは通知のあった日、こちらは請求の日です。五つ目は、代金の財源です。会社が株式を買い取るので、代金は分配可能額の範囲内に限られます。細かい話は、別の回で扱います。短答では、三点を押さえてください。定款の定めが要ること。相続人本人は議決権を行使できないこと。期限は、知った日から1年であること。一言だけ補います。相続人が2人以上いると、株式は、相続人みんなの共有になります。一人ひとりの取り分を、共有持分といいます。この場合も、会社は、共同相続人の1人に、共有持分の売渡しを請求できると解されています。高等裁判所の裁判例があり、上告は退けられて、その結論が確定しました。

定款の外で縛る契約

契約による制限(株主どうしの契約で譲渡を縛る/例=先買権〔売りたい側は先に相手に知らせ、相手が優先して買える〕/株主間契約=譲渡の約束のほか役員構成・議決権行使なども定めることが多い/縛られるのは契約した人だけ) 図:契約による制限

  • 株主どうしの契約で譲渡を縛る
  • 例=先買権〔売りたい側は先に相手に知らせ、相手が優先して買える〕
  • 株主間契約=譲渡の約束のほか役員構成・議決権行使なども定めることが多い
  • 縛られるのは契約した人だけ

ここからは、定款の外の話です。譲渡の制限は、定款で定める以外に、株主どうしの契約でもかけられます。合弁会社、つまり複数の会社が一緒に出資して作る会社で、よく使われるのが、先買権の条項です。一方が株を売りたいときは、先に相手に知らせて、相手に優先して買う権利を与える、という約束です。合弁事業では、譲渡の約束のほかに、役員の構成や、議決権の行使なども、あわせて契約に入れることが多いです。これを株主間契約といいます。設例です。BさんとCさんが、どちらかが株を売るときは、先にもう一方に声をかける、と契約していました。ところが、Bさんは、Cさんに声をかけずに、会社の承認だけを取って、Dさんに売ってしまいました。

定款の制限に違反したときと同じで、会社には効かないんですか。逆です。契約は、契約した人しか縛りません。契約に違反したこと自体は、BさんとDさんの売買の効力に、影響しません。売買は有効です。Bさんが負うのは、Cさんへの債務不履行、つまり約束した義務を果たさなかったことによる損害賠償、民法415条の責任です。契約に、違反したときの損害賠償の額を、あらかじめ決めておくこともできます。

条文民法420条1項

民法第420条第1項 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。

定款の制限に違反した場合と、効果の向きが違います。板で並べます。

定款の制限に違反 vs 契約の制限に違反(行=①当事者間の売買②会社との関係③違反の帰結④縛られる人/定款違反=①有効②効力を生じない・会社は譲渡人を株主として扱う③会社に売買を主張できない〔買主は承認の請求へ〕④後から株式を取得した人まで/契約違反=①有効〔契約は当事者しか縛らない〕②影響しない③相手方への債務不履行責任〔民415条〕・損害賠償額の予定も可〔民420条〕④契約した人だけ) 図:定款の制限に違反 vs 契約の制限に違反

  • 行=①当事者間の売買②会社との関係③違反の帰結④縛られる人
  • 定款違反=①有効②効力を生じない・会社は譲渡人を株主として扱う③会社に売買を主張できない〔買主は承認の請求へ〕④後から株式を取得した人まで
  • 契約違反=①有効〔契約は当事者しか縛らない〕②影響しない③相手方への債務不履行責任〔民415条〕・損害賠償額の予定も可〔民420条〕④契約した人だけ

定款の制限は、違反すると、会社との関係で売買がとおりません。契約の制限は、売買はとおって、代わりに契約の相手に対する責任が残ります。とおらないか、とおって責任か。ここが、効果の向きの違いです。縛られる人も違います。定款の制限は、後から株式を取得した人まで縛ります。契約は、契約した人だけです。

契約の自由と、その限界

なぜ契約は自由度が広いのか(定款の制限=株主総会の多数決で付けられる・反対した株主も後から取得した人も縛る→法律が中身を画一的に決める〔136条以下・それ以外の方法は認められない〕/契約=当事者だけを縛る・現実の合意が前提→契約自由で様々な制限を約束できる) 図:なぜ契約は自由度が広いのか

  • 定款の制限=株主総会の多数決で付けられる・反対した株主も後から取得した人も縛る→法律が中身を画一的に決める〔136条以下・それ以外の方法は認められない〕
  • 契約=当事者だけを縛る・現実の合意が前提→契約自由で様々な制限を約束できる

なぜ、契約のほうが自由度が広いのか。理由は、縛られる人の範囲です。定款の制限は、株主総会の多数決で付けられます。反対した株主も、後から株式を取得した人も縛ります。縛られる人が多く、現実の同意を取っていない。だから、法律が、中身を画一的に決めています。承認を要する形などで、それ以外の方法は認められていません。前に見た、株式の中身は法律が決める、という考え方の延長です。契約は、当事者だけを縛り、現実の合意が前提です。だから、契約自由の原則に従って、同意を要する、譲渡先を限る、値段の決め方を縛る、など、様々な制限を約束できます。

ただ、どんな約束でもよい、というわけではありません。限界があります。まず一つ目は、投下資本の回収、前に見た、株に出したお金を売って取り戻す道を、著しく妨げる約束です。

条文民法90条

民法第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

たとえば、一生誰にも売らない、売ったら高額の違約金、という約束です。株主の出口を完全にふさぐので、公序良俗に反して、無効とされる可能性が出てきます。ただし、本人が内容を理解して同意した場合に、無効になるのは例外的です。自分で分かって選んだ不利益は、契約の自由の範囲だからです。そこで試金石になるのが、従業員持株制度です。従業員が、持株会を通じて自社の株に投資し、退職するときは、買ったときと同じ額で、持株会や会社の指定する人に譲渡する義務を負う、という約束が多いです。焙煎店なら、焙煎職人が持株会を通じて株を買い、辞めるときは、買値で持株会に返す約束です。最高裁は、この約束を有効としました。最初の判断は、退職時に1株50円の取得価格で、取締役会の指定する人に譲渡する約束が争われたものです。従業員約40人の同族的な会社で、配当の実績もありました。その後の判断が、有効と見る理由を、はっきり述べています。理由は四点です。

持株会の譲渡ルールが有効とされた4点(最判平7・4・25に続く最判平21・2・17/①目的の合理性=社員株主制度を維持し、譲渡制限株式を円滑に現役の従業員等に承継させる/②市場性と価格=非公開会社で市場が無く、持株会から取得した価格も額面額=損をするおそれもないが、そもそも譲渡益も期待しにくい/③自由意思=内容を認識して自分で買った・事実上の強制は無い/④配当=多額の利益を出しながら一切配当せず内部留保していた事情は無い) 図:持株会の譲渡ルールが有効とされた4点

  • 最判平7・4・25に続く最判平21・2・17
  • ①目的の合理性=社員株主制度を維持し、譲渡制限株式を円滑に現役の従業員等に承継させる
  • ②市場性と価格=非公開会社で市場が無く、持株会から取得した価格も額面額=損をするおそれもないが、そもそも譲渡益も期待しにくい
  • ③自由意思=内容を認識して自分で買った・事実上の強制は無い
  • ④配当=多額の利益を出しながら一切配当せず内部留保していた事情は無い

一点目は、目的に合理性があることです。持株会のルールは、株を持てる資格を、原則として現役の従業員などに限る、社員株主制度を保つためのものです。譲渡制限の付いた株を、円滑に、次の現役の従業員に渡していく仕組みで、内容に合理性がないとはいえません。二点目は、市場と価格です。非公開会社の株は、市場がありません。従業員が持株会から買った値段も、額面と同じ額でした。額面は、昔の制度で、会社が1株ごとに定めていた金額です。今の会社法に、額面の制度はありません。将来、値下がりして損をするおそれもないかわりに、もともと、売って儲けられる状況でもなかったのです。値上がり益を取れない約束でも、失うものが小さいのは、このためです。三点目は、自由な意思です。従業員は、ルールの内容を理解したうえで、自分の意思で、額面額で買いました。事実上、強制されていたような事情はありませんでした。本人が分かって選んだ約束なので、さっきの、無効になるのは例外的、がそのまま当てはまります。四点目は、配当です。会社が、多額の利益を出しながら、特段の事情もなく、一切配当せずに、すべて内部留保していた、というような事情はありませんでした。逆に、配当も無く、値上がり益も無いなら、株を持つ見返りが何も残りません。そこを見ているのが四点目です。

判例最高裁判所判決・平成21年2月17日 判例時報2038号144頁

持株会の譲渡ルールの有効性 「本件株式譲渡ルールに従う旨の本件合意は,会社法107条及び127条の規定に反するものではなく,公序良俗にも反しないから有効というべきである。」

107条と127条は、前に見た、譲渡制限の定めと、株式譲渡自由の条文です。結論は、会社法に反せず、公序良俗にも反しないから有効、です。判例だから有効、ではありません。判決は、この四つの事情を挙げて、有効と判断しました。そろえるべき要件ではなく、あてはめで見る着眼です。逆に言えば、境界も読めます。従業員が事実上強制されて買わされた場合や、会社が利益を全部ためこんで一切配当せず、株主に何も返さない場合は、有効とは言いにくくなります。値上がり益を取れない約束かどうかだけでは決まらず、この四つの事情を、まとめて見ることになります。答案での使い方です。規範は、契約による譲渡制限は、契約自由が原則で、会社法107条・127条に反せず、公序良俗にも反しなければ有効。投下資本の回収を著しく制約するときは、民法90条で無効、という形です。あてはめの着眼は、いま見た四点、つまり、目的の合理性、市場の有無と取得価格、自由な意思、配当の実績です。二つ目の限界に進みます。会社の同意を要するタイプの契約です。株の譲渡に、会社、つまり代表取締役や取締役会の同意を要求する約束です。さっきの持株会のルールは、売り先と値段に縛りはあっても、辞めるときに売る道はありました。会社の同意を要する型は、同意が出なければ、売る道そのものが閉じます。これを認めると、定款の手続を通らずに、取締役が株主を選べることになり、経営者の支配に使われかねません。そのため、こうした約束は、結ばれた事情や中身によっては、会社法の考え方に照らして効力が否定されうる、という指摘があります。また、会社自身が約束の当事者になる契約については、投下資本の回収を不当に妨げない、合理的な内容のものに限って有効とする考え方が、古くから多くの学説の立場です。

法律の規定による制限

法律の規定による制限(定款・契約のほかに、法律の規定で譲渡が制限される場面がある/例=株券の発行前の譲渡・子会社による親会社株式の取得/本体は関連する箇所で扱う) 図:法律の規定による制限

  • 定款・契約のほかに、法律の規定で譲渡が制限される場面がある
  • 例=株券の発行前の譲渡・子会社による親会社株式の取得
  • 本体は関連する箇所で扱う

最後に、譲渡の制限は、定款や契約のほかに、法律の規定によってかかる場面もあります。一つ目は、株券を発行する会社で、株券がまだ出ていないうちの譲渡です。会社に対しては効力を生じません。株券を出す事務が、譲渡のたびに乱れないようにするためです。二つ目は、子会社による親会社の株式の取得です。前に見たとおり、子会社が親会社の株を持つと、親会社が自分の株を持つのと同じことになり、財産と支配がゆがむからです。中身は、それぞれ関連する箇所で扱います。

今日の地図(保存版)

まとめ(一本の筋=譲渡制限は好ましくない人を防いで他の株主を守る制度→承認の無い譲渡は会社との関係でだけ効かない〔売買は有効・会社は譲渡人を株主として扱う義務〕→守る相手がいなければ有効〔株主1人・全員同意〕→相続・合併は譲渡でない=売渡しの請求〔定款の定め・相続人は議決権なし・知った日から1年〕→契約は当事者だけ=譲渡は有効で損害賠償・自由度は広いが民90条の限界〔持株会は4点〕) 図:まとめ

まとめです。一本の筋は、こうでした。譲渡制限は、好ましくない人が株主になるのを防いで、ほかの株主を守る制度です。だから、承認の無い譲渡は、会社との関係でだけ効かず、売買そのものは生きています。会社は、譲渡人を株主として扱う義務があります。守る相手がいなければ、会社との関係でも有効になります。相続や合併は、譲渡ではないので、承認の網にかからず、別の道具として売渡しの請求があります。契約で縛るなら、縛られるのは契約した人だけです。短答で押さえる点です。承認のない譲渡は、当事者の間では有効で、会社に対しては効力がありません。会社は、譲渡人を株主として扱う義務を負います。一人会社の株主の譲渡と、ほかの全株主が同意している場合は、会社との関係でも有効です。相続は承認が要りません。売渡しの請求には、定款の定めが要り、相続人本人は議決権を行使できず、期限は知った日から1年です。契約に違反した譲渡は有効で、損害賠償の責任が残ります。論文では、二つの型を一度通します。一つ目、承認の無い譲渡のあとで、会社が譲渡人の扱いを誤った場合です。規範は、承認の無い譲渡は会社に効力を生じず、会社は譲渡人を株主として扱う義務を負う。あてはめは、名簿がAさんのままで、Dさんは承認を得ていないから、Dさんにだけ通知を出して、Aさんに出さないのは、義務違反です。二つ目、持株会の譲渡義務の有効性です。規範は、契約自由が原則で、投下資本の回収を著しく制約すれば民法90条で無効。あてはめは、目的の合理性、市場と取得価格、自由な意思、配当の四点です。ここは論文で論点になりうる部分です。

Aさんは、Dさんに売ったことを取り戻せません。ただし、会社の承認が無いままなら、会社との関係では株主のままで、案内も配当もAさんに届きます。Dさんが株主になるには、承認を得る必要があります。

参照条文

  • 会社法134条
  • 会社法174条
  • 民法420条1項
  • 民法90条

会社法 全体ロードマップへ →

会社法 の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→