会社法ゼロから会社法#27

株主総会の権限

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第3章 機関 ㉗/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じ決議が、会社の型で意味を変える

同じ決議・2つの会社(A=取締役会を置かない会社の総会/B=取締役会を置く会社の総会/C=「来年の新店舗はこの駅前に出す」という決議/AからC=会社の方針として取締役を縛る/BからC=総会が決める権限の外・会社法にも定款にも決議事項と書かれていなければ決議できない/違いは株主の数でも会社の大きさでもなく取締役会を置いているかどうか/295条1項と2項) 図:同じ決議・2つの会社

  • A=取締役会を置かない会社の総会
  • B=取締役会を置く会社の総会
  • C=「来年の新店舗はこの駅前に出す」という決議
  • AからC=会社の方針として取締役を縛る
  • BからC=総会が決める権限の外・会社法にも定款にも決議事項と書かれていなければ決議できない
  • 違いは株主の数でも会社の大きさでもなく取締役会を置いているかどうか
  • 295条1項と2項

町の靴店を営む会社が、二つあります。どちらも、従業員は10人ほどです。どちらの株主総会でも、同じ決議がされました。来年の新店舗は、この駅前に出す、という決議です。ところが、一方の会社では、この決議が会社の方針になり、取締役を縛ります。もう一方の会社では、総会には、そもそもこれを決める権限がありません。同じ決議なのに、片方だけ権限がないんですか。株主の数が違うとか、会社の大きさが違うとか、ですか。違います。分かれ目は、取締役会を置いているかどうか、それだけです。先に答えを言います。取締役会を置かない会社の総会は、会社のことを何でも決められます。295条1項です。取締役会を置く会社の総会は、会社法に書いてある事項と、定款に書いた事項しか決められません。295条2項です。

暗記だけだと、すぐ崩れます。なぜ型で分かれるのか。絞られた総会は何を決めるのか。定款でどこまで動かせるのか。最後に、最高裁が答えを出した事例を一つ見ます。この順で、一本の筋として持ち帰ってください。最後には、バーチャル株主総会という、会議の形の今も見ます。

株主総会とは何か

株主総会とは(議決権を持つ株主で構成され会社の意思を決める機関=同時にその意思決定をする会議そのもの/どんな機関設計でも必ず置く/理由=株主が出資して成り立ち利益は最終的に株主に帰る→意思決定に関われる道を残す/定時株主総会=毎事業年度の終了後一定の時期に必ず招集〔296条1項〕/臨時株主総会=必要があればいつでも〔296条2項〕/種類株主総会は別の制度=その種類の株主だけの総会) 図:株主総会とは

  • 議決権を持つ株主で構成され会社の意思を決める機関=同時にその意思決定をする会議そのもの
  • どんな機関設計でも必ず置く
  • 理由=株主が出資して成り立ち利益は最終的に株主に帰る→意思決定に関われる道を残す
  • 定時株主総会=毎事業年度の終了後一定の時期に必ず招集〔296条1項〕
  • 臨時株主総会=必要があればいつでも〔296条2項〕
  • 種類株主総会は別の制度=その種類の株主だけの総会

最初に、株主総会そのものを押さえます。株主総会は、議決権を持つ株主で構成され、会社の意思を決める機関です。同時に、その意思決定をするために株主が集まる、会議そのものも指します。会社の意思を決める人の集まりと、その集まりが開かれる場、という二つの意味があります。株主総会は、前に見たとおり、どんな機関設計の会社にも必ず置きます。理由は、こうです。株式会社は、株主が出資して成り立っています。会社の利益は、最終的に株主に帰ります。だから、会社の意思決定に株主が関われる道を、どんな会社でも残しておく必要があるのです。開き方には、二つあります。条文を読みます。

条文会社法296条1項・2項

会社法第296条第1項・第2項 1 定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。 2 株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。

1項の定時総会は、毎年、決まった時期に必ず開く総会です。主な議題は決算です。2項の総会は、必要が出たときに、いつでも開けます。これを臨時総会と呼びます。なお、種類株主総会は、別の制度です。その種類の株主だけが集まる総会で、これは前に見ました。この回で扱うのは、一般の株主総会です。

取締役会の有無で変わる守備範囲

2つの型(取締役会を置かない会社=295条1項=会社法の事項に加え組織・運営・管理その他会社に関する一切の事項を決議できる/想定する会社=株主と経営者がほぼ重なる・所有と経営が分かれていない/取締役会を置く会社=295条2項=会社法の事項と定款で定めた事項に限る/想定する会社=規模が大きく株主に経営の意思・能力が乏しい→経営の判断は取締役会・代表取締役に任せる/区別の基準は取締役会の有無であり公開会社かどうかではない) 図:2つの型

  • 取締役会を置かない会社=295条1項=会社法の事項に加え組織・運営・管理その他会社に関する一切の事項を決議できる
  • 想定する会社=株主と経営者がほぼ重なる・所有と経営が分かれていない
  • 取締役会を置く会社=295条2項=会社法の事項と定款で定めた事項に限る
  • 想定する会社=規模が大きく株主に経営の意思・能力が乏しい→経営の判断は取締役会・代表取締役に任せる
  • 区別の基準は取締役会の有無であり公開会社かどうかではない

先に、なぜ型で分かれるのかの見通しを言います。株主が自分で経営に関わる会社か、経営を取締役会に任せる会社か、の違いです。これを持って、条文を見ます。

条文会社法295条1項・2項

会社法第295条第1項・第2項 1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。 2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。

1項は、取締役会を置かない会社です。会社法に書かれた事項に加えて、会社の組織、運営、管理、その他の一切の事項を決められます。2項は、取締役会設置会社、つまり取締役会を置く会社です。会社法に規定する事項と、定款で定めた事項に限られます。会社の姿を、どう想定しているかが違うのです。取締役会を置かない会社は、株主と経営者がほぼ重なる、小さな会社を想定しています。前に見た所有と経営の分離が、進んでいない会社です。株主が自分で経営に関わるのですから、総会が何でも決めて構いません。取締役会を置く会社は、逆です。規模が大きく、株主には、経営に関わる意思も能力も乏しい、と想定されます。それなら、日々の経営の判断は、取締役会と、その下の代表取締役に任せるほうが合理的です。総会は、株主の利害に深く関わる事項に集中します。

法律は、会社の大きさを一つずつ測る代わりに、取締役会を置くかどうかという、会社自身の選択を目印にしています。取締役会を置いた靴店は、方針の最終的な決定を取締役会に任せる形を、自分で選んだ店として扱われるのです。決議の効き目も、確認しておきます。取締役は、法令、定款、そして株主総会の決議を守って職務を行う義務を負います。355条1項です。取締役会を置かない会社では、ふだんの業務は取締役が決めます。前に見た348条です。それでも、総会が、駅前に出す、と決議すれば、取締役はそれに従わなければなりません。総会の決議が、取締役を縛る会社の方針になるのです。取締役会を置く会社では、会社法にも定款にも、これを総会の決議事項とする定めがなければ、総会の権限の外です。権限の外の決議は、会社を縛る決議としての効力を持ちません。ここで、前の回の復習を一つ。公開会社は、取締役会を置かなければなりません。この義務を定める条文は、どれだったでしょうか?

327条1項1号です。だから、公開会社は、必ず2項の会社になります。では、公開会社でない会社はどうでしょうか。

区別の基準(公開会社かどうかではなく取締役会を置いているかどうか/公開会社=取締役会を必ず置く〔327条1項1号〕→いつも2項の会社/非公開会社=取締役会を置くかを選べる→置けば2項・置かなければ1項/決議の効き目=取締役は総会の決議を守る〔355条〕→権限の内の決議だけが取締役を縛る) 図:区別の基準

  • 公開会社かどうかではなく取締役会を置いているかどうか
  • 公開会社=取締役会を必ず置く〔327条1項1号〕→いつも2項の会社
  • 非公開会社=取締役会を置くかを選べる→置けば2項・置かなければ1項
  • 決議の効き目=取締役は総会の決議を守る〔355条〕→権限の内の決議だけが取締役を縛る

取締役会を置くかどうかを、選べるんでしたね。置けば2項、置かなければ1項です。つまり、区別の基準は、公開会社かどうかではなく、取締役会を置いているかどうかです。「非公開会社の総会は、何でも決議できる」は、取締役会を置いていれば誤りです。ここは、ひっかけの型です。問いです。非公開会社が、定款に取締役会を置く旨を定めています。この会社の総会は、駅前に新店舗を出す、という決議をできるでしょうか?取締役会を置いているので、2項で、できないと思います。法律にも定款にも、その事項を総会の決議事項とする定めがなければ、できません。ただし、2項の会社でも、総会の守備範囲は固定ではありません。定款に書けば、決議できる事項は増えます。定款の変更は、総会の決議でできるからです。

条文会社法466条1項

会社法第466条第1項 1 株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる。

この点は、後で効いてきます。覚えておいてください。

絞られた総会が決めること——4つのまとまり

取締役会を置く会社の総会が決める事項・4つのまとまり(人を決める=役員等の選任〔329条1項〕・解任〔339条1項〕→株主が経営陣を選び替えられることが権限の土台/会社の形を変える=定款変更〔466条〕・事業の全部譲渡など〔467条1項〕・合併などの組織再編〔783条1項・795条1項〕→会社の運命を左右する/株主の取り分に関わる=剰余金の配当〔454条1項〕・自己株式の取得〔156条1項〕・株式の併合〔180条2項〕→株主の財産に直結/経営陣に任せると利益が相反する=取締役の報酬〔361条1項〕・役員等の責任の一部免除〔425条〕→お手盛りを避ける/条文上の区分ではなく整理のための分け方) 図:取締役会を置く会社の総会が決める事項・4つのまとまり

  • 人を決める=役員等の選任〔329条1項〕・解任〔339条1項〕→株主が経営陣を選び替えられることが権限の土台
  • 会社の形を変える=定款変更〔466条〕・事業の全部譲渡など〔467条1項〕・合併などの組織再編〔783条1項・795条1項〕→会社の運命を左右する
  • 株主の取り分に関わる=剰余金の配当〔454条1項〕・自己株式の取得〔156条1項〕・株式の併合〔180条2項〕→株主の財産に直結
  • 経営陣に任せると利益が相反する=取締役の報酬〔361条1項〕・役員等の責任の一部免除〔425条〕→お手盛りを避ける
  • 条文上の区分ではなく整理のための分け方

では、取締役会を置く会社の総会は、会社法上、何を決めるのでしょうか。細かく数えると多いので、四つのまとまりで整理します。ただし、これは覚えやすくするための整理で、条文上の区分ではありません。一つ目は、人を決める事項です。取締役などの役員や会計監査人の選任が、329条1項、解任が、339条1項です。株主が経営陣を選び、いつでも替えられることが、株主の権限の土台だからです。二つ目は、会社の形を変える事項です。定款の変更は466条、事業の全部の譲渡などは467条1項、合併などの組織再編は783条1項や795条1項です。どれも会社の運命を左右するので、株主の意思を確かめます。三つ目は、株主の取り分に関わる事項です。剰余金の配当が454条1項、自己株式の取得が156条1項、株式の併合が180条2項です。どれも、株主の財産に直結します。配当は、会社の財産を株主に配ることです。自己株式の取得は、会社が株主から自分の株を買い戻すことで、会社のお金が、売った株主にだけ出ていきます。株式の併合は、前に見たとおり、10株を1株にまとめれば、9株以下の株主は、株主でなくなります。四つ目は、経営陣に任せると、利益が相反する事項です。取締役の報酬が361条1項、役員等の責任の一部免除、つまり取締役などが会社に負う賠償の責任を軽くすることが、425条です。

報酬を、なぜ取締役会に任せないんですか。決める側が、自分の取り分を決めることになるからです。いわゆるお手盛りです。自分で自分の給料を決められる会社では、株主の取り分が不当に減りかねません。だから、取締役の利害から離れた、株主の総会が決めるのです。補足を二つ。非公開会社では、募集株式の発行等、つまり新しく株を出すことも、総会の事項です。199条2項です。前に見たとおり、公開会社は、取締役会の決議だけで新しい株を出せました。非公開会社では、誰に新しい株を出すかで、今の株主の持ち株比率が変わり、誰が会社を動かすかが変わります。だから、株主自身が決めるのです。もう一つ。取締役会を置かない会社では、取締役会を置く会社なら取締役会が決める多くの事項が、総会の事項になります。たとえば、株式の譲渡の承認、つまり、譲渡が制限された株式を誰かが手に入れるのを、会社が認めるかどうかの決定です。139条1項です。決める取締役会が無いので、株主自身が決めます。

定款で広げるのは自由、他へ回すのは無効

定款でできること・できないこと(総会の守備範囲を同心円で/定款で外へ広げる=可〔295条2項の定款で定めた事項〕/法律が総会の決議を必要とする事項を取締役・取締役会など総会以外の機関が決定できる旨の定款の定め=無効〔295条3項〕/例=事業の全部の譲渡は取締役会の決議で行うと定款に書いても無効〔467条1項1号は総会の決議による承認を要求〕/理由=株主が自分の権限を手放しすぎて後で不利益を受けないよう守る/例外=法律自身が定款の定めで取締役会に認める場合〔454条5項・459条1項〕) 図:定款でできること・できないこと

  • 総会の守備範囲を同心円で
  • 定款で外へ広げる=可〔295条2項の定款で定めた事項〕
  • 法律が総会の決議を必要とする事項を取締役・取締役会など総会以外の機関が決定できる旨の定款の定め=無効〔295条3項〕
  • 例=事業の全部の譲渡は取締役会の決議で行うと定款に書いても無効〔467条1項1号は総会の決議による承認を要求〕
  • 理由=株主が自分の権限を手放しすぎて後で不利益を受けないよう守る
  • 例外=法律自身が定款の定めで取締役会に認める場合〔454条5項・459条1項〕

定款で、総会の権限をどこまで動かせるかを見ます。増やす向きと、手放す向きで、答えが違います。定款は、株主が自分たちで決めるものです。株主が自分の権限を増やすのは、誰も困りません。ところが、株主が自分の権限を手放しすぎると、後になって、不利益を受けかねません。たとえば、会社の運命を決める事項を、取締役会に丸投げするようなものです。後で定款を変えて取り戻そうとしても、その前に事業を売られてしまえば、元には戻りません。そこで、法律は、手放す向きにだけ、歯止めをかけています。条文は、295条3項です。

条文会社法295条3項

会社法第295条第3項 3 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。

広げる方向は、自由です。2項の定款で定めた事項として、会社法に規定のない事項も、総会の決議事項にできます。一方、法律が総会の決議を必要とした事項を、取締役会や代表取締役が決められる、と定款に書いても、その定めは無効です。冒頭の、取締役会を置く靴店でも、定款に、新しい店をどこに出すかは株主総会で決める、と書いておけば、駅前に出すという決議は総会の権限の内に入り、取締役を縛ります。反対の向きの例です。定款に、事業の全部の譲渡は、取締役会の決議で行う、と書いたとします。467条1項1号は、事業の全部の譲渡の契約の承認を、総会の決議に求めています。この定款の定めは、無効です。注意が一つあります。法律自身が、定款の定めがあれば取締役会が決められる、と認めている場合は、3項の問題ではありません。たとえば、中間配当、つまり事業年度の途中で一回に限ってする配当を、取締役会の決議でできる旨の定款は、454条5項が認めています。会計監査人を置く会社のうち、一定の要件を満たす会社が、自己株式の取得や剰余金の配当を取締役会で決める旨の定款も、459条1項が認めています。前に見た株式の譲渡の承認も、139条1項ただし書で、定款に別段の定めを置けば、総会以外の機関に決めさせられます。つまり、法律の根拠なしに、法律上の決議事項を他へ回すことはできない、と言うのが正確です。問いです。定款に、事業の全部の譲渡は取締役会の決議で行う、と書いてあります。この定めは有効でしょうか?

3項で、無効です。短答では、二つを対にして覚えてください。定款で、取締役会設置会社の総会の決議事項を増やせる、は正しい。定款で、法律上の決議事項を取締役会に委ねられる、は、原則として誤りです。

取締役会が選ぶ代表取締役を、総会でも選べる定款は有効か

この決定の構図(A=株主総会/B=取締役会/C=代表取締役/BからC=選定・解職〔362条2項3号〕は残る〔二重線〕/AからC=定款の定めで総会による選定が加わる/問い=取締役会を置く非公開会社で代表取締役を総会の決議によっても定められる旨の定款は有効か/結論=有効〔取締役会の選定・解職権限は否定されず監督の実効性は失われない〕/349条3項=取締役会設置会社を除く株式会社は総会の決議で代表取締役を定められる) 図:この決定の構図

  • A=株主総会
  • B=取締役会
  • C=代表取締役
  • BからC=選定・解職〔362条2項3号〕は残る〔二重線〕
  • AからC=定款の定めで総会による選定が加わる
  • 問い=取締役会を置く非公開会社で代表取締役を総会の決議によっても定められる旨の定款は有効か
  • 結論=有効〔取締役会の選定・解職権限は否定されず監督の実効性は失われない〕
  • 349条3項=取締役会設置会社を除く株式会社は総会の決議で代表取締役を定められる

ここまでの知識を使う、最高裁の事例です。代表取締役は、会社の名前で動く人でした。取締役会を置く会社では、取締役会が、取締役の中から代表取締役を選び、その仕事ぶりを見張り、必要なら解職して、替えます。選定と解職は、362条2項3号でした。これを、総会の決議によっても定められる、と定款に書くのは、2項の定款で定めた事項として、有効でしょうか。関係する条文を一つ足します。

条文会社法349条3項

会社法第349条第3項 3 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。

括弧書きのとおり、取締役会を置かない会社では、総会の決議で代表取締役を定められると、明文があります。ところが、取締役会を置く会社については、この規定は何も言っていません。ここが、問題の出どころです。事案です。取締役会を置く非公開会社の定款に、代表取締役は取締役会の決議によって定めるが、必要に応じて株主総会の決議によって定めることもできる、という定めがありました。株主総会で、Y2を取締役に選び、代表取締役にも定める決議がされました。それまで代表取締役だったXは、この決議は無効だなどとして、裁判の結論が出るまでY2の職務を止めるよう、仮の命令を求めました。Xの主張は、こうです。このような定款の定めは、代表取締役に対する取締役会の監督権限を弱めるから、無効だ。下の裁判所は申立てを退け、Xが最高裁に不服を申し立てました。最高裁は、全員一致でXの不服を退けました。定款の定めは有効、という判断です。理由は二つの段でできています。明文の制限がないこと、そして、取締役会の権限が残ること、です。この二つを意識して、判旨を読みます。

判例最高裁判所第三小法廷決定・平成29年2月21日 民集71巻2号195頁

総会決議によっても代表取締役を定められる定款の定め 「取締役会を置くことを当然に義務付けられているものではない非公開会社(法327条1項1号参照)が,その判断に基づき取締役会を置いた場合,株主総会は,法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り決議をすることができることとなるが(法295条2項),法において,この定款で定める事項の内容を制限する明文の規定はない。そして,法は取締役会をもって代表取締役の職務執行を監督する機関と位置付けていると解されるが,取締役会設置会社である非公開会社において,取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができることとしても,代表取締役の選定及び解職に関する取締役会の権限(法362条2項3号)が否定されるものではなく,取締役会の監督権限の実効性を失わせるとはいえない。」 …… 「以上によれば,取締役会設置会社である非公開会社における,取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めは有効であると解するのが相当である。」

有効とされた2つの理由(①明文の制限がない=定款で定める事項〔295条2項〕の内容を制限する規定は無い②取締役会の権限が残る=選定・解職〔362条2項3号〕は否定されない→監督の実効性は失われない/たとえ=鍵を持つ人が一人から二人に増えても元の人の鍵は取り上げられない) 図:有効とされた2つの理由

  • ①明文の制限がない=定款で定める事項〔295条2項〕の内容を制限する規定は無い②取締役会の権限が残る=選定・解職〔362条2項3号〕は否定されない→監督の実効性は失われない
  • たとえ=鍵を持つ人が一人から二人に増えても元の人の鍵は取り上げられない

一つずつ確かめます。一つ目は、明文の制限がないことです。2項の定款で定める事項の内容を、制限する規定は、法にありません。二つ目は、取締役会の権限が残ることです。総会でも選べるようにしただけで、取締役会の選定と解職の権限は、否定されません。だから、取締役会が代表取締役を替えられる力、つまり監督の実効性は、失われません。鍵を持つ人が一人から二人に増えても、元の人の鍵は取り上げられていません。前に見た、取締役会が代表取締役を選ぶ、という基本の形は、残っています。取締役会の権限を奪わず、重ねて、総会にも与えるだけです。この点が肝です。当てはめの例です。取締役会を置く非公開会社で、創業者が大株主として、総会で代表取締役を選びたいとします。定款に定めておけば、選べます。ただし、取締役会の選定と解職の権限は残るので、選定は二系統になります。総会が選んだ者を、取締役会が解職する、といった対立も、起こりえます。その場合でも、総会は、取締役の選任と解任を通じて、取締役会の顔ぶれそのものを替えることができます。この決定の射程は、慎重に見てください。判断したのは、取締役会設置会社である非公開会社で、取締役会の決議のほか、総会の決議によっても定められる、という定款です。問いです。総会だけが代表取締役を選べる、と定款に書いた場合にも、この結論はそのまま当てはまるでしょうか?

この決定の射程(判断したのは=取締役会設置会社である非公開会社×「取締役会の決議のほか総会の決議によっても」定められる定款/総会だけが選べる定款=取締役会の選定・解職の権限を奪う=そのまま当てはまるとは言い切れない/公開会社=同じく言い切れない/答案では限定を付ける) 図:この決定の射程

  • 判断したのは=取締役会設置会社である非公開会社×「取締役会の決議のほか総会の決議によっても」定められる定款
  • 総会だけが選べる定款=取締役会の選定・解職の権限を奪う=そのまま当てはまるとは言い切れない
  • 公開会社=同じく言い切れない
  • 答案では限定を付ける

取締役会の権限を奪うので、同じとは言えない気がします。決定が判断したのは、取締役会の決議のほか総会の決議によっても定められる、という定めです。総会だけが選べる定めにまで当てはまるとは、言い切れません。公開会社の場合も同じです。判旨は、取締役会を置くことを義務付けられていない非公開会社が、自分の判断で置いた場合、という前提から入っていました。公開会社は、取締役会を必ず置く会社なので、この前提に当たりません。答案で触れるなら、限定を付けてください。論文では、ここがそのまま使えます。定款による総会の権限の拡張の限界として、一つ目に、明文の制限がないこと、二つ目に、取締役会の権限が残り、監督の実効性が失われないこと、の二つで有効と結びます。

総会が意見を述べる場——勧告的決議

勧告的決議(会社法が総会の決議事項と定めていない事項について株主の意見を問う決議/例=買収防衛策の導入への賛否/法律上の株主総会決議ではなくそれだけでは法律関係を生じさせない/でも株主の多数意思が明らかになることは事実上・法的にも意味を持ちうる/取締役会を置く会社の2項の外にあるので法的な総会決議としてはできない→意見表明の場として総会にかける運用) 図:勧告的決議

  • 会社法が総会の決議事項と定めていない事項について株主の意見を問う決議
  • 例=買収防衛策の導入への賛否
  • 法律上の株主総会決議ではなくそれだけでは法律関係を生じさせない
  • でも株主の多数意思が明らかになることは事実上・法的にも意味を持ちうる
  • 取締役会を置く会社の2項の外にあるので法的な総会決議としてはできない→意見表明の場として総会にかける運用

もう一つ、決議事項の外側の話として、勧告的決議があります。会社法にも定款にも、総会の決議事項とされていない事項について、株主の意見を問う決議です。たとえば、買収防衛策、つまり、会社を買い取ろうとする者が現れたときに、その者の持ち株比率を下げるなどして買収を防ぐ仕組みを、導入することへの賛否です。法律上の株主総会決議ではないので、それだけで、何かの法律関係が生まれることはありません。ですが、株主の多数の意思が明らかになることは、事実上の意味を持ちます。法的な判断の中で、考慮されうる場面もあります。たとえば、経営陣が自分の地位を守るために新株を出したのではないか、つまり不公正な発行にあたるかを考えるとき、株主の意思に基づいていたかどうかが、材料になりえます。2項との関係も整理します。取締役会を置く会社でも、定款に書けば、その事項を総会の決議事項にできます。さきほど見た、広げる向きです。ただ、そうすると、総会の決議が取締役を縛ります。取締役会の判断は残したまま、株主の意見だけを聞きたい。そういうときに、定款には書かずに総会にかけるのが、勧告的決議です。ですから、勧告的決議が問題になるのは、主に、総会の権限が絞られた、取締役会を置く会社です。ここは、決議事項とは違う、拘束しない意見表明、と覚えてください。

会議の形の今——バーチャル株主総会

バーチャル株主総会の3つの型(①リアル会場の総会をネットで傍聴できる〔傍聴の株主は出席していないので質問などはできない〕=会社法のままで可/②リアル会場の総会にネットで出席し質問もできる=会社法のままで可/③リアル会場を開かずネットだけで出席する=会社法の本則ではできない〔招集の決定事項に日時及び場所=298条1項1号〕/③を可能にする特例=産業競争力強化法66条=上場会社であること・経済産業大臣及び法務大臣の確認・定款に場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定める/会社法そのものを見直す議論がある) 図:バーチャル株主総会の3つの型

  • ①リアル会場の総会をネットで傍聴できる〔傍聴の株主は出席していないので質問などはできない〕=会社法のままで可
  • ②リアル会場の総会にネットで出席し質問もできる=会社法のままで可
  • ③リアル会場を開かずネットだけで出席する=会社法の本則ではできない〔招集の決定事項に日時及び場所=298条1項1号〕
  • ③を可能にする特例=産業競争力強化法66条=上場会社であること・経済産業大臣及び法務大臣の確認・定款に場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定める/会社法そのものを見直す議論がある

もう一つだけ、会議の形の今を見ます。ネットを使った株主総会、バーチャル株主総会には、三つの型があります。一つ目は、リアルの会場で開く総会を、ネットで傍聴できる型です。傍聴の株主は、出席していないので、質問などはできません。二つ目は、リアルの会場の総会に、ネットで出席する型です。質問もできます。この二つは、リアルの総会を開いているので、会社法のままでできます。三つ目は、リアルの会場を開かず、ネットだけで出席する型です。これは、会社法の本則では、できないと解されています。会社法は、総会を、場所を定めて開く会議として作っているからです。総会を招集するとき決めなければならない事項に、日時及び場所があります。298条1項1号です。

上場会社には、特例があります。産業競争力強化法66条の、場所の定めのない株主総会です。要素は三つです。一つ目は、上場会社であること。二つ目は、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けること。三つ目は、定款に、場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定めることです。なお、会社法そのものを見直す議論も、あります。ただ、まだ成立していませんので、現在の扱いは、いま見た形です。

総会の権限、もう一度

この回のまとめ(総会=株主が会社の意思を決める機関であり会議・必ず置く/取締役会を置かない会社=何でも〔295条1項〕・置く会社=会社法と定款の事項に限る〔2項〕・基準は取締役会の有無/絞られた総会が決める=人・会社の形・株主の取り分・利益相反/定款で広げるのは可・法律上の決議事項を他へ回すのは無効〔3項〕/最決平29=取締役会の権限が残るので総会でも代表取締役を定められる定款は有効〔射程は取締役会設置会社である非公開会社〕) 図:この回のまとめ

  • 総会=株主が会社の意思を決める機関であり会議・必ず置く
  • 取締役会を置かない会社=何でも〔295条1項〕・置く会社=会社法と定款の事項に限る〔2項〕・基準は取締役会の有無
  • 絞られた総会が決める=人・会社の形・株主の取り分・利益相反
  • 定款で広げるのは可・法律上の決議事項を他へ回すのは無効〔3項〕
  • 最決平29=取締役会の権限が残るので総会でも代表取締役を定められる定款は有効〔射程は取締役会設置会社である非公開会社〕

まとめです。一本の筋は、総会は、株主の意思を会社に届ける道で、その広さが、会社の型で変わる、でした。取締役会を置かない会社の総会は、何でも決められます。295条1項です。取締役会を置く会社の総会は、会社法と定款に書いた事項だけです。2項です。基準は、公開会社かどうかではなく、取締役会の有無です。絞られた総会は、人を決める事項、会社の形を変える事項、株主の取り分に関わる事項、利益が相反する事項を決めます。定款で決められる事項を広げるのは自由です。ですが、法律が総会の決議を必要とした事項を、他の機関に回す定款の定めは、無効です。3項です。そして、最高裁は、取締役会の権限が残る限り、総会でも代表取締役を定められる定款は有効としました。

短答で問われやすいのは、1項、2項、3項の区別です。取締役会設置会社の総会は一切の事項を決議できる、は誤りです。定款で法定の決議事項を取締役会に委ねられる、も、法律の根拠がなければ誤りです。論文では、ここは論点になりえます。取締役会設置会社の総会が権限外の事項を決議した場合は、会社法にも定款にもない事項の決議で、会社を縛る決議としての効力を持ちません。また、定款による総会の権限の拡張の可否は、さきほどの決定の二つの理由で結びます。

参照条文

  • 会社法296条1項・2項
  • 会社法295条1項・2項
  • 会社法466条1項
  • 会社法295条3項
  • 会社法349条3項

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