刑法ゼロから刑法#111

強要罪

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第13章 個人的法益②|自由に対する罪 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

実際に土下座までさせられたら

実際に、土下座までさせられた 図:実際に、土下座までさせられた

前回、脅迫罪の骨格が固まりました。意思決定の自由を守る罪で、相手が現実に怖がらなくても、害を加える旨が伝わった時点で成立する、抽象的危険犯でした。今日は、まずその3段階を整理してから、もう1つの罪、強要罪に進みます。先に1つ、問いを出しておきます。Aが、Bに向かって「殴るぞ」と言って脅し、実際にBに土下座までさせたとします。これは、前回学んだ脅迫罪だけで説明がつくでしょうか。脅迫罪は、怖がらせた時点で成立するんでした。だったら、土下座までさせなくても、もう脅迫罪は成立しているはずです。ですが、Bは実際に土下座までさせられています。この「実際にさせられた」という部分は、脅迫罪の説明の中には出てきません。今日学ぶ強要罪は、まさにこの部分を扱う罪です。先に答えの形だけ言っておくと、強要罪は、脅した結果、相手が実際に何かをさせられて初めて成立する罪です。

「脅迫」という言葉の3つの広さ

同じ2文字でも、罪によって広さが違う 図:同じ2文字でも、罪によって広さが違う

まず、「脅迫」という言葉の広さを整理します。実は、刑法の中で「脅迫」という言葉は、条文によって指している範囲が違います。暴行という言葉が、罪によって広さを変えていたのと同じ発想です。ただし、段の数は違います。脅迫のほうは3段階です。いちばん広いのが広義の脅迫で、誰に害を加えると告げるか、どんな害かを問いません。公務執行妨害罪や騒乱罪の脅迫がこれにあたります。暴行の回では、騒乱罪は最広義、公務執行妨害罪は広義と、別の段に置きました。暴行は、人に向いているかどうかで段が分かれたからです。脅迫は、相手に告げるものなので、いつも人に向いています。だから、その分け目が無く、2つの罪が同じ広義にまとまります。次が狭義の脅迫で、相手方本人か、その親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対する加害の告知に限られます。これが、前回学んだ脅迫罪の「脅迫」、そして今日学ぶ強要罪の「脅迫」です。

そしていちばん狭いのが最狭義の脅迫で、相手の反抗を抑圧する程度の脅迫に限られます。強盗罪の脅迫がこれにあたります。暴行の回と同じ理屈です。暴行の広さは、その条文が何を守っているかで決まりました。脅迫も同じです。公務執行妨害罪が守るのは、公務員が仕事を円滑に進めることです。ですから、警察官に「逮捕したら、通りすがりのあの人を殴るぞ」と告げるような、本人とも親族とも関係の無い人への加害の告知でも、仕事を妨げるに足りる脅しであれば足ります。実際に仕事が止まったかどうかは問いません。脅迫罪と強要罪が守るのは、その人自身の意思決定の自由で、条文も本人か親族の、生命・身体・自由・名誉・財産に絞っています。反対に強盗罪は、法定刑がずっと重い罪です。重く罰する以上、ただ怖がらせるだけでは足りず、夜道で刃物を突きつけて「お金をよこせ」と迫るような、相手が抵抗できなくなるほどの脅迫が要ります。守るものが公務なら広く、重く罰する犯罪なら狭く、というわけです。今日はこの3段階のうち、真ん中の狭義の脅迫を使う罪、強要罪に入ります。

223条——強要罪の条文

脅迫または暴行で、義務のないことをさせる 図:脅迫または暴行で、義務のないことをさせる

では、223条の全文を確認しましょう。

条文刑法223条

刑法223条(強要罪) 「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の拘禁刑に処する。」 「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。」 「前二項の罪の未遂は、罰する。」

1項が相手方本人への加害の告知、2項が親族への加害の告知、3項が未遂処罰の規定です。まず手段に注目してください。脅迫だけでなく、暴行も含まれています。そしてもう1つ、条文の後半にも注目してください。「義務のないことを行わせ」「権利の行使を妨害した」という結果が、条文の中に書き込まれています。脅迫罪には無かった部分です。

保護法益——意思決定の自由

守っているものは、脅迫罪と同じ 図:守っているものは、脅迫罪と同じ

強要罪が守っている保護法益は、脅迫罪と同じ、意思決定の自由です。ここは、脅迫罪のときと違って、学説上の争いはほとんどありません。同じ意思決定の自由を、どういう形で守るか、その守り方が脅迫罪と強要罪で違います。ここからが今日の本題です。

法的性質——侵害犯

現実に法益が侵害されないと、成立しない 図:現実に法益が侵害されないと、成立しない

ここで、前回の復習を1つ挟みます。脅迫罪は、相手が現実に怖がらなくても成立する犯罪でした。これは、犯罪のどういう性質だったか、覚えていますか?抽象的危険犯です。意思決定の自由が現実に侵害されたことまでは要らなくて、危険があれば足りる、という性質でした。ここが、強要罪との決定的な違いです。強要罪は、侵害犯です。強要罪が既遂になるためには、意思決定の自由という法益が、現実に侵害された結果、つまり「義務のないことを実際に行わせた」、または「権利の行使を実際に妨害した」という結果まで発生していることが必要です。脅迫罪は、害を加える旨を告げて相手に伝わった時点で、もう成立していました。強要罪は、それだけでは足りません。

土下座の場面に入る前に、1つたとえ話をします。ドミノ倒しを思い浮かべてください。1枚目のドミノを指で倒す動作、これが脅迫や暴行にあたります。脅迫罪は、この1枚目を倒した時点で、もう成立する罪です。1枚目が倒れれば、あとは連鎖して最後まで倒れていくだろう、という危険があれば十分だからです。これに対して強要罪は、最後の1枚まで実際に倒れきるのを見届けないと成立しない罪です。1枚目を倒しても、途中で連鎖が止まってしまえば、強要罪はまだ成立していません。ここで1つ、自分で考えてみてください。Aが「殴るぞ」と言ってBを脅しただけで、Bがまだ土下座していない段階では、強要罪は成立しているでしょうか。

ドミノでいえば、1枚目を倒しただけで、最後まで倒れきっていない状態です。この場合は、強要罪の未遂にとどまります。既遂になるかどうかの分かれ目は、ドミノが最後まで倒れきったかどうか、つまり結果が実際に発生したかどうかです。

行為——脅迫または暴行

脅迫は前回のまま、暴行は身体に触れなくてもよい 図:脅迫は前回のまま、暴行は身体に触れなくてもよい

では、ドミノでいう「1枚目を倒す動作」、つまり強要罪の実行行為を見ていきます。1つは脅迫です。ここでの脅迫は、前回学んだ脅迫罪の脅迫と同じ内容、狭義の脅迫です。相手方本人か親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対する加害の告知に限られます。もう1つの実行行為が暴行です。ここでの暴行は、広義の暴行です。人に対するものであれば足り、身体に対するものである必要はない、という定義でした。人に対するものであれば足りるという広さは、公務執行妨害罪と強要罪で共通していました。なぜ、身体に触れていなくても意思決定の自由が害されうるかというと、相手が現実に恐怖や困惑を感じて、判断がゆがめられるのに、直接体に触れる必要は無いからです。たとえば、Bの目の前で、Bが大事にしている物を叩き壊す行為でも、意思決定の自由を脅かす力を持ちえます。

結果——義務のないことを行わせた/権利の行使を妨害した

「させた」か「妨げた」かの、どちらかが現実に起きている 図:「させた」か「妨げた」かの、どちらかが現実に起きている

次は、結果です。強要罪が既遂になるには、「義務のないことを行わせた」こと、または「権利の行使を妨害した」ことのどちらかが、現実に発生していなければなりません。まず、「義務のないことを行わせた」の具体例です。使用人に、水の入ったバケツを何時間も頭の上に持たせ続けた事案で、強要罪の成立が認められています。バケツを頭上に掲げ続ける義務など、そもそもありませんから、これは義務のないことを行わせたにあたります。暴行罪ではなく強要罪で捉えるのは、罰しているものが違うからです。暴行罪は、体に力を加えたこと自体を罰する罪です。この事案で問題になっているのは、脅しや力を使って、何時間もバケツを持たせ続けた、つまり義務のないことを現実にさせたという結果のほうです。その結果まで起きているので、強要罪の枠組みで捉えられます。もう1つの例が、理由もないのに謝罪文を書かせた事案です。謝る義務が無いのに書かせているので、これも義務のないことを行わせたにあたります。

次に、「権利の行使を妨害した」の具体例です。告訴するという正当な権利を持っていた人に、その告訴を中止させた事案で、強要罪の成立が認められています。告訴は、被害者に認められた適法な権利ですから、それを行使させないようにする行為は、権利の行使の妨害にあたります。前回見たのは、告訴のように、それ自体は適法な行為でも、「告訴するぞ」と告げて何かを要求すれば脅迫にあたる、という話でした。つまり、脅す手段の側の話です。今日のこの場面は、その脅迫や暴行によって、実際に告訴という権利の行使が妨げられた、という結果の側の話です。もう1つの例が、競技大会への出場を、脅されてやめさせられた事案です。大会に出場する権利を、現実に行使できなくなっているので、権利の行使の妨害にあたります。

因果関係——現実の畏怖とその結果としての行為

脅されて怖がったから、その行為に出た、という流れが必要 図:脅されて怖がったから、その行為に出た、という流れが必要

次は、因果関係です。強要罪が既遂になるには、脅迫や暴行によって、相手方が現実に畏怖し、その畏怖の結果として、義務のない行為をした、または権利の行使を妨害された、という流れが必要です。先ほどのドミノでいえば、1枚目を倒した力が、途中で途切れずに最後の1枚まで伝わっている必要があります。たとえば、Aが「謝罪文を書け。書かないと殴るぞ」とBを脅したのに、Bは全く怖がらず、むしろAを気の毒に思って、謝罪文を書いてあげたとします。この場合は、強要罪は未遂にとどまります。謝罪文は書かれていますが、それはAの脅迫が怖くて書いたのではなく、Bの同情心から出た行動です。脅迫という行為はありますが、それが現実の畏怖を通じて結果につながっていない以上、ドミノの連鎖が途中で切れているのと同じだからです。義務のない行為をさせたという外形が同じでも、その行為に至った原因が脅迫による畏怖でなければ、強要罪の既遂は認められません。ここは、論文でも因果関係の論点として問われうる場面です。今日は、この2段階の因果関係が必要だ、という点だけ押さえておいてください。

未遂罪——223条3項

脅迫罪には無い、未遂処罰の規定 図:脅迫罪には無い、未遂処罰の規定

最後に、未遂罪です。223条3項は、1項・2項の罪の未遂を罰すると定めています。前回、Aが「殴るぞ」と書いた手紙を出したのに、宛先を間違えてBに届かなかった場合は、脅迫罪は成立しない、という話をしました。脅迫罪には未遂処罰規定が無いので、未完成のまま終わったら、それだけで不処罰です。ところが強要罪は違います。侵害犯である以上、結果が発生しなければ既遂にはなりませんが、その代わり、未遂処罰の規定があるので、結果が発生しなくても、脅迫や暴行という実行行為に着手していれば、未遂罪として処罰されます。侵害犯である強要罪は、脅してから結果が出るまでの間に、途中で止まる段階がありえます。3項は、その止まった段階も処罰の対象にしています。

脅迫罪との関係

手段の脅迫は、強要罪の中で評価し尽くされる 図:手段の脅迫は、強要罪の中で評価し尽くされる

ここで、冒頭の問いに戻ります。Aが「殴るぞ」と言って脅し、実際にBに土下座までさせた場合、脅迫罪だけで説明がつくかという問いでした。脅迫という行為も、義務のないことを行わせたという結果も、両方そろっていますから、強要罪が成立します。では、その手段として使った脅迫について、脅迫罪も別に成立するのでしょうか。確かに、脅迫罪の要件も満たしてはいます。それでも、手段として使った脅迫は、強要罪の中で評価し尽くされるので、脅迫罪は別に成立しません。強要罪だけが成立する、という結論になります。強要罪という、より重い評価の中に、脅迫の悪質性もすでに織り込まれていると考えるからです。これが、冒頭の問いへの答えです。

今日の地図(保存版)

1枚目で足りる罪と、最後まで倒れきって足りる罪 図:1枚目で足りる罪と、最後まで倒れきって足りる罪

今日の内容を整理します。脅迫罪は抽象的危険犯で、脅迫という行為だけで成立し、未遂処罰の規定はありません。強要罪は侵害犯で、脅迫または暴行という行為に加えて、義務のないことを行わせた、または権利の行使を妨害したという結果、そしてその結果が現実の畏怖から生じたという因果関係まで必要です。そのかわり、未遂処罰の規定があります。ドミノでいうと、脅迫罪は1枚目を倒せば成立、強要罪は最後まで倒れきって初めて成立、ということでしたね。この対比の軸1本から、今日学んだ要件のほとんどが説明できます。これで、前後編を通して、意思決定の自由を守る2つの罪、脅迫罪と強要罪が固まりました。

参照条文

  • 刑法223条

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