不同意性交等罪と致死傷罪
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第13章 個人的法益②|自由に対する罪 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
性的自由の区画、2本目へ
図:暴行も脅迫も無く、同意もあるように見えるのに、罪になる場合がある
前回は、不同意わいせつ罪を見ました。今日は、不同意性交等罪、監護者わいせつ及び監護者性交等罪、それに致死傷罪という3つの条文に進みます。実は、前回作った176条の骨格をそのまま使い回すだけなので、身構えなくて大丈夫です。先に2つ問いを立てておきます。1つ目、暴行も脅迫も無く、同意しているようにも見える関係で、それでも処罰される場面があります。どういう関係のときでしょうか。2つ目です。わいせつな行為をしたあと、行為者が逃げようとして、相手にけがをさせてしまいました。これは、致傷罪になるでしょうか。
177条——行為の差し替え
図:177条は、176条の8類型を条文の言葉で引用している
まず条文を確認する前に、1つ思い出してほしいことがあります。前回見た176条の3段のうち、177条が変えているのはどの段でしたか?さっきの話だと、最後の行為の段です。それを、条文自体が言葉で示しています。177条1項の柱書を見てください。
条文刑法177条1項柱書
刑法177条第1項(不同意性交等) 「前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。」
177条は、原因の部分(8類型)を自分で書き直さず、176条1項各号を指し示す形で済ませています。書き手自身が、ここは176条と同じだと条文の文言で示しているとも言えます。困難な状態にさせる、または、その状態にあることに乗じるという2段目の書き方も、176条とまったく同じです。違うのは、最後の行為の部分だけ。わいせつな行為ではなく、性交、肛門性交、口腔性交、または、膣もしくは肛門に身体の一部、陰茎を除きますが、もしくは物を挿入する行為であってわいせつなもの、と定義されています。これをまとめて「性交等」と呼びます。
わいせつな行為が、より限定された行為に置き換わった、ということですか。そう考えて大丈夫です。それから、条文の最後には、176条と同じく「婚姻関係の有無にかかわらず」とあります。夫婦の間でも成立するということです。続けて、2項と3項です。
条文刑法177条2項
刑法177条第2項(不同意性交等) 「行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。」
条文刑法177条3項
刑法177条第3項(不同意性交等) 「十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。」
2項は、誤信や人違いにさせること、または乗じること。3項は、16歳未満の者に対する行為で、13歳以上の場合には5歳以上年上であることを要する、という規定です。文言の作りは、176条の2項、3項と、行為の部分を除いてまったく同じです。
176条と共通する部分
図:前回すでに解説した部分は、そのまま使い回す
8つの類型の中身、困難な状態の意味、婚姻関係の有無を問わないこと、2項の誤信・人違い、3項の年齢差の読み方は、前回の176条とまったく同じです。ここは、前回見た中身を、そのまま当てはめてください。
「性交等」の意味
図:「性交等」とは、条文がこう定義している行為をいう
もう少し、性交等の中身を見ておきます。改正で加わったのが、膣または肛門への、身体の一部、陰茎は除きますが、または物を挿入する行為です。これが加わったことで、対象になる行為の幅が広がりました。それから、この罪の主体と客体も、176条と同じく、どちらも性別を問いません。陰茎を除く、というかっこ書きがあるのは、なぜですか。陰茎による挿入行為は、性交、肛門性交、口腔性交という、それより前の部分ですでに対象になっているからです。かっこ書きは、条文の中で行為が重ならないように、書き分けているだけです。
176条との関係・法定刑
図:176条と177条の比較——「行為」の段だけが違う
法定刑を確認します。176条は6か月以上10年以下の拘禁刑、177条は5年以上の有期拘禁刑です。有期拘禁刑の上限は、第11章で見たとおり20年ですから、177条は5年から20年の間、ということになります。それから、同じ機会に、わいせつな行為と性交等の両方に及んだ場合はどうなるか。この場合は、軽い176条が、重い177条に吸収される一罪として扱われます。2つの罪が別々に成立して足し合わされる、ということにはなりません。同じ機会に、同じ相手の性的自由を侵害している以上、重い177条で1回評価すれば、わいせつな行為の分も評価し尽くせるからです。
実行の着手
図:現実の行為が始まっていなくても、着手が認められることがある
177条にも、176条と同じく未遂処罰がありますが、どの時点で着手を認めるかは、判例が示した基準を見ておく必要があります。
判例最高裁判所決定(刑集24巻7号585頁)
実行の着手の判断基準 「引きずり込もうとした段階においてすでに強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において強姦行為の着手があつた。」
性交等そのものの動作、つまり直接の手段が、まだ現実に始まっていなくても、性交等に至る客観的な危険性が明らかに認められる時点で、着手が認められる、という考え方です。
図:移動の手段を講じた時点で、着手が認められる
例えば、行為者Aが、抵抗するBを、性交等をするために別の場所へ移動させようとして、車に引きずり込んだとします。この時点では、まだ性交等そのものの動作には入っていません。それでも、この判例の考え方によれば、移動の手段を講じたその時点で、すでに性交等に至る客観的な危険性が明らかに認められるとして、着手が認められることになります。車に引きずり込んでしまえば、Bが自分で逃げ出す余地はほとんど無くなり、移動した先で性交等に進むまでに、大きな障害が残っていないからです。ただし、この判例は、暴行・脅迫を手段とすることを要件としていた、改正前の177条の下でのものです。現行の177条、8類型による困難な状態にさせる、または乗じるという類型に、そのままあてはまるとは限らない点には注意してください。
179条——原因の別入口
図:176・177条との違い——8類型を経由しない、もう1つの入口
ここで、冒頭の1つ目の問いに答えます。暴行も脅迫も無く、同意もあるように見えるのに、それでも処罰される関係とはどんな関係だったか、覚えていますか。実は、8類型のどれにも当たらなくても、処罰される関係がもう1つあります。それが、179条の監護者わいせつ及び監護者性交等の罪です。
条文刑法179条1項
刑法179条第1項(監護者わいせつ) 「十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条第一項の例による。」
条文刑法179条2項
刑法179条第2項(監護者性交等) 「十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条第一項の例による。」
条文には、176条の8類型も、困難な状態という言葉も出てきません。そこが179条の特徴です。要件は、18歳未満であること、その者を現に監護する者であること、そして、その影響力があることに乗じたこと、この3つだけです。「現に監護する者」とは、親権のような法律上の立場があるかどうかではなく、実際にその子の生活全般の面倒を見て、監督し保護している人のことです。典型は、一緒に暮らしている実親や養親です。「乗じて」は、影響力を使うために特別な働きかけをすることまでは要らず、その影響力が及んでいる状態のもとで行為をすれば足りる、という意味です。暴行・脅迫も、心神喪失や抗拒不能につけこむことも要りません。
176条や177条が処罰しているのは、8類型のような原因によって、意思決定の自由そのものが失われた状態につけこむ行為です。これに対して179条は、監護する立場そのものが持つ影響力を利用したこと自体を、処罰の根拠にしています。18歳未満という年齢も、176条や177条の16歳未満より広く取られているのは、監護関係にある未成年者は、より広い年齢層で、この影響力にさらされていると考えられるからです。1項は「176条第1項の例による」、2項は「177条第1項の例による」とありますから、法定刑もそれぞれ176条、177条と同じです。
前回見た8号では、上司の影響力があるだけでは足りず、断れば不利益を受けると恐れて、断れない状態、つまり困難な状態になっていることまで必要でした。179条は、その状態を一つ一つ確かめることを求めていません。例えば、Aが、一緒に暮らして生活の面倒を見ている17歳のBに対して、その立場のまま行為に及べば、Bが嫌だと言わず、抵抗もしなかったとしても、179条にあたります。18歳未満の子は、衣食住を監護者に頼って暮らしているので、その人の求めを断る自由が、はじめから乏しいと考えられるからです。逆に、同じ17歳のBに対して、部活動のコーチのCが、その立場を使って行為に及んだ場合はどうでしょう。コーチは、Bの生活全般の面倒を見て、監督し保護しているわけではないので、通常は現に監護する者にはあたりません。この場合は179条ではなく、8号のような類型によって困難な状態になっていたかを、176条や177条で確かめることになります。
181条——結果の継ぎ足し
図:罪を犯し、それによって人を死傷させた場合の規定
続いて、181条です。これは、176条・177条・179条の罪やその未遂罪を犯し、それによって人を死傷させた場合を定める規定です。第12章で見た、結果的加重犯という枠組みの1つになります。
条文刑法181条1項
刑法181条第1項(不同意わいせつ等致死傷) 「第百七十六条若しくは第百七十九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の拘禁刑に処する。」
条文刑法181条2項
刑法181条第2項(不同意わいせつ等致死傷) 「第百七十七条若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の拘禁刑に処する。」
1項は、わいせつな行為の系統、176条と179条1項の罪について。2項は、性交等の系統、177条と179条2項の罪について定めています。法定刑は、無期または3年以上と、無期または6年以上で、性交等の系統のほうが重くなっています。
死傷の結果に故意がある場合
図:死亡結果に故意があるときは、殺人罪との観念的競合になる
ここから少し複雑な話をします。181条は、死傷させることについて、故意が無い場合、つまり結果的加重犯としての場合を想定した規定です。では、行為者が最初から殺すつもりだった場合、あるいは、けがをさせるつもりだった場合はどうなるでしょうか。
判例最高裁判所判決(刑集10巻10号1455頁)
死亡結果に故意がある場合の処理(改正前の判例) 改正前の強姦致死罪と殺人罪は、刑法54条1項前段の観念的競合となり、重い殺人罪の刑で処断される、と判断された。
死亡結果について故意がある場合、判例は、改正前の強姦致死罪と殺人罪の、観念的競合として扱いました。観念的競合は、第10章で見たとおり、1つの行為が2つ以上の罪名に触れるときに、最も重い刑で処断する、という扱いです。ここでは、重い殺人罪の刑で処断されました。この判例は、改正前の強姦致死罪についてのものですから、現行の不同意性交等致死罪にそのままあてはまると言い切ることはできません。もっとも、致死罪と殺人罪の観念的競合とすると、死亡結果を2回評価することになってしまうという指摘もあり、不同意性交等罪そのものと殺人罪の観念的競合とする見解も有力です。ただし、どちらの見解を採っても、結局は重い殺人罪の刑で処断される、という結論は変わりません。
図:刑の均衡と、二重評価を避けることを、両方満たす見解
続いて、けがをさせることについて故意がある場合です。例えば、Aが、Bがけがをしてもかまわないと思いながら、不同意性交等罪にあたる行為に及び、実際にBにけがをさせたとします。ここでは3つの見解が対立します。1つ目のA説は、不同意性交等罪と傷害罪の観念的競合とする見解です。先ほどの死亡の場面で有力だった見解と同じ形ですが、けがの場面ではうまくいきません。死亡なら、殺人罪の刑が死刑まであるので問題は起きませんでした。ところが、傷害罪の刑の上限は15年、177条の上限は20年ですから、重いほうをとっても上限は20年です。一方、けがをさせるつもりが無く、うっかりけがをさせた人は、181条2項で無期まであり得ます。わざとけがをさせた人のほうが軽くなってしまう。これが、刑の均衡を欠くということです。2つ目のB説は、不同意性交等致傷罪と傷害罪の観念的競合とする見解ですが、これでは、Bのけがという1つの結果を、致傷罪と傷害罪で2回数えることになってしまいます。
そこで、3つ目のC説、不同意性交等致傷罪のみが成立するとする見解が、妥当とされています。181条2項の、無期まである重い枠を使うので、わざとけがをさせた人が軽くなることはありません。しかも、けがを1回しか数えません。刑の均衡と、二重評価を避けること、この2つを両方満たす答えだからです。
死傷の原因
図:手段そのものでなくても、随伴する行為から生じればよい
ここで、冒頭の2つ目の問いに答えます。わいせつな行為の後、逃げようとして相手にけがをさせた場合、致傷罪になるでしょうか。
判例最高裁判所決定(刑集62巻1号1頁)
死傷の原因は、手段そのものに限らない 行為をする意思をすでに失っていた後の、逃走のための暴行であっても、その暴行がわいせつな行為に随伴するものであるといえるときは、致傷罪が成立する。
判例は、けがの原因が、わいせつな行為や性交等の、手段そのものである必要はない、としています。手段そのものから生じた場合に限らず、その行為に随伴する行為から生じた場合も含まれる、という考え方です。
図:行為をする意思を失った後の暴行でも、随伴するものにあたる
例えば、Aが、Bに対してわいせつな行為をしたあと、Bに気づかれて、行為を続ける意思を失ったとします。それでも、その場から逃げるためにBに暴行を加えてけがを負わせれば、その暴行は、わいせつな行為に随伴するものとして、致傷罪の対象になります。一連の流れがまだ続いている間の出来事だ、と考えてください。学説では、この考え方を、手段としての行為そのものだけでなく、それと密接に関連する行為も含めて考える、と整理しています。この判例も、改正前の準強制わいせつ罪、当時の178条についてのものですから、現行法への射程を断定はできませんが、考え方としては押さえておいてください。
非親告罪
図:告訴が無くても、起訴できる罪になった
ここからは、手続の話に少しだけ触れておきます。以前は、性的自由に対する罪の多くは、被害者などによる告訴が無ければ起訴できない、親告罪とされていました。しかし、告訴を求めることは、被害者に大きな精神的負担を課すという指摘を受けて、平成29年の法律改正で、性的自由に対する罪はおよそ非親告罪とされました。告訴が無くても、起訴できるようになったということです。この改正は、令和5年の改正とは別のものですから、混同しないよう注意してください。
周辺の規定
図:前段階や周辺を捕捉する規定も、いくつかある
今日扱った条文の周辺には、いくつか関連する規定があります。182条は、16歳未満の者に対する面会要求等を処罰する規定で、性犯罪の前段階を捕捉するものです。それから、刑法典の外に、性的姿態撮影等処罰法という特別法があり、無断撮影などを独自に処罰しています。公訴時効、つまり起訴できる期限も、延ばされています。これらは、名前と位置づけだけ押さえておいてください。
未遂——180条
図:未遂も、罰する対象に含まれる
条文刑法180条
刑法180条(未遂罪) 「第百七十六条、第百七十七条及び前条の罪の未遂は、罰する。」
前回も触れた180条を、もう一度確認します。176条、177条、そして前条、179条の罪の未遂を罰する、という規定です。177条にも、179条にも、未遂処罰があります。
今日の地図(保存版)
図:176条の骨格に、差し替え・入口の追加・継ぎ足しをしたもの
今日の内容を整理します。176条は、原因、困難な状態、行為という3段のレシピでした。177条は、その最後の行為の段を、性交等に差し替えたもの。179条は、最初の原因の段に、監護する者であることによる影響力という別の入口を足したもの。181条は、レシピが出来上がった後に、死傷結果というもしもの場合を継ぎ足したものです。冒頭の2つの問い、どちらも答えが出ましたね。8類型のどれにも当たらなくても、監護関係にあれば179条にあたりますし、行為をする気を失った後の暴行でも、随伴するものとして致傷罪になります。今日で、性的自由に対する罪の全体像が固まりました。
参照条文
- 刑法177条1項柱書
- 刑法177条2項
- 刑法177条3項
- 刑法179条1項
- 刑法179条2項
- 刑法181条1項
- 刑法181条2項
- 刑法180条