違法目的の立入りと不退去罪
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第13章 個人的法益②|自由に対する罪 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の結びから
図:開いている入口を、悪いことを考えて通っただけでも「侵入」になるのか
前回は、住居侵入罪の1本目として、130条前段の「侵入」の意味を、住居権説と平穏説という2つの保護法益の対立から導きました。今日はその続きで、この対立を、もっと難しい場面に当てていきます。まず1つ目の問いです。営業中のデパートに、万引きをするつもりで、開いている正面入口から入りました。店員の誰にも止められていません。それでも「侵入」になるでしょうか。もう1つ、問いを立てておきます。強盗をするつもりで、家の玄関先で「こんばんは」と挨拶したところ、家の人が「どうぞ」と言って迎え入れてくれました。家の人は入ってよいと言っています。それでも「侵入」でしょうか。
相手が「どうぞ」と言っているのに、犯罪になるんですか。それはさすがに変な気がします。
前回の受け——「侵入」の定義
図:誰の意思に反したか(住居権説)、どんな態様か(平穏説)
前回、「侵入」の定義、覚えていますか? 住居権説なら、誰の意思に反した立入りが「侵入」でしたか。たしか、住居権者、住居以外の客体だと管理権者の、意思に反する立入りが「侵入」でした。平穏説だと、態様が平穏を害するものかどうかで決まる、でした。今日はこの2つの物差しを、そのまま新しい場面に当てていきます。答案はどちらの説に立ってもかまいません。理由を保護法益からきちんと言えることが大事、というのも前回と同じです。
公開建物への違法目的の立入り
図:通常の許可の範囲に入っているか、それとも外れているか
デパートやホテルのロビー、官公庁の窓口のように、一般に立入りが許容されている場所は、原則として「侵入」にあたりません。管理権者が、来る人ひとりひとりに尋ねる代わりに、前もってまとめて「どうぞ」と許可しているからです。この、前もってまとめて与えている許可を、包括的な同意と言います。問題は、その場所に、万引きのような違法な目的で入った場合です。ここには3つの割れ方があります。1つ目、住居権説に立ちながら、違法目的での立入りは管理権者の意思に反するものに他ならないから侵入にあたるとする立場。2つ目、同じ住居権説に立ちながら、通常の態様の立入りである限り、管理権者の包括的な同意の範囲内だから侵入にあたらないとする立場。3つ目、平穏説に立って、通常の態様である限り平穏を害していないから侵入にあたらないとする立場です。
割れます。焼肉の食べ放題のお店を思い浮かべてください。お店は「好きなだけ食べてよい」という許可を客に与えています。ですが、その許可は「店で食べる客」に与えたものであって、「大きな容器を持ち込んで、持ち帰り用に肉を詰め込みに来た人」にまで与えたものではありません。1つ目の立場は、目的そのものが許可の外にあると考える立場です。これに対して2つ目と3つ目は、入口を通る姿が外から見て普通の客と変わらない以上、その立入りは許可の範囲内、あるいは平穏なままだ、と見る立場になります。1つ目の立場なら、目的そのものが管理権者の意思に反しますから、正面入口から堂々と入っていても侵入にあたります。2つ目と3つ目の立場なら、入口を通った時点では侵入にはあたりません。なお、実際に商品を持ち去れば窃盗罪の問題になりますが、それは立入りとは別の話です。答案では、どの立場に立ってもかまいません。
判例最高裁判所決定(刑集61巻5号379頁)
違法目的による立入りと管理権者の意思 以上の事実関係によれば、被告人らは、現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり、そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから、その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立するものというべきである。
判例を見ておきます。この事案は、ATM利用客のカードの暗証番号などを盗撮する目的で、行員が常駐しない銀行の出張所に、営業中に立ち入ったというものです。立入りの外観は、普通にATMを使いに来た客と何も変わりません。それでも判断は、この目的での立入りは管理権者の意思に反することが明らかだから、建造物侵入罪が成立する、というものでした。判決は学説の名前を名乗っているわけではありませんが、外観が普通でも意思に反すれば侵入にあたる、という筋道は、先ほどの1つ目の立場と同じ結論です。
マンション共用部分への立入り
図:前回(邸宅とその囲繞地)と今回(住宅の共用部分)、どちらも管理者の意思が物差し
続いて、集合住宅の共用部分です。前回、公務員宿舎の共用部分と敷地に、政治的なビラを投函する目的で立ち入った事案を見ました。あれは、共用部分は「人の看守する邸宅」そのものとして、敷地はその囲繞地として扱われましたね。今日見るのは、分譲マンションのケースです。管理組合が、玄関ホールの掲示板に「チラシ、パンフレット等広告の投函は固く禁じます」という張り紙を出していたにもかかわらず、政党のビラを各戸のポストに入れる目的で、玄関ホールから廊下やエレベーターホールといった共用部分に立ち入った、という事案です。
判例最高裁判所判決(刑集63巻9号1765頁)
マンション共用部分への立入りと管理組合の意思 以上の事実関係によれば、本件マンションの構造及び管理状況、玄関ホール内の状況、上記はり紙の記載内容、本件立入りの目的などからみて、本件立入り行為が本件管理組合の意思に反するものであることは明らかであり……本件立入り行為について刑法130条前段の罪が成立するというべきである。
判断は、マンションの構造や管理状況、張り紙の内容、立入りの目的などからみて、管理組合の意思に反することが明らかだから、130条前段の罪が成立する、というものでした。判決は、立ち入った場所を、住人が私的生活を営む場所である「住宅の共用部分」と呼んでいます。表現の自由との関係についても一言だけ触れておくと、判決は、政党のビラの配布という表現行為そのものを処罰しているのではなく、管理組合の承諾なくマンション内に立ち入ったことを問題にしているのだから、憲法21条1項には違反しない、としています。前回は邸宅とその囲繞地、今回は住人が暮らす住宅の共用部分という違いはありますが、どちらも管理者の意思に反する立入りという、同じ物差しで判断されています。判決が挙げた事情のうち、管理組合の意思を外に示していたのが、あの張り紙です。ビラやチラシを配りに入ってくることを前もってはっきり断っていたからこそ、その目的での立入りが許可の外だということは、外から見ても明らかだったわけです。
錯誤に基づく承諾——「今晩は」事件
図:承諾していたのは「誰」に対してだったのか
ここで、冒頭2つ目の問いに戻ります。強盗をするつもりで「こんばんは」と挨拶し、家の人が「どうぞ」と答えて迎え入れた場合です。住居権説を前提にすると、有効な承諾に基づく立入りは、そもそも「侵入」にあたりません。ですから問題は、この承諾が有効なものだったかどうか、という一点に絞られます。この問題は、被害者の承諾の回で、空き巣が「こんばんは」と声をかける例として一度見ましたね。動機に錯誤があっても承諾は有効か、有効説と無効説に分かれる、という話でした。今日はその答えを、住居侵入罪の「侵入」に当てはめます。
ここで、たとえ話をします。玄関のインターホンが鳴り、「宅配便です」という声を聞いて、荷物を受け取るつもりで鍵を開けたところ、実は空き巣だった、という場面を考えてください。この人は「鍵を開けて中に入れる」という行為自体には、確かに納得ずくで応じています。ですが、納得していたのは「宅配便の配達員」に対してであって、「空き巣」に対してではありません。相手の本当の姿を知っていれば、鍵など開けなかったはずです。「今晩は」事件も、これと同じ構造です。家の人は「今晩は、おはいり」というやり取りには納得して応じていますが、納得していたのは「普通の来客」に対してであって、「強盗」に対してではありません。
判例最高裁判所大法廷判決(刑集3巻8号1363頁)
「今晩は」事件——承諾の有効性 強盗の意図を隠して「今晩は」と挨拶し、家人が「おはいり」と答えたのに応じて住居にはいつた場合には、外見上家人の承諾があつたように見えても、真実においてはその承諾を欠くものであることは、言うまでもないことである。
判決の言葉は、外見上は承諾があったように見えても、真実にはその承諾を欠く、というものです。承諾の有効性をめぐる考え方を整理すると、判例・多数説は、承諾が有効であるためには、任意であることに加えて、真意によるものであること、つまり動機に錯誤がないことが必要だとします。承諾の回で見た、無効説の側です。この立場からは、家の人が誤解していた以上、承諾は無効で、侵入にあたります。逆の立場もあるんですか。あります。少数説は、住居に立ち入らせること自体、つまり法益の処分そのものについて錯誤がなければ、承諾は有効だとします。承諾の回で見た、有効説の側です。宅配便のたとえで言えば、「鍵を開けて中に入れる」という行為そのものへの納得さえあれば、相手の正体を見誤っていても承諾は有効、という考え方です。この立場からは、家の人は確かに「中に入れる」ことに納得していたのですから、侵入にはあたりません。平穏説からは、態様そのものが平穏である以上、そもそも侵入にはあたらない、という結論になります。
判例最高裁判所判決(刑集2巻5号489頁)
顧客を装った立入りと承諾の範囲 住居権者の承諾ある場合は違法を阻却すること勿論であるけれども被害者において顧客を装い来店した犯人の申出を信じ店内に入ることを許容したからと言つて、強盗殺人の目的を以て店内に入ることの承諾を与えたとは言い得ない。
図:承諾の範囲——誰に対して、何を許可したか
もう1つ、関連する判例です。強盗殺人の目的で、客のふりをして店に入った事案です。判断は、こうでした。住居権者が承諾していれば違法性が阻却されるのはもちろんだが、客を装って来店した犯人の申出を信じて店内に入ることを許容したからといって、強盗殺人の目的で店内に入ることへの承諾を与えたとは言えない、というものです。これは、誰でも入れるはずの店舗でも、承諾していた相手は「普通の客」であって「強盗殺人犯」ではない、という構造で、先ほどの公開建物の論点と、この承諾の論点の、両方の考え方をつなぐ事案です。この、承諾が有効であるための要件をどう立てるかという議論は、論文で正面から問われる論点になりえます。冒頭の2つの問いは、実は同じ1問でした。開いている正面入口も、「どうぞ」という言葉も、外から見える形にすぎません。判例の筋は、その形ではなく、管理権者や家の人が実際に何を許可していたかで測り直し、その外にある立入りを侵入とします。使った道具は、前回の「意思に反する立入り」という定義だけです。
不退去罪——130条後段
図:一度は適法に入った人が、要求を受けても居座り続ける罪
ここまでは、入る瞬間に承諾があったかどうかの話でした。では、承諾を得て適法に入った人が、あとで帰ってほしいと言われても出ていかなかったら、どうなるか。ここからは、130条後段、不退去罪です。復習の意味も込めて、条文をもう一度見ておきます。
条文刑法130条
刑法130条(住居侵入等) 「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。」
前段が今日まで扱ってきた「侵入」、後段が今日の本題、「要求を受けたにもかかわらず……退去しなかった」という不退去罪です。喫茶店に入ること自体は誰でも自由で、適法な立入りです。ですが、店員に「そろそろお会計をお願いします、席を空けてください」と言われても、そのまま座り続ければ、それは新しい問題になります。入った瞬間の話ではなく、言われてからも居続けたという、時間の経過そのものが問題になる場面です。これが不退去罪の構造です。退去すべき義務があるのに退去しないという不作為そのものが実行行為になる、真正不作為犯です。既遂の時期は、要求を受けたことを認識し、退去に必要な合理的な時間が経過したのに立ち退かない、その時点です。
図:未遂を観念できるだけの隙間が無い
132条は、130条の罪の未遂も罰すると規定していますが、不退去罪については、未遂は観念できないと解するのが通説です。理由はこうです。要求を受けてから、合理的な時間が経過するまでの間は、まだ退去する猶予の範囲内ですから、そもそも罰する必要がありません。そして、合理的な時間が経過した瞬間、直ちに既遂になってしまいます。未遂として処罰する隙間が、時間軸の上に無いんです。
判例最高裁判所決定(刑集10巻8号1237頁)
侵入後の居座りと不退去罪の関係 建造物侵入罪は故なく建造物に侵入した場合に成立し退去するまで継続する犯罪であるから、同罪の成立する以上退去しない場合においても不退去罪は成立しないものと解するを相当とする。
判断はこうです。建造物侵入罪は、正当な理由なく建造物に侵入した場合に成立し、退去するまで継続する犯罪だから、その罪が成立する以上、退去しない場合であっても不退去罪は別に成立しない、というものです。住居侵入罪は、入った瞬間だけの罪ではなく、退去するまでずっと続いている継続犯なんです。ですから、不退去罪は、あくまで適法に、つまり承諾を得て入った人が、要求を受けたのに出ていかない、という場面のための条文です。無理やり入った人には、そもそも侵入罪がずっと成立し続けているので、不退去罪の出番はありません。
第13章の締め——自由に対する罪の見分け方
図:決め手の1語を先に言えれば、条文は自動的に決まる
ここまでで、住居侵入罪と不退去罪が終わりました。第13章、自由に対する罪の最後に、これまで見てきた罪を全部混ぜて、区別する練習をしておきます。ルールはシンプルです。私が事例を出しますので、まず決め手になる1語を答えてから、条文を確定してください。
図:Aが、Bの部屋のドアに外から鍵をかけて、Bを閉じ込めた
では、1問目です。Aが、Bの部屋のドアに外から鍵をかけて、Bを閉じ込めました。何罪で、決め手は何ですか。体を直接つかんでいるわけではないので、監禁罪だと思います。決め手は、身体活動の自由です。身体活動の自由とは、体を動かして移動する自由のことです。鍵をかけて閉じ込めるのは、この身体活動の自由を、身体を間接的に拘束して奪う典型的な監禁罪です。
図:Aが、Bに「今夜、お前の家に火をつけてやる」と告げた。実際には何もしていない
2問目です。Aが、Bに「今夜、お前の家に火をつけてやる」と告げました。実際には何もしていません。何罪で、決め手は何ですか。実際に何もしていないので、脅迫罪だと思います。害を告げただけで、現実に怖がらせる必要は無いんでしたよね。決め手は、自分の意思で決める自由、つまり意思決定の自由です。脅迫罪は、害悪を告げて意思決定の自由を脅かす罪で、脅迫という行為だけで成立する抽象的危険犯、つまり害悪の告知が伝わっただけで、結果の発生を待たずに成立する犯罪類型ですから、Bが現実に畏怖したかどうかは関係ありません。害悪の告知が伝わった時点で、脅迫罪は成立しています。
図:Aが、Bを脅して、罪もないのに土下座をさせ、実際にBは土下座をした
3問目です。Aが、Bを脅して、罪もないのに土下座をさせ、実際にBは土下座をしました。何罪で、決め手は何ですか。脅すだけじゃなくて、実際にさせているので、強要罪だと思います。決め手は、現実に義務のないことを行わせたこと、という結果です。脅迫罪は行為だけで成立する抽象的危険犯でしたが、強要罪は、義務のないことを行わせたという結果まで現実に発生して初めて既遂になる、侵害犯でした。侵害犯とは、保護法益が現実に侵害されて初めて成立する犯罪類型のことです。

4問目です。Aが、親に無断で、小学生のBに「お菓子をあげる」と声をかけて車に乗せ、自分の家に連れて行きました。何罪で、決め手は何ですか。未成年者略取誘拐罪だと思います。決め手は、生活環境からの離脱と、親が子どもを手元に置いて世話をし、守り育てる権利、つまり監護権です。お菓子で誘って連れて行っていますから、誘惑による誘拐にあたり、Bを生活環境から離脱させて自分の事実的支配の下に置いていますし、親権者に無断ですから、監護権の侵害もあります。
図:場面1と場面2——それぞれ何罪か
最後、5問目です。2つの場面を続けて出します。場面1、Aが、Bの家の窓を割って中に入りました。場面2、Aは、友人として招かれて部屋に上がりましたが、Bに「そろそろ帰って」と言われても、部屋に座り続けました。それぞれ何罪で、決め手は何ですか。同じ130条の中の、前段と後段の違いが、そのままここに出ています。場面1は、窓を割って入っているので、意思に反する立入りとして住居侵入罪です。場面2は、入るとき自体は適法だったので、要求を受けても退去しないことが決め手になって、不退去罪です。どちらも正解です。
今日の地図(保存版)
図:「誰の意思に反するか」「動機に錯誤があるか」の2問に還元できる
今日の内容を整理します。公開建物への違法目的の立入りも、動機の錯誤に基づく承諾も、新しい定義を覚え直す必要はありませんでした。前回決めた「侵入」の定義、誰の意思に反するかという物差しを、そのまま当てはめただけです。そこに、承諾はその動機まで含めて有効だったか、という1問が加わっただけです。冒頭の2つの問い、どちらも答えが出ましたね。デパートへの万引き目的の立入りは、立場によって結論が分かれますが、目的そのものが管理権者の意思に反すると見る立場からは侵入にあたります。「今晩は」事件のほうは、判例・多数説なら、外見上の承諾はあっても真実には承諾を欠くので、侵入にあたります。そして130条後段の不退去罪は、一度は適法に入った人が、要求を受けても居座り続ける場面のための条文でした。これで、住居侵入罪と不退去罪、そして第13章、自由に対する罪の全体が終わりました。
参照条文
- 刑法130条